説明

色収差の矯正を変化させるIOL

眼科用レンズは、450nmより小さい波長を有する可視光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタを含む。また、レンズは、550nmを上回る第1の波長範囲の可視光に対する焦点を生成し、第1の波長範囲の入射可視光に対して、縦方向の色収差を1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合された第1の回折構造も含む。レンズはまた、半径方向の第1の回折構造の外側にあり、450nmと550nmとの間の第2の波長範囲の可視光に対する焦点を生成するように適合された第2の回折構造も含む。また、第2の回折構造は、第1の回折構造より大きい量において、第1の波長範囲の縦方向の色収差を許容する一方で、第2の波長範囲の入射可視光に対する縦方向の色収差を、1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年6月9日に出願された、米国仮出願番号第61/185,510号の優先権を主張し、その内容は、参照することによって本出願に組み込まれる。
【0002】
本出願は、本出願が優先権を主張する出願と同日に出願された、出願番号第61/185,512号の優先権を主張する、同時係属中の出願番号第12/780,244号、タイトル「中央単焦点回折領域を伴う、ゾーン回折多焦点眼内レンズ」に関連する。
【0003】
本発明は、概して眼科用レンズに関し、より具体的には、色収差に補償を提供する眼内レンズ(IOL)に関する。
【背景技術】
【0004】
眼内レンズは、白内障手術によって、曇った生まれついての水晶体を置き換えるために、日常的に採用される。他の場合には、眼内レンズは、患者の視力を改善するために、生まれついての水晶体を保持しつつ、患者の目に埋め込むことができる。単焦点IOLおよび多焦点IOLの両方が知られている。単焦点IOLが、単一の焦点力を提供する一方で、多焦点IOLは、偽調節として一般に知られる、ある程度の遠近調節を提供するように、複数(通常2つ)の焦点力を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,470,932号
【特許文献2】米国特許第5,543,504号
【特許文献3】米国特許第4,655,565号
【特許文献4】米国特許第5,699,142号
【特許文献5】米国特許第5,117,306号
【特許文献6】米国特許第7,441,894号
【特許文献7】米国特許第7,481,532号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多くの従来のIOLは、そこに入射する光エネルギーを患者の網膜上に集中させる効率を低下させ得る、色収差を呈する。このような従来のIOLは、通常、レンズに固有のおよび/または患者の目の視覚系に存在する、色収差に対処するように設計されていない。
【0007】
従って、従来のIOLと比較して改善された性能を伴う、強化された眼科用レンズ、具体的には、IOLへの継続的なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特定の実施形態では、眼科用レンズは、450nmより小さい波長を有する可視光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタを含む。また、レンズは、550nmを上回る第1の波長範囲の可視光に対する焦点を生成し、第1の波長範囲の入射可視光に対して、縦方向の色収差を1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合された第1の回折構造も含む。レンズはまた、半径方向の第1の回折構造の外側にあり、450nmと550nmとの間の第2の波長範囲の可視光に対する焦点を生成するように適合された第2の回折構造も含む。また、第2の回折構造は、第1の回折構造より大きい量において、第1の波長範囲の縦方向の色収差を許容する一方で、第2の波長範囲の入射可視光に対する縦方向の色収差を、1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合される。
【0009】
