説明

色素、色素増感太陽電池及びその製造方法

【課題】耐候性及び耐熱性等の耐久性にも優れた太陽電池用の増感色素を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される色素。ML:(1)〔Mは長周期律表上の8〜10族の元素であり、L及びLは、一般式(2)で表される二座配位子であり、Lは一般式(3)で表される二座配位子である。〕


〔一般式(2)において、R及びRは相互に独立して、カルボキシル基若しくはその塩に相当する基である。〕


〔一般式(3)において、Xはハロゲン原子、nは0〜2の整数である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素、色素増感太陽電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エネルギー問題に対する関心が高まるとともに、光、特に太陽光を効率よく電気に変換することができる太陽電池の研究が盛んになってきた。例えば、アモルファスシリコンや多結晶シリコンを利用したシリコン系の太陽電池が普及し始めている。
【0003】
しかし、シリコン系太陽電池は、製造コストが高く、また、高純度シリコンを安価かつ大量に供給することが困難であるために、一般に広く普及するには限界があるといわれている。
【0004】
そこで、近年、色素増感太陽電池が関心を集めている。色素増感太陽電池は、発電効率が高いこと、製造コストが比較的低いこと、酸化チタン等の安価な酸化物半導体を高純度に精製することなく原料として使用できること、製造に際して使用する設備が安価で済むこと等、シリコン系太陽電池と比較して多くの利点を有している。従って、次世代の太陽電池として期待されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【0005】
色素増感太陽電池は、通常の電池と同様に、陽極と、陰極と、電解質とを備えているが、陰極が、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有しており、この酸化物薄膜電極に特定の色素が吸着されている構造に特徴がある。
【0006】
従来、酸化物薄膜電極に吸着させる色素としては、下記式(10)で表される「N719」と呼ばれる色素、或いは下記式(11)で表される「ブラック・ダイ」と呼ばれる色素が知られている(例えば、非特許文献1及び2を参照)。
【化1】

〔式(10)において、TBAはテトラブチルアンモニウムイオンである。〕
【化2】

〔式(11)において、TBAはテトラブチルアンモニウムイオンである。〕
【0007】
【特許文献1】米国特許第4927721号明細書
【特許文献2】国際公開第98/50393号パンフレット
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,115,6382−6390(1993)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,123,1613−1624(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記色素を用いた色素増感太陽電池、特にN719を用いた色素増感太陽電池は、高い変換効率を示すものの、耐久性(耐候性、耐熱性等)の面で十分満足できるものではなく、解決すべき課題を残すものであった。即ち、現在のところ、高い変換効率を示し、耐久性(耐候性、耐熱性等)の面でも十分満足できる色素増感太陽電池は開示されておらず、高い変換効率を示し、耐久性(耐候性、耐熱性等)に優れた色素増感太陽電池の開発が切望されている。
【0009】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、高い変換効率を示し、耐候性及び耐熱性等の耐久性にも優れた色素増感太陽電池、前記色素増感太陽電池の構成材料となる色素、並びに前記色素増感太陽電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決すべき鋭意検討を重ねた結果、特定構造の化合物を配位子とする色素により、前記従来技術の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明により、以下の色素、色素増感太陽電池及びその製造方法が提供される。
【0011】
[1] 下記一般式(1)で表される色素。
ML :(1)
〔但し、Mは長周期律表上の8〜10族の元素であり、L及びLは相互に独立して、下記一般式(2)で表される二座配位子であり、Lは下記一般式(3)で表される二座配位子である。〕
【化3】

〔一般式(2)において、R及びRは相互に独立して、一価の有機基である。〕
【化4】

〔一般式(3)において、Xはハロゲン原子、nは0〜2の整数である。〕
【0012】
[2] 下記一般式(4)で表される色素。
ML :(4)
〔但し、Mは長周期律表上の8〜10族の元素であり、Lは下記一般式(5)で表される三座配位子であり、Lは下記式(6)、(7)又は(8)で表される三座配位子である。〕
【化5】

〔一般式(5)において、R、R及びRは相互に独立して、カルボキシル基若しくはその塩に相当する基又はカルボキシアルキル基を表す。〕
【化6】

【化7】

〔一般式(7)において、Rは相互に独立して、炭素数1〜8の炭化水素基を表す。〕
【化8】

【0013】
[3] 下記一般式(9)で表される色素。
ML :(9)
〔但し、Mは長周期律表上の8〜10族の元素であり、Lは下記一般式(3)で表される二座配位子であり、Lは下記一般式(5)で表される三座配位子であり、Aはイソチオシアネート基である。〕
【化9】

