説明

色素および色素増感型太陽電池

【課題】変換効率に優れた色素および色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】四つの化学構造式のいずれかで表される変換効率に優れた色素であり,この色素を光増感剤とする色素増感型太陽電池を構成する。また400nm以上の波長領域において広範にモル吸光係数が高く、太陽電池としての変換効率が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素、および該色素を用いた色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、地球環境にかかる負荷が極めて低いことから、クリーンなエネルギー供給源として、より一層の普及が期待されている。特に、色素増感型太陽電池は、比較的簡単な構造のため、量産し易く、また、低コストかつ低エネルギーで製造できることから注目されている。
【0003】
一般的に、色素増感型太陽電池は、透明導電膜基板上に形成した半導体多孔質膜(酸化チタン等)に増感色素を吸着させた光極と、透明導電性基板上に白金または炭素等からなる光透過性の電極層を形成した対極とを対向させ、両極間にヨウ素やヨウ化物イオン等の酸化・還元種を含む有機電解液を充填して構成されている。
【0004】
このような色素増感型太陽電池用の色素としては、例えば、ルテニウムビピリジン錯体系色素がある。特許文献1では、式:RuLL’(NCS)において、式中のL、L’はアンカー配位子であり、Lは4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、L’は4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジンで示される色素(以下、Z−907色素)を用いた太陽電池が、熱応力および光ソーキングの両方下で安定な性能を有し、十分な太陽光において、6%超の効率に達することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2008−507570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、Z−907色素は、その光吸収スペクトルが短波長側にシフトしており、かつモル吸光係数も低い。従って、太陽電池への使用における400nm以上の波長領域での光吸収が劣るという問題がある。さらに、Z−907色素は、短絡電流密度が低いという問題がある。このため、変換効率に優れた色素が求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、変換効率に優れた色素および色素増感型太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る色素は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする。
【化1】

(ただし、一般式(I)中のRは、下記化2、化3、化4または化5のいずれかである。)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0009】
本発明の第2の観点に係る色素増感型太陽電池は、第1の観点に係る色素を光増感剤として使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、変換効率に優れた色素および色素増感型太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の色素を用いた色素増感型太陽電池の基本構成を示す図である。
【図2】紫外可視光吸収スペクトルの測定結果のデータを示す図である。
【図3】色素増感型太陽電池のセルの作製方法を示す分解概略図である。
【図4】光電変換効率スペクトルの測定結果のデータを示す図である。
【図5】電流電圧特性の測定結果のデータを示す図である。
【図6】太陽電池性能の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
(色素)
本発明の色素は、下記一般式(I)で表される。
【化6】

