説明

色素、電極および光電変換素子

【課題】耐久性の高い光電変換素子を提供する。
【解決手段】色素増感型の光電変換素子において、作用電極10の金属酸化物半導体層12に色素14が担持されている。この色素14は、中心金属と、アゾ基(−N=N−)およびアゾメチン基(−CH=N−)のうちの少なくとも一方を有すると共に中心金属に多座配位する第1の配位子と、中心金属に配位する電子供与性の第2の配位子とを含む色素を含んでいる。この色素14では、第1および第2の配位子の双方を含む色素を含んでいるため、分解が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素、それを用いた電極、ならびにそれを用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多様な技術分野において、色素が広く使用されている。一例を挙げると、太陽電池などの光電変換素子の分野では、酸化物半導体電極に色素を担持させ増感させる色素増感型光電変換素子に用いられている。
【0003】
この色素増感型光電変換素子は、理論的に高い効率が期待でき、従来のシリコン半導体を用いた光電変換素子より、コスト的に非常に有利であると考えられている(例えば特許文献1参照)。従来の色素増感型光電変換素子に用いられる色素としては、配位子として4,4'−ジカルボン酸−2,2'−ビピリジンおよびチオシアン酸を含むルテニウム(Ru)錯体が既に知られている。
【特許文献1】特開2003−308891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の色素は、安定性の面において充分とは言えないため、その色素を用いた光電変換素子では、耐久性に問題が残る。具体的には、従来の色素は光にさらされると分解されやすいため、その色素を用いた光電変換素子では、光電変換効率が低下し、素子として機能しなくなる虞がある。
【0005】
本発明はかかる問題点を鑑みてなされたもので、その第1の目的は、安定性の高い色素を提供することにある。
【0006】
また、本発明の第2の目的は、耐久性の高い電極および光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の色素は、中心金属と、アゾ基(−N=N−)およびアゾメチン基(−CH=N−)のうちの少なくとも一方を有すると共に中心金属に多座配位する第1の配位子と、中心金属に配位する電子供与性の第2の配位子とを含むものである。なお、多座配位とは、中心金属に対して2以上の配位結合により配位することである。
【0008】
本発明の電極は、上記した色素と、この色素を担持する担持体とを含むものである。また、本発明の光電変換素子は、この電極を備えるものである。
【0009】
本発明の色素では、アゾ基およびアゾメチン基のうちの少なくとも一方を有すると共に中心金属に多座配位する第1の配位子と、中心金属に配位する電子供与性の第2の配位子との双方を含むことから、分解が抑制される。
【0010】
本発明の電極および光電変換素子では、上記した色素を含むことから、担持体に色素が定着しやすくなる。特に、色素が電子吸引性基を有すれば、より定着しやすくなる。なお、担持体は、金属酸化物を使用することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の色素によれば、中心金属と、アゾ基およびアゾメチン基のうちの少なくとも一方を有すると共に中心金属に多座配位する第1の配位子と、中心金属に配位する電子供与性の第2の配位子とを含むようにしたので、安定性を向上させることができる。よって、この色素を用いた電極および光電変換素子によれば、耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の一実施の形態に係る色素は、中心金属と、その中心金属に配位する第1および第2の配位子とを含んでいる。
【0014】
中心金属は、有機錯体化合物を形成可能な金属元素であり、例えば、長周期型周期表における4族から15族の金属元素である。この種の中心金属としては、例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)などが挙げられる。
【0015】
第1の配位子は、アゾ基およびアゾメチン基のうちの少なくとも一方を有し、中心金属に対して2以上の配位結合が可能な構造を有するものである。アゾ基またはアゾメチン基には、2以上の原子団が結合している。この原子団としては、例えば、芳香族の炭素環化合物またはその誘導体を骨格として持つ基や、芳香族の複素環化合物またはその誘導体を骨格として持つ基が好ましい。この原子団の骨格の一例としては、下記の化1に表す骨格が挙げられる。すなわち、(1)のピリジン骨格、(2)のキノリン骨格、(3)のイミダゾール骨格、(4)のベンゾイミダゾール骨格、(5)のベンゾチアゾール骨格、(6)の1,2,4−トリアゾール骨格、(7)のフェノール骨格、(8)のベンゾチオール骨格、(9)のベンゼン骨格、(10)のナフタレン骨格、(11)のアントラセン骨格、(12)のアズレン骨格などである。これらの骨格を有していれば、アゾ基またはアゾメチン基に結合する位置は限定されず、さらに骨格の一部が置換されていてもよい。また、各原子団は、互いに同じ骨格を有するものでもよく、互いに異なる骨格を有するものでもよい。
