説明

色素、これを用いた光電変換素子及び光電気化学電池

【課題】高光電変換効率を達成し、しかも耐久性に優れる光電変換素子、光電気化学電池、及びそれらに用いられる色素を提供する。さらに、上記色素の製造に用いられる新規な中間体化合物及びその製造方法、これを用いた色素の製造方法を提供する。
【解決手段】式(1)MXLtで表される色素。
[式中、Mはルテニウム、オスミウム、鉄、レニウム、およびテクネチウムから選ばれた遷移金属を表す。Xは、NCS、Cl、Br、I、CN、NCO、HO、またはNCNを表す。Ltは特定のターピリジン配位子を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素、光電変換素子及び光電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は各種の光センサー、複写機、太陽電池等に用いられている。この光電変換素子には金属を用いたもの、半導体を用いたもの、有機顔料や色素を用いたもの、あるいはこれらを組み合わせたものなどの様々な方式が実用化されている。特に、非枯渇性の太陽エネルギーを利用した太陽電池は、燃料が不要であり、無尽蔵のクリーンエネルギーを利用するものとして、その本格的な実用化が大いに期待されている。この中でも、シリコン系太陽電池については古くから研究開発が進められてきており、各国の政策的な配慮もあって普及が進んでいる。しかし、シリコンは無機材料であり、スループット及び分子修飾には自ずと限界がある。
【0003】
そこで色素増感型太陽電池の研究が精力的に行われている。とくにその契機となったのは、スイス ローザンヌ工科大学のGraetzel等の研究成果である。彼らは、ポーラス酸化チタン薄膜の表面にルテニウム錯体からなる色素を固定した構造を採用し、アモルファスシリコン並の変換効率を実現した。これにより、色素増感型太陽電池が一躍世界の研究者から注目を集めるようになった。
【0004】
特許文献1には、この技術を応用し、ルテニウム錯体色素によって増感された半導体微粒子を用いた色素増感光電変換素子が記載されている。さらに、その後も光電変換効率の向上に向け、ルテニウム錯体系増感色素の開発が継続されている(特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5463057号明細書
【特許文献2】中国特許公開公報1359901号
【特許文献3】国際公開第2007/091525号パンフレット
【特許文献4】国際公開第98/50393号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2、3等の技術により、高い光電変換効率の素子が提供されてきた。しかしながら、本発明者は、グリーンエネルギーの本格的な供給源としてその一翼を担うことを見据え、その性能で十分とはせず、耐久性の向上を含むさらに高い特性を発揮する光電変換素子の開発を目指した。
上記本技術分野の現状に鑑み、本発明は、高光電変換効率を達成し、しかも耐久性に優れる光電変換素子、光電気化学電池、及びそれらに用いられる色素の提供を目的とする。さらに、本発明は、上記色素の製造に用いられる新規な中間体化合物及びその製造方法、これを用いた色素の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により解決された。
〔1〕式(1)MXLtで表される色素。
[式中、Mはルテニウム、オスミウム、鉄、レニウム、およびテクネチウムから選ばれた遷移金属を表す。Xは、NCS、Cl、Br、I、CN、NCO、HO、またはNCNを表す。Ltは式(2)を表す。]
【化1】

[式中、Rは、COOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、またはCO(NHOH)を表す。Rは、COOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、またはCO(NHOH)を表す。Laは、単結合またはアリーレン基を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基または6〜30のアリール基を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基、あるいは下記式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)、または一般式(2−5)で表される置換基を表す。]
【化2】

[式中、R11、R21、R31、R41、R42、およびR51は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、および炭素数1〜30のアミノ基のいずれかの基を含む置換基を表す。ただし、式(2−4)において、R42が炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数1〜30のアミノ基を含む置換基を表す場合、R41は水素原子であってもよい。n11は1〜5の整数を表す。n21、n51は2〜6の整数を表す。n31は1〜6の整数を表す。*は結合手を表す。]
〔2〕前記式(2)のLaが単結合である〔1〕記載の色素。
〔3〕前記式(2)のRが前記式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)または(2−5)で表される〔1〕または〔2〕に記載の色素。
〔4〕前記式(2)のRが前記式(2−2)、(2−3)、または(2−4)で表される〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の色素。
〔5〕前記式(2)のRが前記式(2−3)または(2−4)で表される〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の色素。
〔6〕前記式(2)のRが前記式(2−4)で表される〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の色素。
〔7〕〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の色素と半導体微粒子とを含む感光体層を具備する光電変換素子。
〔8〕〔7〕に記載の光電変換素子を用いた光電気化学電池。
〔9〕下記式(2’)のターピリジン化合物の製造方法であって、下記式(3)で表される化合物の置換基Halを、下記式(2’)の置換基Rに置換する工程と、下記式(3)の置換基CO101のR101をHに置換する工程とを経由するターピリジン化合物の製造方法。
【化3】

[式中、n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基、あるいは式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)、または(2−5)で表される置換基を表す。]
【化4】

[式中、R11、R21、R31、R41、R42、およびR51は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、および炭素数1〜30のアミノ基のいずれかの基を含む置換基を表す。ただし、式(2−4)において、R42が炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数1〜30のアミノ基を含む置換基を表す場合、R41は水素原子であってもよい。n11は1〜5の整数を表す。n21、n51は2〜6の整数を表す。n31は1〜6の整数を表す。*は結合手を表す。]
【化5】

