説明

色素増感型太陽電池に使用される半導体電極用基板及び電極

【課題】逆電子防止性に優れていると共に、電解質に対する耐性にも優れ、経時的に低下せずに安定して高い変換効率を示す色素増感型太陽電池用の電極の形成に用いる半導体電極用基板を提供する。
【解決手段】導電性基板上にチタン酸化物系保護層が形成された半導体電極用基板において、チタン酸化物系保護層は、アルコキシ基を含む非晶質チタン酸化物の非晶質連続層51aと、粒径が30nm以下の微結晶二酸化チタン粒子が連なった粒状結晶層51bとを含み、該非晶質連続層と粒状結晶層との間には、前記非晶質チタン酸化物と微結晶二酸化チタン粒子とが共存する界面層51cが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池に使用される半導体電極用基板及び電極に関するものであり、より詳細には、電極基板と該電極基板上に設けられた多孔質光電変換層とからなる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球規模の環境問題や化石エネルギー資源枯渇問題などの観点から太陽光発電に対する期待が大きく、単結晶及び多結晶シリコン光電変換素子が太陽電池として実用化されている。しかし、この種の太陽電池は、高価格であること、シリコン原料の供給問題などを有しており、シリコン以外の材料を用いた太陽電池の実用化が望まれている。
【0003】
上記のような見地から、最近では、シリコン以外の材料を用いた太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されている。この色素増感型太陽電池の代表的なものとして、ガラス基板や透明プラスチック基板の表面にITO等の透明導電膜を設けた透明電極基板と、金属電極基板とが、色素で増感された多孔質光電変換層(半導体多孔質層)と電解質層とを間に挟んで対峙した構造を有しており、金属電極基板と透明電極基板との周縁部分は、電解質層が漏洩しないように、封止材で封止されている。即ち、多孔質光電変換層と電解質層とを間に挟んで金属電極基板と透明電極基板とが対峙している領域が発電領域となっており、封止材で封止されている領域が発電とは無関係の封止領域となっている。この多孔質光電変換層は、一般に透明電極基板上に設けられているが、金属電極基板上に設けることもできる(特許文献1参照)。
【0004】
上記のような構造の色素増感型太陽電池では、透明電極基板側から可視光を照射すると、色素増感多孔質層中の色素が励起され、基底状態から励起状態へと遷移し、励起された色素の電子は、この半導体多孔質層中の伝導帯へ注入され、この半導体多孔質層が形成されている透明電極基板或いは金属電極基板から外部回路を通って、対極である金属電極基板或いは透明電極基板に移動する。対極の電極基板に移動した電子は、電解質層中のイオンによって運ばれ、色素に戻る。このような過程の繰り返しにより電気エネルギーが取り出されるわけである。このような色素増感太陽電池の発電メカニズムは、pn接合型光電変換素子と異なり、光の捕捉と電子伝導が別々の場所で行われ、植物の光電変換プロセスに非常に似たものとなっている。
【0005】
上記のような構造の色素増感型太陽電池において、特に多孔質光電変換層を金属基板上に設けた場合には、色素を担持している多孔質光電変換層が直接低抵抗の金属基板上に形成されるため、変換効率の低下を回避することができ、またセルを大型化した場合の内部抵抗(曲率因子、Fill Factor;FF)の増大を抑制することができるという利点がある。
【0006】
しかしながら、多孔質光電変換層を金属基板上に設けて透明電極基板側からの光照射により発電を行うときには、多孔質光電変換層が低抵抗の金属基板上に存在しているため、整流作用が不完全となり、逆電流が発生し、十分に高い変換効率を得るためには、未だ改善の余地がある。また、耐久性が低く、経時と共に変換効率が低下するという問題もある。
【0007】
上記のような問題を改善するための手段としては、本出願人により、金属基板上に、化成処理膜からなる逆電子防止層を形成し、この逆電子防止層上に色素で増感された多孔質酸化物半導体層を形成する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2では、化成処理膜(逆電子防止層)が電解質に対して高い耐性を示すため、経時による変換効率の低下を有効に防止し得るのであるが、電解質に対する耐性については、更なる向上が求められている。また、この化成処理膜の逆電流防止能はそれほど高くなく、従って高い変化効率を得るという点でも更なる改善が求められている。
【0009】
また、特許文献3には、本出願人により逆電子防止層を形成するためのコーティング液が提案されている。即ち、このコーティング液は、熱処理により金属酸化物を形成し得る金属化合物を溶質として含む有機溶媒溶液からなり、該有機溶媒溶液は、溶質安定化剤を含有しているとともに、25℃で、10cP以上の粘度を有しているものであり、これを金属基板表面に塗布し、乾燥することにより、色素で増感された半導体多孔質層の下地となる逆電子防止層を形成するというものである。このようなコーティング液を用いて形成された逆電子防止層は、金属酸化物の緻密な層から形成されているため、化成処理により形成したものに比して優れた整流作用を示すばかりか、電解質に対して耐性も良好であり、従って、金属基板の腐食を有効に防止でき、経時による変換効率の低下という問題も有効に回避できるという利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−273937
【特許文献2】特開2008−053024