〔一般式(3)において、Xはハロゲン原子、nは0〜2の整数である。〕
【化10】

〔一般式(5)において、R、R及びRは相互に独立して、カルボキシル基若しくはその塩に相当する基又はカルボキシアルキル基を表す。〕
【0014】
[4] 前記一般式(1)、(4)又は(9)において、Mがルテニウムである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の色素。
【0015】
[5] 陽極と、陰極と、電解質とを備え、前記陰極は、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有し、前記酸化物薄膜電極に、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の色素が吸着されている色素増感太陽電池。
【0016】
[6] 透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有する陰極に対し、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の色素及び塩基を含有する色素溶液を接触させ、前記酸化物薄膜電極に前記色素を吸着させる工程を備えた色素増感太陽電池の製造方法。
【0017】
[7] 前記色素溶液として、前記塩基の濃度が0.001〜20mmol/Lである色素溶液を用いる前記[6]に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の色素増感太陽電池は、高い変換効率を示し、耐候性及び耐熱性等の耐久性にも優れる。本発明の色素及び色素増感太陽電池の製造方法は、本発明の色素増感太陽電池の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0020】
[1]色素:
本発明の色素は、後述する一般式(1)、(4)、(9)のいずれかで表される色素である。
【0021】
[1−1]第一の実施形態:
本発明の色素の第一の実施形態は、下記一般式(1)で表される色素である(以下、「第一の色素」と記す場合がある。)。
ML:(1)
【0022】
一般式(1)において、「M」は中心原子であり、長周期律表上の8〜10族の元素からなる金属原子である。「8〜10族の元素」としては、8族の鉄、ルテニウム、オスミウム、9族のコバルト、ロジウム、イリジウム及び10族のニッケル、パラジウム、白金を挙げることができる。本発明の色素は、「M」がルテニウム原子であるものが特に好ましい。
【0023】
一般式(1)において、L及びLは相互に独立して、下記一般式(2)で表される二座配位子である。
【化11】

【0024】
一般式(2)において、R及びRは相互に独立して、一価の有機基である。
【0025】
「一価の有機基」としては、例えば、カルボキシル基又はその塩に相当する基を挙げることができる。「カルボキシル基の塩に相当する基」としては、カルボン酸のテトラブチルアンモニウム塩に相当する基等を挙げることができる。
【0026】
また、「一価の有機基」としては、下記式(12)で表される一価の有機基を挙げることもできる。
【化12】

【0027】
更に、「一価の有機基」としては、下記一般式(13)で表される一価の有機基を挙げることもできる。
【化13】

【0028】
更にまた、「一価の有機基」としては、下記一般式(14)で表される一価の有機基を挙げることもできる。
【化14】

【0029】
一般式(14)において、Rは相互に独立して、メチル基又はt−ブチル基であり、mは1〜2の整数である。具体的には、下記式(14a)又は(14b)で表される一価の有機基を挙げることができる。
【化15】

【化16】

【0030】
一般式(1)において、Lは下記一般式(3)で表される二座配位子である。
【化17】

【0031】
一般式(3)において、Xはハロゲン原子、nは0〜2の整数である。具体的には、2−フェニルピリジン(下記式(3a))又は2−(2,4―ジフルオロフェニル)ピリジン、2−(2,4―ジクロロフェニル)ピリジン、2−(2,4―ジブロモフェニル)ピリジン(いずれも下記式(3b))を挙げることができる。
【化18】

【化19】

【0032】
第一の実施形態の色素の具体例としては、下記式(1a)〜(1e)で表される色素等を挙げることができる。
【0033】
【化20】

【0034】
【化21】

【0035】
【化22】

【0036】
【化23】

【0037】
【化24】

【0038】
[1−2]第二の実施形態:
本発明の色素の第二の実施形態は、下記一般式(4)で表される色素である(以下、「第二の色素」と記す場合がある。)。
ML :(4)
【0039】
一般式(4)において、「M」は中心原子であり、その定義、構成原子の例、ルテニウム原子が好ましい点については、一般式(1)の場合と同様である。
【0040】
一般式(4)において、Lは下記一般式(5)で表される三座配位子である。
【化25】

【0041】
一般式(5)において、R、R及びRは相互に独立して、カルボキシル基又はその塩に相当する基を表す。「カルボキシル基の塩に相当する基」の例については、一般式(2)の場合と同様である。「カルボキシアルキル基」としては、例えば、カルボキシメチル基等を挙げることができる。
【0042】
一般式(4)において、Lは下記式(6)〜(8)で表される三座配位子である。
【化26】

