説明

芯鞘型熱伝導繊維

【課題】汎用有機繊維材料にも広く応用可能な、繊維軸方向に高効率な熱拡散、熱輸送が可能な繊維材料を提供する。
【解決手段】平均繊維径0.2〜15μm、平均アスペクト比が2〜50、真密度が1.9g/cm以上、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である黒鉛化炭素短繊維を2〜40体積%を含有した熱可塑性樹脂からなる高熱伝導性の芯部と、熱可塑性樹脂からなる繊維形成性に優れた鞘部とを、複合紡糸装置を用いて複合紡糸してなり、芯部は繊維断面における面積比率として10〜80%の範囲にあり、平均繊維径が10〜500μmである芯鞘型熱伝導繊維を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の芯鞘型熱伝導繊維は、特に繊維軸方向に高効率な熱拡散、熱輸送が可能な繊維材料であり、例えば織布、不織布等の形状で、産業資材用途や衣料用途等に好適に利用できる。
【背景技術】
【0002】
周知の如く、各種の合成繊維は、現在、衣料用途、産業資材用途等に幅広く使用されている。近年、衣料分野においては、快適性向上に関して、放熱性に優れた繊維材料の、また産業資材用途においては高温になる機器、ヒーターなどからの放熱機能を有する繊維材料のニーズが発生してきている。
【0003】
このようなニーズに対し、一軸延伸配向処理により繊維軸方向に伸びきり結晶鎖構造を発現させたポリベンゾトリアゾール繊維、特殊なセルロース繊維、ポリエチレン繊維において、伸びきり結晶鎖構造に起因して繊維軸方向の熱伝導性が高まる現象を利用した提案が為されている(例えば特許文献1、2、3)。
【0004】
またカーボンブラックを繊維に混練してなる繊維材料については従来から幾つかの提案が為されているが(例えば特許文献4、5)、導電性を向上し、その帯電性を抑制する事を目的としたものであり、熱伝導性の向上については実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−322116号公報
【特許文献2】特開2004−285522号公報
【特許文献3】特開2004−225170号公報
【特許文献4】特開2006−176940号公報
【特許文献5】特開2006−249625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先の特許文献1、2、3に提案の方法は、有機繊維内部に発現させた高度な結晶構造、すなわち一軸延伸による伸びきり結晶鎖構造の発現が繊維の熱伝導率の向上に必須である為、利用可能な繊維の種類が限定され、汎用性に劣るといった問題や、高倍率の延伸を必要とする為、繊維製造に巨大な装置が必要となり、また安定品質の生産が難しい等の問題がある。
【0007】
上記の状況に鑑み、本発明は汎用性に優れ、生産性に優れた熱伝導繊維の実現を目的とし、伸びきり結晶鎖構造を有さない繊維であるポリエステル、ナイロン等の汎用有機繊維材料にも広く応用可能であって、繊維内部に熱伝導性フィラーを複合させる事を主旨とした熱伝導性繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は数100W/m・K以上の高熱伝導率を有する特殊な黒鉛化炭素短繊維を芯部の熱可塑性樹脂層に混合した芯鞘型の熱可塑性繊維である。熱伝導の主体となる芯部では特に繊維軸方向に強い熱伝導性が得られる為、繊維上に局所的な温度分布(ヒートスポット等)が発生した際に、繊維軸方向に熱を迅速に拡散し、均熱化する能力に優れている。一方、芯部は単独では繊維外観や機械的強度、耐摩耗性、もしくは紡糸、延伸プロセスへの適性が不十分になる場合があり、これを補償する意味で、鞘部との複合化を行う。すなわち鞘部は繊維としての表面外観や機械的強度、耐摩擦性の確保、ならびに紡糸、延伸プロセスへの適性(繊維形成性)を主に担っており、これに適した材料系が適用される。このようにして芯部、鞘部の異なる機能の複合により、実用性の高い熱伝導繊維を得る事ができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芯鞘型熱伝導繊維は繊維上に局所的な温度分布(ヒートスポット等)が発生した際に、繊維軸方向に熱を迅速に拡散し、均熱化する事ができる。
従って、繊維を織布や不織布等の形状に加工した場合には、特にその平面方向に熱を拡散する機能が得られ、広範な放熱対策が可能になる。
またこれに付帯して導電性も得られる事から導電繊維(布)もしくは帯電防止(布)の用途にも応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態について、更に詳しく説明する。
本発明は、
1.平均繊維径0.2〜15μm、平均アスペクト比が2〜50、真密度が1.9g/cm以上、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である黒鉛化炭素短繊維を2〜40体積%を含有した第一の熱可塑性樹脂からなる高熱伝導性の芯部と、第ニの熱可塑性樹脂からなる鞘部とを有し、複合紡糸装置を用いて複合紡糸されてなり、芯部は繊維断面における面積比率として10〜80%の範囲にあり、平均繊維径が10〜500μmである芯鞘型熱伝導繊維、
