説明

色素増感太陽電池用の低温プラチナイズ(platinisation)

本発明は、色素増感太陽電池(DSSC)の分野に関するものであり、幅広い種類の基材に適用できる対向電極の低温プラチナイズ方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池(DSSC)の分野に関し、様々な基材に適用可能な対向電極低温プラチナイズ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の太陽電池は、ソリッドステート半導体を用いて製造される。電池は2つの添加処理結晶(doped crystal)を並置する形で作られる。一方の結晶はわずかに負の電荷を帯びて自由電子が余っている(n型半導体)。他方の結晶はわずかに正の電荷を帯びて自由電子が不足している(p型半導体)。これら2つの添加処理結晶が接触すると、n型半導体から出る余剰電子がn−p接合を通って流れ、p型半導体における電子の不足を解消する。p−n接合では、電荷キャリアは一方で減少し、他方で蓄積し、それによって電位壁が生じる。太陽光によって生じた光子がp型半導体に当たると、当該光子により、低エネルギ準位で拘束されていた電子が伝導帯に移動する。電子は伝導帯では自由に移動できる。電池をまたいで負荷が接続されており、これによってp型半導体からn型半導体に、外部回路を通して電子を移動する。その後、電子は自然にp型材料へ移動し、太陽エネルギによって引き出される以前の低エネルギ準位に戻る。こうした動きが電流を発生させる。
【0003】
通常の太陽電池結晶はシリコンから製造される。可視光範囲の周波数を有する光子は、低エネルギ準位と伝導帯との間のバンドギャップをまたいで電子を取り出すのに充分なエネルギを有しているからである。これら太陽電池の主要な問題点の1つは、最もエネルギの強い紫から紫外線の周波数の光子の場合、電子にバンドギャップを越えさせるのに必要な量を上回るエネルギを有しているため、かなりの量のエネルギが単に熱に変換される形で無駄になってしまう、ということである。そして、もう1つの重要な問題は、p型層の厚みである。光子を捕らえられるようにするには充分な厚みを持たせなければならないが、厚くすることで、新たに引き出された電子までが生じた孔と再結合してしまってp−n接合部に到達できない、という可能性が出てくる。よって、シリコン型太陽電池に関して報告されている効率は、太陽電池モジュールの場合、個々の電池を一体に結合する際に損失のため、最高でも20〜25%、または、これを下回る値となっている。
【0004】
また、シリコン型太陽電池に関する別の重要な問題として、金銭評価(monetary price)や具体化エネルギ(すなわち、装置の製造に必要なエネルギ)に関わるコストの問題がある。色素増感太陽電池(DSSC)は、1991年にO’ReganおよびGratzelによって開発された(O’Regan B.およびGratzel M.(著)、「Nature」誌353号(1991年)の737〜740頁)。これは低コストの材料で製造され、製造にあたって複雑な設備を必要としない。色素増感太陽電池では、シリコンが提供する2つの機能は分離される:半導体の大部分は電荷輸送のために用いられ、光電子は別の感光性色素から生じる。本電池は、図1に示すサンドイッチ構造を有し、通常、以下の手順で製造される。
(a)透明なプレート(1)(通常はガラス製)を設置する;
(b)当該プレートを、透明な導電性酸化物(TCO)(2)でコーティングする。TCOにはスズ酸化物を添加するのが好ましい;
(c)コーティング後のガラスプレートのTCO側に金属酸化物(3)(通常は二酸化チタン)のペーストを塗布する;
(d)1時間以上にわたって、プレートを約450〜500度の温度に加熱する;
(e)コーティングしたプレートを処理(d)の後、約24時間にわたって色素溶液に浸し、色素を二酸化チタンの表面に共有結合させる(4);
(f)TCOでコーティングされた透明なプレートをもう1枚、さらにプラチナ(5)でコーティングしてから設置する;
(g)2枚のガラスプレートを封止してから、両プレート間に電解質溶液(6)を導入することで、2枚の導電性プレートの間に色素染色した金属酸化物と電解質とを閉じ込め、電解質の漏出を防止する。
【0005】
こうした電池では、光子が色素に当ってこれを励起状態とし、励起状態では二酸化チタンの伝導帯に電子を注入することができる。当該伝導体から電子は陰極に移動する。色素/TiO系から失われた電子は、対向電極でヨウ化物を酸化して3ヨウ化物とすることで置き換えられる。その反応は、光化学サイクルの続行を可能とするのに充分な速さで行われる。対向電極をコーティングしているプラチナは、ヨウ化物/3ヨウ化物酸化還元対の還元に関して触媒として作用する。そのため、プラチナが存在しない場合、太陽電池の効率は厳しく制限される。
