色素増感太陽電池作製用キット
【課題】安価かつ簡便な方法で、安全に高性能な色素増感太陽電池を組み立てることが可能な色素増感太陽電池作製用キットを提供する。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素を含有する電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有し、前記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する色素増感太陽電池作製用キット。
【解決手段】樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素を含有する電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有し、前記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する色素増感太陽電池作製用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価かつ簡便な方法で、安全に高性能な色素増感太陽電池を組み立てることが可能な色素増感太陽電池作製用キットに関する。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、身近な材料である金属酸化物半導体多孔膜を利用した太陽電池であり、シリコン太陽電池に比べて、高価な材料やプロセスを必要とせず、安価な太陽電池を実現できるデバイスとして実用化が期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、通常、透明電極基板に金属酸化物半導体多孔質層を形成し色素を担持させた光電極と、基板に導電層を形成した正電極とを電解質層を介して挟み込んだ構成となっている。
このような色素増感太陽電池の基本原理は、特許文献1に開示されているように、以下の通りである。まず、色素増感太陽電池に光が照射されると、金属酸化物半導体多孔質層表面に吸着された増感色素が光を吸収し、色素分子内の電子が励起され、電子が半導体へ渡される。これにより、光電極側で電子が発生し、この電子が電気回路を通じて、正電極に移動する。そして、正電極に移動した電子は、電解質層を通じて光電極に戻る。このような過程が繰り返されることで、電気エネルギーが生じる。
【0004】
また、色素増感太陽電池は、他の太陽電池と比較して材料が安価であり、作製が容易であることから、学習教材キットとして非常に有用であるという特徴を有している。従って、教育現場において、色素増感型太陽電池の組立キットに対する需要が非常に高まっている。
例えば、特許文献2には、半導体電極と対電極と電解質層とを備えた太陽電池作製キットが開示されている。
一方で、教育現場において、実際に色素増感太陽電池を作製する場合は、可能な限り安全な材料を使用し、かつ、製造工程についても危険を伴わないものとする必要があるが、特許文献2において、半導体層に使用されている酸化チタンは発ガン性が指摘されており、色素増感太陽電池作製キットの材質として安全とはいえなかった。
【0005】
また、特許文献3には、金属酸化物分散液、透明電極基板、ヨウ素系電解液を基本部材とする色素増感型太陽電池作製用キット、及び、この金属酸化物分散液を薄膜化する工程を有する色素増感型太陽電池の製造方法が開示されている。
しかし、このようなキットは主に専門家や教育指導者が対象になっているため、専門家以外の者が、このようなキットを用いて色素増感太陽電池の作製を行った場合、作製される色素増感太陽電池の性能(光電変換効率)が充分でない場合が多くなっていた。特に、児童向けのキットとしては組立の難易度が高く、児童が自分達だけで安全に組み立てられるようなものではなかった。
また、このようなキットでは、通常、セル組立後に電極基板か電解液封止部材に設けられた電解液の注入口から電解液をセル内に注入した後、注入口を粘着材等で封止してセルを完成することが多いが、この電解液注入後に余分な電解液をふき取る必要があることや、注入口部分はセルの取り扱い時に電解液漏れを起こしやすいという問題があった。電解液が漏れると、キットとしての外観を損なうばかりでなく、電解液が使用者の身体に触れる恐れがあり、安全上も問題であった。
加えて、このようなキットでは、組み立てた色素増感太陽電池セルは0.5V程度の電圧しか発生しないため、電子オルゴール等の何らかの実用的なデバイスを動作させるために複数個のセルを並べてクリップ等で直列接続して使用することが多いが、セルの両側にある正負の接続端子を接続すると、接続部分の間隔が大きくなり、フィルム基板の変形等により、接続部分のフィルム電極の接触が不安定になりやすいという問題があった。
更に、このようなキットでは、色素等に安価で安全な材料を使用することが多いため、通常の色素増感太陽電池に較べて性能が低く、屋外の太陽光照射条件(照度50000lx程度)であれば問題ないが、室内では蛍光灯等の補助光照明を当てた条件(照度数1000lx程度)で何らかのデバイスを動作させる程度のものであった。そのため、実際の使用では、セルを広く並べると、補助光を各セルに均一に当てることが難しくなり、全体として特性が低下して、デバイスの動作ができにくいという問題もあった。
このように、従来の色素増感型太陽電池作製用キットでは、安全性、作業の容易性、太陽電池の動作の面で課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特開2004−264750号公報
【特許文献3】特開2006−108080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、動作も容易な色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することを目的とする。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素を含有する電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有し、前記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する色素増感太陽電池作製用キットである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、酸化亜鉛多孔質層が積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素含有電解液とを組み合わせた色素増感太陽電池作製用キットにおいて、増感色素として食用色素を用い、かつ、色素増感太陽電池作製用キットの構成物品である、光電極基板及び正電極基板について、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有するものとすることで、電解液の注入工程及びセルの接続工程を簡便かつ信頼性の高いものにして、電解液漏れを防ぎ、子供でも安全かつ簡便に組み立て可能で高性能な色素増感太陽電池作製用キットが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、光電極基板と、正電極基板と、電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有する。
以下、これらのそれぞれについて説明する。
【0011】
(光電極基板)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板を有する。上記光電極基板を有することで、光照射によって起電力を発生させることが可能となる。
【0012】
本発明では、上記樹脂基板を用いることで、ガラス基板を用いる場合と比較して、得られる色素増感太陽電池を軽量化できるとともに、柔軟で割れにくい構造とすることが可能となり、特に児童用の教材として好適に使用することができる。また、容易に所望の形状に加工することができ、色素増感太陽電池セルの形状の自由度を大幅に向上させることができる。更に、フレキシブル性を向上させることも可能となる。
【0013】
上記樹脂基板としては、入射する光を妨げず、適度の強度を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等の耐熱性を有する透明性樹脂からなるものが挙げられる。
【0014】
上記透明電極としては、例えば、ITO、SnO2、ZnO、GZO、AZO、FTO等からなるものが好ましく、なかでも、抵抗率が小さく安定であり、透明性が高いという性質を有することから、ITOからなるものが好ましい。上記透明電極は、例えば、スパッタリング、CVD等の蒸着、イオンプレーティング等によって形成することができる。なお、上記透明基板と透明電極との間には、ハードコート層を形成してもよい。
【0015】
本発明では、多孔質層を構成する材料として、酸化亜鉛を用いている。
従来使用されている酸化チタン等の材料は、発ガン性等の安全性の面で問題を有していたが、上記酸化亜鉛を用いることで、専門家以外の者、特に児童が使用する場合でも、安全な色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。
【0016】
上記酸化亜鉛多孔質層の膜厚の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。0.5μm未満であると、色素担持量が少なくなるとともに、得られる色素増感太陽電池の光電変換特性も低下することがあり、20μmを超えても、酸化亜鉛多孔質層中の電子の拡散長が限られているために光電変換特性向上に寄与せず、逆に電解質液の酸化亜鉛多孔質層への浸入が困難になることから光電変換特性が低下することがある。
【0017】
(食用色素)
本発明では、増感色素として、食用色素を用いることを特徴とする。
児童等が使用する色素増感太陽電池作製用キットでは、キットの構成部材を誤って口に入れてしまうことも想定されるが、上記食用色素を用いることでこのような事態が発生した場合でも、増感色素による人体への悪影響を防止することができ、安全性の高い色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。
なお、本発明における食用色素とは、毒性が低く、人間が食べた場合でも人体への安全性が確認されている色素のことをいう。また、食用色素には、天然食用色素と合成食用色素とがあるが、合成食用色素とは食品添加物として登録されている食用色素のことをいう。
上記食用色素は、合成食用色素と天然食用色素とに大別することができる。
上記合成食用色素としては、食品添加物として登録されている食用色素が好ましい。具体的には例えば、赤色3号、赤色104号、赤色105号等の食用タール色素等が挙げられる。なお、上記食用色素としては、水溶性のものを用いることが好ましい。
【0018】
本発明では、上記食用色素として、側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素を用いる。上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素は、食用であることに加えて、色素増感太陽電池の増感色素として用いた場合に充分な電池性能を発現する。その結果、作製される色素増感太陽電池は、光電変換効率の高いものとなる。
【0019】
上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素としては、例えば、赤色3号(エリスロシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号(ローズベンガル)が挙げられる。
これらの食用色素は単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
【0020】
上記光電極基板は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により、樹脂基板にITOからなる透明電極を形成した後、上記透明電極上に酸化亜鉛多孔質層を形成する方法等により製造することができる。
【0021】
