説明

芯鞘型複合モノフィラメント

【課題】寸法安定性、糸削れ抑制効果、パーン引け防止効果、印刷特性、染色性、制電性等に優れ、さらにハレーション防止効果を有し、かつハイメッシュ化が可能な細繊度でかつ高強度、高モジュラスなモノフィラメントを提供する。
【解決手段】固有粘度が0.70dL/g以上であるポリマーを芯成分とし、固有粘度が0.40〜0.65dL/g以上である特定のポリエステルを鞘成分に使用し、節糸の個数、伸度5%時のモジュラス、破断伸度、製品巻き上げ最内層のフリー収縮率及び油剤付着量と油剤付与による動摩擦係数などを特定化した芯鞘型複合モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が改質された芯鞘型複合モノフィラメントに関する。さらに詳細には、ロープ、ネット、テグス、ターポリン、テント、スクリーン、パラグライダー及びセールクロス等の原糸として有用な芯鞘型複合モノフィラメント、特にスクリーン印刷用のメッシュ織物、プリント配線基盤の製造等の高度な精密性を要求されるハイメッシュでハイモジュラスのスクリーン紗を得るのに好適な芯鞘型複合モノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
モノフィラメントは、衣料分野ではもちろん、産業資材分野でも幅広く利用されている。特に後者の産業資材分野での用途の例として、タイヤコード、ロープ、ネット、テグス、ターポリン、テント、スクリーン、パラグライダー及びセールクロス用等の原糸としてのモノフィラメントがある。
【0003】
このようなモノフィラメントに要求される特性も近年次第に厳しくなり、ゴムとの接着性、耐疲労性、染色性、耐磨耗性、結節強力等の改善が迫られている。特に、最近の電子回路分野での印刷においては集積度が高まる一方であり、これに用いるスクリーン紗としては、印刷緻密さ及び印刷性向上のための要求、すなわち、耐加水分解性、紫外線吸収性、制電性等の機能性に関する改善とともに、高強度・高モジュラスで、かつハイメッシュといった要求がますます強くなっている。したがって、その原糸についても、より細繊度で高強力、高モジュラスでかつ改善された特性を有するものが要求されている。
【0004】
一般に、モノフィラメントを高強度・高モジュラスとするためには、未配向原糸を製造段階で高い延伸倍率の下で熱延伸して、高度に配向、結晶化させればよい。しかし、スクリーン紗製造の工程においてはハイメッシュの要求に応えるため、高密度に経糸を整経し、製織することとなるが、その結果、糸と筬との間により過酷な繰り返し摩擦を受けることになる。そのため、ヒゲ状あるいは粉末状の糸削れが発生し、その結果、開口不良による経糸切れ等により生産性はもちろん製品の品位も低下する。
【0005】
これに対する対策として、特開平1−132829号公報(特許文献1)には、鞘部にナイロンを配した芯鞘構造の複合フィラメントとすることにより、糸削れを抑制させたものが提案されている。また、特開平2−289120公報(特許文献2)には、鞘部にポリエチレングリコールを共重合したポリエステルを配することにより糸削れを抑制させたものが提案されている。さらに、特開2003−213520号公報(特許文献3)、特開2003−213527号公報(特許文献4)及び特開2004−232182号公報(特許文献5)等には、鞘部として共重合体ではないポリエステルポリマーも使用できることが提案されている。例えば、上記特許文献4には、芯鞘両成分がポリエチレンテレフタレートであり、芯成分のポリマーの固有粘度をX、鞘成分のポリマーの固有粘度をYとしたとき、X−Y≧0.25を満足し、かつ破断強度が6.5cN/dtex以上であることを特徴とするスクリーン紗用ポリエステルモノフィラメントが開示されている。
しかし、これらのモノフィラメントは実際にスクリーン紗用として使用してみると、その性能が十分満足できるものでないことが分かった。
【0006】
【特許文献1】特開平1−132829号公報
【特許文献2】特開平2−289120号公報
【特許文献3】特開2003−213520号公報
【特許文献4】特開2003−213527号公報
【特許文献5】特開2004−232182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のスクリーン紗用のポリエステル複合モノフィラメントでは得られなかった、優れた寸法安定性、糸削れ抑制効果をもち、製品を繰り返し使用した際の物性劣化の少ない、かつハイメッシュ化が可能な細繊度でかつ高強度、高モジュラスな複合モノフィラメントを提供することを目的とするものである。さらに本発明は、上記の利点に加え、表面特性が改善された複合モノフィラメントを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記の課題を達成するモノフィラメントとして、以下の如き芯鞘型複合モノフィラメントが提供される。
【0009】
1.芯成分が固有粘度0.70dL/g以上の繊維形成性ポリマーであり、かつ鞘成分が固有粘度0.40〜0.65dL/gのポリエステル又はそれを主成分とする組成物であって、下記(A)〜(E)の条件:
(A)芯成分の重量比率が50〜90%であること、
(B)モノフィラメントの平均繊維直径に対し1.1倍以上の直径を有する節糸部分が繊維長手方向10万メートルに対し1個以下であること、
(C)繊度が15dtex以下のモノフィラメントであって、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足すること、
(D)製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること、そして、
(E)モノフィフィラメント表面に付与された油剤(非水成分)の繊維重量に対する付着量が0.1〜0.4重量%であり、かつ該油剤によってモノフィラメントの動摩擦係数が0.2〜0.35に調整されていること、
を同時に満足することを特徴とする芯鞘型複合モノフィラメント。
【0010】
2.モノフィラメントに付与された油剤が、脂肪族エステル化合物が50〜80重量%と炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド0〜10モル付加物の部分リン酸エステル塩が1〜10重量%含有されている油剤であることを特徴とする上記1記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【0011】
3.芯成分と鞘成分がともにポリエステルであり、かつ該ポリエステルは末端カルボキシル基濃度が15eq/106g以下である耐加水分解性芳香族ポリエステルであることを特徴とする上記1又は2記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【0012】
4.芯成分と鞘成分を構成するポリエステルが、下記一般式で表されるリン酸エステルを、リン原子の含有量に換算して3〜50ppm含有する耐加水分解性芳香族ポリエステルであることを特徴とする上記3記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【0013】
【化1】

【0014】
5.鞘成分のポリエステルが有機紫外線吸収剤をポリマーに対し0.01〜5.0重量%含有している紫外線吸収性ポリエステルであることを特徴とする上記1又は2記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【0015】
6.有機紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤及びベンゾオキサジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の紫外線吸収剤であることを特徴とする上記5記載芯鞘型複合モノフィラメント。
【0016】
7.鞘成分のポリエステルが、スルホン酸ホスホニウム塩が0.5〜2.5モル%共重合された易染性ポリエステルであることを特徴とする上記1又は2記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【0017】
8.鞘成分のポリエステルに共重合されているがスルホン酸ホスホニウム塩が、下記式で表されるスルホン酸ホスホニウム塩であることを特徴とする上記7記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【0018】
【化2】

【0019】