2.芯鞘型熱伝導繊維の繊維軸方向の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上である前記1の芯鞘型熱伝導繊維、
である。
【0011】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂としては、紡糸性、延伸性に優れ、繊維として高い強度、伸度の得られる樹脂が好ましく用いられる。
例えば、ポリオレフィン系樹脂及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなど)、ポリ乳酸系樹脂、ポリエステル系樹脂及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなど)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体(ナイロン他)、ポリウレタン等を挙げることができる。
この中でも、特にポリエステル系樹脂及びその共重合体、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体が好ましく用いられる。
【0012】
芯部に用いる第一の熱可塑性樹脂は、黒鉛化炭素短繊維を多く含有しても紡糸、延伸が安定に可能とする為、分子構造内にソフトセグメント(ポリエチレングリコール等のエラストマー成分)を含む樹脂が特に好ましく行われる。また黒鉛化炭素短繊維の分散性、保持性を高めるため、黒鉛化炭素短繊維への濡れ性を高い極性成分を含む事が好ましい。
鞘部に用いる第ニの熱可塑性樹脂は、第一の熱可塑性樹脂同様にソフトセグメント(エラストマー成分)を含む樹脂であっても良いし、ソフトセグメントを含まない樹脂を用いても良い。
【0013】
芯部と鞘部の複合紡糸においては、樹脂溶融状態での流動性のバランスを取る事が好ましい。これらバランスは樹脂の溶融粘度、口金形状(スリット幅による圧損制御等)等により、コントロールが可能である。
芯部は黒鉛化炭素短繊維の混合に伴い、非混合よりも溶融粘度が大きく増加するので、芯部に用いる第一の熱可塑性樹脂は、鞘部に用いる第ニの熱可塑性樹脂よりも固有粘度を低くする事が好ましい場合が多い。
【0014】
[芯部の組成]
芯部は、黒鉛化炭素短繊維が2〜40体積%混合された第一の熱可塑性樹脂で構成される。2体積%未満では熱伝導性向上効果が不十分になりやすい。また40体積%超では良好な紡糸性を得ることが難しい。芯部における黒鉛化炭素短繊維の混合割合は好ましくは3〜40体積%であり、より好ましくは10〜30体積%である。
【0015】
またこの他の成分として、無機系の微粒子、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、劣化抑制剤などを適宜添加可能である。
またこの他の成分として、無機系の微粒子、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、劣化抑制剤などを適宜添加可能である。
【0016】
[鞘部の組成]
鞘部は、黒鉛化炭素短繊維が混合されていない第ニの熱可塑性樹脂で構成される事が好ましい。鞘部に黒鉛化炭素短繊維が混合されない事により、機械的強度、紡糸性、延伸性が高まると同時に繊維表面の風合を高める事ができる。
【0017】
尚、繊維表面のすべり性や風合いを更に高めるために、シリカ、酸化チタン等の無機系微粒子の添加も好ましく行われる。このほか、難燃剤、酸化防止剤、劣化防止剤、UV吸収剤、赤外線吸収剤、着色剤などの添加を行っても構わない。
また金型形状の工夫により、繊維表面に微細な凹凸形状の賦与を施しても良い。
【0018】
[黒鉛化炭素短繊維]
黒鉛化炭素短繊維は、平均繊維径0.2〜15μm、平均アスペクト比が2〜100、真密度が1.9g/cm以上、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが20nm以上のものが好ましく用いられる。
【0019】
特にメソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20%、走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平滑であり、かつ透過型電子顕微鏡での端面観察においてグラフェンシートが閉じている黒鉛化炭素短繊維が好ましい。
【0020】
これら黒鉛化炭素短繊維の原材料としては、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が例示できる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏向顕微鏡で観察することで確認出来る。更に、原料ピッチの軟化点としては、230℃以上340℃以下が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、紡糸に340℃を超える高温が必要となり、ピッチの熱分解を引き起こし、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上320℃以下、更に好ましくは260℃以上310℃以下である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。原料ピッチは、二種以上を適宜組合せて用いてもよい。組合せる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃以上340℃以下であることが好ましい。
