説明

色素増感型太陽電池用電極基板の集電線形成方法

【課題】集電線と導電性被膜との密着性を十分に確保できる色素増感型太陽電池用電極基板の集電線形成方法を提供する。
【解決手段】集電線3を予め算術平均粗さRaにおいて5以上の表面粗さとなされた導電性被膜2の表面に形成することで、めっき法により形成された集電線3が表面の凹凸に入り込んで生じるアンカー効果により、導電性被膜2が金属結合による密着力が期待できない材料から形成されている場合でも集電線3と導電性被膜2との密着性を十分に確保することができる。更に集電線3と導電性被膜2とが密着している面積を増大させることで、集電線3と導電性被膜2との導電性も高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池の電極基板において、導電性被膜上に形成された集電線の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極基板の、導電性被膜上に形成される集電線は、導電性被膜より電気抵抗の低い材料を用いて形成することで、導電性被膜から集電して色素増感型太陽電池の発電効率を高めるためのものであるが、このような導電線としては、主として酸化チタンで構成される多孔質な受光層と、前記受光層の受光面側に、該受光面を覆うように設置された面電極と、前記受光層を介して、前記面電極と対向して設置された対向電極とを有し、前記面電極の材料より電気抵抗の小さい材料で構成された集電体を、前記面電極に接するように設置し、前記面電極全体の導電性を向上するよう構成した太陽電池に用いられる集電体として開示されている(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−314108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の集電線では、導電性被膜が金属酸化物等から形成されている場合には、金属結合による結合力が期待できないことから、集電線と導電性被膜との密着性が十分に確保されず、集電線と導電性被膜との間の電気的接続が不十分だったり、長期に亘る使用において集電線が導電性被膜から剥離して発電効率の低下が起こったりする恐れがあった。
【0005】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、集電線と導電性被膜との密着性を十分に確保できる色素増感型太陽電池用電極基板の集電線形成方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる色素増感型太陽電池用電極基板の集電線形成方法は、基材に金属酸化物からなる導電性被膜が形成された色素増感型太陽電池用電極基板において、該導電性被膜上にめっき法により集電線を形成する方法であって、少なくとも前記集電線が形成される部位の前記導電性被膜の表面が、JIS−B0601に規定される算術平均粗さRaにおいて5以上の表面粗さと予めなされていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明に係わる色素増感型太陽電池用電極基板の集電線形成方法によれば、集電線を予め算術平均粗さRaにおいて5以上の表面粗さとなされた導電性被膜の表面に形成することで、めっき法により形成された集電線が表面の凹凸に入り込んで生じるアンカー効果により、導電性被膜が金属結合による密着力が期待できない材料から形成されている場合でも集電線と導電性被膜との密着性を十分に確保することができる。更に集電線と導電性被膜とが密着している面積を増大させることで、集電線と導電性被膜との導電性も高めることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係わる色素増感型太陽電池用電極基板の集電線形成方法によれば、集電線を予め算術平均粗さRaにおいて5以上の表面粗さとなされた導電性被膜の表面に形成することで、めっき法により形成された集電線が表面の凹凸に入り込んで生じるアンカー効果により、導電性被膜が金属結合による密着力が期待できない材料から形成されている場合でも集電線と導電性被膜との密着性を十分に確保することができる。更に集電線と導電性被膜とが密着している面積を増大させることで、集電線と導電性被膜との導電性も高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0010】
図1は、本発明に係わる色素増感型太陽電池の電極基板を示す斜視図であり、電極基板10は、環状ポリオレフィン合成樹脂からなる基材1に、ITO(酸化インジウムスズ)からなる導電性被膜2が形成されたもので、その導電性被膜2上に銅を用いて電気めっき法により線状の集電線3が形成されたものである。導電性被膜2は基材1に蒸着等により形成された0.15〜0.45μm程度の膜厚の薄膜である。
【0011】