【0016】
【化1】

(Rは置換基(水素基を含む。)を表す。)
【0017】
第1の配位子は、さらに電子吸引性基を有することが好ましい。この場合、電子吸引性基は、原子団に1または2以上導入されている。この電子吸引性基としては、例えば、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)、リン酸基(−PO3H)が好ましい。
【0018】
第1の配位子の一例としては、下記の化2に表す化合物が挙げられる。すなわち、(1)は、2−(4−カルボキシ−2−メトキシ−フェニルアゾ)−キノリン−4−カルボン酸であり、1つのアゾ基および2つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(2)は、3−メトキシ−4−(2−メチルスルファニル−フェニルアゾ)−ナフタレン−1−カルボン酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(3)は、3−(2,5−ジメチル−2H−[1,2,4]トリアゾール−3−イルアゾ)−4−メトキシ−ベンゼンスルホン酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(スルホン酸基)を有するものである。(4)は、4−(4−ジエチルアミノ−2−メトキシ−フェニルアゾ)−3−メトキシ−安息香酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(5)は、6−(1−メチル−1H−ピロール−2−イルアゾ)−7−メチルスルファニル−ナフタレン−2−カルボン酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(6)は、2−メトキシ−3−(3,4,5−トリメトキシ−フェニルアゾ)−アズレン−1−カルボン酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。
【0019】
【化2】

【0020】
また、第1の配位子の一例としては、下記の化3に表す化合物が挙げられる。すなわち、(1)は、6−(2−メチルスルファニル−フェニルアゾ)−ニコチン酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(2)は、2−(5−ジメチルアミノ−ピリジン−2−イルアゾ)−イソニコチン酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(3)は、2−(イソキノリン−3−イルアゾ)−1H−イミダゾール−4,5−ジカルボン酸であり、1つのアゾ基および2つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(4)は、3−(4−ジメチルアミノ−イソキノリン−1−イルアゾ)−ベンゼンスルホン酸であり、1つのアゾ基および1つの電子吸引性基(スルホン酸基)を有するものである。(5)は、3−メトキシ−4−[(2,4,6−トリメトキシ−ベンジリデン)−アミノ]−安息香酸であり、1つのアゾメチン基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。(6)は、3−メトキシ−4−[(キノリン−2−イルメチレン)−アミノ]−安息香酸であり、1つのアゾメチン基および1つの電子吸引性基(カルボキシル基)を有するものである。
【0021】
【化3】

【0022】
第2の配位子は、電子供与性の配位子であり、中心金属に対して単座配位するものでも多座配位するものでもよい。単座配位するものとしては、例えば、チオシアン酸(NCS)、シアニド(CN)、シアン酸(NCO)、塩素(Cl)、ヨウ素(I)および臭素(Br)からなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。
【0023】
この色素では、アゾ基およびアゾメチン基のうちの少なくとも一方を有すると共に中心金属に多座配位する第1の配位子と、中心金属に配位する電子供与性の第2の配位子との双方を含むことから、高温環境であっても、分解が抑制される。
【0024】
この色素は、単体で使用されてもよいし、あるいは他の材料と混合して使用されてもよい。また、この色素は、例えば、電極を構成する色素として、光電変換素子に使用可能である。その場合、第1の配位子が電子吸引性基を有することで、耐久性が向上する。
【0025】
この色素によれば、中心金属と、アゾ基およびアゾメチン基のうちの少なくとも一方を有すると共に中心金属に多座配位する第1の配位子と、電子供与性を有する第2の配位子とを含むようにしたので、上記したように、高温環境であっても、分解が抑制される。したがって、安定性を向上させることができる。
【0026】
次に、本実施の形態に係る色素の使用例について説明する。ここで、色素を有する電極を備えた光電変換素子を例に挙げると、本実施の形態の色素は、以下のようにして光電変換素子に用いられる。
【0027】