【0014】
ただし、一般式(I)中のRは、下記化7、化8、化9または化10のいずれかである。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【0015】
このように、本発明の色素は、RuLL’(NCS)(L、L’はアンカー配位子)で表されるルテミウムビピリジン錯体系色素である。
【0016】
アンカー配位子Lは2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸である。アンカー配位子L’は、4,4’−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2,2’−ビピリジン、4,4’−ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)−2,2’−ビピリジン、4,4’−ビス−[(3,5−ジ−タート−ブチルフェニル)−ビニル]−2,2’−ビピリジン、または、4,4’−ビス−[(2,4,6−トリメチルフェニル)−ビニル]−2,2’−ビピリジンのいずれかである。
【0017】
以下、下記化11の化学構造の色素をH−102色素、下記化12の化学構造の色素をH−105色素、下記化13の化学構造の色素をHRD−1色素、下記化14の化学構造の色素をHRD−2色素と示す。
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【0018】
これらH−102色素、H−105色素、HRD−1色素およびHRD−2色素は、従来のZ−907色素と比較して、光吸収スペクトルが長波長側にシフトし、かつ高い吸光係数を示す。さらに、電流密度が高く、変換効率に優れている(実施例1ないし4参照)。従って、広範な波長領域を効率よく吸収することができるため、色素増感型太陽電池への使用に好適である。
【0019】
(色素の合成方法)
以下、H−102色素、H−105色素、HRD−1色素およびHRD−2色素の合成方法を説明する。なお、後述する実施例1ないし4において、これらの色素の合成方法を具体的に説明することから、ここでは、色素の合成方法の概要を簡単に説明する。また、以下の(出発)原材料および中間合成化合物ならびに有機合成経路は一例であり、他の方法を用いても各色素の合成は可能である。
【0020】
まず、アンカー配位子L’となる部分を合成する。H−102色素の場合、2,4,6−トリメチルフェニルボロン酸と4,4’−ジブロモ−2,2’−ビピリジンとを、溶媒および強塩基下で反応させ、アンカー配位子L’である4,4’−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2,2’−ビピリジンを得る。H−105色素の場合、2,4,6−トリイソプロピルフェニルボロン酸と4,4’−ジブロモ−2,2’−ビピリジンとを、溶媒および強塩基下で反応させ、アンカー配位子L’である4,4’−ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)−2,2’−ビピリジンを得る。
【0021】
HRD−1色素の場合、(3,5−ジ−タート−ブチルフェニル)−ビニルと2,2’−ビピリジン−4,4’−ビスエチルホスホン酸とを、溶媒および強塩基下で反応させ、アンカー配位子L’である4,4’−ビス−[2−(3,5−ジ−タート−ブチルフェニル)−ビニル]−2,2’−ビピリジンを得る。
【0022】
HRD−2色素の場合、(2,4,6−トリメチルフェニル)−ビニルと2,2’−ビピリジン−4,4’−ビスエチルホスホン酸とを、溶媒および強塩基下で反応させ、アンカー配位子L’である4,4’−ビス−[2−(2,4,6−トリメチルフェニル)−ビニル]−2,2’−ビピリジンを得る。
【0023】
次に、このように合成したアンカー配位子L’となる部分を、ルテニウム塩化物と配位子交換させることによって、ルテニウムに配位させる。さらに、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸溶液と反応させ、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸もアンカー配位子Lとしてルテニウムに配位させる。
【0024】
最後に、アンカー配位子LおよびL’を配位させたそれぞれの中間合成化合物に、ロダンアンモン(NHNCS)を加え、加熱、冷却、ならびに精製を行う。その結果、H−102色素、H−105色素、HRD−1色素およびHRD−2色素を得ることができる。
【0025】
合成過程における溶媒としては、例えば、水、ベンゼン、トルエンもしくはキシレン等の芳香族炭化水素、エチルアルコールもしくはタート−ブチルアルコール等のアルコール類、ジメチルホルムアミドもしくはアセトアミド等の酸アミド類、アセトニトリルもしくはプロピロニトリル等のニトリル類、ジオキサンもしくはテトラヒドロフラン等のエーテル類、または、クロロホルムまたは塩化メチレンのハロゲン化アルキル等を挙げることができる。
