色を切り換える温度計
第1型の発光及び第2型の発光(L2)を供するように備えられた温度計(101)が表面(106)上に供されている。温度計(101)は、前記第1型の発光を供する発光ダイオード(108)、及び前記第2型の発光(L2)を供する電気化学電池(109)を有する。発光電気化学電池(109)は、第1電極(120)、第2電極(121)、及び第2発光層(113)を有する。前記第2発光層(113)は、第1電極(120)と第2電極(121)との間に挟まれ、かつ母体を有する。イオンは前記母体中を移動することが可能で、前記イオンの前記母体中での移動度は温度依存する。電源(105)が、AC電圧で電池(109)を駆動させるように備えられている。電源(105)の周波数は、表面温度がある特定の温度を超えるときに電池(109)が前記第2型の発光(L2)を供するように調節されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1型の発光及び第2型の発光を供するように、表面上に備えられた温度計に関する。第2型の発光は、表面が所定温度よりも高い温度を有するときに起こる。
【背景技術】
【0002】
多くの器具では、使用中に高温が関係する。そのような器具の例には、アイロン、水を使用する調理器具、ホットプレート、オーブンの窓、フライパン、トースター、ワッフル用アイロンなどがある。そのような器具を使用する人が火傷のような被害にあわないようにするためには、熱くて注意の必要な器具を使用している人に、高温であることを示す表示器が必要となる。そのような高温であることを示す表示は大抵の場合、温度センサ、該と結合するセンサ制御ユニット、及び、1つ以上のランプを有することによって行われている。そのランプは、センサが設定温度を登録するときに制御ユニットによって発光する。そのようなシステムの一例が特許文献1に見いだされる。特許文献1は、温度感知ユニットからの信号を受信する制御装置によって制御される3つの表示器部分を有するアイロンについて説明している。特許文献1で説明された型に係る温度計の欠点は、当該アイロンが複雑なこと、及び、当該アイロンが熱いか冷たいのかの表示を正確に行うため、複数の部品が適切に協働する必要があることである。例として、壊れたランプは、現実には熱いのに当該アイロンが冷たいという誤った印象を使用者に与える恐れがある。さらに、この型の温度計は、当該アイロンの全表面又はその一部が熱い場合に、表面のどの部分が熱いのかに関する情報を与えない。
【特許文献1】米国特許第6396027号明細書
【特許文献2】米国特許第5682043号明細書
【非特許文献1】ユー(G.Yu)他、Advanced Materials誌、第10巻、1998年、pp.385
【非特許文献2】ペイ(Q.B.Pei)他、Science誌、第269巻、1995年、pp.1086
【非特許文献3】ガオ(J.Gao)、ユー(G.Yu)、ヒーガー(A.J.Heeger)、Applied Physics Letters誌、第71巻、1997年、pp.1293
【非特許文献4】マッコード(P.McCord)及びバード(A.J.Bard)、Journal of Electroanalytical Chemistry、第318巻、1991年、pp.91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、表面が冷たいのか又は熱いのかの安全表示を、正確かつ低価格で供する温度計の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的は、第1型の発光及び第2型の発光を供するために、表面上に備えられている温度計によって実現される。第2型の発光は表面が所定温度よりも高いときに放出される。前記温度計は第1型の発光を供する発光ダイオードを有する。前記発光ダイオードは、第1電極、第2電極、及び両電極の間に設けられる第1発光層を有する。前記温度計は第2型の発光を供する発光電気化学電池をさらに有する。前記発光電気化学電池は、第1電極、第2電極、及び両電極の間に設けられる第2発光層を有し、かつ母体及び該母体中で移動可能なイオンを有する。前記母体中の前記イオンの移動度は温度依存する。前記温度計は前記発光電気化学電池をAC電圧で駆動するように備えられている電源をさらに有する。前記電源の周波数は、表面温度が特定レベルを超えるときに、電気化学電池が前記第2型の発光を供するように調節される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の温度計の利点は、表面が熱いのか又は冷たいのかを正確に表示することである。そのような正確な表示が可能な理由は、発光電気化学電池が特定周波数のAC電圧で駆動するとき、発光の種類、すなわち第1型又は第2型、が温度計自身の本質的な特性であるためである。温度計が、高温に依存しない第1型の光を放出するため、使用者は、表面が冷たいときに、温度計が動作中か否かに係る情報を知ることが可能である。温度計が熱くなる可能性のある表面上に設けられているので、表示温度が表面に関係ない温度である危険性はない。温度計は、たとえば使用器具のほぼ前面のような、広い領域をカバーするのに特に適している。広い領域がカバーされることで、使用者が誤ってその器具の熱い箇所を触ってしまう危険性は減少する。発光電気化学電池は、光バルブフィラメントのような消耗する部品を有していないので、不具合の危険性は非常に小さい。センサ、制御ユニット、電源及び警告ランプを必要とする従来技術と比較して、本発明の温度計では、発光電気化学電池がセンサと警告ランプの両方の機能を果たし、制御システムとしても機能するので、部品数は減少する。部品数が減少することで、製造コストが減少し、温度計が高温表示に失敗する危険性も減少する。発光が起こる温度を制御することに加えて、AC電圧はまた、イオン電荷分布が事実上永続的に“フリーズする”のを防ぐ。イオン電荷分布が事実上永続的に“フリーズする”のは、非特許文献1で説明されているように、DC電圧で生じる恐れがある。本発明に従った温度計のさらに別な利点は、表面が熱いか否かを表示するだけではなく、その表面が熱い場合にはどの箇所が熱いのかをも表示することである。本発明に従った温度計が、たとえばアイロン底部の全表面に取り付けられている場合には、第2型の発光は、その表面のうちの温度計が取り付けられた箇所でのみ生じる。その箇所では、発光層は、発光電池の原理に従って第2型の光を放出するほど高い温度になる。
【0006】
請求項2に従った測定器具の利点は、薄い温度計を供することである。その薄い温度計は、広い表面をカバーし、かつ有する部品が少ない。
【0007】
請求項3に従った測定器具の利点は、発光ダイオード及び発光電気化学電池が、短い間隔又は長い間隔を空けて、空間的に分離可能なことである。別な利点は、ダイオードによって放出される光は、電気化学電池によって放出される光とは干渉しないことである。
【0008】
請求項4に従った測定器具の利点は、ダイオード及び電気化学電池が共通の薄い積層構造を形成できるため、非常に小型な設計の温度計が供されることである。さらに必要とされる部品が少ないため、製造コストは低くなる。別な利点は、ダイオード及び電気化学電池が共通の電極を有するとき、そのダイオード及び電気化学電池のうちのいずれか1つが、他方が機能するのと同時に不具合を生じる危険性がほぼ除去されることである。そのダイオード及び電気化学電池のうちのいずれか1つが、他方が機能するのと同時に不具合を生じることで、表面温度に関する間違った結果が与えられる恐れがある。
【0009】
請求項5に従った測定器具の利点は、正孔及び電子が再結合して発光する発光層での厳密な位置設定は、正孔及び電子が注入された電極、つまり両者が注入された方向に依存する。よって、互いの上部に、各異なる特性を有する発光層を供することで、一のバイアスで一の型の光を得て、それとは反対のバイアスで他の型の光を得ることが可能である。
【0010】
請求項6に従った測定器具の利点は、低温でも正孔及び電子を注入することである。低温で正孔及び電子されることで、表面が低温のときには第1型の光を供することが可能となる。
【0011】
請求項7に従った測定器具の利点は、ダイオードの発光層及び電気化学電池の発光層が、互いの上部に直接積層されない、薄い積層構造を供することである。このことにより、第1型発光層及び第2型発光層用の材料の選択に係る自由度が、より大きくなる。
【0012】
請求項8に従った測定器具の利点は、電気化学電池の抵抗が温度上昇に従って減少し、電流経路のほとんどがダイオードではなく電気化学電池となることで、第1型の光の自動調光を供することである。
【0013】
請求項9及び10に従った測定器具の利点は、発光電気化学電池に発光ダイオードよりも大きな電力が供されるとき、高温で第2型の光を支配的にするのに好ましい方法であるということである。
【0014】
請求項11に従った測定器具の利点は、一のカラーポイントを有する第2型の光、及び他のカラーポイントを有する第1型の光は容易に理解できる視覚的温度表示を供することである。ここで、一のカラーポイントはつまり、赤色又はオレンジ色の光に対応し、他のカラーポイントつまり、たとえば青色又は緑色の光に対応する。各異なるカラーポイントを有する代わりに、又はそれに加えて、所望の視覚的温度表示を供するために、第2型の光強度が第1型の光強度よりも強くても良い。
【0015】
請求項12に従った測定器具の利点は、そのような温度計がさらに、表面が熱いことを表示するだけではなく、表面のどの箇所が最も熱く、かつどの箇所が冷たく、触っても良いのかを表示することである。よって、使用者が誤って表面の熱い箇所を触る危険性は非常に小さくなる。
【0016】
請求項13に従った測定器具の利点は、熱接触が発光電気化学電池全体に拡張することで、その電池を介する熱輸送が改善され、意図しない絶縁効果が減少することである。
【0017】
本発明に係るこれら及び他の態様は、以降で説明する実施例を参照することで明らかとなる。ここで、添付の図を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の第1実施例に従った温度計1を図示している。温度計1はアイロン3の全底部2を覆っている。上述したように、温度計1は、一緒になることで発光積層体4を形成する発光ダイオード及び発光電気化学セル、並びに低周波数AC電圧で発光積層体4を駆動させるように備えられているAC電源5を有する。AC電源5は、主要電気系(図示されていない)と接続し、アイロン3の電気ケーブル6が電源と接続しているときには常に、発光積層体4にAC電圧を供する。以降で説明するように、発光が変化する温度の微調整を可能にするため、AC電圧周波数変調機7は任意で、温度計1に含まれて良い。
【0019】
図2は、底部2上に供される薄い積層構造の形状を有する発光積層体4の断面を図示している。以降で説明するように、発光積層体4は発光ダイオード8及び発光電気化学電池9を有し、これらが一つになることで積層体4を形成する。積層体4は、条件に依存して発光ダイオード及び/又は発光電気化学電池として機能する。発光ダイオード8は、第1電極10、第2電極11、及び両電極に挟まれている第1発光層12を有する。図2に図示されているように、発光電気化学電池9は、発光ダイオードの第1電極10と同一の第1電極、発光ダイオードの第2電極11と同一の第2電極、及び両電極に挟まれていて、かつ第1発光層12の下に設けられている第2発光層13を有する。よって発光ダイオード8及び発光電気化学電池9は、第1電極10及び第2電極11を共有する。発光電気化学電池の基本原理それ自体は、非特許文献2及び非特許文献3などから既知である。AC電源5は、それぞれ第1コンタクト14及び第2コンタクト15を介して電極10及び電極11に電圧を供する。積層体4全体の厚さxは約0.5mmで、そのうちの発光層12及び発光層13の厚さは一般的には500Åから0.2mmのオーダーである。各発光層12及び13の厚さは、十分な光出力になるように調節されるのが好ましい。複数の理由により、厚さは薄いことが好ましい。1つの理由は、積層体4の絶縁効果が最小になることで、熱が、底部から積層体4を介してアイロンがけされる衣類へ、効率よく移送されることである。
【0020】