図1は、光電変換素子の断面構成を模式的に表すものであり、図2は、図1に示した光電変換素子の主要部を抜粋および拡大して表すものである。図1および図2に示した光電変換素子は、いわゆる色素増感型太陽電池の主要部である。この光電変換素子は、作用電極10と対向電極20が電解質含有体30を介して対向配置されたものであり、作用電極10と対向電極20の少なくとも一方は、光透過性を有する電極である。
【0028】
作用電極10は、例えば、導電性基板11に金属酸化物半導体層12が設けられ、この金属酸化物半導体層12を担持体として色素14が担持されている構造を有している。導電性基板11は、例えば、絶縁性の基板11Aの表面に導電層11Bを設けたものである。
【0029】
基板11Aの材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、透明ポリマーフィルムなどの絶縁性材料が挙げられる。透明ポリマーフィルムとしては、例えばテトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオクタチックポリステレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシなどが挙げられる。
【0030】
導電層11Bとしては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、酸化スズにフッ素をドープしたもの(FTO)などの導電性金属酸化物薄膜や、金(Au)、銀(Ag)、白金などの金属薄膜や、導電性高分子などで形成されたものが挙げられる。
【0031】
なお、導電性基板11は、例えば、導電性を有する材料によって単層構造となるように構成されていてもよく、その場合、導電性基板11の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、酸化スズにフッ素をドープしたもの(FTO)などの導電性金属酸化物、金、銀、白金などの金属、導電性高分子などが挙げられる。
【0032】
金属酸化物半導体層12は、例えば、緻密層12Aと多孔質層12Bとから形成されている。導電性基板11との界面においては、緻密層12Aが形成され、この緻密層12Aは緻密で空隙が少ないことが好ましく、膜状であることがより好ましい。電解質含有体30と接する表面においては、多孔質層12Bが形成され、この多孔質層12Bは空隙が多く、表面積が大きくなる構造が好ましく、特に多孔質の微粒子が付着している構造が好ましい。金属酸化物半導体の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。好ましくは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブであり、最も好ましくは酸化チタンである。また、これら金属酸化物半導体は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を複合(混合、混晶、固溶体など)させて用いてもよく、例えば、酸化亜鉛と酸化スズ、酸化チタンと酸化ニオブなどの組み合わせで使用することもできる。
【0033】
金属酸化物半導体層12に担持される色素14は、上記した本発明の色素を含んでいる。この色素は単独で用いてもよく、他の有機色素、有機金属錯体化合物を複数混合して用いてもよい。他の色素は、金属酸化物半導体層12と化学的に結合することができる電子吸引性の置換基を有する色素が好ましく、特に分子内にカルボキシル基、スルホン酸基、もしくはリン酸基を有するものが好ましい。
【0034】
他の色素としては、例えば、エオシンY、ジブロモフルオレセイン、フルオレセイン、ロ−ダミンB、ピロガロ−ル、ジクロロフルオレセイン、エリスロシンB(エリスロシンは登録商標)、フルオレシン、マ−キュロクロム、シアニン系色素、メロシアニンジスアゾ系色素、トリスアゾ系色素、アントラキノン系色素、多環キノン系色素、インジゴ系色素、ジフェニルメタン系色素、トリメチルメタン系色素、キノリン系色素、ベンゾフェノン系色素、ナフトキノン系色素、ペリレン系色素、フルオレノン系色素、スクアリリウム系色素、アズレニウム系色素、ペリノン系色素、キナクリドン系色素、無金属フタロシアニン系色素、無金属ポルフィリン系色素などの有機色素などが挙げられる。
【0035】
また、有機金属錯体化合物も好ましく、特に、芳香族複素環内にある窒素アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物や、酸素アニオンもしくはイオウアニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子またはカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物が好ましい。具体的には、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン系色素、金属ナフタロシアニン系色素、金属ポルフィリン系色素、ビピリジルRu錯体、タ−ピリジルRu錯体、フェナントロリンRu錯体、ビシンコニン酸Ru、キノリノールRu錯体などのRu錯体などが挙げられる。