【特許文献3】特開2010−20939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかるに、特許文献3のようなコーティング液により逆電子防止層を形成した場合には、下地の金属基板の表面に局部的な腐食(孔食)が生じるという問題があった。このような孔食は、経時と共に拡大し、変換効率の低下をもたらしてしまう。特に、このような孔食は、表面粗さの大きな金属基板の表面に逆電子防止層を形成する場合に頻繁に生じている。従って、電解質に対する耐性を確実なものとし、経時による変換効率の低下を確実に防止することが必要であり、さらなる改善が求められている。
【0012】
更に、本出願人は、先にチタン酸化物、熱処理により酸化物を形成し得るチタン化合物、分散剤及び有機溶媒を含み、該チタン酸化物は分散粒子として存在し、該チタン化合物は溶質として存在しているコーティング組成物を提案した(特願2009−94694)。このコーティング組成物によれば、これを電極基板に塗布し、次いで熱処理することにより、電極基板表面に形成された逆電子防止層と、逆電子防止層上に形成された多孔質チタン酸化物半導体からなる多孔質光電変換層とを、一段の塗布で形成することができ、生産性を著しく高めることができるという利点を有している。このコーティング組成物から得られる電極は、電解質に対する耐性が優れており、長期間の経時後においても電解質による電極基板の腐食を有効に防止することができ、このような電極についても本出願人は特許出願をしている(特願2009−152837)。
【0013】
即ち、上記のコーティング組成物から得られる電極では、多孔質光電変換層を形成している二酸化チタンの結晶粒子が、逆電子防止層中に食い込んでいるという特異的な構造を有しており、この結果、成膜時における逆電子防止層の熱収縮が緩和され、電極基板の表面が粗面である場合においても、逆電子防止層の部分的な破断が防止され、電解質による電極基板の腐食を有効に防止することが可能となる。
【0014】
しかしながら、上記のようなコーティング組成物により得られる電極においても、電解質による電極基板の腐食、特に局部的な腐食(孔食)を安定且つ確実に防止し得るには至っていない。即ち、電極基板の電解質による腐食防止が、多孔質光電変換層中の二酸化チタン結晶粒子の逆電子防止層中への食い込みに依存しており、この食い込みの程度を安定に保持することが極めて難しく、このため、電極基板の腐食防止効果が極めて不安定なものとなっている。
【0015】
従って、本発明の目的は、逆電子防止性に優れていると共に、電解質に対する耐性にも優れ、経時的に低下せずに安定して高い変換効率を示す色素増感型太陽電池用の電極の形成に用いる半導体電極用基板を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の半導体電極用基板を用いて形成された色素増感型太陽電池用の電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、導電性基板上にチタン酸化物系保護層が形成された半導体電極用基板において、
前記チタン酸化物系保護層は、アルコキシ基を含む非晶質チタン酸化物の非晶質連続層と、粒径が30nm以下の微結晶二酸化チタン粒子が連なった粒状結晶層とを含み、該非晶質連続層と粒状結晶層との間には、前記非晶質チタン酸化物と微結晶二酸化チタン粒子とが共存する界面層が形成されている半導体電極用基板が提供される。
【0017】
本発明の半導体電極用基板においては、
(1)前記粒状結晶層は、前記導電性基板側に位置し、前記非晶質連続層は、前記界面層を介して該粒状結晶層の上側に位置していること、
或いは、
(2)前記非晶質連続層は、前記導電性基板側に位置し、前記粒状結晶層は、前記界面層を介して該非晶質連続層の上側に位置していること、
という態様を採用することができる。
【0018】
更に、本発明によれば、前記半導体電極用基板と、該半導体電極用基板のチタン酸化物系保護層の上に形成された多孔質光電変換層とを有している色素増感型太陽電池用電極が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の半導体電極用基板では、導電性基板上にチタン酸化物系保護層が形成されており、このチタン酸化物系保護層が、非晶質チタン酸化物の非晶質連続層と、微結晶二酸化チタン粒子が連なった粒状結晶層とを有しており、これらの層により、電解質に対する優れた耐性と逆電子防止特性とが発揮されるのであるが、本発明においては、特に、非晶質連続層と粒状結晶層との間に非晶質チタン酸化物と微結晶二酸化チタン粒子とが共存する界面層が形成されている点に新規な特徴を有している。即ち、このような界面層が形成されているため、電解質に対する耐性が安定且つ確実に向上しており、従って、係るチタン酸化物系保護層の上に多孔質光電変換層を形成することにより、電極基板の腐食による変換効率の低下が安定に防止された色素増感型太陽電池用電極を得ることができる。
【0020】
上記の界面層は、非晶質チタン酸化物の連続層に微結晶二酸化チタン粒子が入り込んだ層となっているため、極めて緻密であると同時に、成膜時の熱収縮が極めて小さいという特性を有している。この結果、成膜時の熱収縮等に起因するチタン酸化物系保護層の破断(ピンホールの形成)を有効に防止し、電解質と電極基板との接触による電極基板の腐食が有効に防止される。しかも、この界面層は、一定の厚みで層状に存在するものであり、結晶粒子が非晶質連続層に食い込んだような不安定な形態を有するものではない。従って、係る界面層により、電極基板の腐食を安定且つ確実に防止することができ、このような、半導体電極用基板を用いて、経時的に低下せずに安定して高い変換効率を示す色素増感型太陽電池用の電極を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の半導体電極用基板の断面構造を示す図である。
【図2】図1に示された半導体電極用基板を用いて形成された電極及び該電極を備えた色素増感型太陽電池の概略構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<電極用基板構造>
