説明

色落ちの少ない着色層を有する多層抄き紙

【課題】水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)の少ない、パルプ素材の風合いを備えた製袋用及び段ボールケース用の多層抄き紙を提供すること。
【解決手段】表面に着色層を有する多層抄き紙であって、
前記着色層に、硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを含有し、
5cm×5cm角の前記多層抄き紙を20℃の水に30秒浸漬させた後、JISP8222(1998)に準じたシートプレスにて30秒間、前記多層抄き紙をろ紙(ADVANTEC社製 Φ18)で挟み、乾燥後、前記多層抄き紙の着色層面側に接したろ紙について、JISZ8730(2002)色の表示方法−物体色の色差に準じた色差の計算方法で算出したΔEaが1.3〜24.2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボールケースや製袋用途に使用される多層抄き紙、特に多層抄き板紙において色落ちの少ない着色層を有する多層抄き紙に関する。
【背景技術】
【0002】
製袋用の包装紙は、手提げ袋、角底袋等のショッピング用途としての包装基材、あるいは封筒等に用いられる用紙である。近年、このような包装紙は、中身の保護だけでなく、ファッション性、機能性を持ち合わせていることが望まれている。特にショッピング用途に使用される手提げ袋はカラフルな色彩、濃色な色彩が好まれ紙表面に印刷を施したり、パルプを着色した紙が用いられている。印刷タイプのものは印刷表面上に光沢ニスやラミネート加工等を施し、水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)を防止している。
【0003】
しかし、着色したパルプを利用した抄き込みタイプの手提げ袋では水濡れにより、着色されたパルプの色が溶出し着用している衣服に色移りする問題を抱えている。印刷タイプの製袋に比べ抄き込みタイプの製袋はパルプの素材感を損なわなく、良い風合いを備えている点で優れており、色落ちの少ない抄き込みタイプの紙が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、従来繊維の染色には染着させるために還元剤や酸化剤並びに高い電解質濃度の薬品を使用する必要があり、染色後のこれら廃液を処理するのに問題を生じていたところ、還元剤の添加無しに用いることが出来る水溶性硫化染料の製造方法の開示がある。しかし、特許文献1の発明は、木綿布地や木綿とポリエステルが混合された織物等の布地を直接染色する方法であり、染色温度が50〜75℃の条件である。製紙工程において湿紙温度を前記条件に設定することは過剰なエネルギーが必要となり、コスト的に問題がある。
【0005】
また特許文献2には、硫化染料によるポリアミドまたはポリアミド含有基材を着色するために7.5〜11.0のpH範囲及び60〜120℃の温度範囲で着色性を向上させた技術の開示がある。
【0006】
さらに特許文献3には、繊維又は繊維構造体(綿や麻などのセルロース繊維、毛や絹などの動物性繊維、ナイロンやポリエステルやアセテート等の合成繊維、レーヨンなどの再製繊維の何れかの組合せから成る綿、糸、織物、編物、不織布、紙シート)を染色するために、前処理としてカチオン化剤とアルカリ助剤の混合溶液中に60〜80℃で浸漬させた後、染料と、固着剤と発色剤のいずれか一方、または両方とを混合した混合溶液中に浸漬させて染色をする技術の開示がある。
【0007】
しかし、いずれも加温が必要となり過剰なエネルギーが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−140879号公報
【特許文献2】特表2003−504532号公報
【特許文献3】特開平11−158785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような実情に鑑みてなされたもので、水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)の少ない、パルプ素材の風合いを備えた製袋用及び段ボールケース用の多層抄き紙を提供することを目的とする。更には、染色温度が50℃未満(45℃)と低温でありながら染料の定着性が良く、他染料の溶出を抑制する多層抄き紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表面に着色層を有する多層抄き紙であって、
