説明

色素増感光電変換素子およびその製造方法

【課題】製造コストの低廉化を図りつつ、発電特性を向上させることのできる色素増感光電変換素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】第1基板と、第1基板上に配置された第1電極と、第1電極上に形成され、酸化還元電解質に対する触媒活性を有する触媒層と、触媒層と接し、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液と、電解液に接し、半導体微粒子と色素分子を備える多孔質半導体層と、多孔質半導体層に配置された第2電極と、第2電極上に配置された第2基板と、第1基板と第2基板の間に配置され、電解液を封止する封止材とを備え、触媒層は、活性炭と電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子または導電性を有する有機物の一方を有する導電性薄膜で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感光電変換素子(DSC:Dye-sensitized Solar Cells)およびその製造方法に係り、発電特性を向上させることのできる色素増感光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安価で高性能の光電変換素子(太陽電池)としてDSCが注目されている。DSCは、スイス・ローザンヌ工科大学のグレツェルが開発したもので、増感色素を表面に担持した酸化チタンを用いることで、光電変換効率が高く、製造コストが安いなどの利点を有することから、次世代の光電変換素子として期待されている。この光電変換素子は、内部に電解液を封入してあることから、湿式光電変換素子とも呼ばれる。
【0003】
DSCは、増感色素を表面に担持した多孔質の酸化チタン層を備えた作用極と、作用極の酸化チタン層に対向して配置された対極と、作用極と対極との間に充填された電解質溶液とを備える(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−135817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでDSCにおいて、対極材料としては、電極で酸化還元反応を円滑に進行させることのできる白金(Pt)が一般的に使用されている。
【0006】
しかし、真空成膜法によって形成される白金膜は、膨大な整備費がかかり、また生産性に劣るため製造コストが嵩むという問題があった。特に、大面積のDSCを生産する場合には、製造コストの低廉化が要求される。
【0007】
また、塩化白金溶液等の白金前駆体溶液中に浸漬、或いはスプレー法で塗布、スクリーン印刷による局所的な成膜を行い、その後焼成処理を加えることで膜状ではなく、酸化還元反応を促進させるのに適した粒径サイズを有する微細白金粒子を得ることも可能とされている。白金消費量を抑え、安価に対極材料を形成することが可能だが、上記製法で形成された白金粒子だけでは、特にDSCへの入射光量が高くなるにつれて酸化還元反応が効率良く進まない状態となり、発電効率が大幅に低下していくという問題があった。
【0008】
その一方、対極材料として低コスト且つ高い触媒能を有するカーボン電極が提案されている。これはカーボンブラック粒子やグラファイト粒子、活性炭といった多孔質なカーボン材料を水や有機溶媒に分散させて基板に塗布する、或いは樹脂バインダと組み合わせてペースト状態にして、スクリーン印刷することで膜を形成することが出来る。特に、スクリーン印刷での成膜は局所的な成膜が可能であるため、生産性にも優れている。多孔質の炭素電極は、その細孔中に電解質溶液を取り込むことができるので、白金粒子が担持した対極状態と比較して、電極面積がより大きくなり、触媒性が大幅に向上する。また化学的にも安定であるという利点を有する。
【0009】
しかし、DSCの利用環境の内、屋内での利用を想定とした場合、室内光のような入射光による光発電特性は、カーボン膜を形成するための溶液やペースト膜中に含まれる絶縁抵抗(例えば樹脂バインダ)の影響により、得られるFilling Factor(以下、「F.F.」という)及びエネルギー変換効率ηが低いという問題があることを見出した。
【0010】
本発明の目的は、カーボンによる触媒製造コスト低廉化を図りつつ、発電特性を向上させることのできる色素増感光電変換素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、第1基板と、前記第1基板上に配置された第1電極と、前記第1電極上に形成され、酸化還元電解質に対する触媒活性を有する触媒層と、前記触媒層と接し、前記酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液と、前記電解液に接し、半導体微粒子と色素分子を備える多孔質半導体層と、前記多孔質半導体層に配置された第2電極と、前記第2電極上に配置された第2基板と、前記第1基板と前記第2基板の間に配置され、前記電解液を封止する封止材とを備え、前記触媒層は、活性炭と前記電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子、または導電性を有する有機物の一方を有する導電性薄膜で構成される色素増感光電変換素子が提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、第1基板上に第1電極を形成する工程と、前記第1電極上に触媒層として、活性炭と電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子、または導電性を有する有機物の一方を有する導電性薄膜を形成する工程と、第2基板上に第2電極を形成する工程と、前記第2電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、前記多孔質半導体層を色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、第1基板上に前記第1電極と前記触媒層とを形成した対極基板と、第2基板上に第2電極と色素分子を吸着させた前記多孔質半導体層とを形成した作用極基板とを、直列配列させるための基板間の極間配線電極と封止材を介して貼り合わせる工程と、前記対極基板と前記作用極基板との間に、電解液を注入する工程とを有する色素増感光電変換素子の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、第1基板上に所定の間隔で複数の第1電極を形成する工程と、前記各第1電極上に触媒層として、活