色素増感太陽電池作製用キット
【課題】安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供する。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートと、導電層を有する正電極基板シートと、ヨウ素を含有する電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有し、前記光電極基板シートの厚みが10〜1000μm、前記正電極基板シートの厚みが10〜1000μmであり、かつ、前記透明電極の厚みが0.05〜0.3μmである色素増感太陽電池作製用キット。
【解決手段】樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートと、導電層を有する正電極基板シートと、ヨウ素を含有する電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有し、前記光電極基板シートの厚みが10〜1000μm、前記正電極基板シートの厚みが10〜1000μmであり、かつ、前記透明電極の厚みが0.05〜0.3μmである色素増感太陽電池作製用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットに関する。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、身近な材料である金属酸化物半導体多孔膜を利用した太陽電池であり、シリコン太陽電池に比べて、高価な材料やプロセスを必要とせず、安価な太陽電池を実現できるデバイスとして実用化が期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、通常、透明電極基板に金属酸化物半導体多孔質層を形成し色素を担持させた光電極と、基板に導電層を形成した正電極とを電解質層を介して挟み込んだ構成となっている。
このような色素増感太陽電池の基本原理は、特許文献1に開示されているように、以下の通りである。まず、色素増感太陽電池に光が照射されると、金属酸化物半導体多孔質層表面に吸着された増感色素が光を吸収し、色素分子内の電子が励起され、電子が半導体へ渡される。これにより、光電極側で電子が発生し、この電子が電気回路を通じて、正電極に移動する。そして、正電極に移動した電子は、電解質層を通じて光電極に戻る。このような過程が繰り返されることで、電気エネルギーが生じる。
【0004】
また、色素増感太陽電池は、他の太陽電池と比較して材料が安価であり、作製が容易であることから、学習教材キットとして非常に有用であるという特徴を有している。従って、教育現場において、色素増感太陽電池の組立キットに対する需要が非常に高まっている。
例えば、特許文献2には、半導体電極と対電極と電解質層とを備えた太陽電池作製キットが開示されている。
一方で、教育現場において、実際に色素増感太陽電池を作製する場合は、可能な限り安全な材料を使用し、かつ、製造工程についても危険を伴わないものとする必要があるが、特許文献2において、半導体層に使用されている酸化チタンは発ガン性が指摘されており、色素増感太陽電池作製キットの材質として安全とはいえなかった。
【0005】
また、特許文献3には、金属酸化物分散液、透明電極基板、ヨウ素系電解液を基本部材とする色素増感太陽電池製作用キット、及び、この金属酸化物分散液を薄膜化する工程を有する色素増感太陽電池の製造方法が開示されている。
しかし、このようなキットは主に専門家や教育指導者が対象になっているため、専門家以外の者が、このようなキットを用いて色素増感太陽電池の作製を行った場合、作製される色素増感太陽電池の性能(光電変換効率)が充分でない場合が多くなっていた。特に、児童向けのキットとしては組立の難易度が高く、児童が自分達だけで安全に組み立てられるようなものではなかった。
加えて、このようなキットでは、電極基板の形状が固定されており、特定の形状の色素増感太陽電池しか作製できないという課題があった。特に、子供向けのキットでは、太陽電池セルの形状も使用者の興味を引く大きな要因であり、使用者が各自の好きな形状に加工できて独自の形状の太陽電池セルを作製可能なキットが求められていた。
更に、このようなキットでは、色素等に安価で安全な材料を使用することが多いため、その色素増感太陽電池としての性能は充分でなく、屋外の太陽光照射(照度50000lx程度)の条件でようやく何らかのデバイスを動作させる程度のものであった。そのため、実際の使用では、天候や日照条件に左右されるため、確実に太陽電池の動作を確認することは容易ではなかった。
このように、従来の色素増感太陽電池製作用キットでは、安全性の面や、作業の容易性や太陽電池の性能の面で課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特開2004−264750号公報
【特許文献3】特開2006−108080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することを目的とする。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートと、導電層を有する正電極基板シートと、ヨウ素を含有する電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有し、光電極基板シート、正電極基板シート及び透明電極が特定の厚みを有する色素増感太陽電池作製用キットである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、酸化亜鉛多孔質層が積層されて光電極基板シートと、正電極基板シートと、ヨウ素含有電解液とを組み合わせた色素増感太陽電池作製用キットにおいて、増感色素として食用色素を用いることで、色素増感太陽電池を簡便な方法で、安全に組み立てることができ、高性能な色素増感太陽電池を製造できる色素増感太陽電池作製用キットとなることを見出した。
また、光電極基板シートと正電極基板シート透明電極を薄くして、可とう性を持たせることにより、使用者が、光電極基板シートと正電極基板シートと電解液封止材シートを任意の形状に切り出すことができ、任意な形状の色素増感太陽電池セルを作製することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、光電極基板シートと、正電極基板シートと、電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有する。
以下、これらのそれぞれについて説明する。
【0011】
(光電極基板シート)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートを有する。上記光電極基板シートを有することで、光照射によって起電力を発生させることが可能となる。
【0012】
本発明では、上記樹脂基板を用いることで、ガラス基板を用いる場合と比較して、得られる色素増感太陽電池を軽量化できるとともに、柔軟で割れにくい構造とすることが可能となり、特に児童用の教材として好適に使用することができる。また、使用者が容易に所望の形状に加工することができ、色素増感太陽電池セルの形状の自由度を大幅に向上させることができる。
【0013】
上記光電極基板シートの厚みは、10〜1000μmである。厚みが10μm未満であると、光電極基板の自立性が低下しハンドリングが悪くなり、1000μmを超えると、使用者が光電極基板シートを任意の形状にカットすることが困難となる。
好ましくは100〜300μmである。
【0014】
上記樹脂基板としては、入射する光を妨げず、適度の強度を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等の耐熱性を有する透明性樹脂からなるものが挙げられる。
【0015】
上記樹脂基板の厚みは、10〜1000μmであることが好ましい。厚みが10μm未満であると、樹脂基板の自立性が低下しハンドリングが悪くなり、1000μmを超えると、使用者が光電極基板シートを任意の形状にカットすることが困難となる。
より好ましくは100〜300μmである。
【0016】
上記透明電極としては、例えば、ITO、SnO2、ZnO、GZO、AZO、FTO等からなるものが好ましく、なかでも、抵抗率が小さく安定であり、透明性が高いという性質を有することから、ITOからなるものが好ましい。上記透明電極は、例えば、スパッタリング、CVD等の蒸着、イオンプレーティング等によって形成することができる。なお、上記透明基板と透明電極との間には、ハードコート層を形成してもよい。
【0017】
上記透明電極の厚みは、0.05〜0.3μmである。上記透明電極の厚みが0.05μm未満であると、透明電極の抵抗が高くなり、電極での損失が大きくなるため、得られる色素増感太陽電池の性能が低下し、太陽電池デバイスとしての動作ができなくなる。
逆に、上記透明電極の厚みが0.3μmを超えると、透明電極中の残留応力のために樹脂基板の反りが大きくなるとともに、光電極基板シートを曲げた時に透明電極にクラックが入りやすくなり、任意の形状に光電極基板シートを切り出した時に、透明電極が劣化し損失が大きくなるため、得られる色素増感太陽電池の特性が低下する。
好ましくは透明電極の厚みが0.1〜0.2μmである。
【0018】
本発明では、多孔質層を構成する材料として、酸化亜鉛を用いている。
従来使用されている酸化チタン等の材料は、発ガン性等の安全性の面で問題を有していたが、上記酸化亜鉛を用いることで、専門家以外の者、特に児童が使用する場合でも、安全な色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。
【0019】
上記酸化亜鉛多孔質層の膜厚の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。0.5μm未満であると、色素担持量が少なくなるとともに、得られる色素増感太陽電池の光電変換特性も低下することがあり、20μmを超えても、酸化亜鉛多孔質層中の電子の拡散長が限られているために光電変換特性向上に寄与せず、逆に電解液の酸化亜鉛多孔質層への浸入が困難になることから光電変換特性が低下することがある。
なお、本発明では、光電極基板シートの端部以外に上記酸化亜鉛多孔質層を形成することが好ましい。
【0020】
(食用色素)
本発明では、増感色素として、食用色素を用いることを特徴とする。
児童等が使用する色素増感太陽電池作製用キットでは、キットの構成部材を誤って口に入れてしまうことも想定されるが、上記食用色素を用いることでこのような事態が発生した場合でも、増感色素による人体への悪影響を防止することができ、安全性の高い色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。なお、本発明では、上記食用色素をそのままの状態で有していてもよく、水溶液の状態で有していてもよい。
【0021】
本発明における食用色素とは、毒性が低く、人間が食べた場合でも人体への安全性が確認されている色素のことをいう。また、食用色素には、天然食用色素と合成食用色素とがあるが、合成食用色素とは食品添加物として登録されている食用色素のことをいう。
上記食用色素は、合成食用色素と天然食用色素とに大別することができる。
