説明

色相が改善された4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の製造方法

【課題】色相が改善された4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の提供。
【解決手段】N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの存在下に6−tert−ブチル−3−メチルフェノールとn−ブチルアルデヒドを反応させて得られる、純度が99.6%以上で色相(APHA)が10以下であり、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの含有量が1ppm未満であることを特徴とする、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)(以下、本品ともいう。)の製造方法に関する。詳しくは、経時劣化を起こしやすく、また、着色しやすい本品に、製造時にN,N−ジエチルヒドロキシルアミン(以下、DEHAともいう。)を作用させることによって色相を改善する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルキリデンビスフェノール化合物は、合成ゴム・ABS等の酸化防止剤として使用されており、また、特に最近では透明性が高いポリカーボネート樹脂用の原料として、高純度で色相の優れたアルキリデンビスフェノール化合物が要求されている。更に具体的には、ポリカーボネート樹脂用の原料として、色相(APHA)が50以下、純度が99.0%以上のものが要求されている。
【0003】
従来より、アルキリデンビスフェノール化合物は、フェノール類とアルデヒド類を酸性触媒下で反応させて得られることが知られている。このような方法で製造されたアルキリデンビスフェノール類は著しい着色を呈するか、又は製造直後は一見無色でも長期保存しておくと着色して商品価値を低めてしまう。
【0004】
また、原料フェノールとアルデヒド類を当モルで反応すると、製品の色相は悪化する。これらの問題を解決するために、アルキリデンビスフェノール化合物の製造は、フェノールを大過剰量用い、製品の色相を改善する方法が一般的に用いられている。しかし、この方法は、過剰量のフェノールを回収する工程が必要であり、原料フェノールのロスの発生及び作業時間の長期化等を考慮すると経済性に優れているとはいえない。
【0005】
その他の改善方法として、得られるビスフェノール化合物の酢酸を用いたアルキリデンビスフェノールの精製方法(例えば、特許文献1)が提案されているが、本品は酢酸をはじめとする脂肪族カルボン酸への溶解度が低いために容積効率が悪く、また、製造設備を腐食するといった新たな問題がでてくる。また、反応後の粗体にヒドロキシルアミン類を作用させてビスフェノール化合物を精製する方法(例えば、特許文献2)が提案されているが、色相を改善する効果は得られるものの、原料フェノールを大過剰量使用しているために回収工程が必要であり、多量のロスが発生するので経済性に優れず、ヒドロキシルアミン類が本品中に残存すると次工程のポリカーボネート化反応を阻害するという問題があった。また、ビスフェノール化合物にリン化合物を添加することによる精製法(例えば、特許文献3)は、本品に対しては十分な効果が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭49−10498号公報
【特許文献2】特開平8−3088号公報
【特許文献3】特開平11−100341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題を解消し得る、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の色相を改善するための4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、本品の製造工程における原料仕込み時に原料フェノールと同時にN,N−ジエチルヒドロキシルアミンを添加して反応を行うことにより、原料フェノールの使用量が当モルであっても、色相が改善された4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)純度が99.6%以上で色相(APHA)が10以下であり、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの含有量が1ppm未満であることを特徴とする、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、
(2)キノン系着色原因物質の生成が抑制されている、又はキノン系着色原因物質が還元されていることを特徴とする、上記(1)に記載の4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、
(3)キノン系着色原因物質が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする、上記(2)に記載の4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、
【0010】
【化1】

【0011】
及び
(4)6−tert−ブチル−3−メチルフェノール100重量部に対して0.05〜1.0重量部のN,N−ジエチルヒドロキシルアミンの存在下に、6−tert−ブチル−3−メチルフェノールとn−ブチルアルデヒドを反応させることにより製造されたものであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール) の製造工程における原料フェノールを仕込む際にN,N−ジエチルヒドロキシルアミンを添加することにより、色相が改善され、安定性が向上した本品を得ることができる。また、得られた本品中には回収工程を導入しなくてもN,N−ジエチルヒドロキシルアミンは残存しないため、本品を用いた製品へ悪影響を及ぼすこともない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明する。
4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)を製造する方法は、まずアルコール系の水溶性溶媒に溶解した6−tert−ブチル−3−メチルフェノール100重量部に対してN,N−ジエチルヒドロキシルアミンを0.05重量部以上、好ましくは0.05〜1.0重量部、更に好ましくは0.08〜0.12重量部、とりわけ好ましくは0.1重量部を作用させる。この後、酸性触媒存在下、n−ブチルアルデヒドを滴下して反応を行う。反応終了後、反応液を中和し、濾過により粗体を取り出す。そして、取り出した粗体をアルコール系の水溶性溶媒100重量部に溶解させた後、水を0〜50重量部、好ましくは20〜40重量部加えて結晶を析出させ、濾過・乾燥することで、着色防止された4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)が得られる。
【0014】
本発明において、アルコール系の水溶性溶媒とは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が使用可能であり、好ましくはメタノールである。
【0015】
本発明において酸性触媒とは、塩酸、硫酸等の無機酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機スルホン酸であり、好ましくはp−トルエンスルホン酸である。
【0016】
上記反応工程における温度条件は、特に限定されるわけではないが、30〜80℃、好ましくは65〜75℃である。
【0017】
N,N−ジエチルヒドロキシルアミンは、上記反応工程中、主に原料由来の不純物から副生すると考えられる、式(1):
【0018】
【化2】

