説明

色付コンタクトレンズ

【課題】新規な構造を有しており、装用することによって従来にない新たな効果を発揮する色付コンタクトレンズを提供すること。
【解決手段】装用される眼の黒目12と白目14の境界線16を跨いで内周側と外周側に広がる環状の着色帯22を有しており、該着色帯22の内周縁が黒目12に重なると共に該着色帯22の外周縁が白目14に重なるようになっている一方、該白目14に重なる該着色帯22の少なくとも外周縁部において濃度が内周側から外周側に向かって低下している新規な色付コンタクトレンズを提供せしめ得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色付コンタクトレンズに係り、特に特定部分に対して新規な態様で着色領域を設けることにより装用者の眼に対して従来に無い自然なコスメティック(美容)効果を与えることが出来る、新規な構造の色付コンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼の角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズの一種として、色付コンタクトレンズが、幾つか提案されている。これら従来の色付コンタクトレンズは、その殆どが、特開昭60−235115号公報(特許文献1)に示されているように、角膜を通じて虹彩の色が見える黒目の部分を覆う領域を着色することで、黒目の部分を本来と異なる色に見えるようにするものであった。それ故、黒目と白目の境界線(リンバル)よりも内周側だけを着色した色付コンタクトレンズとして提供されているに過ぎなかった。
【0003】
一方、特表2008−511025号公報(特許文献2)には、リンバルよりも大きな外径の着色領域を形成して、白目の部分までも着色した色付コンタクトレンズが提案されている。この色付コンタクトレンズは、黒目の外径を大きく且つ外縁をはっきりと強調して明確にさせることで、眼ひいては顔全体の表情を可愛くみせたり明るくみせたりすることが出来るものとされており、既に市場に提供されている。
【0004】
しかし、かかる特許文献2に記載の色付コンタクトレンズも、特許文献1に記載の色付コンタクトレンズと同様、黒目の部分の見え方を異ならせることだけに着目している点で相違ない。そして、レンズ装用者の黒目の部分を他者に対してより大きく且つ外縁をくっきりと際立たせて見せることを目的として、着色領域の外周縁部は明確な円形ラインをもって形成されており、着色領域の外縁が明瞭に視認できるラインとされているのである。
【0005】
ところが、本発明者が幾つものサンプル評価に基づいて検討を重ねた結果、特許文献2に記載の色付コンタクトレンズは、確かに装用者の表情の第三者による評価イメージを異ならせ得るものの、それが「眼」自体を美しく見せることに関しては、未だ充分でないとの知見を得るに至った。即ち、特許文献2に記載の色付コンタクトレンズは、単に「黒目を大きく見せる」ことと、「黒目の色を異ならせる」ことが出来るに過ぎず、それでは未だ、黒目と白目を含む眼全体を美しく見せることに関して充分とは言い難かったのである。
【0006】
換言すれば、特許文献2に記載の色付コンタクトレンズも、黒目の外縁に明瞭な着色ラインをくっきりと際立たせることが意図されているとも考えられる。しかし、このように黒目と白目の境界線をくっきりとしたラインにして際立たせると、他者に対して余りに人工的な印象を抱かせてロボットの眼(義眼)のように看取され易くそれ故、特にモデル等でない一般人において必ずしも「眼全体を美しく見せる」目的を達成し得るものとは言い難いことが判ったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−235115号公報
【特許文献2】特表2008−511025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、装用者の眼全体を自然に美しく見せることが出来る、新規な構造の色付コンタクトレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴とするところは、装用される眼の黒目と白目の境界線を跨いで内周側と外周側に広がる環状の着色帯を有しており、該着色帯の内周縁が黒目に重なると共に該着色帯の外周縁が白目に重なるようになっている一方、該白目に重なる該着色帯の少なくとも外周縁部において濃度が内周側から外周側に向かって低下している色付コンタクトレンズにある。
【0010】
本態様に従う構造とされた色付コンタクトレンズを装用することにより、黒目の外周側に位置する白目の部分に対して、着色帯に付された濃度変化に基づき、黒目から白目に向かって次第に薄くなって黒目から白目に移行して同化すると共に白目から黒目に向かって次第に濃くなって白目から黒目に移行して同化する移行領域が設けられる。そして、この移行領域を挟んで黒目と白目を位置せしめたことにより、黒目と白目の境界線上に明確なラインが発生することを回避して、より自然で暖かみのある外観を、装用者の眼に与えることができたのである。
【0011】
特に、人間の眼は、成人よりも幼少期において黒目と白目の境界部分に、外部から視認できる程度に明瞭な濃度変化を伴う移行領域が認められることが多く、外観として青白く見えることが、澄んだ印象を与え成人よりも健康的で若々しい印象を与える。しかし、加齢とともに、白目の黄色化、充血等により、不健康な印象を与え外観として若々しさが失われる。それ故、本発明の色付コンタクトレンズを装用することで、他者から見た眼の印象として、より若々しく且つみずみずしい、清純で清涼なイメージを抱かせて、眼全体を美しく見せることが可能となるのである。
【0012】
しかも、かかる移行領域の着色効果として、黒目を外周側に大きく見せることも可能であり、それ故、本発明の色付コンタクトレンズを装用することで、他者から見た眼の印象として、より親近感を抱かせる等の効果も期待できる。
【0013】