性炭と電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子、または導電性を有する有機物の一方を有する導電性薄膜を形成する工程と、第2基板上に前記各第1電極と対向される複数の第2電極を形成する工程と、前記各第2電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、前記各多孔質半導体層に色素分子を吸着させる工程と、第1基板上に複数の前記第1電極と前記触媒層とを形成した対極基板と、第2基板上に複数の第2電極と色素分子を吸着させた前記多孔質半導体層とを形成した作用極基板とを、それぞれ色素増感光電変換素子となるセルを区画するように封止材を介して貼り合わせる工程と、それぞれ色素増感光電変換素子となるセル毎に分離するためのスクライブラインを前記第1基板上または前記第2基板上に形成するスクライブ工程と、前記スクライブラインに沿ってブレークして、分離する分離工程と、分離された色素増感光電変換素子の各セルに電解液を注入する工程とを有する色素増感光電変換素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造コストの低廉化を図りつつ、発電特性を向上させることのできる色素増感光電変換素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の模式的断面構造図。
【図2】図1の多孔質半導体層の半導体微粒子の模式的構造図。
【図3】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の動作原理説明図。
【図4】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の電解液における電荷交換反応に基づく動作原理説明図。
【図5】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子において、多孔質半導体層(12)/色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラム。
【図6】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子において、色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラムであって、図7のJ部分の拡大図。
【図7】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の作用極の模式的断面構造図。
【図8】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の対極の模式的断面構造図。
【図9】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の作用極と対極とを封止材を介して貼り合わせた状態を示す模式的断面構造図。
【図10】図9で貼り合わせた構成に電解液を注入した後の状態を示す模式的断面構造図。
【図11】(a)第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の作用極の製造工程を示す斜視図、(b)第2基板上に多孔質半導体層を形成した様子を示す斜視図、(c)多孔質半導体層に色素溶液を浸漬させる工程を示す斜視図。
【図12】(a)第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の対極の製造工程を示す斜視図、(b)注入孔および抜気孔を有するガラス基板上に触媒層を形成した様子を示す斜視図。
【図13】(a)第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造工程の一工程であって、作用極と対極を封止材を介して貼り合わせる状態を示す斜視図、(b)電解液を注入する状態を示す斜視図、(c)製造された第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子を示す模式的断面構造図。
【図14】第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造工程の一工程であって、第2基板上に2つの第2電極を形成した状態を示す模式的断面構造図。
【図15】第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造工程の一工程であって、第2電極上にカソード電極と直列配列とするための基板間の極間配線を形成した状態を示す模式的断面構造図。
【図16】第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造工程の一工程であって、各第2電極上に多孔質半導体層を形成した状態を示す模式的断面構造図。
【図17】第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造工程の一工程であって、第1電極上にアノード電極と直列配列とするための基板間の極間配線、および触媒層を形成した状態を示す模式的断面構造図。
【図18】第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造工程の一工程であって、作用極と対極を封止材と直列配列とするための基板間の極間配線を介して貼り合わせた状態を示す模式的断面構造図。
【図19】第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造工程の一工程であって、図18で貼り合わせた構成に電解液を注入した後の状態を示す模式的断面構造図。
【図20】第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法について、第2基板上に複数の第2電極が形成された状態を示す平面図。
【図21】第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法の一工程であって、第1基板上に複数の第1電極が形成した状態を示す平面図。
【図22】第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法の一工程であって、作用極と対極を封止材を介して貼り合わせた状態を示す平面図。
【図23】第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法について、図22のI−I線に沿う模式的断面構造図。
【図24】第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法の一工程であって、横方向のスクライブラインを形成した状態を示す平面図。