上記合成食用色素としては、食品添加物として登録されている食用色素が好ましい。具体的には例えば、赤色3号、赤色104号、赤色105号等の食用タール色素等が挙げられる。なお、上記食用色素としては、水溶性のものを用いることが好ましい。
【0022】
本発明では、上記食用色素として、側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素を用いることが好ましい。上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素は、食用であることに加えて、色素増感太陽電池の増感色素として用いた場合に充分な電池性能を発現する。その結果、作製される色素増感太陽電池は、光電変換効率の高いものとなる。
【0023】
上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素としては、例えば、赤色3号(エリスロシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号(ローズベンガル)が挙げられる。
これらの食用色素は単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
【0024】
上記光電極基板シートは、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により、樹脂基板にITOからなる透明電極を形成した後、上記透明電極上に酸化亜鉛多孔質層を形成する方法等により製造することができる。
【0025】
上記酸化亜鉛多孔質層を形成する方法としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛半導体粒子と有機系バインダーを水やアルコール等の溶媒に分散させた溶液を透明電極上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成する塗布法;亜鉛塩を含む電解質溶液中に透明電極基板を浸漬し、電気化学的に透明電極基板上に酸化亜鉛の膜を形成する電析法等の方法を用いることができる。
【0026】
上記塗布法やゾル−ゲル法において、透明電極上に溶液を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法等が挙げられる。
【0027】
上記電析法は、高温の焼成工程を行うことなく、結晶性の高い酸化亜鉛半導体多孔質層を得ることが可能であることから、本発明のように樹脂基板を使用する場合に好適に行うことができる。具体的には例えば、金属塩を含有する電析浴中にテンプレート色素を混合し、作用極に透明電極基板、対向極に亜鉛等の金属を配置し、酸素をバブリングしながら参照電極に対して定電圧を印加する3電極法による方法等を用いることができる。
【0028】
(正電極基板シート)
本発明では、上記正電極基板(対向電極)シートとしては、ヨウ素を含有する電解液に耐食性のある導電性材料の基板であれば特に限定されないが、ステンレスやチタン等の耐食性金属やITOやSnO2等の透明導電性金属酸化物やポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性ポリマー等の導電層を有するものを用いることができる。
特に、上記のうちステンレス箔やチタン箔を用いることで、色素増感太陽電池作製用キットのコストを低減できるとともに、容易に任意の形状に加工することができる。
また、上記正電極基板シートとして、ステンレス箔やチタン箔と樹脂フィルムとを粘着剤を介してラミネートした積層フィルムを用いる場合は、切り出すことで任意の形状に加工でき、端部での切傷の危険性を低減することができる。更に、光電極基板シートを同様の積層フィルムとした場合、これらを合わせることで、更に柔軟性の高い色素増感太陽電池セルを作製することができる。
更に、鉛筆を用いて描画したり、塗りつぶしたりする方法を用いることで、手軽にカーボン系材料が担持された正電極基板シートとすることができる。
他に、カーボン系材料を印刷や塗布により基板表面に製膜することでも正電極基板シートにすることができる。
なお、上記ステンレスとは、通常ステンレス鋼として一般に使用されているもの、例えば、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト鋼等が使用でき、特にSUS304や、耐食性のあるSUS316等が好ましく使用される。
【0029】
上記正電極基板シートの厚みは、10〜1000μmである。厚みが10μm未満であると、正電極基板の自立性が低下しハンドリングが悪くなり、1000μmを超えると、使用者が正電極基板シートを任意の形状にカットすることが困難となる。
好ましくは100〜300μmである。
【0030】
上記導電層の厚みは、5〜100μmであることが好ましい。上記導電層の厚みが5μm未満であると、シワが入りやすくハンドリング性が悪くなり、逆に導電層の厚みが100μmを超えると、普通の家庭用はさみで切ることが困難になる。好ましくは10〜50μmである。
【0031】
(電解液)
本発明では、ヨウ素を含有する電解液を用いる。このような電解液を用いることで、色素増感太陽電池の効率を高めることができる。更に、ヨウ素は日本に豊富に存在する資源であるため、入手が容易であることも理由の1つである。
なお、ヨウ素を含有する電解液は、ヨウ素イオンによる電子の輸送の面で優れるが、正電極基板シートを腐食しやすいという欠点も有する。しかしながら、本発明では、正電極基板シートの導電層を耐食性金属のステンレスやチタン、導電性の金属酸化物又は導電ポリマー等にすることで、腐食の問題を解決することができる。
【0032】
上記電解液としては、ヨウ素を含有し、かつ、イオンを媒体として電子やホールを輸送できる物質であれば特に限定されず、例えば、ヨウ素及びヨウ化物等の酸化還元物質を有機溶媒に溶解した溶液を用いることができる。
具体的には例えば、上記ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、テトラプロピルアンモニウムヨージド、フェニルトリメチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ヨウ素イオンをアニオンとするイミダゾリウム塩である1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド等が挙げられる。
なかでも、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド等の4級ヨウ化アルキルアンモニウムが好ましい。
【0033】
上記有機溶媒としては、例えば、エタノール等の低級アルコール、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の多価アルコール、ニトリル系のアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルや炭化水素系のプロピレンカーボネート、ジエチルカルボナート、γープチロラクタンやポリエチレングリコール等の多価アルコール、イミダゾリウム塩等のイオン液体が挙げられる。これらの中では、安全なエタノールを用いることが好ましい。
【0034】
上記電解液におけるヨウ素の濃度の好ましい下限は0.02mol/L、好ましい上限は1.0mol/Lである。ヨウ素の濃度を上記範囲内とすることで、仮に、誤飲等がなされても、人体に悪影響がでない範囲とすることができる。
上記ヨウ素の濃度が0.02mol/L未満であると、色素増感太陽電池の変換効率が低下することがあり、1.0mol/Lを超えると、ヨウ素が溶媒に溶解しにくくなったり、正電極基板シートのステンレスを腐食して、黒点が発生しやすくなったりする。
上記ヨウ素の濃度のより好ましい下限は0.03mol/L、より好ましい上限は0.4mol/Lであり、さらに好ましい上限は0.2mol/Lである。
【0035】
上記ヨウ化物の濃度は、好ましい下限はヨウ素濃度の5倍、好ましい上限はヨウ素濃度の30倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度の好ましい下限は0.1mol/L、好ましい上限は30mol/Lである。さらに好ましい下限はヨウ素濃度の8倍、さらに好ましい上限は15倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度の好ましい濃度は0.16mol/L、好ましい上限は15mol/Lである。ヨウ化物濃度がこの範囲より大きくても小さくても光変換効率が低下することがある。
【0036】
(電解液封止部材シート)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、電解液封止部材シートを有する。
上記電解液封止部材シートは、光電極基板シートと正電極基板シートを貼り合せてセルを構成し、内部に電解液を保持するためのものである。
上記電解液封止部材シートは、両主面に粘着剤を有する樹脂フィルムであることが好ましい。
このような電解液封止部材シートを用いることで、貼り合わせに失敗してもやり直すことができるので、子供にも取り扱いやすくなる。
上記粘着剤(接着剤)としては、電解液と反応せず、電解液の溶媒に対して不活性な材料であり、樹脂基板と密着性が良い部材が好ましいが、短期間の使用であれば通常の樹脂基板用の接着剤や粘着剤が使用できる。
上記粘着剤としては例えば、アクリル系やシリコーン系やフッ素系の接着剤、粘着剤が好適に使用できる。なかでも、安価で作業性の良いことから、アクリル系の粘着剤を用いることが好ましい。
【0037】
上記電解液封止材シートの厚みは、10〜100μmであることが好ましい。
上記電解液封止材シートの厚みが10μm未満であると、電極基板間距離が小さくなり過ぎて短絡しやすくなり、粘着力や接着力も低下して、電極基板が剥がれやすくなる。逆に電解液封止材シートが100μmを超えると、電極基板間距離が大きくなり過ぎ、電解液層のイオン電導が遅くなるために色素増感太陽電池の特性が低下するとともに、電解液封止材シート自体の切り出しも容易ではなくなる。より好ましくは30〜60μmである。
【0038】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、更に正電極基板用のカーボン系材料を有することが好ましい。上記カーボン系材料は、正電極基板シートに担持させることで触媒層としての役割を有するものである。上記カーボン系材料としては、例えば、グラファイト等を用いることができる。上記グラファイトは、例えば、各種の鉛筆を用いて描画するなどして容易に正電極基板シートに塗布することができる。
【0039】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットでは、その他の部材として、色素増感太陽電池セル同士を電気的に接続する電極挟み用のクリップ、電子メロディー等を組み合わせてキットとしてもよい。
【0040】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池を作製する方法としては、例えば、光電極基板シート、正電極基板シート及び電解液封止材シートを任意の形状に切り出す工程、前記光電極基板シートの酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、前記正電極基板シートのカーボン系材料を担持する工程、前記正電極基板シートに電解液封止材シートを添付する工程、ヨウ素を含有する電解液を前記光電極基板シート又は正電極基板シートに滴下する工程、及び、前記光電極基板シートと、前記正電極基板シートと貼り合わせる工程を行う方法が挙げられる。
