説明

芯ゴム入り組紐端部の接続に用いる前処理剤及び芯ゴム入り組紐端部の接続の前処理方法

【課題】 安定した接着強度が得られるようにした芯ゴム入り組紐端部の接続の前処理剤を提供する。
【解決手段】 繊維を組紐状に編成してなる組紐カバーで芯ゴムを被覆してなる芯ゴム入り組紐の端部をシアノアクリレート系接着剤で相互に接続するにあたり、水溶性化学糊及び氷酢酸をアルコール溶媒で希釈した前処理剤を用いて芯ゴム入り組紐の端部を固化させ、固化した端部を平坦に切断するようにした。アルコール溶媒100重量部に対して水溶性化学糊10重量部〜50重量部、及び氷酢酸1重量部〜5重量部に相当する重量部の酢酸を必須成分とする前処理剤を用いる。この前処理剤にはアルコール溶媒100重量部に対してメラミン樹脂系接着剤0.5重量部〜5重量部を添加するのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は芯ゴム入り組紐端部の接続に用いる前処理剤及び芯ゴム入り組紐端部の接続の前処理方法に関し、特にシアノアクリレート系接着剤による芯ゴム入り組紐端部の接着不良を大幅に少なくできるようにした処理剤及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、女性が頭髪を束ねる場合、ゴムバンドがよく用いられている。このゴムバンドには芯ゴムを組紐カバーで被覆した芯ゴム入り組紐をリング状に製作した装飾ゴムバンドがよく用いられている。
【0003】
この装飾ゴムバンドの製造には種々の方法が提案されている。例えば、芯ゴム入り組紐の芯ゴム両端を相互に接着剤で面接着する一方、組紐カバー両端の繊維を相互に絡み合わせて接着する方法が知られている(特許文献1)。しかし、この接続方法では組紐カバー両端の繊維を絡み合わせるのが難しく、製造コストが高くなる。
【0004】
また、芯ゴム入り組紐の両端を接着剤で硬化させて平坦に切断し、平坦な切断面同士を接着剤で接着するようにした方法が知られている(特許文献2)。しかし、この接続方法では組紐カバーの繊維が絡み合っておらず、接続部の強さが接着剤の接着強さに依存し、大きな荷重を加えると、接着が急に外れて破断するおそれがある。
【0005】
他方、本件発明者は、芯ゴム入り組紐の端部を接続するにあたり、芯ゴム入り組紐の2つの端部の芯ゴムの先端面を接着剤で相互に面接着した後、一方の端部の組紐カバーを他方の端部の組紐カバーの外側に被せ、組紐カバーの繊維を相互に絡ませるとともに、接着剤で接着するようにした方法を提案するに至った(特許文献3)。
【0006】
特許文献3記載の芯ゴム入り組紐端部の接続方法では、組紐カバーの繊維が相互に絡み合って接着されているので、芯ゴムの接着が何らかの理由ではずれても組紐カバーの繊維が絡み合って接着されている限り、芯ゴム入り組紐が直ちに破断することがなく、安心して使用できるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−62919号公報
【特許文献2】特開平08−308628号公報
【特許文献3】特開2000−248457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかるに、特許文献3記載の芯ゴム入り組紐端部の接続方法では接着剤にシアノアクリレート系接着剤を使用しているが、前段階で使用する固化剤によっては組紐カバーの接着強さが芯ゴム端面の接着強さに比較して十分ではなく、例えば衝撃的な荷重が加わったときに芯ゴム端面の接着が外れ、芯ゴム端面の接着が外れた衝撃で組紐カバーの接着も外れてしまうことがあった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑み、安定した接着強さが得られるようにした芯ゴム入り組紐端部の接続方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明に係る芯ゴム入り組紐端部の接続に用いる前処理剤は、アルコール溶媒100重量部に対して水溶性化学糊10重量部〜50重量部、及び氷酢酸1重量部〜5重量部に相当する重量部の酢酸を必須成分とすることを特徴とする。