【0021】
黒鉛化炭素短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径が0.2〜15μmである事が好ましい。0.2μm未満では熱可塑性樹脂と混合時の溶融粘度が極めて大きくなり、紡糸が困難になりやすい。また15μm超では熱可塑性樹脂への均一分散が難しく、やはり紡糸が困難になりやすい。平均繊維径はより好ましくは1〜12μm、更に好ましくは5〜10μmである。
【0022】
黒鉛化炭素短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が5〜20である事が好ましい。CV値は小さい程、工程安定性が高く、製品のバラツキが小さいことを意味している。CV値が5より小さい時、繊維径が極めて揃っているため、特に樹脂添加用フィラーの用途においては、短繊維の間隙に他の短繊維が入り込める余地が少なくなり、樹脂材料と複合する際に多量に添加するのが困難になり、熱伝導率を高める上で好ましくない。逆にCV値が20より大きい場合には樹脂との複合の際の分散性が悪くなって、熱伝導性能の均一性が低下する傾向にある。
【0023】
黒鉛化炭素短繊維の平均アスペクト比は2〜50であることが好ましい。アスペクト比が2未満であると、熱伝導性向上の効果が低くなり好ましくない。また50超であると、熱可塑性樹脂への分散性や紡糸性に問題を生じる場合が多い。平均アスペクト比はより好ましくは5〜30、更に好ましくは5〜15である。
【0024】
黒鉛化炭素短繊維は、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である事が好ましい。結晶子サイズは黒鉛の結晶性(黒鉛化度)に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズは、X線回折法で求める事ができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては、学振法を用いた。六角網面の厚み方向の結晶子サイズは、(002)面からの回折線を用いて求め、六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いてそれぞれ求めることができる。尚、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズはより好ましくは30nm以上、更に好ましくは35nm以上、最も好ましくは40nm以上である。
【0025】
黒鉛化炭素短繊維の真密度は少なくとも1.9g/cm以上である事が好ましい。真密度が1.9g/cm未満の炭素繊維では熱伝導性向上の効果が低く、好ましくない。真密度はより好ましくは2.1g/cm以上、更に好ましくは2.2g/cm以上である。
【0026】
黒鉛化炭素短繊維の繊維軸方向の熱伝導率は少なくとも300W/(m・K)以上である事が好ましく、より好ましくは400W/(m・K)以上、更に好ましくは500W/(m・K)以上、もっとも好ましくは600W/(m・K)以上である。
【0027】
黒鉛化炭素短繊維は走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸を炭素繊維表面に有しないことを意味する。炭素繊維の表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクス樹脂との混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。
【0028】
黒鉛化炭素短繊維は、透過型電子顕微鏡での短繊維の端面の観察表面として、グラフェンシートが閉じた構造になっていることが好ましい。短繊維の端面がグラフェンシートとして閉じている場合には、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こらないので、短繊維が活性点を持たなくなる様になる。結果、熱硬化性樹脂の触媒活性低下による硬化阻害を抑制することができる。更には、水などの吸着を低減することができ湿熱耐久性能向上をもたらすことができる。特に、本発明の短繊維では表面積に占める端面の割合が高くなることから、グラフェンシートが閉じている構造が特に好ましい。なお、グラフェンシートが閉じているとは、短繊維を構成するグラフェンシートそのものの端部が短繊維端部に露出することなく、グラファイト層が略U字上に湾曲し、湾曲部分が短繊維端部に露出している状態である。このような状態が端面全体の80%以上を占めているときに、殊更にこれらの効果は顕在化される。
【0029】
[黒鉛化炭素短繊維の製造方法]
黒鉛化炭素短繊維の好ましい作製方法を以下に示す。
原料ピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、焼成、ミリング、黒鉛化によってピッチ系炭素短繊維フィラーとなる。場合によっては、ミリングの後、分級工程を入れることもある。本発明のピッチ系炭素短繊維フィラーは透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じていることを特徴とするが、このようなピッチ系炭素短繊維フィラーは、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。これは、黒鉛化後にミリングを行うと、黒鉛化に伴い生成したグラフェンシートが切断端面にて開いたままになるのに対して、炭化ピッチ繊維ウェブをミリングしピッチ系炭化短繊維とした後で黒鉛化を行うと、ピッチ系炭化短繊維端面のグラフェンシートがループ状に閉じるという黒鉛の成長過程を用いたものである。以下各工程の好ましい態様について説明する。
