説明

色素増感型太陽電池用ガラス組成物および色素増感型太陽電池用材料

【課題】ヨウ素電解液に侵食され難く、低融点特性を有するガラス組成物およびこれを用いた材料を創案することにより、長期信頼性の高い色素増感型太陽電池を得ること。
【解決手段】本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、ガラス組成として、質量%で、V25 20〜70%、P25 10〜50%含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用ガラス組成物および色素増感型太陽電池用材料に関し、具体的には色素増感型太陽電池の透明電極基板と対極基板の封着、セル間を区切るための隔壁の形成および集電電極の被覆に好適な色素増感型太陽電池用ガラス組成物および色素増感型太陽電池用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
グレッチェルらが開発した色素増感型太陽電池は、シリコン半導体を使用した太陽電池と比べ、低コストであり、且つ製造に必要な原料が豊富にあるため、次世代の太陽電池として期待されている。
【0003】
色素増感型太陽電池は、透明導電膜が形成された透明電極基板と、透明電極基板に形成された多孔質酸化物半導体層(主にTiO2層)からなる多孔質酸化物半導体電極と、その多孔質酸化物半導体電極に吸着されたRu色素等の色素と、ヨウ素を含むヨウ素電解液と、触媒膜と透明導電膜が形成された対極基板等で構成される。
【0004】
透明電極基板と対極基板には、ガラス基板やプラスチック基板等が使用される。透明電極基板にプラスチック基板を使用すると、透明電極膜の抵抗値が大きくなり、色素増感型太陽電池の光電変換効率が低下する。一方、透明電極基板にガラス基板を使用すると、透明電極膜の抵抗値が上昇し難く、色素増感型太陽電池の光電変換効率を維持することができる。したがって、近年では、透明電極基板として、ガラス基板が使用されている。
【0005】
色素増感型太陽電池は、透明電極基板と対極基板の間にヨウ素電解液が充填される。色素増感型太陽電池からヨウ素電解液の漏れを防止するために、透明電極基板と対極基板の外周縁を封止する必要がある。また、発生した電子を効率よく取り出すために、集電電極(例えば、Ag等が用いられる)を透明電極基板上に形成することがある。このとき、集電電極を被覆し、ヨウ素電解液により、集電電極が侵食される事態を防止する必要がある。さらに、一枚のガラス基板上に電池回路を形成する場合、透明電極基板と対極基板の間に隔壁を形成することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特開2002−75472号公報
【特許文献3】特開2004−292247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
色素増感型太陽電池は、長期耐久性の向上が実用化への課題である。長期耐久性を損なう原因の一つは、太陽電池部材(封止材料、集電電極等)とヨウ素電解液が反応し、太陽電池部材やヨウ素電解液が劣化することが挙げられる。特に、封止材料に樹脂を用い、ヨウ素電解液にアセトニトリル等の有機溶媒を用いたときに、その傾向が顕著である。この場合、樹脂がヨウ素電解液により侵食されるため、太陽電池からヨウ素電解液が漏洩し、電池特性が著しく低下する。同様にして、隔壁の形成や集電電極の被覆に樹脂を使用した場合も、樹脂がヨウ素電解液により侵食されるため、集電電極の劣化や隔壁の破れ等が生じる。
【0008】
このような事情に鑑み、封止材料に樹脂を使用しない方法が提案されている。例えば、特許文献1には、透明電極基板と対極基板の外周縁をガラスで封着することが記載されている。また、特許文献2、3には、透明電極基板と対極基板の外周縁を鉛ガラスで封着することが記載されている。
【0009】
しかし、封着材料に鉛ガラスを使用した場合でも、鉛ガラスは、ヨウ素電解液に侵食されやすいため、長期間の使用により、鉛ガラスの成分がヨウ素電解液中に溶出し、その結果、ヨウ素電解液が劣化し、電池特性が低下してしまう。また、集電電極の被覆や隔壁の形成に鉛ガラスを用いた場合でも、長期間の使用により、集電電極の劣化や隔壁の破れが生じる。これらの現象も鉛ガラスがヨウ素電解液により侵食されることが原因である。
【0010】
また、封着材料の軟化点が、ガラス基板の歪点より高いと、封着工程で、ガラス基板が変形してしまう。よって、封着材料(封着材料に使用されるガラス)には、低融点特性、例えば軟化点550℃以下、好ましくは500℃以下が要求される。
【0011】
そこで、本発明は、ヨウ素電解液に侵食され難く、低融点特性を有するガラス組成物およびこれを用いた材料を創案することにより、長期信頼性の高い色素増感型太陽電池を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ガラス組成中にV25およびP25を必須成分として導入することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算の質量%で、V25 20〜70%、P25 10〜50%含有することを特徴とする。なお、ガラス組成中にV25およびP25を導入すると、ガラスがヨウ素電解液に侵食され難くなるメカニズムは、現時点で不明であり、現在、鋭意調査中である。
【0013】
25の含有量を20〜70%に規制すれば、ガラスの熱的安定性が向上するとともに、ヨウ素電解液により、ガラスが侵食され難くなり、しかもガラスを低融点化することができる。
【0014】
25の含有量を10〜50%に規制すれば、ガラスの熱的安定性が向上するとともに、ヨウ素電解液により、ガラスが侵食され難くなり、しかもガラスを低融点化することができる。
【0015】
第二に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、更に、ガラス組成として、質量%で、ZnO+SrO+BaO+CuO(ZnO、SrO、BaOおよび/またはCuOの合量)を10〜55%含有することを特徴とする。
【0016】
第三に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、質量%で、ZnOを0〜30%、SrOを0〜20%、BaOを0〜45%、CuOを0〜15%含有することを特徴とする。
