説明

良好な耐衝撃性および高い耐熱性を有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物

本発明では、耐熱性が高くて耐衝撃性に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が開示される。前記ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂に、シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体、および必要であればリン酸エステル化合物を導入することによって調製され、ゆえに、優れた耐衝撃性、高流動性および高耐熱性を維持しながらも優れた難燃性を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐熱性および良好な耐衝撃性を有する難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。より詳細には、本発明は、ポリカーボネート樹脂に、シリコンが20〜95重量%含まれたゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体、および必要であればリン酸エステル化合物を導入することで、高い耐熱性および優れた耐衝撃性を維持しつつ、優れた難燃性を発揮するポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、難燃性ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性に優れている。したがって、このような樹脂は、このような性質を必要とする自動車部品および電気または電子製品、特に良好な難燃性を必要とする部品に広く使用されてきた。通常、難燃剤としてハロゲン含有化合物を使用して、ポリカーボネート樹脂に良好な難燃性を付与することができる。この方法は、物理的特性の低下が少なく、難燃性を容易に付与することができるという利点がある。しかし、燃焼時に人体に有害なガスが発生するため、このようなハロゲン含有化合物の使用が世界のほとんどの国々で規制されていて、その使用量は大幅に減少している。
【0003】
このような問題点を克服する一つの解決法としては、難燃剤としてリン酸エステル化合物を使用することがある。ポリカーボネート樹脂にリン酸エステル化合物を添加する場合には、樹脂の流動性は増加するが、耐衝撃性および耐熱性が顕著に減少する。ゆえに、高い水準の耐熱性を要求する製品に適用する場合には依然として問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、従来の上記問題点を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、(A)熱可塑性ポリカーボネート樹脂75〜99重量部;および(B)シリコンが20〜95重量%含まれたゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体0.5〜15重量部を含む、耐熱性が高くて耐衝撃性に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、前記難燃性熱可塑性樹脂組成物を用いて調製された成形品を提供することにある。
【0006】
本発明のその他の目的、長所および新規な特徴は、以下の説明を鑑みれば理解できるであろうし、本発明の好ましい実施形態をみても分かるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明による耐熱性が高くて耐衝撃性に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物について説明する。
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一つの態様によると、(A)熱可塑性ポリカーボネート樹脂75〜99重量部;および(B)シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体0.5〜15重量部を含む、耐熱性が高くて耐衝撃性に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によると、前記難燃性ポリカーボネート樹脂組成物に加えて、(C)リン酸エステル化合物0.1〜10重量部をさらに含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物の各成分である、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体、および(C)リン酸エステル化合物についてより詳細に説明する。
【0011】
(A)ポリカーボネート樹脂
本発明に使用されるのに適したポリカーボネート樹脂の調製方法および熱可塑性樹脂組成物においてのそれの利用は、当業者には既によく知られている。
【0012】
前記ポリカーボネート樹脂の種類については、特に制限されなく、通常的に使用されるものを用いることができる。好ましくは、前記ポリカーボネート樹脂は、分子量調節剤および触媒の存在下で二価フェノールをホスゲンと反応させることによって、あるいはジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体の存在下で二価フェノールをエステル交換反応することによって、調製されてもよい。
【0013】
前記二価フェノールとしては、好ましくはビスフェノールであり、より好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)である。ビスフェノールAは、部分的または全体的に他の二価フェノールに置換されてもよい。前記二価フェノールの例としては、ビスフェノールA以外にも、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルおよび2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンのようなハロゲン化ビスフェノールが挙げられる。
【0014】
前記ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートのホモポリマー、二種以上の二価フェノールの共重合体、またはこれらの混合物であってもよい。
【0015】
さらに、前記ポリカーボネート樹脂は、線状ポリカーボネート、分枝型(branched)ポリカーボネート、ポリエステル−カーボネート共重合体、シリコン共重合ポリカーボネートなどを含みうる。
【0016】
前記線状ポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。好ましくは、前記分枝型ポリカーボネートは、無水トリメリット酸またはトリメリット酸などのような多官能性芳香族化合物をジヒドロキシフェノールとカーボネート前駆体の存在下で反応させることによって調製されうる。前記ポリエステルカーボネート共重合体は、二官能性カルボン酸を二価フェノールとカーボネート前駆体の存在下で反応させることによって好ましく調製されうる。