本発明の半導体電極用基板の断面構造を示す図1(a)及び図1(b)において、導電性基板50の表面には、全体として51で示すチタン酸化物系保護層が形成されている。チタン酸化物系保護層51は、非晶質チタン酸化物からなる非晶質連続層51aと粒状結晶層51bとを有しており、これらの層51a、51bの間には界面層51cが形成されている。
【0023】
チタン酸化物系保護層51が表面に形成されている導電性基板50としては、低電気抵抗の金属材料から形成されたものであれば特に制限されないが、一般的には、6×10−6Ω・m以下の比抵抗を有する金属乃至合金、例えばアルミニウム、鉄(スチール)、ステンレススチール、銅、ニッケルなどが使用される。また、該基板50の厚みは特に制限されず、適度な機械的強度が保持される程度の厚みを有していればよい。更に、生産性を考慮しないのであれば、導電性基板50は、例えば蒸着等により、樹脂フィルム等の表面に形成されていてもよい。勿論、この樹脂フィルム等の基材は透明である必要はない。
【0024】
尚、チタン酸化物系保護層51が形成される導電性基板50の表面には、特開2008−53165号などに開示されている化成処理膜(逆電子防止機能を有している)が形成されていても良く、この上に、後述するチタン酸化物系保護層51を形成することも可能である。
【0025】
上記のチタン酸化物系保護層51において、非晶質連続層51a及び粒状結晶層51bの位置関係は、特に限定されず、例えば、図1(a)では、粒状結晶層51bが導電性基板50側に位置し、非晶質連続層51aが界面層51cを介して粒状結晶層51bの上側に位置している。また、図1(b)においては、これとは逆に、非晶質連続層51aが導電性基板50側に位置し、粒状結晶層51bが界面層51cを介して非晶質連続層51aの上側に位置している。
【0026】
非晶質連続層51aは、アルコキシ基を含む非晶質チタン酸化物から形成されている層であり、具体的には、チタンアルコキシドをゲル化して得られるものであり、該チタンアルコキシドに由来するアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等)が存在しているため、酸化度が低く且つ柔軟な非晶質層となっている。
即ち、この非晶質連続層51aを形成しているチタン酸化物は、下記式:
TiO・nTiOR
式中、nは正の数であり、
Rはアルキル基である、
で表わされる組成を有しており、二酸化チタン以外のチタン酸化物成分を含む非晶質となっている。係る層51aが非晶質であることは、XRD(X線回折)等により確認することができる。
更に、この非晶質連続層51aの酸化度は、EDX(エネルギー分散X線分光法)により、下記式:
X=STi/SO
式中、STiは、チタンのKα線に由来するエネルギー強度を示し、
Oは、酸素のKα線に由来するエネルギー強度を示す、
で定義されるTi/Oエネルギー強度比Xを求めることにより確認することができ、このTi/Oエネルギー強度比Xは、1.20乃至2.39の範囲にあり、二酸化チタンに比してかなり低い値となっている。
尚、この非晶質連続層51aが緻密な層となっていることは、透過型顕微鏡(TEM)によりその断面を観察することにより確認することができる。
【0027】
TEMによる断面観察から確認されるように、上述した非晶質連続層51aは緻密な層であり、従って、電解質と導電性基板50の表面との接触を効果的に防止し且つ導電性基板50の表面からチタン酸化物系保護層51の上に形成される多孔質光電変換層(図1において図示せず)への電子の流れを抑制する整流作用(即ち、逆電子防止作用)を有するものである。
かかる非晶質連続層51aの厚みは、一般には、5乃至150nmの範囲にあることが好ましい。この厚みが過度に厚いと、チタン酸化物系保護層51の電気抵抗が著しく高くなってしまい、電極用基板としての特性が損なわれてしまい、また、その厚みが薄すぎると、電解質に対する耐性や逆電子防止能が損なわれてしまうからである。
【0028】
一方、粒状結晶層51bは、粒径が30nm以下の微結晶二酸化チタン粒子が連なった層であり、この粒状結晶層51bの存在は、XRD、TEMによる断面観察及びEDXによるTi/Oエネルギー強度比Xによって確認することができる。例えば、この粒状結晶層51bは、二酸化チタンにより形成されているため、Ti/Oエネルギー強度比Xは2.40乃至2.80の範囲にある。
【0029】
即ち、この粒状結晶層51bは、非晶質連続層51aに比して粗い層であるが、非晶質連続層51aに比してかなり硬く、高硬度であり、その熱膨張係数も小さい。この結果、成膜時での熱収縮が極めて小さく、熱収縮によるピンホールの発生を有効に防止する機能を有している。
このような粒状結晶層51bの厚みは、チタン酸化物系保護層51の電解質に対する耐性や逆電子防止能を損なうことなく、上記の熱収縮防止能を十分に発揮させるために、一般的に、5乃至300nmの範囲にあることが好ましい。
【0030】
このように、上記のような非晶質連続層51aと粒状結晶層51bとによりチタン酸化物系保護層51を形成することによって、電解質に対する優れた耐性と逆電子防止性を得ることができるのであるが、本発明においては、このような非晶質連続層51aと粒状結晶層51bとに加えて、両層51a、51bの間に界面層51cを設けたことが顕著な特徴である。
【0031】
この界面層51cは、前述したアルコキシ基を含む非晶質酸化チタンと微結晶二酸化チタン粒子とが共存する層である。即ち、この層では、微結晶二酸化チタンの硬い粒子が非晶質酸化チタンの柔軟な連続層中にがっちりと組み込まれており、このため、微結晶二酸化チタン粒子の熱収縮抑制能が確実に発揮され、例えば、この界面層51cに隣接している非晶質連続層51aの成膜時における熱収縮を有効に抑制し、その破断やピンホールの発生を確実に防止することができる。
