説明

色素増感型太陽電池用積層フィルム

【課題】湿熱や電解質に対して高い耐久性を持ち、長期にわたり光発電性能を維持することができる、色素増感型太陽電池を作成することができる、色素増感型太陽電池用積層フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムおよびそのうえに設けられた透明導電層からなり、透明導電層が接する熱可塑性樹脂フィルムの表面樹脂のガラス転移温度が50℃以上であり、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率が70%以上であることを特徴とする、色素増感型太陽電池用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、色素増感半導体微粒子を用いた光電変換素子が提案されて以来[「ネイチャー(Nature)」 第353巻、第737〜740ページ、(1991年)]、シリコン系太陽電池に替る新たな太陽電池として注目されている。特に、支持体として熱可塑性樹脂フィルムを用いた色素増感型太陽電池は、柔軟化や軽量化が可能であり、民生用途での幅広い展開が期待されている。
【0003】
支持体として熱可塑性フィルムを用いる場合、長期耐久性を確保することが重要である。このためには、熱可塑性樹脂フィルム自体が電解質に対して耐久性を持つとともに、液体もしくは擬固体化の電解質の存在下において、熱可塑性樹脂フィルムとその上に設けられた透明導電層との間の高い密着性を維持することが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−288745号公報
【特許文献2】特開2001−160426号公報
【特許文献3】特開2002−50413号公報
【特許文献4】特開2003−282163号公報
【特許文献5】特開2006−313668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、湿熱や電解質に対して高い耐久性を持ち、長期にわたり光発電性能を維持することができる、色素増感型太陽電池を作成することができる、色素増感型太陽電池用積層フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂フィルムおよびそのうえに設けられた透明導電層からなり、透明導電層が接する熱可塑性樹脂フィルムの表面樹脂のガラス転移温度が50℃以上であり、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率が70%以上であることを特徴とする、色素増感型太陽電池用積層フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、湿熱や電解質に対して高い耐久性を持ち、長期にわたり光発電性能を維持することができる、色素増感型太陽電池を作成することができる、色素増感型太陽電池用積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[熱可塑性樹脂フィルム]
本発明において、透明導電層を支える支持体として熱可塑性樹脂フィルムを用いる。熱可塑性樹脂フィルムとして熱可塑性芳香族ポリエステルフィルムが好ましい。このフィルムを構成する熱可塑性芳香族ポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。
【0009】
熱可塑性芳香族ポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレートを例示することができる。熱可塑性芳香族ポリエステルは、これらのポリエステルに小割合の共重合成分を共重合した共重合ポリエステルであってもよい。また、これらのポリエステルに小割合の他のポリマーを配合したブレンドであってもよい。
【0010】
これらの熱可塑性芳香族ポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが力学的物性と光学物性のバランスが良いので好ましい。特にポリエチレン−2,6−ナフタレートは、機械的強度が大きく、熱収縮率が小さく、加熱時のオリゴマー発生量が少ないことから最も好ましい。
【0011】
ポリエチレンテレフタレートとしては、エチレンテレフタレート単位を好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上有するものを用いるとよい。ポリエチレン−2,6−ナフタレートとしては、エチレン−2,6−ナフタレート単位を好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上有するものを用いるとよい。
【0012】
これらの熱可塑性樹脂フィルムには、必要に応じてフィラーを含有させてもよい。このフィラーとしては、従来から熱可塑性樹脂フィルムの滑り性付与剤として知られているものを用いることができ、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子を挙げることができる。所望の光線透過率を達成するためには極力少量のフィラー添加もしくはフィラーを添加しないことが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムには、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒等も添加してもよい。