[R101はアルキル基を表す。Halはハロゲン原子を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。]
〔10〕下記式(2’)で表されるターピリジン化合物を合成し、これを配位子として有する式(1’)MXLt’で表される色素を製造する方法であって、下記式(3)で表される化合物の置換基Halを下記式(2’)の置換基Rに置換する工程と、下記式(3)の置換基CO101のR101をHに置換する工程とを経由する色素の製造方法。
[式中、Mはルテニウム、オスミウム、鉄、レニウム、およびテクネチウムから選ばれた遷移金属を表す。Xは、NCS、Cl、Br、I、CN、NCO、HO、またはNCNを表す。Lt’は式(2’)を表す。]
【化6】

[式中、n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基、あるいは式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)、または(2−5)で表される置換基を表す。]
【化7】

[式中、R11、R21、R31、R41、R42、およびR51は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、および炭素数1〜30のアミノ基のいずれかの基を含む置換基を表す。ただし、式(2−4)において、R42が炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数1〜30のアミノ基を含む置換基を表す場合、R41は水素原子であってもよい。n11は1〜5の整数を表す。n21、n51は2〜6の整数を表す。n31は1〜6の整数を表す。*は結合手を表す。]
【化8】

[R101はアルキル基を表す。Halはハロゲン原子を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。]
〔11〕下記式(3)で表されるターピリジン化合物。
【化9】

[R101はアルキル基を表す。Halはハロゲン原子を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。]
【0008】
本明細書において、炭素−炭素二重結合については、分子内にE型及びZ型が存在する場合、そのいずれであってもよい。複数の置換基や配位子を同時に択一的に規定するときには、それぞれの置換基ないし配位子は互いに同一でも異なっていてもよい。また、複数の置換基や配位子が近接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の色素を用いた光電変換素子及び光電気化学電池は、高光電変換効率を達成し、しかも耐久性に優れる。また、本発明のターピリジン化合物は、新規な化合物であり、上記色素の合成原料として有用である。さらに本発明の製造方法によれば、上記色素及び中間体化合物(ターピリジン化合物)を好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の光電変換素子の一実施態様について模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の中心金属に対してターピリジンが配位した構造を有し、これにより、光電変換素子において、800nm超という長波長領域でも高いIPCEを発揮し、高光電変換効率を実現し、さらに高い耐久性を実現した。
この理由は未解明の点を含むが、推定を含めて下記のように説明できる。つまりターピリジンの2つのピリジンリガンドに付加された酸性基が半導体微粒子表面に吸着し、そこを足場にして金属錯体が起立するようにして配向することが考えられる。そうすると、ターピリジン構造の残りのピリジン環に導入された特定の機能性置換基が、突出するように配置し、電荷移動体層側に延出する。その結果、電荷移動体層から機能性置換基の側から効果的に電子を分子内に取り入れ、足場となった結合性基を通じて半導体微粒子にその電子を送り込むことができると解される。一方、上記電荷移動体層側に延出して配列した機能性置換基が、Iイオンの半導体電極への近接を抑止し、チタニアに注入された電子がIへ移動するのを防ぐ作用を示していると考えられる。また、電荷移動体層側に延出して配列した機能性置換基は、同時に水分子の半導体電極への接近を防止し、その表面からの色素の脱離を抑えたとみられる。その結果、高光電変換効率と耐久性の向上の両立を実現したと考えられる。以下に本発明についてその好ましい実施態様に基づき、詳細に説明する。
【0012】
[素子の構造]
本発明の色素を用いることができる光電変換素子の好ましい実施態様を、図面を参照して説明する。図1に示すように、光電変換素子10は、導電性支持体1、導電性支持体1上にその順序で配された、感光体層2、電荷移動体層3、及び対極4からなる。前記導電性支持体1と感光体2とにより受光電極5を構成している。その感光体2は導電性微粒子22と増感色素21とを有しており、色素21はその少なくとも一部において導電性微粒子22に吸着している(色素は吸着平衡状態になっており、一部電荷移動体層に存在していてもよい。)。感光体2が形成された導電性支持体1は光電変換素子10において作用電極として機能する。この光電変換素子10を外部回路6で仕事をさせるようにして、光電気化学電池システム100として作動させることができる。
【0013】
受光電極5は、導電性支持体1および導電性支持体上に塗設される色素21の吸着した半導体微粒子22を含む感光体層(半導体膜)2よりなる電極である。感光体層(半導体膜)2に入射した光は色素を励起する。励起色素はエネルギーの高い電子を有している。そこでこの電子が色素21から半導体微粒子22の伝導帯に渡され、さらに拡散によって導電性支持体1に到達する。このとき色素21の分子は酸化体となっている。電極上の電子が外部回路で仕事をしながら、励起されて酸化された色素は電解質中の還元剤(例えば、I)から電子を受け取り、基底状態の色素に戻ることにより、光電気化学電池として作用する。この際、受光電極5はこの電池の負極として働く。
【0014】
本実施形態の光電変換素子は、導電性支持体上に後述の色素が吸着された多孔質半導体微粒子の層を有する感光体を有する。このとき色素において一部電解質中に解離したもの等があってもよい。感光体は目的に応じて設計され、単層構成でも多層構成でもよい。本実施形態の光電変換素子の感光体には、特定の増感色素が吸着した半導体微粒子を含み、感度が高く、光電気化学電池として使用する場合に、高い変換効率を得ることができる。
なお、光電変換素子の上下は特に定めなくてもよいが、本明細書において、図示したものに基づいて言えば、受光側となる対極4の側を上部(天部)の方向とし、支持体1の側を下部(底部)の方向とする。
【0015】
[式(1)で表される色素]
本発明の色素は下記式(1)で表される。
式(1) MXLt
【0016】
・M
式中、Mはルテニウム、オスミウム、鉄、レニウム、およびテクネチウムから選ばれた遷移金属を表す。中でも、ルテニウムが好ましい。
【0017】
・X
Xは、NCS、Cl、Br、I、CN、NCO、HO、またはNCNを表す。
【0018】
・Lt
Ltは下記式(2)で表される配位子である。
【0019】
【化10】

