説明

色計算装置、色計算方法及びプログラム

【課題】共通の被写体を含む相異なる照明光下の画像から、共通被写体の色又は照明光の色を計算すること。
【解決手段】共通する被写体を有し相異なる照明光下で撮像された複数の画像から、照明光色と共通被写体の色とを計算する色計算装置が、各画像における共通被写体の色から、共通被写体の色として存在しうる範囲を求め、相異なる複数の照明光下の画像における共通被写体の物体色範囲を用いて共通被写体の色を計算し、共通被写体の色を用いて相異なる照明光下の画像の照明光色を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像に写っている環境の照明光や物体の色を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像における画素値(R,G,B)は、以下の式1に示されるように、照明光(E(λ):分光分布)と物体の色(ρ(λ):表面反射率)の両方の情報を含んでいる。そのため、入力機器によって入力された画像の画素値は、入力機器の分光感度特性と、分光分布と表面反射率との積分で表される。RGBそれぞれの分光感度特性は、[r](λ)、[g](λ)、[b](λ)として表す。なお、[r]は、rの上に横棒(バー)が付されていることを表す。[g]、[b]も同様である。また、R、G、Bおよびρの右下に付与したインデックスiは、それぞれシーン中のi番目の物体の画素値、表面反射率であることを示す。
【数1】