【0006】
DSSCから生じる最大電圧は、シリコン太陽電池のそれに匹敵し、0.7v程度である。シリコン太陽電池と比較した場合のDSSCの重要な効果は、二酸化チタン伝導体に電子を注入する際、近くに電子空位を生じさせることがないため、電子と孔とが直ちに再結合してしまう事態を防止できるという点である。したがって、DSSCは弱光条件下でも機能できる。シリコン太陽電池の場合、弱光条件下では、電子と孔との再結合メカニズムが支配的となる。しかしながら、現在のDSSCは、可視光周波数領域の低周波数部分(赤および赤外線の領域)では、あまり効率が良くない。この領域の光子のエネルギは、二酸化チタンのバンドギャップを越えたり、従来のルテニウムビピリジル色素のほとんどを励起させたりするには不充分だからである。
【0007】
また、従来のDSSCの主要な問題点は、対向電極にプラチナを蒸着し、これをか焼するのに高温が必要となる、ということである。また、光電極に用いられる金属酸化物ペーストの焼結に高温が必要となることも問題である。更に、色素増感太陽電池の別の問題点として、二酸化チタンのナノ粒子の色素染色に長い時間を要する(太陽電池の用途では、二酸化チタンの層を色素染色するのに12〜24時間かかる)。また、DSSCの別の主要な問題として、電解質溶液に関する問題があり、旧来の太陽電池製造においては、液体電解質の漏出やそれによる電池の劣化を防ぐためには、念入りに電池を封止しなければならない。[PtCl6]2-の分解に必要な熱は約400℃である。こうした高温のために、基材に使用可能な透明素材の性質は制限され、ガラスに限られてしまう。温度を150℃以下に下げることができれば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)などの透明ポリマーが使用できる。
【0008】
そのため、コストを抑制しながら短時間で製造することのできる、頑丈な太陽電池を作り出す必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第97/015959号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、色素増感太陽電池の対向電極をコーティングするプラチナ粒子の積層およびか焼に必要な温度を下げることを目的とする。
また、本発明は、基材へのプラチナ粒子の接着を確実に良好な状態で実現することを目的とする。
また、本発明は、積層されるプラチナ層について高い透明度を実現することを目的とする。
【0011】
更に、本発明は、導電性基材の可能な限り広い範囲が確実にプラチナ層によって覆われるようにすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、独立請求項で定義される本発明によって達成される。また、従属請求項には好適な実施の形態が定義されている。
【発明の効果】
【0013】
コストを抑制しながら短時間で製造することのできる、頑丈な太陽電池を作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】色素増感太陽電池を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明が開示するのは、色素増感太陽電池の対向電極をコーティングするプラチナの低温積層方法である。
当該方法は、
(a)導電性基材から製造された対向電極を設置する処理と、
(b)対向電極を透明な導電性酸化物の1以上の層でコーティングする処理と、
(c)オプションとして超音波を併用しながら、有機溶媒で対向電極を洗浄する処理と、
(d)プラチナイズに適した表面を準備すると共にプラチナ薄膜を確実に良好な状態で接着するために、対向電極に施す前処理と(当該前処理はオプションである)、
(e)金属塩を含む有機溶剤で対向電極を活性化し、当該対向電極の表面で前記金属塩を還元する処理と、
(f)処理(e)を終えた対向電極をpHが3以上のPt(II)またはPt(IV)の水性プラチナ溶液で加工する処理と、
(g)還元剤を加える処理と、
(h)プラチナでコーティングされた対向電極を回収する処理と、
を有する。
【0016】
対向電極のプラチナイズは、色素増感太陽電池の製造における重要な処理である。プラチナは、対向電極からヨウ化物/3ヨウ化物酸化還元対への電子移動に関して触媒として作用する。そして、ヨウ化物/3ヨウ化物酸化還元対は、これを受けて、色素を励起状態から基底状態に再生させる。対向電極を効率よくプラチナイズできなければ、DSSC装置の効率はひどく限定されることになる。
【0017】