なお、周知のとおり虹彩の色は、メラニン色素の量に応じて「黒」,「茶」,「緑」,「青」等に異なるが、本発明では、その色に拘わらず虹彩の色が角膜を通じて見える部分を「黒目」といい、その外側の鞏膜の部分を白目という。
【0014】
また、本発明における「濃度」は、レンズ単体における「単位面積あたりの(投射光に対する)反射光の割合」と同義である。例えば、ドット状の着色態様では、「単位面積あたりの総ドット面積(着色面積)の割合」として表されるから、ドットの大きさが同じでもドット数(密度)が異なれば濃度が異なるし、ドット数(密度)が同じでも一つのドットの大きさが異なれば濃度が異なる。また、着色面積が同じでも着色部分の透明度や濃さが異なれば濃度が異なることとなる。
【0015】
また、本発明の色付コンタクトレンズでは、前記着色帯の内径寸法がφ8mm以上であり、且つ該着色帯の外径寸法がφ14mm以下である態様が、好適に採用される。一般的な人間の眼を対象とした場合、着色帯の内径寸法がφ8mmより小さいと、着色帯が瞳孔にまで及んで視覚に悪影響を及ぼすおそれがある。一方、着色帯の外径寸法がφ14mmより大きいと、着色帯で覆われないで着色帯の外周側に位置せしめられる白目の領域が小さくなり過ぎて、白目による着色帯や黒目に対する色彩上の強調効果や、反対に黒目や着色帯による白目に対する色彩上の強調効果が不十分になる等して不自然に見られたり、目的とする眼の美しさの向上効果が充分に達成され難くなるおそれがある。
【0016】
また、本発明の色付コンタクトレンズでは、前記着色帯が、色相として青と緑の少なくとも一方を含んで形成され得る。
【0017】
このように黒目から白目に移行する部分に位置せしめられる着色帯に、赤や黄色の補色に相当する青や緑の色相系を採用することにより、充血や加齢に伴う白目の黄色化による他者へ与える不健康な印象を軽減させ、その結果、他者から見た眼の印象として、若々しく且つみずみずしい、清純で清涼なイメージを、より効果的に抱かせることが可能となる。このことは、後述する本発明の実施形態に示されているように、本発明者によって理論的および実証的にも確認されている。
【0018】
また、本発明の色付コンタクトレンズでは、前記着色帯が、レンズへの着色ドットの付着で形成されており、該着色ドットの大きさと単位面積当たりの数と着色ドット自体の着色剤の濃度との少なくとも一つを変化させることによって、該着色帯における濃度が径方向で異ならされている態様が、好適に採用される。
【0019】
このように着色ドットを用いてレンズへの着色を施すことにより、着色ドットの大きさや密度の調節等によって、着色帯における濃度の設定や、その径方向での変化を容易に且つ精度良く調節することが可能となる。
【0020】
特に、着色ドットによって着色帯を形成するに際しては、かかる着色ドットを、インクジェット印刷で形成することが好適であり、それによって、高度な濃度設定の精度をもって、目的とする着色帯を一層容易に且つ効率的に形成することが可能となる。
【0021】
また、本発明の色付コンタクトレンズでは、前記着色帯が、光線透過性を有する染料インクをレンズに付着することで形成されることが好適である。
【0022】
特に、可視光線を透過する染料インクを用いて着色帯を形成することが好適であり、それによって、着色帯をより自然に且つ美しく見せることが可能となる。また、透明度のある染料インクを用いることで、着色帯が瞳孔まで及んだ場合でも、視覚に対する悪影響を軽減することができる。
【0023】
さらに、本発明の色付コンタクトレンズでは、前記着色帯の内周部分において、径方向所定幅で濃度が一定とされた定濃度領域が設けられていても良い。
【0024】
このような定濃度領域を設けることにより、例えば黒目に重なる領域では濃度変化をなくして黒目の部分における不必要な色や濃度の変化を抑えたり、また、実際の黒目より僅かに大きな領域まで黒目と略同じ濃度の色として黒目を一層明瞭に大きく見せたりすること等も可能となる。
【0025】
また、本発明の色付コンタクトレンズでは、前記着色帯の更に外周側において、非着色領域が設けられていても良い。
【0026】
このような非着色領域を設けることにより、コンタクトレンズの外径寸法に拘わらず、着色帯の外径寸法を大きな自由度で設定することが可能となる。
【0027】
さらに、本発明の色付コンタクトレンズでは、前記境界線の内周側に位置する領域に対して、虹彩パターンが付加的に描かれていても良い。虹彩パターンを設けることで、自然さを大きく損なうことなく、黒目の部分の色や濃度を一層効果的に変更したり調節したりすることが可能となる。なお、かかる虹彩パターンは、例えば適当な色のドットや面、線、或いはそれらの組み合わせ等によって描画して形成することが出来る。
【発明の効果】
【0028】
本発明に従う構造とされた色付コンタクトレンズは、従来技術における「黒目の外縁に明瞭な着色ラインをくっきりと際立たせる」という思想に対して逆転の発想に基づき、黒目と白目の境界部分に濃度が移行する着色領域を設けたものであり、それによって、従来では着目されていなかった黒目に近い「白目の部分」に特別なコスメティック効果をもたせることに成功したのである。
【0029】
その結果、従来技術のように人工的な印象を回避して、できるだけ自然で優しい印象を保ちつつ、従来には着目されていなかった白目の部分を利用してその美しさも引き立たせることができる新規な色付コンタクトレンズを提供せしめ得た。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第一の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図2】図1に示された色付コンタクトレンズの装用状態を説明するための正面説明図。
