説明

色素増感型バイオセンサ用ブロッキング剤

【課題】 増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において被検物質の検出感度を飛躍的に向上できる、作用電極処理用のブロッキング剤の提供。
【解決手段】 増感色素2の光励起により生じる光電流を用いた被検物質1の特異的検出に用いられる作用電極3との接触下で使用されるブロッキング剤として、分子骨格中にリン酸基を含む分子を用いる。
【効果】被検物質の検出感度が飛躍的に向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電流を用いて、核酸、外因性内分泌攪乱物質、抗原等の特異的結合性を有する被検物質を特異的に検出する色素増感型バイオセンサにおいて、被検物質の電極表面への非特異的吸着を抑制するために用いられるブロッキング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中のDNAを解析する遺伝子診断法が、各種病気の新たな予防および診断法として、有望視されている。このようなDNA解析を簡便かつ正確に行う技術として、以下のものが提案されている。
【0003】
被検体DNAを、これと相補的な塩基配列を有し、かつ蛍光物質を標識されたDNAプローブとハイブリダイズさせ、その際の蛍光シグナルを検出する、DNAの分析方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この方法にあっては、ハイブリダイゼーションによる二本鎖DNAの形成を色素の蛍光により検出する。
【0004】
また、一本鎖に変性された遺伝子サンプルを、これに相補性を有する一本鎖の核酸プローブとハイブリダイゼーションさせた後、インターカレータ等の二本鎖認識体を添加して電気化学的に検出する方法が知られている(例えば、特許文献3および非特許文献1参照)。
【0005】
一方、近年、ダイオキシンを始めとする外因性内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の生殖系および神経系等への障害が社会問題化している。現在、外因性内分泌撹乱毒性の検出は様々な方法によって行われているが、そのような物質はわずか10pptレベル程度の極めて低い濃度で毒性を示す。このため、そのような低濃度範囲における外因性内分泌撹乱物質の検出方法が望まれている。
【0006】
特に、外因性内分泌撹乱物質は、受容体等のタンパク質を介して標的DNAに結合し、それにより当該DNAの発現等に影響を与え、毒性を生じる。すなわち、外因性内分泌撹乱物質は、DNAに直接的に結合するのではなく、受容体等のタンパク質を介して間接的DNAに結合する。そのため、DNA結合性を用いたプレスクリーニング等の従来の方法にあっては、その結合の評価は容易ではない。
【0007】
最近、被検物質とプローブ物質との直接または間接的な特異的結合を介して作用電極に増感色素を固定させ、この増感色素を光励起させて発生する光電流を検出するという色素増感型太陽電池の原理を応用した、極めて簡便に生体分子間の結合由来の特異的シグナルを検出可能な色素増感型バイオセンサが提案され、被検物質を高感度で簡便かつ正確に検出および定量出来ることが報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平7−107999号公報
【特許文献2】特開平11−315095号公報
【特許文献3】特許公報第2573443号
【特許文献4】特開2004−092672
【非特許文献1】表面科学Vol. 24, No. 11. Pp. 671-676, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、色素増感型バイオセンサにおいて、被検物質の電極表面への非特異的吸着を抑制する最適なブロッキング剤を用いることで、選択性・定量性に優れた生体関連物質のセンシングが可能であるという知見を得ている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、色素増感バイオセンサにおいて、特異的結合性を有する被検物質の選択的かつ定量的な検出および定量を可能とするブロッキング剤を提供することを目的としている。
【0010】
そして、本発明のブロッキング剤は、リン酸基を有することを特徴とする分子を含んでなるものである。
【発明の効果】
【0011】
したがって、本発明は、色素増感バイオセンサにおいて、非特異吸着反応を抑制することで、特異的結合性を有する被検物質の選択的かつ定量的な検出および定量を可能とするブロッキング剤を提供することを目的としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
被検物質の非特異的吸着を抑制させるブロッキング剤
本発明によるブロッキング剤は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる作用電極への被検物質の非特異的な吸着を抑制する為に使用されるものである。増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出の詳細については後述するが、作用電極への被検物質の非特異的な吸着を抑制するための使用の例としては、ブロッキング剤を使用する際の工程として、好ましくは、ブロッキング剤を含む溶液を、前記プローブ物質を表面に備えた作用電極に接触させた後に、前記被検物質を直接または間接的に特異的に結合させる工程である。具体的には、プローブ物質を固定化した後の作用電極に対し、ブロッキング剤を溶解させた溶液を接触または浸漬することで固定化させる工程等が挙げられる。
【0013】
本発明におけるブロッキング剤としては、分子骨格中にリン酸基を含むものであれば良く、色素増感型バイオセンサに用いる電極の電子受容層に何らかの結合により吸着できるものであれば良い。本発明にけるリン酸基を含む分子としては、リン酸基の他に骨格中に炭化水素を含む有機リン酸化合物や、リン酸が縮合したポリリン酸類等の無機リン酸化合物等の骨格中にリン酸が含まれるものであれば良い。本発明におけるブロッキング剤としては、有機リン酸化合物を好ましく用いることができ、より好ましくは、分子骨格中に、飽和炭化水素であるアルキル基、不飽和炭化水素であるアリル基、炭素、水素以外の元素が含まれる複素官能基を含むリン酸化合物を用いることができる。ここで、アルキル基とは、直鎖アルキル基や測鎖を有するアルキル基のどちらでもよく、好ましくは直鎖アルキル基が用いられる。
【0014】
ここで、本発明におけるブロッキング剤に含まれるアルキル基としては、炭素鎖1以上18以下の直鎖アルキル基が好ましい。ここで、炭素数1以上18以下の直鎖アルキル基を有する分子は、その分子自体の双極子モーメントが大きい為、固体極性表面に対する吸着力が非常に強いことが期待できる。更に、直鎖アルキル基の炭素鎖が長いほど隣り合う分子間でのアルキル基のファンデルワールス力が強く働くようになるため、高密度な表面パッキングが可能となることから、被検物質の非特異的吸着を抑制効果の増大が期待できる。ここで、直鎖アルキル基を有するリン酸化合物としては、好ましくはメチルリン酸、エチルリン酸、n−プロピルリン酸、n−ブチルリン酸、n−ペンチルリン酸、n−ヘキシルリン酸、n−ヘプチルリン酸、n−オクチルリン酸、n−ノニルリン酸、n−デシルリン酸、n−ドデシルリン酸、n−テトラデシルリン酸、n−ヘキサデシルリン酸、n−オクタデシルリン酸と、それらの塩、すなわちアンモニウム塩やアルキルアンモニウム塩等の有機塩やナトリウム、カリウム等の無機塩が用いられる。ここで、直鎖アルキル基の炭素鎖が1未満であれば、例えば酸化チタン電極等の極性表面を有する材料を用いた場合、その双極子モーメントが小さくなる為、吸着量の減少につながり、また炭素鎖が19以上である場合、分子の疎水性が強くなりすぎる為、溶媒への溶解が極めて悪化する為、効率的な吸着が起こらない恐れがある。
【0015】
また不飽和炭化水素であるアリル基としては、フェニル基、ナフチル基などの芳香族系官能基や、二重結合、三重結合を含む不飽和炭化水素系官能基のいずれでも構わない。ここで、アリル基に含まれる不飽和炭化水素の分子間で起こる相互作用、つまり疎水的相互作用やπ−π相互作用により、分子間での相互作用が強まることで、高密度な表面パッキングが可能となることから、被検物質の非特異的吸着を抑制効果の増大が期待できる。ここで、本発明におけるアリル基を含むブロッキング剤としては、フェニルリン酸、ナフチルリン酸と、それらの塩、すなわちアンモニウム塩やアルキルアンモニウム塩等の有機塩やナトリウム、カリウム等の無機塩が挙げられる。
【0016】