従来技術では、対向電極のプラチナイズは、ヘキサクロロ白金(IV)酸の水溶液を塗布した後、400℃で30分以上加熱する、というやり方で実行される。これは、透明導電性酸化物(TCO)でコーティングしたガラスから製造された対向電極にプラチナを塗布する場合には適しているが、ポリマーのように温度の影響を受けやすい基材には適していない。
【0018】
導電性基材または対向電極は、透明なガラスまたはポリマーから製造することができ、ポリマーについては、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)やポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系薄膜から選択することができる。更に、アルミニウム、チタン、鋼といった不透明な基材から製造することもできる。ただし、導電性かつ透明である方が好ましい。また、TCOコーティングしたガラスから製造するのが好ましく、TCOコーティングしたポリマーから製造するのが更に好ましい。
【0019】
透明導電性酸化物(TCO)は、アルミニウムまたはフッ素を添加した酸化亜鉛とするのが好ましい。また、スズ酸カドミウムである場合も、スズ酸化物である場合もあるが、フッ素、インジウムまたはアンチモンを添加したスズ酸化物がより好ましい。その中では、フッ素またはインジウムを添加したものが好ましい。対向電極には、導電性酸化物の複数の層を塗布することができる。
【0020】
加えて、300〜500nmの範囲の径を有するチタニア粒子の層を、1または複数、散乱層として追加することもできる(径は約400nmが好ましい)。この散乱層により、電池の効率が更に向上する。
処理(c)で洗浄用溶液に使われる有機溶媒には付加的な役割もあり、それは、TCOの表面張力を小さくして、後の工程で用いられる水溶液との間の、表面湿潤性や相互作用を高める、というものである。アセトン、エタノール、ジエチルエーテルのいずれかを選択するのが好ましい。洗浄用溶液は、塩化水素酸、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または、アンモニア/過酸化水素の水溶液から選択することができる。水性アンモニア/過酸化水素とするのが好ましい。洗浄用溶液には、TCO表面から表面物質を除去する、という追加の効果もある。洗浄処理は、20〜80℃の温度で3〜5分にわたって実行される。基材については、酸素が基材の表面と接触する状態が確実に維持されるよう、下向きに置くのが好ましい。
【0021】
処理(d)の前処理は行ってもよいが、必須ではない。当該前処理の実行には、二塩化スズ水溶液または二塩化亜鉛水溶液を用いるが、二塩化スズ水溶液が好ましい。
活性化処理(e)によって、電極表面でのプラチナ核形成が促進され、溶液中のプラチナ分子の生成が少なくなる。この処理は、PdCl、NiCl、CuClから選択される金属塩(PdClが好ましい)を含んだ、イソプロパノールと水との水溶液を用いて実行するのが効果的である。当該溶液については、pHが低くなり過ぎる事態を確実に回避するよう制御することが重要である。pHは、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、緩衝液といった塩基の追加によって、3以上の値を保つよう制御することができるが、7以下に抑えるのが好ましい。
【0022】
活性化剤については、表面に塗布した後に還元するのが好ましい。還元剤については、クエン酸塩、ヒドラジン、フォスフェートハイドライド、水素またはボロハイドライドから選択するのが好ましい。より好ましいのは、ヒドラジン、フォスフェートハイドライドまたは水素である。最も好ましいのは水素である。実行の際の温度は、室温から100℃の間であるが、室温で実行するのがより好ましい。400℃で行われる別の標準的熱処理の代わりに実行されるものだからである。これにより、使用可能な基材に、150℃を超えると熱的に不安定になるPENやPETのようなポリマーまでが含まれることになる。
【0023】
プラチナ水溶液は、ヘキサクロロ白金(II)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサヒドロキソ白金酸、または、ヘキサフルオロ白金酸塩などのヘキサハロ白金酸(IV)塩から選択されるが、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムが好ましい。重要な点は、この溶液のpHを制御して、過度に低くならないようにすることである。水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、または緩衝液といった塩基を加えることで、pHは3以上に保つことができるが、7以下が好ましい。
【0024】