【図25】第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法の一工程であって、縦方向のスクライブラインをさらに形成した状態を示す平面図。
【図26】触媒層を焼成する際の温度条件を示すタイムチャート。
【図27】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の動作原理説明図。
【図28】(a)熱処理によるPt粒子の析出状態しめす模式図、(b)図27のB部分の拡大図。
【図29】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子に200lxの白色光を照射した場合の発電特性を示すグラフ。
【図30】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子に800lxの白色光を照射した場合の発電特性を示すグラフ。
【図31】第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子に5000lxの白色光を照射した場合の発電特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して、実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0017】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
以下の実施の形態に係る色素増感光電変換素子において、「透明」とは、透過率が約50%以上であるものと定義する。また「透明」とは、実施の形態に係る色素増感光電変換素子において、可視光線に対して、無色透明という意味でも使用する。可視光線は波長約360nm〜830nm程度、エネルギー約3.45eV〜1.49eV程度に相当し、この領域で透過率が50%以上あれば透明である。
【0019】
[第1の実施の形態]
(色素増感光電変換素子)
第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の模式的断面構造は、図1に示すように表される。
【0020】
第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200に係る色素増感光電変換素子200に適用される作用極100は、図1に示すように、ガラス基板22と、ガラス基板22上に配置された第1電極(対極)18と、第1電極18上に配置された触媒層21とを備える。
【0021】
色素増感光電変換素子200は、図1に示すように、ガラス基板22と、ガラス基板22上に設けられた第1電極18と、第1電極18上に配置された触媒層21と、触媒層21と接し、溶媒と複数種類の酸化還元電解質を混合して作られた電解質を備える電荷輸送層14とを備える。
【0022】
さらに、色素増感光電変換素子200は、図1に示すように、第2基板20と、第2基板20上に配置された透明電極10と、透明電極10上に配置された図2に示すような半導体微粒子2と色素分子4とを備える多孔質半導体層12と、多孔質半導体層12と接し、酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液14と、電解液14に接する第1電極18と、第1電極18上に配置された第1基板22と、第2基板20と第1基板22の間に配置され、電解液14を封止する封止材16とを備える。
【0023】
透明電極10および第1電極18は、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどの透明電極で形成される。
【0024】
触媒層21は、活性炭および電解液14に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子を含むペースト層を焼成して形成することができる。
【0025】
電解液に対する耐食性を有する金属酸化物としては、TiO、ZnO、SnO2、WO等を用いることができる。
【0026】
上記のようなペースト層を焼成して形成される触媒層21は、高温(例えば、400〜450℃)の焼成によりペーストに含まれる樹脂バインダが機能しなくなって絶縁性を失い、第1電極(対極)18の表面の電荷移動や電解液14との電荷交換反応を速やかに進行させることができる。これにより、色素増感光電変換素子200の発電特性、特にF.F.を向上させることができる。
【0027】
また、従来においては、高温の焼成により樹脂バインダが機能しなくなると、活性炭膜と基板との密着性が低下して、活性炭膜の膜剥がれが起こり易くなっていた。一方、本実施の形態では、従来の樹脂バインダによって活性炭を固定していた構成に代えて、活性炭ペースト内に添加されているTiO、ZnO、SnO2、WO等の金属酸化物の微粒子(ナノ粒子)の焼結を行うことにより、ネッキング(共有結合)により活性炭を結合させて固定している。
【0028】
これにより、触媒層21は、活性炭が有する高い触媒性を維持すると共に、第1電極18との密着性を確保することができる。
【0029】
また、活性炭および金属酸化物の微粒子を含むペーストにおける活性炭の濃度を例えば20質量%程度とすることにより、焼成後における触媒層21の膜剥がれを抑制することができる。
【0030】
また、触媒層21の膜厚を制御することにより、活性炭粒子による比較的大きな実効面積(表面積)を確保することができ、第1電極(対極)18の表面の電子移動反応を速やかに進行させることができる。したがって、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200は、太陽光下のような高照度の光源に限らず、室内光のような比較的低照度下においても、高い触媒性を有する白金(Pt)を用いたものと同等の光発電特性を保持することができる。なお、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の発電特性に関する実験結果については、図29〜図31を参照して後述する。
【0031】
また、触媒層21を構成する活性炭およびTiO、ZnO、SnO、WO等の金属酸化物の微粒子は、白金(Pt)に比べて比較的安価であり、また白金(Pt)を成膜する際の真空成膜法を用いる必要がなく、後述するようにスクリーン印刷等の印刷法を適用して成膜可能であるので、製造コストを低廉化して、色素増感光電変換素子の製造単価を大幅に引き下げることができる。
【0032】