発光層12及び13は、半導体の母体及びイオンを有する。そのイオンは、その母体中で移動可能であり、その母体中でのそのイオンの移動度は温度依存する。その母体は、注入される正孔の移動度が注入される電子の移動度よりも大きい、半導体的な高分子材料である。注入される正孔の移動度が注入される電子の移動度よりも大きい半導体的高分子材料の適した例としては、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリパラフェニレン(PPP)及びそれらの誘導体がある。さらに別な代替物質は、発光電気化学電池について一般的に説明している特許文献2で見いだすことができる。母体は、代替物質としての別な種類の有機材料で構成されて良い。別な種類の有機材料とはたとえば、高分子材料よりも実質的に小さな分子量を有するものである。イオンは、たとえばナトリウムイオンのような陽イオン、及びたとえば塩素イオンのような陰イオンを有する塩によって供されて良い。代替的実施例として、イオンは高分子電極によって供されても良い。発光電気化学電池に適する、様々な種類のイオンを、たとえば特許文献2に見いだすことができる。さらに非特許文献4で説明されているように、たとえばルテニウムトリビピリデン、[Ru(bpy)3]2+のような遷移金属複合体が、適切な対イオンと結合して用いられて良い。ルテニウムトリビピリデン、[Ru(bpy)3]2+の複合体は、オレンジ-赤色の発光が結果として生じる。これは、高温であることを視覚的に警告することが望まれる多くの用途で非常に適するものと思われる。
【0021】
よって第1発光層12及び第2発光層13は、同様な種類の有機母体及び同一種類のイオンを有する。その有機母体は高分子であって良く、そのイオンは2つの発光層12及び13を介して移動して良い。しかし第1発光層12は青色発光する発光層である。つまり、第1発光層12中で正孔と電子が再結合すると青色光が放出される。それに対応して、第2発光層13は赤色発光する発光層である。つまり、第2発光層13中で正孔と電子が再結合すると赤色光が放出される。色、本実施例では青及び赤、は、各対応する発光層を適切な色素、つまり青色色素及び赤色色素、で着色することによって、又はそれ自体が所望の色を供する母体及び/又はイオンを選択することによって供されて良い。
【0022】
第1電極10は仕事関数の小さな金属電極で、少なくとも部分的には透明である。そのような部分的に透明でかつ低仕事関数の電極の調製に適した材料は、20nmのオーダーの厚さを有する、フッ化バリウム、フッ化カルシウム及びフッ化リチウムの薄い層を有する。電気的特性を改善するため、及び酸化のような外界の影響から層を保護するため、バリウム層又はカルシウム層は、薄い銀の層でコーティングされて良い。たとえば部分的に透明な低仕事関数の電極は、上に厚さ15nmの銀の層が供されている厚さ5nmのバリウム層を有して良い。第1電極10が低仕事関数の電極であるということは、電子を注入するために超えなければならないエネルギーギャップが小さい、つまり第2電極11から発光層12及び13への正孔の注入が比較的容易であることを意味する。高仕事関数についてのさらに別な材料は、プラチナ、金、銀、イリジウム、パラジウム及びモリブデンを有するが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
2つの異なる温度での、温度計1の実際の動作について、図3aから図3d、及び図4aから図4dを参照しながらそれぞれ説明する。ここで与えられた例では、AC電圧の周波数は1Hzで一定である。つまり電圧の極性は、1秒につき1回変化する。
【0024】
図3aから図3dを参照しながら説明される例では、底部2の表面16での温度は25℃である。
【0025】
図3aは、まさに電源がオンになっている時点での状況を示している。AC電源は、第1電極10に正の電荷を供することでその電極10を陽極にし、第2電極11に負の電荷を供することでその電極11を陰極にする。(-)で表される負のイオン、及び(+)で表される正のイオンは、この時点ではまだ、発光層12及び13内で互いに対をなしている。低仕事関数の第1電極10と高仕事関数の第2電極11の関係については、これは逆方向バイアスであって、その結果、陽極である第1電極10から正孔は注入されず、かつ陰極である第2電極11から電子は注入されない。
【0026】
図3bは、電圧を切り換えてから0.3秒後の状況を示している。図から明らかなように、負イオンは、陽極である第1電極10へ向かってゆっくりと移動し、正イオンは、陰極である第2電極11へ向かってゆっくりと移動する。
【0027】
図3cは、電圧を切り換えてから0.95秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられる直前、の状況を示している。図から分かるように、負イオンは陽極である第1電極10へ向かってある程度の距離を進行するが、実際に陽極には負イオンは蓄積されない。よって発光層12及び13へは正孔が注入されない。これに対応して、陰極である第2電極11には正イオンが蓄積しないので、電子も注入されない。正孔及び電子が注入されないため、発光は起こらない。
【0028】
図3dは、電圧を切り換えてから1.05秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられた直後、の状況を示している。低仕事関数の第1電極10と高仕事関数の第2電極11の関係については、これは順方向バイアスであって、その結果、陰極である第1電極10から電子は注入され、かつ陽極である第2電極11から正孔は注入される。上述のように、発光層12及び13の材料は、正孔Hの移動度が、電子eの移動度よりも大きくなるように選択される。正孔Hが電子eよりも、発光層12及び13を速く進行するので、正孔Hと電子eとの間の再結合は、第1発光層12内で起こる。上述のように、第1発光層12内で正孔Hと電子eとの間での再結合が起こる結果、第1型の光L1、つまり青色光、が放出される。負イオンは、陽極である第2電極11の方へ向かってゆっくりと進み、正イオンは、陰極である第1電極10の方へ向かってゆっくりと進む。図3aから図3dに図示されているように、拡散律速である、25℃での母体中のイオンの移動度は非常に遅いため、AC電源が電圧の極性を切り換える前では、それぞれ負イオン及び正イオンは、陽極及び陰極に十分に蓄積しない。よって図3aから図3dに図示された条件では、順方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極10が陰極で、かつ高仕事関数の第2電極11が陽極のときには、発光積層体4は青色光L1を放出し、逆方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極10が陽極で、かつ高仕事関数の第2電極11が陰極のときには、光は放出されない。従って25℃では、温度計1は、電源は入っているが、アイロン3の底部2は依然として冷たいことを使用者に知らせる青色光L1を放出する。
【0029】
図4aは、まさに電源がオンになっている時点での状況を示している。AC電源は、第1電極10に正の電荷を供することでその電極10を陽極にし、第2電極11に負の電荷を供することでその電極11を陰極にする。(-)で表される負のイオン、及び(+)で表される正のイオンは、この時点ではまだ、発光層12及び13内で互いに対をなしている。
【0030】
図4bは、電圧を切り換えてから0.3秒後の状況を示している。このような高温では母体中でのイオンの移動度は高いため、この時点ですでに、陽極である第1電極10には負イオンが相当十分に蓄積し、陰極である第2電極11には正イオンが相当十分に蓄積する。イオンが蓄積し、電極において大きなイオン密度勾配が形成されるため、電子eは、第2電極11が高仕事関数であるにもかかわらず、陰極である第2電極11に注入され、正孔Hは、第1電極10が低仕事関数であるにもかかわらず、陽極である第1電極10に注入される。問題になっている材料中では正孔の移動度の方が大きいため、正孔Hが電子eよりも、発光層12及び13を速く進行するので、正孔Hと電子eとの間の再結合は、第2発光層13内で起こる。上述のように、第2発光層13内で正孔Hと電子eとの間での再結合が起こる結果、第2型の光L2、つまり赤色光、が放出される。
【0031】
図4cは、電圧を切り換えてから0.95秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられる直前、の状況を示している。図から分かるように、陽極である第1電極10では多くの負イオンが蓄積し、陰極である第2電極11では多くの正イオンが蓄積する。各対応する電極において大きなイオン密度勾配が形成されることで、電子e及び正孔Hはそれぞれ効果的に注入されるため、これらの電子e及び正孔Hの第2発光層13中での再結合によって、積層体4はさらに赤色光を放出する。
【0032】
図4dは、電圧を切り換えてから1.05秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられた直後、の状況を示している。低仕事関数の第1電極10と高仕事関数の第2電極11の関係については、これは順方向バイアスであって、その結果、陰極である第1電極10から電子は注入され、かつ陽極である第2電極11から正孔は注入される。よって、先に図3dを参照しながらした説明と同一の原理に従って青色光L1は放出される。図4dから分かるように、負イオンは陽極である第2電極へ向かってかなり速く進み始め、正イオンは陰極である第1電極へ向かってかなり速く進み始める。これにより、陰極及び陽極において、それぞれ正イオン及び負イオンが蓄積する。しかし、この蓄積は、この順方向バイアスにおいてすでにかなりの効果を示している正孔と電子の注入には実質的に影響を及ぼさない。
【0033】
図4aから図4dに図示されているように、拡散律速である、90℃での母体中のイオンの移動度は、AC電源が電圧の極性を切り換える前、それぞれ負イオン及び正イオンは、陽極及び陰極に十分に蓄積するほど十分に速い。よって図4aから図4dに図示された条件では、順方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極が陰極で、かつ高仕事関数の第2電極が陽極のときには、発光積層体4は、発光ダイオード8の原理に従って青色光L1を放出する。逆方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極10が陽極で、かつ高仕事関数の第2電極11が陰極のときには、正イオン及び負イオンが、各対応する電極10及び11にそれぞれ蓄積されることで、イオン勾配は、低仕事関数の第1電極10から正孔Hを注入し、高仕事関数の第2電極11から電子eを注入するほど十分となる。その結果、発光電気化学電池9の原理に従って発光積層体4は赤色光L2を放出する。従って90℃では、温度計1は、電源は入っていて、かつアイロン3の底部2が熱いことを使用者に知らせる、赤色光及び青色光を繰り返し放出する。
【0034】
図5は、様々な温度での発光積層体4のエレクトロルミネッセンスELを示している。AC電源は+3/-5Vの電圧を積層体に供し、一定周波数1Hzで極性を変化させる。25℃では、発光ダイオード8の原理に従って、+3Vの順方向バイアスで、青色光L1が発光する。逆方向バイアスでは、母体中でのイオンの移動度は各対応する電極にイオンが十分蓄積するには小さすぎるので、逆バイアスモードでは発光が起こらない。60℃では、発光電気化学電池9の原理に従って、イオンは母体中をかなり速く移動するので、極性が”-“に切り換えられてから、つまり-5Vの逆バイアスになってから5秒後に赤色光L2の発光が始まる。赤色発光L2はその強度を増大させながら、極性が順方向に切り換えられた結果として青色光L1が再度発光するまで、約0.5秒間続く。90℃では、電圧が”-“に切り換えられた直後に十分蓄積するほど、イオンは速く移動する。図5に図示されているように60℃では、温度計は、0.5秒間発光しない後に青色光L1が発光し、その後赤色L1の発光が0.5秒間起こる発光効果を供する。この発光効果は使用者によって容易に観測され、かつこの発光効果によって、高温の警告を見逃す危険性は減少する。たとえば90℃のような高温では、暗くなる周期はほとんどなくなり、青色光L1と赤色光L2とがほぼ直接的に交互に供される。よって温度計は、表面が熱いことを知らせるだけでなく、実際の表面温度に関する情報をさらに供する。絶対値にして、逆方向バイスでの電圧は順方向バイアスでの電圧よりも高いので、赤色光L2は青色光L1を上回ることで、高温では主として赤色の印象が与えられる。順方向よりも逆方向での電圧の絶対値を大きくする代わりに、高温において所望である赤色の印象を供するために、混合周波数、つまり逆方向でのパルス長が順方向でのパルス長よりも長いような周波数を有することも可能である。さらに別な代替案は、赤色光の強度をさらに上げるため、逆方向での電圧を高くし、かつ逆方向でのパルス長を長くすることである。