別の実施形態では、IOLを製造する方法は、550nmを上回る第1の波長範囲の可視光に対する焦点を生成し、第1の波長範囲の入射可視光に対して、縦方向の色収差を1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合された第1の回折構造用の第1の外形を決定するステップを含む。方法はまた、半径方向の第1の回折構造の外側にあり、450nmと550nmとの間の第2の波長範囲の可視光に対する焦点を生成するように適合された第2の回折構造用の第2の外形を決定するステップも含む。また、第2の回折構造は、第1の回折構造より大きい量において、第1の波長範囲の縦方向の色収差を許容する一方で、第2の波長範囲の入射可視光に対する縦方向の色収差を、1ジオプタより小さくするように減少させる。それから、方法は、第1の外形および第2の外形を伴う眼科用レンズを形成し、かつ450nmより小さい波長を有する可視光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタを組み込むステップを含む。
【0010】
別の実施形態では、IOLを製造する方法は、450nmを下回る波長を有する光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタを決定するステップを含む。また、方法は、明順応状態に対して選択される瞳孔サイズ内の半径を有する、少なくとも1つの中央回折構造用の第1の外形を決定するステップも含む。少なくとも1つの回折構造は、明所視に対する最大の視覚受容性に対応する波長範囲において、縦方向の色収差を1ジオプタより小さくなるまで矯正するように構成される。方法はさらに、第1の回折構造の半径の外側にある、光学領域に対する第2の外形を決定するステップを含む。光学領域は、縦方向の色収差を、少なくとも1つの回折構造によって許容される縦方向の色収差より大きい量において許容するように構成される。光学領域によって許容される縦方向の色収差は、明所視に対する最大の視覚受容性から、暗所視に対する最大の視覚受容性へ光エネルギーをシフトし、光学領域によって許容される縦方向の色収差は、暗所視に対する最大の視覚受容性に対応する波長範囲において1ジオプタより小さい。それから、方法は、光学フィルタ、ならびに少なくとも1つの中央回折領域および光学領域に対する第1および第2の外形を伴う、眼科用レンズを製造するステップを含む。
【0011】
以下に簡潔に論じられる図面との関連において、続く詳細な説明を参照することにより、本発明の種々の側面のさらなる理解を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】図1Aは、本発明の実施形態に従う、IOLの概略側面図を示す。
【図1B】図1Bは、図1Aから前表面の底部外形が差し引かれた、図1Aに描写するIOLの前表面の外形を示す。
【図2】図2は、本発明の別の実施形態に従い、IOLの周縁に延在する、複数の回折構造を有する、IOLの概略側面図を示す。
【図3】図3は、本発明の別の実施形態に従い、第1および第2の回折構造を分離する環状屈折領域を有する、IOLの概略側面図を示す。
【図4】図4は、レンズの後表面が、球面収差効果を制御するために非球面底部外形を呈する、本発明の別の実施形態に従う、IOLの概略側面図を示す。
【図5】図5は、本発明の特定の実施形態に従い、IOLを製造する方法を図示するフローチャートを示す。
【図6】図6は、本発明の特定の実施形態に従い、IOLを製造する別の例としての方法を図示するフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、概して、2つの回折構造を伴う眼内レンズを提供し、共通の焦点が、矯正を必要とする色の範囲を制限する光学フィルタと連動して使用される、2つの異なる波長範囲に色収差を提供する。第1の回折構造は、550nmを上回る比較的長い波長に、色収差の矯正を提供する一方で、第1の回折構造を囲む第2の回折構造は、より長い波長範囲では色収差を許容しながら、より短い波長範囲内で色収差の矯正を提供する。作動中、回折構造の組み合わせは、小瞳孔状態において、色収差に優れた矯正を提供する。外側回折素子は、大きい瞳孔状態では、微光状態での目の最高感度に対応して、より短い波長に色収差のない鮮明な画像を提供するように機能する。限定された範囲の光と共に、回折素子の組み合わせは、種々の照明状態下ではっきりした視覚を可能にするように、異なる波長範囲における色収差の矯正を効果的に管理する。
【0014】
続く実施形態では、本発明の種々の側面の顕著な特徴が、眼内レンズ(IOL)との関係で議論される。また、本発明の教授は、コンタクトレンズなど、他の眼科用レンズにも適用することができる。用語「眼内レンズ」およびその略称「IOL」は、目の生まれついてのレンズを置き換えるように、または、生まれついてのレンズが除去されるかどうかとは無関係に、その他の方法によって視力を増強するように、目の内部に埋め込まれるレンズを表すよう、本明細書において相互交換可能に使用される。角膜内レンズおよび有水晶体眼内レンズは、生まれついてのレンズを除去することなく、目の内部に埋め込まれてもよいレンズの例である。
【0015】