【0026】
ボロン酸基またはホスホン酸基を置換するための強塩基としては、アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水素化物から選ばれることが好ましく、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水素化ナトリウムまたは水素化カルシウム等が挙げられる。
【0027】
配位子交換を行うルテニウム塩化物としては、例えば、ジクロロ(p−シメン)ルテニウムダイマー、三塩化ルテニウム、五塩化ニトロシルルテニウム二カリウムまたは五塩化ルテニウムアンモニウム等が挙げることができる。
【0028】
(色素増感型太陽電池)
次に、本発明の色素を光増感剤として使用する色素増感型太陽電池について説明する。本発明は色素増感型太陽電池に用いる色素に特徴を有するため、色素増感型太陽電池の構造については公知のものであれば構わないが、以下、その一例について述べる。図1は、本発明の色素を用いた色素増感型太陽電池の基本構成を示す図である。
【0029】
図1に示すように、色素増感型太陽電池1は、光極2、対極3、スペーサ4により光極2と対極3との間に形成される間隙に充填される電解質5を備えている。光極2は、透明電極6と半導体電極7とから構成されている。透明電極6は、光極透明基板8と、光極透明基板8の半導体電極7側をコートするように形成された光極透明導電膜9とから構成されている。光極透明基板8は、光を透過する透明な基板材料等から構成されている。光極透明導電膜9は透明な導電材料から構成されている。
【0030】
半導体電極7は、例えば、酸化チタン等の金属酸化物からなる半導体層から構成され、その表面に本発明のいずれかの色素(光増感剤)が吸着されている。当該光増感剤は、例えば、色素に結合したカルボキシル基と半導体電極7の酸化チタン等の金属酸化物をエステル結合させることにより半導体電極7の表面に吸着される。
【0031】
対極3は、電解質5中の酸化還元対に高効率で電子を渡すことができる材料、例えば、対極透明基板10上の対極透明導電膜11に白金等の金属薄膜電極(図示せず)を形成し、金属薄膜電極を電解質5の側に向けて配置させたもの等が用いられる。スペーサ4は、光極2と対極3との間に間隙が形成できるものであればよく、樹脂フィルムまたはシリカビーズ等を用いることができる。電解質5は、光励起され半導体への電子注入を果した後の色素を還元するための酸化還元種を含むヨウ素系レドックス溶液が好ましく用いられている。色素増感型太陽電池1はこのような構造を持つために、光極2と対極3との間に光電流が流れる。
【0032】
ここで、本発明の各色素は光吸収スペクトルが長波長側にシフトし、かつ高い吸光係数を示すため、従来のZ−907色素を使用した色素増感型太陽電池と比較して、当該色素を使用した色素増感型太陽電池1は、400nm以上の波長領域において広範にモル吸光係数が高く、かつ太陽電池としての変換効率が高いという効果を奏する。特に、H−105色素を用いた色素増感型太陽電池1については、これらのうち最も変換効率が高い。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。
(実施例1)
実施例1では、H−102色素について詳細に説明する。
【0034】
まず、1−ブロモ−2,4,6−トリメチルベンゼンを出発材料として、これをトリイソプロピルボランと反応させ、2,4,6−トリメチルフェニルボロン酸を得た。次に、得られた2,4,6−トリメチルフェニルボロン酸(469mg、2.86mmol)、水酸化バリウム八水和物(3g、9.75mmol)、および、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(300mg、0.26mmol)を反応容器に入れ、アルゴンガスで3回置換後、1,4−ジオキサンと水との3:1混合溶媒(6ml:2ml)を加えた。
【0035】
これを4,4’−ジブロモ−2,2’−ビピリジン(200mg、0.636mmol)と反応させ、24時間環流後、室温まで冷却した。1,4−ジオキサンを留去し、反応溶液をジクロロメタンに注ぎ、凝集物を濾別後、濾液を1M水酸化ナトリウム飽和食塩水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウムにより乾燥させた。その後、エバポレータを用いて適宜濃縮後、少量のメタノールを加え、生じた凝集物を濾別した。この凝集物を、ジクロロメタン:メタノールの9:1混合溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより精製し、4,4’−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2,2’−ビピリジン(L1とする)を得た(下記化15参照)。
【化15】