9.鞘成分が、芳香族ポリエステル100重量部当りポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部及び該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有する制電性ポリエステル組成物からなることを特徴とする上記1又は2記載の芯鞘型複合フィラメント。
【0020】
10.有機イオン性化合物が下記の一般式で表わされるスルホン酸金属塩であることを特徴とする上記9記載の芯鞘型複合フィラメント。
【0021】
【化3】

【0022】
11.芯成分が固有粘度0.70dL/g以上の繊維成形性ポリマーからなり、鞘成分が固有粘度0.50〜0.65dL/gの芳香族ポリエステルと該芳香族ポリエステル100重量部当りポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部及び該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有するポリエステル組成物からなることを特徴とする上記9又は10記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【0023】
以下、上述の如き本発明の複合モノフィラメントを構成する芯・鞘成分について、さらに詳細に説明する。
本発明の複合モノフィラメントにあっては、少なくとも鞘成分として特定の芳香族ポリエステル又はそれを主とする組成物を用いる。本発明でいう芳香族ポリエステルとは、テレフタル酸で代表される芳芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とし、少なくとも1種のグリコール、好ましくはエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種のアルキレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを主たる対象とする。該芳香族ポリエステルは、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えた共重合ポリエステルであってもよく、また、グリコール成分の一部を主成分以外の上記グリコールもしくは他のジオール成分で置き換えた共重合ポリエステルであってもよい。
【0024】
ここで、共重合に使用され得るテレフタル酸以外の二官能性芳香族カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、3,3′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′−ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4′−p−フェニレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸等を挙げることができる。これらの二官能性芳香族カルボン酸は2種以上併用してもよい。さらに本発明の効果が実質的に奏せられる範囲で5‐ナトリウムスルホイソフタル酸等の金属スルホネート基を有するイソフタル酸を共重合成分として用いてよいが、この場合、その使用量をテレフタル酸成分に対して1.0モル%未満の量に抑えることが望ましい。また、芳香族ポリエステルの特性を損なわない程度の少量であれば、これらの二官能性芳香族カルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸等を1種又は2種以上併用することもできる。
【0025】
また、ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル―1,3―プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等及びそれらの混合物等を好ましく挙げることができる。また、少量であればこれらのジオール化合物とともに両末端又は片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0026】
さらに、上記の芳香族ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを併用することができる。
【0027】
本発明において好ましい芳香族ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレー(PBT)、ポリヘキシレンテレフタレート等のホモポリエステルのほか、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート・デカンジカルボキシレート等のような共重合ポリエステルを挙げることができる。また、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボキシレート等も使用可能である。 これらの芳香族ポリエステルの中でも、溶融紡糸性、繊維物性等のバランスが良好な、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)が特に好ましい。
【0028】
かかる芳香族ポリエステルは任意の方法によって合成される。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)について説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合体を生成させる第1段反応、次いで、その生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段反応とを行うことによって容易に製造される。
【0029】
本発明のモノフィラメントは芯鞘型の複合フィラメント(複合繊維)であって、芯成分が固有粘度0.70dL/g以上の繊維成形性ポリマーからなり、かつ鞘成分が、芯成分より固有粘度が低く、0.50〜0.65dL/gの範囲内にある芳香族ポリエステル又は該芳香族ポリエステルを主成分とするポリエステル組成物からなり、その横断面において芯成分が鞘成分により覆われ芯成分が表面に露出しないように配置された芯鞘型複合モノフィラメントである。すなわち、ここで「芯鞘型」とは、芯成分が鞘成分により完全に覆われているものを総称し、繊維断面において芯成分と鞘成分とが必ずしも同心円状に配置されている必要はない。
【0030】
本発明の複合モノフィラメントでは、鞘成分のポリエステルの固有粘度は0.40〜0.65dL/gであることが必要であり、0.45〜0.60dL/gであることが好ましい。通常、高モジュラス物性を持ちつつ、繊度が15dtex以下のモノフィラメントでは表面の糸削れが発生するが、本発明では、これを抑制するため、鞘部分の固有粘度を0.40〜0.65dL/gに選定することによって糸削れを抑制している。ただし、固有粘度を0.40dL/g未満にすると送液粘度が低すぎて溶融紡糸時の吐出が不安定になるだけではなく、芯鞘構造の形成にも悪影響を与え、芯部分が表面に露出する危険を有する。一方、固有粘度が0.65を超えると芯鞘構造の効果が得られなくなり、糸削れが発生する。
【0031】
これに対し、芯成分のポリマーは、上記鞘成分の芳香族ポリエステルと芯鞘型に複合紡糸が可能なポリマーで、固有粘度が0.7dL/g以上、好ましくは0.75〜0.95dL/g、の繊維形成性ポリマーである。ポリマーの種類はポリエステルのみに限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル等も使用可能であり、上記条件を満たす限り2種以上のポリマーのブレンドであって差し支えない。なかでも、芳香族ポリエステルは鞘側に使用する芳香族ポリエステルとの親和性が良好であるため、特に好ましい。
【0032】
芯成分として好適なポリマーの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラメチレンテレフタレート(PTT)のような芳香族ポリエステルが挙げられる。これらのなかでもPETは溶融紡糸を行う際の操業性、コストの面でももっとも好適である。ただし、芯成分ポリマーの固有粘度が0.70dL/g未満では、モノフィラメントの物性が悪くなるので不適当である。
【0033】
本発明では、かかる複合モノフィラメントにおいて、さらに、以下の諸条件を全て満たすことが必要である。
(A)芯成分の重量比率が50〜90%であること;
(B)モノフィラメントの平均繊維直径に対し1.1倍以上の直径を有する節糸部分が繊維長手方向10万メートルに対し1個以下であること;