【0035】
たとえば約50Hz以上の高いAC電圧周波数では、目は、程度の差はあるが混合色を知覚する。その混合色は赤色光及び青色光の強度に依存して、ほぼマゼンタ色に見えるか、又は青色強度が低い場合にはほとんど純粋な赤色見えるだろう。
【0036】
AC電源5の周波数は、温度が所定の温度つまり閾値温度を超えるときに赤色L2が発光するように、発光層の厚さ、並びに問題となっている母体及びイオンの種類と共に調節される。たとえば70℃以上の温度で赤色発光が始まるのが望ましい、つまり閾値温度が70℃である場合、AC電源の周波数は、1Hzからたとえば3Hzまで増加させることが可能である。そのような場合、60℃でのイオン蓄積は赤色発光には十分である。周波数を増加させる代わりに、発光層を厚くすること、イオンがよりゆっくりと移動する母体材料に交換すること、及び/又は、より低い移動度を有する種類のイオンに交換することもまた可能である。よって所望の閾値温度にわたって赤色発光を供する温度計を供する方法は複数存在する。
【0037】
底部2の表面16が該表面16にわたって均一な温度を有していない場合、発光電気化学電池9の発光は、その領域にわたって変化する。よって、表面の一部がたとえば90℃のような高温を有する結果、その表面16一部を覆う発光電気化学電池9の一部から強い発光が起こる一方で、表面の別な一部がたとえば60℃のような低温を有する結果、その表面16の別な一部を覆う発光電気化学電池9の一部からは弱い発光が起こる。よって器具の使用者は、表面16のどの部分が最も高温で、かつ表面16のどの部分が低温であるのかが視覚的に分かる。それにより、表面上の局所的ホットスポットの存在を示すというさらなる利点が、発光電気化学電池9によって供される。
【0038】
任意で温度計1には、図1に図示されているように周波数変調器7が供されて良い。周波数変調器7は、赤色発光が起こる温度をエンドユーザーが設定できるように、AC電源周波数を変調する。
【実施例1】
【0039】
図6aは、本発明の第2実施例に従った温度計101の概略図である。温度計101は、発光ダイオード108及び電気化学電池109を有する。発光ダイオード108は、低仕事関数である第1電極110、高仕事関数である第2電極111、及び半導体の第1発光層112を有する。半導体の第1発光層112は、青色光L1を発光するように、電極110と電極111との間に挟まれて備えられている。発光電気化学電池109は、第1電極120、第2電極121、及び第2発光層113を有する。第2発光層113は、赤色光L2を発光するように、電極120と電極121との間に挟まれて備えられている。第2発光層113は母体及びイオンを有し、そのイオンはそのマトリックス内で移動可能である。ダイオード108及び電池109は、互いに隣接して設けられても良いし、又はある程度距離をおいて設けられても良い。電池109の電極のうちの少なくとも1つ、この例では第2電極121、は、たとえばアイロンの底部のような表面116と接して設けられていいて、その表面116温度が表示される。AC電源105は、第1コンタクト114を介して、ダイオード108の第1電極110及び電池109の第1電極120に電圧を供し、第2コンタクト115を介して、ダイオード108の第2電極111及び電池109の第2電極121に電圧を供する。そのため、ダイオード108及び電池109は、互いに平行に電気的結合をしている。AC電源105によって供される電圧の極性は、約1Hzの周波数で切り換えられる。第1電極110及び第2電極120はともに、透明材料から構成される。低仕事関数である第1電極110はたとえば、5nmのバリウム層を有し、15nmの銀でコーティングされて良い。図6aで示された条件では、表面温度は25℃で、第1電極110及び120には負の電圧が供される。つまり第1電極110及び120は陰極で、第2電極111及び121は陽極である。ダイオード108については順方向バイアスであるこの状況では、ダイオード108の低仕事関数である第1電極110は、電子eを第1発光層112へ注入し、高仕事関数である第2電極111は、正孔Hを第1発光層112へ注入する。発光層112中では、正孔Hと電子eとが再結合する結果、青色光L1を発光し、L1は透明である第1電極110を介して放出される。
【0040】
このような低温では第2発光層113中でのイオンの移動度は小さいため、電池109の電極120及び121近傍にはイオンは蓄積せず、その結果電池109からは光が放出しない。
【0041】
図6bは、図6aの状況と比較して電圧の極性が変化した後の温度計101を図示している。この状況では、第1電極110及び120には正の電荷が供され、第2電極111及び121には負の電荷が供される。つまり、第1電極110及び120は陽極で、第2電極111及び121は陰極となる。発光ダイオード108は逆バイアス状態であり、発光ダイオード108では発光は起こらない。発光電気化学電池109については、上述したように、イオンの移動度は、AC電源105の周波数では遅すぎるので、必要なイオンの蓄積は起こらない。図7aは、表面温度が90℃での温度計101を図示している。AC電源105は、第1電極110及び120に負の電荷を供することで、前記第1電極を陰極にし、第2電極111及び121に正の電荷を供することで、前記第2電極を陽極にする。この温度では、第2発光層113の母体中でのイオンの移動度が高いため、発光電気化学電池109の第1電極120に正イオンは迅速に蓄積し、かつ第2電極121には負イオンが蓄積する。高いイオン勾配が生じた結果、第1電極120から電子eが注入され、かつ第2電極121から正孔Hが注入される。第2発光層113中で正孔Hと電子eとが再結合するので、赤色光L2が発光電気化学電池109によって放出される。光L2は透明電極120を介して透過し、表面116が熱いことを視覚的に知らせる。図7aに図示された条件が順方向バイアスであるため、発光ダイオード108は、図6aを参照しながら説明した原理に従って青色光L1を放出する。しかし90℃では、陰極と陽極との間での電荷の流れを効率的にできるように電荷注入効率が改善されるだけではなく、発光電気化学電池109の第2発光層113中でのイオンの移動度が高くなることにより、その電池109の抵抗は実質的に減少する。ダイオード108と電池109とが平行に結合するので、電流は主として低抵抗の経路、つまり電池109を介して流れるので、ダイオード108によって放出される青色光L1の強度は、低温での強度と比較して減少する。よって温度計101は、温度上昇にともなって、ダイオード108によって放出される青色光L1の自動調光を行う。
【0042】
図7bは、極性が切り換えられた後の90℃での状況を図示している。発光ダイオード108は逆バイアスであって、発光ダイオード108では発光が起こらない。発光電気化学電池109の第1電極120は、負イオンが蓄積されることで、正孔Hを注入し、第2電極121は、正イオンが蓄積されることで、電子eを注入する。第2発光層113中で正孔Hと電子eとが再結合することで、赤色光L2が生成される。
【0043】
よって90℃では、高強度の赤色光L2は、逆方向バイアスと順方向バイアスの両方で放出される一方で、順方向バイアスでは、かなり弱い青色光L1が放出される。赤色光L2が青色光L1よりも強く光ることで、表面116が熱いことを明確に知らせる。
【0044】
図6a-図6b及び図7a-図7bに図示された実施例では、ダイオード108の第1電極110は、電池109の両電極120及び121から隔離され、ダイオード108の第2電極111も同様に隔離されている。同一の技術的効果を有する代替例として、ダイオードの第1電極は、電池の第1電極と共通していて良く、かつダイオードの第2電極は、電池の第2電極と共通して良いことが分かる。たとえば1つの共有第2電極が表面116上に設けられ、第1発光層及び第2発光層は互いに距離をおいた状態でこの共通第2電極上に設けられ、かつ離れて設けられた第1電極を有して良い。よってダイオードの電極のうちの少なくとも1つは、電池の電極から離れて設けられていて十分である。
【実施例2】
【0045】
図6aは、本発明の第3実施例に従った温度計201の概略図である。温度計201は、発光ダイオード208及び電気化学電池209を有する。発光ダイオード208は、低仕事関数である第1電極210、高仕事関数である第2電極211、及び半導体の第1発光層212を有する。半導体の第1発光層212は、青色光L1を発光するように、電極210と電極211との間に挟まれて備えられている。発光電気化学電池209は、第1電極220、第2電極211、及び第2発光層213を有する。第2発光層213は、赤色光L2を発光するように、電極220と電極211との間に挟まれて備えられている。第2発光層213は母体及びイオンを有し、そのイオンはそのマトリックス内で移動可能である。よってダイオード208及び電池209は互いの上部に設けられている。各対応する発光層212と213とは、高仕事関数である共通第2電極211によって隔離されている。電池209の第1電極220は、たとえばアイロンの底部のような表面216と接して設けられていて、その表面116温度が表示される。周波数1Hzで動作するAC電源205は、第1コンタクト214を介して、ダイオード208の第1電極210及び電池209の第1電極220に電圧を供し、第2コンタクト215を介して、共通第2電極211に電圧を供する。そのため、ダイオード208及び電池209は、互いに平行に電気的結合をしている。AC電源205によって供される電圧の極性は、約1Hzの周波数で切り換えられる。低仕事関数である第1電極210及び高仕事関数である第2電極211はともに、透明材料から構成される。低仕事関数である第1電極210はたとえば、バリウム又はカルシウムの薄い層で構成されて良い。高仕事関数である第2電極211は、インジウムスズ酸化物(ITO)で構成されて良い。
【0046】
図8aで示された条件では、表面温度は90℃で、第1電極210及び220には負の電圧が供される。つまり第1電極210及び220は陰極で、共通電極211は陽極である。ダイオード208については順方向バイアスであるこの状況では、ダイオード208の低仕事関数である第1電極210は、電子eを第1発光層212へ注入し、高仕事関数である第2電極211は、正孔Hを第1発光層212へ注入する。発光層212中では、正孔Hと電子eとが再結合する結果、青色光L1を発光し、L1は透明である第1電極210を介して放出される。
【0047】
90℃では第2発光層213の母体中でのイオンの移動度は大きいため、電池209の第1電極220にはイオンが迅速に蓄積し、第2電極211には負のイオンが蓄積する。高いイオン勾配が生じた結果、第1電極220から電子eが注入され、かつ第2電極211から正孔Hが注入される。これにより図7aを参照しながら説明した原理と同様の原理に従って、透明電極211及び210を介して透過する赤色光L2が、発光電気化学電池109によって放出される。よって図8aに図示された条件では、青色光L1及び赤色光L2を有する混合光が放出される。ダイオード208と電池209とが平行に結合し、かつその電池209の抵抗が温度に対して減少することによって、電池209を介する電流が増大し、かつダイオード208介する電流が減少するので、高温では青色光L1は自動調光される。その自動調光により、温度計201から放出される光は赤色が主となる。
【0048】
図8bは、図8aの状況と比較して電圧の極性が変化した後の温度計201を図示している。この状況では、第1電極210及び220には正の電荷が供され、共通第2電極211には負の電荷が供される。つまり、第1電極110及び120は陽極で、共通第2電極211は陰極となる。発光ダイオード208は逆バイアス状態であり、発光ダイオード208では発光は起こらない。発光電気化学電池209については、上述した本発明の原理に従って、イオンの移動度は逆バイアスでも赤色L2を放出するほど十分に大きい。たとえば25℃のような低温では、発光電気化学電池209は、イオンの移動度が小さいため、発光電気化学電池209は光を放出しない。よって低温では、温度計201は、ダイオード208によって供される青色発光L1を発光する。高温では、発光電気化学電池209は、順方向バイアスと逆方向バイスの両方で、赤色光の放出を起こし、それと同時に青色光L1は調光される。