【0036】
L1(430mg、0.881mmol)およびジクロロ(p−シメン)ルテニウムダイマー(264mg、0.44mmol)を、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、アルゴン気流下の暗所において、60℃で4時間加温することで、ジクロロ(p−シメン)ルテニウムダイマーと配位子交換を行い、クロロ(p−シメン)(L1)ルテニウムを得た(下記化16参照)。
【化16】

【0037】
さらに、この得られたクロロ(p−シメン)(L1)ルテニウムに、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(214mg、0.696mmol)を加え、140℃で4時間攪拌して反応させた。一旦、80℃程度まで冷却後、ロダンアンモン(2.012g、26.43mmol)を加え、再度140℃まで加熱し、4時間攪拌した。ロータリーエバポレータによりDMFを留去後、250mlの水を加え凝集物を得た。紫色の固形物を濾別後、水に次いでジエチルエーテルで洗浄し、真空乾燥した。この生成物を、メタノールとジクロロメタンの3:2混合溶媒に溶解し、カラムクロマトグラフィーにて精製を行い、目的とするH−102色素を得た(下記化17参照)。
【化17】

【0038】
当該合成方法によって得たH−102色素を、THFまたはDMFに濃度0.1mMとなるよう溶解し、石英セルに入れて光吸収スペクトルを測定した。この結果を図2に示す。なお、比較のため、従来のZ−907色素(SOLARONIX社製、Ruthenium 520−DN)について同様の方法で測定した結果も図2に示す。また、図2では、後述する、H−105色素、HRD−1色素およびHRD−2色素の結果についても同様に示している。図4〜図6についても同様である。
【0039】
図2に示すように、色素増感型太陽電池が発電に使用する400nm以上の波長の領域において、本発明のH−102色素の溶液が、比較例のZ−907色素の溶液よりも高い吸光度、すなわち高い吸光係数となっていることが確認できた。
【0040】
本発明のH−102色素を用いた太陽電池の性能を評価するため、H−102色素を用いた小型の色素増感型太陽電池1を作製した。図3は、色素増感型太陽電池のセルの作製方法を示す分解概略図である。
【0041】
図3に示すように、色素増感型太陽電池1は光極2、対極3および樹脂膜のスペーサ4から構成されている。光極2は、酸化チタンナノ粒子焼結膜(ポーラス膜)の半導体電極7、ガラスの光極透明基板8、および光極透明導電膜9から構成されている。また、対極3は、注入孔12が設けられ、対極透明導電膜11が付いたガラスの対極透明基板10と、白金触媒膜13とから構成されている。
【0042】
光極2は、光極透明導電膜9(TCO)が付いたガラスの光極透明基板8上に、酸化チタンのナノ粒子等を加熱焼成することにより半導体電極7を形成し、その後各色素溶液に浸漬、洗浄、乾燥させることにより作製した。対極3は、電解液を注入する注入孔12を設けた対極透明導電膜11が付いたガラスの対極透明基板10上に、塩化白金酸のアルコール溶液を塗布した後、加熱焼成し、白金触媒膜13を形成することにより作製した。
【0043】
光極2および対極3を、図3に示すように、電極間隔を所定間隔に保つ25μmの樹脂膜のスペーサ4を間に挟むように対向配置し、圧着して熱融着させ、光極2と対極3とを互いに接合した。その後、注入孔12から電解液を注入し、注入孔12の上にシールフィルムおよびガラス薄板を設けて、シールフィルムを加熱融着させ、電解液を封止した。
【0044】
電解液には、ヨウ素、イミダゾリウム塩、N−メチル−ベンゾイミダゾールおよびジメチルマロノニトリル等を混合したものを使用した。このように作製したH−102色素を用いた色素増感型太陽電池1について、サルファランプを搭載したソーラシミュレータを使用し、光電変換効率(IPCE)スペクトルを測定した。
【0045】
図4は、光電変換効率スペクトルの測定結果のデータを示す図である。図4に示すように、400〜680nmの広い波長域において、本発明のH−102色素を用いた色素増感型太陽電池1は、従来のZ−907色素を用いた色素増感型太陽電池と比較して、高いIPCEを示すことが確認できた。
【0046】
次に、H−102色素を用いた太陽電池の性能をさらに評価するため、前述と同様の方法で作製した色素増感型太陽電池1の電流電圧特性を測定し、当該色素増感型太陽電池の変換効率を算出した。電流電圧特性については、サルファランプおよびIVセンサを使用し測定した。
【0047】
図5は、電流電圧特性の測定結果のデータを示す図である。図5に示す電流(電流密度(mA/cm))電圧(V)特性から、短絡電流密度(JSC(mA/cm))および開放電圧(VOC(V))を計測し、曲線因子(Fill Factor)および変換効率(Efficiency)(%)を算出した。
【0048】
図6は、太陽電池性能の評価結果を示す図である。図6に示すように、H−102色素を用いた色素増感型太陽電池の変換効率が、従来のZ−907色素の変換効率よりも高くなっていた。
【0049】
(実施例2)
実施例2では、H−105色素について詳細に説明する。
【0050】
まず、1−ブロモ−2,4,6−トリイソプロピルベンゼンを出発材料として、これをトリイソプロピルボランと反応させ、2,4,6−トリイソプロピルフェニルボロン酸を得た。次に、得られた2,4,6−トリイソプロピルフェニルボロン酸(2.86mmol)、水酸化バリウム八水和物(3g、9.75mmol)、および、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(300mg、0.26mmol)を反応容器に入れ、アルゴンガスで3回置換後、1,4−ジオキサンと水との3:1混合溶媒(6ml:2ml)を加えた。
【0051】
これを4,4’−ジブロモ−2,2’−ビピリジン(200mg、0.636mmol)と反応させ、24時間環流後、室温まで冷却した。1,4−ジオキサンを留去し、反応溶液をジクロロメタンに注ぎ、凝集物を濾別後、濾液を1M水酸化ナトリウム飽和食塩水溶液で洗浄した後、硫酸ナトリウムにより乾燥させた。その後、エバポレータを用いて適宜濃縮後、少量のメタノールを加え、生じた凝集物を濾別した。この凝集物を、ジクロロメタン:メタノールの9:1混合溶媒を用いてカラムクロマトグラフィーにより精製し、4,4’−ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)−2,2’−ビピリジン(L2とする)を得た(下記化18参照)。
【化18】

【0052】
L2(0.881mmol)およびジクロロ(p−シメン)ルテニウムダイマー(264mg、0.44mmol)を、DMFに溶解し、アルゴン気流下の暗所において、60℃で4時間加温することで、ジクロロ(p−シメン)ルテニウムダイマーと配位子交換を行い、クロロ(p−シメン)(L2)ルテニウムを得た(下記化19参照)。
【化19】