【0020】
・R
式中、Rは、COOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、またはCO(NHOH)を表す。La−Rの置換位置は特に限定されないが、吸着時の色素の配向の観点から、3位または4位が好ましく、4位がさらに好ましい。Rは、炭素数1〜30のアルキル基または6〜30のアリール基を表す。アルキル基及びアリール基の好ましいものとしては、下記置換基Tの例が挙げられる。
【0021】
・R
は、COOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、またはCO(NHOH)を表す。Rの置換位置は特に限定されないが、吸着時の色素の配向の観点から、3位または4が好ましく、4位がさらに好ましい。Rは、炭素数1〜30のアルキル基または6〜30のアリール基を表す。アルキル基及びアリール基の好ましいものとしては、下記置換基Tの例が挙げられる。
【0022】
・R
は、炭素数1〜30のアルキル基、または下記式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)もしくは式(2−5)で表される置換基を表す。なかでも、前記式(2)のRは、(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)もしくは式(2−5)で表されることがより好ましく、一般式(2−2)、(2−3)、もしくは式(2−4)であることがさらに好ましく、式(2−3)もしくは式(2−4)であることがさらに好ましく、式(2−4)であることが特に好ましい。
【0023】
【化11】

【0024】
・R11、R21、R31、R41、R42、R51
11、R21、R31、R41、R42、およびR51は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、および炭素数1〜30のアミノ基から選ばれる基を含む置換基を表す。なお、前記アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アミノ基の好ましいものとしては、下記置換基Tの例が挙げられる。ただし、R42がヘテロアリール基、アリール基、アミノ基の場合は、R41が水素原子でもよい。R41、R42は共に前記ただし書きの前に例示した置換基を有することが好ましい。
【0025】
11、R21、R31、R41、R42、R51として好ましくは、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、または6〜30のアリール基、炭素数1〜30のアミノ基のうち、炭素数3〜30のアルキル基、炭素数3〜30のアルキル基が置換した炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数3〜30のアルキル基が置換した6〜30のアリール基、炭素数3〜30のアルコキシ基が置換した炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数3〜30のアルコキシ基が置換した炭素数6〜30のアリール基、炭素数6〜30のアリール基が置換したアミノ基、または炭素数1〜30のアルキル基が置換したアミノ基であり、更に好ましくは、炭素数4〜30のアルキル基、炭素数4〜30のアルキル基が置換した炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数4〜30のアルキル基が置換した6〜30のアリール基、炭素数4〜30のアルコキシ基が置換した炭素数1〜30のヘテロアリール基または炭素数4〜30のアルコキシ基が置換した炭素数6〜30のアリール基であり、特に好ましくは、炭素数4〜30のアルキル基または炭素数4〜30のアルコキシ基が置換した炭素数6〜30のアリール基である。
【0026】
・n11,n21,n31、n51
n11は1〜5の整数を表す。n11は1〜3の整数が好ましく、1または2がより好ましい。
n21は2〜6の整数を表す。n21は2〜4の整数が好ましく、2または3がより好ましい。
n31は1〜6の整数を表す。n31は1〜3の整数が好ましく、1または2がより好ましい。
n51は2〜6の整数を表す。
【0027】
*は結合手を表す。
【0028】
本発明の色素において、Rは光電変換素子における耐久性向上及び開放電圧(Voc)の向上に寄与すると推定される。上記R、Rが足場になり錯体色素が起立配列すると、逆にRを電荷移動体層側に向け延出する。そのため、このRが自己の足場を守るようにして、電荷移動体層側に延出して配列した機能性置換基が、Iイオンの半導体電極への近接を抑止し、チタニアに注入された電子がIへ移動するのを防ぐ。そうすることで、Vocの低下を防いでいると考えられる。また、Rにドナー性が付与された場合、色素分子のLUMO順位を適度に押し上げることがあると考えられる。これにより電子の注入効果が増し、開放電流(Jsc)を高めることが期待できる。さらに、電荷移動体層側に延出して配列した機能性置換基が、水分子の半導体電極への接近を防止し、その表面からの色素の脱離を抑えることで、耐久性を高めると考えられる。この観点から、色素の会合を防ぎ、より整然と並列吸着しやすいよう、Rの置換位置は4位または5位が好ましく(上記式(2)参照)、5位がより好ましい。
【0029】
・La
Laは、単結合、またはアリーレン基を表す。Laがアリーレン基であるとき、フェニレン基、またはチエニレン基であることが好ましい。Laは単結合であることが特に好ましい。
【0030】
・n1〜n3
n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。
【0031】
[ターピリジン化合物の製造方法]
本発明においては、前記式(2’)で表されるターピリジン化合物を合成し、これを配位子として有する下記式(1)で表される色素を製造するに際し、下記式(3)で表される化合物の置換基Halを式(2’)の置換基Rに置換する工程と、下記式(3)の置換基CO101のR101をHに置換する工程とを経由することが好ましい。
【0032】
【化12】

【0033】
式中、n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基、または前記式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)、もしくは(2−5)で表される置換基を表す。その好ましいものも前記と同義である。
【0034】
【化13】

【0035】
101はアルキル基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましい。
Halはハロゲン原子を表し、フッ素、塩素、臭素であることが好ましく、臭素であることがより好ましい。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。
【0036】
上記の置換工程を含め詳細は後記実施例に記載の手順を参照することができる。置換基Halと所定の有機基Rの置換反応は、鈴木・宮浦カップリング、Stille カップリング、根岸カップリングなどのクロスカップリングを用いることができる。アルキル基R101を水素原子に置換しカルボキシル基にする反応は、通常の加水分解反応によればよい。
【0037】
式(1)で表される色素は、エタノール溶液における極大吸収波長が、好ましくは500〜700nmの範囲であり、より好ましくは550〜650nmの範囲である。
以下に本発明の式(1)で表される色素の好ましい具体例を示すが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
【化16】