また、本発明におけるブロッキング剤としては、複素官能基を有するリン酸も好ましく用いることができ、その複素官能基に含まれる元素としは、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、リン、ホウ素、フッ素、塩素、臭素、沃素等の元素を含むものが挙げられる。ここで好適に用いられる複素官能基を有するリン酸化合物としては、オリゴヌクレオチド等の核酸を用いることができる。本発明におけるブロッキング剤として、DNA等の多価リン酸を用いることで、電子受容層に用いられる物質に多点で結合を形成することにより、より強力に電子受容層表面に吸着することが可能となる。
【0017】
また、リン酸基と電子受容層に用いる物質の結合の種類としては、好ましくは共有結合、エステル結合、配位結合、イオン結合等が挙げられる。その結合の種類については、用いる電子受容層の表面物性により大きく変化することが知られており、例えば、表面の固体塩基性が強まるほど、共有結合からイオン結合的な要素が増大する。例えば、酸化チタン等の遷移金属酸化物を電子受容層として用いた場合、分子中に存在するリン酸基は、酸化チタン表面に存在する水酸基との間で脱水縮合によりTi-O-Pのような共有結合を形成することが知られている。
【0018】
本発明におけるブロッキング剤としては、分子骨格中に分子間での相互作用を誘起する官能基を含むことが好ましい。ここで、本発明における「分子間での相互作用が誘起される」とは、例えば電極表面上へのブロッキング剤分子の吸着が進行すると同時に、近傍に存在するブロッキング剤分子同士が、各々の官能基同士の電子的相互作用により、電極表面上で配向して会合するようになる、いわゆる“自己組織化”的な会合がおこることにより、より高密度なブロッキング剤同士の電極表面上での充填が可能となることを示している。よって、これにより、密なブロッキング分子層の形成がもたらされ、結果として、被検物質の電極への直接の吸着が抑制(ブロッキング)されることにより、非特異的吸着反応の減少につながる。ここで、本発明におけるブロッキング剤において、分子間で誘起される前記相互作用として、好ましくは、ファンデルワールス力、疎水的相互作用、π−π相互作用、水素結合などが挙げられる。またリン酸ユニットを多数含むポリリン酸等の高分子状化合物を用いても構わない。
【0019】
このようなブロッキング剤を用いることにより、測定対象物および作用電極の特性を阻害することなく、光電流による被検物質の検出感度を飛躍的に向上させることができる。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、ブロッキング剤は溶媒に溶解させることにより、液相中で電極を接触または浸漬することで、電極上に固定化させることが可能である。この際、ブロッキング剤を溶解させる溶媒としては、もしくは有機溶媒のどちらでもよく、これらを混合した溶媒を用いても構わない。さらには、ブロッキング剤が液状である場合は、溶媒を加えずに直接ブロッキング剤と電極を反応させることも可能である。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、ブロッキング剤を溶解させる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、アセトン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、シクロヘキサンから選ばれる少なくとも一種の溶媒を含むものを用いることができる。また溶媒として、水を用いる場合、緩衝剤を含むものを用いても良い。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、ブロッキング剤を含む溶液の濃度としては、0.01mM〜1Mとするのが好ましく、より好ましくは0.1mM〜500mM、更に好ましくは10〜100mMである。
【0023】
光電流を用いた被検物質の特異的検出
前述の通り、本発明のブロッキング剤は増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる作用電極の処理に使用されるものである。この増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法について、以下に具体的に説明する。
【0024】
この方法においては、まず被検物質を含む試料液と、作用電極と、対電極とを用意する。本発明に用いる作用電極は、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えた電極である。すなわち、プローブ物質は、被検物質と直接、特異的に結合する物質のみならず、被検物質を受容体蛋白質分子等の媒介物質に特異的に結合させて得られる結合体と特異的に結合可能な物質であってよい。次いで、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を作用電極に固定させる。増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、被検物質あるいは媒介物質に予め標識させておくか、あるいは被検物質およびプローブ物質の結合体にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には試料液に単に添加すればよい。
【0025】
そして、作用電極と対電極とを電解質媒体に接触させた後、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させると、光励起された増感色素から電子受容物質へ電子移動が起こる。この電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することにより、被検物質を高い感度で検出することができる。また、この検出電流は試料液中の被検試料濃度との高い相関関係を有しているので、測定された電流量または電気量に基づき被検試料の定量測定を行うことができる。
【0026】
被検物質およびプローブ物質
本発明の方法における被検物質としては、特異的な結合性を有する物質であれば限定されず、種々の物質であってよい。このような被検物質であれば、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を作用電極表面に担持させておくことにより、被検物質をプローブ物質に直接または間接的に特異的に結合させて検出することが可能となる。
【0027】
すなわち、本発明の方法にあっては、被検物質およびプローブ物質として互いに特異的に結合可能なものを選択することができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、被検物質と特異的に結合する物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、作用電極上に被検物質を直接、特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、一本鎖の核酸および核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸の組合せ、ならびに抗原および抗体の組合せが挙げられる。
【0028】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質を一本鎖の核酸とし、プローブ物質を核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸とするのが好ましい。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図1(a)および(b)に示す。これらの図に示されるように、被検物質としての一本鎖の核酸1は、作用電極3上に担持されたプローブ物質としての相補性を有する一本鎖の核酸4とハイブリダイズされて、二本鎖の核酸7を形成する。
【0029】
一本鎖の核酸を被検物質とする場合、プローブ物質である核酸と相補性部分を有していればよく、被検物質を構成する塩基対の長さは限定されないが、プローブ物質が核酸に対して15bp以上の相補性部分を有するのが好ましい。本発明の方法によれば、200bp、500bp、1000bpの塩基対を有する比較的鎖長の長い核酸であっても、高感度にプローブ物質と被検物質の核酸同士の特異的結合形成を光電流として検出することができる。
【0030】