【0053】
さらに、この得られたクロロ(p−シメン)(L2)ルテニウムに、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(214mg、0.696mmol)を加え、140℃で4時間攪拌して反応させた。一旦、80℃程度まで冷却後、ロダンアンモン(2.012g、26.43mmol)を加え、再度140℃まで加熱し、4時間攪拌した。ロータリーエバポレータによりDMFを留去後、250mlの水を加え凝集物を得た。紫色の固形物を濾別後、水に次いでジエチルエーテルで洗浄し、真空乾燥した。この生成物を、メタノールとジクロロメタンの3:2混合溶媒に溶解し、カラムクロマトグラフィーにて精製を行い、目的とするH−105色素を得た(下記化20参照)。
【化20】

【0054】
このようにして得たH−105色素を、実施例1にて述べた方法と同様の方法において、光吸収スペクトル、IPCEスペクトルおよび電流電圧特性を測定した。その結果、H−105色素は、従来のZ−907色素と比較すると、図2に示すように高い吸光度、すなわち吸光係数を示し、図4に示すように高いIPCEを示すことが確認できた。
【0055】
さらに、図5に示すH−105色素の電流電圧特性の測定結果から、短絡電流密度および開放電圧を計測し、曲線因子および変換効率を算出すると、図6に示すようにH−105色素を用いた色素増感型太陽電池の変換効率が、従来のZ−907色素の変換効率よりも高くなっていることが確認できた。特に、H−105色素を用いた色素増感型太陽電池は、他の本発明の色素を用いた色素増感型太陽電池のうち、最も高い変換効率を示すことが確認できた。
【0056】
(実施例3)
実施例3では、HRD−1色素について詳細に説明する。
【0057】
まず、ナトリウム水素化物(157mg、6.57mmol)を無水ヘキサンで3回洗浄後、これに40mlのテトラヒドロフラン(THF)を加えた。この懸濁液に、2,2’−ビピリジン−4,4’−ビスエチルホスホン酸(600mg、1.31mmol)のTHF溶液を加え、得られた混合物を室温で30分間撹拌する。これを室温で撹拌しつつ、THFで溶解した3,5−ジ−タート−ブチルベンズアルデヒド(860mg、3.94mmol)を滴下し、12時間還流を行なった。この後、反応混合物を室温まで放冷後、濾過し、濾液から溶媒を留去した。生じた凝固物を濾別し、乾燥させることにより、純粋な目的物である、4,4’−ビス−[2−(3,5−ジ−タート−ブチル−フェニル)−ビニル]−[2,2’]ビピリジン(L3とする)を得た(下記化21参照)。
【化21】

【0058】
L3(257mg、0.44mmol)およびジクロロ(p−シメン)ルテニウムダイマー(134mg、0.22mmol)をDMFに溶解し、乾燥後アルゴン気流下、暗所にて、60℃に加温し、4時間撹拌した。その後、溶媒を留去し、得られた固形物をジエチルエーテルにて洗浄し、クロロ(p−シメン)(L3)ルテニウムを得た(下記化22参照)。
【化22】

【0059】
次いで、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(260mg、0.17mmol) を、80℃に加温した乾燥DMFに溶解する。ここに、クロロ(p−シメン)(L3)ルテニウム(260mg、0.17mmol)のDMF溶液を加え、乾燥窒素気流下において4時間還流した。その後、反応混合物を80℃まで一旦放冷した。ここに、ロダンアンモン(39.1mg、0.51mmol)を加え、さらに140℃まで加熱し、2時間反応させた後、室温まで放冷した。エバポレータを用いてDMFを除去した後、水を加え、凝固物を得た。これを濾別し、水洗浄後、真空乾燥した。この生成物をジクロロメタンとメタノールの1:1混合溶媒に溶解し、カラムクロマトグラフィーにより精製することにより、目的物であるHRD−1色素を得た(下記化23参照)。
【化23】