【0036】
対向電極20は、例えば、導電性基板21に導電層22を設けたものである。導電性基板21の材料としては、例えば、作用電極10の導電性基板11と同様の材料が挙げられる。導電層22に用いる導電材としては、例えば、白金、金、銀、銅、ロジウム、ルテニウム、アルミニウム、マグネシウム、インジウムなどの金属、炭素(C)、または導電性高分子などが挙げられる。これらの導電材は、単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。また必要に応じて、結着材としてアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、メラミン樹脂、フロロエラストマー、ポリイミド樹脂などを用いてもよい。なお、対向電極20は、例えば、導電層22の単層構造でもよい。
【0037】
電解質含有体30としては、例えば、レドックス電解質を含むものなどが挙げられる。レドックス電解質としては、例えば、I-/I3-系や、Br-/Br3-系、キノン/ハイドロキノン系などが挙げられる。このようなレドックス電解質は、例えば、I-/I3-系の電解質の場合、ヨウ素のアンモニウム塩とヨウ素を混合することによって得ることができる。電解質含有体30は、液体電解質でもよく、これを高分子物質中に含有させた固体高分子電解質でもよい。液体電解質の溶媒としては、電気化学的に不活性なものが用いられ、例えば、アセトニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0038】
また、電解質含有体30として、例えば、レドックス電解質に代えて、固体電解質などの固体電荷移動層を設けてもよい。固体電荷移動層は、例えば、固体中のキャリアー移動が電気伝導にかかわる材料を有している。この材料としては、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料などが好ましい。
【0039】
正孔輸送材料としては、芳香族アミン類やトリフェニレン誘導体類などが好ましく、例えば、オリゴチオフェン化合物、ポリピロール、ポリアセチレンおよびその誘導体、ポリ(p−フェニレン)およびその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)およびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、ポリトルイジンおよびその誘導体などの有機導電性高分子などが挙げられる。
【0040】
また、正孔輸送材料としては、例えば、p型無機化合物半導体を用いてもよい。このp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、さらに2.5eV以上であることが好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは色素の正孔を還元できる条件から、作用電極10(色素吸着電極)のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、一般に4.5eV以上5.5eV以下であることが好ましく、さらに4.7eV以上5.3eV以下であることが好ましい。
【0041】
p型無機化合物半導体としては、例えば、一価の銅を含む化合物半導体が挙げられる。一価の銅を含む化合物半導体の一例としては、CuI、CuSCN、CuInSe2、Cu(In,Ga)Se2、CuGaSe2、Cu2O、CuS、CuGaS2、CuInS2、CuAlSe2などがある。このほかのp型無機化合物半導体として、例えば、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi23、MoO2、Cr23などが挙げられる。
【0042】
このような固体電荷移動層の形成方法としては、作用電極10の上に直接、固体電荷移動層を形成する方法があり、そののち対向電極20を形成付与してもよい。
【0043】
有機導電性高分子を含む正孔輸送材料は、例えば、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法、光電解重合法などの手法により電極内部に導入することができる。無機固体化合物の場合も、例えば、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解メッキ法などの手法により電極内部に導入することができる。
【0044】
このように形成される固体電荷移動層(特に、正孔輸送材料を有するもの)の一部は、金属酸化物半導体層の多孔質構造の隙間に部分的に浸透し、直接接触する形態となることが好ましい。
【0045】
この光電変換素子は、例えば、以下のように製造することができる。
【0046】
まず、例えば、導電性基板11の導電層11Bが形成されている面に金属酸化物半導体層12を形成し、金属酸化物半導体層12に色素14を担持させることにより、作用電極10を作製する。この金属酸化物半導体層12を形成する際には、金属酸化物半導体の粉末を金属酸化物半導体のゾル液に分散させることにより、金属酸化物スラリーとし、その金属酸化物スラリーを導電性基板11に塗布して乾燥させたのち、焼成する。この金属酸化物半導体層12が形成された導電性基板11を、有機溶媒に上記した色素14を溶解した色素溶液に浸漬し、色素14を担持させる。