上記酸化亜鉛多孔質層を形成する方法としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛半導体粒子と有機系バインダーを水やアルコール等の溶媒に分散させた溶液を透明電極上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成する塗布法;亜鉛塩を含む電解質溶液中に透明電極基板を浸漬し、電気化学的に透明電極基板上に酸化亜鉛の膜を形成する電析法等の方法を用いることができる。
【0022】
上記塗布法やゾル−ゲル法において、透明電極上に溶液を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法等が挙げられる。
【0023】
上記電析法は、高温の焼成工程を行うことなく、結晶性の高い酸化亜鉛半導体多孔質層を得ることが可能であることから、本発明のように樹脂基板を使用する場合に好適に行うことができる。具体的には例えば、金属塩を含有する電析浴中にテンプレート色素を混合し、作用極に透明電極基板、対向極に亜鉛等の金属を配置し、酸素をバブリングしながら参照電極に対して定電圧を印加する3電極法による方法等を用いることができる。
【0024】
(正電極基板)
本発明では、上記正電極基板(対向電極)としては、導電性を有しヨウ素を含有する電解液に耐食性のあるものであれば特に限定されず、ITO透明電極フィルムやチタン板等を使用できるが、特に短時間しか使用しないキットの場合には、コストが安く入手の容易なステンレス板やステンレス箔からなる導電層を有するものを用いることができる。
上記正電極基板として、ステンレス箔と樹脂フィルムとを粘着剤を介してラミネートした積層フィルムを用いる場合は、キットの使用者がはさみ等で切り出すことで任意の形状に加工できるとともに、基板端部での切傷の危険性を低減することができる。更に、光電極基板を樹脂フィルムからなるものとした場合、これらを合わせることで、更に柔軟性の高い色素増感太陽電池セルを作製することができる。
これらの基板上に、鉛筆を用いて描画したり、塗りつぶしたりする方法を用いることで、手軽にカーボン系材料が担持された正電極基板とすることができる。他の方法として、カーボン系材料を印刷や塗布により基板表面に製膜することでも正電極基板にすることもできる。
なお、上記ステンレスとは、通常ステンレス鋼として一般に使用されているもの、例えば、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト鋼等が使用でき、特にSUS304や、耐食性のあるSUS316等が好ましく使用される。
【0025】
(接続端子部)
本発明においては、上記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する。また、正極端子及び負極端子が重ならないように接続端子部を形成することが好ましい。具体的には、図7に示すように、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を形成する。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットでは、接続端子部をこのような構造とすることで、基板の貼り合わせ後に電解液を注入するという組み立て従来の方法ではなく、電解液を基板に滴下した後に貼り合わせるという方法による組み立てを容易に行うことができる。
具体的には、接続端子部が上述の構造であることで、光電極基板と正電極基板とを貼り合せる際に基板の位置合わせが容易になり、素早く貼り合せる事ができるので、基板に予め電解液を滴下した場合でも、電解液の液だれを防止することができる。
また、光電極基板と正電極基板とを貼り合せる際に、接続端子部に近い部分から徐々に貼り合せることができるため、万が一電解液がはみ出しても、電解液が接続端子部に触れることがないため、接続端子部が腐食して接続不安定になることを防ぐことができる。
なお、光電極基板に形成した接続端子部は負極端子、正電極基板に形成した接続端子部は正極端子となる。
【0026】
また、接続端子部を上述の構造とすることで、得られた色素増感太陽電池を接続する際にも利点がある。例えば、複数の色素増感太陽電池を並べて隣接する場合に、色素増感太陽電池の正極端子と負極端子を重ねて狭い範囲内で接続できることから、更に容易に色素増感太陽電池を接続することができる。加えて、色素増感太陽電池同士を電気的に安定に接続することができる。
更に、上記光電極基板及び正電極基板を放射状に並べ、中央部で接続端子とすることで、色素増感太陽電池をコンパクトに並べることができるとともに、円形の直列モジュール等の任意形状のモジュールを容易に形成することができる。
【0027】
(注入口)
本発明においては、上記光電極基板、正電極基板及び電解液封止部材が、電解液を注入する孔を有しないことを特徴とする。従来は、電解液の注入口として直径1mm程度の孔を開けて、色素増感太陽電池の組立後に電解液を注入口付近に垂らして、毛管現象で染み込ませることで色素増感太陽電池内に電解液を注入し、接着剤や粘着性両面テープ等で封止を行なっていたが、本発明では、組立時に電解液を色素増感太陽電池内に直接滴下するため、注入口が不要となる。
【0028】
(電解液)
本発明では、ヨウ素を含有する電解液を用いる。このような電解液を用いることで、色素増感太陽電池の効率を高めることができる。更に、ヨウ素は日本に豊富に存在する資源であるため、入手が容易であることも理由の1つである。
なお、ヨウ素を含有する電解液は、ヨウ素イオンによる電子の輸送の面で優れるが、正電極基板を腐食しやすいという欠点も有する。しかしながら、本発明では、正電極基板の導電層をステンレス等の耐食性金属や導電性金属酸化物とすることで、腐食の問題を解決することができる。
【0029】
上記電解液としては、ヨウ素を含有し、かつ、イオンを媒体として電子やホールを輸送できる物質であれば特に限定されず、例えば、ヨウ素及びヨウ化物等の酸化還元物質を有機溶媒に溶解した溶液を用いることができる。
具体的には例えば、上記ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、テトラプロピルアンモニウムヨージド、フェニルトリメチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ヨウ素イオンをアニオンとするイミダゾリウム塩である1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド等が挙げられる。
なかでも、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド等の4級ヨウ化アルキルアンモニウムが好ましい。
【0030】
上記有機溶媒としては、例えば、エタノール等の低級アルコール、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の多価アルコール、ニトリル系のアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルや炭化水素系のプロピレンカーボネート、ジエチルカルボナート、γープチロラクタン、イミダゾリウム塩等のイオン液体が挙げられる。これらの中では、安全なエタノールを用いることが好ましい。
【0031】
上記電解液におけるヨウ素の濃度の好ましい下限は0.02mol/L、好ましい上限は1.0mol/Lである。ヨウ素の濃度を上記範囲内とすることで、仮に、誤飲等がなされても、人体に悪影響がでない範囲とすることができる。
上記ヨウ素の濃度が0.02mol/L未満であると、色素増感太陽電池の変換効率が低下することがあり、1.0mol/Lを超えると、ヨウ素が溶媒に溶解しにくくなったり、正電極基板のステンレスを腐食して、黒点が発生しやすくなったりする。
上記ヨウ素の濃度のより好ましい下限は0.03mol/L、より好ましい上限は0.4mol/Lであり、さらに好ましい上限は0.2mol/Lである。
【0032】
上記ヨウ化物の濃度は、好ましい下限はヨウ素濃度の5倍、好ましい上限はヨウ素濃度の30倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度の好ましい下限は0.1mol/L、好ましい上限は30mol/Lである。さらに好ましい下限はヨウ素濃度の8倍、さらに好ましい上限は15倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度のさらに好ましい濃度は0.16mol/L、さらに好ましい上限は15mol/Lである。ヨウ化物濃度がこの範囲より大きくても小さくても光変換効率が低下することがある。
【0033】
(電解液滴下用器具)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、電解液滴下用器具を有する。
本発明では、上記電解液滴下用器具を有することで、上記電解液滴下用器具を用いて、ヨウ素を含有する電解液を光電極基板又は正電極基板に滴下し、その後、光電極基板と正電極基板とを貼り合せる方法で、色素増感太陽電池を組み立てることが可能となる。
従来は、色素増感太陽電池セルを作製した後に、光電極基板や正電極基板やに設けた孔や電解液封止部材であるシール材の切り抜き部分から電解液を注入する方法が主であったが、本発明では、このよう方法が可能となることにより、電解液の滴下量を決めておけば、電解液がセル外部に漏れることもなく、清潔かつ安全に色素増感太陽電池を作製することができる。更に、電解液封止部材として両面テープを使用する場合には、正電極基板の貼り合わせに失敗してもやり直すことができるので、子供にも取り扱いやすいものとなる。
【0034】
上記電解液滴下用器具としては、上記電解液を正確に滴下できる細口の液採取用具であり、10μL程度の電解液を正確に測りとる精度があり、滴下数を正確に制御できるものか好ましい。具体的には例えば、樹脂製の目盛り入りの細口スポイトやガラス製のマイクロピペット、マイクロシリンジ(注射器)等が挙げられる。
【0035】
(電解液封止部材)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、電解液封止部材を有する。
上記電解液封止部材は、光電極基板と正電極基板を貼り合せてセルを構成し、内部に電解液を保持するためのものである。
上記電解液封止部材としては、各種の接着剤や粘着剤が使用可能である。本来は、電解液と反応せず、電解液の溶媒に対して不活性な材料であり、樹脂基板と密着性が良い部材が好ましいが、短期間の使用であれば通常の樹脂基板用の接着剤や粘着剤が使用できる。
具体的には例えば、アクリル系やシリコーン系やフッ素系の接着剤、粘着剤が好適に使用できる。特に、本発明では、基材の両面に接着剤や粘着剤が塗布された両面テープを用いることが好ましく、なかでも、安価で作業性の良いことから、アクリル系粘着両面テープが好ましい。上記両面テープは任意の形状に打ち抜き加工をすることができるため、花びら型等の任意のセル形状に対応して電解液封止部材を形成することができる。また、粘着剤や接着剤を使用する場合は、印刷や塗布によって、所定形状のパターンとすることも可能である。更に、上記両面テープは、正電極基板の貼り合わせに失敗してもやり直すことができるので、子供にも取り扱いやすいものとなる。
【0036】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、更に正電極基板用のカーボン系材料を有することが好ましい。上記カーボン系材料は、正電極基板に担持させることで触媒層としての役割を有するものである。上記カーボン系材料としては、例えば、グラファイト等を用いることができる。上記グラファイトは、例えば、各種の鉛筆を用いて描画するなどして容易に正電極基板に塗布することができる。
【0037】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットでは、その他の部材として、色素増感太陽電池セル同士を電気的に接続する電極挟み用のクリップ、電子メロディー等を組み合わせてキットとしてもよい。
【0038】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池を作製する方法としては、例えば、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板の酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、ステンレスからなる導電層を有する正電極基板のカーボン系材料を担持する工程、前記正電極基板に電解液封止部材を添付する工程、電解液滴下用器具を用いてヨウ素を含有する電解液を前記光電極基板に滴下する工程、及び、前記光電極基板と、前記正電極基板と貼り合わせる工程を行う方法が挙げられる。