【0030】
紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を好ましく挙げることができる。具体的には、口金から吐出した原料ピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用して原料ピッチを引き取る延伸紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ繊維の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発におけるピッチ系炭素短繊維フィラーの製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0031】
黒鉛化炭素短繊維フィラーの原料となるピッチ繊維を形成するための紡糸ノズルの形状については特に制約はない。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状を用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)としては2〜20の範囲が好ましい。LN/DNが20を超えると、ノズルを通過する原料ピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造が発現する。ラジアル構造の発現は、黒鉛化の過程で繊維断面に割れを生じることがあり、機械特性の低下を引き起こすことがあり好ましくない。一方、LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することが出来ず、結果として黒鉛の配向が低い繊維となる。このため、黒鉛化しても黒鉛化度が十分に上がらず熱伝導性を向上させ難くなり好ましくない。機械強度と熱伝導性の両立を達成するためには、原料ピッチに適度のせん断を付与する必要がある。このため、ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)は2〜20の範囲が好ましく、更には3〜12の範囲が特に好ましい。
【0032】
紡糸時のノズルの温度についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる温度、即ち、原料ピッチの粘度を1〜100Pa・sの範囲にせしめる温度が好ましい。原料ピッチの粘度が1Pa・s未満の状態では、粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ないため好ましくない。一方、原料ピッチの粘度が100Pa・sを超えると、ノズルを通過する際に強いせん断力が付与され、生成されるピッチ繊維断面にラジアル構造が発現するため好ましくない。せん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、原料ピッチの粘度を適切に制御する必要がある。このため、原料ピッチの粘度は1〜100Pa・sの範囲が好ましく、更には3〜30Pa・sが好ましく、5〜25Pa・sがより好ましい。
【0033】
黒鉛化炭素短繊維フィラーの平均繊維径の制御は、紡糸ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更すること、更には紡糸焼成後の粉砕工程の制御により、可能である。
【0034】
ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜10000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0035】
紡糸されたピッチ繊維は、金網等のベルトに捕集されピッチ繊維ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ繊維ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
【0036】
このようにして得られたピッチ繊維ウェブは、公知の方法で不融化処理し、不融化ピッチ繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃であり、さらに好ましくは、170〜330℃の範囲である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜8℃/分であり、さらに好ましくは4〜6℃/分である。
【0037】
不融化ピッチ繊維ウェブは、500〜1500℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で焼成処理され、炭化ピッチ繊維ウェブになる。焼成処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0038】