図1Aおよび1Bは、光軸OAを中心として配置される、前表面14および後表面16を有するオプティック12を含む、本発明の一実施形態に従う眼内レンズ(IOL)10を概略的に描写する。第1の回折構造18は、前表面の中央部上に配置され、単焦点構造18の外側境界(A)から、前表面の外側屈折領域19の内側境界(B)に延在する、第2の回折構造20によって囲まれる。
【0016】
図1Aに示す通り、本実施形態では、IOL10の前表面14および後表面16の両方が、概して、凸底部外形を有する。この例では、前後表面の底部外形は、レンズ本体がIOLの遠焦点光学能力に屈折的に寄与するように、湾曲している。さらに、上述の通り、前表面の外側屈折領域19は、第2の回折構造の外側境界からレンズの周縁に延在し、例えば、微光状態で、大きい瞳孔サイズ用の遠焦点光学能力に屈折的に寄与してもよい。
【0017】
代替として、前後表面の湾曲は、レンズ本体が、レンズの近焦点光学能力に屈折的に寄与するであろうように、選択することができる。他の場合、前後表面は、レンズの遠近焦点光学能力が、レンズ本体からの実質的な(もしある場合)屈折の寄与なしに、第1および第2の回折構造からの回折の寄与によるように、実質的に平坦な外形を有することができる。
【0018】
オプティックは、複数の生体適合高分子材料を含む、いずれの好適な生体適合材料から形成することができる。このような材料のいくつかの例は、限定するものではないが、Acrysof(2‐フェニルエチルアクリレートおよび2‐フェニルエチルメタクリレートの架橋共重合体)、シリコン、およびヒドロゲルとして一般に知られる商用レンズを形成するのに利用される、柔らかいアクリル樹脂材料を含む。本発明に従う技術は、有意な色分散を生成する、1.5以上の高屈折率の材料に特に好適であってもよい。好適な光学フィルタは、IOL10に対して提案される材料の中に組み込むことができる材料を含んでもよく、視力を改善させること、および/または生まれついての水晶体と類似して、潜在的に有害な波長から網膜組織を保護することで知られる範囲に対応してもよい。例えば、好適な材料は、特許文献1および特許文献2に記載するAcrysof Natural発色団であり、これら文献は参照することにより本出願に組み込まれる。図示しないものの、IOL10はまた、患者の目の中でその配置を促進することができる、複数の固定部材(例えば、ハプティック)を含むことができる。
【0019】
本発明のある実施形態の利点は、単焦点IOLが、色収差矯正から改善される視力により、純粋に屈折力のある類似の単焦点IOLよりも、薄くなる場合があることである。類似の性能を得るためには、純粋に屈折力のあるIOLは、軸外および周辺の光線に対するより優れた矯正など、より優れた屈折性能を有さなくてはならず、それには通常、より屈折力のある材料が必要とされる。色収差の矯正により、IOLの屈折特性に大幅な改良を必要とすることなく、視力を改善することができ、必要とされる屈折性材料は少なくなる。これは、より小さな切開を可能にするために、IOLの厚さを減少するように有利に活用されてもよい。さらに、色収差を矯正するように、より低い屈折率を有するものもある、複数の材料を使用する方法によって利点を提供するが、これによって、再び必要とされるレンズの材料の量が増加する。
【0020】
本発明の種々の実施形態のIOLの別の利点は、比較的低い回折力であり得る。可視波長に対するレンズ全体の色収差を均一に矯正することを試みた以前のレンズでは、回折力は、レンズの周縁でさえ、収差を矯正するために十分高い必要があり、回折素子用に高い能力を必要とした。また、レンズの公称屈折力が増加すると、色収差は対応してより大きくなり、故により大きな回折力を必要とする。Freemanの特許文献3に従い、公称能力12Dの比較的低能力レンズは、正味1ジオプタの縦方向の色収差矯正を生成するために、3.4Dの(負の)回折力を必要とするであろう。必要とされる回折力が増加すると、必要とされるエシェレット格子の数もまた増加し、回折構造によって生成される、グレアなど、より大きな視覚障害の可能性が生まれる。
【0021】
以前のレンズとの対照として、本発明の種々の実施形態は、第1の回折構造および第2の回折構造の両方の回折力を、特許文献3の教授から予想されるより少なくすることを可能にし、故に、その他の方法で矯正によって生成される場合がある負の効果なしに、色収差の矯正によって改善された視機能を提供する。例えば、縦方向の色収差は、公称能力6Dのレンズで第1の回折構造に対して2.39の回折力、21Dの公称レンズ能力で3.58の回折力、および34Dの公称レンズ能力で4.56の回折力で、中央ゾーン内では1ジオプタより小さくなるまで減少し得る。同じく、より低波長範囲内で色収差を矯正する、第2の回折構造の回折力は、比較的低くなり得る。例えば、550nmより小さい目標範囲内の縦方向の色収差は、6Dの公称レンズ能力で2.85Dの回折力、4.22Dの公称レンズ能力で3.58の回折力、および34Dの公称レンズ能力で8.00の回折力に対して、1ジオプタより小さくなるまで減少し得る。