このような色素増感太陽電池の製造方法もまた本発明の1つである。
【0039】
本発明の色素増感太陽電池の製造方法について図面(図1〜7)を用いて説明する。
まず、図1に示すように、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層2がこの順で積層され、接続端子部8が形成された光電極基板1の酸化亜鉛多孔質層2に食用色素を担持させる。
上記食用色素を担持させる方法としては、例えば、上記食用色素を含有する溶液に、上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板1を浸漬した後、乾燥を行う方法等が挙げられる。
【0040】
上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板1を浸漬する際の浸漬時間の好ましい下限は5分、好ましい上限は2時間である。5分未満であると、色素溶液が酸化亜鉛多孔質層2の内部まで充分に浸透しないことがあり、2時間を超えると、酸化亜鉛多孔質層2への食用色素の吸着量が多くなりすぎ、食用色素の積層吸着が発生し、酸化亜鉛多孔質層2への電子の流れを阻害してセル特性の低下や劣化を招いたりすることがある。
【0041】
上記食用色素を含有する溶液に用いる溶媒としては、安全かつ低粘度で食用色素を溶解することができ、基板フィルムを劣化させないものであれば特に限定されず、例えば、水、エタノール等のアルコール類等が挙げられる。本発明においては、水道水で溶解させることも考えられるため、水が好ましい。
【0042】
上記食用色素を含有する溶液における食用色素の含有量は、0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。上記含有量が0.01重量%未満であると、酸化亜鉛多孔質層への食用色素の吸着が不充分となることがあり、10重量%を超えて添加しても食用色素の吸着量は飽和して余分な食用色素が発生する。
【0043】
本発明において食用色素を担持させる方法としては、図1に示すように、上記食用色素を含有する溶液を、シャーレ等のガラス容器に入れる方法のほか、色素増感太陽電池作製用キットを包装するためのポリ袋に、上記食用色素を含有する溶液を入れて食用色素を担持させてもよい。
このような方法を用いることで、シャーレ等のガラス容器が不要となるほか、上記食用色素を含有する溶液の量を減らすことも可能となるため、大幅にコストダウンを図ることができる。
【0044】
次に、図2及び図3に示すように、ステンレスからなり、接続端子部7が形成された正電極基板3(図2)に、鉛筆等を用いてグラファイト4を担持させる(図3)。本発明では、鉛筆等を用いて容易にグラファイト4を正電極基板3に担持することができる。グラファイト4は、触媒層としての役割を有する。
鉛筆を用いてグラファイト4を担持させる場合、上記鉛筆の硬度については特に限定されないが、HB以下の硬度であることが好ましく、2B以下の鉛筆を用いることがより好ましい。
【0045】
次いで、図4に示すように、正電極基板3に両面テープ5を貼り合せる。
そして、図5に示すように、光電極基板1の酸化亜鉛多孔質層2(色素の吸着した部分)に細口スポイト6等を用いてヨウ素電解質液を滴下する。
【0046】
ヨウ素電解質液を滴下する方法としては特に限定されないが、細口スポイト等を用いて2〜3滴程度滴下することが好ましい。
上記ヨウ素電解質液を滴下する際の滴下量は、1cm2あたり0.5〜50μLが好ましく、さらに好ましくは1cm2あたり1〜20μLである。
上記滴下量が0.5μL未満であると、作製される色素増感太陽電池セル中に電解液が満たされず、発電能力が低下することがある。50μLを超えると、電解液が色素増感太陽電池セル外に漏れ出すことがある。
【0047】
その後、図6及び図7に示すように、光電極基板1と、正電極基板3と貼り合わせる(図6)ことで、正極端子17及び負極端子18を有する色素増感太陽電池セル10を作製する(図7)。
本発明の方法では、光電極基板1にヨウ素電解質液を滴下した後に、光電極基板1を正電極基板3に貼り付けて色素増感太陽電池セルを作製する。逆に、ヨウ素電解液を正電極基板3に滴下して、その上に光電極基板1を貼り付けてもよい。
このような方法では、ヨウ素電解質液の滴下量を予め決定しておくことで、ヨウ素電解質液がセル外部に漏れる不具合を防止して、安全かつ清潔にセルを作製することができる。
【0048】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットによれば、安全にかつ簡便に色素増感太陽電池を組み立てることができ、その組立作業の体験を通して、楽しみながら学習することができる。また、本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、学生の学習教材として使うこともできるし、DIYセットとして使うこともできる。
また、組立後に得られる色素増感太陽電池は、屋外の太陽光下(照度50000lx程度)でなく、屋内の補助光環境(照度1000lx程度)でも電子オルゴール等を動作させることができ、屋内でも充分に太陽電池として使用することができる。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池もまた本発明の1つである。
【0049】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて得られる色素増感太陽電池(色素増感太陽電池セル)の一例を図8に示す。
図8に示すように、花びら形状の色素増感太陽電池セル20は、食用色素が担持された酸化亜鉛多孔質層24、正電極用端子(正極端子)27、光電極用端子(負極端子)28を有し、電解液封止部材で封止された部分に電解液が封入されている。また、各端子を介して複数の色素増感太陽電池セル20を接続し、モジュールとすることで、例えば、花形の色素増感太陽電池モジュールとすることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、安価かつ簡便な方法で、安全に高性能な色素増感太陽電池を組み立てることが可能な色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図2】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図3】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図4】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図5】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図6】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図7】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図8】本発明の色素増感太陽電池の一例を示す模式図である。
【図9】比較例1で得られた色素増感太陽電池を示す模式図である。
【図10】比較例2で得られた色素増感太陽電池を示す模式図である。
【図11】比較例3で得られた色素増感太陽電池を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定さない。
【0053】
(実施例1)
(1)光電極基板の作製
PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み188μm)に、UV硬化アクリル樹脂のハードコートを施した後、透明電極としてITO膜を、スパッタリング法を用いて成膜した。
なお、ITO膜はDCスパッタリング法により形成し、アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で20分成膜した。得られたITO膜の表面抵抗は24Ω/□であった。
【0054】
次いで、酸化亜鉛微粒子(テイカ社製MZ−500)3.0gに対して、溶媒(テルピネオール)7.0gとバインダー(エチルセルロース)0.1gを添加し、混合分散してペーストを作製した。その後、得られたペーストを16×29mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥することにより、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図1に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有する光電極基板を外形20×40mmに打ち抜いた。
【0055】
(2)正電極基板の作製
ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、図2に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有する正電極基板を外形20×40mmに打ち抜いた。
なお、光電極基板及び正電極基板の接続端子部は、図6に示すように、正極端子及び負極端子が同一の側面となり、かつ、両者が重ならないような位置に接続端子部を有する構造とした。
【0056】
(3)両面テープシールの作製
両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、トムソン刃金型で外側20×33mmで内側16×29mmの矩形枠状に両面テープのみをハーフカットした。
【0057】
(4)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板、正電極基板、ヨウ素電解質液(ヨウ素濃度0.05mol/L、テトラブチルアンモニウムヨージド[TBAI]0.5mol/L、プロピレンカーボネート[PC]溶媒)、食用赤色3号色素(エリスロシン)、両面テープシール(日東電工社製、5605)、クリップ、包装用ポリ袋、及び、外箱を組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0058】
(5)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、電解液滴下用具として、10μLを計量できるマイクロピペットを用いて、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解質液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0059】
(評価)
(a)光電変換特性
実施例及び比較例で得られた矩形状の色素増感太陽電池セルについて、光源強度が1SUN(100mW/cm2)であるソーラーシミュレータを用い、光電変換効率(η)を測定した。その結果、変換効率は0.06%であった。
【0060】
(b)電子オルゴールの動作
得られた矩形状の色素増感太陽電池セル4個を放射状に並べて、接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。
その結果、セル表面の照度が500lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
【0061】
(実施例2)
(1)光電極基板の作製
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×29mmの花びらパターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図8に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの花びら形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
【0062】
(2)正電極基板の作製
ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、図8に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの花びら形状に打ち抜いた。