前記着色層に、硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを含有し、
5cm×5cm角の前記多層抄き紙を20℃の水に30秒浸漬させた後、JISP8222(1998)に準じたシートプレスにて30秒間、前記多層抄き紙をろ紙(ADVANTEC社製 Φ18)で挟み、乾燥後、前記多層抄き紙の着色層面側に接したろ紙について、JISZ8730(2002)色の表示方法−物体色の色差に準じた色差の計算方法で算出したΔEaが1.3〜24.2以下であることを特徴とする多層抄き紙である。
【0011】
本発明では、前記硫化染料がアニオン性硫化染料であり、
前記直接染料がアニオン性直接染料であり、
前記アニオン性硫化染料と前記アニオン性直接染料の比率(質量比)が50:50〜30:70であり、かつ
前記着色層に含まれるパルプの乾燥質量に対する染料の総添加量が1〜12質量%であり、
JISB7751(2007)に準じた耐光性試験機にて、紫外線カーボンアークを前記多層抄き紙の試験片に45℃で4時間照射し、照射後の試験片と照射前の試験片の色調を測定し、算出したΔEbが1.73以下であることが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記多層抄き紙を製造する方法であって、
前記着色層を形成するための原料パルプスラリーに対して、アニオン性硫化染料及び/又は色顔料、硫酸アルミニウム、アニオン性直接染料、硫酸アルミニウムの順序で各成分を添加し、最初の硫酸アルミニウム添加後のパルプスラリーのpHが4.2〜6.8であり、最後の硫酸アルミニウム添加後のパルプスラリーのpHが4.0〜5.0であることを特徴とする多層抄き紙の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)の少ない、パルプ素材の風合いを備えた多層抄き紙を提供することができる。この多層抄き紙を製造する際には染色温度が50℃未満(45℃)と低温でありながら染料の定着性が良く、他染料の溶出を抑制する多層抄き紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る多層抄き紙の一実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲においてその構成を種々に変更し得ることはいうまでもない。
【0015】
本実施形態に係る多層抄き紙(以下、「本多層抄き紙」という。)は、表着色層と、中層と、裏層の3層の紙層で構成されている。
【0016】
[原料パルプ]
本多層抄き紙を構成する各層の形成に使用される原料パルプは、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、針葉広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の木材繊維を主原料として化学的に処理されたパルプやチップ、あるいは木材以外の繊維原料であるケナフ、麻等非木材繊維を主原料として化学的に処理されたパルプやチップを機械的にパルプ化したグランドパルプ、木材又はチップに化学薬品を添加しながら機械的にパルプ化したケミグランドパルプ、及びチップを柔らかくなるまで蒸解した後、レファイナー等でパルプ化したセミケミカルパルプ等のバージンパルプ及びクラフトパルプ、セミケミカルパルプ、酵素漂白パルプを含むオフィス上物古紙を脱墨、漂白したパルプ、牛乳パック古紙、上質断裁落ち古紙、コート断裁落ち古紙、上白、特白、中白等未印刷、地券、新段古紙、新聞、クラフト封筒、模造、雑誌の古紙から得られる回収パルプ等をあげることができる。なお、古紙パルプを多く利用すると環境負荷が低減されるという利点がある。
【0017】
本多層抄き紙は、表層の原料パルプ中に、硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを配合して染色し、着色層を形成することで、本多層抄き紙の表面を着色している。なお、本多層抄き紙は、少なくとも表層の原料パルプ中に硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを配合すれば所望の目的を達成することができるが、中層あるいは裏層の原料パルプ中に、硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを配合して中層及び/又は裏層も着色層としても良い。
【0018】