このような、界面層51cを形成しない場合には、粒状結晶層51bの微結晶二酸化チタン粒子が非晶質連続層51aに接触しているに過ぎず、該粒子の一部が部分的に非晶質連続層51aに食い込むことはあっても、この連続層51a中に食い込まれることは殆どない。従って、その熱収縮防止能を安定且つ確実に発揮せしめることができず、成膜時にしばしば膜破断やピンホールが発生してしまう。特に、導電性基板50の表面が粗面である場合には成膜時にピンホールの発生等が顕著になってしまう。
【0032】
本発明において、界面層51cの存在もTEMによる断面観察やEDXによるTi/Oエネルギー強度比Xによって確認することができる。例えば、この界面層51cは、非晶質酸化チタンと微結晶二酸化チタン粒子とが混在しているため、その酸化度は粒状結晶層51bよりも低く、非晶質連続層51aよりも高く、従って、Ti/Oエネルギー強度比Xの値は、層51bと51aとの中間の値となる。
【0033】
このような界面層51cにおいては、前述した熱収縮防止能が十分に発揮し得るように適度なバランスで非晶質酸化チタンと微結晶二酸化チタン粒子とが共存しているべきであり、例えば、Ti/Oエネルギー強度比Xが2.00乃至2.70の範囲、特に、2.10乃至2.55の範囲にあるのが好ましい。
また、界面層51cの熱収縮防止能を安定且つ確実に発揮させるという観点から、界面層51cの厚みは、5nm以上、特に、5乃至200nmの範囲にあるのが好適である。
【0034】
このように、本発明の半導体電極用基板においては、導電性基板50上のチタン酸化物系保護層51を、非晶質連続層51a、粒状結晶層51b及び界面層51cにより形成することにより、成膜時における膜破断やピンホールの発生を確実に防止することができ、従って、電解質に対する耐性や逆電子防止能を安定して発揮させることができる。
【0035】
<チタン酸化物系保護層形成用コーティング組成物>
上述した構造を有するチタン酸化物系保護層51は、非晶質連続層51aを形成するためのコーティング組成物、粒状結晶層51bを形成するためのコーティング組成物及び界面層51cを形成するためのコーティング組成物を用い、これらのコーティング組成物を層構造に応じて順次塗布、乾燥し、最後に一括で焼き付けることにより形成される。この時の焼付け温度は、通常、300乃至550℃程度である。
尚、上記の各コーティング組成物は、スピンコート、ダイコート、スクリーン印刷等の手段により塗布されるが、大面積の部分に容易に塗布できるという点で、一般的にはスクリーン印刷により塗布される。
【0036】
1.非晶質連続層51aを形成するためのコーティング組成物;
このコーティング組成物は、例えば、特開2010−20939に開示されており、熱処理によりチタン酸化物を形成し得るチタンアルコキシドを溶質として含む有機溶媒溶液が使用される。
【0037】
上記のコーティング組成物において、チタンアルコキシドとしては、チタンのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等の各種チタンアルコキシドを使用することができるが、特に、チタンイソプロポキシドが好適であり、チタンテトライソプロポキシドが最も好適に使用される。
【0038】
また、有機溶媒としては、チタンアルコキシドを溶解し得るものであれば特に制限なく使用することができるが、スクリーン印刷等のコーティング作業に適した粘度の溶液を調製することができ、且つ容易に揮散可能であるという観点から、テルピネオールと主成分とする混合溶液、特にテルピネオールとエチルセルロースとの2種を含む混合溶媒が好適に使用される。
【0039】
この有機溶媒の主成分であるテルピネオール(C1018O)は、1,8−テルビンから水が1分子脱水して生じる不飽和アルコールであり、α、β及びγの3タイプのものが知られており、何れのタイプも使用できるが、一般には、α−テルピネオール(Bp:219〜221℃)、或いはα−テルピネオールを主成分とし、これにβ−テルピネオールなどの他のタイプものが混合された混合物(一般に、市販されているものは混合物である)が好適である。
【0040】
また、テルピネオールは、粘稠な液体であるが、前述した低級アルコールに分散させた金属酸化物微粒子及び金属化合物と親和性が良好であり、低級アルコールと同様、加熱により、生成する金属酸化物(例えば二酸化チタン)の電気特性に悪影響を与えることなく、容易に揮散させることができる。
【0041】
さらに、エチルセルロースは、テルピネオールと同様に、チタン化合物から生成するチタン酸化物の電気特性に悪影響を与えることなく、熱処理によって容易に分解除去することができるが、特に粘度調整剤としての機能とバインダーとしての機能を有する。従って、エチルセルロースは、他の有機溶媒との併用が最適であり、例えば、低級アルコールやテルピネオールのみを有機溶媒として用い、チタン化合物の溶液を調製したときには、コーティング組成物の粘度が極めて低粘性となり、コーティングに際してダレ等を生じ易くなってしまうが、エチルセルロースの併用により、コーティング組成物の粘度をコーティングに適した範囲に調整することができる。
【0042】
尚、エチルセルロースとしては、種々の分子量のものが市販されているが、コーティング液をスクリーン印刷に特に適した粘度に調整するという観点から、トルエンを溶媒とし、固形分エチルセルロース濃度10%溶液の場合の粘度(25℃)が30〜50cPの範囲にあるものが好適である。
【0043】
本発明において有機溶媒として使用される混合溶媒は、上記のような観点から、一般に、エチルセルロース/テルピネオール(重量比)が=0.1/99.9乃至20/80、特に3乃至97の範囲で含有しているのがよく、さらに、コーティング組成物の粘度がコーティングに適した範囲(例えば25℃で15乃至500cP)となるように、適宜の量の低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)を加えることもできる。