【化27】

〔一般式(7)において、Rは相互に独立して、炭素数1〜8の炭化水素基を表す。〕
【化28】

【0043】
一般式(7)において、Rは相互に独立して、炭素数1〜8の炭化水素基である。「炭素数1〜8の炭化水素基」としては、例えば、n−ブチル基等を挙げることができる。
【0044】
[1−3]第三の実施形態:
本発明の色素の第三の実施形態は、下記一般式(9)で表される色素である(以下、「第三の色素」と記す場合がある。)。
ML :(9)
【0045】
一般式(9)において、「M」は中心原子であり、その定義、構成原子の例、ルテニウム原子が好ましい点については、一般式(1)の場合と同様である。
【0046】
また、Lは第一の実施形態の項で説明した一般式(3)で表される二座配位子であり、Lは第二の実施形態の項で説明した一般式(5)で表される三座配位子である。一般式(5)におけるR、R及びRの定義、置換基の例については、第二の実施形態の場合と同様である。更に、Aはイソチオシアネート基(−NCS)である。
【0047】
第三の実施形態の色素の具体例としては、下記式(9a)で表される色素等を挙げることができる。
【化29】

【0048】
[2]色素増感太陽電池:
本発明の色素増感太陽電池は、陽極と、陰極と、電解質とを備え、前記陰極は、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有し、前記酸化物薄膜電極に、既に述べた本発明の色素が吸着されているものである。
【0049】
「陽極」は、導電性を有する物質で構成されていれば足り、構成物質の種類について特に制限はない。例えば、透明導電性ガラスからなる基材の表面に、微量の白金又は導電性カーボンを付着させたものを好適に用いることができる。「透明導電性ガラス」としては、例えば、酸化スズ、インジウム−スズ酸化物(ITO)からなるガラス等を用いることができる。
【0050】
「陰極」は、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有し、その酸化物薄膜電極に、既に述べた本発明の色素が吸着されているものである。「透明導電性ガラス」としては、陽極の項で例示した物質からなるガラス等を用いることができる。「基材」の形状については特に制限はなく、例えば、板状のもの等を用いることができる。
【0051】
「酸化物薄膜電極」を構成する酸化物としては、例えば、金属酸化物、より具体的には、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化タングステン、酸化インジウム等を挙げることができる。これらの酸化物の中でも、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化スズが好ましく、酸化チタンが特に好ましい。この酸化物薄膜電極には、本発明の色素を吸着させた状態で用いる。この吸着の方法については製造方法の項で説明する。
【0052】
「電解質」としては、電解質からなる液体又は固体、或いは電解質を含む溶液等を用いることができる。中でも、レドックス電解質を用いることが好ましい。「レドックス電解質」とは、レドックス系を構成する物質(酸化剤、還元剤)を含有する溶液であり、例えば、下記式(15)に示すようなレドックス系(I/I3−系)を構成する、ヨウ素及びヨウ素のイミダゾリウム塩を含む溶液を好適に用いることができる。この溶液の溶媒としては、電気化学的に不活性な物質、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル等を好適に用いることができる。
+2e←→3I+I :(15)
【0053】
色素増感太陽電池は、陽極と陰極の間を電解質が満たすように構成すればよい。例えば、容器中に電解質溶液を満たした上で、その電解質溶液中において、陽極と陰極とが対向するように配置する構成を挙げることができる。
【0054】
[3]色素増感太陽電池の製造方法:
本発明の製造方法は、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有する陰極に対し、本発明の色素及び塩基を含有する色素溶液を接触させ、前記酸化物薄膜電極に前記色素を吸着させる工程を備えた方法である。
【0055】
[3−1]酸化物薄膜電極の形成:
本発明の製造方法は、陰極を構成する酸化物薄膜電極に対し、色素を吸着させる工程を含むものであるが、色素の吸着に先立って、酸化物薄膜電極を用意する必要がある。酸化物薄膜電極の形成方法について特に制限はないが、例えば、酸化物の微粒子を適当な分散媒に懸濁させて酸化物のスラリーを調製し、このスラリーを透明導電性ガラスからなる基材の表面に塗布し、溶媒を除去した後、加熱する等の方法により形成することができる。
【0056】
[3−2]色素の吸着:
酸化物薄膜電極には本発明の色素を吸着させる。色素の吸着は、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有する陰極に対し、本発明の色素及び塩基を含有する色素溶液を接触させることにより行う。
【0057】
「色素溶液」は、本発明の色素、即ち、前記一般式(1)、(4)又は(9)で表される色素を含有する溶液である。色素溶液は、本発明の色素を0.1〜10mmol/Lの濃度で含有するものが好ましい。色素の濃度を0.1mol/L以上とすることによって、酸化物薄膜電極に十分に色素を吸着させることが可能となる。一方、10mmol以下とすることで、色素同士が吸着してしまう不具合を抑制することができる。前記効果をより確実に発揮させるためには、色素の濃度を0.2〜5mmol/Lとすることが更に好ましく、0.5〜2mmol/Lとすることが特に好ましい。
【0058】
「色素溶液」は、本発明の色素の他、塩基を含む。「塩基」は、無機塩基であってもよいし、有機塩基であってもよい。
【0059】
「無機塩基」としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の硫化物、アルカリ土類金属の水酸化物等を挙げることができる。
【0060】
