説明

色素増感太陽電池の対極

【課題】ヨウ化物イオン環境における耐食性と機械的性質に優れ、低コストで製造できる、色素増感太陽電池の光電極の対極として用いられるAl合金板を提供する。
【解決手段】ヨウ素を含有する有機溶媒電解液中における耐食性が芯材よりも優れている皮材(1000系合金)と、機械的性質が皮材よりも優れている芯材(5000系合金)からなる基板上に、三ヨウ化物イオンを還元する触媒を積層したことを特徴とする、色素増感太陽電池の対極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池の対極に関する。
【背景技術】
【0002】
現在最も広く用いられているシリコン系の太陽電池と異なり、グレッツエル型に代表される色素増感太陽電池は、有機色素を用いて光起電力を得る。
【0003】
一般に、色素増感太陽電池では、電解液として、3−メトキシプロピオニトリル等の有機溶媒を溶媒としたヨウ化リチウムおよびヨウ素を含む溶液が使用されている。また、対極触媒には白金が用いられ、ヨウ化物イオンには金属に対する腐食性があることから、対極基板にはITO等の透明導電膜を有するガラス基板が用いられている。しかし、透明導電性ガラス基板は高価であることから、他の安価な金属を用いた基板を使い色素増感太陽電池の製造コストを低減することが検討されている。
【0004】
ここで、色素増感太陽電池の対極に用いるための耐食性に優れたAl合金あるいはステンレス鋼に関し、以下の特許文献が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−302018
【特許文献2】特開2008−034110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
【0007】
すなわち、特許文献1に記載の技術では、アルミニウム合金の単層材を対極に用いているため、アルミニウム合金の組成を調整したとしても、互いにトレードオフの関係にある耐食性と機械的性質を同時にバランスよく実現することには限界があった。また、特許文献2に記載の技術でも、ステンレス鋼の単層材を対極に用いているため、ステンレス鋼の組成を調整したとしても、互いにトレードオフの関係にある耐食性と機械的性質を同時にバランスよく実現することには限界があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、互いにトレードオフの関係にある耐食性と機械的性質を同時にバランスよく実現する色素増感太陽電池の対極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、基板とその基板上に積層されている三ヨウ化物イオンを還元する触媒とを備える色素増感太陽電池の対極であって、上記の基板が、アルミニウム合金からなる芯材と、その芯材に接合しているアルミニウム合金からなる皮材とで構成されるアルミニウム合金クラッド材を備え、上記の芯材の引張強さおよび耐力が、上記の皮材よりも優れており、上記の皮材のヨウ化物イオンを含有する有機溶媒電解液中における耐食性が、上記の芯材よりも優れている、色素増感太陽電池の対極が提供される。
【0010】
この構成によれば、芯材の引張強さおよび耐力が皮材よりも優れており、皮材のヨウ化物イオンを含有する有機溶媒電解液中における耐食性が芯材よりも優れているため、互いにトレードオフの関係にある耐食性と機械的性質を同時にバランスよく実現する色素増感太陽電池の対極が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、互いにトレードオフの関係にある耐食性と機械的性質を同時にバランスよく実現する色素増感太陽電池の対極が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る色素増感太陽電池の対極を備える色素増感太陽電池全体の概略構造を説明するための概念図である。
【図2】本実施形態に係る色素増感太陽電池の対極の積層構造を説明するための構造断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。なお、本実施形態に置いて、A〜Bと記載した場合には、A以上B以下であることを意味する。
【0014】
<色素増感太陽電池での対極の位置づけ>
図1は、本実施形態に係る色素増感太陽電池の対極を備える色素増感太陽電池全体の概略構造を説明するための概念図である。この図を用いて、色素増感太陽電池の全体構成および光起電力発生のメカニズムについて説明する。まず、透明なガラスあるいは樹脂フィルム等の透明基板1に透明導電膜2(酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide=ITO)膜等)を形成し、その上に二酸化チタン等の金属酸化物半導体粒子3aを設ける。次に、この金属酸化物半導体粒子3aを焼成し、その表面に色素4を吸着させたものが光電変換層3bである。光電変換層3bは多孔質の性状を有する。これら、透明基板1と透明導電膜2と光電変換層3bとをあわせて負極構造体3cとする。この負極構造体3cは、電解質溶液5を間に挟んで正極と対向し電池を形成する。便宜的に、以降はこの正極を「対極」と称する。負極構造体3c側から光9を照射すると、色素4が励起され、励起された電子は金属酸化物半導体粒子3aから透明導電膜2および透明基板1に伝わり、電池の外に出て対極基板8aを通じ対極触媒8bに移動する。対極触媒8bに移動した電子は、電解質溶液5中のヨウ素イオンによって運ばれ、色素4に戻る。以上のような過程により、色素増感太陽電池は光照射により光起電力を発生する。