【0047】
次に、例えば、導電性基板21の片面に導電層22を形成することにより、対向電極20を作製する。導電層22は、例えば、導電材をスパッタリングすることで形成する。
【0048】
続いて、作用電極10の色素14を担持した面と、対向電極20の導電層22を形成した面とが所定の間隔を保つと共に、対向するように配置する。その作用電極10と対向電極20との間に、電解質含有体30を注入し、全体を封止する。これにより図1および図2に表した光電変換素子が完成する。
【0049】
この光電変換素子では、作用電極10に担持された色素14に光(太陽光または、太陽光と同等の可視光)があたると、光を吸収して励起した色素14が電子を金属酸化物半導体層12へ供給することで、対向電極20との間に電位差が生じ、両極間に電流が流れる。
【0050】
この光電変換素子によれば、上記した本発明の色素を含む色素14を作用電極10に担持させるようにしたので、この色素が優れた安定性を有することから、優れた耐久性が得られる。特に、第1の配位子が電子吸引性基を有していれば、色素14が金属酸化物半導体へのより高い定着性を有することから、さらに優れた耐久性が得られる。
【実施例】
【0051】
本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
【0052】
まず、本発明の色素を代表して、第1の配位子として化2(1)に示した2−(4−カルボキシ−2−メトキシ−フェニルアゾ)−キノリン−4−カルボン酸と中心金属としてルテニウムと第2の配位子としてチオシアン酸とを含む色素を合成した。合成手順は、以下の通りである。すなわち、まず、アミノ安息香酸1.67gを塩酸エタノール溶液に溶解させ、氷冷しながら亜硝酸イソアミルを加えてジアゾ化することにより、ジアゾニウム塩を得た。次に、キノリンカルボン酸をメタノールに溶解させ、酢酸と混合させたのち、氷冷した。次に、キノリンカルボン酸にジアゾニウム塩を滴下し、室温で1晩撹拌させたのち、析出物をろ過し、メタノールで洗浄することにより、第1の配位子となる化合物0.51gを得た。次に、第1の配位子となる化合物0.351gと37%水酸化テトラブチルアンモニウムメタノール溶液0.701gとをメタノール25mlに溶解させた。次に、室温で撹拌しながら、塩化ルテニウム0.257gとアンモニウムイソチオシアネート0.500gとをメタノール5mlに溶解させたものを滴下した。次に、窒素ガス下、90℃、1時間過熱還流し反応させた。室温まで冷却後、ろ過し、メタノールで洗浄した。次に、得られた固体をメタノールに溶解させ、SephadexLH-20(Sephadexは登録商標)でカラム精製した。留分を濃縮後ろ過し、乾燥させ、最終合成物0.369gを得た。この最終合成物について、質量分析および最大吸収波長の測定をした。液体クロマトグラフ質量分析装置にて、アニオン部分の分子量を測定した結果、分子量625であった。この結果より、最終合成物が第1の配位子として化2(1)に示した2−(4−カルボキシ−2−メトキシ−フェニルアゾ)−キノリン−4−カルボン酸と中心金属としてルテニウムと第2の配位子として3つのチオシアン酸とを含む化合物であると推測された。また、最大吸収波長を測定した結果、589nmにピーク波長がみられたことから、可視光領域に吸収を持つことがわかった。
【0053】
また、第1の配位子として化3(5)に示した3−メトキシ−4−[(2,4,6−トリメトキシ−ベンジリデン)−アミノ]−安息香酸と中心金属としてルテニウムと第2の配位子としてチオシアン酸とを含む色素を合成した。その合成手順は、以下の通りである。すなわち、まず、アミノメトキシ安息香酸1.67gとトリメトキシフェニルアルデヒド1.96gとを脱水メタノール中で1時間加熱還流し反応させた。反応後、析出物をろ過し、メタノールで洗浄することにより、第1の配位子となる化合物1.64gを得た。次に、第1の配位子となる化合物0.346gと37%水酸化テトラブチルアンモニウムメタノール溶液0.701gとを脱水N,N−ジメチルホルムアミド25mlに溶解させた。次に、室温で撹拌しながら、塩化ルテニウム0.261gとアンモニウムイソチオシアネート0.500gとをメタノール5mlに溶解させたものを滴下した。次に、窒素ガス下、90℃、1時間過熱還流し反応させた。室温まで冷却後、ろ過し、メタノールで洗浄した。次に、得られた固体をメタノールに溶解させ、SephadexLH-20でカラム精製した。留分を濃縮後ろ過し、乾燥させ、最終合成物0.285gを得た。この最終合成物について、質量分析および最大吸収波長の測定をした。液体クロマトグラフ質量分析装置にて、アニオン部分の分子量を測定した結果、分子量620であった。この結果より、最終合成物が第1の配位子として化3(5)に示した3−メトキシ−4−[(2,4,6−トリメトキシ−ベンジリデン)−アミノ]−安息香酸と中心金属としてルテニウムと第2の配位子として3つのチオシアン酸とを有する化合物であると推測された。また、最大吸収波長を測定した結果、576nmにピーク波長がみられたことから、可視光領域に吸収を持つことがわかった。以上のことから、本発明の色素を合成可能であることが確認された。