【0013】
[表面]
本発明において、熱可塑性樹脂フィルムの表面樹脂のガラス転移温度が50℃以上であることが肝要であり、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは85℃以上である。フィルムの表面樹脂のガラス転移温度は、フィルム表面の熱可塑性樹脂をフィルムから削り出して試料とし、この試料を示差走査熱量計でガラス転移温度を測定して求める。ガラス転移温度が50℃未満であると太陽電池の使用時および加工時に曝される熱により熱可塑性樹脂フィルムが変形し、その上に設けられている透明導電層にクラック発生することになる。また、湿気や電解質により透明導電層界面の樹脂が膨潤して透明導電層を劣化させることになる。
【0014】
熱可塑性樹脂フィルムの表面樹脂は、結晶化していることが好ましい。熱可塑性樹脂は、そのままでは一般に湿度や液体・熱に対して変形しやすい。表面樹脂が結晶化していることで変形を抑制することができる。この結晶化は熱可塑性フィルムの成型時に行なってもよく、後加工で行ってもよい。結晶化には、熱処理やレーザー光照射処理を用いることができる。表面樹脂の結晶化の有無は、表面樹脂を削り出して得た試料の結晶化度の測定もしくは入射角を浅くして測定したフィルム表面のX線解析で確認することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂フィルムの表面樹脂は、芳香族基を含有していることが好ましい。芳香族基は通常の直鎖アルキル基とは異なり、剛直で振動しにくく、芳香族基同士のスタッキングも期待できるため耐溶剤性に優れている。このため、色素増感太陽電池に用いられる電解質にも膨潤されず、プラスチック上に設けられた透明導電層が安定に維持されるため好ましい。さらに、芳香族基が熱可塑性樹脂の主鎖骨格に含有されていると、主鎖が強固であるためより安定するため好ましい。芳香族基の有無は、ATR測定や表面IR測定により確認することができる。
【0016】
[熱収縮率]
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、200℃で10分間処理したときのフィルムの長手方向熱収縮率と幅方向熱収縮率との差の絶対値が0.8%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。この範囲であれば色素増感太陽電池の製造プロセスや使用時に曝される熱によりフィルムが収縮して歪むことがなく、透明導電層との高い密着性を長期にわたり維持することができるため好ましい。
【0017】
本発明において熱可塑性樹脂フィルムは、200℃で10分間処理したときのフィルムの長手方向熱収縮率は好ましくは0%以上1.0%以下である。この範囲であれば積層界面に応力が集中することも無く、耐久性が維持されるため好ましい。
本発明における熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは20〜400μm、特に好ましくは50〜300μmである。
【0018】
[透明導電層]
熱可塑性樹脂フィルム上に形成される透明導電層としては、導電性の金属酸化物(フッ素ドープ酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛複合酸化物(IZO)、金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム)や炭素の薄膜が用いられる。
【0019】
透明導電層は、2種以上の層を積層したものでも、2種以上の材料を複合化させたものでもよい。これらのなかでもITOおよびIZOは、光線透過率が高く低抵抗であるため、特に好ましい。表面抵抗は、好ましくは100Ω/□以下、さらに好ましくは40Ω/□以下である。これらの透明導電層は、例えばイオンプレーティング法、スパッタ法、蒸着法で熱可塑性樹脂フィルム上に設けることができる。
【0020】
[光線透過率]
本発明の色素増感型太陽電池用積層フィルムの光線透過率は、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率として70%以上、好ましくは75%以上である。70%未満であると光が十分に入射せず、光電変換が十分に行なわれない。なお、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率は、400〜800nmの各波長の全光線透過率を平均したものである。
【0021】
[易接着層]
本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、色素増感太陽電池を封止するために用いるシール剤等との接着性を向上するために、易接着層を設けてもよい。その場合、易接着層の厚みは好ましくは10〜200nm、さらに好ましくは20〜150nmである。易接着層の厚みが10nm未満であると密着性を向上させる効果が乏しく、200nmを超えると易接着層の凝集破壊が発生しやすくなり密着性が低下することがあり好ましくない。
【0022】