【0049】
図8aの実施例の代替実施例として、高仕事関数の第1電極及び低仕事関数の第2電極を利用することも当然可能である。
【実施例3】
【0050】
図9は、代替的実施例である温度計301の上面を図示している。温度計301の断面は図10に図示されている。温度計301は図2に図示された温度計1とかなり似ている。よって温度計301は、第1電極310、第2電極311、及び、第1電極310と第2電極311との間に挟まれた第1発光層312及び第2発光層313を有する。第1発光層312及び第2発光層313が第1電極310と第2電極311との間に挟まれることにより、発光ダイオード308及び発光電気化学電池309が形成される。第2電極311は、アイロン(図9には図示されていない)底部302の表面316に取り付けられている。円筒形状の熱接触330は、底部302からダイオード308及び電池309を貫通して延在する。これらの熱接触330の目的は、底部302からアイロンがけされる衣類への熱輸送を改善することである。よって熱接触330は、ダイオード308及び電池309の絶縁効果を減少させる。それにより、層312、層313、電極310及び電極311は、より厚くなっても、アイロンの機能を劣化させることなく利用できる。熱接触330は、非導電性ポリマーから構成されるスリーブ332の絶縁材料の手段によって、ダイオード308及び電池309から電気的に絶縁されている。
【実施例4】
【0051】
図11は、さらに別な代替的実施例である温度計401の上面を図示している。温度計401は、図9及び図10に図示されている温度計301に類似している。ただし、温度計401には、第1電極401、第1発光層、第2発光層及び第2電極(第1発光層、第2発光層及び第2電極は図11には図示されていない)を貫通して延在する棒状の熱接触430が供されている。これらは一緒に発光ダイオード及び発光電気化学電池309を形成する。熱接触430は、絶縁性スリーブ432の手段によって、ダイオード及び電池から電気的に隔離されている。
【0052】
図9-図11の実施例では、熱接触が図示されている。代替実施例として、温度計がオーブンの窓又は水を用いる調理器具に用いられるような場合に、発光電気化学電池及び/又はダイオードを介して使用者が温度計を見ることができるように、温度計の発光電気化学電池及び/又は発光ダイオードに穴を開けて良い。そのような温度計に開けられた穴は、ガラスビーズで満たされて良い。満たされたガラスビーズを介して、使用者はたとえばオーブンをのぞき込むことができる。
【0053】
さらに、熱接触は、図6a-図6b、図7a-図7bに図示された実施例及び図8a-図8bに図示された実施例で用いられて良いことが分かる。図6a-図6b、図7a-図7bに図示された実施例の場合、熱接触は、発光電気化学電池中のみに供されても良いし、又は電池とダイオードの両方の中に供されても良い。
【0054】
添付請求項の範囲内で上述の実施例の様々な変化型が可能であることが分かる。
【0055】
たとえば図1-図4を参照する上述の実施例では、発光ダイオード8は青色光L1を放出する。たとえば緑色光のような他の波長の光を放出するダイオードを用いることも可能である。温度計によって供されるメッセージに依存して、それぞれ完全に異なる色を用いることも可能である。
【0056】
図1-図4、図8a-図8b及び図9-図10に図示された実施例はそれぞれ、熱い表面16、216及び316に最も近い場所に設けられている、赤色発光層13、213及び313を有し、その赤色発光層上部にそれぞれ設けられている、青色発光層12、212及び312を有する。たとえこれが層を積層する好適方法だとしても、別な方法で層を積層することが可能であることも分かる。たとえば青色発光層上部に赤色発光層を積層し、適切な方法で高仕事関数の電極と低仕事関数の電極とを組み合わせることでも可能である。
【0057】
図1-図4に図示された実施例では、青色光L1又は赤色光L2は第1電極10を介して放出される。代替実施例として、第1電極は熱い表面に対向して設けられて良く、そのとき放出光は透明な第2電極を介して放出される。さらに別な代替実施例では、放出される赤色光及び青色光は、電極を介することなく発光層12及び13を直接介して放出されることが可能である。
【0058】
温度計に電気的保護、機械的な傷からの保護又は水からの保護を供するため、上部に薄い保護コーティングが供されて良い。薄い保護コーティングはたとえば、第1電極上に供される薄いポリマー層であっても良いし、又は発光電気化学電池全体を密閉する薄いポリマー層であっても良い。
【0059】
発光層12及び13中の母体材料は、正孔の移動度が電子の移動度よりも大きくなるようなものである。代替実施例として、電子の移動度が正孔の移動度よりも大きくなるような母体材料を用い、第1発光層と第2発光層との位置を交換することも可能である。
【0060】
AC電源の周波数は、電気化学電池からの発光が始まる実際の温度レベル、及び実際の発光電気化学電池に適応するように備えられている。大抵の場合、温度計に十分迅速な応答及び高い可視性を供するには、0.5Hz-10Hz範囲の周波数が適していることが分かっている。しかし、利用可能な周波数範囲は、たとえば最大100Hzのような、より高い値に拡張されても良い。そのような値は、使用される材料、発光電気化学電池の幾何学的配置などに依存する。
【0061】
上では、第1型の光がたとえば緑又は青のような第1色で、第2型の光がたとえば赤又はオレンジのような第2色であることを説明した。当然のことだが、第1型の光が、第2型の光と同一の波長、つまり色を有し、それぞれが異なる強度及び/又は周波数を有することも可能である。しかし、それぞれ異なる波長つまり色は、ユーザーが与えられたメッセージを誤解する危険性を減少させるので有利である。さらに所望の色を得るために、発光電気化学電池及び/又は発光ダイオードをカラーフィルタと組み合わせることも可能である。
【0062】
以上をまとめると、第1型の発光及び第2型の発光を供する温度計が、表面上に備えられている。温度計は、前記第1型の発光を供する発光ダイオード、及び前記第2型の発光を供する発光電気化学電池を有する。発光電気化学電池は、第1電極、第2電極、及び両電極に挟まれている第2発光層を有する。発光電気化学電池は、母体及び該母体中で移動可能なイオンを含む。前記母体中での前記イオンの移動度は温度依存する。電源が、発光電気化学電池をAC電圧で駆動させるように備えられている。そのAC電圧の周波数は、表面温度が特定レベルを超えるときに発光電気化学電池が前記第2型の発光を供するように調節される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】アイロンの3次元像で、アイロン底部に供された温度計を概略的に図示している。
【図2】図1の切片II-IIに沿った温度計の部分的な断面を図示している。
【図3a】底部温度が25℃でかつ第1状態である、図2においてIIIで示された部分の拡大断面を図示している。
【図3b】底部温度が25℃でかつ第2状態である、図3aの拡大断面を図示している。
【図3c】底部温度が25℃でかつ第3状態である、図3aの拡大断面を図示している。
【図3d】底部温度が25℃でかつ第4状態である、図3aの拡大断面を図示している。
【図4a】底部温度が90℃でかつ第1状態である、図2においてIIIで示された部分の拡大断面を図示している。
【図4b】底部温度が90℃でかつ第2状態である、図4aの拡大断面を図示している。
【図4c】底部温度が90℃でかつ第3状態である、図4aの拡大断面を図示している。
【図4d】底部温度が90℃でかつ第4状態である、図4aの拡大断面を図示している。
【図5】様々な温度での温度計からの発光を示すダイヤグラムである。
【図6a】第1温度での第2実施例に従った温度計の断面を図示している。
【図6b】第1温度での、図6aとは電圧の極性が反対である温度計を図示している。
【図7a】第2温度での、図6aの温度計を図示している。
【図7b】第2温度での、図7aとは電圧の極性が反対である温度計を図示している。
【図8a】第3実施例に従った温度計の断面を図示している。
【図8b】図8aとは電圧の極性が反対である温度計を図示している。
【図9】本発明の別な実施例に従った温度計の上面を図示している。
【図10】線X-Xに沿った、図9の温度計の断面を図示している。
【図11】本発明のさらに別な実施例に従った温度計の上面を図示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1型の発光及び第2型の発光を供するように、表面上に備えられた温度計に関する。第2型の発光は、表面が所定温度よりも高い温度を有するときに起こる。
【背景技術】
【0002】
多くの器具では、使用中に高温が関係する。そのような器具の例には、アイロン、水を使用する調理器具、ホットプレート、オーブンの窓、フライパン、トースター、ワッフル用アイロンなどがある。そのような器具を使用する人が火傷のような被害にあわないようにするためには、熱くて注意の必要な器具を使用している人に、高温であることを示す表示器が必要となる。そのような高温であることを示す表示は大抵の場合、温度センサ、該と結合するセンサ制御ユニット、及び、1つ以上のランプを有することによって行われている。そのランプは、センサが設定温度を登録するときに制御ユニットによって発光する。そのようなシステムの一例が特許文献1に見いだされる。特許文献1は、温度感知ユニットからの信号を受信する制御装置によって制御される3つの表示器部分を有するアイロンについて説明している。特許文献1で説明された型に係る温度計の欠点は、当該アイロンが複雑なこと、及び、当該アイロンが熱いか冷たいのかの表示を正確に行うため、複数の部品が適切に協働する必要があることである。例として、壊れたランプは、現実には熱いのに当該アイロンが冷たいという誤った印象を使用者に与える恐れがある。さらに、この型の温度計は、当該アイロンの全表面又はその一部が熱い場合に、表面のどの部分が熱いのかに関する情報を与えない。
【特許文献1】米国特許第6396027号明細書
【特許文献2】米国特許第5682043号明細書
【非特許文献1】ユー(G.Yu)他、Advanced Materials誌、第10巻、1998年、pp.385
【非特許文献2】ペイ(Q.B.Pei)他、Science誌、第269巻、1995年、pp.1086
【非特許文献3】ガオ(J.Gao)、ユー(G.Yu)、ヒーガー(A.J.Heeger)、Applied Physics Letters誌、第71巻、1997年、pp.1293