【0054】
次に、上記実施の形態で説明した光電変換素子の具体例として色素増感型太陽電池を以下の要領で作製した。
【0055】
(実施例1)
まず、第1の配位子として化2(1)に示した2−(4−カルボキシ−2−メトキシ−フェニルアゾ)−キノリン−4−カルボン酸と中心金属としてルテニウムと第2の配位子としてチオシアン酸とを含む色素を用意した。次に、酸化チタンゾル液を調整した。チタンイソプロポキシド125mlを、0.1M硝酸水溶液750mlに攪拌しながら添加し、80℃で8時間激しく攪拌した。得られた液体をテフロン(登録商標)製の圧力容器内で230℃、16時間オ−トクレ−ブにて処理した。そののち沈殿物を含むゾル液を攪拌により再懸濁させた。次に、吸引濾過により、再懸濁しなかった沈殿物を除き、エバポレ−タ−で酸化チタン濃度が11質量%になるまでゾル液を濃縮した。基板への塗れ性を高めるため、Triton X-100(Tritonは登録商標)を1滴添加した。次に、酸化チタンの粉末P−25をこの酸化チタンゾル液に、酸化チタンの含有率が全体として33質量%となるように加え、自転公転を利用した遠心撹拌を1時間行い分散させ、金属酸化物スラリーとした。
【0056】
次に作用電極10を作製した。縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mmの導電性ガラス基板(F−SnO2)よりなる導電性基板11に、縦0.5cm×横0.5cmの四角形を囲むように厚さ70μmのマスキングテープを貼り、この部分に金属酸化物スラリー3mlを一様の厚さとなるように塗布して乾燥させたのち、マスキングテープを剥がし取った。次に、この基板を電気炉により500℃で焼成し、厚さ約10μmの金属酸化物半導体層12を形成した。この金属酸化物半導体層12として酸化チタン半導体層が形成された導電性基板11を、用意した色素の無水エタノール溶液に浸漬し、色素14を担持させた。
【0057】
次に、縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mm導電性ガラス基板(F−SnO2)よりなる導電性基板21の片面に、スパッタリングにより白金よりなる100nmの厚さの導電層22を形成することにより、対向電極20を作製した。予め、導電性基板21には、電解質含有体30注入用の穴(φ1mm)を2つ開けておいた。電解質含有体30は、アセトニトリルに対して、ジメチルヘキシルイミダゾリウムヨージド(0.6mol/l)、ヨウ化リチウム(0.1mol/l)、ヨウ素(0.05mol/l)、水(1mol/l)の濃度になるように調製した。
【0058】
次に、作用電極10の色素14を担持した面と、対向電極20の導電性層22を形成した面とが所定の間隔を保つために厚さ50μmのスペーサを介して貼り合わせた。このときスペーサは金属酸化物半導体層12の周りを囲むように配置した。次に、対向電極20に開けておいた穴から調整した電解質含有体13を注入したのち、全体を封止し色素増感型太陽電池を得た。
【0059】
(実施例2〜12)
金属酸化物半導体層12に担持させた色素を代えたことを除き、実施例1と同様に色素増感型太陽電池を作製した。具体的には、実施例2では、第1の配位子としては化2(2)に示した3−メトキシ−4−(2−メチルスルファニル−フェニルアゾ)−ナフタレン−1−カルボン酸、中心金属としては鉄、第2の配位子としてはヨウ素を含む色素を用いた。実施例3では、第1の配位子としては化2(3)に示した3−(2,5−ジメチル−2H−[1,2,4]トリアゾール−3−イルアゾ)−4−メトキシ−ベンゼンスルホン酸、中心金属としては白金、第2の配位子としては塩素を含む色素を用いた。実施例4では、第1の配位子としては化2(4)に示した4−(4−ジエチルアミノ−2−メトキシ−フェニルアゾ)−3−メトキシ−安息香酸、中心金属としてはニッケル、第2の配位子としてはシアン酸を含む色素を用いた。実施例5では、第1の配位子としては化2(5)に示した6−(1−メチル−1H−ピロール−2−イルアゾ)−7−メチルスルファニル−ナフタレン−2−カルボン酸、中心金属としては銅、第2の配位子としては臭素を含む色素を用いた。実施例6では、第1の配位子としては化2(6)に示した2−メトキシ−3−(3,4,5−トリメトキシ−フェニルアゾ)−アズレン−1−カルボン酸、中心金属としては亜鉛、第2の配位子としてはチオシアン酸を含む色素を用いた。実施例7では、第1の配位子としては化3(1)に示した6−(2−メチルスルファニル−フェニルアゾ)−ニコチン酸、中心金属としてはマンガン、第2の配位子としてはヨウ素を含む色素を用いた。実施例8では、第1の配位子としては化3(2)に示した2−(5−ジメチルアミノ−ピリジン−2−イルアゾ)−イソニコチン酸、中心金属としてはオスミウム、第2の配位子としては塩素を含む色素を用いた。実施例9では、第1の配位子としては化3(3)に示した2−(イソキノリン−3−イルアゾ)−1H−イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、中心金属としてはコバルト、第2の配位子としてはシアン酸を含む色素を用いた。