【0011】
本件発明者らは組紐カバーの繊維に対するシアノアクリレート系接着剤の接着性能について検討したところ、芯ゴム入り組紐の端部を固めて平坦に切断する際に、用いる前処理剤の種類によって組紐カバーの繊維に対するシアノアクリレート系接着剤の親和性が相違し、これが原因となって組紐カバーの接着が外れやすくなること、及び水溶性化学糊及び酢酸をアルコール溶媒で希釈した前処理剤を用いると、シアノアクリレート系接着剤による組紐カバーの接着強さを芯ゴムの接着強さに比較して十分な大きさにでき、しかも芯ゴムの接着強さも十分な大きさにできることを知見するに至った。
【0012】
具体的には、アルコール溶媒100重量部に対して水溶性化学糊を10重量部〜50重量部、及び氷酢酸1重量部〜5重量部に相当する酢酸を必須成分として使用する。水溶性化学糊を10重量部〜50重量部としたのは、水溶性化学糊が10重量部未満では組紐カバーの繊維を十分に固化させることができず、水溶性化学糊が50重量部を超えると、組紐カバーの繊維が硬くなりすぎ、後の工程でほぐすのに時間がかかるばかりでなく、シアノアクリレート系接着剤で接着したときに組紐カバーの繊維が硬くなりすぎて柔軟性に欠けることになるからである。
【0013】
また、氷酢酸1重量部〜5重量部に相当する酢酸としたのは、氷酢酸が1重量部未満では組紐カバーの繊維をシアノアクレート系接着剤によって接着したときに繊維の柔軟性に欠け、衝撃的な引っ張りによって接着が外れやすくなる一方、氷酢酸が5重量部を超えると、芯ゴムの端面をシアノアクレート系接着剤によって接着したときに接着面の柔軟性に欠け、衝撃的な引っ張りによって接着が外れやすくなるからである。
【0014】
本発明者らの試験によれば、芯ゴム入り組紐の端部の安定した接着性を確保する上で、水溶性化学糊は25重量部〜35重量部が好ましく、酢酸は氷酢酸2.5重量部〜3.5重量部に相当する重量部が好ましいことが確認された。
【0015】
上述の前処理剤にメチルアルコール100重量部に対してメラミン樹脂系接着剤を0.5重量部〜5重量部、好ましくは1.0重量部〜3.0重量部を添加すると、シアノアクレート系接着剤の接着強さをアップさせることができる。
【0016】
また、本発明によれば、芯ゴム入り組紐の端部を平坦に切断し、2つの接続すべき端部の芯ゴムの先端面をシアノアクリレート系接着剤で相互に面接着し、一方の端部の組紐カバーを他方の端部の組紐カバーの外側に被せ、その重なり範囲において組紐カバーの繊維を絡ませるとともにシアノアクリレート系接着剤で接着するにあたり、本発明に係る前処理剤(請求項1又は2記載の前処理剤)を用いて芯ゴム入り組紐の端部を固化させた後、平坦に切断するようにしたことを特徴とする、芯ゴム入り組紐の端部の前処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
酢酸ビニル系ポリマー390g及び氷酢酸39gをメチルアルコール1リットルで希釈して前処理剤Aを製造した。
【0019】
(実施例2)
氷酢酸を25g使用した以外、実施例1と同様にして前処理剤Bを製造した。
【0020】
(実施例3)
氷酢酸を10g使用した以外、実施例1と同様にして前処理剤Cを製造した。
【0021】
(実施例4)
酢酸ビニル系ポリマーを300g使用した以外、実施例1、2、3と同様にして前処理剤D、E、Fを製造した。
【0022】
(実施例5)
酢酸ビニル系ポリマーを200g使用した以外、実施例1、2、3と同様にして前処理剤G、H、Iを製造した。
【0023】
(実施例6)
酢酸ビニル系ポリマーを80g使用した以外、実施例1、2、3と同様にして前処理剤J、K、Lを製造した。
【0024】
(実施例7)
メラミン樹脂系接着剤4.0gをメチルアルコール1リットルで希釈し、これを実施例1〜6で製造した前処理剤A〜Lに一滴だけ滴下した。
【0025】
(実施例8)
メラミン樹脂系接着剤39.5gをメチルアルコール1リットルで希釈し、これを実施例1〜6で製造した前処理剤A〜Lに一滴だけ滴下した。