【0063】
(3)両面テープシールの作製
両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、トムソン刃金型で外側20×33mmで内側16×29mmの花びら輪郭枠形状に両面テープのみをハーフカットした。
【0064】
(4)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板、正電極基板、ヨウ素電解質液(ヨウ素濃度0.05mol/L、テトラブチルアンモニウムヨージド[TBAI]0.5mol/L、プロピレンカーボネート[PC]溶媒)、食用赤色3号色素(エリスロシン)、両面テープシール(日東電工社製、5605)、クリップ、包装用ポリ袋、及び、外箱を組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0065】
(5)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、電解液滴下用具として、10μLを計量できるマイクロピペットを用いて、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解質液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0066】
(評価)
(a)光電変換特性
実施例1の場合と同様に、変換効率を測定したところ、変換効率は0.04%であった。
【0067】
(b)電子オルゴールの動作
得られた花びら型色素増感太陽電池セル4個を放射状に並べて、接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。
その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
【0068】
(比較例1)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×29mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図9に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの矩形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
次に、ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、正電極基板を、図9に示すように片側に長さ7mmの接続端子部を有する20×40mmの矩形状に打ち抜いた。更に、正電極基板にφ1mmの孔を2個注入口として形成した。
得られた光電極基板と正電極基板を用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0069】
(2)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付け、光電極基板を貼り合せて空セルを作製した。その後、セルを逆さまにして、正電極基板の外側の注入口部分に、ヨウ素電解質液を電解液滴下用具を用いずに電解液の容器から直接に数滴滴下し、毛細管現象で内部にヨウ素電解質液を注入した。その後、余分のヨウ素電解質液をふき取り、両面テープシールを注入口に貼って、色素増感太陽電池セルを作製した。
図9に示すように、比較例1で得られた色素増感太陽電池セル30は、正電極用端子(正極端子)37、光電極用端子(負極端子)38を有し、正極端子37及び負極端子38は、色素増感太陽電池セル30の対向する側面に形成されている。
【0070】
比較例1で得られた色素増感太陽電池セルについて、実施例1と同様にして、変換効率を測定したところ、実施例1と同程度の変換効率0.06%を示した。得られた色素増感太陽電池セル4個を直線状に並べて接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
但し、直線状に並んだ4個のセルに補助光を均一に照射することが難しいため、実施例1に較べると照度を大きくしないと電子オルゴールが鳴りにくい結果であった。
また、正電極基板に設けた注入口付近にヨウ素電解質液をふき取ったあとが残り、外観上汚れた色素増感太陽電池セルとなった。
また、得られた色素増感太陽電池セルを手で押さえると注入口付近から電解液が漏れ出すため、色素増感太陽電池セルの安全性の面でも問題があった。
【0071】
(比較例2)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×26mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図10に示すように、両端に長さ5mmの接続端子部を有する外形20×40mmの矩形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
次に、ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、正電極基板を図10に示すように両端に長さ5mmの接続端子部を有するように、30×30mmの正方形状に打ち抜いた。
次に、両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、トムソン刃金型で外側20×30mmで内側16×26mmの矩形状で、中央部の両側に幅2mmの注入口を設けた形に両面テープのみをハーフカットした。
得られた光電極基板と正電極基板と両面テープを用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0072】
(2)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付け、光電極基板を貼り合せて空セルを作製した。その後、セルを逆さまにして、光電極基板の片側側面の注入口部分に、ヨウ素電解質液を電解液滴下用具を用いずに電解液の容器から直接に数滴滴下し、毛細管現象で内部にヨウ素電解質液を注入した。その後、余分のヨウ素電解質液をふき取り、両面テープシールを両側側面の注入口に貼って、色素増感太陽電池セルを作製した。
図10に示すように、比較例2で得られた色素増感太陽電池セル40は、正電極用端子(正極端子)47、光電極用端子(負極端子)48を有し、正極端子47及び負極端子48は、色素増感太陽電池セル40の直交する側面に形成されている。
【0073】
比較例2で得られた色素増感太陽電池セルについて、実施例1と同様にして、変換効率を測定したところ、実施例1と同程度の変換効率0.05%を示した。得られた色素増感太陽電池セル4個を直線状に並べて接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
但し、直線状に並んだ4個のセルに補助光を均一に照射することが難しいため、実施例1に較べると照度を大きくしないと電子オルゴールが鳴りにくい結果であった。
また、正電極基板に設けた注入口付近にヨウ素電解質液をふき取ったあとが残り、外観上汚れた色素増感太陽電池セルとなった。
また、得られた色素増感太陽電池セルを手で押さえると注入口付近から電解液が漏れ出すため、色素増感太陽電池セルの安全性の面でも問題があった。
【0074】
(比較例3)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×29mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図11に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの矩形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
次に、ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、正電極基板を、図11に示すように片側に長さ7mmの接続端子部を有する20×40mmの矩形状に打ち抜いた。但し、正電極基板には特に注入口用の孔を形成しなかった。
得られた光電極基板と正電極基板を用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0075】
(2)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて実施例1と同様に色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、電解液滴下用具として、10μLを計量できるマイクロピペットを用いて、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解質液を所定量滴下した後に、光電極基板を逆さまにして、正電極基板に片側から順に貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
図11に示すように、比較例3で得られた色素増感太陽電池セル50は、正電極用端子(正極端子)57、光電極用端子(負極端子)58を有し、正極端子57及び負極端子58は、色素増感太陽電池セル50の対向する側面に形成されている。
このセルを組み立てる際に、電解液の滴下量が多過ぎたためセルからはみ出し、はみ出した電解液が接続端子部に付着して接続端子部の汚染を生じた。このため、得られた色素増感太陽電池セルの接続端子部は電気的に接続不安定になった。
【0076】
比較例3で得られた色素増感太陽電池セルについて、実施例1と同様にして、変換効率を測定したところ、実施例1と同程度の変換効率0.06%を示した。得られた色素増感太陽電池セル4個を直線状に並べて接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
但し、直線状に並んだ4個のセルに補助光を均一に照射することが難しいため、実施例1に較べると照度を大きくしないと電子オルゴールが鳴りにくい結果であった。
また、得られた色素増感太陽電池セルの接続端子部は電気的に接続不安定であり、その後の変換効率測定やモジュール動作が不安定になってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、簡便な方法で、安全に高性能な色素増感太陽電池を組み立てることが可能な色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価かつ簡便な方法で、安全に高性能な色素増感太陽電池を組み立てることが可能な色素増感太陽電池作製用キットに関する。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、身近な材料である金属酸化物半導体多孔膜を利用した太陽電池であり、シリコン太陽電池に比べて、高価な材料やプロセスを必要とせず、安価な太陽電池を実現できるデバイスとして実用化が期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、通常、透明電極基板に金属酸化物半導体多孔質層を形成し色素を担持させた光電極と、基板に導電層を形成した正電極とを電解質層を介して挟み込んだ構成となっている。
このような色素増感太陽電池の基本原理は、特許文献1に開示されているように、以下の通りである。まず、色素増感太陽電池に光が照射されると、金属酸化物半導体多孔質層表面に吸着された増感色素が光を吸収し、色素分子内の電子が励起され、電子が半導体へ渡される。これにより、光電極側で電子が発生し、この電子が電気回路を通じて、正電極に移動する。そして、正電極に移動した電子は、電解質層を通じて光電極に戻る。このような過程が繰り返されることで、電気エネルギーが生じる。
【0004】
また、色素増感太陽電池は、他の太陽電池と比較して材料が安価であり、作製が容易であることから、学習教材キットとして非常に有用であるという特徴を有している。従って、教育現場において、色素増感型太陽電池の組立キットに対する需要が非常に高まっている。
例えば、特許文献2には、半導体電極と対電極と電解質層とを備えた太陽電池作製キットが開示されている。
一方で、教育現場において、実際に色素増感太陽電池を作製する場合は、可能な限り安全な材料を使用し、かつ、製造工程についても危険を伴わないものとする必要があるが、特許文献2において、半導体層に使用されている酸化チタンは発ガン性が指摘されており、色素増感太陽電池作製キットの材質として安全とはいえなかった。