このような色素増感太陽電池の製造方法もまた本発明の1つである。
【0041】
本発明の色素増感太陽電池の製造方法について図面(図1〜10)を用いて説明する。
まず、図1に示す樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層2がこの順で積層された光電極基板シート1を用意した後、図2に示すように、接続端子部7を残して、酸化亜鉛多孔層部分を任意形状(図では、だんご形状)に切り出して光電極基板11を作製する。
【0042】
次いで、図3に示すように、光電極基板11の酸化亜鉛多孔質層2に、側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素からなる食用色素を担持させる。
上記食用色素を担持させる方法としては、例えば、上記食用色素を含有する溶液に、上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板11を浸漬した後、乾燥を行う方法等が挙げられる。
【0043】
上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板11を浸漬する際の浸漬時間の好ましい下限は5分、好ましい上限は2時間である。5分未満であると、色素溶液が酸化亜鉛多孔質層2の内部まで充分に浸透しないことがあり、2時間を超えると、酸化亜鉛多孔質層2への食用色素の吸着量が多くなりすぎ、食用色素の積層吸着が発生し、酸化亜鉛多孔質層2への電子の流れを阻害してセル特性の低下や劣化を招いたりすることがある。
【0044】
上記食用色素を含有する溶液に用いる溶媒としては、食用色素を溶解することができ、基板フィルムを劣化させないものであれば特に限定されず、例えば、水、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等が挙げられる。本発明においては、水道水で溶解させることも考えられるため、水が好ましい。
【0045】
上記食用色素を含有する溶液における食用色素の含有量は、0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。上記含有量が0.01重量%未満であると、酸化亜鉛多孔質層への食用色素の吸着が不充分となることがあり、10重量%を超えて添加しても食用色素の吸着量は飽和して余分な食用色素が発生する。
【0046】
本発明において食用色素を担持させる方法としては、図3に示すように、上記食用色素を含有する溶液を、シャーレ等のガラス容器に入れ、その中に光電極基板シートを浸漬する方法のほか、色素増感太陽電池作製用キットを包装するためのポリ袋に、上記食用色素を含有する溶液を入れて食用色素を担持させてもよい。
【0047】
次に、図4及び図5に示すように、ステンレスからなる正電極基板シート3(図4)に、鉛筆等を用いてグラファイト4を担持する(図5)。本発明では、鉛筆等を用いて容易にグラファイト4を正電極基板シート3に担持することができる。グラファイト4は、触媒層としての役割を有する。
鉛筆を用いてグラファイト4を担持させる場合、上記鉛筆の硬度については特に限定されないが、HB以下の硬度であることが好ましく、2B以下の鉛筆を用いることがより好ましい。
【0048】
次いで、図6に示すように、接続端子部8を残して、グラファイト4を担持した部分を任意形状(図では、だんご形状)に切り出して正電極基板13を作製する。
【0049】
次いで、図7に示すように、正電極基板13に任意形状(図では、だんご形状の周辺部)に切り出し両面テープ5を添付する。
【0050】
本発明の色素増感太陽電池の製造方法において、上記光電極基板シート、正電極基板シート及び電解液封止材シートを任意の形状に切り出す方法としては、目的形状の型紙を作製し、それを光電極基板シート、正電極基板シート、電解液封止材シートに重ね合わせて、型紙の輪郭に合わせてカッターやはさみで各シートを切り出す方法が挙げられる。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いることで、簡便な方法で形状を容易に変化させることが可能となり、作製の自由度が大幅に向上する。
【0051】
本発明において、光電極基板及び正電極基板の切り出す際には、貼り合せた色素増感太陽電池セルの接続端子間の距離が0.5〜10cm程度となるようにすることが好ましく、より好ましくは1〜5cmである。接続端子間の距離が長いと接続端子間の基板電極の抵抗が大きくなり、それによる損失が大きいため、色素増感太陽電池セルの発電効率が低下し、デバイスの動作が難しくなり、逆に接続端子間の距離が短いと色素増感太陽電池セルが小さくなることで、全体の発電量が減少し、デバイスを動作させにくくなる。
【0052】
そして、図8に示すように、光電極基板11の酸化亜鉛多孔質層2にスポイト6等を用いてヨウ素電解液を滴下する。逆に、正電極基板13のグラファイト4を担持した部分(両面テープで囲まれた部分)に滴下することもできる。
ヨウ素電解液を滴下する方法としては特に限定されないが、スポイト等を用いて光電極基板の酸化亜鉛多孔膜の面積が1cmあたり数滴程度滴下することが好ましい。
上記ヨウ素電解液を滴下する際の滴下量は、1cm2あたり1〜40μLが好ましい。さらに好ましくは1cm2あたり2〜20μLである。
上記滴下量が1μL未満であると、作製される色素増感太陽電池セル中に電解液が満たされず、発電能力が低下することがある。40μLを超えると、電解液が色素増感太陽電池セル外に漏れ出しやすくなる。
【0053】
その後、図9及び図10に示すように、光電極基板11と、正電極基板13と貼り合わせる(図9)ことで、色素増感太陽電池セルを作製する(図10)。
本発明の方法では、正電極基板13に電解液を滴下した後に、光電極基板11を貼り付けて色素増感太陽電池セルを作製する。このような方法では、ヨウ素電解液の滴下量を予め決定しておくことで、ヨウ素電解液がセル外部に漏れる不具合を防止して、安全かつ清潔にセルを作製することができる。
【0054】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットによれば、安全にかつ簡便に色素増感太陽電池を組み立てることができ、その組立作業の体験を通して、楽しみながら学習することができる。また、本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、学生の学習教材として使うこともできるし、DIYセットとして使うこともできる。
また、組立後に得られる色素増感太陽電池は、屋外の太陽光下(照度50000〜10000lx程度)でも電子オルゴール等を動作させることができ、屋内でも蛍光灯等の補助光を使用すれば太陽電池として使用することができる。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池もまた本発明の1つである。
【0055】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて得られる色素増感太陽電池(色素増感太陽電池セル)の一例を図11に示す。
図11に示すように、花びら形状の色素増感太陽電池セル20は、食用色素が担持された酸化亜鉛多孔質層27、光電極用端子26、正電極用端子24を有し、電解液封止部材で封止された部分に電解液が封入されている。また、各端子を介して複数の色素増感太陽電池20を接続し、モジュールとすることで、例えば、花形の色素増感太陽電池モジュールとすることができる。
また、本発明で得られる色素増感太陽電池セルは、光電極基板又は正電極基板に接続端子部を1つ有するものであってもよく、複数有するものであっても良い。接続端子部を2個有する場合の一例を図12に示す。接続端子部は、数が多いほど、色素増感太陽電池セルの接続端子間の距離を短くすることができることから、接続端子部を複数有することで、色素増感太陽電池セルの効率を向上させることが可能となる。逆に、同じ性能を有するものであれば、より大きなセルを作製することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図2】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図3】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図4】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図5】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図6】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図7】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図8】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図9】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図10】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図11】本発明の色素増感太陽電池の一例を示す模式図である。
【図12】本発明の色素増感太陽電池の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0059】
(実施例1)
(1)光電極基板シートの作製
PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み200μm)に、UV硬化アクリル樹脂のハードコートを施した後、透明電極としてITO膜を、スパッタリング法を用いて成膜した後、7×14cmに切り出した。
なお、ITO膜はDCスパッタリング法により形成し、アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で20分成膜した。得られたITO膜の厚みは0.15μmであり、表面抵抗は24Ω/□であった。
【0060】
次いで、酸化亜鉛微粒子(テイカ製MZ−500)3.0gに対して、溶媒(テルピネオール)7.0gとバインダー(エチルセルロース)0.1gを添加し、混合分散してペーストを作製した。その後、得られたペーストを5×14cmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥し、厚み10μmの酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで、両端部に接続端子部を有する光電極基板シートとした。
【0061】
(2)正電極基板シートの作製
ステンレス箔(SUS304、厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605、厚み50μm)を介してラミネートし、これを7×14cmに切り出すことで、積層シートからなる正電極基板シートを作製した。
【0062】
(3)両面テープシートの作製
両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、5×14cmサイズに切り出すことにより、両面テープシートを作製した。