【0022】
図1Bを参照すると、第1の回折構造18は、回折構造18が、1以上の次数に光を回折するように、複数のステップ高24によって互いから分離される、複数のエシェレット回折格子22を含む。この例では、ステップ高24は、前表面の中央(すなわち、前表面と光軸の交差)からの距離が増加するのに応じて、高さの減少を呈する。好適な境界条件は、第1の回折構造18と第2の回折構造の第1のエシェレット格子24cとの間に円滑な遷移を提供するように選択される。一般的なステップ高の選択に関するさらなる詳細は、Leeらの特許文献4に見つけることができ、同文献は全て本明細書に引用することにより組み込まれ、特に、グレアおよび/またはレンズの周縁の光と関連付けられる他の負の効果を減少させることができる方法による、回折パターンのアポディゼーションについて記載する。色収差の回折矯正に関するさらなる詳細は、Freemanの特許文献3、およびCohenの特許文献5に見つけかる場合があり、これらの文献は、本明細書に引用することにより組み込まれる。
【0023】
IOL10の第1の回折構造18は、負の縦方向の色収差を呈する。すなわち、その光学能力は、波長の増加と共に増加する(その焦点距離は、より長い波長に対して減少する)。対照的に、人間の目だけでなくIOL10によっても提供される屈折力は、波長の増加に応じて減少する光学能力(焦点距離の増加)によって特徴付けられる、正の色収差を呈する。故に、第1の回折構造は、人間の目の正の色収差、ならびに遠見および/または近見視力用のレンズそれ自体の正の色収差を補正するように適合することができる。第1の回折構造18は、比較的広い範囲の可視色に渡って最小色収差を提供するために、550nm以上の波長を含む波長範囲に対して、色収差に矯正を提供するように適合する。第1の回折構造18は、明るい照明状態の典型である、小瞳孔サイズに対応する。明るい照明状態では、色の変動に敏感である、錐体細胞として知られる視覚受容体による、有意な感覚反応がある。これらの条件下における目の視覚受容性は、「明順応」視覚(明所視)と呼ばれる。特に、高視力の要因である人間の目の窩は、550nmを上回る最高感度を伴う、2つのタイプの錐体細胞を含有する。故に、視力の点で、より厳密に色収差を矯正すること、すなわち、より長波長範囲に色収差の矯正を提供することによって、より大きな利点を得ることができる。本明細書に記載する波長範囲に渡って、1ジオプタより小さくなるまで縦方向の色収差を減少させることは、通常優れた視力を提供するのに適しており、そのため、十分な矯正の指標として、その値が本明細書で使用される。
【0024】
また、第2の回折構造20は、負の色収差矯正を呈する。しかしながら、回折構造18および20は、第2の回折構造20の色収差矯正が、第1の回折構造18よりも長くまで、色収差を波長範囲の上端に持続することを可能にする点で異なる。故に、例えば、第2の回折構造20は、450nmから550nmまでのフィルタリングされる光の範囲に、色収差を矯正してもよい。第2の回折構造20は、半径方向で第1の回折構造18の外側にあるため、その領域での矯正は、微光と関連付けられるより大きな瞳孔状態に、より密接に対応する。これらの条件下では、通常、錐体細胞を刺激するのに不十分な光しかなく、視覚は、制限された感色性を有する桿体細胞として知られる、視覚受容体によって支配されることを意味する。これらの照明条件下における目の視覚受容性は、「暗順応」視覚(暗所視)と呼ばれる。これは、色収差からの視覚障害が、具体的に桿体細胞の最高感度(およそ498nm)から遠い色に対しては、深刻ではないことを意味する。故に、第2の回折構造20の色収差矯正は、微光状態の最高感度エリアでは、それらの条件下で重要性が低い波長に対する、色収差に耐容性を示しながら、優れた視力に必要とされる光のより効果的な透過を可能にする。
【0025】
また、記載する改変物は、遠視力の改善に関連する他の修正を伴い、有利に採用されてもよい。例えば、回折構造18および20は、1つが、その範囲に改善された視覚品質を提供するために、近見視力または遠視力の焦点に光を集めるように修正されてもよい。読書または他の近見視力活動がほとんど行われない微光状態において、より多くの光エネルギーは、視力をその範囲で改善するために、第2の回折構造20によって遠い焦点に方向付けることができる。上記IOL10は、色収差矯正と合わせて使用して、改善された遠視力をも有利に提供することができる。
【0026】