導電性被膜2上に集電線3を形成する方法としては、図2に示す如く、導電性皮膜2上に集電線3を形成する部位21を除いてマスキングMを施す。次に、マスキングMを施した状態で濃度の低い酸性溶液に浸漬する。ここで、導電性被膜2の表面が酸によって不均一に溶解されることで、部位21の表面粗さが算術平均粗さRaにおいて5以上となされる。蒸着により形成されたITOからなる導電性被膜2の表面粗さは、通常Raにおいて1〜5程度である。更にマスキングMを施したまま、水洗後に金属イオンが溶解した溶液を用い、電気めっきを行うことで、マスキングM以外の部位21に集電線3が形成される。
【0012】
導電性被膜2は、導電性の金属酸化物であれば特に限定されるものではないが、ITO(酸化インジウム/酸化錫)やFTO(フッ素ドープ酸化錫)等の導電性と透明性を兼ね備えたものを好適に用い、真空蒸着法、スパッタ蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、泳動電着法等の適宜の方法により形成することができる。
【0013】
集電線3は、めっきが可能な金属であれば形成に用いる材料を特に限定するものではなく、金、銅、銀、ニッケル、パラジウム、ロジウム、白金、クロム、ルテニウム、イリジウム等を適宜用いてよい。
【0014】
導電性被膜2の表面粗さを算術平均粗さRaにおいて5以上とするには、上述の如く酸により表面を不均一に溶解させるのが表面粗さの程度やバラツキを調整するのに好適であるが、それに限定されずスパッタリング、ブラスト等適宜の方法を用いてよい。
【実施例】
【0015】
(実施例1)
平滑な環状ポリオレフィン合成樹脂板表面に、ITOを蒸着して5μmの導電性被膜を形成した。この導電性被膜の、集電線を形成する部位以外を覆うマスキングを施した状態で、0.1Mの塩酸に10分間浸漬した。その後水洗、乾燥した後、原子間力顕微鏡(Topo Metrix社製、型式Explore)を用いて集電線を形成する部位の表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRaにおいて12.39であった。その後、220g/lの硫酸銅(二価)水溶液を用いて電気めっきにより1μmの厚みの集電線を形成し、本発明に係わる実施例1の色素増感型太陽電池用電極基板を得た。
【0016】
(実施例2)
0.1Mの塩酸に5分間浸漬し、集電線を形成する部位の表面粗さを算術平均粗さRaにおいて5.58とした以外は実施例1と同じにして、本発明に係わる実施例2の色素増感型太陽電池用電極基板を得た。
【0017】
(比較例1)
0.1Mの塩酸に3分間浸漬し、集電線を形成する部位の表面粗さを算術平均粗さRaにおいて4.30とした以外は実施例1と同じにして、比較例1の色素増感型太陽電池用電極基板を得た。
【0018】
(比較例1)
特に何も施すことのない導電性被膜(表面粗さは算術平均粗さRaにおいて3.95)を用い、220g/lの硫酸銅(二価)水溶液を用いて電気めっきにより1μmの厚みの集電線を形成して比較例2の色素増感型太陽電池用電極基板を得た。
【0019】
実施例1及び2、比較例1及び2について、セロテープ(登録商標)による剥離テストを行い、○:はがれない、△:一部はがれ、×:全面はがれとして集電線の密着性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例1及び2については、セロテープ(登録商標)はく離においてはがれが見られず、十分な密着性が得られているが、比較例1については一部はがれ、比較例2については前面はがれが見られており、比較例1及び2については密着性が不足して長期に亘る使用における剥離等が懸念される結果となっており、集電線を形成する部位の、導電性被膜の表面粗さが5以上でないと十分な密着性が得られないことが現されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係わる色素増感型太陽電池の電極基板の、実施の一形態を示す説明図である。
【図2】集電線が形成される部位以外のマスキングの状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 基材
2 導電性被膜
3 集電線
10 色素増感型太陽電池用電極基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に金属酸化物からなる導電性被膜が形成された色素増感型太陽電池用電極基板において、該導電性被膜上にめっき法により集電線を形成する方法であって、少なくとも前記集電線が形成される部位の前記導電性被膜の表面が、JIS−B0601に規定される算術平均粗さRaにおいて5以上の表面粗さと予めなされていることを特徴とする色素増感型太陽電池用電極基板の集電線形成方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−5117(P2007−5117A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183221(P2005−183221)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】