【非特許文献4】マッコード(P.McCord)及びバード(A.J.Bard)、Journal of Electroanalytical Chemistry、第318巻、1991年、pp.91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、表面が冷たいのか又は熱いのかの安全表示を、正確かつ低価格で供する温度計の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的は、第1型の発光及び第2型の発光を供するために、表面上に備えられている温度計によって実現される。第2型の発光は表面が所定温度よりも高いときに放出される。前記温度計は第1型の発光を供する発光ダイオードを有する。前記発光ダイオードは、第1電極、第2電極、及び両電極の間に設けられる第1発光層を有する。前記温度計は第2型の発光を供する発光電気化学電池をさらに有する。前記発光電気化学電池は、第1電極、第2電極、及び両電極の間に設けられる第2発光層を有し、かつ母体及び該母体中で移動可能なイオンを有する。前記母体中の前記イオンの移動度は温度依存する。前記温度計は前記発光電気化学電池をAC電圧で駆動するように備えられている電源をさらに有する。前記電源の周波数は、表面温度が特定レベルを超えるときに、電気化学電池が前記第2型の発光を供するように調節される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の温度計の利点は、表面が熱いのか又は冷たいのかを正確に表示することである。そのような正確な表示が可能な理由は、発光電気化学電池が特定周波数のAC電圧で駆動するとき、発光の種類、すなわち第1型又は第2型、が温度計自身の本質的な特性であるためである。温度計が、高温に依存しない第1型の光を放出するため、使用者は、表面が冷たいときに、温度計が動作中か否かに係る情報を知ることが可能である。温度計が熱くなる可能性のある表面上に設けられているので、表示温度が表面に関係ない温度である危険性はない。温度計は、たとえば使用器具のほぼ前面のような、広い領域をカバーするのに特に適している。広い領域がカバーされることで、使用者が誤ってその器具の熱い箇所を触ってしまう危険性は減少する。発光電気化学電池は、光バルブフィラメントのような消耗する部品を有していないので、不具合の危険性は非常に小さい。センサ、制御ユニット、電源及び警告ランプを必要とする従来技術と比較して、本発明の温度計では、発光電気化学電池がセンサと警告ランプの両方の機能を果たし、制御システムとしても機能するので、部品数は減少する。部品数が減少することで、製造コストが減少し、温度計が高温表示に失敗する危険性も減少する。発光が起こる温度を制御することに加えて、AC電圧はまた、イオン電荷分布が事実上永続的に“フリーズする”のを防ぐ。イオン電荷分布が事実上永続的に“フリーズする”のは、非特許文献1で説明されているように、DC電圧で生じる恐れがある。本発明に従った温度計のさらに別な利点は、表面が熱いか否かを表示するだけではなく、その表面が熱い場合にはどの箇所が熱いのかをも表示することである。本発明に従った温度計が、たとえばアイロン底部の全表面に取り付けられている場合には、第2型の発光は、その表面のうちの温度計が取り付けられた箇所でのみ生じる。その箇所では、発光層は、発光電池の原理に従って第2型の光を放出するほど高い温度になる。
【0006】
請求項2に従った測定器具の利点は、薄い温度計を供することである。その薄い温度計は、広い表面をカバーし、かつ有する部品が少ない。
【0007】
請求項3に従った測定器具の利点は、発光ダイオード及び発光電気化学電池が、短い間隔又は長い間隔を空けて、空間的に分離可能なことである。別な利点は、ダイオードによって放出される光は、電気化学電池によって放出される光とは干渉しないことである。
【0008】
請求項4に従った測定器具の利点は、ダイオード及び電気化学電池が共通の薄い積層構造を形成できるため、非常に小型な設計の温度計が供されることである。さらに必要とされる部品が少ないため、製造コストは低くなる。別な利点は、ダイオード及び電気化学電池が共通の電極を有するとき、そのダイオード及び電気化学電池のうちのいずれか1つが、他方が機能するのと同時に不具合を生じる危険性がほぼ除去されることである。そのダイオード及び電気化学電池のうちのいずれか1つが、他方が機能するのと同時に不具合を生じることで、表面温度に関する間違った結果が与えられる恐れがある。
【0009】
請求項5に従った測定器具の利点は、正孔及び電子が再結合して発光する発光層での厳密な位置設定は、正孔及び電子が注入された電極、つまり両者が注入された方向に依存する。よって、互いの上部に、各異なる特性を有する発光層を供することで、一のバイアスで一の型の光を得て、それとは反対のバイアスで他の型の光を得ることが可能である。
【0010】
請求項6に従った測定器具の利点は、低温でも正孔及び電子を注入することである。低温で正孔及び電子されることで、表面が低温のときには第1型の光を供することが可能となる。
【0011】
請求項7に従った測定器具の利点は、ダイオードの発光層及び電気化学電池の発光層が、互いの上部に直接積層されない、薄い積層構造を供することである。このことにより、第1型発光層及び第2型発光層用の材料の選択に係る自由度が、より大きくなる。
【0012】
請求項8に従った測定器具の利点は、電気化学電池の抵抗が温度上昇に従って減少し、電流経路のほとんどがダイオードではなく電気化学電池となることで、第1型の光の自動調光を供することである。
【0013】
請求項9及び10に従った測定器具の利点は、発光電気化学電池に発光ダイオードよりも大きな電力が供されるとき、高温で第2型の光を支配的にするのに好ましい方法であるということである。
【0014】
請求項11に従った測定器具の利点は、一のカラーポイントを有する第2型の光、及び他のカラーポイントを有する第1型の光は容易に理解できる視覚的温度表示を供することである。ここで、一のカラーポイントはつまり、赤色又はオレンジ色の光に対応し、他のカラーポイントつまり、たとえば青色又は緑色の光に対応する。各異なるカラーポイントを有する代わりに、又はそれに加えて、所望の視覚的温度表示を供するために、第2型の光強度が第1型の光強度よりも強くても良い。
【0015】
請求項12に従った測定器具の利点は、そのような温度計がさらに、表面が熱いことを表示するだけではなく、表面のどの箇所が最も熱く、かつどの箇所が冷たく、触っても良いのかを表示することである。よって、使用者が誤って表面の熱い箇所を触る危険性は非常に小さくなる。
【0016】
請求項13に従った測定器具の利点は、熱接触が発光電気化学電池全体に拡張することで、その電池を介する熱輸送が改善され、意図しない絶縁効果が減少することである。
【0017】
本発明に係るこれら及び他の態様は、以降で説明する実施例を参照することで明らかとなる。ここで、添付の図を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の第1実施例に従った温度計1を図示している。温度計1はアイロン3の全底部2を覆っている。上述したように、温度計1は、一緒になることで発光積層体4を形成する発光ダイオード及び発光電気化学セル、並びに低周波数AC電圧で発光積層体4を駆動させるように備えられているAC電源5を有する。AC電源5は、主要電気系(図示されていない)と接続し、アイロン3の電気ケーブル6が電源と接続しているときには常に、発光積層体4にAC電圧を供する。以降で説明するように、発光が変化する温度の微調整を可能にするため、AC電圧周波数変調機7は任意で、温度計1に含まれて良い。
【0019】
図2は、底部2上に供される薄い積層構造の形状を有する発光積層体4の断面を図示している。以降で説明するように、発光積層体4は発光ダイオード8及び発光電気化学電池9を有し、これらが一つになることで積層体4を形成する。積層体4は、条件に依存して発光ダイオード及び/又は発光電気化学電池として機能する。発光ダイオード8は、第1電極10、第2電極11、及び両電極に挟まれている第1発光層12を有する。図2に図示されているように、発光電気化学電池9は、発光ダイオードの第1電極10と同一の第1電極、発光ダイオードの第2電極11と同一の第2電極、及び両電極に挟まれていて、かつ第1発光層12の下に設けられている第2発光層13を有する。よって発光ダイオード8及び発光電気化学電池9は、第1電極10及び第2電極11を共有する。発光電気化学電池の基本原理それ自体は、非特許文献2及び非特許文献3などから既知である。AC電源5は、それぞれ第1コンタクト14及び第2コンタクト15を介して電極10及び電極11に電圧を供する。積層体4全体の厚さxは約0.5mmで、そのうちの発光層12及び発光層13の厚さは一般的には500Åから0.2mmのオーダーである。各発光層12及び13の厚さは、十分な光出力になるように調節されるのが好ましい。複数の理由により、厚さは薄いことが好ましい。1つの理由は、積層体4の絶縁効果が最小になることで、熱が、底部から積層体4を介してアイロンがけされる衣類へ、効率よく移送されることである。
【0020】
発光層12及び13は、半導体の母体及びイオンを有する。そのイオンは、その母体中で移動可能であり、その母体中でのそのイオンの移動度は温度依存する。その母体は、注入される正孔の移動度が注入される電子の移動度よりも大きい、半導体的な高分子材料である。注入される正孔の移動度が注入される電子の移動度よりも大きい半導体的高分子材料の適した例としては、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリパラフェニレン(PPP)及びそれらの誘導体がある。さらに別な代替物質は、発光電気化学電池について一般的に説明している特許文献2で見いだすことができる。母体は、代替物質としての別な種類の有機材料で構成されて良い。別な種類の有機材料とはたとえば、高分子材料よりも実質的に小さな分子量を有するものである。イオンは、たとえばナトリウムイオンのような陽イオン、及びたとえば塩素イオンのような陰イオンを有する塩によって供されて良い。代替的実施例として、イオンは高分子電極によって供されても良い。発光電気化学電池に適する、様々な種類のイオンを、たとえば特許文献2に見いだすことができる。さらに非特許文献4で説明されているように、たとえばルテニウムトリビピリデン、[Ru(bpy)3]2+のような遷移金属複合体が、適切な対イオンと結合して用いられて良い。ルテニウムトリビピリデン、[Ru(bpy)3]2+の複合体は、オレンジ-赤色の発光が結果として生じる。これは、高温であることを視覚的に警告することが望まれる多くの用途で非常に適するものと思われる。
【0021】
よって第1発光層12及び第2発光層13は、同様な種類の有機母体及び同一種類のイオンを有する。その有機母体は高分子であって良く、そのイオンは2つの発光層12及び13を介して移動して良い。しかし第1発光層12は青色発光する発光層である。つまり、第1発光層12中で正孔と電子が再結合すると青色光が放出される。それに対応して、第2発光層13は赤色発光する発光層である。つまり、第2発光層13中で正孔と電子が再結合すると赤色光が放出される。色、本実施例では青及び赤、は、各対応する発光層を適切な色素、つまり青色色素及び赤色色素、で着色することによって、又はそれ自体が所望の色を供する母体及び/又はイオンを選択することによって供されて良い。
【0022】
第1電極10は仕事関数の小さな金属電極で、少なくとも部分的には透明である。そのような部分的に透明でかつ低仕事関数の電極の調製に適した材料は、20nmのオーダーの厚さを有する、フッ化バリウム、フッ化カルシウム及びフッ化リチウムの薄い層を有する。電気的特性を改善するため、及び酸化のような外界の影響から層を保護するため、バリウム層又はカルシウム層は、薄い銀の層でコーティングされて良い。たとえば部分的に透明な低仕事関数の電極は、上に厚さ15nmの銀の層が供されている厚さ5nmのバリウム層を有して良い。第1電極10が低仕事関数の電極であるということは、電子を注入するために超えなければならないエネルギーギャップが小さい、つまり第2電極11から発光層12及び13への正孔の注入が比較的容易であることを意味する。高仕事関数についてのさらに別な材料は、プラチナ、金、銀、イリジウム、パラジウム及びモリブデンを有するが、これらに限定されるわけではない。
【0023】
2つの異なる温度での、温度計1の実際の動作について、図3aから図3d、及び図4aから図4dを参照しながらそれぞれ説明する。ここで与えられた例では、AC電圧の周波数は1Hzで一定である。つまり電圧の極性は、1秒につき1回変化する。
【0024】
図3aから図3dを参照しながら説明される例では、底部2の表面16での温度は25℃である。
【0025】
図3aは、まさに電源がオンになっている時点での状況を示している。AC電源は、第1電極10に正の電荷を供することでその電極10を陽極にし、第2電極11に負の電荷を供することでその電極11を陰極にする。(-)で表される負のイオン、及び(+)で表される正のイオンは、この時点ではまだ、発光層12及び13内で互いに対をなしている。低仕事関数の第1電極10と高仕事関数の第2電極11の関係については、これは逆方向バイアスであって、その結果、陽極である第1電極10から正孔は注入されず、かつ陰極である第2電極11から電子は注入されない。
【0026】
図3bは、電圧を切り換えてから0.3秒後の状況を示している。図から明らかなように、負イオンは、陽極である第1電極10へ向かってゆっくりと移動し、正イオンは、陰極である第2電極11へ向かってゆっくりと移動する。
【0027】