【0017】
また、ポリカーボネート樹脂は、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物中に75〜99重量部の量で使用されることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の含量が75重量部未満である場合には、組成物の耐衝撃性が低下する。また、ポリカーボネート樹脂の含量が99重量部を超過する場合には、組成物の難燃性が低下する。
【0018】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂以外に、必要に応じて、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、スチレン含有グラフト共重合体樹脂およびマレイミド共重合体樹脂をさらに含んでもよい。
【0019】
(B)シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体
シリコン系コア−シェル形態のグラフト共重合体を調製する一般的な方法は、当該分野における通常の知識を有する者には既によく知られている。
【0020】
本発明に適したグラフト共重合体は、ゴムのコア部分にビニルモノマーがグラフトすることにより、硬いシェルが形成した構造を有する。
【0021】
本発明で使用されるシリコン系コア−シェル共重合体の種類は、特に制限なく、当該分野で既知の方法により調製されてもよい。例えば、シリコン系コア−シェル共重合体は、シリコン系ゴムを重合した後、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲンまたはアルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、C〜Cメタクリル酸アルキルエステル、C〜Cアクリル酸アルキルエステル、無水マレイン酸、C〜CアルキルおよびフェニルN−置換マレイミドからなる群より選択される一種以上の化合物を前記ゴムにグラフトさせることによって、調製されうる。
【0022】
前記C〜Cメタクリル酸アルキルエステルおよびC〜Cアクリル酸アルキルエステルは、それぞれメタクリル酸およびアクリル酸のエステルに属し、1〜8個の炭素原子を有するモノヒドリルアルコールから製造されたエステルである。これらの具体的な例としては、メタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸エチルエステルおよびメタクリル酸プロピルエステルが挙げられる。これらのうち、メタクリル酸メチルエステルが最も好ましいエステルである。
【0023】
前記シリコン系コア−シェル形態のグラフト共重合体中のゴム含量は、30〜90重量%であることが好ましい。ゴム含量が30重量%未満である場合には、組成物の難燃性が低下する。また、90重量%を超過する場合には、組成物の耐衝撃性が低下する。
【0024】
前記シリコン系ゴムのコアは、シクロシロキサンから製造されることができ、その例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトロシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサンなどが挙げられる。前記シロキサンに一種以上の硬化剤を混合することで、シリコン系ゴムを調製してもよい。前記硬化剤の例としては、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
本発明で組成物のコアを構成する、ゴム部分のシリコン含量は、20〜95重量%であることが好ましい。ゴム部分のシリコン含量が20重量%未満である場合には、組成物の難燃性を阻害して、これにより製品に要求される難燃性レベルを確保しにくい。また、シリコン含量が95重量%を超過する場合には、組成物の耐衝撃性が妨げられて、製品に要求される衝撃強度を確保しにくい可能性がある。
【0026】
加えて、全シリコン系コア−シェルグラフト共重合体に対するシリコン含量は、6〜85.5重量%であってもよい。より好ましくは、全シリコン系コア−シェルグラフト共重合体に対するシリコン含量は、難燃性および衝撃強度の点で、50〜85重量%である。
【0027】
本発明では、シリコン系コア−シェルグラフト共重合体は、0.5〜15重量部で使用することが好ましい。シリコン系コア−シェルグラフト共重合体の含量が0.5重量部未満である場合には、衝撃強度への効果がわずかな可能性があり、含量が15重量部を超過する場合には、引張強度、曲げ弾性率などの機械的強度の低下が起きうる。
【0028】
(C)リン酸エステル化合物
本発明では、必要に応じて、リン酸エステル化合物をさらに使用することができる。
【0029】
本発明の一実施形態によると、本発明で難燃剤として用いられるリン酸エステル化合物は、下記化学式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその混合物であってもよい。下記化学式(1)の化合物は、C〜C30アリールまたはアルキル置換されたC〜C30アリール基から誘導されたオリゴマー型のリン酸エステル化合物である。C〜C30アリールまたはアルキル置換されたC〜C30アリール基は、レゾルシノール、ヒドロキノンまたはビスフェノール−Aから誘導されることが好ましい。
【0030】
【化1】

【0031】
前記化学式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、C〜C20アリールまたはアルキル置換されたC〜C20アリール基であり、Rは、C〜C30アリールまたはアルキル置換されたC〜C30アリール基誘導体であり、lは、数平均重合度(number average degree of polymerization)であり、lの平均値は、0〜3である。
【0032】
上記化学式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、フェニル基またはメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、イソブチル、イソアミルおよびt−アミルからなる群より選択されるアルキルで置換されたフェニル基であることが好ましく、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、フェニル基、またはメチル、エチル、イソプロピルもしくはt−ブチルで置換されたフェニル基であることがより好ましい。
【0033】
本発明で用いられるリン酸エステル系難燃剤は、上記化学式(1)中、lの平均値が0〜3である単量体型またはオリゴマー型のアリール由来のリン酸エステルである。lの値が0,1,2または3であるリン酸エステル化合物を単独または混合物として使用することができる。重合工程で予めエステル化合物を混合した混合物の形態でリン酸エステル系難燃剤を使用するか、または各リン酸エステル化合物を個別に調製した後lの値が異なるリン酸エステル化合物の混合物を使用することが好ましい。