易接着層を設ける方法としては、熱可塑性樹脂フィルムの製造過程で塗工により設ける方法が好ましく、さらには配向結晶化が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムに塗布するのが好ましい。ここで、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムとは、未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に配向せしめた一軸配向フィルム、さらには縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向せしめた一軸延伸フィルムに、上記組成物の水性塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
【0023】
易接着層の構成材としては、熱可塑性樹脂フィルムとシール剤の双方に優れた接着性を示すものであることが好ましく、具体的には例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、シリコンアクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリシロキサン樹脂を用いることができる。これらの樹脂は単独で用いても良く、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0024】
また、フィルムの滑り性を改善し生産性を向上させるために微粒子を添加してもよい。微粒子は、無機微粒子としては、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデンを挙げることができる。有機微粒子としては、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂等の有機微粒子を挙げることができる。微粒子の平均径は10〜300nmであり、易接着層の固形分率0.01〜5重量%の範囲である方が、所望の光線透過率の維持と生産性の両立ができるため好ましい。これらの粒子は単独で用いても良いし、組み合わせてもちいても良い。
【0025】
[製造方法]
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、公知の方法に準じて製造することができる。なお、200℃で10分間処理したときのフィルムの長手方向熱収縮率と幅方向熱収縮率との差の絶対値を0.8%以下とし、フィルムの長手方向熱収縮率を0%以上1.0%以下とするためには、例えば特開平57−57628号公報に示されるような熱処理工程で縦方向に収縮せしめる方法や、特開平1−275031号公報に示されるようなフィルムを懸垂状態で弛緩熱処理する方法を用いるとよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。測定および評価は以下の方法で行った。なお、示差走査熱量計をDSCと表記することがある。「部」は、重量部を意味する。
【0027】
(1)固有粘度
固有粘度([η]dl/g)は、35℃のo−クロロフェノール溶液での測定値から算出した。
【0028】
(2)フィルム厚み
マイクロメーター(アンリツ(株)製のK−402B型)を用いてフィルムの連続製膜方向および幅方向に各々10cm間隔で測定を行い、全部で300ヶ所のフィルム厚みを測定した。得られた300ヶ所のフィルム厚みの平均値を算出してフィルム厚みとした。
【0029】
(3)熱収縮率
200℃に温度設定されたオーブンの中に無緊張状態で10分間フィルムを保持し、フィルム長手方向(MD)および幅方向(TD)について各々の加熱処理前後での寸法変化を熱収縮率として下式により算出し、長手方向と幅方向の熱収縮率を求めた。測定には、35cm×35cmの大きさに切り出した試料を用い、標点間距離は30cmとした。
熱収縮率%=((L0−L)/L0)×100
ただし、L0:熱処理前の標点間距離、L:熱処理後の漂点間距離
【0030】
(4)表面抵抗値
四探針式表面抵抗率測定装置(三菱化学(株)製、ロレスタGP)を用いて任意の5点について表面抵抗値を測定し、その平均値を代表値として用いた。
【0031】
(5)フィルムの表面樹脂のガラス転移温度
フィルムの表面樹脂を削り出して得た試料について、DSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal lyst2100)により、昇温速度20℃/minでガラス転移温度を測定した。
【0032】
(6)フィルムの表面樹脂の結晶化
フィルムの表面樹脂を削り出して得た試料について、DSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal lyst2100)により、昇温速度20℃/minで融点を測定した。融点が観測された場合を「結晶化あり」とし、観察されない場合を「結晶化なし」として評価した。
【0033】
(7)全光線透過率
(株)島津製作所製分光光度計 MPC3100を用い、波長400〜800nmの範囲について、2nmごとの全光線透過率を測定し、各波長での全光線透過率の平均値を算出した。
【0034】
(8)耐湿熱テスト
試料を121℃25時間2気圧で処理して評価を行った。処理前後での試料の表面抵抗の変化が30%以下であり、処理後の試料の透明導電層にクラックが観察されず、透明導電層−フィルム界面に剥離が観察されない場合を「合格」とした。なお、試料として、5cm×10cmの大きさに切り出したフィルムを用いた。
【0035】
(9)耐電解質テスト