(C)繊度が15dtex以下のモノフィラメントにおいて、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足すること;
(D)製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること;そして、
(E)モノフィフィラメント表面に付与された油剤(非水成分)の繊維重量に対する付着量が0.1〜0.4重量%であり、かつ該油剤によってモノフィラメントの繊維−繊維間の摩擦係数が0.2〜0.35に調整されていること。
【0034】
すなわち、本発明の複合モノフィラメントにおける芯成分の重量比率は、繊維(モノフィラメント)重量を基準にして50〜90%であり、好ましくは60〜70%である。芯成分が50重量%未満であると、繊維物性における鞘成分の影響が顕著となり、高強力・高モジュラス化が困難である。一方、芯成分が90重量%を超えると鞘側の厚みが繊維径の5%程度と非常に薄くなり、粘度変動等による送液の流出変動が起こると厚みが変化し、場合によっては芯成分が繊維表面に露出する危険が存する。
【0035】
本発明の複合モノフィラメントは、さらに、繊維長手方向10万メートル当り平均繊維直径に対し1.1倍以上の直径をもつ節部の個数が1個以下であるという特徴を有する。モノフィラメントにおける節部の発生要因としては、ポリマーに含有する未溶融異物やポリマー自身の劣化が挙げられる。ポリマー内の未溶融異物については、紡糸パック入口から口金吐出口までに濾過層を形成することでその排出を抑制させたり、分散させたりすることができる。この濾過層についてはモノフィラメント直径の約10〜15%の目開き量が好ましく、10%以下にするとパック内に異常な圧力がかかり、パック内部品とパック本体の破損につながる。目開き量が15%を超えると節糸の主因となる未溶融異物が粗大粒子のまま糸に含有し、節部の発生リスクが大きくなる。一方、ポリマー自身の劣化については溶融ポリマー送液に関し、配管の曲がりを減らし、パック導入から吐出までの時間を1分以内とし、ポリマーが受ける熱量を出来る限り軽減することによって節発生リスクを低減させることができる。
【0036】
さらに、本発明の複合モノフィラメントは、製品巻上げ翌日から10日間かけて測定したパッケージ(パーン)最内層部分のモノフィラメントのフリー収縮率が0.3%以下、好ましくは0.20〜0.28%、であるという特徴を有する。ここで最内層部とは、ボビン等に巻き上げたモノフィラメントパッケージ(パーン)のうち巻き取り開始後500m以内の部分をいう。一般に高モジュラス物性のモノフィラメントは糸内部に持つ繊維構造歪の影響でパーンひけが出やすい。これを軽減するために製品中の歪を十分に緩和した状態で巻き取ることが重要である。
【0037】
本発明の複合モノフィラメントでは、延伸後に0.3〜0.5%リラックス処理を施した後、最終ローラーから巻き取りまでに0.05秒以上の緩和時間を持つように条件設定することで、パーン最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下となり、パーンひけを抑制することができる。また、そのリラックス処理が0.3〜0.5%であれば、また、5%伸張時応力(モジュラス)(以下「5%LASE」という)を損なうことなく、繊維内部の構造歪を緩和することができる。
【0038】
このような本発明の複合モノフィラメントにあって、精密印刷に適したハイメッシュスクリーン用原糸としては、繊度が15dtex以下、特に10dtex以上14dtex以下、のモノフィラメントが適当である。繊度が上記範囲を超えるものはハイメッシュスクリーン用原糸として不適当である。また、上記5%LASEが3.0cN/dtex以上(特に3.5cN/dtex以上4.5cN/dtex以下)であり、伸度が40%以下(特に15%以上35%以下)であることが好ましい。5%LASE又は伸度が上記範囲を逸脱すると、本発明の目的とするハイメッシュのスクリーン紗に適したものフィラメントとはない難い。
【0039】
本発明の複合モノフィラメントにあっては、紡糸段階で付与する油剤として、エステルベースに特定のアルキレンオキサイド付加エステルの部分リン酸エステル塩を配合した油剤を採用し、繊維−金属間及び繊維−繊維間の摩擦係数を調整することによって、延伸以降の工程通過安定性が優れることを見出した。油剤は、通常、製織工程での糸削れを極めて少なく、優れた工程通過性を得るために紡糸時に付与するものであるが、延伸以降の工程通過安定性にも大きな影響を与える。
【0040】
本発明でモノフィラメントに付与する油剤は、主として、第1の油剤成分としての脂肪族エステル化合物(a)と第2の油剤成分としてのアルキレンオキサイド付加エステル(b)からなるものである。第1の油剤成分である脂肪族エステル化合物(a)は、摩擦抵抗を小さくし擦過による毛羽の発生を抑制するために使用するものであり、脂肪酸モノアルキルエステル、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステル、脂肪族多価アルコールのモノもしくは多脂肪酸エステル等の化合物をいい、分子量250〜550の範囲のものが好ましい。該エステルの分子量が250未満の場合には、熱揮散されやすいため得られるモノフィラメントの平滑性が低下する傾向にある。一方、分子量が550を越える場合には、得られるモノフィラメントの平滑性が不十分となるので好ましくない。好ましい脂肪族エステルとしては、例えば、オクチルオクタノエート、オクチルステアレート、イソトリデシルラウレート、イソトリデシルオレート、ラウリルオレート等の脂肪酸モノアルキルエステル及びジイソオクチルアジペート等の脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステルが挙げられる。脂肪族多価アルコールのモノもしくは多脂肪酸エステルとしては、トリメチロールプロパントリオクタネート等が挙げられるが、これらに限定されるものでない。これらの中でも、脂肪酸モノアルキルエステルが好ましい。
【0041】
また、第2の油剤成分であるアルキレンオキサイド付加エステル(b)は、繊維−繊維間の動摩擦係数を下げて製織時、糸同士の擦過による糸削れ防止のために使用するものである。本発明成分は、分子内に1個以上の水酸基を有するグリセライドにアルキレンオキサイドを付加したものと、二塩基酸成分、必要に応じてさらに一塩基酸成分、とを反応させたエステル化合物である。ここで分子内に1個以上の水酸基を有するグリセライドとしては、特にトリグリセライドが好ましく、例えば、リシーノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等のトリグリセライド、代表例としてヒマシ油を挙げることができる。かかるトリグリセライドに付加するアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドを挙げることができ、特にエチレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの付加モル数は、5〜50モル、好ましくは10〜30モルである。アルキレンオキサイドの付加方法は常法でよく、2種以上を付加させる場合には、ランダムで付加してもブロックで付加してもよい。
【0042】
本発明における油剤は、上記(a)(b)の両成分を必須成分として含有するものであるが、必要に応じて他の成分、例えば、エステルや非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、酸化防止剤、相溶化剤、安定性向上剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
なお、本発明者らの研究によれば、上記以外の油剤を使用した場合は、摩擦係数を上記の特定範囲に調整することが難しく、また、モノフィラメントの糸削れ抑制効果が少なく、かつスカムの発生も見られるので、好ましくない。
【0043】
以上に説明した組成の油剤をモノフィラメントに付着させる際には、任意の方法を採用することができる。例えば、油剤成分を水中に乳化分散させたエマルジョンを用いてもよく、ストレート油剤をそのままモノフィラメントに用いてもよい。
すなわち、油剤は、一般に、製織工程での糸削れを極めて少なく、優れた工程通過性を得るために紡糸時に付与される。本発明におけるモノフィラメントへの油剤付与は、通常一般に公知の任意の手段を採用することができるが、なかでも溶融紡糸工程で、糸に与える抵抗の少ないオイリングノズルを介して計量された量の油剤を付与する方法がより好ましい方法である。