「アルカリ金属の水酸化物」としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を、「アルカリ金属の炭酸塩」としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を、「アルカリ金属の硫化物」としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム等を、「アルカリ土類金属の水酸化物」としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を挙げることができる。
【0061】
「有機塩基」としては、一級〜三級アミン化合物、四級アンモニウムの水酸化物、四級アンモニウムの炭酸塩、四級アンモニウムの硫化物、四級ホスホニウムの水酸化物、四級ホスホニウムの炭酸塩、四級ホスホニウムの硫化物、芳香環中に窒素原子を有する含窒素ヘテロ芳香族化合物、芳香族アミン化合物等を挙げることができる。
【0062】
「一級〜三級アミン化合物」としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン等の一級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン等の二級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン等の三級アミン等を挙げることができる。
【0063】
「四級アンモニウムの水酸化物」としては、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等を、「四級アンモニウムの炭酸塩」としては、テトラメチルアンモニウムカルボネート、テトラブチルアンモニウムカルボネート等を、「四級アンモニウムの硫化物」としては、テトラメチルアンモニウムスルフェート、テトラブチルアンモニウムスルフェート等を挙げることができる。
【0064】
「四級ホスホニウムの水酸化物」としては、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド等を、「四級ホスホニウムの炭酸塩」としては、テトラメチルホスホニウムカルボネート、テトラブチルホスホニウムカルボネート等を、「四級ホスホニウムの硫化物」としては、テトラメチルホスホニウムスルフェート、テトラブチルホスホニウムスルフェート等を挙げることができる。
【0065】
「含窒素ヘテロ芳香族化合物」としては、ピリジン、ピロール、ルチジン等を、「芳香族アミン化合物」としては、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン等を挙げることができる。
【0066】
本発明の製造方法においては、前記の塩基の中でも、ブレンステッド塩基を用いることが好ましく、有機塩基を用いることがより好ましく、四級アンモニウムの水酸化物、四級アンモニウムの炭酸塩を用いることが更に好ましく、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラメチルアンモニウムカルボネート、テトラブチルアンモニウムカルボネートを用いることが一層好ましく、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いることが特に好ましい。
【0067】
色素溶液は、前記塩基を0.0001〜50mNの濃度で含有するものが好ましく、0.001〜20mNの濃度で含有するものが更に好ましく、0.01〜10mNの濃度で含有するものが特に好ましい。
【0068】
色素溶液の溶媒としては、水、極性有機溶媒又はこれらの混合溶媒を用いることが好ましい。極性有機溶媒としては、例えば、エーテル、アルコール、ニトリル、アミド、スルホキシド等を挙げることができる。
【0069】
「エーテル」としては、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等を、「アルコール」としては、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等を、「ニトリル」としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル、プロピオノニトリル等を、「アミド」としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を、「スルホキシド」としては、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0070】
本発明の製造方法においては、前記の溶媒の中でも、アルコール、ニトリル又はアミドを用いることが好ましく、エタノール、メタノール、ブタノール又はアセトニトリルを用いることが更に好ましい。また、前記溶媒の混合溶媒としては、アルコールとニトリルとの混合溶媒を用いることが好ましく、ブタノールとアセトニトリルとの混合溶媒を用いることが更に好ましい。
【0071】
陰極と色素溶液とを接触させる方法については特に制限はないが、陰極を色素溶液に浸漬することにより、酸化物薄膜電極に色素を吸着させる方法を好適に用いることができる。
【0072】
浸漬時間は、0.5〜100時間とすることが好ましく、2〜50時間とすることが更に好ましく、12〜24時間とすることが特に好ましい。
【0073】
浸漬の際の温度は、0〜100℃とすることが好ましく、温度を10〜50℃とすることが更に好ましい。
【0074】
[3−3]電池の形成:
色素増感太陽電池は、例えば、容器中に電解質溶液を満たした上で、その電解質溶液中において、陽極と陰極とが対向するように配置することにより形成することができる。例えば、陽極と陰極とをスペーサーを挟み込んだ状態で固定することにより、陽極と陰極とを所望の間隔で離隔させた状態で対向させることができる。また、電解質として固体電解質を用いる場合には、陰極、固体電解質、陽極を順次積層する等の方法でも、陽極と陰極とを所望の間隔で離隔させた状態で対向させることができる。
【実施例】
【0075】
[色素の合成]
(実施例1)
下記式(16)で示される色素を合成した(以下、「色素T1」と記す。)。
【化30】