被検物質としての一本鎖の核酸を含む試料液は、末梢静脈血のような血液、白血球、血清、尿、糞便、精液、唾液、培養細胞、各種臓器細胞のような組織細胞等の、核酸を含有する各種検体試料から、公知の方法により核酸を抽出して作製することができる。このとき、検体試料中の細胞の破壊は、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて担体を振動させることにより行なうことができる。また、核酸抽出溶液を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。核酸溶出溶液の例としては、SDS、Triton-X、Tween-20のような界面活性剤、サポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液が挙げられる。これらの溶液を用いて核酸を溶出する場合、37℃以上の温度でインキュベ−トすることにより反応を促進することができる。
【0031】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質とする遺伝子の含有量が微量である場合には、公知の方法により遺伝子を増幅した後検出を行なうのが好ましい。遺伝子を増幅する方法としては、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR)等の酵素を用いる方法が代表的であろう。ここで、遺伝子増幅法に用いられる酵素の例としては、DNAポリメラ−ゼ、Taqポリメラ−ゼのようなDNA依存型DNAポリメラ−ゼ、RNAポリメラ−ゼIのようなDNA依存型RNAポリメラ−ゼ、Qβレプリカ−ゼのようなRNA依存型RNAポリメラ−ゼが挙げられ、好ましくは温度を調節するだけで連続して増幅を繰り返すことができる点で、Taqポリメラ−ゼを用いるPCR法である。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、上記増幅時に特異的に核酸を増感色素で標識することが出来る。一般的には、DNAにアミノアリル修飾dUTPを取り込ませることにより行うことができる。この分子は未修飾の dUTP と同じ効率で取り込まれる。次のカップリング段階において、N−ヒドロキシサクシンアミド(N-hydroxysuccinimide)により活性化された蛍光色素が修飾 dUTP と特異的に反応し、均一に増感色素で標識された被検物質が得られる。
【0033】
本発明の好ましい態様によれば、上記のようにして得られた核酸の粗抽出液あるいは精製した核酸溶液をまず90〜98℃、好ましくは95℃以上の温度で熱変性を施し、一本鎖核酸を調製することができる。
【0034】
本発明の方法にあっては、被検物質とプローブ物質が間接的に特異的に結合するものであってもよい。すなわち、本発明の別の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、この被検物質と特異的に結合する物質を媒介物質として共存させ、この媒介物質と特異的に結合可能な物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、プローブ物質に特異的に結合できない物質であっても、媒介物質を介して作用電極上に間接的に特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質、媒介物質、およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、リガンド、このリガンドを受容可能な受容体蛋白質分子、およびこの受容体蛋白質分子と特異的に結合可能な二本鎖の核酸の組合せが挙げられる。リガンドの好ましい例としては、外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)が挙げられる。外因性内分泌撹乱物質とは、受容体蛋白質分子を介してDNAに結合し、その遺伝子発現に影響して毒性を生じる物質であるが、本発明の方法によれば、被検物質によりもたらされる受容体等のタンパク質のDNAに対する結合性を簡便にモニタリングすることができる。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図2に示す。図2に示されるように、被検物質としてのリガンド10は、まず、媒介物質である受容体蛋白質分子11に特異的に結合する。そして、リガンドが結合された受容体蛋白質分子13が、プローブ物質としての二本鎖の核酸14に特異的に結合する。
【0035】
本発明では、1つのプローブに対し、由来の異なる複数の同一被検物質を同時に反応させ、サンプルの由来による被験物質量の差異を判断、定量することも可能である。
【0036】
具体的な適用例としては、マイクロアレイ上での競合的ハイブリダイゼーションによる発現プロフィール解析が挙げられる。これは、細胞間での特定遺伝子の発現パターンの差異を解析するため、別々の蛍光色素で標識された被験物質を同一プローブに対し競合的にハイブリダイゼーションを行わせるものである。本発明においては、同様の手法を用いることにより、細胞間での発現差異解析が電気化学的に行えるという従来にはなかったメリットをもたらす。
【0037】
増感色素
本発明の方法にあっては、被検物質の存在を光電流で検出するために、増感色素の共存下、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させて、該結合により増感色素を作用電極に固定させる。そのために、本発明の方法にあっては、図1(a)および図2に示されるように被検物質1あるいは媒介物質11に予め増感色素2,12で標識しておくことができる。また、図1(b)に示されるように被検物質およびプローブ物質の結合体7(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素8を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより、プローブ物質に増感色素を固定させることができる。
【0038】
本発明の好ましい態様によれば、被検物質が一本鎖の核酸の場合、被検物質1分子につき増感色素を一つ標識するのが好ましい。一本鎖の核酸における標識位置は、容易に被検物質とプローブ物質の特異的な結合を形成させる観点から、一本鎖の核酸の5’末端または3’末端のいずれかの位置とするのが好ましく、標識工程をさらに簡便にする観点から被検物質の5’末端とするのがさらに好ましい。
【0039】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、被検物質1分子あたりの増感色素担持量を高める為、被検物質1分子につき2つ以上の増感色素を2つ以上標識するのが好ましい。これにより、電子受容物質の形成された作用電極における単位比表面積あたりの色素担持量をより多くすることができ、より高感度に光電流応答を観測することができる。
【0040】
本発明に用いる増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、光源の照射による光励起状態への遷移が可能であり、かつ励起状態から作用電極に電子注入できる電子状態を採りうるものであればよい。したがって、用いる増感色素は、作用電極、特に電子受容層との間において上記電子状態をとることができるものであればよいことから、多種の増感色素が使用可能であり、高価な色素を使用する必要がない。
【0041】
複数の被検物質の個別検出を行う態様にあっては、各々の被検物質に標識する増感色素は、それぞれ異なる波長の光で励起できるものであればよく、例えば、照射光の波長を選択することにより各被検物質を個別に励起できればよい。例えば、複数の被検出物質に対応する複数の増感色素を用い、各増感色素毎に異なる励起波長の光を照射すると、複数のプローブが同一スポット上であっても個別に信号を検出することが可能となる。被検物質の数は、限定されないが、光源から照射される光の波長と増感色素の吸収特性を考慮すると、1〜5種類が適当である。
【0042】
したがって、この態様において使用可能な増感色素は、照射光の波長領域内において光励起しさえすればよく、必ずしもその吸収極大が該波長領域にある必要はない。なお、特定波長における増感色素の光吸収反応の有無は、紫外可視スペクトロフォトメーター(例えば、島津製作所社製、UV−3150)を用いて測定することができる。
【0043】