【図3】本発明の第二の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図4】本発明の第三の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図5】本発明の第四の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図6】本発明の第五の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図7】本発明の第六の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図8】本発明の第七の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図9】本発明の第八の実施形態である色付コンタクトレンズを示す正面説明図。
【図10】本発明の色付コンタクトレンズを左目に装用し、比較例の市販コンタクトレンズを右目に装用した状態を正面から写真撮影した説明図。
【図11】本発明の色付コンタクトレンズを左目に装用し、比較例の市販コンタクトレンズを右目に装用した状態を正面から写真撮影した説明図。
【図12】本発明の色付コンタクトレンズを左目に装用し、比較例の市販コンタクトレンズを右目に装用した状態を正面から写真撮影した説明図。
【図13】子どもの目を写真撮影した参考図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1には、本発明の第一の実施形態としての色付コンタクトレンズ10の正面図が示されている。この色付コンタクトレンズ10は、従来公知のコンタクトレンズに従った形状を有しており、眼の角膜の表面に重ね合わされて装用されるように、球状凸面形状とされた前面と球状凹面形状とされた後面とを有する部分的な球殻形状をもって形成されている。
【0033】
なお、色付コンタクトレンズ10の材質は限定されるものでなく、RGPレンズ(酸素透過性レンズ)やPMMA(ポリメチルメタアクリレート)等のハードレンズの他、PHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)等の含水性やアクリル系エラストマー等の非含水性或いはシリコーンハイドロゲル等の高酸素透過性の如きソフトコンタクトレンズが、何れも採用され得る。特に、ソフトコンタクトレンズは、ハードコンタクトレンズに比して、一般に大径で白目の部分も充分に覆い、且つ装用時の角膜上での移動量も小さいことから、本発明において好適に採用され得る。
【0034】
また、かかる色付コンタクトレンズ10は、角膜に重ね合わされる中央領域に対して特定の光学特性を持たせて近視や遠視、老視等の視力異常に対する矯正機能を与えた視力補正用コンタクトレンズであっても良いが、そのような特定の光学特性を持たない非視力補正用コンタクトレンズであっても良い。非視力補正用コンタクトレンズとして提供される場合には、コスメティックレンズ(美容又はおしゃれ用のコンタクトレンズ)の用途とされ得る。
【0035】
そして、本実施形態の色付コンタクトレンズ10は、図2に装用状態の説明図が示されているように、その外径寸法(DIA)が、眼の黒目12の部分を全体に覆い、且つ白目14の部分まで所定幅で覆い得るようになっている。即ち、眼の黒目12と白目14の境界線(リンバル)16が、色付コンタクトレンズ10の外周縁であるエッジ部18よりも内周側に位置するようになっている。なお、黒目12は、眼の虹彩の色を外部から視認できる領域であるが、透明な角膜を通じて虹彩を見ることの出来る領域であり、それ故、境界線16は、角膜とその外周側に位置する白色の鞏膜との境界線として理解され得る。
【0036】
さらに、かかる色付コンタクトレンズ10には、レンズ幾何中心軸20と同一中心軸上で円環形状に広がる着色帯22が設けられている。この着色帯22は、装用される眼の境界線16が、全周に亘って、着色帯22に重なって周方向に延びるように形成されている。即ち、着色帯22は、境界線16の内周側と外周側との両方に跨がって径方向に広がるだけの径方向幅を備えており、境界線16の内周側では着色帯22が黒目12の上に重ね合わされると共に、境界線16の外周側では着色帯22が白眼14の上に重ね合わされるようになっている。好適には、着色帯22は、境界線16の内側で黒目12に重なる領域の径方向幅寸法よりも、境界線16の外側で白目14に重なる領域の径方向幅寸法の方が大きく設定される。
【0037】
なお、かかる着色帯22は、装用者の日常生活の多くの状況下で、瞳孔24には殆ど重なることが無い程度に、その内径寸法を設定されることが望ましい。これにより、着色帯22が視覚に与える影響が抑えられる。かかる観点から、着色帯22の内径寸法は、φ8mm以上とされることが好適であり、より好適にはφ9mm以上とされる。なお、着色帯22の内周部分が、黒目12に対して被せられるように、一般人の角膜の大きさを考慮して、着色帯22の内径寸法は、φ12mm以下とされることが好適であり、より好適にはφ11mm以下とされる。
【0038】
一方、着色帯22の外径寸法は、白目を所定幅で覆い得るように、φ11mm以上とされることが好適であり、より好適にはφ12mm以上とされる。なお、着色帯22の外周には、装用時に白目の領域を充分に残しておくことが自然であり、且つ白目の美しさを見せることがコスメティック効果に有効であること等から、着色帯22の外径寸法は、φ14mm以下とすることが好適であり、より好適にはφ13mm以下とされる。
【0039】
なお、着色帯22は、色付コンタクトレンズ10の最外周のエッジ部18にまで至って設けられていても良いが、本実施形態では、着色帯22の外径寸法が色付コンタクトレンズ10の外径寸法よりも小さくされており、着色帯22とエッジ部18との間に、径方向所定幅で周方向に広がる円環形状の非着色領域としての外周透明領域25が設けられている。また、色付コンタクトレンズ10が、視力補正用コンタクトレンズとされる場合には、着色帯22を内周側に外れた中央領域に対して視力補正の光学特性をもった光学部が設けられ、その外周側に形成される周辺部に対して着色帯22が設けられることが望ましい。
【0040】
そして、このように内径寸法と外径寸法が設定される着色帯22は、目的とするコスメティック効果等を充分に発揮させるために、0.75〜3.0mmの径方向の幅寸法をもって形成されることが好適であり、より好適には1.0〜2.5mmの径方向の幅寸法で形成される。なお、着色帯22の径方向幅寸法は、周方向の全長に亘って一定である必要はなく、また、その内周縁形状や外周縁形状を円形以外の楕円形等の異形状としても良いが、好適には周上で一定の幅寸法を有する円環形状をもって形成される。