【0003】
照明光や物体の色を計算する関連技術では、照明光や物体の色に関する性質に基づいて計算する手法がある。例えば、画像中の鏡面反射成分を利用する手法や、画像中の無彩色領域を利用する手法や、シーン中の物体の色に関する仮定を利用する手法等がある。鏡面反射成分を利用する技術(非特許文献1)では、誘電体からの反射光成分のうち鏡面反射成分が照明光の色を表すことを利用して照明光の色を推定する。無彩色領域を利用する手法(特許文献1)は、無彩色の領域からの反射光の色が照明光の色を反映していることを利用している。具体的には、事前に様々な照明光の下での白色(紙、色票)の画像から無彩色領域の色変化を求めておき、画像中の無彩色領域に近い色を、事前に求めた無彩色領域の色の中から探索し、その平均を照明光の色として推定する。また、シーン中の物体の色の平均が灰色(無彩色)であると仮定することによって、シーン中の反射光の色を照明光色として推定する手法(非特許文献2)もある。
【0004】
上述の各関連技術は、1枚の画像のみを用いることを前提としている。しかし、複数枚の画像を用いる手法もある。このような手法は、同一照明光下の異なるシーンの画像を複数枚用いる手法と、同一シーンの相異なる照明光下での画像を複数枚用いる手法とに分類される。前者は、1枚の画像を用いる手法をそのまま適用することにより実現できる。後者の具体例としては、非特許文献2に記載の技術を拡張した手法(特許文献2参照)がある。この技術は、各画像に共通する被写体が複数あることを前提としている。この技術では、各被写体の平均の色が、照明光の変化によらず黒体放射軌跡(照明光の色の範囲とみなせる)の近傍にある場合に、選択した被写体の平均が灰色になると判断する。そして、その際の平均値を照明光の色として推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−290988号公報
【特許文献2】特開平9−304180号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G.J.Klinker, S.A.Shafer, T.Kanade, ”Using a color reflection model to a separate highlights from object color”, Proceedings of the First International Conference on Computer Vision, pp.145-150 (1987).
【非特許文献2】R.Gershon and A.D.Jepson,”The Computation of Color Constant Descriptors in Chromatic Images”, Color Research and Application, Vol.14, No.6, pp.325-334 (1989).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した関連手法には以下のような課題があった。
鏡面反射成分を利用する手法では、画像中に鏡面反射成分があることを前提としている。そのため、画像中に鏡面反射成分が無い場合には適用できないという問題がある。また、無彩色領域を利用する手法では、画像中に鏡面反射は不要であるが、推定精度が無彩色領域の有無に依存するという問題がある。この手法では、さらに、彩度の低い領域の色を照明光の色として誤推定するという問題がある。灰色仮説を利用する手法では、仮説が成立しない場合に、推定精度が画像中の色分布の影響を強く受けるという問題がある。
【0008】
また、画像を複数枚用いる場合であっても、各画像に共有する被写体の色分布によっては、それらの平均の色が黒体放射軌跡の近傍に位置しないと照明光の色を正しく推定することができないという問題がある。
上記事情に鑑み、本発明は、共通の被写体を含む相異なる照明光下の画像から、共通被写体の色又は照明光の色を計算する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、共通する被写体を有し相異なる照明光下で撮像された複数の画像から、照明光色と共通被写体の色とを計算する色計算装置であって、各画像における前記共通被写体の色から、前記共通被写体の色として存在しうる範囲を求める物体色範囲計算部と、前記物体色範囲計算部によって得られた、相異なる複数の照明光下の画像における前記共通被写体の物体色範囲を用いて、前記共通被写体の色を計算する物体色計算部と、前記物体色計算部によって得られた前記共通被写体の色を用いて、相異なる照明光下の画像の照明光色を計算する照明光色計算部とを備える色計算装置である。
【0010】
本発明の一態様は、上記の色計算装置であって、前記物体色計算部は、前記共通被写体を有する相異なる照明光下の画像において前記物体色範囲計算部から得られた物体色範囲に共通して含まれる領域の中心を前記共通被写体の色とする。
【0011】
本発明の一態様は、上記の色計算装置であって、前記物体色計算部は、前記共通被写体を有する相異なる照明光下の画像において前記物体色範囲計算部から得られた物体色範囲に対して、任意の2種類以上の物体色範囲で囲まれる領域の中心を前記共通被写体の色とする。
【0012】
本発明の一態様は、上記の色計算装置であって、前記物体色計算部は、前記共通被写体を有する相異なる照明光下の画像において前記物体色範囲計算部から得られる複数の物体色範囲の中から2種類ずつの組を作成し、各組から得られる共通領域の平均を前記共通被写体の色とする。
【0013】
本発明の一態様は、上記の色計算装置であって、前記照明光色計算部は、前記共通被写体が複数存在する場合に、前記物体色計算部によって得られた各共通物体の物体色計算結果から得られる照明光色の平均を照明光色とする。
【0014】
本発明の一態様は、共通する被写体を有し相異なる照明光下で撮像された複数の画像から、照明光色と共通被写体の色とを計算する色計算装置が行う色計算方法であって、各画像における前記共通被写体の色から、前記共通被写体の色として存在しうる範囲を求める物体色範囲計算ステップと、前記物体色範囲計算ステップによって得られた、相異なる複数の照明光下の画像における前記共通被写体の物体色範囲を用いて、前記共通被写体の色を計算する物体色計算ステップと、前記物体色計算ステップによって得られた前記共通被写体の色を用いて、相異なる照明光下の画像の照明光色を計算する照明光色計算ステップとを有する色計算方法である。
【0015】