【0041】
【化17】

【0042】
【化18】

【0043】
【化19】

【0044】
【化20】

【0045】
式(6−1)
・Dye606(R61:−C13,R62:H)
・Dye607(R61:−C13,R62:−C13
・Dye608(R61:H,R62:H)
・Dye609(R61:H,R62:−C13
式(6−2)
・Dye610(R61:−C13,R62:H)
・Dye611(R61:−C13,R62:−C13
・Dye612(R61:H,R62:H)
・Dye613(R61:H,R62:−C13
【0046】
一般式(1)で表される化合物からなる色素の合成は、後記実施例に記載の方法を参考にして行うことができる。
【0047】
なお、本明細書において化合物(錯体、色素を含む)の表示については、当該化合物そのものほか、その塩、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の形態で修飾された誘導体を含む意味である。また、本明細書において置換・無置換を明記していない置換基(連結基を含む)については、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。これは置換・無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Tが挙げられる。
【0048】
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘプチル、1−エチルペンチル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数2〜20のヘテロ環基、例えば、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、3−メチルフェノキシ、4−メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20のアミノ基、例えば、アミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチルアミノ、アニリノ等)、スルホンアミド基(好ましくは炭素原子数0〜20のスルホンアミド基、例えば、N,N−ジメチルスルホンアミド、N−フェニルスルホンアミド等)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、シアノ基、またはハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基またはシアノ基が挙げられる。複数の置換基Tが互いに結合して環構造を形成してもよい。
【0049】
[光電変換素子]
(感光体層)
光電変換素子の実施態様については図1に基づき既に説明した。本実施形態において感光体層2は、後述の色素が吸着された半導体微粒子22の層からなる多孔質半導体層で構成されている。この色素は一部電解質中に解離したもの等があってもよい。また、感光体層2は目的に応じて設計され、多層構造からなるものであってもよい。
上述したように感光体層2には、特定の色素が吸着した半導体微粒子22を含むことから、受光感度が高く、光電気化学電池システム100として使用する場合に、高い光電変換効率を得ることができ、さらに高い耐久性を有する。
【0050】
(電荷移動体)
本発明の光電変換素子10に用いられる電解質組成物には、酸化還元対として、例えばヨウ素とヨウ化物(例えばヨウ化リチウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム等)との組み合わせ、アルキルビオローゲン(例えばメチルビオローゲンクロリド、ヘキシルビオローゲンブロミド、ベンジルビオローゲンテトラフルオロボレート)とその還元体との組み合わせ、ポリヒドロキシベンゼン類(例えばハイドロキノン、ナフトハイドロキノン等)とその酸化体との組み合わせ、2価と3価の鉄錯体(例えば赤血塩と黄血塩)の組み合わせ等が挙げられる。これらのうちヨウ素とヨウ化物との組み合わせが好ましい。
【0051】
ヨウ素塩のカチオンは5員環または6員環の含窒素芳香族カチオンであるのが好ましい。特に、一般式(1)により表される化合物がヨウ素塩でない場合は、再公表WO95/18456号公報、特開平8−259543号公報、電気化学,第65巻,11号,923頁(1997年)等に記載されているピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等のヨウ素塩を併用するのが好ましい。
【0052】
本発明の光電変換素子10に使用される電解質組成物中には、ヘテロ環4級塩化合物と共にヨウ素を含有するのが好ましい。ヨウ素の含有量は電解質組成物全体に対して0.1〜20質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。
【0053】
本発明の光電変換素子10に用いられる電解質組成物は溶媒を含んでいてもよい。電解質組成物中の溶媒含有量は組成物全体の50質量%以下であるのが好ましく、30質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以下であるのが特に好ましい。
【0054】
溶媒としては低粘度でイオン移動度が高いか、高誘電率で有効キャリアー濃度を高めることができるか、またはその両方であるために優れたイオン伝導性を発現できるものが好ましい。このような溶媒としてカーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン等)、エーテル化合物(ジオキサン、ジエチルエーテル等)、鎖状エーテル類(エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ビスシアノエチルエーテル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン性極性溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルフォラン等)、水、特開2002−110262記載の含水電解液、特開2000−36332号公報、特開2000−243134号公報、及び再公表WO/00−54361号公報記載の電解質溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は二種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
また、本発明の電解質としては、正孔導体物質を含む電荷輸送層を用いても良い。正孔導体物質として、9,9’−スピロビフルオレン誘導体などを用いることができる。
【0056】
また、電極層、感光体層(光電変換層)、電荷移動体層(ホール輸送層)、伝導層、対極層を順次に積層することができる。p型半導体として機能するホール輸送材料をホール輸送層として用いることができる。好ましいホール輸送層としては、例えば無機系または有機系のホール輸送材料を用いることができる。無機系ホール輸送材料としては、CuI、CuO,NiO等が挙げられる。また、有機系ホール輸送材料としては、高分子系と低分子系のものが挙げられ、高分子系のものとしては、例えばポリビニルカルバゾール、ポリアミン、有機ポリシラン等が挙げられる。また、低分子系のものとしては、例えばトリフェニルアミン誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体、フェナミン誘導体等が挙げられる。この中でも有機ポリシランは、従来の炭素系高分子と異なり、主鎖のSiに沿って非局化されたσ電子が光伝導に寄与し、高いホール移動度を有するため、好ましい(Phys. Rev. B, 35, 2818(1987))。
【0057】
(導電性支持体)
図1に示すように、本発明の光電変換素子には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子の分散液を導電性支持体に塗布・乾燥後、本発明の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。
【0058】
導電性支持体1としては、金属のように支持体そのものに導電性があるものか、または表面に導電膜層を有するガラスや高分子材料を使用することができる。導電性支持体1は実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましく、80%以上が特に好ましい。導電性支持体1としては、ガラスや高分子材料に導電性の金属酸化物を塗設したものを使用することができる。このときの導電性の金属酸化物の塗布量は、ガラスや高分子材料の支持体1m当たり、0.1〜100gが好ましい。透明導電性支持体を用いる場合、光は支持体側から入射させることが好ましい。好ましく使用される高分子材料の一例として、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等を挙げることができる。導電性支持体1上には、表面に光マネージメント機能を施してもよく、例えば、特開2003−123859記載の高屈折膜及び低屈性率の酸化物膜を交互に積層した反射防止膜、特開2002−260746記載のライトガイド機能が上げられる。