【0044】
油剤のモノフィラメントへの付着量(OPU)は、繊維重量に対する有効成分(非水成分)量として0.1〜0.4重量%とすることが必要である。付着量(OPU)が0.1重量%未満の場合には平滑性が不十分となって糸削れ、スカム発生等のトラブルを惹き起こす。一方、付着量(OPU)が0.4重量%を超えても糸削れ抑制効果の向上は少なく、逆に筬へのスカムの発生を招き、過剰の油剤が糸導等を汚染することになって、新たな問題を惹き起こすことにもなるので、工業上得策でない。
【0045】
以上の如き本発明の複合モノフィラメントは、繊維−繊維間の動摩擦係数が下がっていること、油膜強化を行っていること等により、筬等の繰り返し擦過に対しても糸削れやスカムが発生することなく、良好に製織工程を通過することができる。
【0046】
このような本発明のモノフィラメントを製造する好適な方法としては、固有粘度0.70dL/g以上の繊維成形性ポリマーと、固有粘度0.50〜0.65dL/gの芳香族ポリエステル又はこれを主成分とする組成物を、上記の繊維成形性ポリマーが芯成分となりポリエステル又は組成物が鞘成分となり、かつ芯鞘の比率(重量比)が50:50〜90:10となるように芯鞘型に複合紡糸して、平均繊維直径に対し1.1倍以上の直径を有する節糸部の個数が繊維長10万メートル当たり1個以下であるモノフィラメントを形成し、これを延伸後、0.3〜0.5%リラックス処理を施した後、最終ローラーから巻き取りまでに0.05秒以上に緩和時間を持つように条件設定する方法を採用することができる。
【0047】
この際、ポリマー内の未溶融異物については、パック入り口から口金吐出口までに濾過層を形成することでその排出を抑制させたり、分散させたりすることができる。この濾過層については、製造すべきモノフィラメント直径の約10〜15%の目開き量の濾過層が好ましく、また,ポリマー自身の劣化を低減するために、溶融ポリマー送液の配管の曲がりを減らし、パック導入から吐出までの滞留時間を1分以内とし、ポリマーが受ける熱量を出来る限り軽減することによって、節の発生リスクを低減させることができ、平均繊維直径に対し1.1倍以上の直径を有する節糸部の個数が繊維長10万メートル当たり1個以下であるモノフィラメントを得ることができる。
【0048】
以上の方法により製造されたモノフィラメントは、繊維−繊維間の動摩擦係数が0.2〜0.35に下がっていること、油膜強化を行っていること等により、筬等の繰り返し擦過に対しても糸削れやスカムが発生することなく、良好に製織工程を通過することができる。なお、繊維−繊維間の動摩擦係数が0.2未満では糸削れ、スカムなどが多くなり、製品の品質及び工程通過性が悪化するので、本発明の課題を達成することが難しい。
【発明の効果】
【0049】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントは、より細繊度で高強力、高モジュラスでかつ改善された特性を有する。したがって、スクリーン紗製造の工程においてはハイメッシュの要求に応えるため、高密度に経糸を形成し、製織する際に糸と筬との間により過酷な繰り返し摩擦を受けても、ヒゲ状あるいは粉末状の削れが発生せず、開口不良による経糸切れ等が生じないため、製織工程の生産性が改善され、製品の品位も向上する。そして、この芯鞘型複合モノフィラメントは、ロープ、ネット、テグス、ターポリン、テント、スクリーン、パラグライダー及びセールクロス等の原糸として有用であり、特にスクリーン印刷用のメッシュ織物、プリント配線基盤の製造等の高度な精密性を要求されるハイメッシュでハイモジュラスのスクリーン紗を得るのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、本発明の具体的な実施形態について説明する。本発明には、主として、耐加水分解性(耐湿熱性)に優れた複合モノフィラメントに係る第1の実施形態、紫外線に対する耐性を有する複合モノフィラメントに係る第2の実施形態、常圧沸水中で濃色に染色可能な複合モノフィラメントに係る第3の実施形態、そして、制電性を有する複合モノフィラメントに係る第4の実施形態が含まれる。以下、各実施形態について主としてそれぞれの実施形態の特徴的な部分を中心に詳述する。
【0051】
<第1の実施形態について>
本発明における第1の実施形態は、耐湿熱性に優れ使用中の強度低下の少ない複合モノフィラメントに係るものである。
本発明の第1の実施形態では、固有粘度が0.70dL/g以上、好ましくは0.75〜0.95dL/gである芳香族ポリエステルを芯成分として、0.40〜0.65dL/g、好ましくは0.45〜0.60dL/g、の芳香族ポリエステルを鞘成分とし、かつ芯鞘両成分の末端カルボキシル基濃度が15eq/10gg以下である芳香族ポリエステルを使用するとともに、油膜強化成分を施した油剤を使用することで、従来のモノフィラメント対比、湿熱耐久性に優れ、糸削れ性にも効果あるモノフィラメントが提供される。
【0052】
すなわち、該モノフィラメントは、芯成分と鞘成分の双方に末端カルボキシル基濃度15eq/10g以下である芳香族ポリエステルを使用し、芯成分のポリマーの固有粘度が0.70dL/g以上であり、かつ鞘成分のポリエステルの固有粘度が0.40〜0.65dL/gの範囲である、芯鞘で固有粘度差を有する芯鞘型複合モノフィラメントであり、さらに下記(A)〜(G)を満足することを特徴とするモノフィラメントである。
(A)芯成分の重量比率が50〜90%であること;。
(B)モノフィラメントの繊維長手方向10万メートル当り繊維直径に対し1.1倍以上の節部が1個以下であること;
(C)繊度が15dtex以下のモノフィラメントにおいて伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足すること;
(D)製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること;そして、
(E)脂肪族エステル化合物が50〜80重量%と炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド0〜10モル付加物の部分リン酸エステル塩が1〜10重量%含有した油剤が繊維重量を基準として0.1〜0.4重量%付着することでモノフィラメントの繊維−繊維動摩擦係数が0.2〜0.35に調整されていること。
【0053】
この第1の実施形態においては、複合モノフィラメントの芯成分及び鞘成分の双方で使用されるポリエステルが、ともに末端カルボキシル基濃度が15eq/10g以下である芳香族ポリエステルであって、かつ、下記一般式
【化4】

で表されるリン酸エステルをリンの含有量に換算して3〜50ppm含有している耐加水分解性の優れた芳香族ポリエステルが好ましい。
【0054】
かかる本発明の第1の実施形態では、従来のモノフィラメントでは得られなかった、優れた寸法安定性、糸削れ抑制効果をもち、カルボ末端の少ないポリマーを使用することで製品を繰り返し使用した際の物性劣化の少ない、かつハイメッシュ化が可能な細繊度でかつ高強度、高モジュラスなモノフィラメントが提供される。
【0055】
ちなみに、ポリエステルフィラメントの耐加水分解性を高める方法として、あらかじめポリエステルの末端カルボキシル基濃度を低下させておく方法が知られており、その目的でエポキシ化合物を添加する方法として、特公昭44−27911号公報及び特開昭54−6051号公報に、ある種のエポキシ化合物を添加してポリエステルの末端カルボキシル基濃度を低下させる方法が記載されている。しかし、これらの方法では、エポキシ化合物の反応性が低く、その効果は小さく、モノフィラメントとしても耐屈曲磨耗性が低いという問題がある。また、ポリエステルフィラメントの耐屈曲磨耗性を高める方法として金属粒子を添付する方法(特開平3−76813号公報)、ケイ素化合物で繊維表面をコーティングする方法(特開平3−249273号公報)、ポリエステルとナイロンとの芯鞘複合型複合糸とする方法(特開平2−145894号公報)等が提案されているが、これらの方法では耐屈曲磨耗性はある程度改善されたモノフィラメントは得られるものの、耐加水分解性が低いばかりか、ローラー表面等ベルトの接触する部分が磨耗するという問題があった。
【0056】