本発明の一態様は、上記の色計算装置であって、共通する被写体を有し相異なる照明光下で撮像された複数の画像から、照明光色と共通被写体の色とを計算するコンピュータに対し、各画像における前記共通被写体の色から、前記共通被写体の色として存在しうる範囲を求める物体色範囲計算ステップと、前記物体色範囲計算ステップによって得られた、相異なる複数の照明光下の画像における前記共通被写体の物体色範囲を用いて、前記共通被写体の色を計算する物体色計算ステップと、前記物体色計算ステップによって得られた前記共通被写体の色を用いて、相異なる照明光下の画像の照明光色を計算する照明光色計算ステップとを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、共通の被写体を含む相異なる照明光下の画像から、共通被写体の色又は照明光の色を計算することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態である色計算装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】色計算装置10の処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】物体色を求める処理の概略を示す図である。
【図4】共通被写体の色から照明光色を求める処理の概略を示す図である。
【図5】色計算装置10の処理の流れの変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である色計算装置の機能構成を示すブロック図である。色計算装置は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備える。色計算装置は、色計算プログラムを実行することによって、画像入力部101、データ蓄積部102、色情報変換部103、物体色範囲計算部104、物体色計算部105、照明光色計算部106を備える装置として機能する。なお、色計算装置の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。色計算プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。色計算プログラムは、電気通信回線を介して伝送されても良い。
【0019】
画像入力部101は、照明光22から出力された照明で照らされた被写体21が撮像されたカラー画像(以下、単に「画像」という。)を色計算装置10に入力する。画像入力部101は、画像を色計算装置10に入力可能であればどのような構成であっても良い。例えば、画像入力部101は、撮像素子を備え、画像を撮像しても良い。例えば、画像入力部101は、スキャナとして構成され、画像をスキャンして色計算装置10に入力しても良い。例えば、画像入力部101は、カメラによって撮像された画像を色計算装置10に入力するためのインターフェースとして構成されても良い。
【0020】
以下の説明では、画像は、R(赤)、G(緑)、B(青)の三成分から構成される。なお、画像は、HSVやYCbCr、CIELAB等色空間の値を画素値とする画像であって良い。
被写体21は、複数枚の画像に共通する1種類以上の物体である。照明光22は、被写体21を照射する光源であり、複数存在しても良い。
【0021】
データ蓄積部102は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置などの記憶装置を用いて構成される。データ蓄積部102は、画像入力部101によって入力された画像を記憶する。データ蓄積部102は、色情報変換部103、物体色範囲計算部104、物体色計算部105、照明光色計算部106の各処理で得られた画像や途中の処理結果を記憶しても良い。この場合、データ蓄積部102は、コンピュータにおけるメモリに相当する。
【0022】
色情報変換部103は、画像入力部101によって入力された画像の色情報を、画像を撮像した装置の機器特性を排除した色情報に変換する。色情報変換部103は、変換後の画像をデータ蓄積部102に書き込む。色情報の変換に用いられるパラメータは、画像入力部101に応じて予め設定されている。以下の説明における色情報は、CIE(国際照明委員会)で規定されたXYZ三刺激値とする。ただし、色情報は、機器特性に依存しない色空間で表現されたものであればどのようなものでも構わない。
【0023】
物体色範囲計算部104は、色情報変換部103によって色情報が変換された画像を用いて処理を行う。データ蓄積部102に格納されている画像の共通被写体領域の色情報に対し、被写体の色として存在しうる色範囲を求める。そして、物体色範囲計算部104は、求めた色範囲の情報(以下、「色範囲情報」という。)をデータ蓄積部102に書き込む。
【0024】
物体色計算部105は、複数の色範囲情報に基づいて被写体21の物体色を求め、求めた物体色の情報をデータ蓄積部102に書き込む。この処理において、物体色計算部105が用いる複数の色範囲情報は、同一の被写体21に関する色範囲情報である。物体色計算部105が求める物体色は、色空間における座標値である。
照明光色計算部106は、物体色計算部105によって求められた物体色に基づいて照明光色を求める。照明光色計算部106は、求めた物体色をデータ蓄積部102に書き込む。
【0025】
図2は、色計算装置10の処理の流れを示すフローチャートである。まず、画像入力部101が画像を色計算装置10に入力する(ステップS201)。データ蓄積部102は、入力された画像を格納する。色計算装置10は、この処理を複数回繰り返すことによって同一の被写体21が撮像された複数の画像をデータ蓄積部102に格納する。各画像は、それぞれ異なる照明光22の下で撮像された画像である。具体的例は以下の通りである。屋外に設置された定点観測カメラや監視カメラ等で撮像された映像を、ある時間間隔でフレームとして抜き出して静止画として生成された画像。異なる日時に撮像した建設風景写真。なお、複数の画像それぞれにおいて、厳密に撮像位置やアングルが一致していなくともよい。
【0026】
次に、色情報変換部103は、画像の色情報を変換し、機器特性を排除した画像に変換する(ステップS202)。機器特性とは、上述した式1に示す分光感度特性に対応する。ただし、このような特性に関する情報は入手できない場合も多い。その場合、式2及び式3に示す関係式に基づいてγ係数と3×3の行列(αi,j)を求め、機器特性として用いても良い。色情報変換部103は、以下の式3を用いてRGB画素値からXYZ三刺激値を求めることにより、色情報への変換を行う。
【数2】