【0059】
この他にも、金属支持体も好ましく使用することができる。その一例としては、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、銅を挙げることができる。これらの金属は合金であってもよい。さらに好ましくは、チタン、アルミニウム、銅が好ましく、特に好ましくは、チタンやアルミニウムである。
【0060】
(半導体微粒子)
図1に示すように、本発明の光電変換素子10には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子22の分散液を前記導電性支持体1に塗布・乾燥後、上述の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。本発明においては半導体微粒子として、前記の特定の界面活性剤を用いて調製したものを適用する。
【0061】
(半導体微粒子分散液)
本発明においては、半導体微粒子以外の固形分の含量が、半導体微粒子分散液全体の10質量%以下よりなる半導体微粒子分散液を前記導電性支持体1に塗布し、適度に加熱することにより、多孔質半導体微粒子塗布層を得ることができる。
【0062】
半導体微粒子分散液を作製する方法としては、ゾル・ゲル法の他に、半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法、微粒子に超音波などを照射して超微粒子に粉砕する方法、またはミルや乳鉢などを使って機械的に粉砕しすり潰す方法、等が挙げられる。分散溶媒としては、水及び各種の有機溶媒のうちの一つ以上を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,シトロネロール,ターピネオールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジクロロメタン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0063】
分散の際、必要に応じて例えばポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのようなポリマー、界面活性剤、酸、またはキレート剤等を分散助剤として少量用いてもよい。しかし、これらの分散助剤は、導電性支持体上へ製膜する工程の前に、ろ過法や分離膜を用いる方法、あるいは遠心分離法などによって大部分を除去しておくことが好ましい。半導体微粒子分散液は、半導体微粒子以外の固形分の含量が分散液全体の10質量%以下とすることができる。この濃度は好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。さらに好ましくは0.5%以下であり、特に好ましくは0.2%である。すなわち、半導体微粒子分散液中に、溶媒と半導体微粒子以外の固形分を半導体微分散液全体の10質量%以下とすることができる。実質的に半導体微粒子と分散溶媒のみからなることが好ましい。
【0064】
半導体微粒子分散液の粘度が高すぎると分散液が凝集してしまい製膜することができず、逆に半導体微粒子分散液の粘度が低すぎると液が流れてしまい製膜することができないことがある。したがって分散液の粘度は、25℃で10〜300N・s/mが好ましい。さらに好ましくは、25℃で50〜200N・s/mである。
【0065】
半導体微粒子分散液の塗布方法としては、アプリケーション系の方法としてローラ法、ディップ法等を使用することができる。またメータリング系の方法としてエアーナイフ法、ブレード法等を使用することができる。またアプリケーション系の方法とメータリング系の方法を同一部分にできるものとして、特公昭58−4589号に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号明細書等に記載のスライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法等が好ましい。また汎用機を使用してスピン法やスプレー法で塗布するのも好ましい。湿式印刷方法としては、凸版、オフセット及びグラビアの3大印刷法をはじめ、凹版、ゴム版、スクリーン印刷等が好ましい。これらの中から、液粘度やウェット厚さに応じて、好ましい製膜方法を選択する。また本発明の半導体微粒子分散液は粘度が高く、粘稠性を有するため、凝集力が強いことがあり、塗布時に支持体とうまく馴染まない場合がある。このような場合に、UVオゾン処理で表面のクリーニングと親水化を行うことにより、塗布した半導体微粒子分散液と導電性支持体1表面の結着力が増し、半導体微粒子分散液の塗布が行い易くなる。
【0066】
半導体微粒子層全体の好ましい厚さは0.1μm〜100μmである。半導体微粒子層の厚さはさらに1μm〜30μmが好ましく、2μm〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の支持体1m当りの担持量は0.5g〜400gが好ましく、5g〜100gがより好ましい。なお、上記微粒子分散液を塗布して製膜する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜適用すればよい。
【0067】
なお、半導体微粒子22の支持体1m当たりの塗布量は0.5g〜500g、さらには5g〜100gが好ましい。
【0068】
半導体微粒子22に増感色素21を吸着させるには、溶液と本発明にかかる色素よりなる色素吸着用色素溶液の中に、よく乾燥した半導体微粒子22を長時間浸漬するのが好ましい。色素吸着用色素溶液に使用される溶液は、本発明にかかる増感色素21が溶解できる溶液なら特に制限なく使用することができる。例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、t−ブタノール、アセトニトリル、アセトン、n−ブタノールなどを使用することができる。その中でも、エタノール、トルエンを好ましく使用することができる。
【0069】
増感色素21の使用量は、全体で、支持体1m当たり0.01ミリモル〜100ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1ミリモル〜50ミリモル、特に好ましくは0.1ミリモル〜10ミリモルである。この場合、本発明にかかる増感色素21の使用量は5モル%以上とすることが好ましい。
【0070】
また、増感色素21の半導体微粒子22に対する吸着量は半導体微粒子1gに対して0.001ミリモル〜1ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5ミリモルである。
【0071】
このような色素量とすることによって、半導体における増感効果が十分に得られる。これに対し、色素量が少ないと増感効果が不十分となり、色素量が多すぎると、半導体に付着していない色素が浮遊し増感効果を低減させる原因となる。
【0072】
(対極)
対極4は、光電気化学電池の正極として働くものである。対極4は、通常前述の導電性支持体1と同義であるが、強度が十分に保たれるような構成では対極の支持体は必ずしも必要でない。ただし、支持体を有する方が密閉性の点で有利である。対極4の材料としては、白金、カーボン、導電性ポリマー、などがあげられる。好ましい例としては、白金、カーボン、導電性ポリマーが挙げられる。
【0073】
対極4の構造としては、集電効果が高い構造が好ましい。好ましい例としては、特開平10−505192号公報などが挙げられる。
【0074】
(受光電極)
受光電極5は、入射光の利用率を高めるなどのためにタンデム型にしても良い。好ましいタンデム型の構成例としては、特開2000−90989、特開2002−90989号公報等に記載の例が挙げられる。
【0075】
受光電極5の層内部で光散乱、反射を効率的に行う光マネージメント機能を設けてもよい。好ましくは、特開2002−93476号公報に記載のものが挙げられる。
【0076】
導電性支持体1と多孔質半導体微粒子層の間には、電解液と電極が直接接触することによる逆電流を防止する為、短絡防止層を形成することが好ましい。好ましい例としては、特開平06−507999号公報等が挙げられる。
【0077】
受光電極5と対極4の接触を防ぐ為に、スペーサーやセパレータを用いることが好ましい。好ましい例としては、特開2001−283941号公報が挙げられる。
【0078】
セル、モジュールの封止法としては、ポリイソブチレン系熱硬化樹脂、ノボラック樹脂、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂、ガラスフリット、アルミナにアルミニウムアルコキシドを用いる方法、低融点ガラスペーストをレーザー溶融する方法などが好ましい。ガラスフリットを用いる場合、粉末ガラスをバインダーとなるアクリル樹脂に混合したものでもよい。
【実施例】
【0079】
以下に実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
【0080】
(実施例1) 色素の合成例
スキーム1で示したルートで中間体I−1を合成した。
【0081】
【化21】