さらに、溶融重合法により末端カルボキシル基濃度を低下させ、モノフィラメントを製造する方法(特開平8−120520号公報)が提案されているが、その方法では、糸表面が高度に配向・結晶化される。しかし、スクリーン紗製造の工程においてはハイメッシュの要求に応えるため、高密度に経糸を形成し、製織することとなる。その際、糸と筬との間により過酷な繰り返し磨耗を受けることとなり、ヒゲ状あるいは粉末状の削れが発生し、開口不良による経糸切れ等により生産性はもちろん製品の品位も低下する。
【0057】
本発明における第1の実施形態のモノフィラメントは、固有粘度が0.70dL/g以上あるポリエステルを芯成分として、0.40〜0.65dL/gのポリエステルを鞘成分として双方の末端カルボキシル基濃度がポリマー10g当り15eq以下である末端カルボキシル基の少ない芳香族ポリエステルを使用することで、従来のモノフィラメントと対比して、湿熱耐久性に優れ、油膜強化剤を施した油剤を使用することによって糸削れ性にも効果あるモノフィラメントを提供するものである。
【0058】
本発明の第1の実施形態では、鞘成分のポリエステルの固有粘度は0.40〜0.65dL/gである。通常、高モジュラス物性を持ちつつ、繊度が15dtex以下のモノフィラメントでは表面の糸削れが発生する。本発明では、これを抑制するため、鞘部分の固有粘度を0.40〜0.65dL/g、特に0.45〜0.60dL/gとすることにより、糸削れを抑制することができる。ただし固有粘度を0.40dL/g未満にすると送液粘度が低すぎて紡糸時の吐出が不安定になるだけではなく、芯鞘の形成にも悪影響を与え、フィラメントで芯部分が表面に露出する危険を有する。固有粘度が0.65を超えると芯鞘構造の効果が得られなくなり、糸削れが発生する。
【0059】
精密印刷に適したハイメッシュスクリーン(300〜400メッシュ)には15dtex以下、特に10〜15dtex、の細繊度フィラメントが用いられる。
紗織物用フィラメントには製織性の低下や紗伸び等の発生を抑えるだけの寸法安定性が必要である。その寸法安定性を得るための代用特性として低伸度領域での発生応力で議論されることが多く、一般的には伸度5%時の応力(5%LASE)により性能を評価することが一般的である。本発明のスクリーン紗用モノフィラメントは芯成分に固有粘度0.7dL/g以上、特に0.70〜0.90dL/gの高固有粘度のポリマーを使うことで高強度化が可能となり、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足することができる。
【0060】
この実施形態で使用する芯成分及び鞘成分に使用するポリマーは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート等、あるいはこれらを主とする耐加水分解性の芳香族ポリエステルであって、該芳香族ポリエステルの末端カルボキシル基濃度が15eq/10g以下、好ましくは10eq/10g以下のものである。
【0061】
また、本発明の第1の実施形態において上記芳香族ポリエステル中に含まれるリン酸エステルは下記式で表される化合物である。
【0062】
【化5】

【0063】
前記のR1〜R3において、アルコキシド基としては炭素数1〜10、好ましくは炭素数1〜5のアルコキシド基が望ましく、具体的には−OCH、−OC、−OC、−OC及びOC11 が挙げられる。また、アリロキシドとしては、フェノキシド(−O−C)及びトルイロキシド(−O−C−CH)が挙げられる。
【0064】
前記一般式(I)のリン酸エステルはR1〜R3のうち、少なくとも一つは、ポリオキシアルキレングリコール基である点に特徴を有している。かかるポリオキシアルキレングリコール基としては式
【化6】

で表され、ここで、R4は炭素数2〜6、好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基であり、nは2〜25、好ましくは2〜10の範囲である。
【0065】
本発明にて使用される上記ポリエステルは、末端カルボキシル基を低下させるだけでなく、特定のリン酸エステルの使用及びさらに必要により触媒種とその量を特定することにより、湿熱条件下での極限粘度の劣化や末端カルボキシル基濃度が抑制された耐熱性、耐加水分解性に優れた芳香族ポリエステルとなる。無論、耐加水分解性を向上させるには従来からの知見の通り、末端カルボキシル基濃度を低下されることも重要であり、そのためのポリエステルの重合工程の適正化、固相重合による高極限粘度及び低末端カルボキシル基濃度化、各種エポキシ化合物等、公知の低カルボ化剤を任意の方法で添加してもよい。また、必要に応じて、安定剤、着色剤等の添加剤を含んでもよい。
【0066】
ただし、耐加水分解性を持たない通常のポリエチレンテレフタレートでは、例えば、芯部分に固有粘度0.72dL/g、鞘部分に固有粘度0.56dL/gの通常のポリエチレンテレフタレートを用いても、強度保持率が35%程度まで低下し、本実施形態で目標とする良好なスクリーン紗を得ることができない。
【0067】
本発明の複合モノフィラメントは、既に述べたように、その横断面において芯成分が鞘成分により覆われ芯成分が表面に露出しないように配置された芯鞘型複合モノフィラメントである。なお、断面形状については安定した製糸性及び高次加工性が得やすいという点や製織後の乳剤を塗布して感光させる際に発生するハレーションを防止する点、スクリーン紗の目開きの安定性等の理由により丸断面が好ましい。
【0068】
本発明のモノフィラメントは芯成分の重量比率(繊維全体に対する割合)が50〜90%、好ましくは60〜70%である。芯成分が50重量%未満であると、糸物性として鞘成分の影響が顕著となり、高強力・高モジュラス化が困難である。一方、90重量%を超えると鞘成分の厚みが繊維径の5%程度となって非常に薄くなり、粘度変動等による送液の流出変動が起こると厚みが変化し、甚だしい場合には、芯成分が糸表面に露出する危険を有する。
【0069】
該モノフィラメントは、既に述べた通り、繊維長手方向10万m当り、繊維直径に対し1.1倍以上の直径をもつ節部が1個以下であるという特徴を有する。節部の発生要因としてはポリマーに含有する未溶融異物やポリマー自身の劣化が挙げられる。ポリマー内の未溶融異物については、パック入り口から口金吐出口までに濾過層を形成することでその排出を抑制させたり、分散させたりすることができる。この濾過層についてはモノフィラメント直径の約10〜15%の目開き量が好ましく、10%未満ではパック内に異常な圧力がかかり、パック内部品とパック本体の破損につながる。15%を超えると節糸の主因となる未溶融異物が粗大粒子のまま糸に含有し、節の発生リスクが大きくなる。また、ポリマー自身の劣化についてはポリマー送液に関し、配管の曲がりを減らし、パック導入から吐出までの時間を1分以内とし、ポリマーが受ける熱量を出来る限り軽減することによって節の発生リスクを低減させることができる。
【0070】
さらに、該モノフィラメントは、製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下である。ここで最内層部とは、ボビン等に巻き上げたモノフィラメントのうち巻き取り開始後、500m以内の部分をいう。本発明のような高モジュラス物性のモノフィラメントは糸内部に持つ繊維構造歪の影響でパーンひけが出やすい。これを軽減するために製品中の歪を十分に緩和した状態で巻き取ることが重要である。本発明では延伸後、0.3〜0.5%リラックス処理を施した後、最終ローラーから巻き取りまでに0.05秒以上に緩和時間を持つように条件設定することで、パーンひけを抑制することができる。また、そのリラックス処理が0.3〜0.5%であれば、5%LASEを損なうことなく、繊維内部の構造歪を緩和することができる。
【0071】
本発明の第1の実施形態に係るモノフィラメントは、上述した如く、脂肪酸エステル化合部のベースに特定のアルキレンオキサイド付加エステルの部分リン酸エステル塩を配合した油剤(仕上げ剤)を採用し、繊維と金属及び繊維と繊維の静摩擦を上記の如き特定の範囲内に調整することによって延伸以降の工程通過安定性が優れる。油剤は、製織工程での糸削れを極めて少なく、優れた工程通過性を得るために紡糸時に付与するものである。
【0072】