【0041】
ここにおいて、着色帯22は、その濃度が一様ではなく、径方向で変化しており、少なくとも白目14に重なる領域には、径方向において内周側から外周側に向かって濃度が小さくなる部分が設けられている。特に本実施形態では、着色帯22が、黒目12に重なる部分と白目14に重なる部分の何れにおいても全体に亘って、径方向で濃度変化している。
【0042】
また、かかる着色帯22の形成方法は限定されるものでなく、例えば特開平3−54519号公報等に記載されているようにコンタクトレンズの成形モノマーを注型してコンタクトレンズを成形する際に着色したり、手描きや写真印刷、スクリーン印刷等も可能ではあるが、被着面が球面状であることや、量産性、着色精度、色の再現性などを考慮すると、パッド印刷又はインクジェット印刷が好適である。
【0043】
パッド印刷は、例えば金属板に対してエッチング処理で形成したドットパターンに着色剤を充填した後、シリコンパッドを用いてドットパターンの着色剤を移し取り、コンタクトレンズに対して、かかるドットパターンの着色剤を転写することによって着色帯22を形成することが出来る。
【0044】
より好適には、インクジェット印刷が採用される。インクジェット印刷は、公知のとおりピエゾ素子等をアクチュエータとして着色剤を微小な多数のノズルから吹出させて、被着色面となるコンタクトレンズに対して直接に被着させるものである。このようなインクジェット印刷では、コンタクトレンズへのパッド等の押圧が不要であり、微小なドットを高精度に形成できることや、複数色のドットの数や相互割合を調節することで多様な色を全体として発現させることが容易であること等から、特に好適である。
【0045】
さらに、かかる着色帯22の着色態様も限定されるものでなく、全面に亘って透光性の着色剤によるべた塗り態様であっても良いが、透光性又は不透光性の着色剤でドット状に着色することが、濃度の調節を精度良く且つ容易に行えること等から好適である。特にドット状の着色は、コンタクトレンズを成形後に、その前面と後面の何れか一方或いは両方に対して、染料又は顔料を含む着色剤を点状に付着させることによって行われ得る。着色剤ひいては着色ドットに採用される色は、前述のとおり限定されるものでないが、特に本発明では、その色相等の調節策として、前述のように着色ドット26の大きさや密度(間隔)を調節したり、互いに異なる複数色の着色ドット26を設けて各色の割合を調節することも可能である。かかる着色ドット26の付着方法としては、上述のインクジェット印刷が好適である。
【0046】
あるいは、コンタクトレンズの前面と後面の層間に着色ドット26を形成したものも本発明に用いることが可能である。かかる層間に着色ドット26を形成する方法としては、前面あるいは後面側の半層に着色ドット26を設け、残りの半層を接着する方法があげられる。このようにすれば、着色層の前後両面側にそれぞれ透明層を設けた積層構造の色付コンタクトレンズを得ることが出来る。なお、前述のとおり、着色層は、印刷層として形成することの他、前記特開平3−54519号公報等に記載されているように着色材を溶解させた着色の成形モノマーを用いて着色樹脂層として形成することも可能である。また、着色層の形成方法や透光性等にもよるが、各少なくとも一層の着色層と透明層からなる積層構造を採用する場合には、各透明層の層厚さを5μm〜300μmとすると共に、各着色層の層厚さを0.2μm〜100μmとすることが望ましい。特に着色層として、パッド印刷やインクジェット印刷等による印刷層を採用する場合には、透明層よりも印刷層の層厚さが小さく設定されることが好ましい。
【0047】
また、着色ドット26をインクジェット印刷でレンズに付着および定着させることによって形成された着色帯22では、各着色ドット26自体の濃度又は階調を異ならせることで、内周側から外周側に向かって濃度を変化させることも可能である。一方、図1に示された本実施形態の色付コンタクトレンズ10では、各着色ドット自体の濃度及び階調が同じ着色ドット26を採用し、かかる着色ドット26の大きさを、色付コンタクトレンズ10の径方向位置に応じて異ならせることで、濃度を変化させている。
【0048】
具体的には、円形の着色ドット26が採用されており、各着色ドット26自体は同じ色及び濃度を有している。また、図1に示されているように、色付コンタクトレンズ10において同心的に延びる複数本(図示のものでは4本)の円形配列ラインが仮想的に設定されており、これら各円形配列ライン上に整列されて多数の着色ドット26が設けられている。なお、本実施形態では、円形配列ラインが径方向で等間隔に設定されていると共に、全ての円形配列ライン上に複数の着色ドット26が等間隔に設けられている。また、本実施形態では、異なる円形配列ライン上間でも、着色ドット26の間隔は同じとされている。尤も、図面上では、各着色ドット26の配列をイメージし易くするために、円形配列ライン相互間で、着色ドット26の間隔や大きさを正確には表していない。
【0049】
すなわち、本実施形態では、同じ円形配列ライン上に設けられた着色ドット26が全て同じ大きさとされており、異なる円形配列ライン上に設けられた着色ドット26間では相互に大きさが異ならされている。そして、内周側に位置する円形配列ラインから外周側に位置する円形配列ラインに行くに従って、その円形配列ライン上に設けられた着色ドット26の大きさ(外径寸法)が次第に小さくされている。
【0050】