【0044】
更に、上記のコーティング組成物中には、チタンアルコキシドを溶質として安定に存在せしめるための(即ち、チタンアルコキシドの析出を防止するための)溶質安定化剤を配合しておくことが好適である。このような溶質安定化剤としては、それ自体有機溶媒に可溶で且つ金属化合物に対して高い親和性を有する化合物が使用され、例えば、グリコールエーテル(セロソルブ)及びβ−ジケトンが好適に使用される。
【0045】
グリコールエーテルは、下記式:
HOCHCHOR
式中、Rは、アルキル基、アリール基またはアラルキル基である、
で表される化合物であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、n−ブチル基、イソアミル基等の炭素数が8以下の低級アルキル基が代表的であり、アリール基としてはフェニル基、アラルキル基としてはベンジル基を例示することができ、これらの中では、Rがアルキル基であるグリコールエーテルが好適であり、特にブチルセロソルブ(R=イソブチル基、n−ブチル基)が好適である。
【0046】
また、β−ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトン、1,3−シクロヘキサジオン、メチレンビス−1,3ーシクロヘキサジオン、2−ベンジル−1,3−シクロヘキサジオン、アセチルテトラロン、パルミトイルテトラロン、ステアロイルテトラロン、ベンゾイルテトラロン、2−アセチルシクロヘキサノン、2−ベンゾイルシクロヘキサノン、2−アセチル−1,3−シクロヘキサンジオン、ビス(ベンゾイル)メタン、ベンゾイル−p−クロルベンゾイルメタン、ビス(4−メチルベンゾイル)メタン、ビス(2−ヒドロキシベンゾイル)メタン、ベンゾイルアセトン、トリベンゾイルメタン、ジアセチルベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタン、ラウロイルベンゾイルメタン、ジベンゾイルメタン、ビス(4−クロルベンゾイル)メタン、ビス(メチレン−3,4−ジオキシベンゾイル)メタン、ベンゾイルアセチルフェニルメタン、ステアロイル(4−メトキシベンゾイル)メタン、ブタノイルアセトン、ジステアロイルメタン、ステアロイルアセトン、ビス(シクロヘキサノイル)−メタン及びジピバロイルメタン等を例示することができ、これらの中では、アセチルアセトンが好適である。
【0047】
このような溶質安定化剤は、前述したチタンアルコキシド100重量部当り0.02乃至30重量部の範囲で使用するのがよい。
【0048】
2.粒状結晶層51bを形成するためのコーティング組成物;
この層を形成するためのコーティング組成物としては、チタネート重合体を有機溶媒に分散させた分散液が使用される。
【0049】
チタネート重合体は、熱処理による脱水縮重合によって粒径が30nm以下の微結晶二酸化チタン粒子を析出させるための成分である。このような、チタネート重合体としては、各種のアルキルチタネートの重合体が知られているが、有機溶媒に安定に微細分散でき、上記粒径の微結晶二酸化チタン粒子を容易に析出可能であるという点でテトラブチルチタネートの重合体、特に、4量体及び10量体が好適に使用される。
【0050】
また、上記チタネート重合体を分散させるための有機溶媒としては、前述したコーティング組成物で用いているのと同様のテルピネオールやエチルセルロースを使用することができ、特に、コーティング作業に好適な粘度を確保することができるという観点から、テルピネオールとエチルセルロースとを含む混合溶媒が好適であり、前述した場合と同様所定の粘度を確保するために、低級アルコールを混合することもできる。
【0051】
かかるコーティング組成物におけるチタネート重合体の含有量は、該コーティング組成物の粘度がコーティング作業に好適な粘度(25℃で15乃至500cP)となるように、該重合体や有機溶媒の種類に応じて適宜の範囲に設定される。
【0052】
また、かかるコーティング組成物においては、チタネート重合体を安定に分散させるために、分散安定剤を用いることが好ましく、このような分散安定剤としては、グリコールエーテル特にエチレングリコールモノブチルエテール(ブチルセロソルブ)が好適に使用される。かかる分散安定剤の使用量は一般に、チタネート重合体100重量部当り、5乃至50重量部、特に、10乃至30重量部の範囲がよい。
更に、このコーティング組成物には、必要によりバインダー成分としてチタンアルコキシド(特に、テトラチタンイソプロポキシド)を含んでいてもよい。但し、このバインダー成分の配合量が多いと、チタネート重合体の分散安定性が損なわれ、微結晶二酸化チタン粒子の析出が困難となるため、この配合量は少量に制限されるべきであり、例えば、チタネート重合体100重量部当り、70重量部以下、特に50重量部以下の範囲とすべきである。
【0053】
3.界面層51cを形成するためのコーティング組成物;
かかるコーティング組成物は、前述した非晶質連続層51aを形成するためのコーティング組成物と粒状結晶層51bを形成するためのコーティング組成物とをブレンドした組成を有するものであり、具体的には、非晶質チタン酸化物を析出するためのチタンアルコキシド及び粒径が30nm以下の微結晶二酸化チタン粒子を析出するためのチタネート重合体を含み、更に、チタンアルコキシドの溶質安定化剤やチタネート重合体の分散安定剤を含んでおり、これらの成分が前述した有機溶媒に溶解乃至分散されているのである。
好適なチタンアルコキシドやチタネート重合体、及び溶質安定化剤、分散安定剤、並びに有機溶媒の種類も前述したとおりであり、その含有量や添加量も前述したとおりである。
【0054】
<電極及びその製造>
図2を参照して、前述した本発明の半導体電極用基板(図2において10で示す)は、そのチタン酸化物系保護層51の上に多孔質光電変換層13を設けることにより、色素増感型太陽電池の負極15として使用される。