処理(g)の還元剤については、クエン酸塩、ヒドラジン、フォスフェートハイドライド、水素またはボロハイドライドから選択するのが好ましい。より好ましいのは、ヒドラジン、フォスフェートハイドライドまたは水素である。最も好ましいのは水素である。実行の際の温度は、室温から100℃の間であるが、室温で実行するのがより好ましい。400℃で行われる別の標準的熱処理の代わりに実行されるものだからである。これにより、使用可能な基材に、150℃を超えると熱的に不安定になるPENやPETのようなポリマーまでが含まれることになる。
【0025】
本発明が一連の基材前処理を含む目的は、基材表面を洗浄すること、TCO表面を濡らして水溶液とTCO表面との間の相互作用を促進すること、TCO表面のプラチナ粒子の核形成を高めること、溶液内のプラチナ粒子形成を上回るようTCO表面へのプラチナ積層の効率を向上させること、確実にTCO表面をプラチナで均一に覆うこと、そして、TCOコート対向電極へのプラチナ粒子の接着状態を向上させること、である。前処理に続いて、溶液中のプラチナ前駆体の還元が、100℃以下の温度で実行される(90℃以下が好ましい)。その後、熱処置に続いて冷却が行われ、室温まで温度を下げる。そして、対向電極は、DSSC装置製造の準備が完了した状態となる。
【0026】
洗浄、活性化、還元、積層の工程は全て、室温において速やかに実行することができ、各ステップの所要時間は3〜5分未満である。洗浄、活性化、積層の時間を長くすれば、プラチナイズに必要な温度は更に下がるが、逆に、時間を短くすれば温度は上がる。別の工程として、紫外線放射またはマイクロ波放射に晒すことで、洗浄、活性化、還元、積層を促進することができる。マイクロ波放射を行う場合は、市販または従来型の電子レンジを用いることができる。放射が一定であるため、市販の電子レンジの方が好ましい。電力の範囲は600〜1000ワットであり、800ワット程度が好ましい。
【0027】
本発明の方法を用いて対向電極に塗布されるプラチナ層は、従来技術のものとは対照的に、非常に薄く、透明性および均一性が非常に高い。プラチナ粒子のサイズは5〜20nmの範囲である。
基材に対する洗浄、活性化、還元、そして基材への化学物質の積層は、浸漬(dipping)やスプレーの後、余分な溶液を拭き取る、というやり方で実行することができる。
【0028】
温度は、全工程を通して100℃未満に維持される。本発明による特に好適な実施の形態における対向電極のプラチナイズは、以下の処理から成る。
(i)透明導電性酸化物(TCO)でコーティングされた基材を、蒸留水にアンモニアと過酸化水素とを入れた70℃の溶液で、3分間にわたって洗浄する処理と、
(ii)水とPdClおよびHClを含むイソプロパノールとの1:2(v/v)溶液に浸すことで、洗浄後のTCOコート基材の表面を活性化させる処理と、
(iii)30秒間にわたってイソプロパノールの溶液に水素ガスを通気する処理と、
(iv)PdClでコーティングされたTCOコート基材を、水素含有イソプロパノール溶液に3分間にわたって浸漬することで、Pd2+をPdに還元する処理と、
(v)処理(iv)で得られた、PdでコーティングされたTCOコート基材をヘキサクロロ白金酸カリウムなどの可溶性プラチナ塩の水溶液に浸す(immerse)処理と、
(vi)処理(v)のプラチナ溶液に、1分間にわたって水素ガスを通気した後、3分間にわたって放置する処理と、
(vii)プラチナでコーティングされた基材を脱イオン水で洗った後、空気にさらして乾燥させる処理。
【0029】
その後、従来技術で公知の何らかの方法によって、色素増感太陽電池が製造される。こうした色素増感太陽電池は、低温で製造した場合、従来技術のものに比べて、効率および曲線因子の点で優れている。また、基材としてポリマーを用いることもできる。また、高速染色法および/または低温焼結法によって製造される点も好ましい。
この好適な方法では、色素増感太陽電池は以下の処理によって製造される:
(a)導電性基材から製造された第1の電極を設置する処理と、
(b)例えば、二酸化チタンまたは酸化亜鉛から選択される少なくとも1つの半電導性金属酸化物と、溶媒と、結合剤と、そして、オプションとして接着剤および/または綿状剤とを含むコロイドを製造する処理と、
(c)処理(b)のコロイドに熱触媒を、金属酸化物の重量を基準に0wt%より大きく20wt%以下の量だけ加える処理と、
(d)接着を補助する目的で、TiClまたはチタンイソプロポキシドである金属酸化物前駆体を用いて第1の電極に施される前処理と(当該前処理は必須ではない)、
(e)処理(c)の組成物を第1の電極に導電側に塗布する処理と、
(f)コーティングされた電極を最高300℃の温度まで加熱して金属酸化物を焼結する処理と、