この円形配列ライン毎の着色ドット26の大きさは、図1に示されているように、着色帯22における径方向線上で予め設定された着色濃度の変化に対応して決定されている。具体的には、本実施形態では、着色帯26の径方向全体に亘って内周側から外周側に向かって一次直線的に小さくなる濃度設計ライン28が設定されている。そして、各円形配列ラインについて、かかる濃度設計ライン28により、その半径方向位置から設定されるべき濃度が求められる。この濃度は、単位面積当たりの着色ドット26の占める面積割合として認識できるから、全ての円形配列ライン上で着色ドット26が等間隔に設けられた本実施形態では、図1に記載のグラフにおける着色濃度を、着色ドット26の1個の面積とすることが出来る。このように、濃度設計ライン28から、各円形配列ライン上に設けられる着色ドット26の大きさを求めることが出来る。
【0051】
そして、このように着色ドット26の大きさを、色付コンタクトレンズ10における径方向位置に応じて異ならせることにより、着色ドット26の密度としての単位面積当たりの着色ドット26の数が異ならなくても、着色帯22における径方向で、(各着色ドット26自体の濃度は異ならずとも)着色帯22の全体としての濃度変化が実現されている。換言すれば、各円形配列ライン上での濃度に着目すれば、内周側の円形配列ライン上の濃度に比して、外周側の円形配列ライン上に行くに従って、次第に濃度が小さくされている。この濃度変化は、着色ドット26自体の階調によるものでなく、ハーフトーンによって実現されている。
【0052】
ところで、着色ドット26は、無彩色でも良いが、有彩色のものを含むことが好適であり、それによってコスメティック効果を一層有利に得ることが出来る。有彩色の場合には、単一色を採用しても良いし、互いに異なる色彩を有する着色ドット26を適当な大きさや密度の相対割合をもって設けることによって、混色法に基づく多様な色を発現させることが可能である。
【0053】
また、着色ドット26に使用する着色剤としても、従来から公知の各種の着色剤が顔料と染料の区別や色の区別等なく、適宜に採用され得る。即ち、目的とする色を考慮して選択された一種或いは複数種類の適当な顔料や染料を、それに対応した溶媒と混合することで得られた着色剤を用いることが出来、かかる着色剤には、着色されるコンタクトレンズの材質や採用される定着処理等に対応した硬化剤や添加剤等が適宜に配合され得る。
【0054】
ここにおいて、着色剤ひいては着色ドット26に採用される色は、前述のとおり限定されるものでないが、特に本発明では、その色相として青と緑の少なくとも一方を含むことが望ましい。色相は、例えばマンセルの表色系で把握される。具体的には、マンセルの色相環において、5つの基本色の各中間に計5つを設けた(R,YR,Y,GY,G,BG,B,PB,P,RP)計10の色相を想定した場合には、それらの中でG又はBを含む色(GY,G,BG,B,PB)が、本発明で好適に採用される。なお、より細分化した表色系においても同様に、青(B)又は緑(G)を含む色が、本発明において好適に採用される。
【0055】
このように着色帯22に青や緑の色相系を採用することにより、その色付コンタクトレンズ10を装用した者の眼を他者が見た場合の印象として、白目の白さが強調され、より若々しく且つみずみずしい、清純で清涼なイメージを、一層効果的に抱かせることが可能となる。これは、子供の眼と成人の眼の外観上の相違点として、黒目と白目の境界領域において子供の眼には特有の青みがかった領域が存在していることが挙げられる。本発明者は、この子供の眼に特有の外観に着目し、検討を重ねた結果、成人の眼にも、本発明の色付コンタクトレンズ10によれば黒目12と白目14の境界領域に対して子供の眼に似た青みがかった領域を発現させることが可能であり、且つかかる領域に対して黒目12から白目14に向かって次第に薄くなる濃度分布を与えることで、極めて自然な外観を確保しつつ、子供の眼のような清純なイメージを他者に与えることが出来る、従来にない新規なコスメティック効果を得ることが出来ることを見出したのである。
【0056】
従って、このような構造とされた本実施形態の色付コンタクトレンズ10は、それを装用することにより、黒目12の外周側に位置する白目14の部分に対して明確なラインが発生することを回避して、より自然で暖かみのある外観を保ちつつ、特別なコスメティック効果を装用者の眼に与えることが可能となる。また、かかる移行領域の着色効果として、着色帯22の内周部分の濃度を大きく設定したことにより、黒目を外周側に大きく見せることも可能であり、装用者の眼を他者が見た印象として、より親近感を抱かせる等の効果も期待できる。
【0057】
なお、着色帯22における具体的な着色の態様や濃度の分布態様等に関して、第一の実施形態に限定されるものでなく多様に変更可能であることは前述のとおりであるが、それらの他の具体的態様として、以下、第二〜八の実施形態を例示しておく。なお、それら第二〜八の実施形態中、第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、それぞれ、第一の実施形態と同一の符合を各図面に記載することで、それらの詳細な説明を省略する。
【0058】
図3に示された、本発明の第二の実施形態としての色付コンタクトレンズ30では、着色帯22における径方向の濃度分布が第一の実施形態と異なっている。具体的には、着色帯22の内周部分の径方向所定幅の領域において、濃度が一定とされた定濃度領域31が形成されている。
【0059】
すなわち、この定濃度領域31には、3本の円形配列ラインが設定されており、各円形配列ライン上には、何れも、同じ大きさと色、濃度を有する着色ドット26が形成されている。これらの着色ドット26は、各円形配列ライン上での間隔(密度)も互いに同じに設定されている。それによって、これら3本の円形配列ラインが設定された円環帯状の領域では、着色ドット26によって着色された濃度が略一定とされている。
【0060】
このような第二の実施形態としての色付コンタクトレンズ30では、例えば黒目12に重なる部分を定濃度領域31とすることにより、装着者における黒眼12の色までも径方向に変化してしまうことを回避することが出来、装着者における黒目12の色を全体に亘って均一に見せることが可能となる。
【0061】