【0015】
<色素増感太陽電池の対極の積層構造>
図2は、本実施形態に係る色素増感太陽電池の対極の積層構造を説明するための構造断面図である。この色素増感太陽電池の対極は、対極基板8aと該対極基板8a上に積層されている三ヨウ化物イオンを還元する対極触媒8bとを備える。また、上記の対極基板8aが、アルミニウム合金(Al合金)からなる芯材80と、その芯材80に接合しているアルミニウム合金からなる皮材82とで構成されるアルミニウム合金クラッド材(Al合金クラッド材)を備えている。
【0016】
そして、上記の芯材80の引張強さおよび耐力が、いずれも上記の皮材82よりも優れている。一方、上記の皮材82のヨウ化物イオンを含有する有機溶媒電解液中における耐食性が、上記の芯材80よりも優れている。この色素増感太陽電池の対極は、このような構成を有するため、互いにトレードオフの関係にある耐食性と機械的性質を同時にバランスよく実現することができる。
【0017】
ここで、本実施形態において、「引張強さ」は、JIS5号準拠の試験片をJIS Z2241に基づいて引張試験を行った場合の引張り強さ(kgf/mm)で評価されるものとする。また、「耐力」は、JIS5号準拠の試験片をJIS Z2241に基づいて引張試験を行った場合の耐力(kgf/mm)で評価されるものとする。もちろん、「引張強さ」および「耐力」の値は大きいほど優れている。
【0018】
また、「耐食性」は、各試料から2.0×4.5cmの試験片を切り出し、浸漬時の温度85±1℃、浸漬時間120時間、比液量3mL/cmに成るように試験溶液(溶媒が3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、濃度が0.75mol/Lのヨウ化リチウム溶液)の量を調整し、50mLの容器の中に試験溶液を満たし、試料を試験溶液内に浸漬させ密栓した場合の、浸漬終了後の外観を目視およびSEMにより観察し、腐食部の大きさ(最大径)で評価されるものとする。もちろん、「耐食性」は腐食部の大きさ(最大径)が小さいほど優れている。
【0019】
一方で、このように互いにトレードオフの関係にある耐食性と機械的性質を同時にバランスよく実現することは、従来のようにアルミニウム合金の単層材やステンレス鋼の単層材を用いた場合には難しかった。
【0020】
これに対して、本実施形態に係る色素増感太陽電池の対極では、電極材用Al合金板が皮材82の存在によって有機溶媒中のヨウ化物イオンに対して高耐食性を示す。その結果、ヨウ化物イオンを含む電解溶液中での電極材の耐食性が向上し、低コストで製品寿命を長い色素増感太陽電池を得ることができる。また、本実施形態に係る色素増感太陽電池の対極では、電極材用Al合金板が芯材80の存在によって優れた引張強さおよび耐力といった機械的性質を示す。そのため、このAl合金板を電極材として用いた色素増感太陽電池は長い製品寿命を維持できるものであり、工業上顕著な効果を奏するものである。
【0021】
<色素増感太陽電池の対極の製造方法>
本実施形態において、上記の対極基板8aを構成するAl合金クラッド材は、図2に示すように、Al合金からなる芯材80の両側または片側の面に皮材82をクラッドした構成である。このAl合金クラッド材の芯材80および皮材82の元になる2種類の異なるAl合金板の製造方法について説明する。まず、原材料としては、後述する成分元素からなる2種類の異なるAl合金鋳塊を、常法にしたがって面削、均質化処理、熱間および冷間圧延、焼鈍を行なって2種類の異なるAlの板に加工したものを用いる。そして、この2種類の異なるAl合金板を、プレス機などを用いて冷間圧延して圧着することによって、芯材80および皮材82とで構成されるAl合金クラッド材が得られる。すなわち、上記の対極基板8aを構成するAl合金クラッド材は、いわゆる圧延クラッド法で製造されることが好ましい。もっとも、上記の対極基板8aを構成するAl合金クラッド材が、爆発圧接(爆着)によって作られることを除外する趣旨ではない。
【0022】
また、このAl合金クラッド材は、芯材の両側の面に皮材を合わせて熱間圧延にてクラッドし、その後冷間圧延を施すことが好ましい。そして、冷間圧延の途中で中間焼鈍を行うことが好ましい。このとき、中間焼鈍の温度は300〜500℃であることが機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。また、この中間焼鈍の温度は、300、350、400、450、500℃に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。また、この中間焼鈍の時間は、30分〜3時間であることが機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。また、この中間焼鈍の時間は、30分、40分、50分、1時間、2時間、3時間に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0023】