(g)金属酸化物薄膜をTiClまたはチタンイソプロポキシドである金属酸化物前駆体で後処理し、その後、300℃以下の温度で再焼結する処理と(当該処理は必須ではない)、
(h)透明導電性酸化物でコーティングされた上に、下記の処理(i)〜(vii)でプラチナのコーティングが追加された基材から作られた対向電極である第2の電極を設置する処理と:
(i)透明導電性酸化物(TCO)でコーティングされた基材を、蒸留水にアンモニアと過酸化水素とを加えた70℃の溶液で3分間にわたって洗浄する処理と;
(ii)水とPdClおよびHClを含むイソプロパノールとの1:2(v/v)溶液に浸すことで、洗浄後のTCOコートの基材の表面を活性化させる処理;
(iii)イソプロパノールの溶液に30秒間にわたって水素ガスを通気する処理;
(iv)PdClでコーティングされたTCOコート基材を、水素含有イソプロパノール溶液に3分間にわたって浸漬することで、Pd2+をPdに還元する処理;
(v)処理(h,iv)で得られた、PdでコーティングされたTCOコート基材をヘキサクロロ白金酸カリウムなどの可溶性プラチナ塩の水溶液に浸す処理;
(vi)処理(h,v)のプラチナ溶液に、1分間にわたって水素ガスを通気した後、3分間にわたって放置する処理;
(vii)プラチナでコーティングされた基材を脱イオン水で洗った後、空気にさらして乾燥させる処理、
(i)処理(e)において金属酸化物でコーティングされた第1の電極を、1以上の色素を含んだ溶液で予備的に色素染色することで(pre-dying)、前記色素を金属酸化物の表面に共有結合させる処理と(当該処理は必須ではない)、
(j)少なくとも2つの孔を第1および第2の電極の両方または一方に設け、接着剤(glue)または熱可塑性ポリマーを用いて前記2つの電極を封止して一体化する処理と、
(k)予備的な色素染色で用いたのと同じ1以上の色素を共溶媒(cosorbent)と共に含む1種類以上の溶液を、電極の孔を通して注入することで、金属酸化物の表面に前記色素を共有結合させ、そこで、封止された2つの電極の間で10℃から70℃の温度において色素染色を実現する処理と、
(l)色素と同時または色素から10分以内に、電極の孔から電解質を注入する処理と、
(m)接着剤または熱可塑性ポリマーで電極の孔を閉じる処理と、
(n)電子伝達のために2つの電極の間の外部接続を設ける処理。
【0030】
洗浄、活性化、プラチナイズの処理については、連続した「ロールツーロール(roll-to-roll)」工程で実行するのが効果的である。当該工程は産業用途では非常に有用である。
本発明は更に、ロールまたはシートの形で色素増感太陽電池を産業的に製造する連続工程を開示している。当該工程は以下の処理から成る:
(a)移動する基材ロールまたは基材シート(ロールが好ましい)の形で第1の電極を設置する処理と、
(b)金属酸化物でコーティングした第1のローラまたは複数ローラシステム、または、前記金属酸化物を基材の中央部分に連続的にプリントする第1のディスペンサまたは複数ディスペンサシステムを配置する処理と、
(c)プリントされた金属酸化物を熱処理で焼結した後に冷却する処理と、
(d)基材のうち金属酸化物ペーストと同じ側、かつ、前記金属酸化物ペーストの両側に前記シーラントを塗布する、シーラントでコーティングされた第2のローラまたは第2のディスペンサを配置し、先に透明導電性酸化物およびプラチナまたはカーボンでコーティングしておくと共に穴開け処理で孔を設けておいた透明な基材の移動ロールまたは移動シートの形で、第2の電極を配置する処理と、
(e)染料溶液を塗布する形で金属酸化物を前染色し、処理(a)の第1の電極とステップ処理(d)の第2の電極とをまとめた上に圧力および/または熱を加えて前記2本の電極を封止する処理と(当該処理は必須ではない)、
(f)第2の電極に設けられた孔に染料および共溶媒を注入する処理と、
(g)処理(f)の染料および共溶媒の注入と同時、または、染料から最大10分以内のタイミングで、第2の電極に設けられた孔から電解質を注入する処理と(染料と同時に注入するのが好ましい)
(h)第2の電極の孔を封止する処理と、
(i)色素増感太陽電池のロールまたはシートを保管する処理。保管された、切れ目のないロールの形の色素増感太陽電池は、後で取り出され、個別の太陽電池に切り分けられる。そうして得られた個別の太陽電池もいったん保管され、その後取り出される。
【0031】
上述した好適な方法によって製造される色素増感太陽電池は、従来技術のものに比べて、効率および曲線因子の点で上回る。
個別の太陽電池を接続すれば、太陽電池パネルを製造することができる。

比較例1
サンドイッチ型DSC電池装置を、図1に示す構造で製造した。市販の、スクリーンプリントチタニア作用光電極(オーストラリアのDyesol Ltd製)を、30分の間、450℃の温度に加熱し、その後100℃の温度まで冷却して、色素染色の準備をした。作用電極は、フッ素スズ酸化物でコーティングしたガラスであり15Ω/cmの抵抗を有するものであった。チタニアの薄膜の厚みは約12μmであり、動作面積は約0.88cmであった。