【0005】
また、特許文献3には、金属酸化物分散液、透明電極基板、ヨウ素系電解液を基本部材とする色素増感型太陽電池作製用キット、及び、この金属酸化物分散液を薄膜化する工程を有する色素増感型太陽電池の製造方法が開示されている。
しかし、このようなキットは主に専門家や教育指導者が対象になっているため、専門家以外の者が、このようなキットを用いて色素増感太陽電池の作製を行った場合、作製される色素増感太陽電池の性能(光電変換効率)が充分でない場合が多くなっていた。特に、児童向けのキットとしては組立の難易度が高く、児童が自分達だけで安全に組み立てられるようなものではなかった。
また、このようなキットでは、通常、セル組立後に電極基板か電解液封止部材に設けられた電解液の注入口から電解液をセル内に注入した後、注入口を粘着材等で封止してセルを完成することが多いが、この電解液注入後に余分な電解液をふき取る必要があることや、注入口部分はセルの取り扱い時に電解液漏れを起こしやすいという問題があった。電解液が漏れると、キットとしての外観を損なうばかりでなく、電解液が使用者の身体に触れる恐れがあり、安全上も問題であった。
加えて、このようなキットでは、組み立てた色素増感太陽電池セルは0.5V程度の電圧しか発生しないため、電子オルゴール等の何らかの実用的なデバイスを動作させるために複数個のセルを並べてクリップ等で直列接続して使用することが多いが、セルの両側にある正負の接続端子を接続すると、接続部分の間隔が大きくなり、フィルム基板の変形等により、接続部分のフィルム電極の接触が不安定になりやすいという問題があった。
更に、このようなキットでは、色素等に安価で安全な材料を使用することが多いため、通常の色素増感太陽電池に較べて性能が低く、屋外の太陽光照射条件(照度50000lx程度)であれば問題ないが、室内では蛍光灯等の補助光照明を当てた条件(照度数1000lx程度)で何らかのデバイスを動作させる程度のものであった。そのため、実際の使用では、セルを広く並べると、補助光を各セルに均一に当てることが難しくなり、全体として特性が低下して、デバイスの動作ができにくいという問題もあった。
このように、従来の色素増感型太陽電池作製用キットでは、安全性、作業の容易性、太陽電池の動作の面で課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特開2004−264750号公報
【特許文献3】特開2006−108080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、動作も容易な色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することを目的とする。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素を含有する電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有し、前記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する色素増感太陽電池作製用キットである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、酸化亜鉛多孔質層が積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素含有電解液とを組み合わせた色素増感太陽電池作製用キットにおいて、増感色素として食用色素を用い、かつ、色素増感太陽電池作製用キットの構成物品である、光電極基板及び正電極基板について、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有するものとすることで、電解液の注入工程及びセルの接続工程を簡便かつ信頼性の高いものにして、電解液漏れを防ぎ、子供でも安全かつ簡便に組み立て可能で高性能な色素増感太陽電池作製用キットが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、光電極基板と、正電極基板と、電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有する。
以下、これらのそれぞれについて説明する。
【0011】
(光電極基板)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板を有する。上記光電極基板を有することで、光照射によって起電力を発生させることが可能となる。
【0012】
本発明では、上記樹脂基板を用いることで、ガラス基板を用いる場合と比較して、得られる色素増感太陽電池を軽量化できるとともに、柔軟で割れにくい構造とすることが可能となり、特に児童用の教材として好適に使用することができる。また、容易に所望の形状に加工することができ、色素増感太陽電池セルの形状の自由度を大幅に向上させることができる。更に、フレキシブル性を向上させることも可能となる。
【0013】
上記樹脂基板としては、入射する光を妨げず、適度の強度を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等の耐熱性を有する透明性樹脂からなるものが挙げられる。
【0014】
上記透明電極としては、例えば、ITO、SnO2、ZnO、GZO、AZO、FTO等からなるものが好ましく、なかでも、抵抗率が小さく安定であり、透明性が高いという性質を有することから、ITOからなるものが好ましい。上記透明電極は、例えば、スパッタリング、CVD等の蒸着、イオンプレーティング等によって形成することができる。なお、上記透明基板と透明電極との間には、ハードコート層を形成してもよい。
【0015】
本発明では、多孔質層を構成する材料として、酸化亜鉛を用いている。
従来使用されている酸化チタン等の材料は、発ガン性等の安全性の面で問題を有していたが、上記酸化亜鉛を用いることで、専門家以外の者、特に児童が使用する場合でも、安全な色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。
【0016】
上記酸化亜鉛多孔質層の膜厚の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。0.5μm未満であると、色素担持量が少なくなるとともに、得られる色素増感太陽電池の光電変換特性も低下することがあり、20μmを超えても、酸化亜鉛多孔質層中の電子の拡散長が限られているために光電変換特性向上に寄与せず、逆に電解質液の酸化亜鉛多孔質層への浸入が困難になることから光電変換特性が低下することがある。
【0017】
(食用色素)
本発明では、増感色素として、食用色素を用いることを特徴とする。
児童等が使用する色素増感太陽電池作製用キットでは、キットの構成部材を誤って口に入れてしまうことも想定されるが、上記食用色素を用いることでこのような事態が発生した場合でも、増感色素による人体への悪影響を防止することができ、安全性の高い色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。
なお、本発明における食用色素とは、毒性が低く、人間が食べた場合でも人体への安全性が確認されている色素のことをいう。また、食用色素には、天然食用色素と合成食用色素とがあるが、合成食用色素とは食品添加物として登録されている食用色素のことをいう。
上記食用色素は、合成食用色素と天然食用色素とに大別することができる。
上記合成食用色素としては、食品添加物として登録されている食用色素が好ましい。具体的には例えば、赤色3号、赤色104号、赤色105号等の食用タール色素等が挙げられる。なお、上記食用色素としては、水溶性のものを用いることが好ましい。
【0018】
本発明では、上記食用色素として、側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素を用いる。上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素は、食用であることに加えて、色素増感太陽電池の増感色素として用いた場合に充分な電池性能を発現する。その結果、作製される色素増感太陽電池は、光電変換効率の高いものとなる。
【0019】
上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素としては、例えば、赤色3号(エリスロシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号(ローズベンガル)が挙げられる。
これらの食用色素は単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
【0020】
上記光電極基板は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により、樹脂基板にITOからなる透明電極を形成した後、上記透明電極上に酸化亜鉛多孔質層を形成する方法等により製造することができる。
【0021】
上記酸化亜鉛多孔質層を形成する方法としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛半導体粒子と有機系バインダーを水やアルコール等の溶媒に分散させた溶液を透明電極上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成する塗布法;亜鉛塩を含む電解質溶液中に透明電極基板を浸漬し、電気化学的に透明電極基板上に酸化亜鉛の膜を形成する電析法等の方法を用いることができる。
【0022】
上記塗布法やゾル−ゲル法において、透明電極上に溶液を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法等が挙げられる。
【0023】
上記電析法は、高温の焼成工程を行うことなく、結晶性の高い酸化亜鉛半導体多孔質層を得ることが可能であることから、本発明のように樹脂基板を使用する場合に好適に行うことができる。具体的には例えば、金属塩を含有する電析浴中にテンプレート色素を混合し、作用極に透明電極基板、対向極に亜鉛等の金属を配置し、酸素をバブリングしながら参照電極に対して定電圧を印加する3電極法による方法等を用いることができる。
【0024】
(正電極基板)
本発明では、上記正電極基板(対向電極)としては、導電性を有しヨウ素を含有する電解液に耐食性のあるものであれば特に限定されず、ITO透明電極フィルムやチタン板等を使用できるが、特に短時間しか使用しないキットの場合には、コストが安く入手の容易なステンレス板やステンレス箔からなる導電層を有するものを用いることができる。
上記正電極基板として、ステンレス箔と樹脂フィルムとを粘着剤を介してラミネートした積層フィルムを用いる場合は、キットの使用者がはさみ等で切り出すことで任意の形状に加工できるとともに、基板端部での切傷の危険性を低減することができる。更に、光電極基板を樹脂フィルムからなるものとした場合、これらを合わせることで、更に柔軟性の高い色素増感太陽電池セルを作製することができる。
これらの基板上に、鉛筆を用いて描画したり、塗りつぶしたりする方法を用いることで、手軽にカーボン系材料が担持された正電極基板とすることができる。他の方法として、カーボン系材料を印刷や塗布により基板表面に製膜することでも正電極基板にすることもできる。
なお、上記ステンレスとは、通常ステンレス鋼として一般に使用されているもの、例えば、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト鋼等が使用でき、特にSUS304や、耐食性のあるSUS316等が好ましく使用される。
【0025】
(接続端子部)
本発明においては、上記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する。また、正極端子及び負極端子が重ならないように接続端子部を形成することが好ましい。具体的には、図7に示すように、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を形成する。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットでは、接続端子部をこのような構造とすることで、基板の貼り合わせ後に電解液を注入するという組み立て従来の方法ではなく、電解液を基板に滴下した後に貼り合わせるという方法による組み立てを容易に行うことができる。