増感色素の具体例としては、金属錯体や有機色素が挙げられる。金属錯体の好ましい例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン;クロロフィルまたはその誘導体;ヘミン、特開平1−220380 号公報や特表平5−504023 号公報に記載のルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体(例えばシス−ジシアネート−ビス(2、2 ’−ビピリジル−4、4 ’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II))があげられる。有機色素の好ましい例としては、メタルフリーフタロシアニン、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、インジゴ系色素等が挙げられる。また、増感色素の別の好ましい例としては、アマシャムバイオサイエンス社製のCy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5、Cy9;モルキュラープローブ社製のAlexaFluor355、AlexaFluor405、AlexaFluor430、AlexaFluor488、AlexaFluor532、AlexaFluor546、AlexaFluor555、AlexaFluor568、AlexaFluor594、AlexaFluor633、AlexaFluor647、AlexaFluor660、AlexaFluor680、AlexaFluor700、AlexaFluor750;Dyomics社製のDY−610、DY−615、DY−630、DY−631、DY−633、DY−635、DY−636、EVOblue10、EVOblue30、DY−647、DY−650、DY−651、DYQ−660、DYQ−661が挙げられる。
【0044】
二本鎖核酸にインターカレーション可能な増感色素の好ましい例としては、アクリジンオレンジ、エチジウムブロマイドが挙げられる。このような増感色素を用いる場合、核酸のハイブリダイゼーション後に試料液に添加するだけで増感色素で標識された二本鎖核酸が形成されるので、予め一本鎖の核酸を標識する必要が無い。
【0045】
作用電極およびその製造
本発明に用いる作用電極は、上記プローブ物質を表面に備えた電極であり、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電極である。したがって、作用電極の構成および材料は、使用される増感色素との間で上記電子移動が生じるものであれば限定されず、種々の構成および材料であってよい。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面にプローブ物質が備えられてなるのが好ましい。また、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、この導電性基材上に電子受容層が形成されてなるのが好ましい。この態様の電極は図1および2に示される。図1および2に示される作用電極4は、導電性基材5と、この導電性基材上に形成され、電子受容物質を含んで成る電子受容層6とを備えてなる。そして、電子受容層6の表面にプローブ物質が担持される。
【0047】
本発明における電子受容層は、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる。すなわち、電子受容物質は、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位を取り得る物質であることができる。ここで、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位(A)とは、例えば、電子受容性材料として半導体を用いる場合には、伝導体(コンダクションバンド:CB)を意味し、電子受容性材料として金属を用いる場合には、フェルミ準位を意味し、電子受容性材料として有機物もしくはC60等の分子状無機物を用いる場合には、最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO)を意味する。すなわち、本発明に用いる電子受容物質は、このAの準位が、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも卑な準位、換言すれば、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも低いエネルギー準位を有するものであればよい。
【0048】
電子受容物質の好ましい例としては、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物半導体;カドミウム、鉛のセレン化物半導体;カドミウムのテルル化物半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物半導体;ガリウムヒ素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物の化合物半導体;金、白金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、ニッケル等の金属;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール等の有機物ポリマー;C60、C70等の分子状無機物が挙げられ、より好ましくは、シリコン、TiO、SnO、FeO、WO、ZnO、NbO、チタン酸ストロンチウム、CdS、ZnS、PbS、BiS、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS、CuInSe、C60であり、さらに好ましくは、TiO、ZnO、SnO、FeO、WO、NbO、チタン酸ストロンチウム、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS、CuInSeであり、最も好ましくはTiOである。
【0049】
電子受容物質として半導体または金属を用いる場合、その半導体または金属は単結晶および多結晶のいずれであってもよいが、多結晶体が好ましく、さらに緻密なものよりも多孔性を有するものが好ましい。これにより、比表面積が大きくなり、被検物質および増感色素を多く吸着させて、より高い感度で被検物質を検出することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が多孔性を有しており、各孔の径が3〜1000nmであるのが好ましく、より好ましくは、10〜100nmである。
【0050】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層を導電性基材上に形成した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この表面積の上限には特に限定されないが、通常1000倍程度であろう。電子受容層を構成する電子受容物質の微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径を用いた平均粒径で一次粒子として5〜200nmであることが好ましく、より好ましくは8〜100nmであり、さらに好ましくは20〜60nmである。また、分散物中の電子受容性物質の微粒子(二次粒子)の平均粒径としては0.01〜100μmであることが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒子サイズの大きな、例えば300nm程度の電子受容物質の微粒子を併用して、電子受容層を形成してもよい。
【0051】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、電子受容層が導電性基材上に形成されてなるのが好ましい。本発明に使用可能な導電性基板としては、チタン等の金属のように支持体そのものに導電性があるもののみならず、ガラスもしくはプラスチックの支持体の表面に導電材層を有するものであってよい。この導電材層を有する導電性基板を使用する場合、電子受容層はその導電層上に形成される。導電材層を構成する導電材の例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス;およびインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの、酸化スズにアンチモンをドープしたもの、酸化亜鉛にガリウムをドープしたもの、または酸化亜鉛にアルミニウムをドープしたもの等の導電性の金属酸化物が挙げられ、より好ましくは、インジウム-スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物である。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、導電性基材が実質的に透明、具体的には、光の透過率が10%以上であるのが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、本発明の好ましい態様によれば、導電材層の厚みは、0.02〜10μm程度であるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、導電性基材の表面抵抗が100Ω/cm以下であり、さらに好ましくは40Ω/cm以下であるのが好ましい。導電性基材の表面抵抗の下限は特に限定されないが、通常0.1Ω/cm程度であろう。
【0053】