【0034】
本発明で使用されるlの平均値が0であるリン酸エステル化合物は、トリ(アルキルフェニル)ホスフェート、ジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、ジフェニルモノ(アルキルフェニル)ホスフェートおよびトリフェニルホスフェートからなる群より選択される単一の化合物またはこれらの混合物であってもよい。
【0035】
本発明による前記化学式(1)のリン酸エステル化合物の調製方法は、制限されないが、一般的に、前記化合物は、オキシ塩化リン(Phosphorous Oxychloride;POCl)を、Rが置換されたナフチル基を有する芳香族アルコールおよびRが置換されたフェニル基を有する芳香族アルコールと、50℃〜200℃の温度で同時にまたは順次的に反応させることにより、調製される。前記方法により調製された合成物には、反応条件によってはトリアリールホスフェートが一定量含まれることができ、前記合成物は、精製せずにまたは精製後使用されることができる。本発明による前記化学式(1)のリン酸エステル化合物は、触媒を使用して調製されてもよく、この際使用可能な触媒としては、塩化アルミニウム(AlCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、または塩化亜鉛(ZnCl)などの金属塩化物が挙げられる。
【0036】
本発明で、リン酸エステル化合物は、0.1〜10重量部の量で使用されることが好ましい。リン酸エステル化合物の使用量が0.1重量部未満である場合には、組成物の流動性が低下する可能性があり、10重量部を超過する場合には、耐熱性および耐衝撃性が低下する可能性がある。
【0037】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、その目的に応じてその他の添加剤を含むことができる。前記樹脂組成物は、無機物添加剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、顔料および染料からなる群より選択される一種以上の添加剤を50重量部以下の量でさらに含むことができる。ガラス繊維、炭素繊維、タルク、シリカ、マイカ、アルミナなどの無機物添加剤を添加することにより、機械的な強度や熱変形(deflection)温度などの物理的特性を向上させることができる。
【0038】
本発明の他の態様は、前記難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を用いて調製された成形品に関する。本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、当該技術分野で既知の公知の方法により調製されることができる。例えば、前記組成物は、本発明の成分および他の添加剤を一緒に混合した後、押出機で押出すことによりペレット形態で調製されることができる。
【0039】
本発明に係る難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、様々な製品の成形に使用されることができ、特に、テレビハウジング、事務自動化機器、充電器などの電気または電子製品の製造に適用できる。
【0040】
[発明の効果]
本発明によると、ポリカーボネート樹脂に、シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体を導入することで、高い耐熱度および優れた耐衝撃性を維持しながらも優れた難燃性を発揮するポリカーボネート樹脂組成物を調製することができる。
【0041】
したがって、本発明により調製されたポリカーボネート樹脂組成物は、優れた難燃性、耐熱性および衝撃強度が要求される携帯用移動通信機器、精密電気電子部品、自動車精密部品などの多様な成形品に適用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施形態をより詳しく説明する。しかしながら、これら実施例は詳細な説明を目的としたものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものと解釈してはならない。
【0043】
組成物の物理的特性を測定するために、下記実施例1〜3および比較例1〜6では、下記成分を用いて、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を調製する:(a)ポリカーボネート樹脂、(b1)シリコン含量が高いシリコン系コア−シェルグラフト共重合体、(b2)シリコン含量が低いシリコン系コア−シェルグラフト共重合体、および(c)リン酸エステル化合物。
【0044】
(a)ポリカーボネート樹脂
帝人株式会社(日本)製の重量平均分子量が25,000g/molであるPANLITE L−1250WPを、ビスフェノール−A型線形ポリカーボネート樹脂として使用した。
【0045】
(b1)シリコン系コア−シェルグラフト共重合体
株式会社カネカ(日本)製のシリコン含量が60〜70重量%であるKANEACE MR−01を、シリコン系コア−シェルグラフト共重合体として使用した。
【0046】
(b2)シリコン系コア−シェルグラフト共重合体
三菱レイヨン株式会社(MRC)(日本)製のシリコン含量が15重量%未満であるMetablen S−2001を、シリコン系コア−シェルグラフト共重合体として使用した。
(c)リン酸エステル化合物
大八化学工業株式会社(日本)製のPX−200を、リン酸エステル化合物として使用した。
【0047】
実施例1〜3および比較例1〜6で使用された各成分の量は、下記表1に示したように設定した。
【0048】
【表1】

【0049】
[物理的特性の測定法]
上記表1に示した量で、各成分を混合し、混合物をΦ=45mmの二軸押出機で押し出して、ペレット形態の樹脂組成物を調製した。この樹脂ペレットを、110℃で3時間以上乾燥した後、10oz射出機で加工温度250〜300℃、金型温度60〜90℃で射出して、物理的特性を評価するための試片を調製した。
【0050】
(1)MFR流動性
試片を調製する前に、ASTM D−1238に従って、溶融流量(Melt Flow Rate)を250℃で測定した。10kgの錘を用いて10分間、試片から流出する樹脂の量を測定することによって、MFR流動性を決定した。
【0051】
(2)射出流れ長(Extrusion flow length)
実際の製造工程中に現れる樹脂の流動性を評価するために、射出機に具備された1mm厚さの金型の温度を60℃に維持しながら、一定圧力を加えて、樹脂の流れ長を測定した。射出温度は、ポリカーボネートの基本作業条件である300℃以下に設定した。
【0052】
(3)VST耐熱性
各試片のVST耐熱性は、ASTM D1525に従って5kgfの定荷重下で測定した。