また、定濃度領域31の外径寸法を、装用者における黒目12の外径寸法よりも大きく設定して、黒目12から定濃度領域31を外周側に張り出させることにより、装用者における黒目12の外径寸法を大きく見せることも可能となる。その場合には、少なくとも黒目12に重なる定濃度領域31に設けられた着色ドット26を黒や茶に見える色彩や大きい濃度で形成することが好適である。
【0062】
また、図4に示された、本発明の第三の実施形態としての色付コンタクトレンズ32では、着色帯22における径方向の濃度分布の実現態様が第一の実施形態と異なっている。具体的には、着色帯22を構成する着色ドット26の濃さ(濃度又は透明度)が、着色帯22の径方向で異ならされることによって、着色帯22の濃度が径方向で外周側に向かって小さく設定されている。なお、本実施形態でも、第二の実施形態と同様に、着色帯22の内周部分に定濃度領域31が形成されており、かかる定濃度領域31では、全ての着色ドット26の濃さが同じとされている。
【0063】
このように、着色ドット26自体の濃さを、円形配列ラインの径方向位置に応じて異ならせることにより、各円形配列ライン上に設けられる着色ドット26の大きさや密度を同じに設定しつつも、着色帯22において径方向の濃度変化を実現することが出来る。
【0064】
更にまた、図5に示された、本発明の第四の実施形態としての色付コンタクトレンズ34では、着色帯22における径方向の濃度分布の実現態様が第一〜三の実施の何れとも異なっている。具体的には、着色帯22を構成する着色ドット26の密度としての単位面積当たりの着色ドット26の数が、着色帯22の径方向で異ならされることによって、着色帯22の濃度が径方向で外周側に向かって小さく設定されている。なお、本実施形態でも、第二の実施形態と同様に、着色帯22の内周部分に定濃度領域31が形成されており、かかる定濃度領域31では、着色ドット26の密度が同じとされている。
【0065】
このように、着色ドット26の密度を、径方向位置で異ならせることにより、より具体的には例えば円形配列ラインの径方向位置に応じて外周側の円形配列ライン程そのライン上に設けられる着色ドット26の周方向離隔距離を大きく設定することにより、各円形配列ライン上に設けられる着色ドット26の大きさや濃さを同じに設定しつつも、着色帯22において径方向の濃度変化を実現することが出来る。
【0066】
なお、このように着色ドット26の密度をレンズ上の径方向位置に応じて異ならせる態様は、第四の実施形態の如きランダム又は分散させて全体に均等な状態で着色ドット26を設ける他、例えば図6に示された本発明の第五の実施形態としての色付コンタクトレンズ36や図7に示された本発明の第六の実施形態としての色付コンタクトレンズ38に示されているように、適当な複数領域に集合させて着色ドット26を設けても良い。
【0067】
特に図6に示された色付コンタクトレンズ36では、周上で略等分に設定された複数箇所において、外周側に向かって突出した三角形状の集合態様をもって複数の着色ドット26が形成されることにより、径方向外方に向かって対数グラフ状に小さくなる濃度分布が実現されている。また図7に示された色付コンタクトレンズ38では、図6の色付コンタクトレンズ36で採用された三角形状の集合態様に代えて、矢尻形状の集合態様をもって複数の着色ドット26が形成されている。
【0068】
さらに、図8に示された、本発明の第七の実施形態としての色付コンタクトレンズ40は、その着色帯22としては前記第二の実施形態のものと同様な構成が採用されているが、更に、かかる着色帯22に加えて、虹彩パターン41を着色形成したものである。
【0069】
かかる虹彩パターン41は、装用者の黒目に重なる領域に形成されるものであり、この虹彩パターン41を設けることにより、装用者の黒目の色相及び/濃度を異ならせて見せることが可能となる。この虹彩パターン41も、着色帯22と同様に適当な公知の印刷方法で適当な形状や態様をもって形成され得るが、特に本実施形態では、着色帯22の着色ドット26と同様に、インクジェット印刷により多数の色付ドット42を設けることによって形成されている。なお、色付ドット42は、その色や濃度、形状、パターン、ドット密度等に関して、着色ドット26と関係なく自由に設定可能である。
【0070】
例えば、図8の色付コンタクトレンズ40では、かかる虹彩パターン41が、内周側に向かって次第に濃度が小さくなる複数本の線形状として形成されているが、図9に第八の実施形態として示されている色付コンタクトレンズ44のように、内周側に向かって濃度が大きくなる多数の分散状の色付ドット42にて構成された虹彩パターン46等を採用することも可能である。
【0071】
なお、これらの虹彩パターン41,46は、黒目12を覆うように、境界線(リンバル)16よりも内周側に位置して、例えば着色帯22の内周縁部から径方向内方に向かって延び出すように形成されることとなるが、瞳孔を出来るだけ覆わないように色付コンタクトレンズ40,44の中央部分には形成されていないことが望ましい。また、虹彩パターン41,46が瞳孔まで覆う場合を考慮して、虹彩パターン41,46の濃度を着色帯22の濃度より小さくしたり、虹彩パターン41,46を形成する色付ドット42の着色剤として透光性の大きいものを採用することも好適である。
【0072】
以下、本発明の実施例として、図5に示した第四の実施形態の色付コンタクトレンズ34に従う構造のものを実際に3種類(実施例1,実施例2,実施例3)製造した。そして、それら3種類の色付コンタクトレンズを装用し、装用者自身が得た印象と、他者が見た装用状態の印象とを、それぞれ評価した結果を、実施例の実験データとして以下に示す。なお、かかる実験に際しては、本発明の特徴をより客観的に明らかにするために、特許文献2に従う構造のものとして、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社製の市販のコンタクトレンズであるワンデーアキュビュー・ディファイン・アクセントスタイル(登録商標)について、それを装用して同様に評価し、本発明に係る実施例品と比較評価した結果を、実験データとした。
【0073】
[実施例1]