図3cは、電圧を切り換えてから0.95秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられる直前、の状況を示している。図から分かるように、負イオンは陽極である第1電極10へ向かってある程度の距離を進行するが、実際に陽極には負イオンは蓄積されない。よって発光層12及び13へは正孔が注入されない。これに対応して、陰極である第2電極11には正イオンが蓄積しないので、電子も注入されない。正孔及び電子が注入されないため、発光は起こらない。
【0028】
図3dは、電圧を切り換えてから1.05秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられた直後、の状況を示している。低仕事関数の第1電極10と高仕事関数の第2電極11の関係については、これは順方向バイアスであって、その結果、陰極である第1電極10から電子は注入され、かつ陽極である第2電極11から正孔は注入される。上述のように、発光層12及び13の材料は、正孔Hの移動度が、電子eの移動度よりも大きくなるように選択される。正孔Hが電子eよりも、発光層12及び13を速く進行するので、正孔Hと電子eとの間の再結合は、第1発光層12内で起こる。上述のように、第1発光層12内で正孔Hと電子eとの間での再結合が起こる結果、第1型の光L1、つまり青色光、が放出される。負イオンは、陽極である第2電極11の方へ向かってゆっくりと進み、正イオンは、陰極である第1電極10の方へ向かってゆっくりと進む。図3aから図3dに図示されているように、拡散律速である、25℃での母体中のイオンの移動度は非常に遅いため、AC電源が電圧の極性を切り換える前では、それぞれ負イオン及び正イオンは、陽極及び陰極に十分に蓄積しない。よって図3aから図3dに図示された条件では、順方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極10が陰極で、かつ高仕事関数の第2電極11が陽極のときには、発光積層体4は青色光L1を放出し、逆方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極10が陽極で、かつ高仕事関数の第2電極11が陰極のときには、光は放出されない。従って25℃では、温度計1は、電源は入っているが、アイロン3の底部2は依然として冷たいことを使用者に知らせる青色光L1を放出する。
【0029】
図4aは、まさに電源がオンになっている時点での状況を示している。AC電源は、第1電極10に正の電荷を供することでその電極10を陽極にし、第2電極11に負の電荷を供することでその電極11を陰極にする。(-)で表される負のイオン、及び(+)で表される正のイオンは、この時点ではまだ、発光層12及び13内で互いに対をなしている。
【0030】
図4bは、電圧を切り換えてから0.3秒後の状況を示している。このような高温では母体中でのイオンの移動度は高いため、この時点ですでに、陽極である第1電極10には負イオンが相当十分に蓄積し、陰極である第2電極11には正イオンが相当十分に蓄積する。イオンが蓄積し、電極において大きなイオン密度勾配が形成されるため、電子eは、第2電極11が高仕事関数であるにもかかわらず、陰極である第2電極11に注入され、正孔Hは、第1電極10が低仕事関数であるにもかかわらず、陽極である第1電極10に注入される。問題になっている材料中では正孔の移動度の方が大きいため、正孔Hが電子eよりも、発光層12及び13を速く進行するので、正孔Hと電子eとの間の再結合は、第2発光層13内で起こる。上述のように、第2発光層13内で正孔Hと電子eとの間での再結合が起こる結果、第2型の光L2、つまり赤色光、が放出される。
【0031】
図4cは、電圧を切り換えてから0.95秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられる直前、の状況を示している。図から分かるように、陽極である第1電極10では多くの負イオンが蓄積し、陰極である第2電極11では多くの正イオンが蓄積する。各対応する電極において大きなイオン密度勾配が形成されることで、電子e及び正孔Hはそれぞれ効果的に注入されるため、これらの電子e及び正孔Hの第2発光層13中での再結合によって、積層体4はさらに赤色光を放出する。
【0032】
図4dは、電圧を切り換えてから1.05秒後、つまりAC電圧の極性が切り換えられた直後、の状況を示している。低仕事関数の第1電極10と高仕事関数の第2電極11の関係については、これは順方向バイアスであって、その結果、陰極である第1電極10から電子は注入され、かつ陽極である第2電極11から正孔は注入される。よって、先に図3dを参照しながらした説明と同一の原理に従って青色光L1は放出される。図4dから分かるように、負イオンは陽極である第2電極へ向かってかなり速く進み始め、正イオンは陰極である第1電極へ向かってかなり速く進み始める。これにより、陰極及び陽極において、それぞれ正イオン及び負イオンが蓄積する。しかし、この蓄積は、この順方向バイアスにおいてすでにかなりの効果を示している正孔と電子の注入には実質的に影響を及ぼさない。
【0033】
図4aから図4dに図示されているように、拡散律速である、90℃での母体中のイオンの移動度は、AC電源が電圧の極性を切り換える前、それぞれ負イオン及び正イオンは、陽極及び陰極に十分に蓄積するほど十分に速い。よって図4aから図4dに図示された条件では、順方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極が陰極で、かつ高仕事関数の第2電極が陽極のときには、発光積層体4は、発光ダイオード8の原理に従って青色光L1を放出する。逆方向バイアスのとき、つまり低仕事関数の第1電極10が陽極で、かつ高仕事関数の第2電極11が陰極のときには、正イオン及び負イオンが、各対応する電極10及び11にそれぞれ蓄積されることで、イオン勾配は、低仕事関数の第1電極10から正孔Hを注入し、高仕事関数の第2電極11から電子eを注入するほど十分となる。その結果、発光電気化学電池9の原理に従って発光積層体4は赤色光L2を放出する。従って90℃では、温度計1は、電源は入っていて、かつアイロン3の底部2が熱いことを使用者に知らせる、赤色光及び青色光を繰り返し放出する。
【0034】
図5は、様々な温度での発光積層体4のエレクトロルミネッセンスELを示している。AC電源は+3/-5Vの電圧を積層体に供し、一定周波数1Hzで極性を変化させる。25℃では、発光ダイオード8の原理に従って、+3Vの順方向バイアスで、青色光L1が発光する。逆方向バイアスでは、母体中でのイオンの移動度は各対応する電極にイオンが十分蓄積するには小さすぎるので、逆バイアスモードでは発光が起こらない。60℃では、発光電気化学電池9の原理に従って、イオンは母体中をかなり速く移動するので、極性が”-“に切り換えられてから、つまり-5Vの逆バイアスになってから5秒後に赤色光L2の発光が始まる。赤色発光L2はその強度を増大させながら、極性が順方向に切り換えられた結果として青色光L1が再度発光するまで、約0.5秒間続く。90℃では、電圧が”-“に切り換えられた直後に十分蓄積するほど、イオンは速く移動する。図5に図示されているように60℃では、温度計は、0.5秒間発光しない後に青色光L1が発光し、その後赤色L1の発光が0.5秒間起こる発光効果を供する。この発光効果は使用者によって容易に観測され、かつこの発光効果によって、高温の警告を見逃す危険性は減少する。たとえば90℃のような高温では、暗くなる周期はほとんどなくなり、青色光L1と赤色光L2とがほぼ直接的に交互に供される。よって温度計は、表面が熱いことを知らせるだけでなく、実際の表面温度に関する情報をさらに供する。絶対値にして、逆方向バイスでの電圧は順方向バイアスでの電圧よりも高いので、赤色光L2は青色光L1を上回ることで、高温では主として赤色の印象が与えられる。順方向よりも逆方向での電圧の絶対値を大きくする代わりに、高温において所望である赤色の印象を供するために、混合周波数、つまり逆方向でのパルス長が順方向でのパルス長よりも長いような周波数を有することも可能である。さらに別な代替案は、赤色光の強度をさらに上げるため、逆方向での電圧を高くし、かつ逆方向でのパルス長を長くすることである。
【0035】
たとえば約50Hz以上の高いAC電圧周波数では、目は、程度の差はあるが混合色を知覚する。その混合色は赤色光及び青色光の強度に依存して、ほぼマゼンタ色に見えるか、又は青色強度が低い場合にはほとんど純粋な赤色見えるだろう。
【0036】
AC電源5の周波数は、温度が所定の温度つまり閾値温度を超えるときに赤色L2が発光するように、発光層の厚さ、並びに問題となっている母体及びイオンの種類と共に調節される。たとえば70℃以上の温度で赤色発光が始まるのが望ましい、つまり閾値温度が70℃である場合、AC電源の周波数は、1Hzからたとえば3Hzまで増加させることが可能である。そのような場合、60℃でのイオン蓄積は赤色発光には十分である。周波数を増加させる代わりに、発光層を厚くすること、イオンがよりゆっくりと移動する母体材料に交換すること、及び/又は、より低い移動度を有する種類のイオンに交換することもまた可能である。よって所望の閾値温度にわたって赤色発光を供する温度計を供する方法は複数存在する。
【0037】
底部2の表面16が該表面16にわたって均一な温度を有していない場合、発光電気化学電池9の発光は、その領域にわたって変化する。よって、表面の一部がたとえば90℃のような高温を有する結果、その表面16一部を覆う発光電気化学電池9の一部から強い発光が起こる一方で、表面の別な一部がたとえば60℃のような低温を有する結果、その表面16の別な一部を覆う発光電気化学電池9の一部からは弱い発光が起こる。よって器具の使用者は、表面16のどの部分が最も高温で、かつ表面16のどの部分が低温であるのかが視覚的に分かる。それにより、表面上の局所的ホットスポットの存在を示すというさらなる利点が、発光電気化学電池9によって供される。
【0038】
任意で温度計1には、図1に図示されているように周波数変調器7が供されて良い。周波数変調器7は、赤色発光が起こる温度をエンドユーザーが設定できるように、AC電源周波数を変調する。
【実施例1】
【0039】
図6aは、本発明の第2実施例に従った温度計101の概略図である。温度計101は、発光ダイオード108及び電気化学電池109を有する。発光ダイオード108は、低仕事関数である第1電極110、高仕事関数である第2電極111、及び半導体の第1発光層112を有する。半導体の第1発光層112は、青色光L1を発光するように、電極110と電極111との間に挟まれて備えられている。発光電気化学電池109は、第1電極120、第2電極121、及び第2発光層113を有する。第2発光層113は、赤色光L2を発光するように、電極120と電極121との間に挟まれて備えられている。第2発光層113は母体及びイオンを有し、そのイオンはそのマトリックス内で移動可能である。ダイオード108及び電池109は、互いに隣接して設けられても良いし、又はある程度距離をおいて設けられても良い。電池109の電極のうちの少なくとも1つ、この例では第2電極121、は、たとえばアイロンの底部のような表面116と接して設けられていいて、その表面116温度が表示される。AC電源105は、第1コンタクト114を介して、ダイオード108の第1電極110及び電池109の第1電極120に電圧を供し、第2コンタクト115を介して、ダイオード108の第2電極111及び電池109の第2電極121に電圧を供する。そのため、ダイオード108及び電池109は、互いに平行に電気的結合をしている。AC電源105によって供される電圧の極性は、約1Hzの周波数で切り換えられる。第1電極110及び第2電極120はともに、透明材料から構成される。低仕事関数である第1電極110はたとえば、5nmのバリウム層を有し、15nmの銀でコーティングされて良い。図6aで示された条件では、表面温度は25℃で、第1電極110及び120には負の電圧が供される。つまり第1電極110及び120は陰極で、第2電極111及び121は陽極である。ダイオード108については順方向バイアスであるこの状況では、ダイオード108の低仕事関数である第1電極110は、電子eを第1発光層112へ注入し、高仕事関数である第2電極111は、正孔Hを第1発光層112へ注入する。発光層112中では、正孔Hと電子eとが再結合する結果、青色光L1を発光し、L1は透明である第1電極110を介して放出される。