硫化染料は、染料分子内に多くの硫黄結合を含む水不溶性染料で、染浴中で還元剤(通常は硫化ナトリウム)によって還元され、ロイコ染料の形で繊維に吸着された後、酸化により水不溶性の染料として染色を完了する染料である。具体的には、ジホルミルメタトルイジンとベンジンを加硫したもの、メタトルイレジアミンを加硫したもの、3−アミノ−7−オキシフェナジンを加硫したもの、2−4ジニトロ−4−オキシジフェニルアミンを加硫したもの、フェニルぺリ酸インドフェノールを加硫したもの、1,5ジニトロナフタリンを加硫したもの等が挙げられる。なかでも、水濡れや湿気による色落ちが少ないため、アニオン性硫化染料が好ましく、特に2,4ジニトロフェノールとピクリン酸を加硫したものが好ましい。例えば、日本化薬株式会社製の「Kayaku Sulphur」シリーズ、三井ビーエーエスエフ染料株式会社製の「Mitsui Sulphur」シリーズなどを使用することができる。
【0019】
直接染料は、水溶性アニオン染料の中で、比較的分子量が大きく、セルロース繊維に対して親和性を有する染料である。具体的には、アニオン性直接染料、カチオン性直接染料などが用いられるが、水濡れや湿気による色落ちが少ないことから、アニオン性直接染料がより好ましい。
【0020】
アニオン性直接染料は、元来セルロース繊維染色の目的に作られたもので、中性塩を含む染浴から直接にセルロース繊維に染着する。化学構造からみると、アゾ、スチルベン、チアゾール、ジオキサジン、フタロシアニン等に分けられる。アニオン性直接染料としては、アゾ基(−N=N−)を発色団として持つアゾ染料からなるものが一般的であるが、任意のアニオン性直接染料を用いることができる。カチオン性直接染料とは、発色団の末端がカチオン基になったもので、例えば、分子中にスルホン基、フェノール性水酸基、カルボキシル基などを持ち、ナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩の形となった分子構造の染料である。例えば、アニオン性直接染料としてはクラリアントジャパン株式会社製、デルマカーボンBFNやCartasol Yellow5GE liq、日本化薬株式会社製のKayafect Yellow G などがあげられる。
【0021】
色顔料としては、水や油に不要なものの総称であり、無機顔料、有機顔料、レーキ顔料が含まれる。本発明では、御国色素株式会社製のグランドブラックYT−100が挙げられる。
【0022】
本多層抄き紙の表着色層の形成に使用する原料パルプの乾燥質量に対して、硫化染料(特にアニオン性硫化染料)を好ましくは0.5〜6.0質量%添加し、より好ましくは、0.6質量%〜3.6質量%添加する。硫化染料の添加量が0.5質量%未満であると、薄い色となるため、溶出してもわからない。6.0質量%を超えると、アニオン性硫化染料の定着剤的な補助効果から色落ちがし難くなるが、割合を増やしたときと比べても水濡れや湿気、擦れによる色落ちに差が無く過剰品質となり、製造コストが高くなる。
【0023】
また、直接染料及び/又は色顔料を合計で(特にアニオン性直接染料のみを)、好ましくは、0.5〜8.4質量%、より好ましくは、1.0〜6.0質量%添加する。添加量が0.5質量%未満であると、薄い色となるため、溶出してもわからない。また、硫化染料(特にアニオン性硫化染料)と直接染料及び/又は色顔料を組み合わせて使用することにより、本発明の課題である50℃未満でありながら染料の定着性が良く、他染料の溶出を抑制した多層抄き紙を製造することができる。8.4質量%を超えて添加したとしても、染料が原料パルプに歩留まらず、染色効果を発揮しにくくなる。
【0024】
表着色層に含まれる原料パルプの乾燥質量に対する染料と色顔料の総添加量は、好ましくは1〜14質量%であることが好ましく、より好ましくは2〜12質量%である。総添加量が1質量%未満であると、薄い色となるため、溶出してもわからない。逆に14質量%を超えて添加したとしても、染料が原料パルプに歩留まらず、染色効果を発揮し難くなる。
【0025】
表着色層に含まれる前記硫化染料(特にアニオン性硫化染料)と直接染料及び/又は色顔料(特にアニオン性直接染料)の添加量の質量比は、50:50〜30:70が好ましい。アニオン性硫化染料の割合が30未満であると、アニオン性硫化染料の定着剤的な補助効果が薄らぐことから、水濡れや湿気、擦れにより染料の色落ちがし易くなる。逆にアニオン性硫化染料の割合が50を超えると、アニオン性硫化染料の定着剤的な補助効果から色落ちがし難くなるが、割合を増やした時と比べても水濡れや湿気、擦れによる色落ちに差がなく過剰品質となり、製造コストが高くなる。
【0026】