【0076】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においた無水N,N−ジメチルホルムアルミド5mLに対し、三塩化ルテニウム520mg及び減圧乾燥した4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン950mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら200℃にて5時間反応させた。次いで、反応液を放冷して室温まで降温し、減圧条件下、溶媒を留去して濃縮し、その濃縮物に2N塩酸1mL及び水10mLを加え、更に室温で撹拌して、生成物を析出させた。その後、析出物を濾取することにより、500mgの生成物を得た(以下、この生成物を「D1」と記す。)。
【0077】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においたエチレングリコール15mLに、「D1」100mg及び減圧乾燥した2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジン59mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、160℃にて2時間反応した。この反応液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド600mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。
【0078】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、ジエチルエーテル50mL、メタノール15mLを加えたところ、生成物が析出した。一晩静置した後、濾取した析出物を、少量のメタノールに溶解し、カラムクロマト法により精製することにより、60mgの生成物を得た。精製用のカラムとしては、Sephadex LH−20(商品名:Amersham Biosciences社製)を用いた。この精製物をH−NMRで分析したところ、前記式(16)で表される色素T1であることが確認できた。
H−NMR(CDOD、400MHz、δ(ppm));δ=9.05(4H)、8.32(1H)、8.12(1H)、7.90(4H)、7.77(4H)、7.58(1H)、7.00(1H)、6.42(1H)、5.85(1H)]
【0079】
(実施例2)
下記式(17)で表される色素を合成した(以下、「色素T2」と記す。)。
【化31】

【0080】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においたエチレングリコール12mLに、実施例1で合成した「D1」75mg及び減圧乾燥した2−フェニルピリジン(合成例1で合成したもの)40mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、160℃にて2時間反応した。この反応液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド460mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。
【0081】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、ジエチルエーテル50mL、メタノール15mLを加えたところ、生成物が析出した。一晩静置した後、濾取した析出物を、実施例1に準じた方法で処理することにより、60mgの精製物を得た。この精製物をH−NMRで分析したところ、前記式(17)で示される色素T2であることが確認できた。
H−NMR(CDOD、400MHz、δ(ppm));δ=9.07(1H)、9.02(1H)、8.93(1H)、8.88(2H)、8.15(1H)、8.05(1H)、7.90(5H)、7.75(1H)、7.70(1H)、7.64(1H)、7.60(1H)、6.95(1H)、6.90(1H)、6.80(1H)、6.40(1H)]
【0082】
(実施例3)
下記式(18)で示される色素を合成した(以下、「色素T3」と記す)。
【化32】

【0083】
(1)配位子の合成:
容器中に4,4’−ジメチルピリジン4.0g、2,5−ジメトキシホルムアルデヒド10g、t−ブチルアルコキシカリウム10gをジメチルホルムアルデヒド240mLに溶かして仕込み、窒素置換を行った後に、24時間室温で反応させた。反応後、溶媒を除去し、残渣にメタノール400mLを加え、析出物を濾過し、下記式(19)で表される目的物8.85gを得た。
H−NMR(CDCl3、298K、400MHz、δ(ppm));δ=8.67(2H)、8.50(2H)、7.50(4H)、7.48(2H)、7.42(2H)、7.40(2H)、7.00(2H)、3.23(6H)、3.05(6H)]
【化33】