色素成分として、緑色を呈する重合性色素1、4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノンを1.0質量部、ラジカル重合開始剤として、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンを2.0質量部、並びに、溶剤として1−メチル−2−ピロリジノンを100質量部を混合して染料組成物を調製した。
【0074】
次いで、ピエゾ式インクジェット装置を用いて、シリコーンハイドロゲルからなるソフトコンタクトレンズである株式会社メニコン製の市販の2Weekプレミオ(登録商標)の前面側に、レンズ幾何中心軸まわりで直径がφ10mm〜φ13.0mmの範囲にそれぞれが独立した多数の着色ドット26を印刷することによって、円環形状の着色帯22を設けた。なお、図5に示す第二の実施形態と同様に、かかる着色帯22のうち、φ10mm〜φ11.5mmの内周領域では定濃度領域31が形成されると共に、φ11.5mmからφ13.0mmの径方向寸法領域では、内周側から外周側に向かって漸次的に色濃度を低下させた領域を有したパターンが形成されるように、着色ドット26の密度を径方向で異ならせた。
【0075】
染料組成物の全てがレンズ基材(上記の2Weekプレミオ(登録商標))に浸透していることを確認した後、ウシオ電機株式会社製の紫外線照射器「UVスポットキュア SP−3」(登録商標)を用いて、主波長365nm、照射強度500mW/cm2 の紫外線を20秒間照射した。その後、レンズを水和膨潤させることで、目的とする色付コンタクトレンズを得た。
【0076】
[実施例2]
着色帯22を、レンズ幾何中心軸20回りで直径がφ10.5mm〜φ12.0mmの範囲に形成し、且つ、φ10.5mm〜φ11.0mmの内周領域を定濃度領域とすると共に、φ11.0mm〜φ12.0mmの径方向寸法領域では、内周側から外周側に向かって漸次的に色濃度を低下させた領域を有したパターンが形成されるように、着色ドット26の密度を径方向で異ならせた。それ以外は、実施例1と同様にして色付コンタクトレンズを得た。
【0077】
[実施例3]
色素成分として、実施例1の重合性色素(1、4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−アントラキノン)1.0質量部に代えて、紺青色を呈する国際公開第2009/044853号パンフレットの[0041]に記載の公知の重合性のアゾ系色素1.0質量部を採用した。それ以外は、実施例1と同様にして、色付コンタクトレンズを得た。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
上記の表1,表2に示した実験結果からも、本発明に従う構造とされた色付コンタクトレンズを装用することにより、主観的にも客観的にも、自然な印象を保ちつつ、装用に伴う眼の印象の変化が有効に実現されることが認められる。なお、表中、nは評価数(人数)を表わす。
【0081】
また、かかる眼の印象の変化が、清涼感や清潔感を抱かせるコスメティック効果を併せ持つことは、文言にて客観的評価を行い難いことから、上記実験結果には反映されていないが、このことは、図10〜12において例示的に示す、装用時の写真からも客観的に認められるところである。なお、これら図10〜12では、装用者の左目(図に向かって右側)に上記実施例1の色付コンタクトレンズを装用すると共に、右目(図に向かって左側)に上記比較例の市販コンタクトレンズを装用した状態を、正面から写真撮影したものである。比較例である右目では、黒目の外縁から外周側にはみ出したコンタクトレンズの着色部分のくっきりした境界ラインが黒目と白目の境界線として見えるが、それが余りにくっきりしているので人工的に見えるのに対して、実施例である左目では、自然な移行領域が形成されて、それが青又は緑系であることと相俟って、自然な感じで清涼感を伴って見えることが判る。
【0082】
因みに、これら図10〜12に示された左目の実施例の装用状態における黒目と白目の境界部分は、図13に参考的に示した子供の目の写真において黒目と白目の境界部分に比して、それに近い外観を与え得ることが認められる。
【0083】
加えて、着色部分の外縁(境界ライン)がくっきりした従来構造の比較例では、図10〜12のように斜め方向を見ることで角膜が上下眼瞼間で隅方に位置した際、コンタクトレンズの幾何中心が角膜中心からずれることに伴って、装用者の見ている方向(実際の角膜中心)と外観上で他者から見て装用者が見ていると思われる方向(コンタクトレンズの着色部分の中心)とがずれてしまい、他者から見て異様な感じを受けるおそれがある。このことは、図10〜12において、装用者の左目は斜め方向を見ていることが判るのに対して、装用者の右目が略正面を見ているように見えてしまうことからも看取できる。本発明の実施品では、着色帯の外縁がくっきりしていないことによって、色付コンタクトレンズの幾何中心が角膜中心からずれた場合における他者から見た視線方向のずれが抑えられる。
【0084】
なお、色付コンタクトレンズの幾何中心が角膜中心からずれた場合における他者から見た視線方向のずれを一層効果的に抑えるには、装用者における角膜外周縁である黒目の境界線(リンバル)を他者が見えるように、着色帯を着色透明とすることが好適である。即ち、着色帯における可視光線(波長が380〜780nmの光線)の透過率:Tt(Tt=T2(透過全光量)/T1(入射光量))を、その全体平均において30〜99%とすることが好ましく、より好適には50〜90%とされる。
【0085】
[実施例4]
本実施例では、以下の手法により、着色層の前後両面側にそれぞれ透明層が形成された積層構造の色付コンタクトレンズを得た。
【0086】
先ず、着色剤を調製した。即ち、緑色を呈する顔料である酸化クロム(III)100重量部、分散剤としてシリカ10重量部、バインダー剤として2−ヒドロキシエチルメタクリレート100重量部及び重合開始剤としてベンゾインメチルエーテルを1重量部入れ、均一に分散する程度まで激しく混合し分散させ、ペースト状の着色剤を得た。
【0087】