導電性基材上への電子受容層の好ましい形成方法の例としては、電子受容物質の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法、半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し空気中の水分によって加水分解して微粒子膜を得る方法(ゾル−ゲル法)、スパッタリング法、CVD法、PVD法、蒸着法などが挙げられる。電子受容物質としての半導体微粒子の分散液を作成する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。このときの分散媒としては水または各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、もしくはキレート剤などを分散助剤として使用してもよい。
【0054】
電子受容物質の分散液またはコロイド溶液の塗布方法の好ましい例としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分でできるものとして、特公昭58−4589号公報に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパ法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法が挙げられる。
【0055】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体微粒子からなる場合、電子受容層の膜厚が0.1〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜25μmである。これにより、単位投影面積当たりのプローブ物質および固定される増感色素量を増加して光電流量を多くするとともに、電荷再結合による生成した電子の損失をも低減することができる。また、導電性基材1m当たりの半導体微粒子の塗布量は0.5〜400gであるのが好ましく、より好ましくは5〜100gである。
【0056】
本発明の好ましい態様によれば、半導体微粒子を導電性基材上に塗布した後に加熱処理を施すのが好ましい。これにより、粒子同士を電気的に接触させ、また、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させることができる。好ましい加熱処理温度は、40〜700℃であり、より好ましくは100〜600℃である。また、好ましい加熱処理時間は10分〜10時間程度である。
【0057】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、ポリマーフィルムなど融点や軟化点の低い導電性基材を用いる場合にあっては、熱による劣化を防止するため、高温処理を用いない方法により膜形成を行うのが好ましく、そのような膜形成方法の例として、プレス、低温加熱、電子線照射、マイクロ波照射、電気泳動、スパッタリング、CVD、PVD、蒸着等の方法が挙げられる。
【0058】
こうして得られた作用電極の電子受容層の表面にはプローブ物質が担持される。作用電極へのプローブ物質の担持は公知の方法に従い行うことができる。本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質として一本鎖の核酸を用いる場合には、作用電極表面に酸化層を形成させておき、この酸化層を介して核酸プロ−ブと作用電極とを結合させることにより行うことができる。このとき、核酸プローブの作用電極への固定化は、核酸の末端に官能基を導入することにより行うことができる。これにより、官能基が導入された核酸プロ−ブはそのまま固定化反応により担体上に固定化されることができる。核酸末端への官能基の導入は、酵素反応もしくはDNA合成機を用いて行なうことができる。酵素反応において用いられる酵素としては、例えば、タ−ミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラ−ゼ、ポリAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドカイネ−ス、DNAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドアデニルトランスフェラ−ゼ、RNAリガ−ゼを挙げることができる。また、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR法)、ニックトランスレ−ション、ランダムプライマ−法により官能基を導入することもできる。官能基は、核酸のどの部分に導入されてもよく、3'末端、5'末端もしくはランダムな位置に導入することができる。
【0059】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プローブの作用電極への固定化のため官能基として、アミン、カルボン酸、スルホン酸、チオール、水酸基、リン酸等が好適に使用できる。また、本発明の好ましい態様によれば、拡散プローブを作用電極に強固に固定化するためには、作用電極と拡散プローブの間を架橋する材料を使用することも可能である。そのような架橋材料の好ましい例としては、シランカップリング剤や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマーが挙げられる。
【0060】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プロ−ブの固定化を物理吸着という、より簡単な操作で効率よく行うことも可能である。電極表面への核酸プロ−ブの物理吸着は、例えば、以下のように行なうことができる。まず、電極表面を、超音波洗浄器を用いて蒸留水およびアルコ−ルで洗浄する。その後、電極を核酸プロ−ブを含有する緩衝液に挿入して核酸プロ−ブを担体表面に吸着させる。また、核酸プローブの吸着後、ブロッキング剤を添加することにより、非特異的な吸着を抑制することができる。
【0061】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が互いに分離された複数の領域毎に区分されて担持されてなり、光源による光照射が各領域に対して個別に行われるのが好ましい。これにより、複数の試料を一枚の作用電極上で測定することができるので、DNAチップの集積化等が可能となる。本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が担持された、互いに分離された複数の領域がパターニングされており、光源から照射される光でスキャニングしながら、各領域の試料について被検物質の検出または定量を一度の操作で連続的に行うことが好ましい。
【0062】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域に複数種類のプローブ物質を担持させることができる。これにより、領域の個数に、各領域毎のプローブ物質の種類数を乗じた数の、多数のサンプルの測定を同時に行うことができる。
【0063】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域毎に異なるプローブ物質を担持させることができる。これにより、区分された領域の数に相当する種類数のプローブ物質を担持させることができるので、多種類の被検物質の測定を同時に行うことができる。この態様は、各領域毎に異なる被検物質の分析が可能なため、一塩基多型の解析(SNPs)の多項目解析に好ましく利用することができる。
【0064】
対電極
本発明に用いる対電極は、電解質媒体に接触させた場合に作用電極との間に電流が流れることができるものであれば特に限定されず、金属もしくは導電性の酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、セラミックス等が使用可能である。また、対電極としての金属薄膜を5μm以下、好ましくは3nm〜3μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成して作成することもできる。対電極に使用可能な材料の好ましい例としては、白金、金、パラジウム、ニッケル、カーボン、ポリチオフェン等の導電性ポリマー、酸化物、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス等が挙げられ、より好ましくは、白金、カーボンであり、最も好ましくは白金である。
【0065】
測定方法および装置
本発明の方法にあっては、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を前記作用電極に固定させる。
【0066】