具体的には、接続端子部が上述の構造であることで、光電極基板と正電極基板とを貼り合せる際に基板の位置合わせが容易になり、素早く貼り合せる事ができるので、基板に予め電解液を滴下した場合でも、電解液の液だれを防止することができる。
また、光電極基板と正電極基板とを貼り合せる際に、接続端子部に近い部分から徐々に貼り合せることができるため、万が一電解液がはみ出しても、電解液が接続端子部に触れることがないため、接続端子部が腐食して接続不安定になることを防ぐことができる。
なお、光電極基板に形成した接続端子部は負極端子、正電極基板に形成した接続端子部は正極端子となる。
【0026】
また、接続端子部を上述の構造とすることで、得られた色素増感太陽電池を接続する際にも利点がある。例えば、複数の色素増感太陽電池を並べて隣接する場合に、色素増感太陽電池の正極端子と負極端子を重ねて狭い範囲内で接続できることから、更に容易に色素増感太陽電池を接続することができる。加えて、色素増感太陽電池同士を電気的に安定に接続することができる。
更に、上記光電極基板及び正電極基板を放射状に並べ、中央部で接続端子とすることで、色素増感太陽電池をコンパクトに並べることができるとともに、円形の直列モジュール等の任意形状のモジュールを容易に形成することができる。
【0027】
(注入口)
本発明においては、上記光電極基板、正電極基板及び電解液封止部材が、電解液を注入する孔を有しないことを特徴とする。従来は、電解液の注入口として直径1mm程度の孔を開けて、色素増感太陽電池の組立後に電解液を注入口付近に垂らして、毛管現象で染み込ませることで色素増感太陽電池内に電解液を注入し、接着剤や粘着性両面テープ等で封止を行なっていたが、本発明では、組立時に電解液を色素増感太陽電池内に直接滴下するため、注入口が不要となる。
【0028】
(電解液)
本発明では、ヨウ素を含有する電解液を用いる。このような電解液を用いることで、色素増感太陽電池の効率を高めることができる。更に、ヨウ素は日本に豊富に存在する資源であるため、入手が容易であることも理由の1つである。
なお、ヨウ素を含有する電解液は、ヨウ素イオンによる電子の輸送の面で優れるが、正電極基板を腐食しやすいという欠点も有する。しかしながら、本発明では、正電極基板の導電層をステンレス等の耐食性金属や導電性金属酸化物とすることで、腐食の問題を解決することができる。
【0029】
上記電解液としては、ヨウ素を含有し、かつ、イオンを媒体として電子やホールを輸送できる物質であれば特に限定されず、例えば、ヨウ素及びヨウ化物等の酸化還元物質を有機溶媒に溶解した溶液を用いることができる。
具体的には例えば、上記ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、テトラプロピルアンモニウムヨージド、フェニルトリメチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ヨウ素イオンをアニオンとするイミダゾリウム塩である1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド等が挙げられる。
なかでも、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド等の4級ヨウ化アルキルアンモニウムが好ましい。
【0030】
上記有機溶媒としては、例えば、エタノール等の低級アルコール、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の多価アルコール、ニトリル系のアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルや炭化水素系のプロピレンカーボネート、ジエチルカルボナート、γープチロラクタン、イミダゾリウム塩等のイオン液体が挙げられる。これらの中では、安全なエタノールを用いることが好ましい。
【0031】
上記電解液におけるヨウ素の濃度の好ましい下限は0.02mol/L、好ましい上限は1.0mol/Lである。ヨウ素の濃度を上記範囲内とすることで、仮に、誤飲等がなされても、人体に悪影響がでない範囲とすることができる。
上記ヨウ素の濃度が0.02mol/L未満であると、色素増感太陽電池の変換効率が低下することがあり、1.0mol/Lを超えると、ヨウ素が溶媒に溶解しにくくなったり、正電極基板のステンレスを腐食して、黒点が発生しやすくなったりする。
上記ヨウ素の濃度のより好ましい下限は0.03mol/L、より好ましい上限は0.4mol/Lであり、さらに好ましい上限は0.2mol/Lである。
【0032】
上記ヨウ化物の濃度は、好ましい下限はヨウ素濃度の5倍、好ましい上限はヨウ素濃度の30倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度の好ましい下限は0.1mol/L、好ましい上限は30mol/Lである。さらに好ましい下限はヨウ素濃度の8倍、さらに好ましい上限は15倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度のさらに好ましい濃度は0.16mol/L、さらに好ましい上限は15mol/Lである。ヨウ化物濃度がこの範囲より大きくても小さくても光変換効率が低下することがある。
【0033】
(電解液滴下用器具)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、電解液滴下用器具を有する。
本発明では、上記電解液滴下用器具を有することで、上記電解液滴下用器具を用いて、ヨウ素を含有する電解液を光電極基板又は正電極基板に滴下し、その後、光電極基板と正電極基板とを貼り合せる方法で、色素増感太陽電池を組み立てることが可能となる。
従来は、色素増感太陽電池セルを作製した後に、光電極基板や正電極基板やに設けた孔や電解液封止部材であるシール材の切り抜き部分から電解液を注入する方法が主であったが、本発明では、このよう方法が可能となることにより、電解液の滴下量を決めておけば、電解液がセル外部に漏れることもなく、清潔かつ安全に色素増感太陽電池を作製することができる。更に、電解液封止部材として両面テープを使用する場合には、正電極基板の貼り合わせに失敗してもやり直すことができるので、子供にも取り扱いやすいものとなる。
【0034】
上記電解液滴下用器具としては、上記電解液を正確に滴下できる細口の液採取用具であり、10μL程度の電解液を正確に測りとる精度があり、滴下数を正確に制御できるものか好ましい。具体的には例えば、樹脂製の目盛り入りの細口スポイトやガラス製のマイクロピペット、マイクロシリンジ(注射器)等が挙げられる。
【0035】
(電解液封止部材)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、電解液封止部材を有する。
上記電解液封止部材は、光電極基板と正電極基板を貼り合せてセルを構成し、内部に電解液を保持するためのものである。
上記電解液封止部材としては、各種の接着剤や粘着剤が使用可能である。本来は、電解液と反応せず、電解液の溶媒に対して不活性な材料であり、樹脂基板と密着性が良い部材が好ましいが、短期間の使用であれば通常の樹脂基板用の接着剤や粘着剤が使用できる。
具体的には例えば、アクリル系やシリコーン系やフッ素系の接着剤、粘着剤が好適に使用できる。特に、本発明では、基材の両面に接着剤や粘着剤が塗布された両面テープを用いることが好ましく、なかでも、安価で作業性の良いことから、アクリル系粘着両面テープが好ましい。上記両面テープは任意の形状に打ち抜き加工をすることができるため、花びら型等の任意のセル形状に対応して電解液封止部材を形成することができる。また、粘着剤や接着剤を使用する場合は、印刷や塗布によって、所定形状のパターンとすることも可能である。更に、上記両面テープは、正電極基板の貼り合わせに失敗してもやり直すことができるので、子供にも取り扱いやすいものとなる。
【0036】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、更に正電極基板用のカーボン系材料を有することが好ましい。上記カーボン系材料は、正電極基板に担持させることで触媒層としての役割を有するものである。上記カーボン系材料としては、例えば、グラファイト等を用いることができる。上記グラファイトは、例えば、各種の鉛筆を用いて描画するなどして容易に正電極基板に塗布することができる。
【0037】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットでは、その他の部材として、色素増感太陽電池セル同士を電気的に接続する電極挟み用のクリップ、電子メロディー等を組み合わせてキットとしてもよい。
【0038】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池を作製する方法としては、例えば、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板の酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、ステンレスからなる導電層を有する正電極基板のカーボン系材料を担持する工程、前記正電極基板に電解液封止部材を添付する工程、電解液滴下用器具を用いてヨウ素を含有する電解液を前記光電極基板に滴下する工程、及び、前記光電極基板と、前記正電極基板と貼り合わせる工程を行う方法が挙げられる。
このような色素増感太陽電池の製造方法もまた本発明の1つである。
【0039】
本発明の色素増感太陽電池の製造方法について図面(図1〜7)を用いて説明する。
まず、図1に示すように、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層2がこの順で積層され、接続端子部8が形成された光電極基板1の酸化亜鉛多孔質層2に食用色素を担持させる。
上記食用色素を担持させる方法としては、例えば、上記食用色素を含有する溶液に、上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板1を浸漬した後、乾燥を行う方法等が挙げられる。
【0040】
上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板1を浸漬する際の浸漬時間の好ましい下限は5分、好ましい上限は2時間である。5分未満であると、色素溶液が酸化亜鉛多孔質層2の内部まで充分に浸透しないことがあり、2時間を超えると、酸化亜鉛多孔質層2への食用色素の吸着量が多くなりすぎ、食用色素の積層吸着が発生し、酸化亜鉛多孔質層2への電子の流れを阻害してセル特性の低下や劣化を招いたりすることがある。
【0041】
上記食用色素を含有する溶液に用いる溶媒としては、安全かつ低粘度で食用色素を溶解することができ、基板フィルムを劣化させないものであれば特に限定されず、例えば、水、エタノール等のアルコール類等が挙げられる。本発明においては、水道水で溶解させることも考えられるため、水が好ましい。
【0042】
上記食用色素を含有する溶液における食用色素の含有量は、0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。上記含有量が0.01重量%未満であると、酸化亜鉛多孔質層への食用色素の吸着が不充分となることがあり、10重量%を超えて添加しても食用色素の吸着量は飽和して余分な食用色素が発生する。
【0043】
本発明において食用色素を担持させる方法としては、図1に示すように、上記食用色素を含有する溶液を、シャーレ等のガラス容器に入れる方法のほか、色素増感太陽電池作製用キットを包装するためのポリ袋に、上記食用色素を含有する溶液を入れて食用色素を担持させてもよい。
このような方法を用いることで、シャーレ等のガラス容器が不要となるほか、上記食用色素を含有する溶液の量を減らすことも可能となるため、大幅にコストダウンを図ることができる。
【0044】
次に、図2及び図3に示すように、ステンレスからなり、接続端子部7が形成された正電極基板3(図2)に、鉛筆等を用いてグラファイト4を担持させる(図3)。本発明では、鉛筆等を用いて容易にグラファイト4を正電極基板3に担持することができる。グラファイト4は、触媒層としての役割を有する。