実施例10では、第1の配位子としては化3(4)に示した3−(4−ジメチルアミノ−イソキノリン−1−イルアゾ)−ベンゼンスルホン酸、中心金属としてはアルミニウム、第2の配位子としては臭素を含む色素を用いた。実施例11では、第1の配位子としては化3(5)に示した3−メトキシ−4−[(2,4,6−トリメトキシ−ベンジリデン)−アミノ]−安息香酸、中心金属としてはルテニウム、第2の配位子としてはチオシアン酸を含む色素を用いた。実施例12では、第1の配位子としては化3(6)に示した3−メトキシ−4−[(キノリン−2−イルメチレン)−アミノ]−安息香酸、中心金属としては亜鉛、第2の配位子としてはヨウ素を含む色素を用いた。
【0060】
(比較例)
本実施例に対する比較例として、第1の配位子として4,4'−ジカルボン酸−2,2'−ビピリジンと中心金属としてルテニウムと第2の配位子としてチオシアン酸とを含む色素を用いたことを除き、他は実施例1〜12と同様にして色素増感型太陽電池を作製した。なお、4,4'−ジカルボン酸−2,2'−ビピリジンの構造式は、化4に示したとおりである。
【0061】
【化4】

【0062】
これらの実施例1〜12および比較例の色素増感型太陽電池について耐久性試験を行ったところ表1に示した結果が得られた。
【0063】
耐久性試験を行う際には、以下の手順により減少率を求めた。具体的には、色素増感型太陽電池を80℃,80%RHで500時間保存し、光電流密度(Jsc)の経時的変化を測定することにより、保存前の光電流密度に対する500時間保存後の光電流密度の減少率(%)を求めた。この減少率は、[(保存前の光電流密度−500時間保存後の光電流密度)/保存前の光電流密度]×100で表される。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示したように、実施例1〜12によれば、比較例に比べて減少率を抑えることができた。すなわち、本発明の色素増感型太陽電池によれば、高温においても色素の分解が抑制され、優れた安定性が得られるため、優れた耐久性が得られることがわかった。
【0066】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の色素の使用用途は、必ずしも既に説明した用途に限らず、他の用途であってもよい。他の用途としては、例えば、液晶表示装置のカラーフィルタなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施の形態に係る色素を担持させた電極を用いた光電変換素子の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した光電変換素子の主要部を抜粋および拡大して表す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
10…作用電極、11,21…導電性基板、11A…基板、11B…導電層、12…金属酸化物半導体層、12A…緻密層、12B…多孔質層、14…色素、20…対向電極、22…導電層、30…電解質含有体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属と、
アゾ基(−N=N−)およびアゾメチン基(−CH=N−)のうちの少なくとも一方を有すると共に前記中心金属に多座配位する第1の配位子と、
前記中心金属に配位する電子供与性の第2の配位子と
を含むことを特徴とする色素。
【請求項2】
前記第1の配位子は、さらに電子吸引性基を有することを特徴とする請求項1記載の色素。
【請求項3】
前記電子吸引性基は、カルボキシル基(−COOH)、スルホン酸基(−SO3H)およびリン酸基(−PO3H)からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項2記載の色素。
【請求項4】
前記第2の配位子は、チオシアン酸(NCS)、シアニド(CN)、シアン酸(NCO)、塩素(Cl)、ヨウ素(I)および臭素(Br)からなる群のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の色素。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の色素と、
この色素を担持する担持体と
を含むことを特徴とする電極。
【請求項6】
前記担持体は、金属酸化物であることを特徴とする請求項5記載の電極。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の電極を備えることを特徴とする光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−101063(P2008−101063A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283010(P2006−283010)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】