【0019】
で表わされる化合物等のキノン系着色原因物質の生成を抑制する、若しくは還元する効果がある。
【0020】
なお、着色原因化合物は製品中で、安定であるため、製造時の精製による除去が困難である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0022】
<純度測定法>
純度の評価は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて、以下の条件で求めた。
カラム:ODS 6mm×150mm
移動層:メタノール/水(70/30)→(グラジェント)→メタノール/水(20分後95/5)
流量:0.8mL/分
検出波長:280nm
<色相測定法>
色相の評価は、日本電色工業(株)製OME2000を用い、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)の10%メタノール溶液のハーゼン色指数を求めた。本品中のN,N−ジエチルヒドロキシルアミンの定量分析は、ガスクロマトグラフィー(GC法)にて、以下の条件で行った。
カラム:DB−WAX 30m×0.32mm×0.5μm
オーブン温度:50℃→10℃/min→240℃
流量:2ml/分、注入口温度:200℃、注入量:1μL
検出器:NPD、検出器温度:250℃
【0023】
[実施例1]
6−tert−ブチル−3−メチルフェノール297g、p−トルエンスルホン酸1水和物63g、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン3g、メタノール144gを4つ口フラスコに仕込み、75℃に昇温した。70〜80℃に保ちながら、n−ブチルアルデヒド64gをゆっくりと滴下した。滴下終了4時間後、25%水酸化ナトリウム水溶液40gで中和し、30℃まで冷却した後に濾過を行った。得られた粗結晶278.5gをメタノール500gに溶解させて温度を75℃に保ち、水270gをゆっくりと滴下した。滴下終了後、30℃まで冷却し、濾過・乾燥して4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)258.8gを得た。純度99.6%、色相(APHA)15、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの定量分析は未検出(定量下限値:1ppm)であった。また、濾過母液から6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの蒸留回収を試みたが、残存量が少ないために回収できなかった。
【0024】
[実施例2]
6−tert−ブチル−3−メチルフェノール297g、p−トルエンスルホン酸1水和物63g、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.3g、メタノール144gを4つ口フラスコに仕込み、実施例1と同様の方法にてその製造及び精製を行った。4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)258.8gを得た。純度99.6%、色相(APHA)10、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの定量分析は未検出(定量下限値:1ppm)であった。
【0025】
[実施例3]
6−tert−ブチル−3−メチルフェノール297g、p−トルエンスルホン酸1水和物63g、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.15g、メタノール144gを4つ口フラスコに仕込み、実施例1と同様の方法にてその製造及び精製を行った。4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)を253.4g得た。純度99.5%、色相(APHA)40であった。また、濾過母液から6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの蒸留回収を試みたが、残存量が少ないために回収できなかった。
【0026】
[比較例1]
6−tert−ブチル−3−メチルフェノール297g、p−トルエンスルホン酸1水和物63g、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン0.03g、メタノール144gを4つ口フラスコに仕込み、実施例1と同様の方法にてその製造及び精製を行った。4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)を259.5gを得た。純度99.0%、色相(APHA)220であった。
【0027】
[比較例2]
6−tert−ブチル−3−メチルフェノール297g、p−トルエンスルホン酸1水和物63g、メタノール144gを4つ口フラスコに仕込み、実施例1と同様の方法にてその製造及び精製を行った。4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)を256.1g得た。純度98.8%、色相(APHA)290であった。また、濾過母液から6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの蒸留回収を試みたが、残存量が少ないために回収できなかった。
【0028】
[比較例3]
6−tert−ブチル−3−メチルフェノール401g、p−トルエンスルホン酸1水和物63g、メタノール144gを4つ口フラスコに仕込み、実施例1と同様の方法にてその製造及び精製を行った。4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)を271.9g得た。純度99.6%、色相(APHA)15であった。また、濾過母液から回収した6−tert−ブチル−3−メチルフェノールは120.6g(回収率30%)であった。
【0029】
実施例1〜3及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1〜3、比較例1〜2は6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの使用量は1.0当量であり、本品製造後の6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの回収工程が不要となった。比較例3は6−tert−ブチル−3−メチルフェノールを1.4当量使用していることから、本品製造後の6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの回収工程が必要である。よって、実施例1〜3、比較例1〜2では作業工程も短縮でき、コストメリットを確認できた。
さらに、実施例1〜3で得られる本品は色相、外観ともに良好である。実施例3と比較例1との比較において、DEHAの量比により、本品の着色面で大きな効果の違いがみられ、DEHAは0.05%以上必要であることが分かった。比較例2のようにDEHAの添加がない場合は本品に着色がみられる。一方、比較例3では、本品の色相、外観ともに良好であったが、原料フェノールである6−tert−ブチル−3−メチルフェノールの使用量が1.4当量の過剰量必要であるため、回収工程が必要となり、従って、コスト面で大きく不利である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法により得られた4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)は、合成ゴム・ABS等の酸化防止剤として使用でき、また、高純度で色相に優れた化合物が求められるポリカーボネート樹脂用の原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が99.6%以上で色相(APHA)が10以下であり、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの含有量が1ppm未満であることを特徴とする、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)。
【請求項2】
キノン系着色原因物質の生成が抑制されている、又はキノン系着色原因物質が還元されていることを特徴とする、請求項1に記載の4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)。
【請求項3】
キノン系着色原因物質が下記式(1)で表される化合物であることを特徴とする、請求項2に記載の4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)。
【化1】

【請求項4】
6−tert−ブチル−3−メチルフェノール100重量部に対して0.05〜1.0重量部のN,N−ジエチルヒドロキシルアミンの存在下に、6−tert−ブチル−3−メチルフェノールとn−ブチルアルデヒドを反応させることにより製造されたものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)。

【公開番号】特開2012−136548(P2012−136548A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49798(P2012−49798)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【分割の表示】特願2006−98381(P2006−98381)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(396020464)株式会社エーピーアイ コーポレーション (39)
【Fターム(参考)】