鉛筆を用いてグラファイト4を担持させる場合、上記鉛筆の硬度については特に限定されないが、HB以下の硬度であることが好ましく、2B以下の鉛筆を用いることがより好ましい。
【0045】
次いで、図4に示すように、正電極基板3に両面テープ5を貼り合せる。
そして、図5に示すように、光電極基板1の酸化亜鉛多孔質層2(色素の吸着した部分)に細口スポイト6等を用いてヨウ素電解質液を滴下する。
【0046】
ヨウ素電解質液を滴下する方法としては特に限定されないが、細口スポイト等を用いて2〜3滴程度滴下することが好ましい。
上記ヨウ素電解質液を滴下する際の滴下量は、1cm2あたり0.5〜50μLが好ましく、さらに好ましくは1cm2あたり1〜20μLである。
上記滴下量が0.5μL未満であると、作製される色素増感太陽電池セル中に電解液が満たされず、発電能力が低下することがある。50μLを超えると、電解液が色素増感太陽電池セル外に漏れ出すことがある。
【0047】
その後、図6及び図7に示すように、光電極基板1と、正電極基板3と貼り合わせる(図6)ことで、正極端子17及び負極端子18を有する色素増感太陽電池セル10を作製する(図7)。
本発明の方法では、光電極基板1にヨウ素電解質液を滴下した後に、光電極基板1を正電極基板3に貼り付けて色素増感太陽電池セルを作製する。逆に、ヨウ素電解液を正電極基板3に滴下して、その上に光電極基板1を貼り付けてもよい。
このような方法では、ヨウ素電解質液の滴下量を予め決定しておくことで、ヨウ素電解質液がセル外部に漏れる不具合を防止して、安全かつ清潔にセルを作製することができる。
【0048】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットによれば、安全にかつ簡便に色素増感太陽電池を組み立てることができ、その組立作業の体験を通して、楽しみながら学習することができる。また、本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、学生の学習教材として使うこともできるし、DIYセットとして使うこともできる。
また、組立後に得られる色素増感太陽電池は、屋外の太陽光下(照度50000lx程度)でなく、屋内の補助光環境(照度1000lx程度)でも電子オルゴール等を動作させることができ、屋内でも充分に太陽電池として使用することができる。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池もまた本発明の1つである。
【0049】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて得られる色素増感太陽電池(色素増感太陽電池セル)の一例を図8に示す。
図8に示すように、花びら形状の色素増感太陽電池セル20は、食用色素が担持された酸化亜鉛多孔質層24、正電極用端子(正極端子)27、光電極用端子(負極端子)28を有し、電解液封止部材で封止された部分に電解液が封入されている。また、各端子を介して複数の色素増感太陽電池セル20を接続し、モジュールとすることで、例えば、花形の色素増感太陽電池モジュールとすることができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、安価かつ簡便な方法で、安全に高性能な色素増感太陽電池を組み立てることが可能な色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図2】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図3】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図4】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図5】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図6】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図7】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図8】本発明の色素増感太陽電池の一例を示す模式図である。
【図9】比較例1で得られた色素増感太陽電池を示す模式図である。
【図10】比較例2で得られた色素増感太陽電池を示す模式図である。
【図11】比較例3で得られた色素増感太陽電池を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定さない。
【0053】
(実施例1)
(1)光電極基板の作製
PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み188μm)に、UV硬化アクリル樹脂のハードコートを施した後、透明電極としてITO膜を、スパッタリング法を用いて成膜した。
なお、ITO膜はDCスパッタリング法により形成し、アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で20分成膜した。得られたITO膜の表面抵抗は24Ω/□であった。
【0054】
次いで、酸化亜鉛微粒子(テイカ社製MZ−500)3.0gに対して、溶媒(テルピネオール)7.0gとバインダー(エチルセルロース)0.1gを添加し、混合分散してペーストを作製した。その後、得られたペーストを16×29mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥することにより、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図1に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有する光電極基板を外形20×40mmに打ち抜いた。
【0055】
(2)正電極基板の作製
ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、図2に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有する正電極基板を外形20×40mmに打ち抜いた。
なお、光電極基板及び正電極基板の接続端子部は、図6に示すように、正極端子及び負極端子が同一の側面となり、かつ、両者が重ならないような位置に接続端子部を有する構造とした。
【0056】
(3)両面テープシールの作製
両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、トムソン刃金型で外側20×33mmで内側16×29mmの矩形枠状に両面テープのみをハーフカットした。
【0057】
(4)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板、正電極基板、ヨウ素電解質液(ヨウ素濃度0.05mol/L、テトラブチルアンモニウムヨージド[TBAI]0.5mol/L、プロピレンカーボネート[PC]溶媒)、食用赤色3号色素(エリスロシン)、両面テープシール(日東電工社製、5605)、クリップ、包装用ポリ袋、及び、外箱を組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0058】
(5)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、電解液滴下用具として、10μLを計量できるマイクロピペットを用いて、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解質液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0059】
(評価)
(a)光電変換特性
実施例及び比較例で得られた矩形状の色素増感太陽電池セルについて、光源強度が1SUN(100mW/cm2)であるソーラーシミュレータを用い、光電変換効率(η)を測定した。その結果、変換効率は0.06%であった。
【0060】
(b)電子オルゴールの動作
得られた矩形状の色素増感太陽電池セル4個を放射状に並べて、接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。
その結果、セル表面の照度が500lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
【0061】
(実施例2)
(1)光電極基板の作製
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×29mmの花びらパターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図8に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの花びら形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
【0062】
(2)正電極基板の作製
ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、図8に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの花びら形状に打ち抜いた。
【0063】
(3)両面テープシールの作製
両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、トムソン刃金型で外側20×33mmで内側16×29mmの花びら輪郭枠形状に両面テープのみをハーフカットした。
【0064】
(4)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板、正電極基板、ヨウ素電解質液(ヨウ素濃度0.05mol/L、テトラブチルアンモニウムヨージド[TBAI]0.5mol/L、プロピレンカーボネート[PC]溶媒)、食用赤色3号色素(エリスロシン)、両面テープシール(日東電工社製、5605)、クリップ、包装用ポリ袋、及び、外箱を組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0065】
(5)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、電解液滴下用具として、10μLを計量できるマイクロピペットを用いて、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解質液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0066】
(評価)
(a)光電変換特性
実施例1の場合と同様に、変換効率を測定したところ、変換効率は0.04%であった。
【0067】
(b)電子オルゴールの動作
得られた花びら型色素増感太陽電池セル4個を放射状に並べて、接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。
その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
【0068】
(比較例1)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×29mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図9に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの矩形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
次に、ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、正電極基板を、図9に示すように片側に長さ7mmの接続端子部を有する20×40mmの矩形状に打ち抜いた。更に、正電極基板にφ1mmの孔を2個注入口として形成した。
得られた光電極基板と正電極基板を用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0069】