【0063】
(4)色素水溶液の作製
食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液100gを作製した。
【0064】
(5)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板シート、正電極基板シート、ヨウ素電解液(ヨウ素濃度0.05mol/L、テトラブチルアンモニウムヨージド[TBAI]0.5mol/L、プロピレンカーボネート[PC]溶媒)、食用赤色3号色素(エリスロシン)水溶液、両面テープシート、シャーレ、スポイト及び、ピンセットを組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0065】
(6)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、家庭用のはさみを用いて、光電極基板シートの接続端子部を残し、酸化亜鉛多孔膜部分を約3×5cmのサイズに円形のセルが2個並んだだんご形状に切り出して光電極基板を作製した。
また、正電極基板シートについても、通常の家庭用のはさみを用いて、接続端子部分のみを光電極基板シートと反対側に形成した以外は光電極基板シートと同様の形状に切り出した。
更に、両面テープシートについても、光電極基板シートと同様の形状に切り出し、さらにその内側を、幅3mmを残して内側部分を切り抜いて、光電極基板に合った両面テープシートを作製した。
次いで、色素水溶液をシャーレに入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分間自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0066】
(実施例2)
(1)光電極基板シートの作製
厚み100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み100μm)に、実施例1と同様に透明電極としてITO膜を、スパッタリング法を用いて成膜した後、7×14cmに切り出した。得られたITO膜の厚みは0.15μmであり、表面抵抗は22Ω/□であった。
【0067】
次いで、実施例1と同様に酸化亜鉛ペーストを作製し、それを5×14cmの矩形パターンでバーコート印刷し、100℃30分で溶媒乾燥し、厚み12μmの酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで、両端部に接続端子部を有する光電極基板シートとした。
【0068】
(2)正電極基板シートの作製
チタン箔(厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605、厚み50μm)を介してラミネートし、これを7×14cmに切り出すことで、積層シートからなる正電極基板シートを作製した。
【0069】
(3)両面テープシートの作製
実施例1と同様に両面テープシートを作製した。
【0070】
(4)色素水溶液の作製
実施例1と同様に色素水溶液100gを作製した。
【0071】
(5)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板シートと正電極基板シートに、実施例1と同様のヨウ素電解液、色素水溶液、両面テープシート、シャーレ、スポイト及び、ピンセットを組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0072】
(6)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、通常の家庭用のはさみを用いて、光電極基板シートの接続端子部を残して、酸化亜鉛多孔膜部分を縦横3×3cmのサイズの三角形セルが2個並んだ形状に切り出して光電極基板を作製した。
また、正電極基板シートについても、通常の家庭用のはさみを用いて、接続端子部分のみを、光電極基板シートと反対側に形成した以外は光電極基板シートと同様の形状に切り出した。
更に、両面テープシートについても、光電極基板シートと同様の形状に切り出し、さらにその内側を、幅3mmを残して内側部分を切り抜いて、光電極基板に合った両面テープシートを作製した。
次いで、実施例1と同様に、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、実施例1と同様に正電極基板を作製し、その後、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0073】
(比較例1)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み200μm)に代えて、ポリカーボネートシート(厚み2000μm)を用いた以外は実施例1と同様にして光電極基板シートの作製を行った。
次いで、得られた光電極基板シートを用いて、実施例1と同様の方法で、色素増感太陽電池セルの作製を試みたが、家庭用のはさみを用いて、光電極基板シートをだんご形状に切り出すことができず、色素増感太陽電池セルの作製はできなかった。
【0074】
(比較例2)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、透明電極としてITO膜を、DCスパッタリング法を用いて下記条件で成膜した後、7×14cmに切り出した。なお、得られたITO膜の厚みは0.35μmであり、表面抵抗は9.8Ω/□であった。
(スパッタリング条件)
アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で60分成膜した。
【0075】
しかしながら、得られたITO膜付き樹脂基板シートは、反りが大きく、その後の印刷等の工程に進められるものではなかった。また、これを無理に引き伸ばしてはさみで切り出すと、ITO膜がひび割れし、外観的にも透明性が損なわれ使用できなくなった。
【0076】
(比較例3)
実施例1の「(2)正電極基板シートの作製」において、ステンレス箔(SUS304、厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)との積層シートに代えて、厚み200μmのステンレス板(SUS304)を用いた以外は実施例1と同様にして、正電極基板シートを作製した。
次いで、得られた光電極基板シートを用いて、実施例1と同様の方法で、色素増感太陽電池セルの作製を試みたが、家庭用のはさみを用いて、正電極基板シートをだんご形状に切り出すことができず、色素増感太陽電池セルの作製はできなかった。
【0077】
(比較例4)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み200μm)に代えて、厚み6μmのPETフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして光電極基板シートを作製した。
しかしながら、透明電極としてITOを成膜した後にシートの反りが大きくなり、その後の工程に使用可能な光電極基板シートの作製はできなかった。
【0078】
(比較例5)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、透明電極としてITO膜を、DCスパッタリング法を用いて下記条件で成膜した後、7×14cmに切り出した。なお、得られたITO膜の厚みは0.02μmであり、表面抵抗は200Ω/□であった。
(スパッタリング条件)
アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で2分成膜した。
透明電極であるITO膜以外は実施例1と同様にして光電極基板シートを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池セルを作製した。
【0079】
(比較例6)
実施例1の「(2)正電極基板シートの作製」において、ステンレス箔(SUS304、厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)との積層シートに代えて、厚み5μmのステンレス箔(SUS304)を用いた以外は実施例1と同様にして正電極基板シートを作製した。
次いで、得られた正電極基板シートを用いて、実施例1と同様の方法で、色素増感太陽電池セルの作製を試みたが、シワが生じるため、家庭用のはさみを用いて、正電極基板シートをだんご形状に切り出すことができず、色素増感太陽電池セルの作製はできなかった。
【0080】
(評価)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの評価
(1−1)任意形状の色素増感太陽電池の作製
実施例及び比較例で得られた色素増感太陽電池作製用キットについて、通常の家庭用のはさみを用いて、光電極基板シート又は正電極シートを任意の形状に切り出すことができた場合を「〇」、光電極基板シート又は正電極シートを任意の形状に切り出すことができなかった場合を「×」とした。
なお、この評価で「×」の場合は、色素増感太陽電池作製用キットとしては使用できないものと判断して以下の評価は行わなかった。
【0081】
(2)色素増感太陽電池セルの評価
(2−1)光電変換特性
実施例及び比較例で得られた色素増感太陽電池セルについて、光源強度が1SUN(100mW/cm2)であるソーラーシミュレータを用い、光電変換効率(η)を測定した。
【0082】
(2−2)電子オルゴールの動作
得られた色素増感太陽電池セルを4個直列にクリップで接続した後、電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、セル表面を照度1000lxに設定した際に、電子オルゴールを鳴らすことができた場合を「〇」、鳴らすことができなかった場合を「×」とした。
【0083】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットに関する。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、身近な材料である金属酸化物半導体多孔膜を利用した太陽電池であり、シリコン太陽電池に比べて、高価な材料やプロセスを必要とせず、安価な太陽電池を実現できるデバイスとして実用化が期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、通常、透明電極基板に金属酸化物半導体多孔質層を形成し色素を担持させた光電極と、基板に導電層を形成した正電極とを電解質層を介して挟み込んだ構成となっている。
このような色素増感太陽電池の基本原理は、特許文献1に開示されているように、以下の通りである。まず、色素増感太陽電池に光が照射されると、金属酸化物半導体多孔質層表面に吸着された増感色素が光を吸収し、色素分子内の電子が励起され、電子が半導体へ渡される。これにより、光電極側で電子が発生し、この電子が電気回路を通じて、正電極に移動する。そして、正電極に移動した電子は、電解質層を通じて光電極に戻る。このような過程が繰り返されることで、電気エネルギーが生じる。
【0004】
また、色素増感太陽電池は、他の太陽電池と比較して材料が安価であり、作製が容易であることから、学習教材キットとして非常に有用であるという特徴を有している。従って、教育現場において、色素増感太陽電池の組立キットに対する需要が非常に高まっている。