上の実施形態では、第2の回折構造20は先端が切り詰められ、すなわち、レンズの周縁へは延在しない。代替の実施形態では、第1の切頂回折構造18は、レンズの外側領域の色収差を許容する一方で、IOL10の中央エリアに色収差矯正を生成するように、色収差を許容する外側屈折構造と組み合わせることができる。他の代替の実施形態では、第2の回折構造20は、レンズの周縁にまで延在することができる。例として、図2は、前表面49Aおよび後表面49Bを有するオプティック48を含むような、レンズ46を概略的に示す。前の実施形態に類似して、第1の回折構造50は、前表面49Aの中央領域上に配置され、第1の回折構造の外側境界からレンズの周縁に延在する、第2の回折構造52によって囲まれる。第2の回折構造52は、複数のステップによって互いから分離される、複数のエシェレット回折格子を含むことができ、この複数のステップ高は、実質的に均一な高さ、または上で論じたようにアポダイズされた高さを有することができる。この場合、第2の回折構造52と関連付けられるステップは、前表面の中央からの距離の増加に応じて減少する高さを呈する。
【0027】
図3は、前表面58および後表面60を伴うオプティック56を有する別の実施形態に従う、IOL54を概略的に示す。第1の回折構造62は、前表面の中央部上に配置される。前表面はさらに、環状屈折領域66によって第1の回折構造62から分離される、第2の回折構造64を含む。外側屈折領域68は二焦点構造を囲む。
【0028】
いくつかの実施形態では、ある程度の非球面性は、球面収差効果を回復するために、IOLの前表面および/または後表面の底部外形に分け与えることができる。例として、図4は、光軸OAを中心として配置される、前表面74および後表面76を有するオプティック72を含むような、IOL70を概略的に示す。前の実施形態に類似して、第1の回折構造78は、前表面74の中央領域上に配置される一方、環状領域の形状にある第2の回折構造80は、第1の回折構造を囲む。後表面の底部外形は、この場合、後表面と光軸の交差として定義される、後表面の中央からの距離の増加に応じて、偏差が徐々に増加し、推定球面外形(破線で示す)から逸脱する。いくつかの実施形態では、後表面の底部外形の非球面性は、円錐定数によって特徴付けることができる。非球面性は、IOLが呈する球面収差を変化させる、および/または予測される角膜の球面収差をある程度まで埋め合わせることができる。本実施形態では、後表面の底部外形は、ある程度の非球面性を呈するように適合されるが、他の実施形態では、このような非球面性は、前表面または両表面に分け与えることができ、回折構造18および20は、片方または両方の表面上に重畳されてもよい。また、非球面外形が、ある半径内の第1の多項式、およびその半径の外側の第2の多項式によって定義されてもよいように、非球面上に変化する非球面湾曲を有することも可能であり、その半径は、所望する場合、第1の回折構造18および/または第2の回折構造20の半径と一致し得る。また、底面曲線は、より高次の非球面性を含んでもよい。
【0029】
図5は、本発明の特定の実施形態に従い、IOLを製造する例としての方法を示す、フローチャート100である。ステップ102では、短波長光のフィルタリングに対する制限が決定される。典型的な例では、この制限は、IOLに対して提案される材料の中に組み込むことができる、既知の光学フィルタに対応してもよく、視力を改善するとして知られ、かつ、例えば、450nmより短い波長を伴う光をフィルタリングして除去するといった、生まれついての水晶体に類似する範囲に対応してもよい。ステップ104では、当業者には明らかであろういずれの好適な変形物と共に、本明細書に記載する種々の実施形態のいずれにも従い、550nmを上回る色収差の矯正を提供する、第1の回折構造用の外形が決定される。特に、第1の回折外形の決定では、所望の能力、前表面および/または後表面に対する好適な底面曲線、片方または両方の表面に分け与えられる、非球面性または他の収差矯正などを考慮に入れることができる。
【0030】
ステップ106では、550nmより大きい波長に対する色収差を許容する一方で、550nmより小さい波長に対する色収差の矯正を提供する、第2の焦点回折構造用の外形が決定され、その外形は、当業者には明らかであろういずれの好適な変形物と共に、本明細書に記載する種々の実施形態のいずれに従っていてもよい。特に、第2の回折外形の決定には、所望の能力、前表面および/または後表面に対する好適な底面曲線、片方または両方の表面に分け与えられる、非球面性または他の収差矯正などを考慮に入れることができる。ステップ108では、ステップ102で選択された特性を伴う光学フィルタと共に、ステップ104および106で決定されたそれぞれの外形を有する第1および第2の回折構造を伴うIOLが製造される。好適な製造技術は、IOL材料への組み込みなど、光学フィルタをIOLの中に提供するためのいずれの技術と共に、成形、切除、および/または旋盤加工を含むがそれらに限定されない、材料に好適な形成のいずれの方法を含んでもよい。