アセトニトリル1リットルに対して、ヨウ化リチウム0.1モル、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド0.3モル、ヨウ素0.05モル、t−ブチルピリジン0.5モルを溶解して電解質を調製した。試料をこの電解質中に室温で1週間浸漬した。浸漬前後での試料の表面抵抗の変化が30%以下であり、処理後の試料の透明導電層にクラックが観察されず、透明導電層−フィルム界面に剥離が観察されない場合を「合格」とした。試料として、5cm×5cmの大きさに切り出したフィルムを用いた。
【0036】
(10)平均粒径
粒度分布計(堀場製作所製LA−950)にて、粒子の粒度分布を求め、d50での粒子径を平均粒径とした。
【0037】
[実施例1]
ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融し、平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過し、3mmのスリット状ダイを通して表面温度60℃の回転冷却ドラム上で押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。このようにして得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より850℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.2倍に延伸した。この縦延伸後のフィルムの片面に下記の塗剤Aを乾燥後の塗膜厚みが0.2μmになるようにロールコーターで塗工し易接層を形成した。続いてテンターに供給し、140℃にて横方向に.3.4倍に延伸した。得られた二軸配向フィルムを244℃の温度で5秒間熱固定し、ポリエステルの固有粘度0.59dl/g、厚み125μmのフィルムを得た。このフィルムを200℃で10分間処理したときのフィルムの長手方向熱収縮率は0.58%、幅方向熱収縮率は0.12%、長手方向熱収縮率と幅方向熱収縮率との差は0.46%であった。
【0038】
このフィルムから塗剤Aを塗布していない面の熱可塑性樹脂を削り出し、示差走査熱量計で測定したところ、ガラス転移温度は121℃であり、融点が観察され、結晶化していることが確認された。
このフィルムの塗剤Aを塗布していない面に、表面にITOターゲット(錫濃度は二酸化錫換算で10重量%)を用いた直流マグネトロンスパッタリング法により、ITOからなる透明導電層を400nm厚みで形成して色素増感型太陽電池用積層フィルムを得た。透明導電層のスパッタリング法による形成は、プラズマの放電前にチャンバー内を5×10−4Paまで排気した後、チャンバー内にアルゴンと酸素の混合ガス(酸素濃度は0.5体積%)を導入して圧力を0.3Paとし、ITOターゲットに1000W印加して行った。透明導電層の表面抵抗値は15Ω/□であり、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率は74.7%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムの耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも合格であった。
【0039】
<塗剤A>
四つ口フラスコに、界面活性剤としてラウリルスルホン酸ナトリウム3部、およびイオン交換水181部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硝酸水素ナトリウム0.2部を添加し、メタクリル酸メチル30.1部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン21.9部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸39.4部、アクリルアミド8.6部の混合物を3時間にわたり、液温が60〜70℃になるよう調整しながら滴下した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が35%重量のアクリルの水分散体を得た。
【0040】
一方で、シリカフィラー(平均粒径:100nm)(日産化学株式会社製 商品名スノーテックスZL)を0.2重量%、濡れ剤として、ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名ナロアクティーN−70)の0.3重量%添加した水溶液を作成した。
アクリルの水分散体15重量部と水溶液85重量部を混合して、塗剤Aを作成した。
【0041】
[実施例2]
ITOの積層厚みを変更し、表面抵抗を100Ω/□とした以外は実施例1と同様にして色素増感型太陽電池用積層フィルムを作成した。フィルムの波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率は78.8%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムについて、耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも合格であった。
【0042】
[実施例3]