【0017】
第四に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減が、0.1mg/cm2以下であることを特徴とする。ここで、質量減の算出に用いるヨウ素電解液には、アセトニトリル中に、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、tert−ブチルピリジン0.5M、および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨーダイド0.6Mを溶解させたものを使用する。また、「質量減」は、上記ガラス組成物からなるガラス粉末を緻密に焼き付けたガラス基板(焼成膜付きガラス基板)を、密閉容器中にてヨウ素電解液に浸漬し、浸漬前の質量から2週間経過後の質量を減じた値を、ヨウ素電解液に接する焼成膜の面積で除することで算出する。なお、ガラス基板は、ヨウ素電解液によって侵食されないものを用いる。
【0018】
一般的に、ヨウ素電解液は、ヨウ素、アルカリ金属ヨウ化物、イミダゾリウムヨウ化物、四級アンモニウム塩等のヨウ素化合物を有機溶媒に溶解させたものを指すが、ヨウ素化合物以外にもtert−ブチルピリジン、1メトキシベンゾイミダゾール等が溶解させたものもある。溶媒として、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のカーボネート系溶媒、ラクトン系溶媒等が用いられる。これら化合物や溶媒で構成されるヨウ素電解液であっても、ガラスがヨウ素電解液に侵食される上記問題は生じ得る。したがって、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、これらのヨウ素電解液に25℃で2週間浸漬したときの質量減も0.1mg/cm2以下であることが好ましい。
【0019】
第五に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、熱膨張係数が65〜120×10-7/℃であることを特徴とする。ここで、「熱膨張係数」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置により、30〜300℃の温度範囲で測定した値を指す。
【0020】
第六に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、上記の色素増感型太陽電池用ガラス組成物からなるガラス粉末 50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末 0〜50体積%とを含有することを特徴とする。なお、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、上記のガラス組成物からなるガラス粉末のみで構成される態様を含む。また、本発明の色素増感型太陽電池用材料において、耐火性フィラー粉末の含有量は、流動性の観点から10体積%以下、5体積%以下、特に1体積%以下が好ましく、実質的に耐火性フィラー粉末を含有しないこと(具体的には耐火性フィラー粉末の含有量が0.5体積%以下)がより好ましい。特に、封着に用いる場合、耐火性フィラー粉末の含有量を低減すると、透明電極基板と対極基板のギャップを狭小化しやすくなり、また均一化しやすくなる。
【0021】
第七に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、軟化点が550℃以下であることを特徴とする。ここで、「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、図1に示す第四屈曲点の温度(Ts)を指す。
【0022】
第八に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、封着に用いることを特徴とする。ここで、封着には、透明電極基板と対極基板の封着に加えて、ガラス管の封着等が含まれる。なお、透明電極基板と対極基板等に複数の開口部を設けて、各開口部にガラス管を封着した後、ガラス管を介して、色素増感型太陽電池内に色素を含有させた液体等を循環させて、多孔質酸化物半導体に色素を吸着させる場合がある。このような場合、本発明の色素増感型太陽電池用材料でガラス管を封着すると、液体等の漏れ等が発生し難くなる。
【0023】
第九に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、集電電極の被覆に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、ガラス組成中にV25およびP25を必須成分として導入することにより、ヨウ素電解液による侵食が殆ど生じない。また、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減を、0.1mg/cm2以下にすることができる。その結果、封着部位、隔壁および被覆部位がヨウ素電解液に侵食され難く、長期間に亘り、ヨウ素電解液や電池特性の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】マクロ型DTA装置で測定した時のガラスの軟化点を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物において、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を以下に述べる。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を指す。
【0027】
25は、ガラス形成酸化物であると同時に、ヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、しかもガラスを低融点化させる成分であり、その含有量は20〜70%、より好ましくは30〜60%、更に好ましくは45〜55%である。V25の含有量が20%より少ないと、ガラスの粘性が高くなって焼成温度が高くなる。また、V25の含有量を45%以上にすれば、ガラスの流動性が向上し、高い気密性を得ることができる。一方、V25の含有量が70%より多いと、ガラス化する場合はあるが、ガラスの耐失透性が低下しやすくなる。また、V25の含有量が70%より多いと、焼成時にガラスが発泡しやすくなる。また、V25の含有量が55%以下であれば、耐失透性を向上させることができ、ガラスの熱的安定性が向上する。