各油剤成分については既に説明した通り、(a)成分である脂肪族エステル化合物は摩擦抵抗を小さくし擦過による毛羽の発生を抑制するために使用するものであり、脂肪酸モノアルキルエステル、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステル、脂肪族多価アルコールのモノもしくは多脂肪酸エステル等の化合物をいい、分子量250〜550の範囲のものが好ましい。該エステルの分子量が250未満の場合には、熱揮散されやすいため得られるモノフィラメントの平滑性が低下する傾向にある。一方、550を超える場合には、得られるモノフィラメントの平滑性が不十分となるので好ましくない。好ましい脂肪族エステルとしては、例えば脂肪酸モノアルキルエステルとしては、オクチルオクタノエート、オクチルステアレート、イソトリデシルラウレート、イソトリデシルオレート、ラウリルオレート等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルエステルとしては、ジイソオクチルアジペート等が挙げられ、脂肪族多価アルコールのモノもしくは多脂肪酸エステルとしては、トリメチロールプロパントリオクタネート等が挙げられる。なかでも、脂肪酸モノアルキルエステルが好ましい。
【0073】
また、(b)成分であるアルキレンオキサイド付加エステルは繊維−繊維間の動摩擦係数を下げて製織時、糸同士の擦過による糸削れ防止のために使用するものである。この成分は、分子内に1個以上の水酸基を有するグリセライドにアルキレンオキサイドを付加したものと、二塩基酸成分、必要に応じてさらに一塩基酸成分とを反応させたエステル化合物である。ここで分子内に1個以上の水酸基を有するグリセライドとしては、特にトリグリセライドが好ましく、例えば、リシーノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等のトリグリセライド、代表例としてヒマシ油を挙げることができる。かかるトリグリセライドに付加するアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドを挙げることができ、特にエチレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの付加モル数は5〜50モル、好ましくは10〜30モルである。アルキレンオキシドの付加方法は常法でよく、2種以上を付加させる場合には、ランダムに付加してもブロックで付加してもよい。
【0074】
本発明における油剤は、上記の成分を基剤とするものであるが、必要に応じて他の成分、例えば、エステルや非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、酸化防止剤、相溶化剤、安定性向上剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。以上に説明した油剤をモノフィラメントに付着させる際には、水に乳化させたエマルジョンを用いてもよいし、原液をそのまま用いてもよく、任意の方法を採用することができる。
【0075】
油剤(非水成分)の複合モノフィラメントへの付与は、通常一般に公知の任意の手段を採用することができるが、なかでも溶融紡糸工程で、糸に与える抵抗を少なくするオイリングノズルを介して計量された量を付与する方法がより好ましい方法である。
【0076】
油剤のモノフィラメントへの付着量(OPU)は、繊維に対して有効成分(非水成分)として0.1〜0.4重量%の範囲内にあることが必要である。付着量が0.1重量%未満の場合には平滑性が不十分となって糸削れ、スカム発生等のトラブルを惹き起こす。一方、0.4重量%を超えても糸削れ抑制効果の向上は少なく、逆に筬へのスカムの発生過剰の油剤が糸導等を汚染することになり、新たな問題を惹き起こすことにもなり工業上得策でない。以上の手法を用いて得られたモノフィラメントは繊維−繊維静摩擦係数を下がっていることと油膜強化を行っていること、筬等の繰り返し擦過に対しても糸削れやスカムが発生することなく、良好に製織工程を通過することができる。
【0077】
<第2の実施形態について>
本発明の第2の実施形態は、紫外線吸収性を有する複合モノフィラメントに係るものである。具体的には、ロープ、ネット、テグス、ターポリン、テント、スクリーン、パラグライダー及びセールクロス等の原糸として有用なモノフィラメント、特にスクリーン印刷用のメッシュ織物、プリント配線基盤の製造等の高度な精密性を要求されるハイメッシュでハイモジュラスのスクリーン紗を得るのに好適なモノフィラメントで、紫外線吸収特性を有することでハレーションの発生の軽減、糸表面に付着させる油剤の油膜強化することより糸削れを少ないことを特徴としたモノフィラメントに係るものである。
【0078】
スクリーン紗の製造工程で紫外線露光工程の制御は非常に重要で、露光量が少ないと感光膜の硬化が不十分で現像時に脱落することがある。逆に多すぎると現像時に感光樹脂の抜けが悪くなり、織目がうまることがある。また紫外線の強弱にかかわらず、紫外線が糸表面で乱反射し、露光不要な部分まで感光させて硬化する、いわゆるハレーションが発生し、印刷設計や精度が大きく狂ってしまう。
【0079】
このようなハレーション抑制のため、スクリーン紗に染色を行う方法があるが、染色によるハレーション抑制には性能に限界があり、十分でないうえ、製織後に染色する工程が必要となり、コスト高で織物にも湿熱によるダメージを与えてしまう。
【0080】
また、酸化チタン等の紫外線を遮断する無機粒子を練りこむ方法があるが、無機粒子が凝集しやすく、均一分散が難しいために、遮断性能が安定したもの得ることは難しい。さらに、上記凝集物が節糸の要因となる可能性がある。
【0081】
なお、ポリエステル糸に有機系の紫外線吸収剤を0.1重量%以上含有させたポリエステルモノフィラメントが既に提案されている(特開昭59−150110号公報)。しかし、直接、有機系紫外線吸収剤を練り込むことによって破断強度が下がるため、目標とする高強度・高モジュラスを有するモノフィラメントを得ることはできない。
【0082】
また、ポリエステルスクリーン紗の経糸及び緯糸に物理的に紫外線反射防止膜を被覆する方法が提案されている(特開2003−19875号公報)。しかし、かかる防止膜を被覆する工程が増える上に特別な設備が必要であり、大きなコストアップにつながる。
【0083】
安いコストで高い破断強度を得るために芯鞘型の複合モノフィラメントが提案されている(特開2004−262007号公報)。しかし、この複合モノフィラメントのように鞘側に直接有機化合物系の紫外線吸収剤を含有させたポリマーを使用すると、要求されるハイメッシュスクリーン紗製造の工程においては、ハイメッシュの要求に応えるため、高密度に経糸を形成し、製織する必要がある。その結果、糸と筬との間により過酷な繰り返し摩擦を受けることになり、そのため、ヒゲ状あるいは粉末状の削れが発生し、開口不良による経糸切れ等により生産性はもちろん製品の品位も低下する。
【0084】
本発明の第2の実施形態では、表面の鞘成分のみに紫外線吸収剤を配合し、紫外線吸収特性を有することでハレーションの発生の軽減し、糸表面に付着させる油剤の油膜強化することより糸削れを少ないモノフィラメントが提供される。
【0085】
かかるモノフィラメントは、固有粘度が0.70dL/g以上あるポリマーを芯成分として使用し、有機紫外線吸収剤を0.01〜5.0重量%含有する0.40〜0.65dL/gのポリエステルを鞘成分に使用することで構成される芯鞘型複合モノフィラメントであり、さらに、下記(A)〜(F)の条件を全て満足する複合モノフィラメントである。
(A)芯成分の重量比率が50〜90%であること;
(B)鞘成分に使用されるポリエステルは紫外線吸収剤がベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の紫外線吸収剤が0.01〜5.0重量%していること;
(C)モノフィラメントの繊維長手方向10万メートルで繊維直径に対し1.1倍以上の節糸が1個以下であること;
(D)繊度が15dtex以下のモノフィラメントにおいて伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足すること;
(E)製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること;そして
(F)脂肪族エステル化合物が50〜80重量%と炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド0〜10モル付加物の部分リン酸エステル塩が1〜10重量%含有する油剤を繊維重量基準で0.1〜0.4重量%付与することで該モノフィラメントの繊維−繊維動摩擦係数が0.2〜0.35に調整されていること。
【0086】
以上の如き本発明の第2の実施形態では、従来のモノフィラメントでは得られなかった、優れた寸法安定性、糸削れ抑制、節糸抑制効果をもち、紫外線吸収ポリマーを使用することでハレーション抑制が向上し、かつハイメッシュ化が可能な細繊度でかつ高強度、高モジュラスなモノフィラメントが提供される。