さらに、触媒層21は、活性炭に導電性高分子(PEDOT:PSSなど)を含むことで、粒子間の導電性を更に向上させることが出来、この場合においても製造コストの低廉化を図りつつ、発電特性を向上させることができる。
【0033】
多孔質半導体層12は、TiO、ZnO、WO、InO、ZrO、Ta、Nb、SnOなどの材料を用いて形成されていても良い。特に、効率面から安価なTiO(アナターゼ型、ルチル型)が主に用いられる。
【0034】
図1の多孔質半導体層12の半導体微粒子2の模式的構造は、図2に示すように表される。図2に示すように、多孔質半導体層12は、TiOなどからなる半導体微粒子2が互いに結合して複雑なネットワークを形成している。色素分子4は、半導体微粒子2の表面に吸着される。多孔質半導体層12内には、大きさ100nm以下の細孔が多数存在する。
【0035】
(動作原理)
第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の動作原理は、図3に示すように表される。
【0036】
下記の(a)〜(d)の反応が継続して起こることで、起電力が発生し、負荷24に電流が導通する。
【0037】
(a)色素分子32が光子(hν)を吸収し、電子(e)を放出し、色素分子32は酸化体DOになる。
【0038】
(b)Reで表される還元体の酸化還元電解質26が多孔質半導体層12中を拡散して、DOで表される酸化体の色素分子32に接近する。
【0039】
(c)酸化還元電解質26から色素分子32に電子(e)が供給される。酸化還元電解質26は、Oxで表される酸化体の酸化還元電解質28になり、色素分子32はDRで表される還元された色素分子30になる。
【0040】
(d)酸化還元電解質28は、第1電極18方向に拡散し、第1電極18より電子を供給されて、Reで表される還元体の酸化還元電解質26になる。
【0041】
酸化還元電解質26は、多孔質半導体層12中の入り組んだ空間を拡散しながら色素分子32の近傍に接近する必要がある。
【0042】
また、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の電解液14における電荷交換反応に基づく動作原理は、図4に示すように表される。
【0043】
まず、外部から光照射されると光子(hν)が色素分子32と反応して、色素分子32は基底状態から励起状態へと遷移する。このとき発生した励起電子(e)がTiOからなる多孔質半導体層12の伝導帯へ注入される。多孔質半導体層12中を導通した電子(e)は、透明電極10から外部回路の負荷24を導通し、第1電極18へ移動する。第1電極18から電解液14中に注入された電子(e)は。電解液14中のヨウ素酸化還元電解質(I/I)と電荷交換される。ヨウ素酸化還元電解質(I/I)が電解液14内を拡散し、色素分子32と再反応する。ここで、電荷交換反応は、色素分子表面において、3I→I+2eに従って進行し、第1電極18において、I+2e→3Iに従って進行する。
【0044】
電解液14は、溶媒として、例えば、アセトニトリルを使用し、この場合の電解質として、例えば、ヨウ素は、電解液14中のヨウ素酸化還元電解質Iとして存在する。また、電解質として、例えば、ヨウ化物塩(ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウムなど)は、電解液14中のヨウ素酸化還元電解質Iとして存在する。また、電解液14中には、逆電子移動抑制溶液として添加剤(例えば、TBP:ターシャルブチルピリジン)を適用しても良い。
【0045】
上記の溶質、添加剤を溶媒(アセトニトリル)に溶解させることによって、電解液14を構成することができる。なお、上記の材料は湿式DSCなどに適用可能なものであって、常温溶融塩(イオン性液体)や固体電解質を用いる場合には、構成材料が異なる。
【0046】
第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200において、溶媒は、後述する電解質、添加剤を溶解する液体であり、高沸点、化学的安定性が高く、高誘電率(電解質が良く溶解する)、低粘度であること望ましい。例えば、アセトニトリル、炭酸プロピレン、γブチロラクトン、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどで構成されていても良い。
【0047】
第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200において、多孔質半導体層(12)/色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラムは、図5に示すように表される。また、色素分子(32)/電解液(14)間のエネルギーポテンシャルダイヤグラムであって、図5のJ部分の拡大図は、図6に示すように表される。
【0048】
外部から光照射されると光子(hν)が色素分子32と反応して、色素分子32は基底状態HOMOから励起状態LUMOへと遷移する。このとき発生した励起電子(e)がTiOからなる多孔質半導体層12の伝導帯へ注入される。多孔質半導体層12中を導通した電子(e)は、透明電極10から外部回路の負荷24を導通し、第1電極18へ移動する。第1電極18から電解液14中に注入された電子(e)は、電解液14中のヨウ素・混合系酸化還元電解質と電荷交換される。ヨウ素・臭素混合系酸化還元電解質が電解液14内を拡散し、色素分子32と再反応する。
【0049】
電解液14の酸化還元準位EROと多孔質半導体層12のフェルミ準位E間の電位差が最大起電力VMAXである。最大起電力VMAXの値は、電解液14の酸化還元電解質により変化する。酸化還元電解質単独系(ヨウ素酸化還元電解質)の場合には、例えば、0.9V(I,N719)である。電解液14がヨウ素・臭素の混合系酸化還元電解質を含む場合には、図6に示すように、混合比率を調整することで混合系酸化還元電解質の酸化還元電位を、ヨウ素酸化還元電解質の酸化還元電位と臭素酸化還元電解質の酸化還元電位の間の任意の値に調整することができる。
【0050】
図6に示すように、電解液14の臭素酸化還元電解質の混合比が零の場合、酸化還元準位ERO=0.53V(I/I)であるのに対して、ヨウ素酸化還元電解質の混合比が零の場合、酸化還元準位ERO=1.09V(Br/Br)である。この間のギャップエネルギーEgaの値は、1.09−0.53=0.56Vである。
【0051】
HOMOレベルと酸化還元準位EROの電位差Eghの値が大きい場合には、最大起電力VMAXを得る上で、電圧ロスとなる。HOMOレベルと酸化還元準位EROの電位差Eghの値が低い場合には、電解液14から色素分子32への電子(e)の移動が阻害される。
【0052】