【0032】
この金属酸化物薄膜を、ジアンモニウム塩(cis-bis (4,4'-dicarboxy-2,2'-bipyhdine) dithiocyanato ruthenium(II)、一般にN719として知られるもの)を含むエタノール性色素溶液(1mM)に18〜24時間にわたって浸漬した。色素染色後、光電極を囲む位置に熱可塑性ポリマーガスケット(Dupont社製のSurlyn(登録商標))を配置した上に、市販の対向電極(オーストラリアのDyesol Ltd製)を配置してから、これら電極を120℃の温度で封止して一体化した。この市販の対向電極は、プラチナ層でコーティングした透明導電性ガラス電極であって、当該プラチナ層は、使用に先だち、30分にわたって400℃の温度で活性化した。その後、ニトリル溶媒中にヨウ素/3ヨウ化物を含んだ市販の液体電解質(オーストラリアのDyesol Ltd製)を対向電極の孔から加えた上で、当該孔を熱可塑性ポリマー(Surlyn(登録商標))で封止した。下の表1は、比較用の電池(同様に約0.88cmの動作面積を有するもの)に関する典型的な効率データおよび曲線因子を、開回路電圧VOCおよび短絡電流JSCと共に示す。
【0033】
【表1】



【0034】
表1に示されるデータは、チタニア光電極を用いて製造されるDSC装置に関するものである。PENとはポリエチレンナフタレートであり、PETとはポリエチレンテレフタレートである。プラスチック基材は、熱に対する安定性が不充分で、400℃でのプラチナイズに耐えられないため、発光面を設けることはできない。
留意しなければならない点として、プラチナイズが約450℃の温度で実行される従来の方法では、熱可塑性ポリマーを対向電極の製造に用いることはできない。高温で処置すれば破壊されるからである。従って、表1に示す効率はゼロとなっている。
本発明による例
実施例1
サンドイッチ型DSC電池装置を、図1に示す構造で製造した。市販のスクリーンプリントチタニア作用光電極(オーストラリアのDyesol Ltd製)を、30分の間、450℃の温度に加熱し、その後100℃の温度まで冷却して、色素染色の準備をした。作用電極は、フッ素スズの酸化物でコーティングしたガラスであり15Ω/cmの抵抗を有するものであった。チタニアの薄膜の厚みは約12μmであり、動作面積は約0.88cmであった。
【0035】
この金属酸化物薄膜を、ジアンモニウム塩(cis-bis (4,4'-dicarboxy-2,2'-bipyhdine) dithiocyanato ruthenium(II)、一般にN719として知られるもの)を含むエタノール性色素溶液(1mM)に18〜24時間にわたって浸漬した。色素染色後、光電極を囲む位置に熱可塑性ポリマーガスケット(Dupont社製のSurlyn(登録商標))を配置した上に、プラチナコーティングしたTCOコート対向電極を配置してから、これら電極を120℃の温度で封止して一体化した。この市販の対向電極は、市販の透明導電性ポリマー(CP Films Ltd製のPEN)であった。TCOコートPENポリマーは、先ず、蒸留水にアンモニアおよび過酸化水素を加えた70℃の温度の溶液で洗浄した。その後、水とPdClおよびHClを含むイソプロパノールとの1:2(v/v)溶液で、TCO表面を5分間活性化した。次いで、30秒間にわたってイソプロパノールの溶液に水素ガスを通気させ、PdClでコーティングされた基材を、水素を含むイソプロパノール溶液に3分間にわたって浸し、Pd2+をPdに還元した。最後に、Pdでコーティングされた基材をヘキサクロロ白金酸カリウムの溶液に3分間にわたって浸漬し、当該溶液に水素ガスを1分間にわたって通気した後、3分間にわたって放置してから脱イオン水で洗浄し、空気中で乾燥させた。ニトリル溶媒中にヨウ素/3ヨウ化物を含んだ市販の液体電解質(オーストラリアのDyesol Ltd製)を対向電極の孔から加えた上で、当該孔を熱可塑性ポリマー(Surlyn(登録商標))で封止した。下の表2は、比較用の電池(同様に約0.88cmの動作面積を有するもの)に関する典型的な効率データおよび曲線因子を、開回路電圧VOCおよび短絡電流JSCと共に示す。
【0036】
【表2】



【0037】
表2において、照明面がチタニアであることは、光が通常「ノーマルサイド」と呼ばれるチタン側から電池に当たることを意味する。照明面がPtCEであることは、光が通常「リバースサイド」と呼ばれる対向電極側から電池に当たることを意味する。
実施例2