【数3】

【0027】
次に、物体色範囲計算部104は、共通被写体領域における色情報を用いて、共通被写体の色としてとりうる範囲を求める(ステップS203〜S206)。i番目の照明光下における共通被写体領域Pの色情報(XYZ三刺激値)は以下の式4として表される。
【数4】

【0028】
式4の左辺は、XYZ三刺激値、即ち、共通被写体領域の色を入力機器に依存しない色情報に変換した結果である。式4の右辺のうち、第1項はCIE(国際照明委員会)で規定されたXYZ三刺激値に対応した等色関数を表し、第2項はi番目の照明光の波長毎の成分を表し、第3項は共通被写体の表面反射率の波長毎の成分を表す。また、Nは可視光領域(例えば、400〜700nm)の分割数である。
【0029】
式4において、照明光と、共通被写体領域の表面反射率とは、いずれも未知の値である。しかし、物体色範囲計算部104は、自然光の分光特性が黒体放射に近いことを利用して共通被写体の色範囲を求める。なお、黒体放射は、プランクの放射則にしたがって色温度Tと波長λの関数で式5のように表現される。
【数5】

【0030】
色温度T毎の分光特性(式5)を式4にあてはめることによって、照明光が色温度Tの黒体放射に近い分光特性を持つ場合の共通被写体の表面反射率(ρ(λ))が得られる。照明光の分光特性を既知とし、式4の右辺第1項及び第2項の積を3行N列からなる行列Aとみなす。そして、擬似逆行列を両辺に作用させることによって、表面反射率(式6の左辺)が得られる。ただし、左上にtを有するAは、行列Aの転置を表す。このような計算を様々な色温度Tの黒体放射に適用する。
【数6】

【0031】
上記の表面反射率に対し、等色関数を用いて色空間上の座標値に変換する。ここでは、色空間としてxy色度空間の場合を説明するが、どのような色空間であっても構わない。
【数7】