したがって、電子(e)を効率良く電解液14から色素分子32側に導通すると共に、最大起電力VMAXを得る上での電圧ロスを抑制するためには、酸化還元準位EROのレベルは色素分子32のHOMOレベルよりは上で、かつ電位差Eghをできるだけ小さくすることが望ましい。
【0053】
次に示すように、ヨウ素酸化還元電解質と臭素酸化還元電解質を混合することで得られるヨウ素・臭素混合系酸化還元電解質よりなる電解液では、ヨウ素酸化還元電解質を単独で用いた場合に比べて、臭素酸化還元電解質の添加量に応じて開放端電圧の値が増加する。これは、ヨウ素酸化還元電解質に比べて、臭素酸化還元電解質は酸化還元電位がポジティブ(正)であり、ヨウ素−臭素混合系酸化還元電解質の酸化還元電位が臭素酸化還元電解質の添加量に応じてポジティブ(正)側にシフトするためである。
【0054】
(色素増感光電変換素子の構成)
次に、図7〜図10を参照して、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の構成例について説明する。
【0055】
図7に示すように、ガラス基板またはフレキシブルなプラスチック基板等で構成される第2基板20の上に、透明電極10および多孔質半導体層12から成る作用極100を形成する。
【0056】
透明電極10は、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどのスパッタ成膜等により形成される。
【0057】
多孔質半導体層12は、例えば、スクリーン印刷技術、スピンコート技術、ディッピング、スプレーコート技術などを用いて形成することができる。なお、多孔質半導体層12の形成方法については後述する。
【0058】
また、図8に示すように、ガラス基板またはフレキシブルなプラスチック基板等で構成される第1基板22の上に、第1電極18および触媒層21を形成する。
【0059】
第1電極18は、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどのスパッタ成膜等により形成される。
【0060】
触媒層21は、スクリーン印刷技術などを用いて形成することができる。なお、触媒層21の形成方法については後述する。
【0061】
そして、図9に示すように、第1基板22の上に、封止材16を介して第2基板20が貼り合わされた構成とされる。
【0062】
図10の模式的断面構造図は、図9のように封止材16を介して貼り合わせた構成に電解液14を注入して完成された色素増感光電変換素子200の構成を示す。
【0063】
なお、図9、図10に示すように、第1基板22の第1電極18上には、色素増感光電変換素子200のプラス極となるアノード電極3Aが、第2基板20の透明電極10上には、色素増感光電変換素子200のマイナス極となるカソード電極3Kがそれぞれ形成されている。
【0064】
(色素増感光電変換素子の製造方法)
次に、図11〜図13を参照して、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の製造方法について説明する。
【0065】
まず、図11を参照して、スクリーン印刷法によって、多孔質半導体層12を形成する例について説明する。
【0066】
図11(a)に示すように、透明電極10を形成した後の第2基板20の上に、形成すべき多孔質半導体層に対応する開口部を有するマスク部材23aを位置合わせしてセットする。なお、形成すべき多孔質半導体層の目標厚に合わせてマスク部材23aの厚さが選定される。
【0067】
次いで、TiO、ZnO、WO、InO、ZrO、Ta、Nb、SnOなどの微粒子を含むペースト12aをマスク部材23a上に塗布し、スキージ25aを矢印方向に移動させて、ペースト12aをマスク部材23aの開口部内に充填する。
【0068】
次に、図11(b)に示すように、マスク部材23aを取り除いた後に、所定の温度でペースト層を焼成することにより、多孔質半導体層12が形成される。
【0069】
続いて、図11(c)に示すように、容器44に入れられた色素溶液45に、多孔質半導体層12を浸漬させることにより、多孔質半導体層12に色素を吸着させる。
【0070】
色素は、レッドダイ(N719)、ブラックダイ(N749)などを適用することができる。
【0071】
これにより、色素を吸着させた多孔質半導体層12を備える作用極100が作成される。
【0072】
次に、図12を参照して、スクリーン印刷法によって、触媒層21を形成する例について説明する。
【0073】
図12(a)に示すように、第1電極18を形成した後の第1基板22の上に、形成すべき触媒層に対応する開口部を有するマスク部材23bを位置合わせしてセットする。なお、形成すべき触媒層の目標厚に合わせてマスク部材23bの厚さが選定される。
【0074】
次いで、活性炭およびTiO、ZnO、SnO2、WO等の金属酸化物の微粒子を含むペースト21aをマスク部材23b上に塗布し、スキージ25bを矢印方向に移動させて、ペースト21aをマスク部材23bの開口部内に充填する。
【0075】
次に、図12(b)に示すように、マスク部材23bを取り除いた後に、所定の温度でペースト層を焼成することにより、触媒層21が形成される。
【0076】
なお、第1基板22の対向する二隅には、電解液14の注入孔22aおよび注入する際の抜気を行う抜気孔22bがドリル等により穿孔されている。なお、以下に記述される電解液注入の際、端面からの真空注入法を採用する場合は、電解液14の注入孔22aおよび注入する際の抜気を行う抜気孔22bを形成する必要はない。
【0077】
図13を参照して、色素増感光電変換素子200の組み立て方法等について説明する。
【0078】
図13(a)に示すように、図11の工程で多孔質半導体層12が形成された第2基板20の周縁部に沿って紫外線硬化樹脂等で構成される封止材16を塗布し、図12の工程で触媒層21が形成された第1基板22を位置決めして重ね合わせる。
【0079】
次いで、第1基板22側から紫外線等を照射して封止材16を硬化させ、第2基板20と第1基板22を封止材16を介して貼り合わせる。
【0080】
続いて、図13(b)に示すように、第1基板22に形成された注入孔22aから電解液14を注入する。この際に、内部の空気は抜気孔22bから抜けるので、スムーズに電解液14を注入することができる。
【0081】
次いで、図示は省略するが、注入孔22aおよび抜気孔22bをガラス板の接着や、樹脂の充填等によって封止し、電解液14が漏れ出さないよう処置する。
【0082】
これにより、図13(c)に示す構成の色素増感光電変換素子200が組み立てられる。
【0083】
[第2の実施の形態]
(直列配線構造を有する色素増感光電変換素子)