また、このAl合金クラッド材は、上記の圧延クラッド法における最終冷間圧延率が10〜50%であることが、機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。この最終冷間圧延率は、10%、20%、30%、40%、50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。そして、このAl合金クラッド材は、上記の皮材82のクラッド率が5%〜15%であることが、機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。この皮材82のクラッド率は、5%、7.5%、10%、12.5%、15%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0024】
なお、上記の対極基板8aを構成するAl合金クラッド材が、図2に示すような3層クラッド材の場合には、Al合金クラッド材の厚さは、機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から15〜300μmとするのが好ましい。また、このAl合金クラッド材の厚さは、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200、250、275、300μmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。もっとも、上記の対極基板8aを構成するAl合金クラッド材は、2層クラッド材であってもよく、この場合のAl合金クラッド材の厚さも上記の3層クラッド材の場合と同様の厚さであることが好ましい。
【0025】
このようにして得られたAl合金クラッド材は、二種類の性質の異なるAl合金を張り合わせた複合材である。そして、このAl合金クラッド材は、二種類の性質の異なるAl合金の境界面が、拡散結合している(合金層を持っている)ため、耐摩耗性、耐化学腐食性に優れ複合材として好適に用いることができる。すなわち、このAl合金クラッド材は、二種類の性質の異なるAl合金の境界面が、原子レベルで圧着しているため、めっきのように剥がれたりしないという利点がある。なお、本実施形態では、めっきはクラッドの概念に含まれないものとする。
【0026】
<色素増感太陽電池の対極を構成する各層の組成>
以下に、本実施形態に係る色素増感太陽電池の対極を構成する材料成分の限定理由について説明する。なお、以下の好適な材料成分の限定条件を満たしている場合には、芯材80の引張強さおよび耐力が、皮材82よりも優れており、皮材82のヨウ化物イオンを含有する有機溶媒電解液中における耐食性が、芯材80よりも優れているという条件も満たされることになる。
【0027】
A.皮材
本実施形態においてクラッド材を形成する場合に、皮材82としては下記の表1に示すJIS1100、IN90等の1000系合金(工業用純アルミニウム)が好適に用いられるが、特に限定されるものではなく、本実施形態の規定の範囲内で種々選択することができる。
【0028】
【表1】

【0029】
Si:上記の皮材82におけるSiの含有率は、0.03〜0.5%(mass%、以下同様)であることが機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。なぜなら、SiはAl合金中において固溶又はAl−Si−Fe系の化合物を形成する可能性がある。そして、ヨウ素含有電解液環境においては、この化合物がヨウ素イオン(I−)による腐食の起点となる場合がある。そのため、Si含有量が0.5%以下で腐食を抑制できるので好ましく、0.03%未満で耐食性は飽和してかえってコストアップの要因になるので好ましくないからである。もっとも、上記の皮材82におけるSiの含有率は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0030】
Fe:上記の皮材82におけるFeの含有率は、0.02〜0.5%であることが機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。なぜなら、FeはAl合金中において固溶又はAl−Fe系の化合物を形成する可能性がある。そして、ヨウ素含有電解液環境においては、Siと同様にこの化合物がヨウ素イオン(I−)による腐食の起点となる場合がある。そのため、Fe含有量が0.5%以下では腐食を抑制できるので好ましく、0.02%未満で耐食性は飽和してコストアップの要因になるので好ましくないからである。もっとも、上記の皮材82におけるFeの含有率は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0031】
Cu:上記の皮材82におけるCuの含有率は、0.01〜0.19%であることが機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。なぜなら、CuはAl合金中において固溶又はAl−Cu系の化合物を形成する可能性がある。そして、ヨウ素含有電解液環境においては、Siと同様にこの化合物がヨウ素イオン(I−)による腐食の起点となる場合がある。そのため、Cu含有量が0.19以下で腐食を抑制できるので好ましく、0.01%未満で耐食性は飽和してコストアップの要因になるので好ましくないからである。もっとも、上記の皮材82におけるCuの含有率は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.15、0.20%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0032】