例えば、特許文献2には、半導体電極と対電極と電解質層とを備えた太陽電池作製キットが開示されている。
一方で、教育現場において、実際に色素増感太陽電池を作製する場合は、可能な限り安全な材料を使用し、かつ、製造工程についても危険を伴わないものとする必要があるが、特許文献2において、半導体層に使用されている酸化チタンは発ガン性が指摘されており、色素増感太陽電池作製キットの材質として安全とはいえなかった。
【0005】
また、特許文献3には、金属酸化物分散液、透明電極基板、ヨウ素系電解液を基本部材とする色素増感太陽電池製作用キット、及び、この金属酸化物分散液を薄膜化する工程を有する色素増感太陽電池の製造方法が開示されている。
しかし、このようなキットは主に専門家や教育指導者が対象になっているため、専門家以外の者が、このようなキットを用いて色素増感太陽電池の作製を行った場合、作製される色素増感太陽電池の性能(光電変換効率)が充分でない場合が多くなっていた。特に、児童向けのキットとしては組立の難易度が高く、児童が自分達だけで安全に組み立てられるようなものではなかった。
加えて、このようなキットでは、電極基板の形状が固定されており、特定の形状の色素増感太陽電池しか作製できないという課題があった。特に、子供向けのキットでは、太陽電池セルの形状も使用者の興味を引く大きな要因であり、使用者が各自の好きな形状に加工できて独自の形状の太陽電池セルを作製可能なキットが求められていた。
更に、このようなキットでは、色素等に安価で安全な材料を使用することが多いため、その色素増感太陽電池としての性能は充分でなく、屋外の太陽光照射(照度50000lx程度)の条件でようやく何らかのデバイスを動作させる程度のものであった。そのため、実際の使用では、天候や日照条件に左右されるため、確実に太陽電池の動作を確認することは容易ではなかった。
このように、従来の色素増感太陽電池製作用キットでは、安全性の面や、作業の容易性や太陽電池の性能の面で課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特開2004−264750号公報
【特許文献3】特開2006−108080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することを目的とする。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートと、導電層を有する正電極基板シートと、ヨウ素を含有する電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有し、光電極基板シート、正電極基板シート及び透明電極が特定の厚みを有する色素増感太陽電池作製用キットである。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、酸化亜鉛多孔質層が積層されて光電極基板シートと、正電極基板シートと、ヨウ素含有電解液とを組み合わせた色素増感太陽電池作製用キットにおいて、増感色素として食用色素を用いることで、色素増感太陽電池を簡便な方法で、安全に組み立てることができ、高性能な色素増感太陽電池を製造できる色素増感太陽電池作製用キットとなることを見出した。
また、光電極基板シートと正電極基板シート透明電極を薄くして、可とう性を持たせることにより、使用者が、光電極基板シートと正電極基板シートと電解液封止材シートを任意の形状に切り出すことができ、任意な形状の色素増感太陽電池セルを作製することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、光電極基板シートと、正電極基板シートと、電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有する。
以下、これらのそれぞれについて説明する。
【0011】
(光電極基板シート)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートを有する。上記光電極基板シートを有することで、光照射によって起電力を発生させることが可能となる。
【0012】
本発明では、上記樹脂基板を用いることで、ガラス基板を用いる場合と比較して、得られる色素増感太陽電池を軽量化できるとともに、柔軟で割れにくい構造とすることが可能となり、特に児童用の教材として好適に使用することができる。また、使用者が容易に所望の形状に加工することができ、色素増感太陽電池セルの形状の自由度を大幅に向上させることができる。
【0013】
上記光電極基板シートの厚みは、10〜1000μmである。厚みが10μm未満であると、光電極基板の自立性が低下しハンドリングが悪くなり、1000μmを超えると、使用者が光電極基板シートを任意の形状にカットすることが困難となる。
好ましくは100〜300μmである。
【0014】
上記樹脂基板としては、入射する光を妨げず、適度の強度を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、環状ポリオレフィン等の耐熱性を有する透明性樹脂からなるものが挙げられる。
【0015】
上記樹脂基板の厚みは、10〜1000μmであることが好ましい。厚みが10μm未満であると、樹脂基板の自立性が低下しハンドリングが悪くなり、1000μmを超えると、使用者が光電極基板シートを任意の形状にカットすることが困難となる。
より好ましくは100〜300μmである。
【0016】
上記透明電極としては、例えば、ITO、SnO2、ZnO、GZO、AZO、FTO等からなるものが好ましく、なかでも、抵抗率が小さく安定であり、透明性が高いという性質を有することから、ITOからなるものが好ましい。上記透明電極は、例えば、スパッタリング、CVD等の蒸着、イオンプレーティング等によって形成することができる。なお、上記透明基板と透明電極との間には、ハードコート層を形成してもよい。
【0017】
上記透明電極の厚みは、0.05〜0.3μmである。上記透明電極の厚みが0.05μm未満であると、透明電極の抵抗が高くなり、電極での損失が大きくなるため、得られる色素増感太陽電池の性能が低下し、太陽電池デバイスとしての動作ができなくなる。
逆に、上記透明電極の厚みが0.3μmを超えると、透明電極中の残留応力のために樹脂基板の反りが大きくなるとともに、光電極基板シートを曲げた時に透明電極にクラックが入りやすくなり、任意の形状に光電極基板シートを切り出した時に、透明電極が劣化し損失が大きくなるため、得られる色素増感太陽電池の特性が低下する。
好ましくは透明電極の厚みが0.1〜0.2μmである。
【0018】
本発明では、多孔質層を構成する材料として、酸化亜鉛を用いている。
従来使用されている酸化チタン等の材料は、発ガン性等の安全性の面で問題を有していたが、上記酸化亜鉛を用いることで、専門家以外の者、特に児童が使用する場合でも、安全な色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。
【0019】
上記酸化亜鉛多孔質層の膜厚の好ましい下限は0.5μm、好ましい上限は20μmである。0.5μm未満であると、色素担持量が少なくなるとともに、得られる色素増感太陽電池の光電変換特性も低下することがあり、20μmを超えても、酸化亜鉛多孔質層中の電子の拡散長が限られているために光電変換特性向上に寄与せず、逆に電解液の酸化亜鉛多孔質層への浸入が困難になることから光電変換特性が低下することがある。
なお、本発明では、光電極基板シートの端部以外に上記酸化亜鉛多孔質層を形成することが好ましい。
【0020】
(食用色素)
本発明では、増感色素として、食用色素を用いることを特徴とする。
児童等が使用する色素増感太陽電池作製用キットでは、キットの構成部材を誤って口に入れてしまうことも想定されるが、上記食用色素を用いることでこのような事態が発生した場合でも、増感色素による人体への悪影響を防止することができ、安全性の高い色素増感太陽電池作製用キットとすることができる。なお、本発明では、上記食用色素をそのままの状態で有していてもよく、水溶液の状態で有していてもよい。
【0021】
本発明における食用色素とは、毒性が低く、人間が食べた場合でも人体への安全性が確認されている色素のことをいう。また、食用色素には、天然食用色素と合成食用色素とがあるが、合成食用色素とは食品添加物として登録されている食用色素のことをいう。
上記食用色素は、合成食用色素と天然食用色素とに大別することができる。
上記合成食用色素としては、食品添加物として登録されている食用色素が好ましい。具体的には例えば、赤色3号、赤色104号、赤色105号等の食用タール色素等が挙げられる。なお、上記食用色素としては、水溶性のものを用いることが好ましい。
【0022】
本発明では、上記食用色素として、側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素を用いることが好ましい。上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素は、食用であることに加えて、色素増感太陽電池の増感色素として用いた場合に充分な電池性能を発現する。その結果、作製される色素増感太陽電池は、光電変換効率の高いものとなる。
【0023】
上記側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素としては、例えば、赤色3号(エリスロシン)、赤色104号(フロキシン)、赤色105号(ローズベンガル)が挙げられる。
これらの食用色素は単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
【0024】
上記光電極基板シートは、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等により、樹脂基板にITOからなる透明電極を形成した後、上記透明電極上に酸化亜鉛多孔質層を形成する方法等により製造することができる。
【0025】
上記酸化亜鉛多孔質層を形成する方法としては特に限定されず、例えば、酸化亜鉛半導体粒子と有機系バインダーを水やアルコール等の溶媒に分散させた溶液を透明電極上に塗布し、加熱を行うことにより乾燥焼成して膜を形成する塗布法;亜鉛塩を含む電解質溶液中に透明電極基板を浸漬し、電気化学的に透明電極基板上に酸化亜鉛の膜を形成する電析法等の方法を用いることができる。
【0026】
上記塗布法やゾル−ゲル法において、透明電極上に溶液を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法等が挙げられる。
【0027】
上記電析法は、高温の焼成工程を行うことなく、結晶性の高い酸化亜鉛半導体多孔質層を得ることが可能であることから、本発明のように樹脂基板を使用する場合に好適に行うことができる。具体的には例えば、金属塩を含有する電析浴中にテンプレート色素を混合し、作用極に透明電極基板、対向極に亜鉛等の金属を配置し、酸素をバブリングしながら参照電極に対して定電圧を印加する3電極法による方法等を用いることができる。
【0028】
(正電極基板シート)
本発明では、上記正電極基板(対向電極)シートとしては、ヨウ素を含有する電解液に耐食性のある導電性材料の基板であれば特に限定されないが、ステンレスやチタン等の耐食性金属やITOやSnO2等の透明導電性金属酸化物やポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性ポリマー等の導電層を有するものを用いることができる。