【0087】
すなわち、このモノフィラメントでは、固有粘度が0.70dL/gで以上ある繊維形成性ポリマーを芯成分とし、有機紫外線吸収剤が0.01〜5.0重量%含有されている固有粘度0.40〜0.65dL/gの芳香族ポリエステルを鞘成分として使用することで、従来のモノフィラメントに比べて、紫外線吸収性に優れ、糸表面に油膜強化を施した油剤を使用することによって糸削れ性にも効果あることを特徴とするモノフィラメントを提供するものである。
【0088】
本実施形態では、精密印刷に適したハイメッシュスクリーン(300〜400メッシュ)15dtex以下、特に10〜15dtex、の細繊度フィラメントとするのが好適である。紗織物用フィラメントには製織性の低下や紗伸び等の発生を抑えるだけの寸法安定性が必要である。その寸法安定性を得るための代用特性として低伸度領域での発生応力で議論されることが多く、一般的には伸度5%時の応力(モジュラス、以下5%LASE)により性能を評価することが一般的である。本発明の第2の実施形態でもスクリーン紗用モノフィラメントは芯成分に0.7dL/g以上の高固有粘度ポリマーを用いることで高強度化が可能となり、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足することができる。
【0089】
この実施形態においては、芯成分ポリマーの種類はポリエステルに限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル等も挙げられ、芯鞘複合紡糸が可能で、固有粘度が0.7dL/g以上あれば、限定せず、使用することができる。なかでもポリエステルは鞘側に使用する紫外線吸収性ポリエステルとの親和性が良好であるため、特に好ましい。使用するポリエステルの種類としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のような芳香族ポリエステルが挙げられ、これらの中でも、PETは溶融紡糸を行う際の操業性、コストの面でも最適である。
【0090】
鞘成分となる紫外線吸収性ポリエステルの固有粘度は0.40〜0.65dL/gである。通常、高モジュラス物性を持ちつつ、繊度が15dtex以下の細いモノフィラメントでは製糸段階や加工段階で表面の糸削れが発生する。これを抑制するため、本発明では鞘部分を0.40〜0.65dL/gとすることにより、糸削れを抑制している。固有粘度が0.40dL/g未満では送液粘度が低すぎて紡糸時の吐出が不安定になるだけではなく、芯鞘の形成にも悪影響を与え、芯部分が表面に露出する危険を有する。一方、固有粘度が0.65を超えると芯鞘構造の効果が得られなくなり、糸削れが発生しやすくなる。
【0091】
鞘成分ポリマー中に添加される紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤又はベンゾフェノン系紫外線吸収剤が使用される。
【0092】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3’,5’−ジ−tert−アミル−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、5−トリフルオロメチル−2−(2−ヒドロキシ−3−(4−メトキシ−α−クミル)−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0093】
なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールが好ましく、さらに2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0094】
トリアジン系の紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニルトリアジン系の例えば登録商標「チヌビン400」(チバスペシャルティーケミカル社製)が好ましい。
【0095】
ベンゾオキサジン系の紫外線吸収剤としては、2−メチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−ブチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−フェニル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(1−又は2−ナフチル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−(4−ビフェニル)−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6又は1,5−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、1,3,5−トリス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン−2−イル)ベンゼン等が挙げられるが、なかでも2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好ましい。
【0096】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等が挙げられ、なかでも2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンが好ましい。これらの紫外線吸収剤は単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0097】
これらの紫外線吸収剤の含有量は、芳香族ポリエステルを100重量%に対して0.01〜5.0重量%であり、好ましくは0.02〜3.0重量%であり、特に好ましくは0.05〜2.0重量%である。0.01重量%未満では紫外線吸収性能が不十分で、5.0重量%を超えると樹脂の色相が悪化することがあるので好ましくない。
【0098】
なお、鞘部分に紫外線吸収特性を持たない通常の芳香族ポリエステルを使用すると、印刷性能が後述する評価で3点又はそれ以下となり、本実施形態で目標とするスクリーン紗を得ることができない。
【0099】
本実施形態のモノフィラメントは、その横断面において芯成分が鞘成分により覆われ芯成分が表面に露出していないように配置された芯鞘型複合モノフィラメントである。断面形状については安定した製糸性及び高次加工性が得やすいという点や製織後の乳剤を塗布して感光させる際に発生するハレーションを防止する点、スクリーン紗の目開きの安定性等により丸断面が好ましい。
【0100】
また、該モノフィラメントは、既に述べた第1の実施形態と同様に、芯成分の重量比率が50〜90%である。好ましくは60〜70%である。芯成分が50重量%未満であると繊維物性として鞘成分の影響が顕著となり、高強力・高モジュラス化が困難である。一方、90重量%を超えると鞘側の厚みが繊維径の5%程度となり、非常に薄くなり、粘度変動等による送液の流出変動が起こると厚みが変化し、場合によっては芯成分が糸表面に露出する危険がある。
【0101】
また、該モノフィラメントの繊維長手方向10万メートル当り繊維直径に対し1.1倍以上の節部が1個以下である。モノフィラメントにおける節部の発生要因としてはポリマーに含有する未溶融異物やポリマー自身の劣化が挙げられる。ポリマー内の未溶融異物については、パック入り口から口金吐出口までに濾過層を形成することでその排出を抑制させたり、分散させたりすることができる。この濾過層についてはモノフィラメント直径の約10〜15%の目開き量が好ましく、10%以下にするとパック内に異常な圧力がかかり、パック内部品とパック本体の破損につながる。15%以上にすると節糸の主因となる未溶融異物が粗大粒子のまま糸に含有し、節の発生リスクが大きくなる。また、ポリマー自身の劣化についてはポリマー送液に関し、配管の曲がりを減らし、パック導入から吐出までの時間を1分以内とし、ポリマーが受ける熱量を出来る限り軽減することによって節の発生リスクを低減させることができる。
【0102】