(2)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付け、光電極基板を貼り合せて空セルを作製した。その後、セルを逆さまにして、正電極基板の外側の注入口部分に、ヨウ素電解質液を電解液滴下用具を用いずに電解液の容器から直接に数滴滴下し、毛細管現象で内部にヨウ素電解質液を注入した。その後、余分のヨウ素電解質液をふき取り、両面テープシールを注入口に貼って、色素増感太陽電池セルを作製した。
図9に示すように、比較例1で得られた色素増感太陽電池セル30は、正電極用端子(正極端子)37、光電極用端子(負極端子)38を有し、正極端子37及び負極端子38は、色素増感太陽電池セル30の対向する側面に形成されている。
【0070】
比較例1で得られた色素増感太陽電池セルについて、実施例1と同様にして、変換効率を測定したところ、実施例1と同程度の変換効率0.06%を示した。得られた色素増感太陽電池セル4個を直線状に並べて接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
但し、直線状に並んだ4個のセルに補助光を均一に照射することが難しいため、実施例1に較べると照度を大きくしないと電子オルゴールが鳴りにくい結果であった。
また、正電極基板に設けた注入口付近にヨウ素電解質液をふき取ったあとが残り、外観上汚れた色素増感太陽電池セルとなった。
また、得られた色素増感太陽電池セルを手で押さえると注入口付近から電解液が漏れ出すため、色素増感太陽電池セルの安全性の面でも問題があった。
【0071】
(比較例2)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×26mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図10に示すように、両端に長さ5mmの接続端子部を有する外形20×40mmの矩形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
次に、ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、正電極基板を図10に示すように両端に長さ5mmの接続端子部を有するように、30×30mmの正方形状に打ち抜いた。
次に、両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、トムソン刃金型で外側20×30mmで内側16×26mmの矩形状で、中央部の両側に幅2mmの注入口を設けた形に両面テープのみをハーフカットした。
得られた光電極基板と正電極基板と両面テープを用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0072】
(2)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付け、光電極基板を貼り合せて空セルを作製した。その後、セルを逆さまにして、光電極基板の片側側面の注入口部分に、ヨウ素電解質液を電解液滴下用具を用いずに電解液の容器から直接に数滴滴下し、毛細管現象で内部にヨウ素電解質液を注入した。その後、余分のヨウ素電解質液をふき取り、両面テープシールを両側側面の注入口に貼って、色素増感太陽電池セルを作製した。
図10に示すように、比較例2で得られた色素増感太陽電池セル40は、正電極用端子(正極端子)47、光電極用端子(負極端子)48を有し、正極端子47及び負極端子48は、色素増感太陽電池セル40の直交する側面に形成されている。
【0073】
比較例2で得られた色素増感太陽電池セルについて、実施例1と同様にして、変換効率を測定したところ、実施例1と同程度の変換効率0.05%を示した。得られた色素増感太陽電池セル4個を直線状に並べて接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
但し、直線状に並んだ4個のセルに補助光を均一に照射することが難しいため、実施例1に較べると照度を大きくしないと電子オルゴールが鳴りにくい結果であった。
また、正電極基板に設けた注入口付近にヨウ素電解質液をふき取ったあとが残り、外観上汚れた色素増感太陽電池セルとなった。
また、得られた色素増感太陽電池セルを手で押さえると注入口付近から電解液が漏れ出すため、色素増感太陽電池セルの安全性の面でも問題があった。
【0074】
(比較例3)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
実施例1と同様にPETフィルムにITO膜を成膜し、得られた酸化亜鉛ペーストを外形16×29mmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥して、酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで光電極基板とした。その後、トムソン刃金型を用いて、図11に示すように、片側に長さ7mmの接続端子部を有し、外形20×40mmの矩形状に打ち抜いた以外は実施例1と同様にして光電極基板を作製した。
次に、ステンレス箔(SUS304、厚み25μm)とPETフィルム(厚み188μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605)を介してラミネートすることで積層シートからなる正電極基板を作製した。その後、トムソン刃金型を用いて、正電極基板を、図11に示すように片側に長さ7mmの接続端子部を有する20×40mmの矩形状に打ち抜いた。但し、正電極基板には特に注入口用の孔を形成しなかった。
得られた光電極基板と正電極基板を用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0075】
(2)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて実施例1と同様に色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液を作製した。これを包装用ポリ袋に入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分で自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、電解液滴下用具として、10μLを計量できるマイクロピペットを用いて、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解質液を所定量滴下した後に、光電極基板を逆さまにして、正電極基板に片側から順に貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
図11に示すように、比較例3で得られた色素増感太陽電池セル50は、正電極用端子(正極端子)57、光電極用端子(負極端子)58を有し、正極端子57及び負極端子58は、色素増感太陽電池セル50の対向する側面に形成されている。
このセルを組み立てる際に、電解液の滴下量が多過ぎたためセルからはみ出し、はみ出した電解液が接続端子部に付着して接続端子部の汚染を生じた。このため、得られた色素増感太陽電池セルの接続端子部は電気的に接続不安定になった。
【0076】
比較例3で得られた色素増感太陽電池セルについて、実施例1と同様にして、変換効率を測定したところ、実施例1と同程度の変換効率0.06%を示した。得られた色素増感太陽電池セル4個を直線状に並べて接続端子部分を直列にクリップで接続した後、両端のセルを電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、照度100〜5000lxに変化させた場合の電子オルゴールの動作を確認した。その結果、照度が1000lxの時でも電子オルゴールを鳴らすことができた。
但し、直線状に並んだ4個のセルに補助光を均一に照射することが難しいため、実施例1に較べると照度を大きくしないと電子オルゴールが鳴りにくい結果であった。
また、得られた色素増感太陽電池セルの接続端子部は電気的に接続不安定であり、その後の変換効率測定やモジュール動作が不安定になってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、簡便な方法で、安全に高性能な色素増感太陽電池を組み立てることが可能な色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素を含有する電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有し、
前記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する
ことを特徴とする色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項2】
正極端子及び負極端子が重ならないような位置に接続端子部を有することを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項3】
正電極基板が、ステンレス板、又は、ステンレスからなる導電層と樹脂層との積層体であることを特徴とする請求項1又は2記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いる色素増感太陽電池の製造方法であって、
樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板の酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、
ステンレスからなる導電層を有する正電極基板のカーボン系材料を担持する工程、
前記正電極基板に電解液封止部材を添付する工程、
電解液滴下用器具を用いてヨウ素を含有する電解液を前記光電極基板又は正電極基板に滴下する工程、及び、
前記光電極基板と、前記正電極基板と貼り合わせる工程を有する
ことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項1】
樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板と、導電層を有する正電極基板と、ヨウ素を含有する電解液と、電解液滴下用器具と、食用色素と、電解液封止部材とを有し、
前記光電極基板及び正電極基板は、色素増感太陽電池の正極端子及び負極端子が同一の側面となるような位置に接続端子部を有する
ことを特徴とする色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項2】
正極端子及び負極端子が重ならないような位置に接続端子部を有することを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項3】
正電極基板が、ステンレス板、又は、ステンレスからなる導電層と樹脂層との積層体であることを特徴とする請求項1又は2記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いる色素増感太陽電池の製造方法であって、
樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板の酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、
ステンレスからなる導電層を有する正電極基板のカーボン系材料を担持する工程、
前記正電極基板に電解液封止部材を添付する工程、
電解液滴下用器具を用いてヨウ素を含有する電解液を前記光電極基板又は正電極基板に滴下する工程、及び、
前記光電極基板と、前記正電極基板と貼り合わせる工程を有する
ことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2又は3記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−105541(P2013−105541A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246822(P2011−246822)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
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