【0084】
(2)色素の合成:
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においた無水N,N−ジメチルホルムアミド25mLに、二塩化(p−シメン)ルテニウム(II)100mg及び減圧乾燥した上記式(19)に記載の化合物148mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、100℃にて4時間反応した。この反応液に、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン76mgを加え、10分間、窒素気流下においた。引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、150℃にて4時間反応させた。
【0085】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、溶媒を留去させた後、N,N−ジメチルホルムアミド5mLを加え、その溶液を水100mLに滴下したところ、生成物が析出した。減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においたエチレングリコール20mLに、濾取した析出物100mg及び減圧乾燥した2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジン(合成例2で合成したもの)42mgを添加して溶液を調製し、10分間窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、160℃にて2時間反応させた。この反応液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド266mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。
【0086】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、0.1N硝酸を滴下してpHを5.0に調整し、ジエチルエーテル50mL、メタノール15mLを加えたところ、生成物が析出した。一晩静置した後に濾取した析出物を、実施例1に準じた方法で処理することにより、55mgの精製物を得た。この精製物をH−NMRで分析したところ、前記式(18)で表される色素T3であることが確認できた。
H−NMR(CDOD、400MHz、δ(ppm));δ=9.05(1H)、8.95(1H)、8.60(2H)、8.30(2H)8.10(1H)、7.90(1H)、7.85(1H)、7.80(1H)、7.78(1H)、7.68(1H)、7.62(1H)、7.58(2H)、7.40(1H)、7.38(2H)、7.25(2H)、7.00(1H)、6.85(4H)、6.10(1H)、3.25(3H)、3.24(1H)、3.22(3H)、3.19(3H)]
【0087】
(実施例4)
下記式(20)で示される色素を合成した(以下、「色素T4」と記す。)。
【化34】

【0088】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においた無水N,N−ジメチルホルムアルミド5mLに対し、三塩化ルテニウム300mg及び減圧乾燥した4,4’,4”−トリカルボキシ−2,2’,2”−ターピリジン500mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら200℃にて5時間反応させた。次いで、反応液を放冷して室温まで降温し、減圧条件下、溶媒を留去して濃縮し、その濃縮物に2N塩酸1mL及び水10mLを加え、更に室温で撹拌して、生成物を析出させた。その後、析出物を濾取することにより、350mgの生成物を得た(以下、この生成物を「D2」と記す。)。
【0089】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においたエチレングリコール20mLに、「D2」100mg及び減圧乾燥した2,6−ジ(2−ピリジル)ベンゼン150mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、160℃にて2時間反応した。この反応液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド400mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。
【0090】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、エチレングリコールを減圧下で留去し、蒸留水20mLを加え、0.15N硝酸を滴下してpHを3.0に調整したところ、生成物が析出した。一晩静置した後、濾取した析出物を、実施例1に準じた方法で処理することにより、120mgの精製物を得た。この精製物をH−NMRで分析したところ、前記式(20)で表される色素T4であることが確認できた。
H−NMR(CDOD、400MHz、δ(ppm));δ=9.05(1H)、8.92(1H)、8.88(1H)、8.58(2H)8.10(1H)、7.65(1H)、7.55(1H)、7.52(1H)、7.46(1H)、7.32(1H)、7.22(1H)、7.21(2H)、7.15(2H)、7.12(1H)、6.85(1H)、6.10(1H)]
【0091】
(実施例5)
下記式(21)で示される色素を合成した(以下、「色素T5」と記す。)。
【化35】

【0092】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においたエチレングリコール20mLに、「D2」100mg及び減圧乾燥した2−(2−ピリジル)−6−フェニルピリジン150mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、160℃にて2時間反応した。この反応液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド400mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。
【0093】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、エチレングリコールを減圧下で留去し、蒸留水20mLを加え、0.15N硝酸を滴下してpHを3.0に調整したところ、生成物が析出した。一晩静置した後、濾取した析出物を、実施例1に準じた方法で処理することにより、80mgの精製物を得た。この精製物をH−NMRで分析したところ、前記式(21)で表される色素T5であることが確認できた。
H−NMR(CDOD、400MHz、δ(ppm));δ=9.03(1H)、8.90(2H)、8.58(2H)、8.10(1H)、7.65(1H)、7.55(1H)、7.52(1H)、7.46(1H)、7.32(1H)、7.25(2H)、7.21(3H)、6.99(1H)、6.91(1H)、6.30(1H)]
【0094】
(実施例6)
下記式(22)で示される色素を合成した(以下、「色素T6」と記す。)。
【化36】

【0095】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においたエチレングリコール20mLに、「D2」100mg及び減圧乾燥した2−フェニルピリジン150mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、160℃にて2時間反応した。この反応液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド400mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。この反応液に更にチオシアン酸カリウム250mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。
【0096】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、エチレングリコールを減圧下で留去し、蒸留水20mLを加え、0.15N硝酸を滴下してpHを3.0に調整したところ、生成物が析出した。一晩静置した後、濾取した析出物を、実施例1に準じた方法で処理することにより、100mgの精製物を得た。この精製物をH−NMRで分析したところ、前記式(22)で表される色素T6であることが確認できた。
H−NMR(CDOD、400MHz、δ(ppm));δ=9.03(1H)、8.88(2H)、8.48(2H)、8.10(1H)、7.65(1H)、7.35(1H)、7.32(1H)、7.20(2H)、7.15(2H)、6.80(1H)、6.50(1H)、6.30(1H)]
【0097】
(実施例7)
下記式(23)で示される色素を合成した(以下、「色素T7」と記す。)。
【化37】