【0031】
図6は、本発明の特定の実施形態に従い、IOLを製造する例としての方法を図示する別のフローチャート200である。ステップ202では、IOLの光学フィルタに対する短波長の制限が決定される。ステップ204では、第1の回折構造用の外形が決定される。外形は、明所視に対する視覚の最高受容性の辺りで、光強度を最大化するために、色収差を矯正する。ステップ206では、第1の回折構造の外側にある第2の回折構造用の外形が決定される。外形は、最高感度から遠い波長の色収差を許容する一方で、暗所視に対する視覚の最高受容性の辺りで、光強度を最大化するために、色収差を矯正する。ステップ208では、光学フィルタ、ならびに第1および第2の回折構造を伴うIOLが製造される。好適な製造技術は、IOL材料への組み込みなど、光学フィルタをIOLの中に提供するためのいずれの技術と共に、成形、切除、および/または旋盤加工を含むがそれらに限定されない、材料に好適な形成のいずれの方法を含んでもよい。
【0032】
図6に示す方法の変形では、第1および第2の回折構造によって覆われる相対的エリアは、回折構造のそれぞれの彩度の頂点の間のように、可視光のエネルギーをシフトするように調整することができる。このような調整により、それぞれ明順応および暗順応範囲への、光エネルギーのより効率的な伝達を可能にすることができる。調整は、Hongらの特許文献6および特許文献7に記載される、焦点間に光エネルギーをシフトするための技術に類似する場合があり、これら文献は本明細書に引用することにより組み込まれるが、この場合、エネルギーシフトは、波長に応じる相対的光強度に基づく。
【0033】
別の実施形態では、屈折力のみがある外側領域を許容しながら、類似の効果を、第1の回折構造18のみの境界を変化させることによって生成することができ、第2の回折構造用の外形の決定を、第1の回折構造の外側にある屈折性外形の決定と置き換える。このような実施形態では、第1の回折構造18は依然として、明順応状態に対応する瞳孔サイズに対して、IOLの中央領域の色収差を矯正するが、第1の回折構造18は、屈折力と組み合わせる際に、オプテッィクの残余部に入る光からの色収差により、明所視に対する視覚の最高受容性から、暗所視に対する視覚の最高受容性へと光エネルギーをシフトするように、ある半径で先端が切り詰められる。暗所視に対する最高感度での波長に対する人間の目の反応は、わずかに近視性になる傾向があるため、能力のわずかなシフトにより、暗所視の波長範囲で光強度を増加させるように、光を集めるのを助けることができる。故に、色収差を、レンズ全体に対して矯正する必要はない。むしろ、オプテッィク全体の色収差が考慮される時、色収差矯正の必要性のみにより、大瞳孔状態での優れた暗所視を可能にしながら、明所視に十分な矯正を提供する。この仕様のため、明所視向けの最高視覚感度に対する範囲は、580nm±30nmであり、暗所視向けの最高視覚感度に対する範囲は、505nm±30nmである。
【0034】
当業者は、本発明の範囲から逸脱しない限り、種々の変更を上の実施形態に成すことができることを理解するであろう。例えば、単一レンズ表面上に第1および第2の回折構造の両方を配置させるよりむしろ、1つの構造をレンズの前表面上に、他方の構造をその後表面上に配置することができる。また、第1および第2の回折構造を超えるさらなる回折構造が含まれてもよい。さらに、前後表面の底部外形は、レンズ本体が、IOLの近焦点光学能力に屈折的に寄与するであろうように構成することができる。このような変形例、および当業者に明らかなその他は、主張する本発明の範囲に入ることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
450nmより小さい波長を有する可視光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタと、
550nmを上回る第1の波長範囲の可視光に対する焦点を生成し、前記第1の波長範囲の入射可視光に対して、1ジオプタより小さい縦方向の色収差を減少させるように適合された第1の回折構造と、
半径方向の前記第1の回折構造の外側にあり、前記第1の回折構造より大きい量において、前記第1の波長範囲の縦方向の色収差を許容する一方で、450nmと550nmとの間の第2の波長範囲の可視光に対する焦点を生成し、前記第2の波長範囲の入射可視光に対する縦方向の色収差を、1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合された第2の回折構造と、を具備する眼科用レンズ。
【請求項2】
前記第1の回折構造の回折効率が、580nmの設計波長に対して100%である請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項3】