【0032】
式7における左辺は、式6で得られた共通被写体の表面反射率のXYZ三刺激値であり、これを用いてxy色度を計算する。
【数8】

【0033】
このように、照明光が黒体放射の分光特性で近似できると仮定することによって、未知の照明光下の画像における共通被写体領域の色から、その被写体の色の範囲を求めることができる。物体色範囲計算部104は、このような処理を、同一被写体が撮像された複数の画像に対して繰り返し実行する。上述したように、物体色範囲計算部104の処理に用いられる各画像は、異なる照明光22の下で撮像された画像である。色範囲は、色空間上の複数の点の集合であっても良いし、色空間上の点の集合の範囲(始点と終点)であっても良いし、これら点の集合を関数近似したものでも良い。以下の説明では、共通被写体の色の範囲を二次関数(y=a(x^2)+bx+c)の形式で表現する。xおよびyは、それぞれxy色度の座標値である。また、“^2”の記載は、その左にある値(上記二次関数の場合はx)の二乗を表す。
【0034】
次に、物体色計算部105は、相異なる照明光22の下で撮像された複数の画像から得られた共通被写体の色の範囲を用いて、この被写体(共通被写体)の色を求める(ステップS207)。図3は、物体色を求める処理の概略を示す図である。図3Aは、3種類の照明光22の下でそれぞれ撮像された同一の被写体領域の色から得られた被写体の色範囲をL1,L2,L3の曲線として示した図である。図示されるように、処理に求める色範囲の曲線L1〜L3の全てが1点で交わっている場合は、物体色計算部105は交点を共通被写体の色(xy色度)として求める。
【0035】
しかし、処理に求める色範囲の曲線の全てが1点で交わるとは限らない。図3Bは、4種類の照明光22の下でそれぞれ撮像された同一の被写体領域の色から得られた被写体の色範囲をL4〜L7の曲線として示した図である。図3Bに示すように、処理に求める色範囲の4つの曲線(L4〜L7)の全てが1点で交わらない場合には、物体色計算部105は、以下のように共通被写体の色を求める。なお、図3B〜図3Eでは、処理に求める色範囲の曲線が4つである場合を例として説明するが、処理に求める色範囲の曲線の数は4つに限定される必要は無い。また、データ蓄積部102に格納される全ての色範囲の曲線が処理に用いられても良いし、データ蓄積部102に格納される一部の色範囲の曲線が処理に用いられても良い。
【0036】
図3Cは、4つの曲線(L4〜L7)で囲まれる領域Aを示す図である。物体色計算部105は、領域Aの重心(中心)を共通被写体の色(xy色度)として求めても良い。図3Dは、任意の2曲線で囲まれる領域の論理和で表される領域(領域B)を示す図である。物体色計算部105は、領域Bの重心(中心)を共通被写体の色(xy色度)として求めても良い。図3Eは、任意の2曲線の交点(以下、「色交点」といい、図中“x”で示す。)の例を示す図である。物体色計算部105は、色交点の平均の位置を共通被写体の色(xy色度)として求めても良い。
【0037】
照明光色計算部106は、ステップS207で得られた共通被写体の色に基づいて、各画像の照明光色を求める(ステップS208〜S211)。図4は、共通被写体の色から照明光色を求める処理の概略を示す図である。図4の曲線L8は、ある照明下の画像で得られた共通被写体の色範囲を示す曲線を表す。また、図4の点Pは、ステップS207で得られた共通被写体の色を表す。照明光色計算部106は、曲線L8上の点のうち最も点Pに近い点を、照明光の色(図中、×で示す)として求める。
【0038】
本発明の色計算装置10によれば、共通の被写体を含む複数種の照明光下の画像から、共通被写体の色を計算することが可能となる。また、共通被写体の色のみならず、照明光の色を計算することも可能である。そのため、任意の照明光下での画像への変換や、他の照明光環境で取得した画像との合成等も容易に行うことが可能となる。
【0039】
<変形例>
((式4の変形例))
式4のように直接的に表面反射率を求める代わりに、基底関数の係数を求めることによって間接的に表面反射率を求めても良い。基底関数は、事前に様々な物体の表面反射率を主成分分析して得られた基底であり、これらの線形結合で表面反射率を表現することができる。基底関数は、例えば以下の文献に開示されている。
【0040】
J. Cohen, "Dependency of the spectral reflectance curves of the Munsell color chips", Psychonomic Science, vol.1, pp.369-370 (1964).
基底関数を用いる場合には、式4は以下の式9のように表される。
【数9】