Mn、Mg、Zn:また、上記の皮材82を構成するAl合金には、機械的強度、耐腐食性および製造コストの面からは、不可避的不純物として、Mn、Mg、Znが個々の成分含有量として0.10%未満であれば含まれていてもよい。もっとも、上記の皮材82におけるMn、Mg、Znの成分含有量は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10%のいずれかの数値未満であってもよい。
【0033】
Al:また、上記の皮材82を構成するAl合金には、Alが99.0%以上含有されていることが機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の皮材82におけるAlの成分含有量は、95.0、96.0、97.0、98.0、99.0、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9%のいずれかの数値以上、またはこれらの2つの数値の範囲内であってもよい。また、上記の皮材82を構成するAl合金には、残部としてその他の不可避的不純物が含まれていても良い。
【0034】
B.芯材
本実施形態においてクラッド材を形成する場合に、芯材80としては下記の表2に示すJIS5182等の5000系合金(Al−Mg系合金)が好適に用いられるが、特に限定されるものではなく、本実施形態の規定の範囲内で種々選択することができる。
【0035】
【表2】

【0036】
Si:上記の芯材80におけるSiの含有率は、0.1〜1.0%(mass%、以下同様)であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるSiの含有率は、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、1.00%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0037】
Fe:上記の芯材80におけるFeの含有率は、0.1〜1.0%であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるFeの含有率は、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、1.00%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0038】
Cu:上記の芯材80におけるCuの含有率は、0.05〜0.5%であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の皮材82におけるCuの含有率は、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0039】
Mn:上記の芯材80におけるMnの含有率は、0.01〜1.0%であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるMnの含有率は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、1.00%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0040】
Mg:上記の芯材80におけるMgの含有率は、0.5〜5.0%であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるMgの含有率は、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90、1.00、2.00、3.00、4.00、5.00%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0041】
Cr:上記の芯材80におけるCrの含有率は、0.05〜0.5%であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるCrの含有率は、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0042】
Zn:上記の芯材80におけるZnの含有率は、0.1〜0.5%であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるZnの含有率は、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0043】
Ti:上記の芯材80におけるTiの含有率は、0.05〜0.5%であることが機械的強度および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるZnの含有率は、0.10、0.20、0.30、0.40、0.50%に含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
【0044】