前記第2の回折構造の回折効率が、505nmの設計波長に対して100%である、請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項4】
当該眼科用レンズが最大6Dの全体能力を有し、前記第1の回折構造および前記第2の回折構造各々が3Dより少ないそれぞれの回折力を有する請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項5】
前記レンズが最大21Dの全体能力を有し、前記第1の回折構造および前記第2の回折構造各々が4.25Dより少ないそれぞれの回折力を有する請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項6】
前記光学フィルタが紫外線吸収材料を含む請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項7】
前記眼科用レンズが、2‐フェニルエチルアクリレートおよび2‐フェニルエチルメタクリレートの架橋共重合体から形成される請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項8】
前記第1の回折構造の前記焦点が、前記第2の回折構造の前記焦点と一致する請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項9】
前記第2の回折構造の前記焦点が、遠視力の焦点である請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項10】
前記第1の回折構造が半径少なくとも2mmにまで延在し、前記第2の回折構造が半径少なくとも3mmにまで延在する請求項1に記載の眼科用レンズ。
【請求項11】
550nmを上回る第1の波長範囲の可視光に対する焦点を生成し、前記第1の波長範囲の入射可視光に対して、1ジオプタより小さい縦方向の色収差を減少させるように適合された第1の回折構造用の第1の外形を決定するステップと、
半径方向の前記第1の回折構造の外側にあり、前記第1の回折構造より大きい量において、前記第1の波長範囲の縦方向の色収差を許容する一方で、450nmと550nmとの間の第2の波長範囲の可視光に対する焦点を生成し、前記第2の波長範囲の入射可視光に対する縦方向の色収差を、1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合された第2の回折構造用の第2の外形を決定するステップと、
前記第1の外形および前記第2の外形を伴う眼科用レンズを形成し、かつ、450nmより小さい波長を有する可視光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタを組み込むステップと、を含む眼科用レンズを製造する方法。
【請求項12】
前記第1の回折構造の回折効率が、580nmの設計波長に対して100%である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第2の回折構造の回折効率が、505nmの設計波長に対して100%である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記レンズが最大6Dの全体能力を有し、前記第1の回折構造および前記第2の回折構造各々が3Dより少ないそれぞれの回折力を有する請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記レンズが最大21Dの全体能力を有し、前記第1の回折構造および前記第2の回折構造各々が4.25Dより少ないそれぞれの回折力を有する請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記光学フィルタが紫外線吸収材料を含む請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記眼科用レンズが、2‐フェニルエチルアクリレートおよび2‐フェニルエチルメタクリレートの架橋共重合体から形成される請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の回折構造の前記焦点が、前記第2の回折構造の前記焦点と一致する請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の回折構造の前記焦点が、遠視力の焦点である請求項11に記載の方法。
【請求項20】
450nmから650nmまでのフィルタリングされる波長範囲を下回る波長を有する光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタと、