【0055】
この多孔質光電変換層13は、酸化物半導体の多孔質層に色素を担持させたものである。
この酸化物半導体としては、例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンなどの金属の酸化物、或いはこれら金属を含有する複合酸化物、例えばSrTiO、CaTiOなどのペロブスカイト型酸化物などを例示することができる。これらの中でも、容易に入手でき且つ高い変換効率を得ることができるという点で二酸化チタンが好ましく、特に、アナターゼ型或いはブルーカイト型の二酸化チタンが最も好適である。
また、このような多孔質光電変換層13の厚みは、通常、3乃至15μm程度である。
【0056】
上記のような酸化物半導体の多孔質層は、色素を担持させるため、例えば、アルキメデス法による相対密度が50乃至90%、特に50乃至70%程度であることが好ましく、これにより、大きな表面積を確保し、有効量の色素を担持させることができる。
【0057】
色素を担持させる酸化物半導体の多孔質層を形成するためには、例えば、上述した酸化物半導体の微粒子を、有機溶媒やキレート反応性を有する有機化合物に分散させてペースト状のコーティング組成物、或いは、該酸化物半導体の微粒子をチタンアルコキシド(例えばテトライソプロポキシチタンなど)等のバインダー成分とともに有機溶媒中に分散させたペースト状のコーティング組成物を調製する。これらのコーティング組成物は、前述したチタン酸化物系保護層51の形成に用いる各種コーティング組成物と同様の粘度を有している。
即ち、このコーティング組成物を、スクリーン印刷等の手段により前述したチタン酸化物系保護層51用のコーティング組成物の塗布層(焼付け前の層)に塗布し、所定の温度(例えば600℃以下)で、前述した相対密度となる程度の時間、焼成することにより容易に形成することができる。即ち、焼成により、上記バインダー成分のゲル化(脱水縮合)により形成されたTiOゲルが半導体微粒子同士を接合し、多孔質化される。また、多孔質化と同時に、前述したチタン酸化物系保護層51が形成されることとなる。
【0058】
即ち、上記のようにして酸化物半導体の多孔質層を形成するに際して、本発明においては、チタン酸化物系保護層51の熱収縮が有効且つ確実に防止されているため、熱収縮によるチタン酸化物系保護層51の破断やピンホールの発生が有効に防止され、従って、かかる保護層51による電解質に対する優れた耐性や逆電子防止能が安定して発揮されることとなる。
【0059】
上記のようにして得られた酸化物半導体の多孔質層への色素の担持は、多孔質層に色素溶液を接触させることにより行われ、吸着処理時間(浸漬時間)は、通常、30分〜24時間程度であり、吸着後、乾燥して色素溶液の溶媒を除去することにより、表面及び内部に増感色素が吸着担持された多孔質光電変換層13が得られる。
【0060】
用いる色素は、増感色素として機能し得るものであり、カルボキシレート基、シアノ基、ホスフェート基、オキシム基、ジオキシム基、ヒドロキシキノリン基、サリチレート基、α−ケト−エノール基などの結合基を有するそれ自体公知のものが使用される。例えばルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体などを何ら制限なく使用することができる。特に幅広い吸収帯を有するなどの点で、ルテニウム−トリス(2,2’−ビスピリジル−4,4’−ジカルボキシラート)、ルテニウム−シス−ジアクア−ビス(2,2’−ビスピリジル−4,4’−ジカルボキシラート)などのルテニウム系錯体が好適である。このような増感色素の色素溶液は、溶媒としてエタノールやブタノールなどのアルコール系有機溶媒を用いて調製され、その色素濃度は、通常、3×10−4乃至5×10−4mol/L程度とするのがよい。
【0061】
上記のような半導体電極用基板10のチタン酸化物系保護層51上に多孔質光電変換層13を設けることにより、負極15が形成されることとなる。
【0062】
上記の負極15には、図2に示されているように、電解質層20を間に挟んで対極1(透明電極)が配置される。この対極1は、透明基板3の表面に透明導電膜5及び電子還元性導電層7が形成されたものであり、このようにして対極1を負極15に対向して配置することにより、色素増感型太陽電池が得られる。
【0063】
透明基板3は、高い光透過性を有していればよく、例えば透明ガラスや透明樹脂フィルムなどから形成される。その厚みや大きさは、最終的に形成される色素増感太陽電池の用途に応じて適宜決定される。
【0064】
また、上記の透明導電膜5上に形成される電子還元導電層7は、一般に白金の薄層からなり、透明導電膜5に流れ込んだ電子を電解質層20に速やかに移行せしめる機能を有するものである。このような電子還元導電層7は、光透過性が損なわれないように、その平均厚みが0.1乃至1.5nm程度となるように蒸着により薄く形成される。
【0065】
上記のようにして負極15と透明な対極1(正極)は、電解質層20を間に挟んで対峙しており、電解質層20と色素で増感された多孔質光電変換層13とによって発電領域Xが形成されることとなる。
【0066】
電解質層20は、公知の太陽電池と同様、リチウムイオン等の陽イオンや塩素イオン等の陰イオンを含む種々の電解質溶液により形成される。また、この電解質20中には、酸化型構造及び還元型構造を可逆的にとり得るような酸化還元対を存在させることが好ましく、このような酸化還元対としては、例えばヨウ素−ヨウ素化合物、臭素−臭素化合物、キノン−ヒドロキノンなどを挙げることができる。
【0067】
上記の電解質層20は、図2に示されているように、発電領域Xの周縁に位置する封止領域Yに設けられる封止材30により封止され、電極間からの液の漏洩が防止されることとなるわけである。一般に、このような電解質層20の厚みは、最終的に形成される電池の大きさによっても異なるが、通常、10乃至50μm程度である。