【0028】
25は、ガラス形成酸化物であると同時に、ヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、しかもガラスを低融点化させる成分であり、その含有量は10〜50%、より好ましくは15〜35%、より好ましくは20〜30%である。P25の含有量が10%より少ないと、ガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。一方、P25の含有量が60%より多いと、ガラスの耐湿性が悪化しやすくなる。
【0029】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、上記成分以外にも以下の成分をガラス組成中に含有させることができる。
【0030】
ZnO+SrO+BaO+CuOは、ガラスを安定化させる網目修飾酸化物であり、その含有量は10〜55%、より好ましくは14〜30%である。ZnO+SrO+BaO+CuOが10%より少ないと、ガラスを安定化させる効果に乏しく、ZnO+SrO+BaO+CuOが55%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが不安定になって、溶融ガラスの成形時に、ガラスが失透しやすくなる。
【0031】
ZnOは、ガラスを安定化させる成分である。一方、ZnOは、ヨウ素電解液によるガラスの侵食を助長する傾向がある。よって、その含有量は0〜30%、より好ましくは0〜20%、更に好ましくは0〜15%、特に好ましくは0〜10%である。ZnOの含有量が30%より多いと、ガラスの耐失透性が低下しやすくなる。
【0032】
SrOは、ガラスの熱的安定性を向上させて、ガラスの失透を抑制する成分であるとともに、ガラスの粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%である。SrOの含有量が20%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
【0033】
BaOは、ガラスの熱的安定性を向上させて、ガラスの失透を抑制する成分であるとともに、ガラスの粘性を低下させる成分であり、その含有量は0〜45%、より好ましくは3〜22%である。BaOの含有量が45%より多いと、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。
【0034】
CuOは、ガラスの熱的安定性を向上させて、ガラスの失透を抑制する成分であるとともに、ガラスの耐候性を向上させる成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜10%である。CuOの含有量が15%より多いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎ、封着温度が高くなりやすい。
【0035】
また、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、上記成分に加えて、CaO、MgO、TeO2、B23、Fe23、Al23、SiO2等を20%までガラス組成中に導入することができる。なお、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物は、環境的観点およびヨウ素電解液による侵食を防止する観点から、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0036】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物において、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減は0.1mg/cm2以下、好ましくは0.05mg/cm2以下、更に好ましくは実質的に質量減がない。質量減が0.1mg/cm2以下であれば、長期間に亘り、ヨウ素電解液や電池特性の劣化を防止することができる。ここで、「実質的に質量減がない」とは、質量減が0.01mg/cm2以下の場合を指す。
【0037】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物において、熱膨張係数は65〜120×10-7/℃が好ましく、80〜110×10-7/℃がより好ましい。本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物と、透明電極基板等に用いられるガラス基板(例えば、ソーダガラス基板)の熱膨張係数の差が大き過ぎると、耐火性フィラー粉末を添加しない限り、焼成後にガラス基板や封着部位等に不当な応力が残留し、ガラス基板や封着部位等にクラックが発生しやすくなり、或いは封着部位に剥れが生じやすくなる。
【0038】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、上記の色素増感型太陽電池用ガラス組成物からなるガラス粉末のみで構成されることが好ましい。このようにすれば、太陽電池のセルギャップを小さく、且つ均一化しやすくなるとともに、耐火性フィラー粉末等の混合工程等が不要になるため、色素増感型太陽電池用材料の製造コストを低廉化することができる。
【0039】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、機械的強度を向上、或いは熱膨張係数を低下させるために、耐火性フィラー粉末を含有してもよい。一方、耐火性フィラー粉末の添加量を低減すれば、色素増感型太陽電池用材料の流動性、特に封着性を高めることができる。したがって、その混合割合はガラス粉末50〜100体積%、耐火性フィラー粉末0〜50体積%、好ましくはガラス粉末65〜100体積%、耐火性フィラー粉末0〜35体積%であり、既述の通り、耐火性フィラー粉末の含有量は、流動性の観点から10体積%以下、5体積%以下、特に1体積%以下が好ましく、実質的に耐火性フィラー粉末を含有しないことがより好ましい。耐火性フィラー粉末の含有量が50体積%より多いと、相対的にガラス粉末の割合が低くなり過ぎて、所望の流動性を得難くなる。
