説明

芯鞘型複合ポリエステル繊維

【課題】アルカリ減量等の後加工を行っても品位を損なうことなく十分な制電性能を発揮できる、芯に制電剤を有した芯鞘型複合ポリエステル繊維を得ること。
【解決手段】組成物全重量中に、重量平均分子量10000以上のポリアルキレングリコールが50〜85重量%、下記化学式1で表される有機スルホン酸金属塩化合物が10〜40重量%配合の範囲で、下記式1を満足するように配合され、かつ残りの成分がポリエステル成分で構成された相対粘度が2.8以上のポリエステル組成物を芯成分とする芯鞘型複合ポリエステル繊維。
RSOM・・・(化学式1)
[Rは炭素数6以上のアルキル基、アリール基または、アルキルアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す]
80≦(A+B)≦95・・・(式1)
[Aはポリアルキレングリコール成分、Bは有機スルホン酸金属化合物成分、単位は重量%(対組成物)]

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリエステル繊維は、その優れた特性から衣料用から産業資材用分野に至るまではば広く用いられている。しかしポリエステル繊維は電気抵抗が高いため、静電気を帯び易いという問題を有している。これは衣料分野においては、特に冬季に、脱着時の放電現象や身体へのまとわりつき等の不快感を与える原因となっている。この静電気を帯び易い欠点を改善するために、これまで種々の制電剤によりポリエステル繊維の改質が提案されてきている。
【0002】
例えば、特開平3−206120などに示されるように、高分子量のポリエチレングリコールおよび電解質からなるポリエステル組成物を、ポリエステル繊維の制電剤とする手法が、よく知られている。電解質とは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化合物等の無機電解質や、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、5−スルホイソフタル酸等のアルカリ金属塩化合物やアルカリ土類金属塩化合物等の有機電解質が挙げられるが、電解質の異物化による糸切れなどの理由により、有機電解質が一般的に使用されている。
【0003】
上記のような制電剤は、ポリエステル繊維が優れた制電性能を発揮するために、繊維軸方向に高配向させながら長い筋状に連続添加する方法が取られている。例えば、ポリエステルを鞘成分、制電剤を芯成分とする芯鞘型複合ポリエステル繊維が知られている。しかしながら、このような芯鞘型複合ポリエステル繊維は、アルカリ減量など後加工を行うと制電性能の低下を引き起こす問題がある。
【0004】
特開昭56−79717によると、ポリエチレンテレフタレートなどの繊維形成ポリマーと上述のような制電剤組成物とでは、紡糸時のそれぞれ溶融状態から固化し配向する際の引っ張り特性に相違があるため、鞘成分と芯成分にひずみが生じて亀裂が生じやすいことが述べられている。
【0005】
さらに、ポリエチレングリコールに代表されるポリアルキレングリコールは、ポリエステルポリマーとの相溶性が極めて良好なため、紡糸時の高温下、溶融状態で接合した際に、芯成分と鞘成分の界面で鞘成分側に分散移動しやすい。このような部分で固化配向した場合にも繊維物性が低下するため、部分亀裂が生じやすくなる。
【0006】
このような亀裂は、特にアルカリ減量などのような厳しい加工工程を経ると発生しやすく、亀裂と同時に制電剤成分が溶出して制電性能が低下してしまう問題が生じる。
【0007】
【特許文献1】特開平3−206120号公報
【特許文献2】特開昭56−79717号文献
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アルカリ減量等の後加工を行っても品位を損なうことなく十分な制電性能を発揮できる、芯に制電剤を有した芯鞘型複合ポリエステル繊維を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み、ポリアルキレングリコールの適正な選択と有機スルホン酸金属塩との配合割合及び制電剤自体の粘度を鋭意検討した結果、芯成分である制電剤と鞘成分であるポリエステルとのひずみを小さくでき、アルカリ減量時にも亀裂が生じず、良好な制電性能を発揮できる芯鞘型複合ポリエステル繊維を見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、組成物全重量中に、重量平均分子量10000以上のポリアルキレングリコールが50〜85重量%、下記化学式1で表される有機スルホン酸金属塩化合物が10〜40重量%配合の範囲で、下記式1を満足するように配合され、かつ残りの成分がポリエステル成分で構成された相対粘度が2.8以上のポリエステル組成物を芯成分として繊維中に複合する芯鞘型複合ポリエステル繊維が、アルカリ減量などの後加工後も、安定した良好な制電性能を発揮することを特徴とする。
RSOM・・・(化学式1)
[Rは炭素数6以上のアルキル基、アリール基または、アルキルアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す]
80≦(A+B)≦95・・・(式1)
[Aはポリアルキレングリコール成分、Bは有機スルホン酸金属化合物成分、単位は全て重量%(対組成物)]
【発明の効果】
【0011】
本発明の組成物を芯成分に含むポリエステル繊維は、良好な制電性能を発揮し、アルカリ減量を行っても亀裂が生じない。したがって制電性能が低下することがなく、良好な性能を安定して発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に用いるポリアルキレングリコールは、具体的にはポリエチレングリコール、ポリメチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。重量平均分子量が10000以上であれば特に限定はされないが、汎用性からポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0013】