【0082】
(1)I−1−3の合成
2,5−ジブロモピリジン(I−1−1)8g(33.7mmol)、トルエン337mlを窒素雰囲気下−40℃で攪拌した。これにn−ブチルリチウム1.6Mヘキサン溶液21.4ml(1.02 eq)を加え、40分攪拌し、N,N−ジメチルアセトアミド9.38ml(3.0 eq)を加えた後、攪拌しながら20℃までゆっくり昇温した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加え反応をクエンチした。抽出・分液の後、カラムクロマトグラフィーで精製すのことで、2−アセチル−5−ブロモピリジン(化合物I−1−2)の白色固体6.74g(収率100%)を得た。
水酸化ナトリウム4.73g(3.0eq)をメタノール394mlに加温溶解して0℃に冷却攪拌し、2−アセチル−5−ブロモピリジン(化合物I−1−2)7.88g(39.4mmol)と2−フラルデヒド3.26mlを加え、0℃で5時間攪拌した。溶媒を減圧濃縮し、ジクロロメタンで抽出・分液の後、カラムクロマトグラフィーで精製すのことで、化合物I−1−3の黄色固体8.24g(収率75%)を得た。構造は、NMRスペクトルで確認した。
【0083】
(2)I−1−6の合成
化合物I−1−4 10g(66.1mmol)、パラアルデヒド43.6ml(5eq)、及びアセトニトリル165mlを混合し室温で攪拌した。硫酸鉄七水和物305mg(0.0166eq)、トリフルオロ酢酸4.9ml(1eq)、及びt−ブチルパーオキシドを加え、130℃で4時間加熱還流した。冷却、減圧濃縮後、飽和炭酸ナトリウム水溶液を添加し酢酸エチルで抽出・分液の後、カラムクロマトグラフィーで精製すのことで、化合物I−1−5の黄色固体6.77g(収率53%)を得た。構造は、NMRスペクトルで確認した。
化合物I−1−5 6.77g(35.0mmol)、ヨウ素8.89g(1eq)、及びピリジン23.3mlを混合し130℃で2時間加熱還流した。冷却後メタノールを加え減圧濃縮後、メタノールで再結晶し、濾過感想することで、化合物I−1−6の灰色固体10.2g(収率73%)を得た。構造は、NMRスペクトルで確認した。
【0084】
(3)I−1の合成
化合物I−1−3 1.08g(3.88mmol)に酢酸アンモニウム、化合物I−1−6 2.31g(1.5eq)、およびメタノール39mlを加え、17時間加熱還流した。溶媒を減圧留去後、カラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物I−1−7の固体を743mg(収率43%)えた。構造は、NMRスペクトルで確認した。
化合物I−1−7 1g(2.22mmol)、ピリジン22ml、水11mlを混合し、撹拌しながらこれに過マンガン酸カリウム1.75g(5eq)を加え、室温で7時間撹拌した。過剰の過マンガン酸カリウムをチオ硫酸ナトリウムで還元し、2M水酸化ナトリウム水溶液を加え、結晶を濾別してえられる濾液を減圧濃縮した。残渣を水酸化ナトリウム水溶液に溶解した後、希塩酸水溶液を加えて析出してくる固体を濾過乾燥することで、化合物I−1−8を得、そのまま全量を次のステップの反応に用いた。
化合物I−1−8にエタノール14mlを加え撹拌し、濃硫酸296μl(4eq)を加え、42時間加熱還流撹拌した。減圧濃縮後、酢酸エチルと水で抽出分液して有機層を濾過後カラムクロマトグラフィーで精製することにより化合物I−1の固体を185mg(化合物I−1−7から収率37%)得ることに成功した。構造は、NMRスペクトルで確認した(融点:146℃)。
【0085】
スキーム2で示したルートでDye104を合成した。
【0086】
【化22】