本発明の好ましい態様によれば、増感色素で予め標識された一本鎖の核酸を被検物質とする場合、プローブ物質である一本鎖核酸との間でハイブリダイゼーション反応を行なうことができる。ハイブリダイゼーション反応の好ましい温度は37〜72℃の範囲であるが、その最適温度は使用するプロ−ブの塩基配列や長さ等により異なる。
【0067】
本発明の別の好ましい態様によれば、被検物質およびプローブ物質の結合体(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより結合体を特異的に増感色素で標識することができる。
【0068】
本発明の方法にあっては、被検物質が増感色素と共に固定された作用電極を、対電極と共に電解質媒体に接触させ、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させ、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出する。
【0069】
このような測定用セルの一例を図3に示す。図3に示される測定用セル21は、作用電極22と対電極23とにより挟まれて形成された空隙内に電解液24が充填されてなる。作用電極22は、導電性基材26と電子受容層27とを備えてなり、電子受容層27側を電解液24に接触させるように配置される。作用電極22と対電極23との間には絶縁スペーサ25が挿入されることにより、電解液24を収容する空間が確保されている。電極間の距離は酸化還元のサイクルを効率良く行わせるためには短い方が好ましく、工作的な精度との兼ね合いから数十μm であることが望ましい。また、いわゆるMEMS 的な製造方法を利用するのであれば、より近接した電極間距離とすることも可能である。
【0070】
本発明において用いる電解質媒体は、電解質、溶媒、および所望により添加物を含んでなるものであることができる。電解質の好ましい例としては、Iとヨウ化物の組み合わせ(ヨウ化物としてはLiI、NaI、KI、CsI、CaIなどの金属ヨウ化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩など)、Brと臭化物の組み合わせ(臭化物としてはLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBrなどの金属臭化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩など)のほか、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオンなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィドなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノン等が挙げられ、より好ましくは、IとLiIやピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩を組み合わせた電解質である。上述した電解質は混合して用いてもよい。
【0071】
本発明の好ましい態様によれば、電解液の電解質濃度は0.1〜15Mであるのが好ましく、より好ましくは0.2〜10Mである。また、電解質にヨウ素を添加する場合における、好ましいヨウ素の添加濃度は0.01〜0.5Mである。
【0072】
好ましい溶媒の例としては、水、アルコール(メタノール、エタノール等)、非プロトン性の極性溶媒(例えばアセトニトリルなどのニトリル類、炭酸プロピレンや炭酸エチレンなどのカーボネート類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチルイミダゾリノンや3−メチルオキサゾリジノン、ジアルキルイミダゾリウム塩などの複素環化合物、等)が挙げられる。
【0073】
本発明の好ましい態様によれば、電解質媒体はゲル化(固体化)させて使用することもできる。ゲル化の方法の例としては、ポリマー添加、オイルゲル化剤添加、多官能モノマー類を含む重合、ポリマーの架橋反応等の手法により行うことができる。ゲル電解質のマトリクスに使用されるポリマーの例としては、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオリド等が挙げられる。
【0074】
図3に示されるように作用電極21の上方には光源28が光源カバー29を介して配置される。本発明に用いる光源としては、標識色素を光励起できる波長の光を照射できるものであれば限定されず、好ましい例としては、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、レーザー光、太陽光を用いることができ、より好ましくは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色、青、緑、赤)、太陽光等を挙げることができる。また、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみを照射してもよい。
【0075】
本発明の好ましい態様によれば、互いに異なる光波長で励起可能な二種以上の増感色素を用いて複数種類の被検物質を個別に検出する場合、光源から波長選択手段を介して特定波長の光を照射することにより、複数の色素を個別に励起することが可能である。波長選択手段の例としては、分光器、色ガラスフィルタ、干渉フィルタ、バンドパスフィルタ等が挙げられる。また、増感色素の種類に応じて異なる波長の光を照射可能な複数の光源を用いてもよく、この場合の好ましい光源の例としては、特定波長の光が照射されるレーザー光やLEDを用いてもよい。また、作用極に光を効率よく照射するため、石英、ガラス、液体ライトガイドを用いて導光してもよい。
【0076】
本発明の好ましい態様によれば、光源から放射される光がもともと紫外線を実質的に含まないか、または光源からの光の照射が紫外線を除去する手段を介して行われるのが好ましい。これにより、照射光に400nm以下の波長の紫外線が含まれる場合に発生しうる電子受容物質自体の光励起によるバックグランド電流、すなわちノイズを効果的に抑制して、より精度の高い測定が可能となる。なお、増感色素は一般的に可視光の吸収により励起されることができるため、紫外線を除去したとしても可視光の照射により高い感度で光電流を検出することが可能である。
【0077】
紫外線を除去する手段の好ましい例としては、光学フィルタ、および分光器が挙げられる。光学フィルタまたは分光器を用いることにより、照射光の波長を制御することができ、作用電極自体の光励起を防止しつつ、増感色素のみを励起することが可能となる。好ましい光学フィルタの例としては、紫外線カットフィルタ等の色ガラスフィルタが挙げられる。好ましい分光器の例としては、厳密な波長制御が可能な点で、回折格子が内蔵された分光器が挙げられる。
【0078】
もともと紫外線を実質的に含まない光を放出する光源の好ましい例としては、レーザ、無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、発光ダイオード(LED)が挙げられるが、最も好ましくは発光ダイオード(LED)である。LEDによれば、波長分布の狭い制御された光を照射することができ、小型、軽量、低消費電力、および長寿命といった利点も得られる。
【0079】
本発明のより好ましい態様によれば、使用する電子受容物質についての既知のバンドギャップを下記式に代入して算出される、表1に示されるカットオフ波長よりも短い波長の光を除去することが好ましい。これにより、電子受容物質の特性に応じて、バックグランド電流の発生を効果的に抑制できる。

バンドギャップ(eV) = hν = hc/λ = 1239.8/λ(mm)
(h:プランク定数、c:光速)
表 1
電子受容物質 バンドギャップ 好適なカットオフ波長
(eV) (nm)
ルチル型酸化チタン 3.2 387
アナターゼ型酸化チタン 3.0 413
酸化亜鉛 3.1 400
チタン酸ストロンチウム 3.2 387
酸化スズ 3.5 354
酸化タングステン 2.8 443
酸化ニオブ 3.1 400
酸化鉄 2.2 564
【0080】
なお、電子受容物質には不純物準位を含む場合があるため、万全を期して、カットオフ波長を表1に示される波長よりも長波長側に設定しても構わない。また、作用電極が複数の電子受容物質で構成されている場合には、構成成分のうち最もバンドギャップが狭い成分のカットオフ波長よりも短い波長を除去するのが好ましい。
【0081】