【0098】
減圧脱気を行った後、窒素雰囲気下においたエチレングリコール20mLに、「D2」100mg及び減圧乾燥した2,6−(N,N’−ブチルイミダゾーリル)ベンゼン150mgを添加して溶液を調製し、10分間、窒素気流下においた。窒素雰囲気下、前記溶液を撹拌しながら、160℃にて2時間反応した。この反応液に、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド400mgを加え、引き続き撹拌しながら、窒素雰囲気下、160℃にて4時間反応させた。
【0099】
反応終了後、反応液を放冷して室温まで降温し、エチレングリコールを減圧下で留去し、蒸留水20mLを加え、0.15N硝酸を滴下してpHを3.0に調整したところ、生成物が析出した。一晩静置した後、濾取した析出物を、実施例1に準じた方法で処理することにより、80mgの精製物を得た。この精製物をH−NMRで分析したところ、前記式(23)で表される色素T7であることが確認できた。
H−NMR(CDOD、400MHz、δ(ppm));δ=9.03(1H)、8.90(2H)、8.88(2H)、8.85(1H)、8.55(1H)、8.48(1H)、8.26(1H)、7.85(2H)、7.80(2H)、7.78(2H)、7.65(2H)、5.45(1H)、5.30(1H)、3.23(4H)、1.86(4H)、1.78(4H)、1.53(6H)]
【0100】
[色素増感太陽電池の製造]
(1)陽極の製造:
透明導電性ガラスからなる基材(厚さ4mm、酸化スズ製、抵抗値=10Ω/cm)の表面に白金を焼結することにより、陽極を得た。
【0101】
(2)酸化物薄膜電極の製造:
アセチルアセトン0.4mLとイオン交換水20mLの混合媒体中に、酸化チタン微粒子12g及び分散剤(商品名:Triton X−100、アルドリッチ社製)0.2gを添加し、酸化物スラリーを調製した。この酸化物スラリーを、陽極の製造に用いたのと同じ透明導電性ガラスからなる基材の表面に塗布し、空気雰囲気中、500℃で0.5時間加熱することにより、透明導電性ガラスからなる基材の表面に、酸化チタンからなる酸化物薄膜電極を形成した。
【0102】
(3)色素溶液の調製:
実施例1〜7で製造した色素T1〜T7及び塩基をエタノールに溶解させて、色素の濃度が0.5mmol/Lである色素溶液を調製した。また、比較例1として、市販の色素「N719」をエタノールに溶解し、色素の濃度が0.5mmol/Lである色素溶液を調製した。
【0103】
(4)陰極の製造:
前記した、酸化物薄膜電極が形成された基材を、前記色素溶液中に、23℃にて24時間浸漬することにより、酸化物薄膜電極に色素を吸着させ、陰極を製造した。
【0104】
(5)電解質溶液の製造:
アセトニトリル/バレロニトリル混合溶媒(体積比:85/15)に、グアニジウムチオシアネートを0.1mol/L、ヨウ素を0.03mol/L、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨードニウム塩を0.6mol/L及びt−ブチルピリジンを0.5mol/Lの濃度で溶解させて電解質溶液を製造した(以下、「電解質溶液E1」と記す。)。
【0105】
アセトニトリル/バレロニトリル混合溶媒(体積比:85/15)に、リチウムヨードニウム塩を0.1mol/L、ヨウ素を0.05mol/L及び1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヨードニウム塩を0.6mol/Lの濃度で溶解させて電解質溶液を製造した(以下、「電解質溶液E2」と記す。)。
【0106】
3−メトキシプロピオニトリルに、グアニジウムチオシアネートを0.1mol/L、ヨウ素を0.15mol/L、1−メチル3−プロピルイミダゾリウムヨードニウム塩を1.0mol/L、N−ブチルベンジミダゾル(N−Butylbenzimidazole)を0.5mol/Lの濃度で溶解させて電解質溶液を製造した(以下、「電解質溶液E3」と記す。)。
【0107】
(6)色素増感太陽電池の製造:
前記陽極の白金焼結面と、前記陰極の酸化物薄膜電極形成面が対向するように、両電極を25μmの間隔で容器中に配置し、当該容器中に前記電解質溶液E1、E2又はE3を注入して、色素増感太陽電池を製造した(実施例8〜19、比較例2〜3)。
【0108】
[色素増感太陽電池の評価]
(1)変換効率(発電効率):
実施例及び比較例の色素増感太陽電池に対し、ソーラーシミュレーターを用いて、疑似太陽光を100mW/cmの照度で照射し、変換効率を測定した。変換効率が6%以上の場合は、「良好/○」、6%未満の場合は「不良/×」として評価した。その結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
表1に示すように、実施例1〜7の色素(T1〜T7)を用いた、実施例8〜21の色素増感太陽電池は、N719を用いた、比較例2及び3の色素増感太陽電池と同等の高い変換効率を示した。
【0111】
(2)耐久性:
実施例及び比較例の色素増感太陽電池を、333K、100mW/cmの雰囲気下で保持した。保持後の色素増感型太陽電池に対し、ソーラーシミュレーターを用いて、疑似太陽光を100mW/cmの照度で30日間照射し、当初変換効率と30日経過後の変換効率を測定した。
【0112】
耐久性については、当初の変換効率(変換効率A)に対する30日経過後の変換効率(変換効率B)の百分率により評価した。60%以上の場合は、「良好/○」、60%未満の場合は「不良/×」として評価した。また、当初の変換効率(変換効率A)については、4%以上の場合は、「良好/○」、4%未満の場合は「不良/×」として評価した。30日経過後の変換効率(変換効率B)については、2%以上の場合は、「良好/○」、2%未満の場合は「不良/×」として評価した。これらの結果を表2に示す。
【0113】
【表2】