本発明に用いるポリアルキレングリコールは、重量平均分子量が10000以上である必要がある。重量平均分子量が10000未満であると、ポリエステル組成物を溶融して制電剤としてポリエステル繊維に添加した際に、ポリエステル繊維中に分散しやすくなり、亀裂が生じやすくなる。また重量平均分子量は12000以上が好ましく、16000以上がさらに好ましく、18000以上が特に好ましい。
【0014】
また、このポリアルキレングリコールは組成物100重量%に対し、50〜85重量%になるように配合する必要がある。50重量%未満の場合には、十分な制電性能を得るために、後述の有機スルホン酸金属塩化合物を40重量%より多く配合させる必要があるが、有機スルホン酸金属塩化合物を40重量%より多く配合した場合には、組成物を相対粘度2.8以上に重合させることができなくなる。
【0015】
また、85重量%より多く配合した場合にも、ポリエステル成分の構成比が5重量%未満となるため、組成物を相対粘度2.8以上に重合させることができなくなる。好ましい添加率は60〜80%であり、特に60%〜75%が好ましい。
【0016】
本発明における有機スルホン酸金属塩化合物としては、アルキルスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸またはアリールスルホン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を用いることができるが、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基は炭素数が6以上である。本発明では上記条件を満たす有機スルホン酸金属化合物の中でも、その汎用性からドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)を用いることが好ましい。
【0017】
この有機スルホン酸金属塩化合物は、ポリエステル組成物100重量%に対し、10〜40重量%になるように配合する必要があり、15〜30%が好ましく、15〜25%が特に好ましい。10重量%未満では十分な制電性能を得ることができない。
【0018】
これらポリアルキレングリコール及び有機スルホン酸金属塩化合物の配合量の合計は、ポリエステル組成物100重量%に対し、80重量%以上95重量%以下でなければならない。80重量%未満の場合には十分な制電性能を得ることができず、95重量%より多い場合には、組成物を相対粘度2.8以上に重合させることができなくなる。
【0019】
本発明に用いるポリエステル組成物のポリエステル成分は、芳香族ジカルボン酸成分とグリコール成分とを常法によって重合することによって得ることができるものである。最も好ましいのは、ポリエチレンテレフタレートである。
【0020】
本発明に用いるポリエステル組成物はその相対粘度が2.8以上である必要があり、3.0以上が好ましく、3.2以上が特に好ましい。相対粘度が2.8未満であると制電剤である芯成分と鞘成分であるポリエステル繊維との間にひずみが大きくなり亀裂が生じやすくなる。
【0021】
尚、本発明のポリエステル組成物において、種々の公知の添加剤を適宜加えても良い。例えば生産効率を向上させる目的で、二酸化ケイ素等を添加してもよい。また、熱安定性を向上させる目的で、抗酸化剤等を添加配合して用いてもよい。
【0022】
本発明の芯鞘型複合ポリエステル繊維は、上述のポリエステル組成物を芯成分として繊維中に複合されておれば、十分な性能を発揮する。特にその複合量比には限定はないが、芯鞘型複合ポリエステル繊維の諸物性に与える影響、制電性能を考慮すると、0.5重量%以上5重量%未満が好ましく、更には1.0重量%以上2.0重量%未満が好ましい。
【0023】
本発明の芯鞘型複合ポリエステル繊維は、芯成分として上述のポリエステル組成物を用いる。一方、鞘成分には溶融紡糸可能な各種ポリエステルを利用可能である。例えばポリエチレンテレフタレートのような芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸のような脂肪族ポリエステルが利用可能であり、この他脂環族ポリエステル等も利用できる。また、これらの共重合ポリエステル、混合物を利用することも可能である。
【0024】
本発明に用いるポリエステル組成物の製法を一例を挙げながら説明する。ポリアルキレングリコールとして所定の分子量範囲のポリエチレングリコール、有機スルホン酸金属塩化合物としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(65重量%水溶液)、ポリエステル成分としてビス−α−ヒドロキシエチルテレフタレート(以下BHETと称す)、重合反応触媒として三酸化ニアンチモンを原料とする。これらの規定量を反応槽に入れ加熱して留出する水を除去しながら235℃まで昇温し完全に溶解後に約1時間攪拌する。ほぼ規定量の水が除去されたのを確認後、真空ポンプにて内圧133Pa以下まで減圧し250℃の条件で重合反応を行い目的のポリエステル組成物を得る。
【0025】
本発明の芯鞘型複合ポリエステル繊維の製法を一例を挙げながら説明する。上述にて得られたポリエステル組成物を180℃の溶融状態としてギアポンプにより定量的に送液し、適宜ろ過を行った後、複合紡糸口金に送液する。複合紡糸口金は、2種のポリマーが芯鞘構造になるよう流路が設計されておれば特に限定されない。溶融した組成物が、繊維中1〜2重量%の混合比で芯に配置されるようにして、芯鞘複合型ポリエステル繊維を紡糸する。
【0026】
上述のようにして得られた制電性繊維は、アルカリ減量加工を実施しても亀裂が生じず、織物としての品位も損なうことなく制電性能を有する。特に薄地で織物として高い品位が要求される衣料の裏地などに好適に使用できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例で本発明を詳細に説明する。