【0040】
このような低温では第2発光層113中でのイオンの移動度は小さいため、電池109の電極120及び121近傍にはイオンは蓄積せず、その結果電池109からは光が放出しない。
【0041】
図6bは、図6aの状況と比較して電圧の極性が変化した後の温度計101を図示している。この状況では、第1電極110及び120には正の電荷が供され、第2電極111及び121には負の電荷が供される。つまり、第1電極110及び120は陽極で、第2電極111及び121は陰極となる。発光ダイオード108は逆バイアス状態であり、発光ダイオード108では発光は起こらない。発光電気化学電池109については、上述したように、イオンの移動度は、AC電源105の周波数では遅すぎるので、必要なイオンの蓄積は起こらない。図7aは、表面温度が90℃での温度計101を図示している。AC電源105は、第1電極110及び120に負の電荷を供することで、前記第1電極を陰極にし、第2電極111及び121に正の電荷を供することで、前記第2電極を陽極にする。この温度では、第2発光層113の母体中でのイオンの移動度が高いため、発光電気化学電池109の第1電極120に正イオンは迅速に蓄積し、かつ第2電極121には負イオンが蓄積する。高いイオン勾配が生じた結果、第1電極120から電子eが注入され、かつ第2電極121から正孔Hが注入される。第2発光層113中で正孔Hと電子eとが再結合するので、赤色光L2が発光電気化学電池109によって放出される。光L2は透明電極120を介して透過し、表面116が熱いことを視覚的に知らせる。図7aに図示された条件が順方向バイアスであるため、発光ダイオード108は、図6aを参照しながら説明した原理に従って青色光L1を放出する。しかし90℃では、陰極と陽極との間での電荷の流れを効率的にできるように電荷注入効率が改善されるだけではなく、発光電気化学電池109の第2発光層113中でのイオンの移動度が高くなることにより、その電池109の抵抗は実質的に減少する。ダイオード108と電池109とが平行に結合するので、電流は主として低抵抗の経路、つまり電池109を介して流れるので、ダイオード108によって放出される青色光L1の強度は、低温での強度と比較して減少する。よって温度計101は、温度上昇にともなって、ダイオード108によって放出される青色光L1の自動調光を行う。
【0042】
図7bは、極性が切り換えられた後の90℃での状況を図示している。発光ダイオード108は逆バイアスであって、発光ダイオード108では発光が起こらない。発光電気化学電池109の第1電極120は、負イオンが蓄積されることで、正孔Hを注入し、第2電極121は、正イオンが蓄積されることで、電子eを注入する。第2発光層113中で正孔Hと電子eとが再結合することで、赤色光L2が生成される。
【0043】
よって90℃では、高強度の赤色光L2は、逆方向バイアスと順方向バイアスの両方で放出される一方で、順方向バイアスでは、かなり弱い青色光L1が放出される。赤色光L2が青色光L1よりも強く光ることで、表面116が熱いことを明確に知らせる。
【0044】
図6a-図6b及び図7a-図7bに図示された実施例では、ダイオード108の第1電極110は、電池109の両電極120及び121から隔離され、ダイオード108の第2電極111も同様に隔離されている。同一の技術的効果を有する代替例として、ダイオードの第1電極は、電池の第1電極と共通していて良く、かつダイオードの第2電極は、電池の第2電極と共通して良いことが分かる。たとえば1つの共有第2電極が表面116上に設けられ、第1発光層及び第2発光層は互いに距離をおいた状態でこの共通第2電極上に設けられ、かつ離れて設けられた第1電極を有して良い。よってダイオードの電極のうちの少なくとも1つは、電池の電極から離れて設けられていて十分である。
【実施例2】
【0045】
図6aは、本発明の第3実施例に従った温度計201の概略図である。温度計201は、発光ダイオード208及び電気化学電池209を有する。発光ダイオード208は、低仕事関数である第1電極210、高仕事関数である第2電極211、及び半導体の第1発光層212を有する。半導体の第1発光層212は、青色光L1を発光するように、電極210と電極211との間に挟まれて備えられている。発光電気化学電池209は、第1電極220、第2電極211、及び第2発光層213を有する。第2発光層213は、赤色光L2を発光するように、電極220と電極211との間に挟まれて備えられている。第2発光層213は母体及びイオンを有し、そのイオンはそのマトリックス内で移動可能である。よってダイオード208及び電池209は互いの上部に設けられている。各対応する発光層212と213とは、高仕事関数である共通第2電極211によって隔離されている。電池209の第1電極220は、たとえばアイロンの底部のような表面216と接して設けられていて、その表面116温度が表示される。周波数1Hzで動作するAC電源205は、第1コンタクト214を介して、ダイオード208の第1電極210及び電池209の第1電極220に電圧を供し、第2コンタクト215を介して、共通第2電極211に電圧を供する。そのため、ダイオード208及び電池209は、互いに平行に電気的結合をしている。AC電源205によって供される電圧の極性は、約1Hzの周波数で切り換えられる。低仕事関数である第1電極210及び高仕事関数である第2電極211はともに、透明材料から構成される。低仕事関数である第1電極210はたとえば、バリウム又はカルシウムの薄い層で構成されて良い。高仕事関数である第2電極211は、インジウムスズ酸化物(ITO)で構成されて良い。
【0046】
図8aで示された条件では、表面温度は90℃で、第1電極210及び220には負の電圧が供される。つまり第1電極210及び220は陰極で、共通電極211は陽極である。ダイオード208については順方向バイアスであるこの状況では、ダイオード208の低仕事関数である第1電極210は、電子eを第1発光層212へ注入し、高仕事関数である第2電極211は、正孔Hを第1発光層212へ注入する。発光層212中では、正孔Hと電子eとが再結合する結果、青色光L1を発光し、L1は透明である第1電極210を介して放出される。
【0047】
90℃では第2発光層213の母体中でのイオンの移動度は大きいため、電池209の第1電極220にはイオンが迅速に蓄積し、第2電極211には負のイオンが蓄積する。高いイオン勾配が生じた結果、第1電極220から電子eが注入され、かつ第2電極211から正孔Hが注入される。これにより図7aを参照しながら説明した原理と同様の原理に従って、透明電極211及び210を介して透過する赤色光L2が、発光電気化学電池109によって放出される。よって図8aに図示された条件では、青色光L1及び赤色光L2を有する混合光が放出される。ダイオード208と電池209とが平行に結合し、かつその電池209の抵抗が温度に対して減少することによって、電池209を介する電流が増大し、かつダイオード208介する電流が減少するので、高温では青色光L1は自動調光される。その自動調光により、温度計201から放出される光は赤色が主となる。
【0048】
図8bは、図8aの状況と比較して電圧の極性が変化した後の温度計201を図示している。この状況では、第1電極210及び220には正の電荷が供され、共通第2電極211には負の電荷が供される。つまり、第1電極110及び120は陽極で、共通第2電極211は陰極となる。発光ダイオード208は逆バイアス状態であり、発光ダイオード208では発光は起こらない。発光電気化学電池209については、上述した本発明の原理に従って、イオンの移動度は逆バイアスでも赤色L2を放出するほど十分に大きい。たとえば25℃のような低温では、発光電気化学電池209は、イオンの移動度が小さいため、発光電気化学電池209は光を放出しない。よって低温では、温度計201は、ダイオード208によって供される青色発光L1を発光する。高温では、発光電気化学電池209は、順方向バイアスと逆方向バイスの両方で、赤色光の放出を起こし、それと同時に青色光L1は調光される。
【0049】
図8aの実施例の代替実施例として、高仕事関数の第1電極及び低仕事関数の第2電極を利用することも当然可能である。
【実施例3】
【0050】
図9は、代替的実施例である温度計301の上面を図示している。温度計301の断面は図10に図示されている。温度計301は図2に図示された温度計1とかなり似ている。よって温度計301は、第1電極310、第2電極311、及び、第1電極310と第2電極311との間に挟まれた第1発光層312及び第2発光層313を有する。第1発光層312及び第2発光層313が第1電極310と第2電極311との間に挟まれることにより、発光ダイオード308及び発光電気化学電池309が形成される。第2電極311は、アイロン(図9には図示されていない)底部302の表面316に取り付けられている。円筒形状の熱接触330は、底部302からダイオード308及び電池309を貫通して延在する。これらの熱接触330の目的は、底部302からアイロンがけされる衣類への熱輸送を改善することである。よって熱接触330は、ダイオード308及び電池309の絶縁効果を減少させる。それにより、層312、層313、電極310及び電極311は、より厚くなっても、アイロンの機能を劣化させることなく利用できる。熱接触330は、非導電性ポリマーから構成されるスリーブ332の絶縁材料の手段によって、ダイオード308及び電池309から電気的に絶縁されている。
【実施例4】
【0051】
図11は、さらに別な代替的実施例である温度計401の上面を図示している。温度計401は、図9及び図10に図示されている温度計301に類似している。ただし、温度計401には、第1電極401、第1発光層、第2発光層及び第2電極(第1発光層、第2発光層及び第2電極は図11には図示されていない)を貫通して延在する棒状の熱接触430が供されている。これらは一緒に発光ダイオード及び発光電気化学電池309を形成する。熱接触430は、絶縁性スリーブ432の手段によって、ダイオード及び電池から電気的に隔離されている。
【0052】
図9-図11の実施例では、熱接触が図示されている。代替実施例として、温度計がオーブンの窓又は水を用いる調理器具に用いられるような場合に、発光電気化学電池及び/又はダイオードを介して使用者が温度計を見ることができるように、温度計の発光電気化学電池及び/又は発光ダイオードに穴を開けて良い。そのような温度計に開けられた穴は、ガラスビーズで満たされて良い。満たされたガラスビーズを介して、使用者はたとえばオーブンをのぞき込むことができる。
【0053】
さらに、熱接触は、図6a-図6b、図7a-図7bに図示された実施例及び図8a-図8bに図示された実施例で用いられて良いことが分かる。図6a-図6b、図7a-図7bに図示された実施例の場合、熱接触は、発光電気化学電池中のみに供されても良いし、又は電池とダイオードの両方の中に供されても良い。
【0054】
添付請求項の範囲内で上述の実施例の様々な変化型が可能であることが分かる。
【0055】
たとえば図1-図4を参照する上述の実施例では、発光ダイオード8は青色光L1を放出する。たとえば緑色光のような他の波長の光を放出するダイオードを用いることも可能である。温度計によって供されるメッセージに依存して、それぞれ完全に異なる色を用いることも可能である。
【0056】
図1-図4、図8a-図8b及び図9-図10に図示された実施例はそれぞれ、熱い表面16、216及び316に最も近い場所に設けられている、赤色発光層13、213及び313を有し、その赤色発光層上部にそれぞれ設けられている、青色発光層12、212及び312を有する。たとえこれが層を積層する好適方法だとしても、別な方法で層を積層することが可能であることも分かる。たとえば青色発光層上部に赤色発光層を積層し、適切な方法で高仕事関数の電極と低仕事関数の電極とを組み合わせることでも可能である。
【0057】
図1-図4に図示された実施例では、青色光L1又は赤色光L2は第1電極10を介して放出される。代替実施例として、第1電極は熱い表面に対向して設けられて良く、そのとき放出光は透明な第2電極を介して放出される。さらに別な代替実施例では、放出される赤色光及び青色光は、電極を介することなく発光層12及び13を直接介して放出されることが可能である。
【0058】