焼成処理された炭化ピッチ繊維ウェブは、所望の繊維長にするために、切断、破砕・粉砕等の処理が実施される。また、場合によっては、分級処理が実施される。処理方式は所望の繊維長に応じて選定されるが、切断にはギロチン式、回転式等のカッター、1軸、2軸及び多軸回転刃式等が好適に使用され、破砕、粉砕には衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュー式等の破砕機・粉砕機等が好適に使用される。所望の繊維長を得るために、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成してもよい。処理雰囲気は湿式、乾式のどちらでもよい。分級処理には、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の分級装置等が好適に使用される。所望の繊維長は、機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。また、分級処理を用いる場合には、所望の繊維長は篩い網孔径等を調整することによっても得ることができる。
【0039】
上記の切断、破砕・粉砕処理、場合によっては分級処理を併用して作成したピッチ系炭化短繊維は、2500〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系炭素短繊維フィラーとする。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。
【0040】
このようにして製造されるフィラーは、繊維の内部および表面において、非常に炭素の純度が高くなっている。つまり反応性の有機官能基や、金属、金属化合物等の不純物の含有量が極めて少ない。
また前述のように、炭素繊維切断断面においてグラフェンシートが閉じており、高い反応活性を有する結晶エッジ面が殆ど露出していない特徴も有す。
【0041】
これらの事は、一般に、有機官能基、結晶エッジ面その他の反応活性部位、金属性不純物等を基点として発生する樹脂マトリクス材料の分解劣化反応の抑制に関して非常に好ましい特徴である。また架橋性、硬化性を有する樹脂材料(ゴム等も含む)をマトリクスとした場合にも架橋反応、硬化反応の阻害を引き起こさないとの好ましい結果が得られ、これも好ましい特徴である。
【0042】
むろん、もし必要がある場合には、樹脂との親和性、分散性、接着性を高める目的にて、各種の表面処理やサイジング処理をしても良い。また、必要に応じて表面処理した後にサイジング処理をしても良い。表面処理の方法として特に限定は無いが、具体的にはオゾン処理、プラズマ処理、酸処理などが挙げられる。サイジング処理に用いるサイジング剤に特に限定は無いが、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、水、アルコール、グリコールを単独又はこれらの混合物で用いることができる。サイジング剤はフィラーに対し0.01〜10重量%、付着させても良い。しかしながら、サイジング剤付着黒鉛化炭素短繊維フィラーはサイジング剤の成分により表面活性(反応性)が高まる事から、サイジング処理量は極力少ない事が好ましい。好ましい付着量は0.1〜2.5重量%である。
【0043】
[芯鞘型熱伝導繊維の好ましい仕様]
本発明の芯鞘型熱伝導繊維では、繊維断面(繊維軸方向に垂直な断面)における芯部の面積比率が10〜80%の範囲にある事が好ましい。面積比率が10%未満であると、熱伝導への寄与が少なくなり、芯鞘型繊維の熱伝導率として不十分になりやすい。また80%超であると、紡糸、延伸のプロセスが不安定になりやすく、また得られる繊維の強度が不十分になる場合が多い。繊維断面における芯部の面積比率の下限は10%であるが、好ましくは20%、より好ましくは30%である。芯部の面積比率の上限は80%であるが、好ましくは70%、より好ましくは60%、さらに好ましくは40%である。
【0044】
また芯鞘型熱伝導繊維の繊維径は10〜500μmの範囲にある事が好ましい。繊維径が10μm未満では紡糸、延伸のプロセスが不安定になり、安定生産が困難になりやすい。
また500μm以上では繊維として重要な柔らかさ、風合いが低下し、また緻密な織布、不織布の作成が困難になる事から用途の制限が生じてくる。繊維径はより好ましくは30〜300μm、更に好ましくは50〜200μmである。
【0045】
尚、芯鞘型熱伝導繊維の繊維長については特に限定はなく、連続的な長繊維として、数1000m以上の長さのものを得ても良いし、適宜切断を行って、綿状や粉状の短繊維としても良い。
【0046】
芯鞘繊維は、公知の複合紡糸(コンジュゲート紡糸法)用金型を用いて溶融紡糸法を用いて作成できる。溶融紡糸には長繊維製造用の紡糸機が好ましく用いられるが、場合によってはメルトブロー法等による短繊維製造用の紡糸機も利用可能である。紡糸された繊維には好ましくは延伸、熱工程の工程を施すと良い。延伸は、繊維の機械的強度を高めるのみならず、繊維の熱伝導率を高める効果が得られる場合もある。これは繊維内に熱伝導性フィラーとして添加されている黒鉛化炭素短繊維が、延伸によって繊維軸方向への配向性が高まり、この結果、繊維軸方向への熱の輸送性が高まる事による。
延伸倍率は1.2倍以上が好ましく、より好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上である。