【0114】
表2に示すように、実施例1の色素(T1)を用いた、実施例22の色素増感太陽電池は、N719を用いた、比較例4の色素増感太陽電池より、高い耐久性を示した。なお、表には示さなかったが、色素T2〜T7を用いた色素増感太陽電池も、実施例22の色素増感太陽電池と同様に、N719を用いた、比較例4の色素増感太陽電池より、高い耐久性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の色素増感太陽電池は、高い変換効率を示し、耐候性及び耐熱性等の耐久性にも優れるため、シリコン系太陽電池に代わる次世代の太陽電池として好適に用いることができる。また、本発明の色素及び色素増感太陽電池の製造方法は、本発明の色素増感太陽電池の製造に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される色素。
ML :(1)
〔但し、Mは長周期律表上の8〜10族の元素であり、L及びLは相互に独立して、下記一般式(2)で表される二座配位子であり、Lは下記一般式(3)で表される二座配位子である。〕
【化1】

〔一般式(2)において、R及びRは相互に独立して、一価の有機基である。〕
【化2】

〔一般式(3)において、Xはハロゲン原子、nは0〜2の整数である。〕
【請求項2】
下記一般式(4)で表される色素。
ML :(4)
〔但し、Mは長周期律表上の8〜10族の元素であり、Lは下記一般式(5)で表される三座配位子であり、Lは下記一般式(6)、(7)又は(8)で表される三座配位子である。〕
【化3】

〔一般式(5)において、R、R及びRは相互に独立して、カルボキシル基若しくはその塩に相当する基又はカルボキシアルキル基を表す。〕
【化4】

【化5】

〔一般式(7)において、Rは相互に独立して、炭素数1〜8の炭化水素基を表す。〕
【化6】

【請求項3】
下記一般式(9)で表される色素。
ML :(9)
〔但し、Mは長周期律表上の8〜10族の元素であり、Lは下記一般式(3)で表される二座配位子であり、Lは下記一般式(5)で表される三座配位子であり、Aはイソチオシアネート基である。〕
【化7】

〔一般式(3)において、Xはハロゲン原子、nは0〜2の整数である。〕
【化8】

〔一般式(5)において、R、R及びRは相互に独立して、カルボキシル基若しくはその塩に相当する基又はカルボキシアルキル基を表す。〕
【請求項4】
前記一般式(1)、(4)又は(9)において、Mがルテニウムである請求項1〜3のいずれか一項に記載の色素。
【請求項5】
陽極と、陰極と、電解質とを備え、
前記陰極は、透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有し、前記酸化物薄膜電極に、請求項1〜4のいずれか一項に記載の色素が吸着されている色素増感太陽電池。
【請求項6】
透明導電性ガラスからなる基材と、その表面に形成された酸化物薄膜電極とを有する陰極に対し、請求項1〜4のいずれか一項に記載の色素及び塩基を含有する色素溶液を接触させ、前記酸化物薄膜電極に前記色素を吸着させる工程を備えた色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記色素溶液として、前記塩基の濃度が0.001〜20mmol/Lである色素溶液を用いる請求項6に記載の色素増感太陽電池の製造方法。

【公開番号】特開2009−67976(P2009−67976A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334611(P2007−334611)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(501300470)エコール ポリテクニーク フェデラル ドゥ ローザンヌ(エーペーエフエル) (3)
【Fターム(参考)】