上述した通り、本発明においては表層の原料パルプ中に、硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを配合して染色し、着色層を形成し、更には、硫化染料(特にアニオン性硫化染料)と直接染料及び/又は色顔料(特にアニオン性直接染料)を所定の比率で所定量添加することにより、水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)の少ない本多層抄き紙が得られたもので、その尺度として、ΔEaを1.3〜24.2以下とすることができたものである。また、好ましくはΔEaを1.3〜15.3以下とすることができる。一方、本発明の構成をとらない後述する比較例のような場合、特に水濡れ時の染料溶出が大きくΔEaは24.5を超えるものとなる。なお、ΔEaは、5cm×5cm角の本多層抄き紙を20℃の水に30秒浸漬させた後、JISP8222(1998)に準じたシートプレスにて30秒間、本多層抄き紙をろ紙(ADVANTEC社製 Φ18)で挟み、乾燥後、本多層抄き紙の表着色層面側に接したろ紙について、JISZ8730(2002)色の表示方法−物体色の色差に準じた色差の計算方法で算出されるものであり、本多層抄き紙と接触前のろ紙の色調と、本多層抄き紙と接触後のろ紙の色調の差である。ΔEaの値が小さいほど、水濡れによる色落ちがしにくいことを示す。従来法により着色した多層抄き紙は、ΔEaが24.2を超えるものであった。
ΔEa={(L1−L2)(a1−a2)(b1−b2)1/2
L1,a1,b1は、本多層抄き紙と接触前のろ紙の色調
L2,a2,b2は、本多層抄き紙と接触後のろ紙の色調
さらに、上述した通り、本発明の構成をとることにより、本多層抄き紙は光の暴露によっても退色しないものとすることができる。具体的にはJISB7751(2007)に準じた耐光性試験機にて、紫外線カーボンアークを本多層抄き紙の試験片に45℃で4時間照射し、照射後の試験片と照射前の試験片の色調を測定し、算出したΔEbが1.73以下にすることができ、より好ましくは、ΔEbを0.96〜1.45以下とすることができる。ΔEbは、示す数式にて、耐光性試験前の多層抄き紙の色調と、耐光性試験前の多層抄き紙の色調との差から算出した値である。この値が小さいほど、露光による退色がしにくいことを示す。
ΔEb={(L1−L2)(a1−a2)(b1−b2)1/2
L1,a1,b1は、紫外線照射前の本多層抄き紙の着色層の色調
L2,a2,b2は、紫外線照射後の本多層抄き紙の着色層の色調
本多層抄き紙の表着色層は、原料パルプスラリーに対して硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを添加することで原料パルプを染色することにより行う。この際、得られる本多層抄き紙の水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)の少ない多層抄き紙を得るにあたっては、硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料さらには硫酸アルミニウムの添加方法が重要である。各成分をパルプスラリーに対して一度に添加するのではなく、以下の順序で個別に添加することによって、常温(およそ20℃)〜50℃未満の温度条件下において、効果的に染料及び/又は顔料が原料パルプ繊維に強固に定着し、その結果、水濡れや湿気、擦れによる表面汚れ(色落ち)の少ない本多層抄き紙とすることができる。色顔料を添加しない場合には、アニオン性硫化染料、硫酸アルミニウム(i)(硫酸アルミニウムの一回目の添加分)、アニオン性直接染料、硫酸アルミニウム(ii)(硫酸アルミニウムの二回目の添加分)の添加順序で着色を行うことが好ましい。色顔料を添加する場合には、アニオン性硫化染料、硫酸アルミニウム(i)、色顔料、アニオン性直接染料、硫酸アルミニウム(ii)の添加順序で着色を行うことが好ましい。なお、アニオン性硫化染料を添加した後、pHを4.5〜6.8に調整して3分以上放置することが好ましい。
【0027】
硫酸アルミニウム(i)の添加量は、好ましくは1.5〜4.0質量%であり、より好ましくは2.0〜3.5質量%である。硫酸アルミニウム(i)の添加量が1.5質量%未満であると、アニオン性硫化染料の定着剤としての補助効果が薄らぐことから、水濡れや湿気、擦れにより染料の色落ちがしやすくなる。逆に4.0質量%を超えると、アニオン性硫化染料の定着剤としての補助効果から色落ちがし難くなるが、添加料を増加させた場合と比べても水濡れや湿気、擦れによる色落ちに差が無く過剰品質となり、製造コストが高くなる。
【0028】