Al:また、上記の芯材80を構成するAl合金には、Alが90.0%以上含有されていることが機械的強度、耐腐食性および製造コストの面から好ましい。もっとも、上記の芯材80におけるAlの成分含有量は、90.0、91.0、92.0、93.0、94.0、95.0、96.0、97.0、98.0、99.0、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9%のいずれかの数値以上、またはこれらの2つの数値の範囲内であってもよい。また、上記の芯材80を構成するAl合金には、残部としてその他の不可避的不純物が含まれていても良い。
【0045】
C.触媒層
本実施形態において触媒層を形成する場合に、三ヨウ化物イオンの還元能が高い白金あるいはカーボンが好適に用いられるが、特に限定されるものではなく、本発明の規定の範囲内で種々選択することができる。
【0046】
具体的には、上記の芯材80および皮材82とで構成されるAl合金クラッド材を備える基板上に、対極触媒8bを構成する触媒層として白金を蒸着することができる。この場合、白金の蒸着膜の厚みは5nm〜300nmであることが好ましい。また、白金の蒸着膜の厚みは、5、50、100、150、200、250、300nmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。あるいは、オイルファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックを、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などの適当なバインダをとともにn−メチルピロリドン等の適当な有機溶媒に溶解したペーストを、アプリケーターなどにより塗工して、対極触媒8bを構成する触媒層としてもよい。あるいは、前記有機溶媒の代わりに水を、バインダにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いてペーストを調製してもよい。この場合、カーボン層の厚みは5nm〜500nmであることが好ましい。また、カーボン層の厚みは、5、50、100、150、200、250、300,400,500nmに含まれる任意の2つの数値の範囲内であってもよい。
塩化白金水溶液を滴下して作製した
【0047】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0048】
例えば、上記実施の形態では、芯材80としては下記の表1に示すJIS5182等の5000系合金(Al−Mg系合金)を用いることとしたが、特に限定する趣旨ではなく、上記の成分組成を満たすのであれば、他の系統のアルミニウム合金を用いてもよい。このようにしても、機械的強度および製造コストの面から好適な芯材80が得られる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
まず、表3に記載の組成を有するAl合金を鋳造してインゴットを製造し、560℃×3時間の均質化処理を施した後、熱間圧延を行い、厚さ20mmの熱延板からなる皮材を作製した。同様に、厚さ160mmのJIS5182合金からなる芯材の熱延板を用意した。
【0051】
次いで、芯材の両側の面に皮材を合わせて熱間圧延にてクラッドし、その後冷間圧延を施した。冷間圧延の途中において400℃で1時間の中間焼鈍を行い、最終冷間圧延率30%とし、0.20mm(200μm)の3層のAl合金クラッド材を作製した。皮材のクラッド率は10%である。
【0052】
なお、芯材の両側の面に皮材をクラッドしたのは、反りなど圧延時の不具合発生を防ぎ作製を容易にするためである。このような配慮が必要ない場合は、片側の面にクラッドするだけでも構わない。
【0053】
以上のようにして作製した基板上に、触媒層として白金を蒸着した。あるいは、アセチレンブラック10に対しポリフッ化ビニリデン(PVDF)を1の比率で混合し、n−メチルピロリドンに溶解したペーストをアプリケーターにより塗工し、触媒層とした。
【0054】
比較例として、上記の実施例の組成とは異なる組成の皮材より製作したクラッド材の内容も表3中に示した。皮材のみ、あるいは芯材のみの材料も示した。
【0055】
さらに、色素増感太陽電池の電解液を模擬した試験溶液として、溶媒が3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、濃度が0.75mol/Lのヨウ化リチウム溶液を使用した。
【0056】
【表3】

【0057】
浸漬試験
各試料から2.0×4.5cmの試験片を切り出した。浸漬時の温度85±1℃、浸漬時間120時間、比液量3mL/cmに成るように試験溶液の量を調整し、50mLの容器の中に試験溶液を満たし、試料を試験溶液内に浸漬させ密栓した。試料は全ての面が溶液に接するように容器の壁面に立てかけるように配置した。浸漬終了後の外観を目視およびSEMにより観察し、腐食部の大きさ(最大径)を調べた。最大径5μm以下を合格とした。結果を表4に示す。
【0058】
触媒の還元能
各試料から1.5×4.0cmの試験片を切り出し、ポリエステルテープとエポキシ樹脂とでマスキングして測定面を1.0×1.0cmとした。温度25±1℃で試験溶液中の自然電位を測定した。一般に自然電位はアノード反応とカソード反応のバランスで決まり、還元能の高い材料はカソード反応が活発で自然電位は貴化しやすい。バルクの白金板の自然電位(ECORRPt)を基準として触媒の還元能を評価し、ECORRPt−100(mV)以上の自然電位を示す材料を○とし、ECORRPt−100(mV)未満を×とした。