【0068】
封止材30としては、ヒートシール可能な各種の熱可塑性樹脂乃至熱可塑性エラストマー、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、或いはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同士のランダム乃至ブロック共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体等のエチレン−ビニル化合物共重合体樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン−スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキサイド;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体;酸化澱粉、エーテル化澱粉、デキストリンなどの澱粉;及びこれらの混合物からなる樹脂;などが使用される。
【0069】
即ち、封止材30は、上記の熱可塑性樹脂等を用いての押出成形、射出成形等によって、例えば、封止領域Yに対応する幅のリング形状に成形するにより得られ、この封止材30を、互いに対抗して配置された負極15と対極1との間に挟んだ状態でヒートシール(加熱圧着)することにより、負極15と対極1とが接合され、次いで、この封止材30に注入管を挿入し、該注入管を介して、両電極基板の間の空間内に、電解質層20を形成する電解質溶液を注入することにより、図2に示す構造の色素増感太陽電池を得ることができる。
【0070】
尚、透明基板3として透明樹脂フィルムなどを用いるときには、例えば負極15と対極1との3方を封止剤30でシールし、次いでシールされていない開口部から電解質液を充填し、最後に、開口部を封止剤30で完全に封止することによっても図2に示す構造の色素増感太陽電池を作製することができる。
【0071】
このようにして形成される色素増感太陽電池では、透明な対極1側から可視光を照射することにより、多孔質光電変換層13中の色素が励起され、基底状態から励起状態へと遷移し、励起された色素の電子が、多孔質光電変換層13中の伝導帯へ注入され、導電性基板50を介して外部回路(図示せず)を通って対極1に移動する。対極1に移動した電子は、電解質層20中のイオンによって運ばれ、色素に戻る。このような過程の繰り返しにより電気エネルギーが取り出され、発電が行われることとなる。即ち、かかる太陽電池では、前述した各種のコーティング組成物を用いて導電性基板50と多孔質光電変換層13との間に、逆電子防止層(整流障壁)として機能し且つ電解質と導電性基板50との接触を防止するチタン酸化物系保護層51が形成されているため、逆電流が有効に防止され且つ導電性基板50の腐食等も確実に防止され、この結果、高い変換効率を安定して得ることができ、例えば、経時による変換効率の低下も有効に防止することができる。
【実施例】
【0072】
本発明の優れた効果を次の実験例で説明する。
尚、以下の例において、導電性基板(アルミニウム基板)の上に形成される各層の厚みの測定及びTi/Oエネルギー強度比Xの測定は、以下の方法により行った。
【0073】
<非晶質連続層、界面層、粒状結晶層及び多孔質光電変換層の厚みの測定>
これらの層の厚みの測定は、走査型電子顕微鏡によるSEM観察、及び電解放射型透過分析電子顕微鏡によるTEM観察により、実施した。
【0074】
<Ti/Oエネルギー強度比Xの測定>
多孔質光電変換層及び酸化チタン層のTi/Oエネルギー強度比の測定は、まず、収束イオン加工装置(装置名:低加速FIB/SEM複合装置 SIINT製 XVision 200DB)を用いて超薄切片を作製し、その後、その超薄切片をEDX(装置名:エネルギー分散型X線分光分析装置 EDAX製 γ−TEM)によって、元素分析を実施することにより測定した。
【0075】
<実施例1>
(非晶質連続層形成用のペースト調製)
チタンイソプロポキシドを主剤とし、溶媒として、テルピネオールとエチルセルロースを2/98の重量比の混合溶媒、安定化剤としてブチルセロソルブを20重量%添加して、非晶質連続層形成用ペーストを調製した。
【0076】
(粒状結晶層形成用のペースト調製)
テトラブチルチタネート4量体を主剤とし、溶媒として、テルピネオールとエチルセルロースを2/98の重量比の混合溶媒、安定化剤としてブチルセロソルブを20重量%添加して、粒状結晶層形成用ペーストを調製した。
【0077】
(界面層形成用のペースト調製)
上記非晶質連続層形成用ペーストと上記粒状結晶層形成用ペーストを30/70重量%の割合で混合して、界面層形成用ペーストを作製した。
【0078】
(多孔質光電変換層形成用ペーストの調製)
球状の粒径30nmと多面体状の粒径15nmの市販TiO粒子2種類を主剤とし、溶媒として、エタノールをペースト中70重量%の量、分散剤として、酢酸をペースト中0.05%の量で含むTiOペーストを調製した。
【0079】
(電極の作製)
次いで、金属基板として、市販のアルミニウム板(厚み0.3mm)を用意し、このアルミニウム板上に、上記で調製したコーティング組成物を、粒状結晶層形成用ペースト、界面層形成用ペースト、非晶質連続層形成用ペースト、多孔質光電変換層形成用ペーストの順番で塗布し、その後、450℃で30分間焼成して、電極を作製した。
【0080】
上記電極の断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)によるHAADF像により観察したところ、アルミ基板直上層には粒状結晶酸化チタン層(粒状結晶層)、粒状結晶と非晶質の混合した酸化チタン層(界面層)、非晶質酸化チタン層(非晶質連続層)、多孔質光電変換層が形成されていることが確認された。また、各層の厚みは、アルミ基板直上層から順番に、約100nm、約50nm、約100nm、約10μmであった。