【0047】
芯鞘型熱伝導繊維の熱伝導率は、以下記載の方法による、繊維軸方向の熱伝導率として0.5W/(m・K)以上である事が好ましい。0.5W/(m・K)未満であると、一般の非熱伝導性繊維の熱伝導率(0.2〜0.3W/(m・K))と比較して、熱伝導性の顕著な相違が無くなり、用途に制限が生ずる。繊維軸方向の熱伝導率は好ましくは0.6W/(m・K)以上、より好ましくは1W/(m・K)以上、更に好ましくは1.5W/(m・K)以上、最も好ましくは2W/(m・K)以上である。
【0048】
[繊維軸方向の熱伝導率の測定]
各種材料の熱伝導率の測定法としては、一般に、プローブ法、ホットディスク法、レーザーフラッシュ法等の方法が挙げられるが、本発明においてはレーザーフラッシュ法を採用した。熱伝導率は測定法によってその値が大きく相違する場合もある。したがって本発明と従来技術との比較においては同様の測定された熱伝導率の値にて比較検討が為されるべきである。
【0049】
本発明の芯鞘型熱伝導繊維の熱伝導率については、その繊維軸方向の値を採用する。本発明での繊維軸方向の熱伝導率の測定法は、以下の要領で行っている。
1)複数本(少なくとも1000本以上)の芯鞘型熱伝導繊維を一方向に引き揃えた繊維
束(マルチフィラメント)を準備する。
2)繊維束に張力をかけた状態でエポキシ樹脂を含浸させ、熱硬化させて、繊維束が固定された繊維束/エポキシ樹脂複合体を作成する。
3)繊維束/エポキシ樹脂複合体を、繊維軸方向に垂直な断面で2mm間隔に切断し、直径10mm、厚み2mmの試料片を作成し、これを用いてレーザーフラッシュ法により、熱拡散率を測定する。尚、レーザーフラッシュ測定装置としては真空理工製熱定数測定装置TC−7000型を用い、周囲温度は25℃とする。
4)繊維束/エポキシ樹脂複合体の比重をアルキメデス法により、比熱をDSC法により測定し、熱拡散率、比重、比熱の値を掛け合わせて、繊維束/エポキシ樹脂複合体の繊維軸方向の熱伝導率を算出する。
5)繊維束/エポキシ樹脂複合体の繊維軸方向に垂直な断面に占める繊維/エポキシ樹脂の面積比率と、別途測定によるエポキシ樹脂の熱伝導率の値を下記式(1)に当てはめ、繊維の繊維軸方向の熱伝導率を算出する。
(繊維の熱伝導率)×(繊維の面積比率)+(エポキシ樹脂の熱伝導率)×(エポキシ樹脂の面積比率)=(繊維束/エポキシ樹脂複合体の熱伝導率) (1)
【0050】
[芯鞘型熱伝導繊維の製造方法]
本発明の芯鞘型熱伝導繊維は、複合紡糸装置を用いた複合紡糸により、製造される事が好ましい。
【0051】
[芯鞘型熱伝導繊維の用途]
本発明の芯鞘型熱伝導繊維は特に繊維軸方向の熱拡散性に優れた繊維であり、その用途については、主として、織布もしくは不織布、更には人工皮革等に加工された上で、衣料用、シューズ用、寝具用、産業資材用途に広く応用される。
例えば、体温の放熱性に優れ、使用者に涼しさを感じさせる快適性衣服があり、夏物を中心とした衣料、スポーツウエア、各種作業服、ユニフォーム(特に気密性が高く、体温の熱が逃げにくい作業服)、スポーツシューズ、シーツ、布団、枕、ベッド素材、カーテン、カーシート、クッションシート等への利用が可能である。
また高い伝熱性を活かして、ホットカーペットを初め、各種の冷暖房器具、工業用ヒーター等の周辺で用いられる繊維材料として利用可能である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(1)黒鉛化炭素短繊維フィラーの平均繊維径及び繊維径分散:
黒鉛化を経た炭素短繊維フィラーをJIS R7607に準じ、光学顕微鏡下もしくは電子顕微鏡下で100本測定し、その平均値から求めた。
(2)黒鉛化炭素短繊維フィラーの平均繊維長:
平均繊維長は個数平均繊維長を採用し、黒鉛化を経た炭素短繊維フィラーを光学顕微鏡下もしくは電子顕微鏡下で2000本以上を測定し、その平均値から求めた。倍率は繊維長に応じて適宜調整した。
(3)黒鉛化炭素短繊維フィラーの結晶サイズ:
X線回折法にて求め、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズを(002)面からの回折線を用いて求めた。また、求め方は学振法に準拠して実施した。
(4)黒鉛化炭素短繊維フィラーの繊維軸方向の熱伝導率:
粉砕工程以外を同じ条件で作製した、黒鉛化後のピッチ系炭素繊維ウェブから糸を抜き出し抵抗率を測定し、特開平11−117143号公報に開示されている熱伝導率と電気比抵抗との関係を表す下記式(2)より求めた。
K=1272.4/ER−49.4 (2)
ここで、Kは熱伝導率W/(m・K)、ERは電気比抵抗μΩmを表す。
(5)黒鉛化炭素短繊維フィラーのグラフェンシートの端面微細構造:
炭素短繊維フィラーを透過型電子顕微鏡にて50,000倍で観察した像の視野中の閉じているグラフェンシートの数を計測した。
(6)実質的に平坦な表面の確認:
黒鉛化炭素短繊維フィラーを走査型電子顕微鏡にて1000倍で観察した像に、凹凸のような欠陥が何箇所あるかを数えた。10箇所以下の場合平滑とした。
【0053】
[参考例1](ピッチ系黒鉛化炭素短繊維の作成)