【0059】
機械的性質
各材料から、JIS5号準拠の試験片を切り出し、常法により引張試験を実施した。得られた引張強さと耐力とを表4に示す。
【0060】
【表4】

Al電極材の腐食試験結果
【0061】
<結果の考察>
上記の実験結果から、実施例1〜10では、皮材が、Si=0.03〜0.5%、Fe=0.02〜0.5%、Cu=0.01〜0.19%を含有し、Mn,Mg,Znをいずれも0.10%未満含有し、Alを99.0%以上含有し、残部としてその他の不可避的不純物を含んだアルミニウム合金からなり、芯材がJIS5182であるため、これらの芯材および皮材とで構成されるアルミニウム合金クラッド材は、耐食性と機械的性質とにバランスよく優れていた。
【0062】
比較例11〜16では、芯材がJIS5182であるものの、皮材が、Si=0.03〜0.5%、Fe=0.02〜0.5%、Cu=0.01〜0.19%を含有し、Mn,Mg,Znをいずれも0.10%未満含有し、Alを99.0%以上含有し、残部としてその他の不可避的不純物を含んだアルミニウム合金からなるという条件を満たさないため、機械的性質に優れるものの、耐食性に劣っていた。
【0063】
比較例17は、皮材を持たず芯材のみの場合であり、機械的性質に優れるものの耐食性に劣っていた。比較例18は、芯材を持たず皮材のみの場合で、耐食性に優れるものの、機械的性質に劣っていた。比較例19は、触媒層を持たない場合で、自然電位が白金に対し−700mVであり触媒の還元能が劣っていた。
【0064】
すなわち、上記の実験結果から、ヨウ素を含有する有機溶媒電解液中における耐食性が芯材よりも優れている皮材(1000系合金)と、機械的性質が皮材よりも優れている芯材(5000系合金)からなる基板上に、三ヨウ化物イオンを還元する触媒を積層した場合に、耐食性と機械的性質とにバランスよく優れ、触媒の還元能も好適な色素増感太陽電池の対極が得られることが明らかである。
【0065】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0066】
たとえば、上記実施例では、芯材としてJIS5182を用いたが、特に限定する趣旨ではなく、他のJIS5000系のアルミニウム合金としてもよい。この場合にも、同様に耐食性と機械的性質とにバランスよく優れるアルミニウム合金クラッド材が得られることは当業者であれば容易に理解できることである。
【符号の説明】
【0067】
1 透明基板
2 透明導電膜
3a 金属酸化物半導体粒子
3b 光電変換層
3c 負極構造体
4 増感色素
5 電解液
8a 対極基板
8b 対極触媒
9 光
80 芯材
82 皮材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と該基板上に積層されている三ヨウ化物イオンを還元する触媒とを備える色素増感太陽電池の対極であって、
前記基板が、アルミニウム合金からなる芯材と、該芯材に接合しているアルミニウム合金からなる皮材とで構成されるアルミニウム合金クラッド材を備え、
前記芯材の引張強さおよび耐力が、前記皮材よりも優れており、
前記皮材のヨウ化物イオンを含有する有機溶媒電解液中における耐食性が、前記芯材よりも優れている、色素増感太陽電池の対極。
【請求項2】
前記皮材が、Si=0.03〜0.5%(mass%、以下同様)、Fe=0.02〜0.5%、Cu=0.01〜0.19%を含有し、Mn,Mg,Znをいずれも0.10%未満含有し、Alを99.0%以上含有し、残部としてその他の不可避的不純物を含んだアルミニウム合金からなる、請求項1に記載の色素増感太陽電池の対極。
【請求項3】
前記芯材が、Si=0.1〜1.0%、Fe=0.1〜1.0%、Cu=0.05〜0.5%,Mn=0.01〜1.0%、Mg=0.5〜5.0%、Cr=0.05〜0.5%、Zn=0.1〜0.5%、Ti=0.05〜0.5%、残部としてAlおよびその他の不可避的不純物を含有し、該可避的不純物の含有量がいずれも0.05%未満であるアルミニウム合金からなる、請求項1又は2に記載の色素増感太陽電池の対極。
【請求項4】
前記三ヨウ化物イオンを還元する触媒が白金を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の色素増感太陽電池の対極。
【請求項5】
前記三ヨウ化物イオンを還元する触媒がカーボンを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の色素増感太陽電池の対極。
【請求項6】
前記アルミニウム合金クラッド材の板厚が15〜300μmである、請求項1〜5のいずれかに記載の色素増感太陽電池の対極。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−12362(P2013−12362A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143601(P2011−143601)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】