次に、図14〜図19を参照して、第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200aの構成例について説明する。
【0084】
第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200aは、1枚の基板内に2セルを直列配列させた構成である。
【0085】
図14に示すように、ガラス基板またはフレキシブルなプラスチック基板等で構成される第2基板20の上に、所定の間隔10aを挟んで透明電極10および10を形成する。
【0086】
透明電極10および10は、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどのスパッタ成膜等により形成される。
【0087】
図15に示すように、透明電極10の上には、色素増感光電変換素子200のマイナス極となるカソード電極3Kと2つのセルを直列配列とするための基板間の極間配線電極3Sが例えばAgやAlやCu等によって形成される。
【0088】
図16に示すように、透明電極10および10の上には、多孔質半導体層12および12がそれぞれ形成される。
【0089】
なお、多孔質半導体層12および12は、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の製造方法で示したスクリーン印刷(図11参照)等によって形成することができる。即ち、例えば形成すべき多孔質半導体層に対応する開口部を有するマスク部材を位置合わせしてセットし、TiOなどの微粒子を含むペーストをマスク部材上に塗布し、スキージによってマスク部材の開口部内に充填する。次いで、マスク部材を取り除いた後に、所定の温度でペースト層を焼成することにより多孔質半導体層12および12が形成される。なお、多孔質半導体層12および12に色素を吸着させる工程も図11(c)に示す場合と同様である。
【0090】
また、図17に示すように、ガラス基板またはフレキシブルなプラスチック基板等で構成される第1基板22の上に、所定の間隔18aを挟んで第1電極18および18が形成され、第1電極18および18の上には触媒層21および21が形成される。
【0091】
第1電極18および18は、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどのスパッタ成膜等により形成される。
【0092】
触媒層21および21は、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の製造方法で示したスクリーン印刷(図12参照)等によって形成することができる。即ち、第1電極18および18を形成した後の第1基板22の上に、形成すべき触媒層に対応する開口部を有するマスク部材を位置合わせしてセットし、活性炭およびTiO、ZnO、WO等の金属酸化物の微粒子を含むペーストをマスク部材上に塗布し、スキージによってペーストをマスク部材の開口部内に充填する。次いで、マスク部材を取り除いた後に、所定の温度でペースト層を焼成することにより、触媒層21および21が形成される。
【0093】
また、第1電極18の上には、色素増感光電変換素子200のプラス極となるアノード電極3Aと2つのセルを直列配列とするための基板間の極間配線電極3Sが例えばAgやAlやCu等によって形成される。
【0094】
そして、図18に示すように、第1基板22の上に、封止材16を介して第2基板20が貼り合わされた構成とされる。
【0095】
図19の模式的断面構造図は、図9のように封止材16を介して直列配列されて貼り合わせたセルに電解液14および14を注入して完成された色素増感光電変換素子200aの構成を示す。
【0096】
第2の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200aによれば、製造コストの低廉化を図りつつ、発電特性を向上させることができる。
【0097】
[第3の実施の形態]
(複数の色素増感光電変換素子の製造方法)
次に、図20〜図25を参照して、第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の他の製造方法について説明する。
【0098】
第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法は、複数個(m×n:但し、mおよびnは整数)のセルを作り込み、分離して複数個の色素増感光電変換素子200を得る製造方法である。
【0099】
図20に示すように、ガラス基板またはフレキシブルなプラスチック基板等で構成される第2基板20の上に、所定の間隔を挟んで1011〜10mnの計m×n(但し、mおよびnは整数)個の透明電極を形成する。
【0100】
透明電極1011〜10mnは、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどのスパッタ成膜等により形成される。
【0101】
なお、図示は省略するが、透明電極1011〜10mnの上には、多孔質半導体層12がそれぞれ形成される。
【0102】
なお、多孔質半導体層12は、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の製造方法で示したスクリーン印刷(図11参照)等を応用して形成することができる。また、各多孔質半導体層12には、色素が吸着される。
【0103】
また、図21に示すように、ガラス基板またはフレキシブルなプラスチック基板等で構成される第1基板22の上に、所定の間隔を挟んで1811〜18mnの計m×n(但し、mおよびnは整数)個の第1電極を形成する。
【0104】
第1電極1811〜18mnは、例えば、FTO、ZnO、ITO、SnOなどのスパッタ成膜等により形成される。
【0105】
なお、図示は省略するが、第1電極1811〜18mnの上には、触媒層21がそれぞれ形成される。
【0106】
触媒層21は、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の製造方法で示したスクリーン印刷(図12参照)等によって形成することができる。
【0107】
そして、図22に示すように、第1基板22の上に、各素子毎に紫外線硬化樹脂等で構成される封止材16が塗布され、第2基板20を高精度で位置合わせして第1基板22と重ね合わされる。そして、紫外線等の照射により封止材16を硬化させて、封止材16を介して第1基板22と第2基板20とが貼り合わされた構成とされる。
【0108】
図23は、上述のようにして構成された色素増感光電変換素子について、図22のI−I線に沿う模式的断面構造図である。