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が285℃であった。直径0.2mmの孔径の紡糸口金を使用し、スリットから加熱空気を毎分5000mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均繊維径が11.5μmのピッチ系炭素繊維を製糸した。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングにより目付320g/mのピッチ系炭素繊維からなるウェブとした。
【0054】
このウェブを空気中で175℃から280℃まで平均昇温速度7℃/分で昇温して不融化を行った。不融化したウェブを窒素雰囲気中800℃で焼成した後、カッティング、ミリング等を行って、平均繊維長が約40μmの繊維、約90μmの繊維、平均繊維長が約180μmの繊維に篩い分けを行った。その後、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3100℃で熱処理して黒鉛化を施した。黒鉛化後の炭素繊維の平均繊維径は7.7μmであり、繊維径分散の平均繊維径に対する百分率は約13%であった。また真密度は2.21g/cmであった。尚、平均繊維長40μm(平均アスペクト比が約5)のものを以下、黒鉛化炭素短繊維Aとし、90μm(平均アスペクト比が約11)のものを以下、黒鉛化炭素短繊維B、平均繊維長180μm(平均アスペクト比が約23)のものを以下、黒鉛化炭素繊維Cとする。
【0055】
透過型電子顕微鏡を用い、100万倍の倍率でこのピッチ系黒鉛化炭素繊維を観察し、400万倍に写真上で拡大した。ピッチ系黒鉛化炭素繊維の端面においてグラフェンシートは少なくとも90%以上の割合で閉じていることを確認した。また、走査型電子顕微鏡で4000倍の倍率で観察したピッチ系黒鉛化炭素繊維の表面には、大きな凹凸はなく、ほぼ一様に平滑な表面であった。
本ピッチ系黒鉛化炭素繊維の、X線回折法によって求めた黒鉛結晶の六角網面の厚み方向に由来する結晶サイズ(c軸方向の結晶子サイズ)は39nmであった。
【0056】
また焼成までを同じ工程で作製し、ミリングを実施しなかったウェブを、非酸化性雰囲気とした電気炉にて3100℃で熱処理した黒鉛化ウェブより、単糸を抜き取り、電気比抵抗を測定したところ、約1.6μΩ・mであった。下記式(3)を用いて求めた熱伝導度は750W/m・Kであった。
C=1272.4/ER−49.4 (3)
(ERは電気比抵抗を示し、ここでの単位はμΩ・mである)
【0057】
[参考例2](粉砕処理を施した黒鉛化炭素短繊維の作成)
参考例1で作成した黒鉛化炭素繊維Aを、更に衝突粉砕型の粉砕装置に投入し、平均繊維長を低減すると同時に、繊維に縦割れを生じさせて平均繊維径の低減をも図った。この結果、平均繊維径約3μm(真円換算)、平均繊維長約18μm(平均アスペクト比が6)の黒鉛化炭素短繊維Dを得た。
【0058】
[参考例3](ポリブチレンテレフタレートの合成)
テレフタル酸ジメチル100部、1,4―ブタンジオール65部及びチタン酸テトラブチル触媒0.08部をメチルエステル基の85%が反応するまでエステル交換反応を行い、次に温度235℃で真空度200〜1Torr(2.66×10〜1.33×10Pa)の真空度下で重合度35まで反応させた。次いで回転軸に固定した攪拌翼によって低重合体を掻き上げ、掻き上げた低重合体を攪拌翼より不活性ガスを攪拌翼に対して鋭角で噴射することにより強制的に攪拌翼より流下させるようにした2軸回転円板式薄膜蒸発器を用いた。そして該掻き上げ翼は10個の溝を回転軸中心に向って有している装置である。この薄膜蒸発器において、低重合体を温度242℃、真空度1Torr(1.33×10Pa)、攪拌回転数10rpmの条件で反応せしめて重合度を高め、該薄膜蒸発器の出口よりポリブチレンテレフタレートの重合体をギアポンプで連続的に抜き出し、連続的にチップ化した。
【0059】
[参考例4](エラストマー樹脂の合成)
テレフタル酸ジメチル100部、トリエチレングリコール94部を、ジブチル錫ジアセテートを触媒としエステル交換反応を行い、引き続き、減圧下に重縮合反応を行い、固有粘度1.01のポリエステルを得た。このポリエステルに、参考例3のポリブチレンテレフタレートのチップを乾燥して、84部添加し、減圧下に240℃で更に65分間反応させた後、フェニルホスホン酸0.06部を添加した。得られたポリエステルブロック共重合体を取り出しチップ化した。このエラストマー樹脂の固有粘度は1.06、融点は183℃であった。
【0060】
[実施例1]
芯部として、参考例4で得たエラストマー樹脂樹脂に、参考例1で作成した黒鉛化炭素短繊維Aを、体積比率80:20の割合で混合した複合樹脂を用い、鞘部として、参考例3で作成したポリブチレンテレフタレートを用い、金型温度260℃で複合紡糸を行い、1.5倍で延伸熱固定した。
芯部、鞘部ともに断面形状はほぼ円形、繊維断面における芯部の面積比率は約30%とし、平均繊維径260μmの芯鞘型繊維を作成した。
この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は0.8W/(m・K)であった。
【0061】
[実施例2]
黒鉛化炭素短繊維Aの代わりに黒鉛化炭素短繊維Bを用い、参考例4で得たエラストマー樹脂と炭素短繊維Bの体積混合比率を83:17とした以外は、実施例1と同様にして平均繊維径280μmの芯鞘型繊維を作成した。
この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は1.0W/(m・K)であった。