【0041】
上式において、sklはM種類(k=1,2,…,M)の基底関数における波長毎の成分(l=1,2,…,N)である。αkは、基底関数の係数である。sklとαkとの積は、表面反射率を表す。式9の場合、右辺第1項から第3項までの積を3行M列からなる行列A’とみなし、式4の場合と同等に擬似逆行列を両辺に作用させることで基底関数の係数が得られる。ここで得られた係数と基底関数から表面反射率を求め、式7及び式8にしたがって共通被写体の色を求めることができる。
【0042】
((フローチャートの変形例))
図5は、色計算装置10の処理の流れの変形例を示すフローチャートである。変形例の処理は、相異なる照明光下の画像に共通する被写体が複数存在する場合に用いられる処理である。なお、図5において、図2と同じ処理には同じ符号を付す。
まず、画像入力部101は、相異なるi種類の照明光下でj種類の被写体を含む画像を色計算装置10に入力する(ステップS201)。色情報変換部103は、各画像の色情報を変換する(ステップS202)。
【0043】
次に、物体色範囲計算部104は、1つめの共通被写体の領域に対して(ステップS212)、相異なる照明光下の画像から被写体の色範囲を求める(ステップS203〜S207)。物体色計算部105は、照明光条件のみが異なる画像から得られた物体色範囲を用いて、1つめの共通被写体の色を計算する(ステップS207)。照明光色計算部106は、1つめの共通被写体の色に基づいて照明光色を計算する(ステップS208〜S211)。ここまでの処理は、ステップS212において変数jに1を代入して初期化する処理を除いて、上述した図2の処理フローと同じである。
次に、ステップS203〜S211までの処理を、2つめ以降の共通被写体に対して行う(ステップS213、S214)。照明光色計算部106は、同一照明光下の異なる被写体領域から得られた照明光の色を平均し、照明光の色を求める(ステップS215)。
【0044】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10…色計算装置, 101…画像入力部, 102…データ蓄積部, 103…色情報変換部, 104…物体色範囲計算部, 105…物体色計算部, 106…照明光色計算部, 21…被写体, 22…照明光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通する被写体を有し相異なる照明光下で撮像された複数の画像から、照明光色と共通被写体の色とを計算する色計算装置であって、
各画像における前記共通被写体の色から、前記共通被写体の色として存在しうる範囲を求める物体色範囲計算部と、
前記物体色範囲計算部によって得られた、相異なる複数の照明光下の画像における前記共通被写体の物体色範囲を用いて、前記共通被写体の色を計算する物体色計算部と、
前記物体色計算部によって得られた前記共通被写体の色を用いて、相異なる照明光下の画像の照明光色を計算する照明光色計算部と
を備える色計算装置。
【請求項2】
前記物体色計算部は、前記共通被写体を有する相異なる照明光下の画像において前記物体色範囲計算部から得られた物体色範囲に共通して含まれる領域の中心を前記共通被写体の色とする、請求項1に記載の色計算装置。
【請求項3】
前記物体色計算部は、前記共通被写体を有する相異なる照明光下の画像において前記物体色範囲計算部から得られた物体色範囲に対して、任意の2種類以上の物体色範囲で囲まれる領域の中心を前記共通被写体の色とする、請求項1に記載の色計算装置。
【請求項4】
前記物体色計算部は、前記共通被写体を有する相異なる照明光下の画像において前記物体色範囲計算部から得られる複数の物体色範囲の中から2種類ずつの組を作成し、各組から得られる共通領域の平均を前記共通被写体の色とする、請求項1に記載の色計算装置。
【請求項5】
前記照明光色計算部は、前記共通被写体が複数存在する場合に、前記物体色計算部によって得られた各共通物体の物体色計算結果から得られる照明光色の平均を照明光色とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の色計算装置。
【請求項6】
共通する被写体を有し相異なる照明光下で撮像された複数の画像から、照明光色と共通被写体の色とを計算する色計算装置が行う色計算方法であって、
各画像における前記共通被写体の色から、前記共通被写体の色として存在しうる範囲を求める物体色範囲計算ステップと、
前記物体色範囲計算ステップによって得られた、相異なる複数の照明光下の画像における前記共通被写体の物体色範囲を用いて、前記共通被写体の色を計算する物体色計算ステップと、
前記物体色計算ステップによって得られた前記共通被写体の色を用いて、相異なる照明光下の画像の照明光色を計算する照明光色計算ステップと
を有する色計算方法。
【請求項7】
共通する被写体を有し相異なる照明光下で撮像された複数の画像から、照明光色と共通被写体の色とを計算するコンピュータに対し、
各画像における前記共通被写体の色から、前記共通被写体の色として存在しうる範囲を求める物体色範囲計算ステップと、
前記物体色範囲計算ステップによって得られた、相異なる複数の照明光下の画像における前記共通被写体の物体色範囲を用いて、前記共通被写体の色を計算する物体色計算ステップと、
前記物体色計算ステップによって得られた前記共通被写体の色を用いて、相異なる照明光下の画像の照明光色を計算する照明光色計算ステップと
を実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−109626(P2013−109626A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254964(P2011−254964)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】