熱可塑性結晶性樹脂Aとしてポリエチレン−2,6−ナフタレート(非晶密度1.33、固有粘度:0.65)と、熱可塑性結晶性樹脂Bの組成物として平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子(日本触媒製 シーホスターKEP−30真密度2.0)を0.1重量%含有するポリエチレン−2,6−ナフタレート(非晶密度1.33、固有粘度:0.65)と、をそれぞれ170℃で6時間乾燥させた後に別々の押出機に供給した。溶融温度305℃で溶融した後に、フィードブロックを用いて、樹脂A/樹脂Bの2層構成となるように合流させて、スリット状ダイより押出し、表面温度を50℃に維持した回転冷却ドラム上で急冷固化させて未延伸積層フィルムを得た。次いで縦方向に140℃で3.1倍に延伸した後、横方向に145℃で3.3倍に延伸し、245℃で5秒間熱固定処理および幅方向に2%収縮させ、厚さ125μmの2層構成の太陽電池基材用積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの樹脂層Aの厚みは123μm、樹脂層Bの厚みは2μmであった。この積層フィルムを200℃で10分間処理したときのフィルムの長手方向熱収縮率は0.5%、幅方向熱収縮率は0.1%であり、長手方向熱収縮率と幅方向熱収縮率との差は0.4%であった。
【0043】
この積層フィルムから表面の熱可塑性樹脂を削り出し、示差走査熱量計で測定したところ、ガラス転移温度は120℃であり、融点が観察され、結晶化していることが確認された。
上記積層フィルムの表面に、実施例1と同様の方法を用いてITO膜を積層して色素増感型太陽電池用積層フィルムを得た。表面抵抗は16Ω/□、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率は74.8%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムの耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも合格であった。
【0044】
[実施例4]
熱可塑性結晶性樹脂Aとしてポリエチレン−2,6−ナフタレート(非晶密度1.33、固有粘度:0.65)と、熱可塑性結晶性樹脂Bの組成物として平均粒径0.3μmの球状シリカ(日本触媒製 シーホスターKEP−30真密度2.0)を0.1重量%含有するポリエチレン−2,6−ナフタレート(非晶密度1.33、固有粘度:0.65)と、をそれぞれ170℃で6時間乾燥させた後に別々の押出機に供給した。溶融温度305℃で溶融した後に、フィードブロックを用いて、樹脂B/樹脂A/樹脂Bの3層構成となるように合流させて、スリット状ダイより押出し、表面温度を50℃に維持した回転冷却ドラム上で急冷固化させて未延伸フィルムを得た。次いで縦方向に140℃で3.1倍に延伸した後、横方向に145℃で3.3倍に延伸し、245℃で5秒間熱固定処理および幅方向に2%収縮させ、厚さ125μmの3層構成の太陽電池基材用積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの樹脂層Aの厚みは123μm、樹脂層Bの厚みは1μmであった。このフィルムの200℃、10分で処理した際の積層フィルムの長手方向熱収縮率は0.5%、幅方向熱収縮率は0.1%、長手方向熱収縮率と幅方向熱収縮率との差は0.4%であった。
【0045】
この積層フィルムから表面の熱可塑性樹脂を削り出し、示差走査熱量計で測定したところ、ガラス転移温度は120℃であり、融点が観察され、結晶化していることが確認された。
上記積層フィルムの表面に実施例1と同様の方法を用いてITO膜を積層して色素増感型太陽電池用積層フィルムを得た。表面抵抗は16Ω/□、400〜800nmの平均全光線透過率は74.0%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムの耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも合格であった。
【0046】
[実施例5]
熱可塑性結晶性樹脂Aとしてポリエチレン−2,6−ナフタレート(非晶密度1.33、固有粘度:0.65)と、熱可塑性結晶性樹脂Bとしてポリエチレンテレフテレート、をそれぞれ170℃で6時間乾燥させた後に別々の押出機に供給した。溶融温度305℃で溶融した後に、フィードブロックを用いて、樹脂A/樹脂Bの2層構成となるように合流させて、スリット状ダイより押出し、表面温度を50℃に維持した回転冷却ドラム上で急冷固化させて未延伸フィルムを得た。次いで縦方向に140℃で3.1倍に延伸した後、この縦延伸後のフィルムの片面に下記の塗剤Aを乾燥後の塗膜厚みが0.2μmになるようにロールコーターで樹脂層B側に塗工し易接層を形成した。さらに続いて、横方向に145℃で3.3倍に延伸し、245℃で5秒間熱固定処理および幅方向に2%収縮させ、厚さ200μmの2層構成の太陽電池基材用積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの樹脂層Aの厚みは175μm、樹脂層Bの厚みは25μmであった。この積層フィルムの200℃、10分で処理した際のポリエステルフィルムの長手方向の熱収縮率は0.9%、幅方向の熱収縮率は0.2%、長手方向と幅方向の熱収縮率の差は0.7%であった。
【0047】
この積層フィルムのA層側から表面の熱可塑性樹脂を削り出し、示差走査熱量計で測定したところ、ガラス転移温度は120℃であり、融点が観察され、結晶化していることが確認された。