【0053】
(4)IZOD耐衝撃性
各試片のノッチ・アイゾット耐衝撃性(1/4”)は、ASTM D256に従って測定した。
【0054】
(5)UL難燃性
難燃性は、UL−94に従って1.5mm厚さの試片を用いて測定した。総燃焼時間は、5つの試片の最初の及び二番目の燃焼時間を合計することによって測定した。
【0055】
上記表1から、実施例1に示されるように適当な割合でシリコン含量が高いシリコン系コア−シェルグラフト共重合体をポリカーボネート樹脂と混合することにより、優れた耐熱性および耐衝撃性を達成しながら、UL−94 V−0水準の高い難燃性を得ることができることが示される。また、表1から、実施例2、3に示されるように適当な割合でリン酸エステル化合物をさらに使用することによって、良好な耐衝撃性を維持しながら高い流動性が得られ、さらにより安定的な難燃性を有する優れた物理的特性を示すことが示される。
【0056】
その反面、シリコン含量が高いシリコン系コア−シェルグラフト共重合体を使用しない比較例1では、十分な難燃性および衝撃強度を得ることができない。さらに、比較例2〜4から、リン酸エステル化合物を単独で使用し、含量を増加する場合には、難燃性が若干増加し、過量を添加する場合には、UL94 V−0水準の難燃性を確保するものの、耐衝撃性および耐熱性が大きく低下することが分かる。また、シリコン含量が低いシリコン系コア−シェルグラフト共重合体を使用した比較例5〜6では、耐衝撃性は改善されるが、難燃性が低下する。
【0057】
本発明の好ましい実施形態を詳細な説明を目的として開示してきたが、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲および概念を逸脱しない限り、様々な修飾、付加及び置換が可能であることは、当業者は分かるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により調製されたポリカーボネート樹脂組成物をは、優れた難燃性、耐熱性および耐衝撃性が要求される携帯用移動通信機器、精密電気電子部品、自動車精密部品などの多様な成形品に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリカーボネート樹脂75〜99重量部;および
(B)シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体0.5〜15重量部
を含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体が、シリコン系ゴムを重合した後に、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲンまたはアルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、C〜Cメタクリル酸アルキルエステル、C〜Cアクリル酸アルキルエステル、無水マレイン酸、C〜CアルキルおよびフェニルN−置換マレイミドからなる群より選択される一種以上の化合物を前記ゴムにグラフトすることにより調製される、請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコンを20〜95重量%含むゴムにビニルモノマーをグラフト重合したシリコン系コア−シェルグラフト共重合体中のゴム含量が、30〜90重量%である、請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリコン系ゴムのコア部分が、シクロシロキサンから製造され、前記シクロシロキサンは、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトロシロキサンおよびオクタフェニルシクロテトラシロキサンからなる群より選択される、請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
(A)熱可塑性ポリカーボネート樹脂75〜99重量部;および
(B)シリコンを50〜85重量%含むシリコン系コア−シェルグラフト共重合体0.5〜15重量部を含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
(C)リン酸エステル化合物0.1〜10重量部をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)リン酸エステル化合物が、下記化学式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその混合物である、請求項6に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物:
【化1】

前記化学式(1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、C〜C20アリールまたはアルキル置換されたC〜C20アリール基であり、Rは、C〜C30アリールまたはアルキル置換されたC〜C30アリール基誘導体であり、lは、数平均重合度であり、lの平均値は、0〜3である。
【請求項8】
前記化学式(1)のlの平均値が0であるリン酸エステル化合物が、トリ(アルキルフェニル)ホスフェート、ジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、ジフェニルモノ(アルキルフェニル)ホスフェートおよびトリフェニルホスフェートからなる群より選択される単一の化合物、またはこれらの混合物である、請求項7に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性ポリカーボネート樹脂に加えて、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂、スチレン含有グラフト共重合体樹脂およびマレイミド共重合体樹脂からなる群より選択される一種以上の樹脂をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
無機添加剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、顔料および染料からなる群より選択される一種以上の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を用いて製造された成形品。

【公表番号】特表2009−526871(P2009−526871A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548404(P2008−548404)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/KR2006/005673
【国際公開番号】WO2007/078079
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】