また、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)の添加量は、原料スラリーのpHにも影響することも考慮し、上記添加範囲とすることが好ましい。すなわち、上記添加範囲が、アニオン性硫化染料の定着剤としての役割と、後述するpH領域における染色性の両方において、相乗効果を発揮するのである。
【0029】
硫酸アルミニウム(i)を添加した後の原料パルプスラリーのpHが4.0〜8.0となるのが好ましく、より好ましくは4.5〜6.8である。pHが4.5未満であると瞬時に酸化反応が行われることで全体に反応が行き渡らなく、毛染めや定着不良になり、水濡れや湿気、擦れにより染料の色落ちがし易くなる。逆にpHが8.0を超えると、酸化反応に必要な酸化剤(硫酸アルミニウム)が足らず、未反応部分や定着不良ができるため、水濡れや湿気、擦れにより染料の色落ちがし易くなる。
【0030】
硫酸アルミニウム(ii)の添加量は、好ましくは3.0〜7.0質量%であり、より好ましくは4.0〜6.0質量%である。硫酸アルミニウム(ii)の添加量が3.0質量%未満であると、アニオン性硫化染料の定着剤的な補助効果が薄らぐことから、水濡れや湿気、擦れにより染料の色落ちがし易くなる。逆に7.0質量%を超えると酸性度が高いため、硫酸アルミニウムから生ずる硫酸イオンによってセルロース分子が分解されて変色や劣化しやすく、保存性が劣り罫割れの要因となり、手提げ袋、角底袋等のショッピング用途としての包装基材としては適さない傾向がある。
【0031】
硫酸アルミニウム(ii)を添加した後の原料パルプスラリーのpHは、3.8〜5.4となるのが好ましく、より好ましくは4.0〜5.0である。pHが3.8未満であると酸性度が高いため、硫酸アルミニウムから生ずる硫酸イオンによってセルロース分子が分解されて変色や劣化しやすく、保存性が劣り罫割れの要因となり、手提げ袋、角底袋等のショッピング用途としての包装基材としては適さない。pHが5.4を超えると、アニオン性直接染料に十分な酸化剤(硫酸アルミニウム)が足らないことから定着が悪くて未反応部分が残り、水濡れや湿気、擦れにより染料の色落ちがし易くなるとともに、硫化染料の定着剤的な補助効果が薄れる。
【0032】
また、本多層抄き紙には、必要に応じて填料、歩留向上剤、濾水性向上剤、紙力増強剤、定着剤、蛍光増白剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、発泡剤等の抄紙用内添助剤を適宜配合することができる。
【0033】
前記紙力増強剤としては、PAM、酸化デンプン、変性デンプン、PVA、ポリエチレンイミン、エピクロルヒドリン樹脂など種々のものが用いられる。前記紙力増強剤の添加量は、パルプの乾燥質量に対して、好ましくは0.5〜4.0質量%である。
【0034】
表層に用いられる原料パルプは、フリーネスを200〜370ml、特に250〜320mlに調整することが好ましい。表層のフリーネスが200ml未満であると、繊維間が密になりやすく、多層抄き紙の脱水不良が発生する。逆に370mlを超えると、脱水性は良好になるが、繊維間が疎になりやすく、多層抄き紙の地合いが悪くなる。すなわち、多層抄き紙の美粧性が低下してしまう。
【0035】
中層、裏層に用いられる原料パルプは、フリーネスを250〜500ml、特に300〜400mlに調整することが好ましい。中層のフリーネスが250ml未満であると繊維間が密になりやすく、多層抄き紙の脱水不良が発生し、乾燥不良となる。逆に中層のフリーネスが500mlを超えると繊維間が疎になりやすく、多層抄き紙の地合い不良が発生する。
【0036】
なお、上記原料パルプのフリーネスの調整方法としては、例えばシングルディスクリファイナー(SDR)、ダブルディスクリファイナー(DDR)、コニカルリファイナーなどの公知の叩解機を使用することができる。
【0037】
なお、本明細書において、フリーネスとはJIS−P8220(1998)離解方法に準拠して標準離解機にて試料を離解処理した後、JIS−P8121(1995)パルプのろ水度試験方法に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0038】
本多層抄き紙の坪量は、特に限定されるものではないが、通常80〜320g/m、好ましくは120〜280g/mである。坪量が80g/m未満であると、本多層抄き紙を段ボール原紙に加工する際に、その強度を確保することが難しい。逆に、坪量が320g/mを超えると、過剰品質となるだけでなく、製造コストが高くなる。なお、本明細書における坪量とはJIS−P8124(1998)の坪量測定方法に準拠して測定した値である。
【0039】