【0062】
[実施例3]
黒鉛化炭素短繊維Aの代わりに黒鉛化炭素短繊維Bと黒鉛化炭素短繊維Cを用い、参考例3で得たエラストマー樹脂と炭素短繊維B、炭素短繊維Cの体積混合比率を83:10:7とした以外は、実施例1と同様にして平均繊維径290μmの芯鞘型繊維を作成した。
この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は1.2W/(m・K)であった。
【0063】
[実施例4]
黒鉛化炭素短繊維Aの代わりに、参考例2の黒鉛化炭素短繊維Dを用い、参考例4で得たエラストマー樹脂と炭素短繊維Dの体積混合比率を80:20とし、口金種類を変更した以外は、実施例1と同様にして平均繊維径160μmの芯鞘型繊維を作成した。
この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は0.9W/(m・K)であった。
【0064】
[実施例5]
黒鉛化炭素短繊維Aの代わりに黒鉛化炭素短繊維Bを用い、参考例4で得たエラストマー樹脂と炭素短繊維Bとの体積混合比率を90:10、延伸倍率を2.1倍、繊維断面における芯部の面積比率を約55%とした以外は実施例1と同様にして平均繊維径280μmの芯鞘型繊維を作成した。
この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は1.1W/(m・K)であった。
【0065】
[実施例6]
黒鉛化炭素短繊維Aの代わりに黒鉛化炭素短繊維Cを用い、参考例4で得たエラストマー樹脂と炭素短繊維Cとの体積混合比率を94:6、延伸倍率を2.1倍、繊維断面における芯部の面積比率を約70%とした以外は実施例1と同様にして平均繊維径280μmの芯鞘型繊維を作成した。
この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は0.9W/(m・K)であった。
【0066】
[実施例7]
黒鉛化炭素短繊維Aの代わりに黒鉛化炭素短繊維Cを用い、参考例4で得たエラストマー樹脂と炭素短繊維Cとの体積混合比率を97:3、延伸倍率を3.1倍、繊維断面における芯部の面積比率を約75%とした以外は実施例1と同様にして平均繊維径280μmの芯鞘型繊維を作成した。
この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は0.5W/(m・K)であった。
【0067】
[比較例1]
参考例3で得たポリブチレンテレフタレートを単独で、金型温度260℃で紡糸し、1.5倍の延伸熱工程を施した。
この繊維の繊維軸方向の熱伝導率は0.2W/(m・K)であった。
【0068】
[比較例2]
参考例4で得たエラストマー樹脂と参考例1で作成した黒鉛化炭素短繊維Aを体積比率80:20で混合した複合樹脂を単独で、金型温度260℃、1.5倍の延伸熱固定の条件で紡糸を行ったが、長時間連続して紡糸を行った場合、断糸が発生する場合があり、安定生産に難があった。
【0069】
[比較例3]
参考例4で得たエラストマー樹脂と黒鉛化炭素短繊維Cとを体積比率94:6で混合した複合樹脂単独で、金型温度260℃、2.1倍で延伸熱固定の条件で紡糸を行った。
本繊維の繊維軸方向の熱伝導率は1.3W/(m・K)であったが、繊維表面には部分的に凹凸が発生しており、繊維としての外観や風合いに関し、良好ではなかった。
【0070】
[比較例4]
実施例5で用いたエラストマー樹脂と黒鉛化炭素短繊維Bの混合樹脂を鞘部に用い、ポリブチレンテレフタレートを芯部として用い、すなわち芯部と鞘部の構成を実施例5と逆転させた以外は、実施例5と同様にして芯鞘型繊維を作成した。この芯鞘型繊維の繊維軸方向の熱伝導率は0.9W/(m・K)であったが、繊維表面に部分的に凹凸の発生が観られ、繊維としての外観や風合いに関し、良好ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の芯鞘型熱伝導繊維は、特に繊維軸方向の熱拡散性に優れ、織布、不織布等に好ましく加工され、衣料用途、産業資材用途等における放熱性(快適性)、伝熱性アップのニーズに応える材料と成り得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径0.2〜15μm、平均アスペクト比が2〜50、真密度が1.9g/cm以上、六角網面の厚み方向に由来する結晶子サイズが20nm以上である黒鉛化炭素短繊維を2〜40体積%を含有した第一の熱可塑性樹脂からなる高熱伝導性の芯部と、第ニの熱可塑性樹脂からなる鞘部とを有し、複合紡糸装置を用いて複合紡糸されてなり、芯部は繊維断面における面積比率として10〜80%の範囲にあり、平均繊維径が10〜500μmである芯鞘型熱伝導繊維。
【請求項2】
繊維軸方向の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上である事を特徴とする請求項1に記載の芯鞘型熱伝導繊維。

【公開番号】特開2010−106418(P2010−106418A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175448(P2009−175448)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】