実施例における各特性値は下記の方法にしたがって求めた。
[相対粘度]0.5gのポリエステル組成物をフェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)混合物50mlに溶解し、オストワルド粘度計を用いて20℃において測定した。
[極限粘度]求められた相対粘度より以下の計算式で算出した。
[極限粘度]=(√(1+1.48×[相対粘度])−1)/0.74
[制電性能]以下の条件でタフタに製織し、アルカリ減量加工を施した後に、JIS L1094(1988)参考法である摩擦帯電放電曲線測定法に従って帯電圧(kV)を測定し、60秒後の電圧(kV)を摩擦帯電圧として記載した。また、帯電圧が半減するまでの時間(秒)を半減期として評価した。
[耐アルカリ減量性]制電性能を測定したのと同様のサンプルを用い、電子顕微鏡観察によって鞘成分の亀裂の有無を確認した。表中、亀裂が見られる場合を「亀裂」、見られない場合を「○」と表記した。
【0028】
(実施例1)
重量平均18000のポリエチレングリコールとドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム65%水溶液、BHET、重合触媒として三酸化ニアンチモン、イルガノックス1010を加えて1Lのフラスコで重合反応を行い、ポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物の組成及び相対粘度を表1に示した。
【0029】
当該ポリエステル組成物を芯成分に、極限粘度0.63のポリエチレンテレフタレートを鞘成分として芯鞘複合紡糸口金を用いて、290℃にて溶融紡糸を行い、56dtex/36フィラメント(f)の芯鞘型複合ポリエステル繊維を得た。この芯鞘型複合ポリエステル繊維の芯鞘比率は、繊維圧入量(重量%/繊維)として表に示した通りである。
【0030】
当該芯鞘型複合ポリエステル繊維を経糸として、84dtex/36fの通常のポリエステル糸を緯糸として打ち込み製織した。得られたポリエステルタフタを4%水酸化ナトリウム水溶液にて98℃×40分の減量加工を施した後に、摩擦帯電圧を測定した。また、糸の表面及び断面を電子顕微鏡にて観察してアルカリ減量加工に対する耐久性を確認した。結果を表1に示す。
【0031】
(実施例2)
重量平均分子量18000のポリエチレングリコール、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム65%水溶液及びBHETの組成量を変更した以外は、実施例1と同様に重合及び紡糸を行い、芯鞘型複合ポリエステル繊維の評価を行った。結果を表1に示す。
【0032】
(比較例1)
ポリエチレングリコールの重量平均分子量を6000とした以外は実施例2と同様の組成で、重合及び紡糸を行い、芯鞘型複合ポリエステル繊維の評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
(比較例2)
平均分子量18000のポリエチレングリコールの組成量を30重量%とし、それに従い、BHETの組成量を変更した以外は、実施例1と同様に重合及び紡糸を行い、芯鞘型
複合ポリエステル繊維の評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
(比較例3)
実施例1と同様の組成で重合を行ったが、重合反応時間を調整して相対粘度を2.0のポリエステル組成物を得た。これを用いて実施例1と同様の紡糸を行い、芯鞘型複合ポリエステル繊維の評価を行った。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のポリエステル組成物は、制電剤として各種用途に利用可能である。特に複合芯鞘型複合ポリエステル繊維の制電成分として用いることにより、加工耐久性に優れた制電
糸を得ることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物全重量中に、重量平均分子量10000以上のポリアルキレングリコールが50〜85重量%、下記化学式1で表される有機スルホン酸金属塩化合物が10〜40重量%の範囲で下記式1を満足するように配合され、かつ残りの成分がポリエステル成分で構成された相対粘度が2.8以上のポリエステル組成物が、芯成分として繊維中に複合された芯鞘型複合ポリエステル繊維。
RSOM・・・(化学式1)
[Rは炭素数6以上のアルキル基、アリール基または、アルキルアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す]
80≦(A+B)≦95・・・(式1)
[Aはポリアルキレングリコール成分、Bは有機スルホン酸金属化合物成分、単位は全て重量%(対組成物)]
【請求項2】
ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求項1に記載の芯鞘型複合ポリエステル繊維。
【請求項3】
化学式1で表される有機スルホン酸金属塩化合物が、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムである請求項1に記載の芯鞘型複合ポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリエステル成分が、実質的にポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載の芯鞘型複合ポリエステル繊維。
【請求項5】
芯成分の比率が0.5重量%以上5重量%未満である請求項1に記載の芯鞘型複合ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2008−88592(P2008−88592A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270055(P2006−270055)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】