図4に示されるように、作用電極21および対電極22間には電流計30が接続され、光照射により系内を流れる光電流が電流計により測定される。これにより、被検物質を検出することができる。その際の電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量を反映する。例えば、被検物質が核酸の場合、相補性のある核酸間で形成された二本鎖の量が、電流値となり反映される。したがって、得られた電流値から被検物質を定量することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電流計が、得られた電流量または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出する手段をさらに備えてなるのが好ましい。
【0082】
本発明の好ましい態様によれば、光電流を検出する工程が、電流値を測定し、得られた電流値または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出することができる。この被検物質濃度の算出は、予め作成された被検物質濃度と電流値または電気量との検量線と、得られた電流値または電気量とを対比することにより行うことができる。本発明の方法にあっては、電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量が反映されるので、被検物質濃度に対応した正確な電流値が得られるため、定量測定に適する。
【0083】
本発明の別の好ましい態様によれば、予め増感色素で標識された被検物質を競合物質として用いて、増感色素で標識されていない、プローブ物質に特異的に結合可能な第二の被検物質を定量することができる。第二の被検物質はプローブ物質に標識済被検物質よりも特異的に結合しやすい性質を有するのが好ましい。これら二種類の被検物質を競合させてプローブ物質に特異的に結合させると、検出される電流値と第二の被検物質の濃度との間に相関関係が得られる。つまり、色素標識されていない第二の被検物質の数が増加するにつれ、プローブ物質に特異的に結合する競合物質の数が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。したがって、増感色素で標識されていない第二の被検物質の検出および定量が可能となる。
【0084】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体であるのが好ましい。この態様における被検物質および第二の被検物質のプローブ物質への固定化工程を図5に示す。図5に示されるように、増感色素で標識された抗原41と、色素標識されていない抗原42とが競合して抗体43に特異的に結合する。したがって、色素標識されていない抗原42が増加するにつれ、抗体に特異的に結合する色素標識された抗原43が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。
【実施例】
【0085】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(例1)ブロッキング剤としてのn−オクチルリン酸
・被検物質およびプローブ物質の準備
色素標識された被検物質(以下、被検DNAともいう)として、5’末端をCy5で標識された、以下の塩基配列を有する25塩基の核酸塩基(5‘Cy5DNA−A)を用意した。また、プローブ物質(以下、プローブDNAともいう)として上記被検DNAと相補鎖を有する15塩基の核酸塩基(5’アミンDNA)を用意した。すなわち、このプローブDNAと被検DNAは、ハイブリダイゼーション反応により二本鎖DNAを形成することができる。またコントロールとして、プローブDNAと相補鎖を持たない24塩基の核酸塩基(5‘Cy5DNA−B)を用意した。
被検DNA(5’Cy5DNA−A):
3’TGGAAGTAGTTTTTGTAGTAGTAGG-Cy5-5’
プローブDNA(5’アミンDNA):
5’NH−ACCTTCATCAAAAACATCATCATCC-3´
コントロール(5’Cy5DNA−B):
3’GAATTGGTCCGACTTGAACGAGTT -Cy5-5’
【0086】
・作用電極の作製およびプローブ物質の担持
まず、チタニア微粉末(昭和タイタニウム社製、F2、平均粒径60nm、アナターゼ:ルチル=4:6)1gと、以下の配合を有する有機ビヒクル1gとを自動乳鉢で混練しながら、徐々に溶媒(αテルピネオール:ブチルカルビトール=重量比60:40)1gを添加して、酸化チタンペーストを得た。これら一連の混合は合計5時間行われた。
α−テルピネオール 65重量%
ブチルカルビトール 15重量%
ポリビニルブチラール 20重量%
【0087】
フッ素ドープされた酸化スズ(F−SnO:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:15Ω/□)の導電面上の縁枠を金属メタルスクリーンマスクでマスキングし、上記ペーストを用いて厚さ120μm、大きさ5mm×5mmの膜を作製した。得られた膜を60℃で3時間乾燥させた後、500℃で30分間焼成を行い、酸化チタン多孔質膜を電子受容層として備えた作用電極を得た。こうして得られた作用電極にBLBランプで一晩紫外線照射を施し、汚れおよび残存有機物の除去を行った。
【0088】
次いで、プローブDNAとして5’アミンDNAを50mM HEPES(pH7.0)に溶解させて水溶液(DNA濃度50μM)を調製した。この溶液を、予め95℃で3分間保持した後、氷上(2℃)で3分間以上冷却させることにより、熱変性させておいた。
【0089】
先に得られた作用電極の電子受容層上に、スペーサー用穴あきテープを貼り、ピンセットの先を用いてテープ接着面に残存する空気を除去した。このテープ上に、5mm×5mm角の大きさの開口部が形成されたシリコンシートを載置して密着させた。この開口部に先に調製した5’アミンDNA溶液(200μM)を25μl装填した。このとき、ピペットチップの先端を用いて、シリコンシールの開口部の四隅まで充分にDNA溶液が行き渡るようにした。続いて、DNA溶液中に気泡が極力入らないようにガラス板で真上から蓋をして、湿らせた紙等で蒸気圧が調整されたプラスチック容器に収容した。この容器中に60℃で6時間保持して、5’アミンDNAをインキュベートした。その後、DNA溶液を除去し、流水で軽く電極表面を2秒間洗浄した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。こうして、プローブDNAが担持された作用電極を得た。
【0090】
次いで、ブロッキング剤であるn−オクチルリン酸(和光純薬(株)製)を、エタノールと水の混合溶媒(体積比エタノール:水=4:1)に溶解させた濃度50mMのブロッキング溶液を調製した。そして、上記プローブ物質が担持された作用電極を、ブロッキング溶液5mlを入れた容量10mlの滅菌済プラスチック容器に浸漬し、そして、50℃で2時間保持して、ブロッキング剤をインキュベートした。反応終了後、電極をブロッキング溶液から取り出して、表面を流水で軽く2秒間洗浄した後、超純水10ml中に30分浸漬し、再度表面を流水で軽く2秒間洗浄した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。こうしてブロッキングが施された作用電極を得た。
【0091】
・ハイブリダイゼーション
色素標識された被検DNAとして5’Cy5DNA−Aを、コントロールとして5’Cy5DNA−Bをそれぞれ50mM HEPES水溶液に溶解して、被検DNA及びコントロール溶液(DNA濃度10μM)を調製した。これらの溶液を、予め95℃で3分間保持した後、氷上(2℃)で3分間以上冷却させることにより、熱変性させておいた。
【0092】
先に得られたプローブ物質及びブロッキング剤が固定化された作用電極に、スペーサー用穴あきテープを貼り、ピンセットの先を用いてテープ接着面に残存する空気を除去した。このテープ上に、5mm×5mm角の大きさの開口部が形成されたシリコンシートを載置して密着させた。この開口部に先に調製した被検DNA及びコントロールDNA溶液(50μM)を25μl装填した。このとき、ピペットチップの先端を用いて、シリコンシールの開口部の四隅まで充分にDNA溶液が行き渡るようにした。続いて、DNA溶液中に気泡が極力入らないようにガラス板で真上から蓋をして、湿らせた紙等で蒸気圧が調整されたプラスチック容器に収容した。こうして、60℃で15時間インキュベートさせて、ハイブリダイゼーションを行った。
【0093】
こうしてハイブリダイゼーションが施された作用電極を洗浄液に浸し、ゆっくりと揺らしながら洗浄した。洗浄液としては下記表2に示されるものを使用し、各洗浄液について下記表に示される洗浄時間、洗浄回数、および温度で洗浄を行った。なお、洗浄液を変更する毎に洗浄容器を交換した。さらに、作用電極を水で5秒間洗い流し、素早く空気を吹き付けて残水を飛散させた。
表 2
洗浄液 洗浄時間 1回当たりの洗浄回数 温度
HEPES、0.1%Tween20 12分間 3回 室温
HEPES、0.1%Tween20 13分間 1回 60℃