次いで、前記図5のパターンがエッチングされている鋼板を使用して、ドットの当該パターンの印刷用パッドを準備した。即ち、鋼板の表面にエッチングで形成したドットパターンに前記着色剤を充填した後、シリコン製の印刷用パッドを鋼板の表面に重ね合わせてドットパターンの着色剤を印刷用パッドに写し取った。
【0088】
一方、レンズ形成材として、2−ヒドロキシエチルメタクリレート100重量部及びベンゾインメチルエーテル1重量部からなるレンズモノマーを用い、モールド成形によって中心厚さが約50μmの球冠形状を有するレンズ半成形物Aを得た。そして、ミシマ株式会社製のパッドプリント装置「SPACE PAD」を用いて、かかるレンズ半成形物Aの凹面側に、上記印刷用パッドを重ね合わせてドットパターンの着色剤を転写することによってパッド印刷を行った。更に、ウシオ電機株式会社製の紫外線照射器「UVスポットキュア SP−3」(登録商標)を用いて、上記レンズ半成形物Aの凹面に印刷した着色剤を硬化させて印刷工程を完了した。
【0089】
その後、ドットパターンを印刷したレンズ半成形物Aの凹面に対して、2−ヒドロキシエチルメタクリレート100重量部及びベンゾインメチルエーテル1重量部からなるレンズモノマーを流し込み、モールド成形によって、レンズ半成形物Aの凹面に沿って広がる球冠形状のレンズ半成形部Bを形成した。
【0090】
このようにして形成された本実施例の色付コンタクトレンズにあっては、パッド印刷で形成された着色層をレンズの厚さ方向で挟んだ前後両面側に、レンズの半成形物Aとレンズの半成形物Bによってそれぞれ透明層が形成されて、着色層が包埋された構造とされており、正面視では、図5に示すように目的とする着色帯22が形成されていることを確認できた。
【符号の説明】
【0091】
10,30,32,34,36,38,40,44:色付コンタクトレンズ、12:黒目、14:白目、16:境界線、22:着色帯、25:外周透明領域(非着色領域)、26:着色ドット、31:定濃度領域、41,46:虹彩パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装用される眼の黒目と白目の境界線を跨いで内周側と外周側に広がる環状の着色帯を有しており、該着色帯の内周縁が黒目に重なると共に該着色帯の外周縁が白目に重なるようになっている一方、該白目に重なる該着色帯の少なくとも外周縁部において濃度が内周側から外周側に向かって低下していることを特徴とする色付コンタクトレンズ。
【請求項2】
前記着色帯が、色相として青と緑の少なくとも一方を含む請求項1に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項3】
前記着色帯が着色ドットで形成されており、該着色ドットの数、着色ドット間距離、着色ドットの大きさ、着色ドット自体の濃度から選択される少なくとも1種類を異ならせることによって該着色帯における濃度が径方向で異ならされている請求項1又は2に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項4】
前記着色帯の内側に虹彩パターンが描かれている請求項1〜3の何れか1項に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項5】
前記着色帯の内周部分に濃度が一定とされた定濃度領域を有する請求項1〜4の何れか1項に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項6】
前記定濃度領域が3.0mm未満の径方向幅で形成されている請求項5に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項7】
前記定濃度領域が1.0mm以下の径方向幅で形成されている請求項6に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項8】
前記定濃度領域が着色ドットで形成されており、該定濃度領域を構成する着色ドットは何れも同じ大きさおよび色を有する着色ドットである請求項5〜7の何れか1項に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項9】
着色ドットをレンズ周方向に配列した円形配列ラインが,レンズ径方向に複数本設けられることによって、前記着色帯が形成されていると共に、
該着色ドットの数と着色ドット間距離と着色ドットの大きさと着色ドット自体の濃度との少なくとも一つを異ならせた複数種類の該円形配列ラインが採用されている請求項1〜8の何れか1項に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項10】
前記円形配列ラインが着色ドットで構成されており、着色ドットの数、着色ドット間距離、着色ドットの大きさ、着色ドット自体の濃度から選択される少なくとも1種類を異ならせることによって異なる濃度の円形配列ラインが構成されている、請求項9に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項11】
少なくとも3種類の異なる濃度を有する前記円形配列ラインを有しており、且つ、少なくとも2本の円形配列ラインが同じ濃度で隣り合って設けられている請求項10に記載の色付コンタクトレンズ。
【請求項12】
前記円形配列ラインにおいて、最内周側の円形配列ラインから最外周側の円形配列ラインまでの幅が3.0mm以下である、請求項9〜11の何れか1項に記載の色付コンタクトレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−65059(P2013−65059A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−7825(P2013−7825)
【出願日】平成25年1月18日(2013.1.18)
【分割の表示】特願2012−521309(P2012−521309)の分割
【原出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】