【0040】
色素増感型太陽電池のセルギャップは、一般的に、50μm以下と非常に小さいため、耐火性フィラー粉末の粒子経が大き過ぎると、封着部位に局所的に突起物が発生するため、セルギャップを均一化し難くなる。このような事態を防止するため、耐火性フィラー粉末の最大粒子径は25μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。ここで、「最大粒子径」とは、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0041】
耐火性フィラー粉末は、特に材質が限定されないが、本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物からなるガラス粉末およびヨウ素電解液と反応し難いものが好ましい。具体的には、耐火性フィラー粉末として、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、石英、β−スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、ウイレマイト、[AB2(MO43]の基本構造をもつ化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの固溶体が使用可能である。
【0042】
本発明の色素増感型太陽電池用材料において、軟化点は550℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましい。軟化点が500℃より高いと、ガラスの粘性が高くなり過ぎ、封着温度が不当に上昇し、ガラス基板が変形しやすくなる。また、色素増感型太陽電池用材料と多孔質酸化物半導体層を同時焼成する場合、封着温度が高過ぎると、酸化物半導体粒子の融着が進行し過ぎるおそれがあり、このような場合、多孔質酸化物半導体層の表面積が減少し、色素を吸着させ難くなる。
【0043】
本発明の色素増感型太陽電池用材料において、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減は0.1mg/cm2以下、好ましくは0.05mg/cm2以下であり、実質的に質量減がないことが望ましい。質量減が0.1mg/cm2以下であれば、長期間に亘り、ヨウ素電解液や電池特性の劣化を防止することができる。
【0044】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、粉末のまま使用に供してもよいが、ビークルと均一に混練し、ペーストに加工すると取り扱いやすい。ビークルは、主に溶媒と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布される。
【0045】
樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0046】
溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0047】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、封着に用いることが好ましく、特に透明電極基板と対極基板の封着に用いることが好ましい。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、低融点特性を有し、ヨウ素電解液に侵食され難いため、長期間の使用により、ヨウ素電解液が漏洩し難く、太陽電池の長寿命化を図ることができる。また、透明電極基板と対極基板の封着に用いる場合、太陽電池のセルギャップを均一化するために、本発明の色素増感型太陽電池用材料にガラスビーズ等のスペーサーを添加してもよい。
【0048】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、ガラス組成中にVを20%以上含有しているため、レーザー光による封着処理に供することができる。レーザー光を用いると、色素増感型太陽電池用材料を局所加熱することができ、ヨウ素電解液等の構成部材の熱劣化を防止した上で、透明電極基板と対極基板を封着することができる。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、レーザー光を用いて透明電極基板と対極基板を封着する場合、ガラス組成として、Vを30%以上、40%以上、特に45以上%含有することが好ましい。このように規制すれば、レーザー光の光エネルギーを熱エネルギーに効率良く変換することができるため、換言すればガラスに的確にレーザー光を吸収させることができるため、封着すべき部位のみを的確に局所加熱することができる。一方、Vの含有量を70%以下、特に60%以下に規制すれば、レーザー光の照射の際に、ガラスが失透する事態を防止することができる。ここで、レーザー光として、種々のレーザー光を使用することができるが、特に、半導体レーザー、YAGレーザー、COレーザー、エキシマレーザー、赤外レーザー等は、取り扱いが容易な点で好適である。また、ガラスに的確にレーザー光を吸収させるために、レーザー光は、500〜1600nm、好ましくは750〜1300nmの発光中心波長を有することが好ましい。
【0049】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、集電電極の被覆に用いることが好ましい。一般的に、集電電極にはAgが使用されるが、Agはヨウ素電解液に侵食されやすい。したがって、集電電極にAgを使用する場合、集電電極を保護する必要がある。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、低融点特性を有するため、緻密な被覆層を低温で形成できるとともに、ヨウ素電解液に侵食され難いため、長期間に亘って、集電電極を保護することができる。
【0050】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、隔壁の形成に用いることができる。一般的に、色素増感型太陽電池内に隔壁を形成する場合、セル内は、ヨウ素電解液で満たされる。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、低融点特性を有するため、緻密な隔壁を低温で形成できるとともに、ヨウ素電解液に侵食され難いため、長期間に亘って、隔壁の破れを防止することができる。