特に、上記のうちステンレス箔やチタン箔を用いることで、色素増感太陽電池作製用キットのコストを低減できるとともに、容易に任意の形状に加工することができる。
また、上記正電極基板シートとして、ステンレス箔やチタン箔と樹脂フィルムとを粘着剤を介してラミネートした積層フィルムを用いる場合は、切り出すことで任意の形状に加工でき、端部での切傷の危険性を低減することができる。更に、光電極基板シートを同様の積層フィルムとした場合、これらを合わせることで、更に柔軟性の高い色素増感太陽電池セルを作製することができる。
更に、鉛筆を用いて描画したり、塗りつぶしたりする方法を用いることで、手軽にカーボン系材料が担持された正電極基板シートとすることができる。
他に、カーボン系材料を印刷や塗布により基板表面に製膜することでも正電極基板シートにすることができる。
なお、上記ステンレスとは、通常ステンレス鋼として一般に使用されているもの、例えば、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト鋼等が使用でき、特にSUS304や、耐食性のあるSUS316等が好ましく使用される。
【0029】
上記正電極基板シートの厚みは、10〜1000μmである。厚みが10μm未満であると、正電極基板の自立性が低下しハンドリングが悪くなり、1000μmを超えると、使用者が正電極基板シートを任意の形状にカットすることが困難となる。
好ましくは100〜300μmである。
【0030】
上記導電層の厚みは、5〜100μmであることが好ましい。上記導電層の厚みが5μm未満であると、シワが入りやすくハンドリング性が悪くなり、逆に導電層の厚みが100μmを超えると、普通の家庭用はさみで切ることが困難になる。好ましくは10〜50μmである。
【0031】
(電解液)
本発明では、ヨウ素を含有する電解液を用いる。このような電解液を用いることで、色素増感太陽電池の効率を高めることができる。更に、ヨウ素は日本に豊富に存在する資源であるため、入手が容易であることも理由の1つである。
なお、ヨウ素を含有する電解液は、ヨウ素イオンによる電子の輸送の面で優れるが、正電極基板シートを腐食しやすいという欠点も有する。しかしながら、本発明では、正電極基板シートの導電層を耐食性金属のステンレスやチタン、導電性の金属酸化物又は導電ポリマー等にすることで、腐食の問題を解決することができる。
【0032】
上記電解液としては、ヨウ素を含有し、かつ、イオンを媒体として電子やホールを輸送できる物質であれば特に限定されず、例えば、ヨウ素及びヨウ化物等の酸化還元物質を有機溶媒に溶解した溶液を用いることができる。
具体的には例えば、上記ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、テトラプロピルアンモニウムヨージド、フェニルトリメチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ヨウ素イオンをアニオンとするイミダゾリウム塩である1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオダイド、1−メチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオダイド等が挙げられる。
なかでも、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド等の4級ヨウ化アルキルアンモニウムが好ましい。
【0033】
上記有機溶媒としては、例えば、エタノール等の低級アルコール、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の多価アルコール、ニトリル系のアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルや炭化水素系のプロピレンカーボネート、ジエチルカルボナート、γープチロラクタンやポリエチレングリコール等の多価アルコール、イミダゾリウム塩等のイオン液体が挙げられる。これらの中では、安全なエタノールを用いることが好ましい。
【0034】
上記電解液におけるヨウ素の濃度の好ましい下限は0.02mol/L、好ましい上限は1.0mol/Lである。ヨウ素の濃度を上記範囲内とすることで、仮に、誤飲等がなされても、人体に悪影響がでない範囲とすることができる。
上記ヨウ素の濃度が0.02mol/L未満であると、色素増感太陽電池の変換効率が低下することがあり、1.0mol/Lを超えると、ヨウ素が溶媒に溶解しにくくなったり、正電極基板シートのステンレスを腐食して、黒点が発生しやすくなったりする。
上記ヨウ素の濃度のより好ましい下限は0.03mol/L、より好ましい上限は0.4mol/Lであり、さらに好ましい上限は0.2mol/Lである。
【0035】
上記ヨウ化物の濃度は、好ましい下限はヨウ素濃度の5倍、好ましい上限はヨウ素濃度の30倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度の好ましい下限は0.1mol/L、好ましい上限は30mol/Lである。さらに好ましい下限はヨウ素濃度の8倍、さらに好ましい上限は15倍である。即ち、上記電解液におけるヨウ化物濃度の好ましい濃度は0.16mol/L、好ましい上限は15mol/Lである。ヨウ化物濃度がこの範囲より大きくても小さくても光変換効率が低下することがある。
【0036】
(電解液封止部材シート)
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、電解液封止部材シートを有する。
上記電解液封止部材シートは、光電極基板シートと正電極基板シートを貼り合せてセルを構成し、内部に電解液を保持するためのものである。
上記電解液封止部材シートは、両主面に粘着剤を有する樹脂フィルムであることが好ましい。
このような電解液封止部材シートを用いることで、貼り合わせに失敗してもやり直すことができるので、子供にも取り扱いやすくなる。
上記粘着剤(接着剤)としては、電解液と反応せず、電解液の溶媒に対して不活性な材料であり、樹脂基板と密着性が良い部材が好ましいが、短期間の使用であれば通常の樹脂基板用の接着剤や粘着剤が使用できる。
上記粘着剤としては例えば、アクリル系やシリコーン系やフッ素系の接着剤、粘着剤が好適に使用できる。なかでも、安価で作業性の良いことから、アクリル系の粘着剤を用いることが好ましい。
【0037】
上記電解液封止材シートの厚みは、10〜100μmであることが好ましい。
上記電解液封止材シートの厚みが10μm未満であると、電極基板間距離が小さくなり過ぎて短絡しやすくなり、粘着力や接着力も低下して、電極基板が剥がれやすくなる。逆に電解液封止材シートが100μmを超えると、電極基板間距離が大きくなり過ぎ、電解液層のイオン電導が遅くなるために色素増感太陽電池の特性が低下するとともに、電解液封止材シート自体の切り出しも容易ではなくなる。より好ましくは30〜60μmである。
【0038】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、更に正電極基板用のカーボン系材料を有することが好ましい。上記カーボン系材料は、正電極基板シートに担持させることで触媒層としての役割を有するものである。上記カーボン系材料としては、例えば、グラファイト等を用いることができる。上記グラファイトは、例えば、各種の鉛筆を用いて描画するなどして容易に正電極基板シートに塗布することができる。
【0039】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットでは、その他の部材として、色素増感太陽電池セル同士を電気的に接続する電極挟み用のクリップ、電子メロディー等を組み合わせてキットとしてもよい。
【0040】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池を作製する方法としては、例えば、光電極基板シート、正電極基板シート及び電解液封止材シートを任意の形状に切り出す工程、前記光電極基板シートの酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、前記正電極基板シートのカーボン系材料を担持する工程、前記正電極基板シートに電解液封止材シートを添付する工程、ヨウ素を含有する電解液を前記光電極基板シート又は正電極基板シートに滴下する工程、及び、前記光電極基板シートと、前記正電極基板シートと貼り合わせる工程を行う方法が挙げられる。
このような色素増感太陽電池の製造方法もまた本発明の1つである。
【0041】
本発明の色素増感太陽電池の製造方法について図面(図1〜10)を用いて説明する。
まず、図1に示す樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層2がこの順で積層された光電極基板シート1を用意した後、図2に示すように、接続端子部7を残して、酸化亜鉛多孔層部分を任意形状(図では、だんご形状)に切り出して光電極基板11を作製する。
【0042】
次いで、図3に示すように、光電極基板11の酸化亜鉛多孔質層2に、側鎖にアルキル基を有しないキサンテン系色素からなる食用色素を担持させる。
上記食用色素を担持させる方法としては、例えば、上記食用色素を含有する溶液に、上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板11を浸漬した後、乾燥を行う方法等が挙げられる。
【0043】
上記酸化亜鉛多孔質層2が形成された光電極基板11を浸漬する際の浸漬時間の好ましい下限は5分、好ましい上限は2時間である。5分未満であると、色素溶液が酸化亜鉛多孔質層2の内部まで充分に浸透しないことがあり、2時間を超えると、酸化亜鉛多孔質層2への食用色素の吸着量が多くなりすぎ、食用色素の積層吸着が発生し、酸化亜鉛多孔質層2への電子の流れを阻害してセル特性の低下や劣化を招いたりすることがある。
【0044】
上記食用色素を含有する溶液に用いる溶媒としては、食用色素を溶解することができ、基板フィルムを劣化させないものであれば特に限定されず、例えば、水、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等が挙げられる。本発明においては、水道水で溶解させることも考えられるため、水が好ましい。
【0045】
上記食用色素を含有する溶液における食用色素の含有量は、0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量%である。上記含有量が0.01重量%未満であると、酸化亜鉛多孔質層への食用色素の吸着が不充分となることがあり、10重量%を超えて添加しても食用色素の吸着量は飽和して余分な食用色素が発生する。
【0046】
本発明において食用色素を担持させる方法としては、図3に示すように、上記食用色素を含有する溶液を、シャーレ等のガラス容器に入れ、その中に光電極基板シートを浸漬する方法のほか、色素増感太陽電池作製用キットを包装するためのポリ袋に、上記食用色素を含有する溶液を入れて食用色素を担持させてもよい。
【0047】
次に、図4及び図5に示すように、ステンレスからなる正電極基板シート3(図4)に、鉛筆等を用いてグラファイト4を担持する(図5)。本発明では、鉛筆等を用いて容易にグラファイト4を正電極基板シート3に担持することができる。グラファイト4は、触媒層としての役割を有する。