【0109】
なお、図23に示すように、封止材16の間に基板のみ残る箇所があるが、そこが後述するスクライブラインSLとなり、打撃等のブレークにより各素子に分離される。
【0110】
次いで、図22のように計m×n個の色素増感光電変換素子が貼り合わされた状態で、図24に示すように横方向のスクライブラインSL1を形成する。
【0111】
具体的には、封止材16が設けられた位置に、スクライビング装置のスクライビングホイールを高精度に位置合わせして各スクライブラインSL1を形成する。
【0112】
続いて、図25に示すように縦方向のスクライブラインSL2を形成する。
【0113】
そして、スクライブラインSL1およびスクライブラインSL2に沿って打撃を与えるなどすると、ガラス材が有する壁開性によりスクライブラインSL1およびスクライブラインSL2に沿って割れて各素子に分離される。
【0114】
なお、図示は省略するが、各素子に分離された後、電解液が注入され、ガラス板の接着や、樹脂の充填等によって封止し、電解液が漏れ出さないよう処置することで色素増感光電変換素子が作り込まれる。
【0115】
第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子の製造方法によれば、発電特性を向上させた色素増感光電変換素子200の製造コストの低廉化を図ることができる。
【0116】
図26のタイムチャートは、第1から第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200、200aが有する触媒層21を焼成する際の温度条件(焼成プロファイル)の例を示す。この例では、焼成開始からt0までは室温(RT)で保ち、時間t0〜t1(例えば30分間)では450℃まで15℃/min程度の温度傾斜で昇温し、時間t1〜t2(例えば、30分間)まで450℃に保つ。
【0117】
次いで、時間t2〜t3(例えば30分K間)は、室温(RT)まで−15℃/min程度の温度傾斜で降温させて焼成を終了する。
【0118】
図27は、第1〜第3の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の動作原理
を示す。また、図28(b)は、図27のB部の拡大図である。
【0119】
次の(a)〜(d)の反応が継続して起こることで、起電力が発生し、負荷24に電流が導通する。
【0120】
(a)多孔質半導体層12の色素分子が光子(hν)を吸収し、電子(e)を放出し、色素分子は酸化体になる。
【0121】
(b)還元体の酸化還元電解質が多孔質半導体層12中を拡散して、酸化体の色素分子に接近する。
【0122】
(c)酸化還元電解質から色素分子に電子(e)が供給される。酸化還元電解質は、酸化体の酸化還元電解質になり、色素分子は還元された色素分子になる。
【0123】
(d)酸化還元電解質は、第1電極18方向に拡散し、触媒層21の活性炭ACの触媒作用により電子を供給されて、還元体の酸化還元電解質になる。
【0124】
なお、比較例として、図28(a)に示すように、熱処理による白金(Pt)の析出を利用した場合には安価にPt粒子を形成することができる。
【0125】
(発電特性に関する実験結果)
図29〜31のグラフに、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の発電特性に関する実験結果を示す。
【0126】
図29は、色素増感光電変換素子200に、200lxの白色光を照射した場合の発電特性を示すグラフである。なお、グラフにおいて、Cは第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の発電特性を示し、Ptは比較対象として触媒層を白金(Pt)で構成した場合の発電特性を示す(図30,図31についても同様)。
【0127】
図30は、色素増感光電変換素子200に、800lxの白色光を照射した場合の発電特性を示すグラフである。
【0128】
図31は、色素増感光電変換素子200に、50000lxの白色光を照射した場合の発電特性を示すグラフである。
【0129】
図29、図30のグラフを見ると分かるように、200lxまたは800lxの白色光を照射した場合には、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200は、触媒層を白金(Pt)で構成した場合と略同等の発電特性を有している。
【0130】
一方、図31に示すように、50000lxの白色光を照射した場合には、触媒層を白金(Pt)で構成した場合よりも、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の発電特性の方が優れていることが分かる。
【0131】
以上のように、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200は、従来から優れた触媒性を有するとされていた白金(Pt)で触媒層を形成した場合と、同等以上の発電特性を有する。しかも、第1の実施の形態に係る色素増感光電変換素子200の触媒層21を構成する活性炭およびTiO、ZnO、SnO2、WO等の金属酸化物の微粒子は、白金(Pt)に比べて比較的安価であり、また白金(Pt)を成膜する際の真空成膜法を用いる必要もなく、製造コストも比較的安価であり、価格性能比は白金(Pt)で触媒層を形成した場合を大きく上回るといえる。
【0132】
[その他の実施の形態]
上記のように、実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0133】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【0134】
(電気二重層キャパシタ)
例えば、電気二重層キャパシタにおいて、活物質電極110,112の何れかを、電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子と、活性炭または有機物の一方を有する導電性薄膜で構成することができる。
【0135】
(リチウムイオンキャパシタ)
また、例えば、リチウムイオンキャパシタにおいて、活物質電極111,112の何れかを、電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子と、活性炭または有機物の一方を有する導電性薄膜で構成することができる。
【0136】
(リチウムイオン電池)