また、本多層抄き紙の抄造においては、吸水性を調整するため、酸性ロジンサイズ剤、中性ロジンサイズ剤、アルキルケテンダイマーなど公知のサイズ剤を内添することにより、JIS−P8140(1998)に準じて測定された紙のコッブサイズ度が接触時間120秒で15〜80g/m、好ましくは20〜50g/mとなるように調整されることが好ましい。
【0040】
なお、本多層抄き紙の製造に使用する抄紙機については、特に限定されるものでなく、例えば長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機、ヤンキー抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等の当分野における公知の種々な抄紙機を適宜使用することができる。
【0041】
また、本多層抄き紙の抄紙におけるプレス工程直後の湿紙水分が55〜65%がより好ましい。湿紙水分が55%未満であると、後のドライヤー工程で乾燥させた乾燥後にカールしてしまう問題がある。また湿紙水分が65%を超えると、リールで紙を巻き取る際に乾燥不十分なため、色移りをする場合がある。湿紙水分は、JISP8127 水分試験方法―乾燥機による方法に準拠して測定される。
【0042】
さらにプレス工程直後の湿紙の着色層側の面を、鏡面仕上げされた3m以上の円筒形のドライヤー表面に、180〜270°の抱き角度で接触させることにより乾燥させることで本発明の課題を効率的に解決できる。ドライヤーの抱き角度が180°未満であると、紙を圧着させて乾燥させることが難しく、リールで紙を巻き取る際に乾燥不十分なため、色移りをすることがある。またドライヤーの抱き角度が270°を超えると、片面だけ紙との圧着させる時間と角度の問題から乾燥後にカールしてしまう問題がある。
【0043】
以上、本発明にかかる多層抄き紙を、その紙層が3層から成る場合について説明したが、中層を2層以上の複数層とし、4層以上の紙層から構成しても良い。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
本多層抄き紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本実施例において、配合、濃度等を示す数値は、有姿有効成分の質量基準の数値である。また、本実施例で示すパルプ・薬品等は一例にすぎないので、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではなく、適宜選択可能であることはいうまでもない。
【0046】
本発明に係る18種類の多層抄き紙(これを「実施例1」ないし「実施例18」とする)と、これらの実施例1ないし実施例18と比較検討するために、3種類の板紙(これを「比較例1」ないし「比較例3」とする)を、表1に示すような構成で作製した。
【0047】
〔実施例1〜18〕
(基紙の作成)
<表層>
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が300mlとなるように原料パルプを調整し、原料パルプスラリーを調製した。この原料パルプスラリーに、アニオン性硫化染料(クラリアントジャパン株式会社製、Diresul Black PFT Liquid)を1.0質量%添加し、硫酸アルミニウムを3.0質量%添加後、アニオン性直接染料(クラリアントジャパン株式会社製、デルマカーボンBFN)を1.0質量%添加して、さらに硫酸アルミニウムを4.0質量%添加した。アニオン性硫化染料とアニオン性直接染料を追加した時の温度は45℃であった。サイズ剤として酸性ロジンサイズ剤(近代化学工業株式会社製、R50)を0.75質量%添加し、さらに紙力増強剤(ハリマ化成株式会社製、ハーマイドRB32)を0.4質量%添加して表層用の原料パルプスラリーを調製した。
【0048】
実施例2
顔料として、御国色素株式会社製のグランドブラックYT100を使用した。
【0049】
<中層>
コート断裁落ち古紙パルプを100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が350mlとなるように原料パルプを調整し、原料パルプスラリーを調製した。この原料パルプスラリーに、定着剤、サイズ剤、紙力増強剤を添加した。定着剤として硫酸バンドを0.4質量%添加した。また、サイズ剤として酸性ロジンサイズ剤を0.75質量%添加し、さらに紙力増強剤を0.4質量%添加して中層用の原料パルプスラリーを調製した。
【0050】
<裏層>