鉛筆を用いてグラファイト4を担持させる場合、上記鉛筆の硬度については特に限定されないが、HB以下の硬度であることが好ましく、2B以下の鉛筆を用いることがより好ましい。
【0048】
次いで、図6に示すように、接続端子部8を残して、グラファイト4を担持した部分を任意形状(図では、だんご形状)に切り出して正電極基板13を作製する。
【0049】
次いで、図7に示すように、正電極基板13に任意形状(図では、だんご形状の周辺部)に切り出し両面テープ5を添付する。
【0050】
本発明の色素増感太陽電池の製造方法において、上記光電極基板シート、正電極基板シート及び電解液封止材シートを任意の形状に切り出す方法としては、目的形状の型紙を作製し、それを光電極基板シート、正電極基板シート、電解液封止材シートに重ね合わせて、型紙の輪郭に合わせてカッターやはさみで各シートを切り出す方法が挙げられる。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いることで、簡便な方法で形状を容易に変化させることが可能となり、作製の自由度が大幅に向上する。
【0051】
本発明において、光電極基板及び正電極基板の切り出す際には、貼り合せた色素増感太陽電池セルの接続端子間の距離が0.5〜10cm程度となるようにすることが好ましく、より好ましくは1〜5cmである。接続端子間の距離が長いと接続端子間の基板電極の抵抗が大きくなり、それによる損失が大きいため、色素増感太陽電池セルの発電効率が低下し、デバイスの動作が難しくなり、逆に接続端子間の距離が短いと色素増感太陽電池セルが小さくなることで、全体の発電量が減少し、デバイスを動作させにくくなる。
【0052】
そして、図8に示すように、光電極基板11の酸化亜鉛多孔質層2にスポイト6等を用いてヨウ素電解液を滴下する。逆に、正電極基板13のグラファイト4を担持した部分(両面テープで囲まれた部分)に滴下することもできる。
ヨウ素電解液を滴下する方法としては特に限定されないが、スポイト等を用いて光電極基板の酸化亜鉛多孔膜の面積が1cmあたり数滴程度滴下することが好ましい。
上記ヨウ素電解液を滴下する際の滴下量は、1cm2あたり1〜40μLが好ましい。さらに好ましくは1cm2あたり2〜20μLである。
上記滴下量が1μL未満であると、作製される色素増感太陽電池セル中に電解液が満たされず、発電能力が低下することがある。40μLを超えると、電解液が色素増感太陽電池セル外に漏れ出しやすくなる。
【0053】
その後、図9及び図10に示すように、光電極基板11と、正電極基板13と貼り合わせる(図9)ことで、色素増感太陽電池セルを作製する(図10)。
本発明の方法では、正電極基板13に電解液を滴下した後に、光電極基板11を貼り付けて色素増感太陽電池セルを作製する。このような方法では、ヨウ素電解液の滴下量を予め決定しておくことで、ヨウ素電解液がセル外部に漏れる不具合を防止して、安全かつ清潔にセルを作製することができる。
【0054】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットによれば、安全にかつ簡便に色素増感太陽電池を組み立てることができ、その組立作業の体験を通して、楽しみながら学習することができる。また、本発明の色素増感太陽電池作製用キットは、学生の学習教材として使うこともできるし、DIYセットとして使うこともできる。
また、組立後に得られる色素増感太陽電池は、屋外の太陽光下(照度50000〜10000lx程度)でも電子オルゴール等を動作させることができ、屋内でも蛍光灯等の補助光を使用すれば太陽電池として使用することができる。
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池もまた本発明の1つである。
【0055】
本発明の色素増感太陽電池作製用キットを用いて得られる色素増感太陽電池(色素増感太陽電池セル)の一例を図11に示す。
図11に示すように、花びら形状の色素増感太陽電池セル20は、食用色素が担持された酸化亜鉛多孔質層27、光電極用端子26、正電極用端子24を有し、電解液封止部材で封止された部分に電解液が封入されている。また、各端子を介して複数の色素増感太陽電池20を接続し、モジュールとすることで、例えば、花形の色素増感太陽電池モジュールとすることができる。
また、本発明で得られる色素増感太陽電池セルは、光電極基板又は正電極基板に接続端子部を1つ有するものであってもよく、複数有するものであっても良い。接続端子部を2個有する場合の一例を図12に示す。接続端子部は、数が多いほど、色素増感太陽電池セルの接続端子間の距離を短くすることができることから、接続端子部を複数有することで、色素増感太陽電池セルの効率を向上させることが可能となる。逆に、同じ性能を有するものであれば、より大きなセルを作製することができる。
【発明の効果】
【0056】
本発明によれば、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図2】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図3】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図4】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図5】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図6】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図7】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図8】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図9】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図10】本発明の色素増感太陽電池の製造方法を示す模式図である。
【図11】本発明の色素増感太陽電池の一例を示す模式図である。
【図12】本発明の色素増感太陽電池の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0059】
(実施例1)
(1)光電極基板シートの作製
PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み200μm)に、UV硬化アクリル樹脂のハードコートを施した後、透明電極としてITO膜を、スパッタリング法を用いて成膜した後、7×14cmに切り出した。
なお、ITO膜はDCスパッタリング法により形成し、アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で20分成膜した。得られたITO膜の厚みは0.15μmであり、表面抵抗は24Ω/□であった。
【0060】
次いで、酸化亜鉛微粒子(テイカ製MZ−500)3.0gに対して、溶媒(テルピネオール)7.0gとバインダー(エチルセルロース)0.1gを添加し、混合分散してペーストを作製した。その後、得られたペーストを5×14cmの矩形パターンでスクリーン印刷し、100℃30分で溶媒乾燥し、厚み10μmの酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで、両端部に接続端子部を有する光電極基板シートとした。
【0061】
(2)正電極基板シートの作製
ステンレス箔(SUS304、厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605、厚み50μm)を介してラミネートし、これを7×14cmに切り出すことで、積層シートからなる正電極基板シートを作製した。
【0062】
(3)両面テープシートの作製
両面テープ(日東電工社製、5605)を離型紙にラミネートし、5×14cmサイズに切り出すことにより、両面テープシートを作製した。
【0063】
(4)色素水溶液の作製
食用赤色3号色素(エリスロシン)0.5gを、水99.5gに溶かして、色素水溶液100gを作製した。
【0064】
(5)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板シート、正電極基板シート、ヨウ素電解液(ヨウ素濃度0.05mol/L、テトラブチルアンモニウムヨージド[TBAI]0.5mol/L、プロピレンカーボネート[PC]溶媒)、食用赤色3号色素(エリスロシン)水溶液、両面テープシート、シャーレ、スポイト及び、ピンセットを組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0065】
(6)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、家庭用のはさみを用いて、光電極基板シートの接続端子部を残し、酸化亜鉛多孔膜部分を約3×5cmのサイズに円形のセルが2個並んだだんご形状に切り出して光電極基板を作製した。
また、正電極基板シートについても、通常の家庭用のはさみを用いて、接続端子部分のみを光電極基板シートと反対側に形成した以外は光電極基板シートと同様の形状に切り出した。
更に、両面テープシートについても、光電極基板シートと同様の形状に切り出し、さらにその内側を、幅3mmを残して内側部分を切り抜いて、光電極基板に合った両面テープシートを作製した。
次いで、色素水溶液をシャーレに入れて、酸化亜鉛半導体多孔膜を形成した光電極基板を15分浸漬した後、水洗し30分間自然乾燥することで、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、4B鉛筆でグラファイトを塗布した正電極基板の周辺部に両面テープシールを貼り付けた。その後、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0066】
(実施例2)
(1)光電極基板シートの作製
厚み100μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み100μm)に、実施例1と同様に透明電極としてITO膜を、スパッタリング法を用いて成膜した後、7×14cmに切り出した。得られたITO膜の厚みは0.15μmであり、表面抵抗は22Ω/□であった。
【0067】
次いで、実施例1と同様に酸化亜鉛ペーストを作製し、それを5×14cmの矩形パターンでバーコート印刷し、100℃30分で溶媒乾燥し、厚み12μmの酸化亜鉛半導体多孔膜を成膜することで、両端部に接続端子部を有する光電極基板シートとした。
【0068】
(2)正電極基板シートの作製
チタン箔(厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)とを両面テープ(日東電工社製、5605、厚み50μm)を介してラミネートし、これを7×14cmに切り出すことで、積層シートからなる正電極基板シートを作製した。
【0069】
(3)両面テープシートの作製
実施例1と同様に両面テープシートを作製した。
【0070】
(4)色素水溶液の作製
実施例1と同様に色素水溶液100gを作製した。
【0071】
(5)色素増感太陽電池作製用キットの組み合わせ
得られた光電極基板シートと正電極基板シートに、実施例1と同様のヨウ素電解液、色素水溶液、両面テープシート、シャーレ、スポイト及び、ピンセットを組み合わせて色素増感太陽電池作製用キットとした。