また、例えば、リチウムイオン電池において、活物質電極111,113の何れかを、電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子と、活性炭または有機物の一方を有する導電性薄膜で構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の色素増感光電変換素子は、太陽光のみならず室内光のような低照度光源からの入射光で発電することが出来るため、電源として適用することによって、携帯通信機器やゲーム機器など各種電子機器用補助電源や無線通信センサモジュールの駆動電源といった様々なシステムに適用可能である。
【符号の説明】
【0138】
2…半導体微粒子
3A…アノード電極
3K…カソード電極
3S…極間配線電極
4…色素分子
10…透明電極
12…多孔質半導体層
12a…ペースト
14…電荷輸送層(電解液)
16…封止材
18…第1電極
20…第2基板
19、21…触媒層
21a…ペースト
22…第1基板(ガラス基板)
22a…注入孔
22b…抜気孔
23a、23b…マスク部材
24…負荷
25a、25b…スキージ
26、28…酸化還元電解質
30、32…色素分子
44…容器
45…色素溶液
100…作用極
110,112,113…活物質電極
130…セパレータ
132a,132b…引き出し電極
200、200a…色素増感光電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板上に配置された第1電極と、
前記第1電極上に形成され、酸化還元電解質に対する触媒活性を有する触媒層と、
前記触媒層と接し、前記酸化還元電解質を溶媒に溶解した電解液と、
前記電解液に接し、半導体微粒子と色素分子を備える多孔質半導体層と、
前記多孔質半導体層に配置された第2電極と、
前記第2電極上に配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板の間に配置され、前記電解液を封止する封止材と
を備え、
前記触媒層は、前記活性炭および電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子、または導電性を有する有機物の一方を有する導電性薄膜で構成されることを特徴とする色素増感光電変換素子。
【請求項2】
前記触媒層は、前記活性炭および電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子を含むペースト層を焼成して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の色素増感光電変換素子。
【請求項3】
前記電解液に対する耐食性を有する金属酸化物は、TiO、ZnO、SnO若しくはWOの何れかであることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感光電変換素子。
【請求項4】
第1基板上に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に触媒層として、活性炭と電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子、または導電性を有する有機物の一方を有する導電性薄膜を形成する工程と、
第2基板上に第2電極を形成する工程と、
前記第2電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、
前記多孔質半導体層を色素溶液に浸漬させて色素分子を吸着させる工程と、
前記第1基板上に前記第1電極と前記触媒層とを形成した対極基板と、前記第2基板上に前記第2電極と前記色素分子を吸着させた前記多孔質半導体層とを形成した作用極基板とを、
直列配列させるための基板間の極間配線電極と封止材を介して貼り合わせる工程と、
前記対極基板と前記作用極基板との間に、電解液を注入する工程と
を有することを特徴とする色素増感光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
第1基板上に所定の間隔で複数の第1電極を形成する工程と、
前記各第1電極上に触媒層として、活性炭と電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子、または導電性を有する有機物の一方を有する導電性薄膜を形成する工程と、
第2基板上に前記各第1電極と対向される複数の第2電極を形成する工程と、
前記各第2電極上に半導体微粒子を備える多孔質半導体層を形成する工程と、
前記各多孔質半導体層に色素分子を吸着させる工程と、
前記第1基板上に複数の前記第1電極と前記触媒層とを形成した対極基板と、前記第2基板上に複数の前記第2電極と前記色素分子を吸着させた前記多孔質半導体層とを形成した作用極基板とを、それぞれ色素増感光電変換素子となるセルを区画するように封止材を介して貼り合わせる工程と、
それぞれ色素増感光電変換素子となるセル毎に分離するためのスクライブラインを前記第1基板上または前記第2基板上に形成するスクライブ工程と、
前記スクライブラインに沿ってブレークして、分離する分離工程と、
分離された色素増感光電変換素子の各セルに電解液を注入する工程と
を有することを特徴とする色素増感光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記導電性薄膜を形成する工程は、前記活性炭および電解液に対する耐食性を有する金属酸化物の微粒子を含むペーストを前記第1基板の第1電極上に塗布する工程を有することを特徴とする請求項5に記載の色素増感光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記ペーストを前記第1基板の第1電極上に塗布する工程は、
前記第1電極上に、所定面積の開口部を有するマスクを位置合わせして重ね合わせる工程と、
前記マスクの上に前記ペーストを堆積する工程と、
スキージによって前記ペーストを前記開口部に充填する工程と、
前記マスクを取り除く工程と、
前記ペーストで構成されるペースト層を所定の焼成温度で焼成する工程と
を有することを特徴とする請求項6に記載の色素増感光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記焼成温度は、400〜450℃であることを特徴とする請求項7に記載の色素増感光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2013−93174(P2013−93174A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233907(P2011−233907)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】