光を前記フィルタリングされる波長範囲のままにするために焦点を生成し、前記フィルタリングされる波長範囲の入射可視光に対して、縦方向の色収差を1ジオプタより小さくなるまで減少させるように適合された少なくとも1つの回折構造と、を具備する眼科用レンズ。
【請求項21】
450nmを下回る波長を有する光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタと、
明順応状態に対して選択される瞳孔サイズ内の半径を有する、少なくとも1つの中央回折構造であって、明所視に対する最大の視覚受容性に対応する波長範囲において、1ジオプタより小さくなるまで縦方向の色収差を矯正するように構成される少なくとも1つの回折構造と、
前記第1の回折構造の前記半径の外側の光学領域であって、前記光学領域は、縦方向の色収差を、前記少なくとも1つの回折構造によって許容される前記縦方向の色収差より大きい量において許容するように構成され、前記光学領域によって許容される前記縦方向の色収差は、明所視に対する最大の視覚受容性から、暗所視に対する最大の視覚受容性へ光エネルギーをシフトし、前記光学領域によって許容される前記縦方向の色収差は、前記暗所視に対する最大の視覚受容性に対応する波長範囲において1ジオプタより小さい、光学領域と、を具備する眼科用レンズ。
【請求項22】
前記光学領域が、当該眼科用レンズの屈折領域である請求項21に記載の眼科用レンズ。
【請求項23】
前記光学領域が、前記明所視に対する最大の視覚受容性に対応する前記波長範囲において、前記少なくとも1つの中央回折構造より大きい度合いまで色収差を許容する第2の回折構造を有する請求項21に記載の眼科用レンズ。
【請求項24】
前記少なくとも1つの中央回折構造および前記第2の回折構造によって被覆される相対的エリアが、前記暗所視に対する最大の視覚受容性への前記光エネルギーのシフトを、少なくとも部分的に生成する請求項23に記載の眼科用レンズ。
【請求項25】
前記光学領域の屈折力が、暗所視に対する近視シフトを補正するために、光に焦点を当てるよう調整される請求項23に記載の眼科用レンズ。
【請求項26】
眼科用レンズを製造する方法であって、
450nmを下回る波長を有する光を、少なくともフィルタリングして除去するように使用可能な光学フィルタを決定するステップと、
明順応状態に対して選択される瞳孔サイズ内の半径を有する、少なくとも1つの中央回折構造用の第1の外形を決定するステップであって、前記少なくとも1つの回折構造は、明所視に対する最大の視覚受容性に対応する波長範囲において、1ジオプタより小さくなるまで縦方向の色収差を矯正するように構成されるステップと、
前記第1の回折構造の前記半径の外側の光学領域に対する第2の外形を決定するステップであって、前記光学領域は、縦方向の色収差を、前記少なくとも1つの回折構造によって許容される前記縦方向の色収差より大きい量において許容するように構成され、前記光学領域によって許容される前記縦方向の色収差は、明所視に対する最大の視覚受容性から、暗所視に対する最大の視覚受容性へ光エネルギーをシフトし、前記光学領域によって許容される前記縦方向の色収差は、前記暗所視に対する最大の視覚受容性に対応する波長範囲において1ジオプタより小さいステップと、
前記光学フィルタ、および、前記少なくとも1つの中央回折領域および前記光学領域に対する前記第1および第2の外形を有する前記眼科用レンズを製造するステップと、を含む方法。
【請求項27】
前記第1の外形を決定する前記ステップが、前記第2の外形を決定すると同時に、前記中央回折構造に対する前記半径を決定するステップを含む請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記暗所視に対する最大の視覚受容性への前記光エネルギーのシフトを、少なくとも部分的に生成するように、前記少なくとも1つの中央回折構造および前記第2の回折構造によって被覆される相対的エリアを決定するステップをさらに含む請求項27に記載の方法。
【請求項29】
暗所視に対する近視シフトを補正するために、光に焦点を当てるよう調整されるように、前記光学領域の屈折力を決定するステップをさらに含む請求項25に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−529671(P2012−529671A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515002(P2012−515002)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/037371
【国際公開番号】WO2010/144315
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】