【0087】
化合物I−1 1.5g、化合物D−5−1 0.95g、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)110mg、炭酸カリウム0.69g、水2.8ml、トルエン3ml、及びテトラヒドロフラン5mlを混合し12時間加熱還流し、常法に従い処理しカラムクロマトグラフィーで精製することにより、化合物D−5−2の固体0.816g(収率46%)を得た。
得られた化合物D−5−2全量、塩化ルテニウム・3水和物0.79gをエタノール中で3時間加熱還流することで化合物D−5−3を0.56g(収率49%)得た。
化合物D−5−3 0.55g、チオシアン酸アンモニウム 1.87g、DMFと水の混合溶媒中130℃で4時間攪拌した。後処理により化合物D−5−4の固体を取り出した。
得られた化合物D−5−4全量に、トリエチルアミン13.2gをくわえ、DMFと水の混合溶媒中130℃で24時間攪拌した。次にチオシアン酸テトラブチルアンモニウム0.25gを加え更に攪拌した。後処理、精製することでDye104の固体536mg(化合物D−5−3から収率72%)を得た(融点:250℃以上)。
【0088】
Dye104と類似の方法で他のDye101〜613を合成した。
【0089】
(実施例2)光電池の初期性能評価
20mm×20mmの、フッ素をドープした酸化スズ層を有する透明導電性ガラス(日本板硝子(株)製、表面抵抗約10Ω/cm)の導電面側にダイソル社製DSL 18NR−Tをスクリーン印刷で塗布した。塗布後25℃で30分間乾燥し、ホットプレートにて、500℃にて30分間焼成した。二酸化チタンの塗布量は15.5g/mであり、膜厚は9μmであった。同様にダイソル製WER2−0を用いて印刷、焼成し、膜厚4μmの散乱層を作成した。焼成終了後、冷却し、本発明の金属錯体色素、及び比較の比較用色素(A)および(B)の0.2mmol/l(溶媒:エタノールとアセトニトリルの1:1混合物)にそれぞれ20時間浸漬した。比較用色素(A)および(B)の構造を以下に示す。続いて色素の染着した二酸化チタン電極をエタノールおよびアセトニトリルで順次洗浄し、窒素気流下暗所において乾燥して二酸化チタン電極を作製した。なお、比較用色素Aは国際公用第98/50393号パンフレットに記載のルテニウム錯体色素である。
【0090】
【化23】

【0091】
上述のようにして作製した色素増感TiO電極基板(20mm×20mm)をこれと同じ大きさの白金蒸着ガラスと重ね合わせた。次に、両ガラスの隙間に毛細管現象を利用して電解液A(アセトニトリルにヨウ化1,3−ジメチルイミダゾリウム(0.65mol/l)およびヨウ素(0.05mol/l)を溶解した溶液)をしみこませTiO電極中に導入して、表1に示す各光電池を得た。本実施例により、図1に示すように導電性ガラスからなる導電性支持体層1、色素増感21とチタニア半導体層22からなる感光層2、上記電解液からなる電荷移動層3、及び白金からなる対極導電層基板4を順に積層しエポキシ系封止剤で封止された光電池を作製した。
【0092】
[長波長IPCEの評価]
オプテル社製のIPCE(Incident Photon to Current Conversion Efficiency)測定装置を用いて、上記各光電池の400〜900nmの単色光変換効率(IPCE)を10nm間隔で測定したところ、いずれの光電池も550〜650nmの波長範囲にIPCEの極大値を有し700nmより長波長側で徐々に減衰する曲線を示した。表1に各光電池の850nmにおけるIPCE値(IPCE(%)=(発生した電子数/照射された光子数)×100)をピーク波長でのIPCEを100として規格化した値を示す。この値が大きい光電池ほど長波長光の変換効率が高く、本発明の目的に適うものであるといえる。
【0093】
[変換効率等の評価]
上記各光電池の導電性ガラスの端部に銀ペーストを塗布して負極とし、この負極と白金蒸着ガラス(正極)を電流電圧測定装置(ケースレーSMU238型)に接続した。これらの光電池に、500Wのキセノンランプ(ウシオ電気(株)製)の光をAM1.5フィルター(Oriel社製AM1.5)を通すことにより発生させた模擬太陽光を垂直に照射しながら発生電流を測定した。光の強度は垂直面において100mW/cmであった。各光電池の太陽電池特性(短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、形状因子(FF)および変換効率(η))を併せて表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1より、本発明の光電池101〜110は比較用色素(A)および(B)を用いた光電池C11およびC12に比べて850nmにおけるIPCEが高く、長波長光の増感効率に優れていることがわかる。また、本発明によれば、形状因子を良好な範囲に維持し、開放電圧、短絡電流、変換効率のすべてにおいて性能の向上が見られることが分かる。
【0096】
(実施例3)光電池の耐久性評価
電解液を電解液B(3−メトキシプロピオニトリルにヨウ化1,3−ジメチルイミダゾリウム(0.65mol/l)、N−メチルベンズイミダゾール(0.5mol/l)およびヨウ素(0.1mol/l)を溶解した溶液)に変え、実施例2と同様に各光電池を作成した。これらの光電池を、80℃で300時間暗所保存後の変換効率低下率を表2に示した。
【0097】
【表2】