本発明による別の実施例におけるサンドイッチ型DSC電池装置を、図1に示す構造で製造した。チタニア光電極の製造は、TECガラスの上に2層の市販のチタニアペースト(オーストラリアのDyesol社製)をドクターブレードして、各層を450℃の温度で30分間加熱する、というやり方で行った。いくつかの例では、400nm程度の大きな散乱チタニア粒子の層も加えた。各チタニア層は、TiCl溶液で処理し、450℃まで再加熱した後、最終的に100℃まで冷却して、色素染色の準備をした。作用電極は、フッ素スズ酸化物でコーティングしたガラスで、15Ω/cmの抵抗を有するものとした。チタニアの薄膜は、厚みが約12μmであって、動作面積は0.92〜0.94cmであった。
【0038】
この金属酸化物薄膜を、ジアンモニウム塩(cis-bis (4,4'-dicarboxy-2,2'-bipyhdine) dithiocyanato ruthenium(II)、一般にN719として知られるもの)を含むエタノール性色素溶液(1mM)に18〜24時間にわたって浸した。色素染色後、光電極を囲む位置に熱可塑性ポリマーガスケット(Dupont社製のSurlyn(登録商標))を配置した上に、プラチナコーティングしたTCOコート対向電極を配置してから、これら電極を120℃の温度で封止して一体化した。この市販の対向電極は、市販の透明導電性ポリマー(CP Films Ltd製のPEN)であった。TCOコートPENポリマーは、先ず、蒸留水にアンモニアおよび過酸化水素を加えた70℃の温度の溶液で洗浄した。その後、水とPdClおよびHClを含むイソプロパノールとの1:2(v/v)溶液で、TCO表面を5分間活性化した。次いで、60秒間にわたってイソプロパノールの溶液に水素ガスを通気し、PdClでコーティングされた基材を、水素を含むイソプロパノール溶液に3分間にわたって浸して、Pd2+をPdに還元した。その後、パラジウム溶液および水素溶液に浸漬する処理を繰り返した。最後に、Pdでコーティングされた基材を、90秒間、ヘキサクロロ白金酸カリウムの水溶液に浸し、当該溶液に水素ガスの泡を通し、その後、4分間にわたって放置してから、脱イオン水で洗い、空気中で乾燥させた。ニトリル溶媒中にヨウ素/3ヨウ化物を含んだ市販の液体電解質(オーストラリアのDyesol Ltd製)を対向電極の孔から加えた上で、当該孔を熱可塑性ポリマー(Surlyn(登録商標))で封止した。
【0039】
下の表3は、0.92cmの動作面積を有する比較用の電池に関する効率データおよび曲線因子を、VOCおよびJSCと共に示す。表3におけるDSC装置は、小型容器内でプラチナイズしたITOコートPETフィルム(3×1.5cm)の小片から作られた。これらのサンプルを、FTOコートガラスチタニア光電極と共に、DSC装置における対向電極として用いて、電極間で方法の再現性および整合性を評価した。
【0040】
【表3】

【0041】
表3において、照明面がチタニアであることは、光が通常「ノーマルサイド」と呼ばれるチタン側から電池に当たることを意味する。照明面がPtCEであることは、光が通常「リバースサイド」と呼ばれる対向電極側から電池に当たることを意味する。
下の表4は、約0.94cmの動作面積を有する比較用の電池に関する効率データおよび曲線因子を、VOCおよびJSCと共に示す。表4におけるDSC装置は、小型容器内でプラチナイズしたITOコートPETフィルム(15×16cm)の大型片からサブサンプルを切り出して作られた。これらの、小さくしたサブサンプルを、FTOコートガラス製チタニア光電極と共に、DSC装置における対向電極として用い、より大きなサンプル面積にわたって、方法の再現性および整合性を評価した。
【0042】
【表4】

【0043】
表4において、照明面がチタニアであることは、光が通常「ノーマルサイド」と呼ばれるチタン側から電池に当たることを意味する。照明面がPtCEであることは、光が通常「リバースサイド」と呼ばれる対向電極側から電池に当たることを意味する。
本発明の効率、VOC、JSCは、同じ温度で製造された従来の電池に比べて一貫して高いことが分かる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素増感太陽電池の対向電極のプラチナイズ方法であって、
(a)導電性基材から製造された対向電極を設置する処理と、
(b)処理(a)の対向電極を透明な導電性酸化物の1以上の層でコーティングする処理と、
(c)オプションとして超音波を併用しながら、アセトン、エタノール、ジエチルエーテルから選択した有機溶媒、または、塩化水素酸、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア/過酸化水素の水溶液から選択した洗浄用溶液を用いて、処理(b)の対向電極を洗浄する処理と、