【0060】
このようにして得たHRD−1色素を、実施例1にて述べた方法と同様の方法において、光吸収スペクトル、IPCEスペクトルおよび電流電圧特性を測定した。その結果、HRD−1色素は、従来のZ−907色素と比較すると、図2に示すように高い吸光度、すなわち吸光係数を示し、図4に示すように高いIPCEを示すことが確認できた。
【0061】
さらに、図5に示すHRD−1色素の電流電圧特性の測定結果から、短絡電流密度および開放電圧を計測し、曲線因子および変換効率を算出すると、図6に示すようにHRD−1色素を用いた色素増感型太陽電池の変換効率が、従来のZ−907色素の変換効率よりも高くなっていることが確認できた。
【0062】
(実施例4)
実施例4では、HRD−2色素について詳細に説明する。
【0063】
まず、ナトリウム水素化物(177mg、7.38mmol)を無水ヘキサンで3回洗浄後、これに40mlのTHFを加えた。この懸濁液に、2,2’−ビピリジン−4,4’−ビスエチルホスホン酸(560mg、1.23mmol)のTHF溶液を加え、得られた混合物を室温で30分間撹拌する。これを室温で撹拌しつつ、THFで溶解した2,4,6−トリメチルベンズアルデヒド(546mg、3.69mmol)を滴下し、12時間還流を行なった。この後、反応混合物を室温まで放冷後、濾過し、濾液から溶媒を留去した。ここにメタノールを加えることで生じた凝固物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥させることにより、純粋な目的物である、4,4’−ビス−[2−(2,4,6−トリメチル−フェニル)−ビニル]−[2,2’]ビピリジン(L4とする)を得た(下記化24参照)。
【化24】

【0064】
L4(266mg、0.6mmol)およびジクロロ(p−シメン)ルテニウムダイマー(183mg、0.3mmol)をDMFに溶解し、乾燥後アルゴン気流下、暗所にて、60℃に加温し、4時間撹拌した。その後、溶媒を留去し、得られた固形物をジエチルエーテルにて洗浄し、クロロ(p−シメン)(L4)ルテニウムを得た(下記化25参照)。
【化25】

【0065】
次いで、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(146mg、0.6mmol) を、80℃に加温した乾燥DMFに溶解する。ここに、クロロ(p−シメン)(L4)ルテニウム(260mg、0.17mmol)のDMF溶液を加え、乾燥窒素気流下において4時間還流した。その後、反応混合物を80℃まで一旦放冷した。ここに、ロダンアンモン(1.37mg、18mmol)を加え、さらに140℃まで加熱し、2時間反応させた後、室温まで放冷した。エバポレータを用いてDMFを除去した後、水(220ml)を加え、凝固物を得た。これを濾別し、水洗浄後、真空乾燥した。この生成物を塩基性メタノール(テトラブチルアンモニウムハイドロキシドを添加)に溶解し、メタノールを用いてカラムクロマトグラフィーにより精製し、硝酸酸性メタノールを加えた。凝固した固形物を濾別し、水洗浄後、真空乾燥することにより、目的とするHRD−2色素を得た(下記化26参照)。
【化26】

【0066】
このようにして得たHRD−2色素を、実施例1にて述べた方法と同様の方法において、光吸収スペクトル、IPCEスペクトルおよび電流電圧特性を測定した。その結果、HRD−2色素は、従来のZ−907色素と比較すると、図2に示すように高い吸光度、すなわち吸光係数を示し、図4に示すように高いIPCEを示すことが確認できた。
【0067】
さらに、図5に示すHRD−2色素の電流電圧特性の測定結果から、短絡電流密度および開放電圧を計測し、曲線因子および変換効率を算出すると、図6に示すようにHRD−2色素を用いた色素増感型太陽電池の変換効率が、従来のZ−907色素の変換効率よりも高くなっていることが確認できた。
【0068】
このように、本発明の各色素ならびに各色素を用いた色素増感型太陽電池によれば、従来のZ−907色素と比較して、400nm以上の波長の領域における高い吸光係数ならびに高いIPCEを示し、かつ変換効率に優れているということが確認できた。
【0069】
以上、実施の形態および実施例について説明したが、本発明は上述した実施の形態および実施例に限定されることはなく、本発明の範囲内で種々の実施形態が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 色素増感型太陽電池
2 光極
3 対極
4 スペーサ
5 電解質
6 透明電極
7 半導体電極
8 光極透明基板
9 光極透明導電膜
10 対極透明基板
11 対極透明導電膜
12 注入孔
13 白金触媒膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されることを特徴とする色素。
【化1】

(ただし、一般式(I)中のRは、下記化2、化3、化4または化5のいずれかである。)
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項2】
請求項1に記載の色素を光増感剤として使用することを特徴とする色素増感型太陽電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−31264(P2012−31264A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170949(P2010−170949)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(306017184)カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (4)
【Fターム(参考)】