【0098】
表2から、本発明の色素を用いた光電池は、高温耐久性が非常に高いことがわかる。
【0099】
また、色素Dye608〜610、及びDye612、613を利用して実施例1と同様に評価し、本発明の優れた効果を確認した。
以上の結果により、本発明の金属錯体色素は長波長光の光吸収能に優れており、かかる金属錯体色素を吸着した半導体微粒子を含む光電変換素子は可視光域〜赤外域にわたる広い波長域において高い光電変換特性を示した。また、高温耐久性が非常に高かった。かかる光電変換素子からなる光電池は太陽電池として極めて有効である。
【符号の説明】
【0100】
1 導電性支持体
2 感光体層
21 色素
22 半導体微粒子
3 電荷移動体層
4 対極
5 受光電極
6 回路
10 光電変換素子
100 光電気化学電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)MXLtで表される色素。
[式中、Mはルテニウム、オスミウム、鉄、レニウム、およびテクネチウムから選ばれた遷移金属を表す。Xは、NCS、Cl、Br、I、CN、NCO、HO、またはNCNを表す。Ltは式(2)を表す。]
【化1】

[式中、Rは、COOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、またはCO(NHOH)を表す。Rは、COOH、PO(OH)、PO(OR)(OH)、またはCO(NHOH)を表す。Laは、単結合またはアリーレン基を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基または6〜30のアリール基を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基、あるいは下記式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)、または一般式(2−5)で表される置換基を表す。]
【化2】

[式中、R11、R21、R31、R41、R42、およびR51は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、および炭素数1〜30のアミノ基のいずれかの基を含む置換基を表す。ただし、式(2−4)において、R42が炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数1〜30のアミノ基を含む置換基を表す場合、R41は水素原子であってもよい。n11は1〜5の整数を表す。n21、n51は2〜6の整数を表す。n31は1〜6の整数を表す。*は結合手を表す。]
【請求項2】
前記式(2)のLaが単結合である請求項1記載の色素。
【請求項3】
前記式(2)のRが前記式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)または(2−5)で表される請求項1または2に記載の色素。
【請求項4】
前記式(2)のRが前記式(2−2)、(2−3)、または(2−4)で表される請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素。
【請求項5】
前記式(2)のRが前記式(2−3)または(2−4)で表される請求項1〜4のいずれか1項に記載の色素。
【請求項6】
前記式(2)のRが前記式(2−4)で表される請求項1〜5のいずれか1項に記載の色素。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の色素と半導体微粒子とを含む感光体層を具備する光電変換素子。
【請求項8】
請求項7に記載の光電変換素子を用いた光電気化学電池。
【請求項9】
下記式(2’)のターピリジン化合物の製造方法であって、下記式(3)で表される化合物の置換基Halを、下記式(2’)の置換基Rに置換する工程と、下記式(3)の置換基CO101のR101をHに置換する工程とを経由するターピリジン化合物の製造方法。
【化3】

[式中、n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基、あるいは式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)、または(2−5)で表される置換基を表す。]
【化4】

[式中、R11、R21、R31、R41、R42、およびR51は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、および炭素数1〜30のアミノ基のいずれかの基を含む置換基を表す。ただし、式(2−4)において、R42が炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数1〜30のアミノ基を含む置換基を表す場合、R41は水素原子であってもよい。n11は1〜5の整数を表す。n21、n51は2〜6の整数を表す。n31は1〜6の整数を表す。*は結合手を表す。]
【化5】

[R101はアルキル基を表す。Halはハロゲン原子を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。]
【請求項10】
下記式(2’)で表されるターピリジン化合物を合成し、これを配位子として有する式(1’)MXLt’で表される色素を製造する方法であって、下記式(3)で表される化合物の置換基Halを下記式(2’)の置換基Rに置換する工程と、下記式(3)の置換基CO101のR101をHに置換する工程とを経由する色素の製造方法。
[式中、Mはルテニウム、オスミウム、鉄、レニウム、およびテクネチウムから選ばれた遷移金属を表す。Xは、NCS、Cl、Br、I、CN、NCO、HO、またはNCNを表す。Lt’は式(2’)を表す。]
【化6】

[式中、n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。Rは、炭素数1〜30のアルキル基、あるいは式(2−1)、(2−2)、(2−3)、(2−4)、または(2−5)で表される置換基を表す。]
【化7】

[式中、R11、R21、R31、R41、R42、およびR51は、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、および炭素数1〜30のアミノ基のいずれかの基を含む置換基を表す。ただし、式(2−4)において、R42が炭素数1〜30のヘテロアリール基、炭素数6〜30のアリール基、または炭素数1〜30のアミノ基を含む置換基を表す場合、R41は水素原子であってもよい。n11は1〜5の整数を表す。n21、n51は2〜6の整数を表す。n31は1〜6の整数を表す。*は結合手を表す。]
【化8】

[R101はアルキル基を表す。Halはハロゲン原子を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。]
【請求項11】
下記式(3)で表されるターピリジン化合物。
【化9】

[R101はアルキル基を表す。Halはハロゲン原子を表す。n1は1〜3の整数を表す。n2、n3は1〜4の整数を表す。]

【図1】
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【公開番号】特開2013−67773(P2013−67773A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−74832(P2012−74832)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電システム次世代高性能技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】