(d)金属塩を含む有機溶剤で処理(c)の対向電極を活性化し、そして前記金属塩を対向電極表面で還元する処理と、
(e)処理(d)を終えた対向電極をpHが3以上のPt(II)またはPt(IV)の水性プラチナ溶液で加工する処理と、
(f)処理(e)で加工された対向電極に還元剤を加える処理と、
(g)プラチナでコーティングされた対向電極を回収する処理と、を有し、
処理(f)での水性プラチナ溶液の還元は100℃以下の温度で実行され、
全ての処理は100℃未満で実行されること、を特徴とする低温プラチナイズ方法。
【請求項2】
処理(b)と処理(c)との間に、300nmから500nmの範囲のチタニア粒子を含むチタニア散乱層が追加されること、
を特徴とする請求項1に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項3】
処理(c)の洗浄液が、アンモニア/過酸化水素/蒸留水から選択されること、
を特徴とする請求項1または2に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項4】
処理(c)の対向電極に対する前処理を更に有し、前記前処理は、塩化スズ(II)水溶液または塩化亜鉛(II)水溶液を用いて実行されること、
を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項5】
活性化処理(d)の金属塩は、NiCl、CuCl、PdClから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項6】
処理(d)における還元剤は、クエン酸塩、フォスフェート、ボロハイドライド、ハイドライド、水素、チオ硫酸塩から選択されること、
を特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項7】
処理(e)のプラチナ水溶液は、ヘキサクロロ白金(II)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸、ヘキサヒドロキソ白金酸、または、ヘキサフルオロ白金酸塩などのヘキサハロ白金酸(IV)塩から選択されること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項8】
プラチナ溶液は、ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウムであること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項9】
処理(f)で使用される還元剤は、ヒドラジン、フォスフェートハイドライド、水素、ボロハイドライドから選択されること、
を特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項10】
基材の洗浄、活性化、還元および基材への化学物質の積層は、基材の浸漬または基材へのスプレーの後で余分な溶液を除去する、という手順で実行されること、
を特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項11】
加熱は、熱放射および紫外線放射の一方または両方に晒すやり方で実行されること、
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項12】
加熱は、熱放射およびマイクロ波放射の一方または両方に晒すやり方で実行されること、
を特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法を用いて得られる太陽電池であって、
効率、VOC、そして、JSCが、従来の電池に比べて一貫して高いこと、を特徴とする太陽電池。
【請求項14】
洗浄処理、活性化処理、プラチナイズ処理については、連続したロールツーロール工程で実行可能であること、
を特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の低温プラチナイズ方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−503966(P2013−503966A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527294(P2012−527294)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062648
【国際公開番号】WO2011/026812
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(512053107)バンガー ユニバーシティ (3)
【Fターム(参考)】