地券古紙パルプ100質量%用い、ダブルディスクリファイナーでフリーネス(CSF)が400mlとなるように原料パルプを調整し、原料パルプスラリーを調製した。この原料パルプスラリーに、定着剤及びサイズ剤を添加した。なお、定着剤として硫酸バンドを0.4質量%添加した。また、サイズ剤として酸性ロジンサイズ剤を0.75質量%添加し、さらに紙力増強剤を0.4質量%添加して裏層用の原料パルプスラリーを調製した。
【0051】
これらの表層、中層、及び裏層の各層の原料パルプスラリーを用い、円網5層抄紙機にて表層、3層の中層、及び裏層の原料パルプスラリーを抄き合わせ、鏡面仕上げしたドライヤーで着色層面を圧着乾燥し、坪量が170g/mの5層構造の基紙から成る着色層を有する多層抄き紙(板紙)を抄紙した。
【0052】
以下に示す方法により色差ΔEa、色差ΔEbを測定した。
【0053】
(比較例1〜3)
実施例と同じ要領で試験を実施した。
【0054】
比較例1は、アニオン性直接染料(クラリアントジャパン株式会社製、デルマカーボンBFN)、硫酸アルミニウム、実施例と同じアニオン性直接染料、硫酸アルミニウムの順序で添加し、色差ΔEa、色差ΔEbを測定した。
【0055】
比較例2は、カチオン性直接染料(クラリアントジャパン株式会社製、カルタゾールターキスK−RL)、硫酸アルミニウム、実施例と同じアニオン性直接染料、硫酸アルミニウムの順序で添加し、色差ΔEa、色差ΔEbを測定した。
【0056】
比較例3は、カチオン性直接染料(クラリアントジャパン株式会社製、カルタゾールターキスK−RL)、硫酸アルミニウム、同カチオン性直接染料、硫酸アルミニウムの順序で添加し、色差ΔEa、色差ΔEbを測定した。
【0057】
「色差ΔEa」は、5cm×5cm角の本多層抄き紙を試料とし、本試料を20℃の水に30秒浸漬させた後、JISP8222(1998)に準じたシートプレスにて30秒間、本試料をろ紙(ADVANTEC社製 Φ18)で挟み、乾燥後、本試料の着色層面に接したろ紙の色調を測色色差計(ZE2000、日本電色工業株式会社製)を用いて測定し、本試料と接触する前のろ紙の色調を測定し、JISZ8730色の表示方法−物体色の色差に準じた色差の計算方法で算出した。
【0058】
「色差ΔEb」は、6cm×4.5cm以上の本多層抄き紙を試料とし、JISB7751(2007)に準じた耐光性試験機(スガ試験機株式会社 型式:FAL−3D)にて、紫外線カーボンアーク(400〜500W/m)を45℃で4時間照射し、照射後の試験片と照射前の試験片の色調を測定し、JISZ8730色の表示方法−物体色の色差に準じた色差の計算方法で算出した。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に着色層を有する多層抄き紙であって、
前記着色層に、硫化染料と、直接染料及び/又は色顔料とを含有し、
5cm×5cm角の前記多層抄き紙を20℃の水に30秒浸漬させた後、JISP8222(1998)に準じたシートプレスにて30秒間、前記多層抄き紙をろ紙(ADVANTEC社製 Φ18)で挟み、乾燥後、前記多層抄き紙の着色層面側に接したろ紙について、JISZ8730(2002)色の表示方法−物体色の色差に準じた色差の計算方法で算出したΔEaが1.3〜24.2以下であることを特徴とする多層抄き紙。
【請求項2】
前記硫化染料がアニオン性硫化染料であり、
前記直接染料がアニオン性直接染料であり、
前記アニオン性硫化染料と前記アニオン性直接染料の比率(質量比)が50:50〜30:70であり、かつ
前記着色層に含まれるパルプの乾燥質量に対する染料の総添加量が1〜12質量%であり、
JISB7751(2007)に準じた耐光性試験機にて、紫外線カーボンアークを前記多層抄き紙の試験片に45℃で4時間照射し、照射後の試験片と照射前の試験片の色調を測定し、算出したΔEbが1.73以下である、請求項1に記載の多層抄き紙。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多層抄き紙を製造する方法であって、
前記着色層を形成するための原料パルプスラリーに対して、アニオン性硫化染料及び/又は色顔料、硫酸アルミニウム、アニオン性直接染料、硫酸アルミニウムの順序で各成分を添加し、最初の硫酸アルミニウム添加後のパルプスラリーのpHが4.2〜6.8であり、最後の硫酸アルミニウム添加後のパルプスラリーのpHが4.0〜5.0であることを特徴とする多層抄き紙の製造方法。

【公開番号】特開2010−229575(P2010−229575A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75827(P2009−75827)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】