HEPES 6分間 2回 室温
超純水 15分間 1回 室温
注)HEPES:同仁化学研究所製
0.1%Tween20:SERVA社製の界面活性剤 超純水に0.1vol%で希釈したもの
【0094】
・測定用セルの組み立て
こうして得られた作用電極と、対電極としての白金電極とを、短絡を防ぐためのスペーサーを会して対向して張り合わせることでサンドイッチ型測定セルとした。このとき、白金電極の白金で被膜された端部にリード線を接続して、電流を取り出し可能に構成した。作用電極もリード線を介して電流計と接続した。電解液として、体積比が8:2のエチレンカーボネートとアセトニトリルの混合溶媒にヨウ素0.05Mとテトラプロピルアンモニウムヨーダイド0.5Mを溶解した混合液を用意した。この電解液を白金電極に5μL滴下した後、作用電極をその電子受容層が白金電極と対向するように、載置した。こうして、スペーサーおよび電解液を作用電極および対電極とで挟持されてなる、サンドイッチ型の測定セルを得た。
【0095】
・光電流の測定
作用電極のリード線と対電極のリード線とをポテンシオスタット(北斗電工社製、HSV−100)に接続した。赤色LED (CCS(株)製 TOL-50aURsCEs)を用いて、光を作用電極表面に照射した。このとき、作用電極と対電極との間に流れる電流値を電流計により経時的に測定した。電流値の測定は60秒間行ったが、光の照射は電流の測定開始10秒後から30秒間のみ行った。
(例2)ブロッキング剤としてのオリゴDNA
ブロッキング剤として、15量体のオリゴDNA(5'-AACGTCGTGACTGGG−3')の200μMの50mMHEPES水溶液を用いて反応させた以外は、例1と同様な手法で行った。
【0096】
(比較例)
ブロッキング処理を行わない以外は、例1と同様な手法で行った。
【0097】
プローブDNAに対し、相補的な塩基配列を有する被検DNA(5'Cy5DNA−A)で得られた光電流値と、相補的でないコントロールDNA(5'Cy5DNA−B)の光電流値との比からS(A)/N(B)比を算出した。その結果は表3に示される通りであった。
表 3
ブロッキング剤 S(A)/N(B)比
実施例1 n−オクチルリン酸 1.8
実施例2 15merDNA 1.9
比較例 なし 1.3
【0098】
表3に示される結果から、ブロッキング剤として、リン酸基を含むn−オクチルリン酸、またはオリゴDNAを使用した場合、ブロッキング剤を用いない系と比べて、S/N比が格段に高いことが分かる。したがって、本発明のブロッキング剤であるn−オクチルリン酸、またはオリゴDNAは、プローブDNAと被検DNAとの塩基配列選択性に有利であると言える。

【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】被検物質が一本鎖の核酸であり、プローブ物質が前記核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図であり、(a)は被検物質が予め増感色素で標識されてなる場合を、(b)は二本鎖の核酸にインターカレーション可能な増感色素を添加した場合をそれぞれ示す。
【図2】被検物質がリガンドであり、媒介物質が受容体蛋白質分子であり、プローブ物質が二本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。
【図3】光源が配置された測定セルを示す図であり、図中の点線で囲まれる部分21が測定セルである。
【図4】図3に示される測定セルの平面図である。
【図5】互いに競合する特異的結合性を有する被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体である場合の、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被験物質の特異的検出に用いられる作用電極との接触下で使用されるブロッキング剤であって、分子骨格中にリン酸基を有することを特徴とするブロッキング剤
【請求項2】
分子骨格中に、分子間での相互作用を誘起する官能基を含むことを特徴とする、請求項1記載のブロッキング剤
【請求項3】
前記分子間での相互作用がファンデルワールス力であることを特徴とする、請求項2記載のブロッキング剤
【請求項4】
前記分子間での相互作用が疎水的相互作用であることを特徴とする、請求項2記載のブロッキング剤
【請求項5】
前記分子間での相互作用がπ−π相互作用であることを特徴とする、請求項2記載のブロッキング剤
【請求項6】
前記分子間での相互作用が水素結合であることを特徴とする、請求項2記載のブロッキング剤
【請求項7】
前記ブロッキング剤は有機リン酸化合物であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のブロッキング剤
【請求項8】
前記ブロッキング剤は、分子骨格中にアルキル基を含むことを特徴とする、請求項7記載のブロッキング剤
【請求項9】
前記ブロッキング剤は分子骨格中にアリル基を含むことを特徴とする、請求項7記載のブロッキング剤
【請求項10】
前記ブロッキング剤は分子骨格中に複素官能基を含むことを特徴とする、請求項7記載のブロッキング剤
【請求項11】
前記有機リン酸化合物が、アルキルリン酸であることを特徴とする請求項8記載の色素増感バイオセンサ用ブロッキング剤
【請求項12】
前記アルキルリン酸のアルキル鎖が、炭素数1以上18以下の直鎖アルキル基であることを特徴とする請求項11記載の色素増感バイオセンサ用ブロッキング剤
【請求項13】
前記有機リン酸化合物が、フェニルホスホン酸であることを特徴とする請求項7記載のブロッキング剤
【請求項14】
前記ブロッキング剤が、オリゴDNAであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のブロッキング剤
【請求項15】
前記増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出が、被検物質を含む試料液と、該被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えた作用電極と、対電極とを用意し、増感色素の共存下、前記試料液を前記作用電極に接触させて、前記プローブ物質に前記被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、該結合により前記増感色素を前記作用電極に固定させ、前記作用電極を洗浄液で洗浄し、前記作用電極と前記対電極とを電解質媒体に接触させ、そして、前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させ、該光励起された増感色素から前記作用電極への電子移動に起因して前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出することを含んでなる工程により行われる、請求項1〜14のいずれか一項に記載のブロッキング剤
【請求項16】
前記増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出が、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を含む溶液を作用電極に接触させて、前記プローブ物質を表面に備えた作用電極を得る工程をさらに含んでなる、請求項15に記載のブロッキング剤
【請求項17】
前記ブロッキング剤を含む溶液を、前記プローブ物質を表面に備えた作用電極に接触または浸漬させた後に、前記被検物質を直接または間接的に特異的に結合させる工程を含んでなることを特徴とする、請求項15または16に記載のブロッキング剤
【請求項18】
光電流を用いた被検物質の特異的検出が、被検物質が直接または間接的に特異的に結合したプローブ物質を表面に備え、かつ該結合により増感色素が固定されてなる作用電極と、対電極とを電解質媒体に接触させ、前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させ、該光励起された増感色素から前記作用電極への電子移動に起因して前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出することを含んでなる工程により行われる、請求項1〜14のいずれか一項に記載のブロッキング剤


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−284413(P2006−284413A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105928(P2005−105928)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】