また、粒状結晶層における微結晶二酸化チタン粒子の粒径は15nm以下であった。
さらに、各層上記式Ti/Oのエネルギー強度比を測定したところ、アルミ基板直上層から順番に平均値として、2.53、2.31、1.89であった。
【0081】
さらに、純度99.5%のエタノールに分散させたルテニウム錯体色素からなる色素溶液中に、上記の多孔質光電変換層を24時間漬浸させ、次いで乾燥することにより、負極を得た。尚、用いたルテニウム錯体色素は、下記式で表される。
[Ru(dcbpy)(NCS)]・2H
【0082】
(色素増感型太陽電池の作製及び評価)
一方、白金を蒸着したITO/PENフィルムで構成される対向電極(正極)を用意した。
【0083】
この対向電極と上記で作製した負電極との間に電解質液を挟みこんで色素増感型太陽電池を作製した。尚、電解質液としては、LiI/I(0.5mol/0.025mol)をメトキシプロピオニトリルに溶かしたものに4−tert−ブチルピリジンを添加したものを用いた。
得られた電池を、室温環境下にて保管し、1000時間後に確認したところ、腐食は未発現であり、変換効率の低下もなかった。
【0084】
<実施例2>
実施例1において調製された各層形成用ペーストを、実施例1と同様のアルミニウム板上に、非晶質連続層形成用ペースト、界面層形成用ペースト、粒状結晶層形成用ペースト、多孔質光電変換層形成用ペーストの順番で塗布し、その後、450℃で30分間焼成して、電極を作製した。
【0085】
上記電極の断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)によるHAADF像により観察したところ、アルミ基板直上層には非晶質酸化チタン層、粒状結晶と非晶質の混合した酸化チタン層、粒状結晶酸化チタン層、多孔質光電変換層が形成されていることが確認され、粒状結晶層における微結晶二酸化チタン粒子の粒径は15nm以下であった。
また、各層の厚みは、アルミ基板直上層から順番に、約100nm、約50nm、約100nm、約10μmであった。
さらに、各層上記式Ti/Oのエネルギー強度比を測定したところ、アルミ基板直上層から順番に平均値として、1.94、2.33、2.69であった。
【0086】
次いで、実施例1と同様に電池を作製し、室温環境下にて保管し、1000時間後に確認したところ、腐食は未発現であり、変換効率の低下もなかった。
【0087】
<比較例1>
実施例1において調整された各層形成用ペーストを、実施例1と同様のアルミニウム板上に、非晶質連続層形成用ペースト、粒状結晶層形成用ペースト、多孔質光電変換層形成用ペーストの順番で塗布し、その後、450℃で30分間焼成して、電極を作製した。
【0088】
上記電極の断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)によるHAADF像により観察したところ、アルミ基板直上層には非晶質酸化チタン層、粒状結晶酸化チタン層、多孔質光電変換層が形成されていることが確認され、部分的に酸化チタン層の亀裂、クラックが混入している箇所が見受けられた。これは、非晶質酸化チタン層の熱収縮による内部歪みの影響によるものであると考えられる。
【0089】
<比較例2>
実施例1において調整された各層形成用ペーストを、実施例1と同様のアルミニウム板上に、粒状結晶層形成用ペースト、非晶質連続層形成用ペースト、多孔質光電変換層形成用ペーストの順番で塗布し、その後、450℃で30分間焼成して、電極を作製した。
【0090】
上記電極の断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)によるHAADF像により観察したところ、アルミ基板直上層には粒状結晶酸化チタン層、非晶質酸化チタン層、多孔質光電変換層が形成されていることが確認され、部分的に酸化チタン層の亀裂、クラックが混入している箇所が見受けられた。これは、非晶質酸化チタン層の熱収縮による内部歪みの影響によるものであると考えられる。
【符号の説明】
【0091】
50:導電性基板
51:チタン酸化物系保護層
51a:非晶質連続層
51b:粒状結晶層
51c:界面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板上にチタン酸化物系保護層が形成された半導体電極用基板において、
前記チタン酸化物系保護層は、アルコキシ基を含む非晶質チタン酸化物の非晶質連続層と、粒径が30nm以下の微結晶二酸化チタン粒子が連なった粒状結晶層とを含み、該非晶質連続層と粒状結晶層との間には、前記非晶質チタン酸化物と微結晶二酸化チタン粒子とが共存する界面層が形成されていることを特徴とする半導体電極用基板。
【請求項2】
前記粒状結晶層は、前記導電性基板側に位置し、前記非晶質連続層は、前記界面層を介して該粒状結晶層の上側に位置している請求項1に記載の半導体電極用基板。
【請求項3】
前記非晶質連続層は、前記導電性基板側に位置し、前記粒状結晶層は、前記界面層を介して該非晶質連続層の上側に位置している請求項1に記載の半導体電極用基板。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載された半導体電極用基板と、該半導体電極用基板のチタン酸化物系保護層の上に形成された多孔質光電変換層とを有していることを特徴とする色素増感型太陽電池用電極。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−89380(P2012−89380A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235759(P2010−235759)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】