【0026】
(比較例1)
酢酸ビニル系ポリマーを50gとした以外、実施例1と同様にして前処理剤aを製造した。
【0027】
(比較例2)
酢酸ビニル系ポリマーを450gとした以外、実施例1と同様にして前処理剤bを製造した。
【0028】
(比較例3)
氷酢酸を5g使用した以外、実施例1と同様にして前処理剤cを製造した。
【0029】
[比較例4]
氷酢酸を45g使用した以外、実施例1と同様にして前処理剤dを製造した。
【0030】
(製造例)
芯ゴム入り組紐の端部に実施例1〜8及び比較例1〜4の前処理剤を含浸させ、室温又は熱風によって乾燥させて硬化させた後、芯ゴム入り組紐の端部を平坦に切断した。次に、接続すべき芯ゴム入り組紐の2つの端部の一方の端面をサンドペーパーで擦り、硬化した組紐カバーの繊維をほぐすとともに、芯ゴムの端面を削って組紐カバーの先端が芯ゴムの端面よりも2mm〜5mm突出した状態とした。
【0031】
次に、シアノアクリレート系接着剤を接続すべき芯ゴム入り組紐の2つの端部の芯ゴムの端面に塗布して相互に押し付けあって保持し、芯ゴムの端面を相互に接着した。
最後に、芯ゴムの端面よりも突出した組紐カバーの繊維を他方の端部の組紐カバーの外側にかぶせ、その重なった部分にシアノアクリレート系接着剤を含浸させ、指を押し付けながら回転させると、組紐カバーの繊維が相互に絡み合うとともに、接着剤が固化して組紐カバーが接着された。
【0032】
(試験例)
通常の使用状況を想定して芯ゴム入り組紐の接続端部を引っ張り、10mmの間隔を50mmまで伸ばして接続強さを確認した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例1〜8の前処理剤を使用した製造例では気温や湿度によって接続強度に多少のばらつきがあったが、芯ゴム端面の接続及び組紐カバーの接続ともに十分でかつ安定した強さが得られ、接着不良は全く見られなかった。
【0035】
氷酢酸の量は組紐カバー及び芯ゴム端面の接続強さに影響し、その日の気温や湿度に応じて添加量を微妙に調整する必要があることが分かった。
また、メタノールで希釈したメラミン樹脂系接着剤を滴下した場合には10mmの間隔を53mmを超えるまで伸ばしても破断が見られず、接着強さは非常によかった。
【0036】
これに対し、比較例1〜4の前処理剤を使用した製造例では10mmの間隔を50mmまで伸ばすまでに、芯ゴム端面が破断することがあり、芯ゴム端面が破断すると、その衝撃で組紐カバーも破断し、製品不良が発生しやすいことが分かった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール溶媒100重量部に対して水溶性化学糊10重量部〜50重量部、及び氷酢酸1重量部〜5重量部に相当する重量部の酢酸を必須成分とすることを特徴とする、芯ゴム入り組紐の端部の接続に用いる前処理剤。
【請求項2】
アルコール溶媒100重量部に対してメラミン樹脂系接着剤0.5重量部〜5重量部を添加してなる請求項1記載の、芯ゴム入り組紐の端部の接続に用いる前処理剤。
【請求項3】
芯ゴム入り組紐の端部を平坦に切断し、2つの接続すべき端部の芯ゴムの先端面をシアノアクリレート系接着剤で相互に面接着し、一方の端部の組紐カバーを他方の端部の組紐カバーの外側に被せ、その重なり範囲において組紐カバーの繊維を絡ませるとともにシアノアクリレート系接着剤で接着するにあたり、
請求項1又は2記載の前処理剤を用いて芯ゴム入り組紐の端部を固化させた後、平坦に切断するようにしたことを特徴とする、芯ゴム入り組紐の端部の前処理方法。



【公開番号】特開2012−122173(P2012−122173A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275913(P2010−275913)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(599027208)
【Fターム(参考)】