上記積層フィルムのA層側の表面に、実施例1と同様の方法を用いてITO膜を積層して色素増感型太陽電池用積層フィルムを得た。表面抵抗は16Ω/□、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率は74.9%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムの耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも合格であった。
【0048】
[実施例6]
ITOの製膜以外は実施例1の方法を用いてベースフィルムを製造した。こうして得られたベースフィルム上へ、主として酸化インジウムからなり酸化亜鉛が7.5重量%添加されたIZOターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリング法により、膜厚260nmのIZOからなる透明導電層を形成して色素増感型太陽電池用積層フィルムを得た。
透明導電層のスパッタリング法による形成は、プラズマの放電前にチャンバー内を5×10−4Paまで排気した後、チャンバー内にアルゴンと酸素を導入して圧力を0.3Paとし、IZOターゲットに2W/cmの電力密度で電力を印加して行った。酸素分圧は3.7mPaであった。透明導電層の表面抵抗値は14Ω/□であり400〜800nmの平均全光線透過率は75.8%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムの耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも合格であった。
【0049】
[比較例1]
ITO加工を、塗剤Aを塗布した面とした以外は実施例1と同じ手法を用いて積層フィルムを得た。表面抵抗は16Ω/□、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率は74.2%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムの耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも不合格であった。
【0050】
[比較例2]
塗剤Aを塗剤Bとした以外は比較例1と同じ手法を用いて積層フィルムを得た。表面抵抗は15Ω/□、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率は73.2%であった。得られた色素増感型太陽電池用積層フィルムの耐湿熱テストおよび耐電解質テストを行なったところいずれも不合格であった
【0051】
<塗剤B>
四つ口フラスコに、界面活性剤としてラウリルスルホン酸ナトリウム3部、およびイオン交換水181部を仕込んで窒素気流中で60℃まで昇温させ、次いで重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5部、亜硝酸水素ナトリウム0.2部を添加し、メタクリル酸メチル30.1部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン21.9部、ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリル酸39.4部、アクリルアミド8.6部の混合物を3時間にわたり、液温が60〜70℃になるよう調整しながら滴下した。滴下終了後も同温度範囲に2時間保持しつつ、攪拌下に反応を継続させ、次いで冷却して固形分が35%重量のアクリルの水分散体を得た。こうして得られたアクリル水分散体を一部サンプリングし100℃で乾燥することで乾固品を得た。この乾固品のDSC測定を行なったところガラス転移点は50℃未満であり、融点は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の色素増感型太陽電池用積層フィルムは、色素増感型太陽電池用の部材、例えば基材として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムおよびそのうえに設けられた透明導電層からなり、透明導電層が接する熱可塑性樹脂フィルムの表面樹脂のガラス転移温度が50℃以上であり、波長400〜800nmの範囲の平均全光線透過率が70%以上であることを特徴とする、色素増感型太陽電池用積層フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂フィルムの表面樹脂が結晶化している、請求項1記載の色素増感型太陽電池用積層フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂フィルムが熱可塑性芳香族ポリエステルフィルムである、請求項1記載の色素増感型太陽電池用積層フィルム。
【請求項4】
200℃で10分間処理したときのフィルムの長手方向熱収縮率と幅方向熱収縮率との差の絶対値が0.8%以下である、請求項1記載の色素増感型太陽電池用積層フィルム。
【請求項5】
200℃で10分間処理したときのフィルムの長手方向熱収縮率が0%以上1.0%以下である、請求項4記載の色素増感型太陽電池用積層フィルム。

【公開番号】特開2011−222154(P2011−222154A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86950(P2010−86950)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】