【実施例】
【0051】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1は、本発明の実施例(試料No.1〜5)、比較例(試料No.6)を示している。
【0052】
【表1】

【0053】
表中に記載の各試料は、次のようにして調製した。まず、表中のガラス組成になるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1000〜1200℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部を熱膨張係数測定用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより薄片状に成形した。熱膨張係数測定用サンプルは、成形後に所定の徐冷(アニール)処理を行った。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き75μmの篩いを通過させて、平均粒子径が約10μmの各ガラス粉末を得た。なお、試料No.6は、表中の耐火性フィラー粉末(チタン酸鉛、平均粒子径10μm)を表中の割合で添加、混合したものである。
【0054】
次いで、各ガラス粉末(試料No.6は混合粉末)と、ビークル(エチルセルロースをα−ターピネオールに溶解させたもの)を混錬し、ペースト状とした。これをソーダガラス基板(熱膨張係数:100×10-7/℃)に、直径40mmで40〜80μm厚となるようにスクリーン印刷し、電気炉で120℃10分間乾燥した後、500℃30分間焼成し、質量減の評価用試料を得た。
【0055】
以上の試料を用いて、熱膨張係数、軟化点およびヨウ素電解液に対する質量減を評価した。その結果を表1に示す。
【0056】
熱膨張係数は、TMA測定装置により測定した。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。なお、試料No.6は、混合粉末を緻密に焼結させ、所定形状に加工したものを測定試料とした。
【0057】
軟化点は、DTA装置により求めた。測定は、空気中で行い、昇温速度は10℃/分とした。
【0058】
質量減は、以下のようにして算出した。まず上記の質量減の評価用試料の質量およびヨウ素電解液に接する焼成膜の表面積を測定し、次にガラス製密閉容器中のヨウ素電解液にこの試料を浸漬し、25℃の恒温槽にガラス製密閉容器を静置し、浸漬前の試料の質量から2週間経過した後の試料の質量を減じた値を、焼成膜の表面積で除することで算出した。質量減の評価に使用したヨウ素電解液は、アセトニトリルに対し、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、tert−ブチルピリジン0.5M、および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨーダイド0.6Mを加えたものを使用した。
【0059】
表1から明らかなように、試料No.1〜5は、熱膨張係数が86〜99×10-7/℃、軟化点が420〜449℃であった。また、いずれの質量減の測定用試料においても、焼成膜が剥れることなく、ガラス基板に良好に密着していた。さらに、試料No.1〜5は、質量減が確認できず、ヨウ素電解液に侵食され難かった。一方、試料No.6は、鉛ガラスを使用したため、質量減が0.32mg/cm2であり、ヨウ素電解液に侵食されていた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラス組成物および色素増感型太陽電池用材料は、色素増感型太陽電池の透明電極基板と対極基板の封着、セル間を区切るための隔壁の形成、集電電極の被覆等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、V25 20〜70%、P25 10〜50%含有することを特徴とする色素増感型太陽電池用ガラス組成物。
【請求項2】
更に、ガラス組成として、質量%で、ZnO+SrO+BaO+CuOを10〜55%含有することを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池用ガラス組成物。
【請求項3】
質量%で、ZnO 0〜30%、SrO 0〜20%、BaO 0〜45%、CuO 0〜15%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池用ガラス組成物。
【請求項4】
25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減が、0.1mg/cm2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用ガラス組成物。
【請求項5】
熱膨張係数が65〜120×10-7/℃であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用ガラス組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用ガラス組成物からなるガラス粉末 50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末 0〜50体積%とを含有することを特徴とする色素増感型太陽電池用材料。
【請求項7】
軟化点が550℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の色素増感型太陽電池用材料。
【請求項8】
封着に用いることを特徴とする請求項6または7に記載の色素増感型太陽電池用材料。
【請求項9】
集電電極の被覆に用いることを特徴とする請求項6または7に記載の色素増感型太陽電池用材料。

【図1】
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【公開番号】特開2009−274948(P2009−274948A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99729(P2009−99729)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】