温度計に電気的保護、機械的な傷からの保護又は水からの保護を供するため、上部に薄い保護コーティングが供されて良い。薄い保護コーティングはたとえば、第1電極上に供される薄いポリマー層であっても良いし、又は発光電気化学電池全体を密閉する薄いポリマー層であっても良い。
【0059】
発光層12及び13中の母体材料は、正孔の移動度が電子の移動度よりも大きくなるようなものである。代替実施例として、電子の移動度が正孔の移動度よりも大きくなるような母体材料を用い、第1発光層と第2発光層との位置を交換することも可能である。
【0060】
AC電源の周波数は、電気化学電池からの発光が始まる実際の温度レベル、及び実際の発光電気化学電池に適応するように備えられている。大抵の場合、温度計に十分迅速な応答及び高い可視性を供するには、0.5Hz-10Hz範囲の周波数が適していることが分かっている。しかし、利用可能な周波数範囲は、たとえば最大100Hzのような、より高い値に拡張されても良い。そのような値は、使用される材料、発光電気化学電池の幾何学的配置などに依存する。
【0061】
上では、第1型の光がたとえば緑又は青のような第1色で、第2型の光がたとえば赤又はオレンジのような第2色であることを説明した。当然のことだが、第1型の光が、第2型の光と同一の波長、つまり色を有し、それぞれが異なる強度及び/又は周波数を有することも可能である。しかし、それぞれ異なる波長つまり色は、ユーザーが与えられたメッセージを誤解する危険性を減少させるので有利である。さらに所望の色を得るために、発光電気化学電池及び/又は発光ダイオードをカラーフィルタと組み合わせることも可能である。
【0062】
以上をまとめると、第1型の発光及び第2型の発光を供する温度計が、表面上に備えられている。温度計は、前記第1型の発光を供する発光ダイオード、及び前記第2型の発光を供する発光電気化学電池を有する。発光電気化学電池は、第1電極、第2電極、及び両電極に挟まれている第2発光層を有する。発光電気化学電池は、母体及び該母体中で移動可能なイオンを含む。前記母体中での前記イオンの移動度は温度依存する。電源が、発光電気化学電池をAC電圧で駆動させるように備えられている。そのAC電圧の周波数は、表面温度が特定レベルを超えるときに発光電気化学電池が前記第2型の発光を供するように調節される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】アイロンの3次元像で、アイロン底部に供された温度計を概略的に図示している。
【図2】図1の切片II-IIに沿った温度計の部分的な断面を図示している。
【図3a】底部温度が25℃でかつ第1状態である、図2においてIIIで示された部分の拡大断面を図示している。
【図3b】底部温度が25℃でかつ第2状態である、図3aの拡大断面を図示している。
【図3c】底部温度が25℃でかつ第3状態である、図3aの拡大断面を図示している。
【図3d】底部温度が25℃でかつ第4状態である、図3aの拡大断面を図示している。
【図4a】底部温度が90℃でかつ第1状態である、図2においてIIIで示された部分の拡大断面を図示している。
【図4b】底部温度が90℃でかつ第2状態である、図4aの拡大断面を図示している。
【図4c】底部温度が90℃でかつ第3状態である、図4aの拡大断面を図示している。
【図4d】底部温度が90℃でかつ第4状態である、図4aの拡大断面を図示している。
【図5】様々な温度での温度計からの発光を示すダイヤグラムである。
【図6a】第1温度での第2実施例に従った温度計の断面を図示している。
【図6b】第1温度での、図6aとは電圧の極性が反対である温度計を図示している。
【図7a】第2温度での、図6aの温度計を図示している。
【図7b】第2温度での、図7aとは電圧の極性が反対である温度計を図示している。
【図8a】第3実施例に従った温度計の断面を図示している。
【図8b】図8aとは電圧の極性が反対である温度計を図示している。
【図9】本発明の別な実施例に従った温度計の上面を図示している。
【図10】線X-Xに沿った、図9の温度計の断面を図示している。
【図11】本発明のさらに別な実施例に従った温度計の上面を図示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1型の発光及び第2型の発光を供するために表面上に備えられている温度計であって:
前記第1型の発光を供する発光ダイオード;
前記第2型の発光を供する発光電気化学電池;及び
前記発光電気化学電池をAC電圧で駆動させるように備えられているAC電源;
を有し、
前記発光ダイオードは、第1電極、第2電極、及び前記第1及び第2電極に挟まれている第1発光層を有し、
前記発光電気化学電池は、第1電極、第2電極、及び前記第1及び第2電極に挟まれている第2発光層を有し、
前記発光電気化学電池は、母体及び該母体中で移動可能なイオンを含み、
前記母体中での前記イオンの移動度は温度依存し、
前記表面の温度が所定温度よりも高い温度を有するときに、前記第2型の発光が生じ、
前記AC電圧の周波数は、前記表面温度が特定レベルを超えるときに前記発光電気化学電池が前記第2型の発光を供するように調節される、
温度計。
【請求項2】
前記第1発光層及び前記第2発光層が互いの上部に設けられ、少なくとも1つの共通電極を有する、請求項1に記載の温度計。
【請求項3】
前記発光ダイオードの前記第1電極及び前記第2電極のうちの少なくとも1つが、前記発光電気化学電池の前記第1電極及び前記第2電極と隔離されている、請求項1に記載の温度計。
【請求項4】
前記発光ダイオード及び前記発光電気化学電池が共通する2つの電極を有する、請求項2に記載の温度計。
【請求項5】
前記第1発光層及び前記第2発光層中での正孔の移動度が、前記第1発光層及び前記第2発光層中での電子の移動度とは異なる、請求項4に記載の温度計。
【請求項6】
前記電極のうちの少なくとも1つが低仕事関数の電極であって、前記電極のうちの少なくとも1つが高仕事関数の電極である、請求項2、4又は5に記載の温度計。
【請求項7】
前記第1発光層及び前記第2発光層が共通電極によって分離している、請求項2に記載の温度計。
【請求項8】
前記発光ダイオード及び前記発光電気化学電池が、電気の観点から見て平行に配備され、
前記AC電源は、前記発光ダイオード及び前記発光電気化学電池の両方を駆動する、
請求項3又は7に記載の温度計。
【請求項9】
前記AC電源が、前記発光ダイオードが駆動されるパルス長よりも長いパルス長で、前記発光電気化学電池を駆動するように備えられている、上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項10】
前記AC電源が、電流で前記発光電気化学電池を駆動するように備えられていて、
前記電流は、前記発光電気化学電池が光出力を与えるのに十分な程度に大きく、
前記光出力は前記発光ダイオードの光出力よりも大きい、
上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項11】
前記第2型の発光は、前記発光のカラーポイント及び/又は強度の点で、前記第1型の発光とは異なる、上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項12】
熱くなる可能性のある表面すべてを実質的に覆うように備えられ、
前記表面の熱い箇所を示す、
上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項13】
熱接触が供される温度計であって、前記熱接触は前記発光電気化学電池を貫通して延在し、前記電池を介して熱を伝導するように備えられている、上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項1】
第1型の発光及び第2型の発光を供するために表面上に備えられている温度計であって:
前記第1型の発光を供する発光ダイオード;
前記第2型の発光を供する発光電気化学電池;及び
前記発光電気化学電池をAC電圧で駆動させるように備えられているAC電源;
を有し、
前記発光ダイオードは、第1電極、第2電極、及び前記第1及び第2電極に挟まれている第1発光層を有し、
前記発光電気化学電池は、第1電極、第2電極、及び前記第1及び第2電極に挟まれている第2発光層を有し、
前記発光電気化学電池は、母体及び該母体中で移動可能なイオンを含み、
前記母体中での前記イオンの移動度は温度依存し、
前記表面の温度が所定温度よりも高い温度を有するときに、前記第2型の発光が生じ、
前記AC電圧の周波数は、前記表面温度が特定レベルを超えるときに前記発光電気化学電池が前記第2型の発光を供するように調節される、
温度計。
【請求項2】
前記第1発光層及び前記第2発光層が互いの上部に設けられ、少なくとも1つの共通電極を有する、請求項1に記載の温度計。
【請求項3】
前記発光ダイオードの前記第1電極及び前記第2電極のうちの少なくとも1つが、前記発光電気化学電池の前記第1電極及び前記第2電極と隔離されている、請求項1に記載の温度計。
【請求項4】
前記発光ダイオード及び前記発光電気化学電池が共通する2つの電極を有する、請求項2に記載の温度計。
【請求項5】
前記第1発光層及び前記第2発光層中での正孔の移動度が、前記第1発光層及び前記第2発光層中での電子の移動度とは異なる、請求項4に記載の温度計。
【請求項6】
前記電極のうちの少なくとも1つが低仕事関数の電極であって、前記電極のうちの少なくとも1つが高仕事関数の電極である、請求項2、4又は5に記載の温度計。
【請求項7】
前記第1発光層及び前記第2発光層が共通電極によって分離している、請求項2に記載の温度計。
【請求項8】
前記発光ダイオード及び前記発光電気化学電池が、電気の観点から見て平行に配備され、
前記AC電源は、前記発光ダイオード及び前記発光電気化学電池の両方を駆動する、
請求項3又は7に記載の温度計。
【請求項9】
前記AC電源が、前記発光ダイオードが駆動されるパルス長よりも長いパルス長で、前記発光電気化学電池を駆動するように備えられている、上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項10】
前記AC電源が、電流で前記発光電気化学電池を駆動するように備えられていて、
前記電流は、前記発光電気化学電池が光出力を与えるのに十分な程度に大きく、
前記光出力は前記発光ダイオードの光出力よりも大きい、
上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項11】
前記第2型の発光は、前記発光のカラーポイント及び/又は強度の点で、前記第1型の発光とは異なる、上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項12】
熱くなる可能性のある表面すべてを実質的に覆うように備えられ、
前記表面の熱い箇所を示す、
上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【請求項13】
熱接触が供される温度計であって、前記熱接触は前記発光電気化学電池を貫通して延在し、前記電池を介して熱を伝導するように備えられている、上記請求項のうちのいずれか1つに記載の温度計。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図3d】
【図4a】
【図4b】
【図4c】
【図4d】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−517265(P2008−517265A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536307(P2007−536307)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【国際出願番号】PCT/IB2005/053298
【国際公開番号】WO2006/040717
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【国際出願番号】PCT/IB2005/053298
【国際公開番号】WO2006/040717
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】
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