【0072】
(6)色素増感太陽電池セルの作製
得られた色素増感太陽電池作製用キットを用いて色素増感太陽電池セルを作製した。
まず、通常の家庭用のはさみを用いて、光電極基板シートの接続端子部を残して、酸化亜鉛多孔膜部分を縦横3×3cmのサイズの三角形セルが2個並んだ形状に切り出して光電極基板を作製した。
また、正電極基板シートについても、通常の家庭用のはさみを用いて、接続端子部分のみを、光電極基板シートと反対側に形成した以外は光電極基板シートと同様の形状に切り出した。
更に、両面テープシートについても、光電極基板シートと同様の形状に切り出し、さらにその内側を、幅3mmを残して内側部分を切り抜いて、光電極基板に合った両面テープシートを作製した。
次いで、実施例1と同様に、酸化亜鉛半導体多孔膜に色素が担持された光電極基板を得た。
次いで、実施例1と同様に正電極基板を作製し、その後、光電極基板の酸化亜鉛半導体多孔膜の上にヨウ素電解液を所定量滴下した後に、正電極基板を貼り合せて、色素増感太陽電池セルを作製した。
【0073】
(比較例1)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み200μm)に代えて、ポリカーボネートシート(厚み2000μm)を用いた以外は実施例1と同様にして光電極基板シートの作製を行った。
次いで、得られた光電極基板シートを用いて、実施例1と同様の方法で、色素増感太陽電池セルの作製を試みたが、家庭用のはさみを用いて、光電極基板シートをだんご形状に切り出すことができず、色素増感太陽電池セルの作製はできなかった。
【0074】
(比較例2)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、透明電極としてITO膜を、DCスパッタリング法を用いて下記条件で成膜した後、7×14cmに切り出した。なお、得られたITO膜の厚みは0.35μmであり、表面抵抗は9.8Ω/□であった。
(スパッタリング条件)
アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で60分成膜した。
【0075】
しかしながら、得られたITO膜付き樹脂基板シートは、反りが大きく、その後の印刷等の工程に進められるものではなかった。また、これを無理に引き伸ばしてはさみで切り出すと、ITO膜がひび割れし、外観的にも透明性が損なわれ使用できなくなった。
【0076】
(比較例3)
実施例1の「(2)正電極基板シートの作製」において、ステンレス箔(SUS304、厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)との積層シートに代えて、厚み200μmのステンレス板(SUS304)を用いた以外は実施例1と同様にして、正電極基板シートを作製した。
次いで、得られた光電極基板シートを用いて、実施例1と同様の方法で、色素増感太陽電池セルの作製を試みたが、家庭用のはさみを用いて、正電極基板シートをだんご形状に切り出すことができず、色素増感太陽電池セルの作製はできなかった。
【0077】
(比較例4)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、PETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4100、厚み200μm)に代えて、厚み6μmのPETフィルムを用いた以外は実施例1と同様にして光電極基板シートを作製した。
しかしながら、透明電極としてITOを成膜した後にシートの反りが大きくなり、その後の工程に使用可能な光電極基板シートの作製はできなかった。
【0078】
(比較例5)
実施例1の「(1)光電極基板シートの作製」において、透明電極としてITO膜を、DCスパッタリング法を用いて下記条件で成膜した後、7×14cmに切り出した。なお、得られたITO膜の厚みは0.02μmであり、表面抵抗は200Ω/□であった。
(スパッタリング条件)
アルゴンガス流量50sccm、酸素ガス流量1.5sccm、電圧370V、電流2Aの条件で2分成膜した。
透明電極であるITO膜以外は実施例1と同様にして光電極基板シートを作製し、これを用いた以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池セルを作製した。
【0079】
(比較例6)
実施例1の「(2)正電極基板シートの作製」において、ステンレス箔(SUS304、厚み20μm)とPETフィルム(厚み100μm)との積層シートに代えて、厚み5μmのステンレス箔(SUS304)を用いた以外は実施例1と同様にして正電極基板シートを作製した。
次いで、得られた正電極基板シートを用いて、実施例1と同様の方法で、色素増感太陽電池セルの作製を試みたが、シワが生じるため、家庭用のはさみを用いて、正電極基板シートをだんご形状に切り出すことができず、色素増感太陽電池セルの作製はできなかった。
【0080】
(評価)
(1)色素増感太陽電池作製用キットの評価
(1−1)任意形状の色素増感太陽電池の作製
実施例及び比較例で得られた色素増感太陽電池作製用キットについて、通常の家庭用のはさみを用いて、光電極基板シート又は正電極シートを任意の形状に切り出すことができた場合を「〇」、光電極基板シート又は正電極シートを任意の形状に切り出すことができなかった場合を「×」とした。
なお、この評価で「×」の場合は、色素増感太陽電池作製用キットとしては使用できないものと判断して以下の評価は行わなかった。
【0081】
(2)色素増感太陽電池セルの評価
(2−1)光電変換特性
実施例及び比較例で得られた色素増感太陽電池セルについて、光源強度が1SUN(100mW/cm2)であるソーラーシミュレータを用い、光電変換効率(η)を測定した。
【0082】
(2−2)電子オルゴールの動作
得られた色素増感太陽電池セルを4個直列にクリップで接続した後、電子オルゴールと接続した。これに屋内で蛍光灯を補助光として照射して、セル表面を照度1000lxに設定した際に、電子オルゴールを鳴らすことができた場合を「〇」、鳴らすことができなかった場合を「×」とした。
【0083】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、安価かつ簡便な方法で安全に組み立てることができ、使用者が自由に切り出すことが可能となることで任意形状の色素増感太陽電池を作製できる色素増感太陽電池作製用キットを提供することができる。また、本発明は、該色素増感太陽電池作製用キットを用いてなる色素増感太陽電池の製造方法及び色素増感太陽電池を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートと、導電層を有する正電極基板シートと、ヨウ素を含有する電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有し、
前記光電極基板シートの厚みが10〜1000μm、前記正電極基板シートの厚みが10〜1000μmであり、かつ、前記透明電極の厚みが0.05〜0.3μmである
ことを特徴とする色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項2】
光電極基板シート又は正電極基板シートは、端部に接続端子部を有することを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項3】
正電極基板シートは、ステンレス箔又はチタン箔と樹脂フィルムとを粘着剤を介してラミネートした積層フィルムであることを特徴とする請求項1又は2記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項4】
電解液封止材シートは、両主面に粘着剤を有する樹脂フィルムと表面保護フィルムとの積層フィルムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いる色素増感太陽電池の製造方法であって、
光電極基板シート、正電極基板シート及び電解液封止材シートを任意の形状に切り出す工程、
前記光電極基板シートの酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、
前記正電極基板シートのカーボン系材料を担持する工程、
前記正電極基板シートに電解液封止材シートを添付する工程、
ヨウ素を含有する電解液を前記正電極基板シートに滴下する工程、及び、
前記光電極基板シートと、前記正電極基板シートと貼り合わせる工程を有する
ことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項1】
樹脂基板、透明電極及び酸化亜鉛多孔質層がこの順で積層された光電極基板シートと、導電層を有する正電極基板シートと、ヨウ素を含有する電解液と、食用色素と、電解液封止材シートとを有し、
前記光電極基板シートの厚みが10〜1000μm、前記正電極基板シートの厚みが10〜1000μmであり、かつ、前記透明電極の厚みが0.05〜0.3μmである
ことを特徴とする色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項2】
光電極基板シート又は正電極基板シートは、端部に接続端子部を有することを特徴とする請求項1記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項3】
正電極基板シートは、ステンレス箔又はチタン箔と樹脂フィルムとを粘着剤を介してラミネートした積層フィルムであることを特徴とする請求項1又は2記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項4】
電解液封止材シートは、両主面に粘着剤を有する樹脂フィルムと表面保護フィルムとの積層フィルムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の色素増感太陽電池作製用キット。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いる色素増感太陽電池の製造方法であって、
光電極基板シート、正電極基板シート及び電解液封止材シートを任意の形状に切り出す工程、
前記光電極基板シートの酸化亜鉛多孔質層に、食用色素を担持させる工程、
前記正電極基板シートのカーボン系材料を担持する工程、
前記正電極基板シートに電解液封止材シートを添付する工程、
ヨウ素を含有する電解液を前記正電極基板シートに滴下する工程、及び、
前記光電極基板シートと、前記正電極基板シートと貼り合わせる工程を有する
ことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4記載の色素増感太陽電池作製用キットを用いてなることを特徴とする色素増感太陽電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−97920(P2013−97920A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237530(P2011−237530)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】
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