さらに、該モノフィラメントは、製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であるという特徴を有する。ここで最内層部とは、ボビン等に巻き上げたモノフィラメントのうち巻き取り開始後、500m以内の部分をいう。本研究のような高モジュラス物性のモノフィラメントは糸内部に持つ繊維構造歪の影響でパーンひけが出やすい。これを軽減するために製品中の歪を十分に緩和した状態で巻き取ることが重要である。本発明では延伸後、0.3〜0.5%リラックス処理を施した後、最終ローラーから巻き取りまでに0.05秒以上に緩和時間を持つように条件設定することで、パーンひけを抑制することができる。また、そのリラックス処理が0.3〜0.5%であれば、5%LASEを損なうことなく、繊維内部の構造歪を緩和することができる。
【0103】
該モノフィラメントにおいても、エステルベースに特定のアルキレンオキサイド付加エステルの部分リン酸エステルを配合した油剤の採用と繊維と金属及び繊維と繊維の静摩擦を特定な範囲に設定することによって延伸以降の工程通過安定性が優れることが見出された。油剤は、製織工程での糸削れを極めて少なく、優れた工程通過性を得るために紡糸時に付与するものである。
【0104】
各油剤成分については、第1の実施形態と同様に、摩擦抵抗を小さくして摩擦係数を上記の範囲内に調整し、毛羽や糸削れの発生を抑制する脂肪族エステル化合物(a)とアルキレンオキサイド付加エステル(b)成分を組み合わせたものである。この油剤は、上記の成分(a)及び(b)を基剤とするものであるが、必要に応じて他の成分、例えば、エステルや非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、酸化防止剤、相溶化剤、安定性向上剤などを本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。以上に説明した油剤をモノフィラメントに付着させる際には、水に乳化させたエマルジョンを用いてもよいし、原液をそのまま用いてもよく、任意の方法を採用することができる。
【0105】
油剤のモノフィラメントへの付与は、通常、一般に公知の任意の手段を採用することができるが、なかでも糸に与える抵抗を少なくするオイリングノズルを介して計量された量を付与する方法がより好ましい方法である。
【0106】
油剤(非水成分)のモノフィラメントへの付着量は、繊維に対して有効成分として0.1〜0.4重量%とすることが必要である。付着量が0.1重量%未満の場合には平滑性が不十分となって糸削れ、スカム発生等のトラブルを惹き起こす。一方、0.4重量%を超えても糸削れ抑制効果の向上は少なく、逆に筬へのスカムの発生過剰の油剤が糸導等を汚染することになり、新たな問題を惹き起こすことにもなり工業上得策でない。以上の手法を用いて得られたモノフィラメントは繊維−繊維静摩擦係数を下がっていることと油膜強化を行っていること、筬等の繰り返し擦過に対しても糸削れやスカムが発生することなく、良好に製織工程を通過することができる。
【0107】
<第3の実施形態について>
本発明の第3の実施形態は、常圧沸水中で濃色に染色可能なモノフィラメント、さらに具体的には、特にスクリーン印刷用のメッシュ織物、プリント配線基盤の製造等の高度な精密性を要求されるハイメッシュでハイモジュラスのスクリーン紗を得るのに好適なモノフィラメントであって、常圧の沸水中で濃色に染色することが可能なモノフィラメントに関する。
【0108】
ポリエステル繊維、特にポリエチレンテレフタレート繊維は、強度、寸法安定性等多くの優れた特性を備え、様々の用途に利用されている。反面、ポリエチレンテレフタレート繊維は染色性が劣り、染色に関しては130℃付近の高温高圧で染色する必要があるため特別な装置を必要とする。
【0109】
ポリエチレンテレフタレート染色性改良、常圧可染化に関しては、いくつかの試みがなされており、例えば染色時にキャリヤーを用いる方法が知られているが、特別なキャリヤーを要すること、染色液の後処理が困難となる欠点がある。また、染色性の改良されたポリエチレンテレフタレートとして金属スルホネート基含有化合物やポリエーテルを共重合したものが知られるが、これら変性ポリエステルは染色性については向上するものの、重合、紡糸が困難であったり、或いはポリエチレンテレフタレート本来のすぐれた性質を低下させたり、さらには堅牢度が劣る等の欠点があった。
【0110】
本発明の第3の実施形態では、従来のモノフィラメントでは得られなかった、優れた寸法安定性、糸削れ抑制効果、パーン引け防止効果、常圧染色により濃色に染色することができ、さらにハレーション防止効果を有し、かつハイメッシュ化が可能な細繊度でかつ高強度、高モジュラスなモノフィラメントが提供される。本発明のモノフィラメントは、固有粘度が0.70dL/g以上であるポリマーを芯成分として、スルホン酸ホスホニウム塩が0.5〜2.5モル%共重合されたポリエステルを鞘成分で構成することで従来高圧染色必要なモノフィラメントを常圧での染色を可能とすることで、染色加工時に受ける加工ダメージを軽減することで従来モノフィラメント対比、加工後のスクリーン紗のモジュラス特性に優れているという利点を有する。
【0111】
すなわち、このモノフィラメントは、固有粘度が0.70dL/g以上の繊維成形性ポリマーを芯成分、スルホン酸ホスホニウム塩が0.5〜2.5モル%共重合された鞘成分のポリエステルの固有粘度が0.45〜0.65dL/gの範囲であるポリエステルを鞘成分で構成される芯鞘型複合モノフィラメントにおいて下記A〜Fを満足することを特徴とするモノフィラメントである。
(A)芯成分の重量比率が50〜90%であること;
(B)鞘成分が下記式で表わされるスルホン酸ホスホニウム塩が共重合されている芳香族ポリエステルであること;
【化7】

(C)モノフィラメントの繊維長手方向10万メートルで繊維直径に対し1.1倍以上の節糸が1個以下であること;
(D)繊度が15dtex以下のモノフィラメントにおいて伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足すること;
(E)製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること;
(F)脂肪族エステル化合物が50〜80重量%と炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド0〜10モル付加物の部分リン酸エステル塩が1〜10重量%含有する油剤が繊維重量を基準として0.1〜0.4重量%付着することによってモノフィラメントの繊維−繊維動摩擦係数が0.2〜0.35に調整されていること。
【0112】
本発明の第3の実施形態では、従来のモノフィラメントでは得られなかった、優れた寸法安定性、糸削れ抑制効果、パーン引け防止効果、常圧染色により濃色に染色することのでき、さらにハレーション防止効果を有し、かつハイメッシュ化が可能な細繊度でかつ高強度、高モジュラスなモノフィラメントが提供される。すなわち、該モノフィラメントは、固有粘度が0.70dL/g以上あるポリマーを芯成分として、スルホン酸ホスホニウム塩が0.5〜2.5モル%共重合されたポリエステルを鞘成分で構成することで従来高圧染色必要なモノフィラメントを常圧での染色を可能となし、染色加工時に受ける加工ダメージを軽減することで従来モノフィラメントに比べ、加工後のスクリーン紗のモジュラス特性に優れているモノフィラメントを得るものである。
【0113】
精密印刷に適したハイメッシュスクリーン(300〜400メッシュ)には、15dtex以下、特に10〜15dtexの細繊度モノフィラメントが用いられる。紗織物用フィラメントには製織性の低下や紗伸び等の発生を抑えるだけの寸法安定性が必要である。その寸法安定性を得るための代用特性として低伸度領域での発生応力で議論されることが多く、一般的には伸度5%時の応力(モジュラス、以下5%LASE)により性能を評価することが一般的である。本発明のスクリーン紗用モノフィラメントは0.7dL/g以上の高い固有粘度のポリマーを芯成分に使うことで高強度化が可能となり、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足することができる。
【0114】
本発明における第3の実施形態のモノフィラメントを構成する芯側ポリマーの種類は、上述の第2の実施形態と同様に、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル等が挙げられ、芯鞘複合紡糸が可能で、許容固有粘度が0.7dL/g以上あれば、ポリマーの種類は限定されず、任意に使用することができる。なかでもポリエステルは鞘側に使用する制電性ポリエステルとの親和性が良好であるため、特に好ましい。芯側に使用するポリエステルの種類としてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のような芳香族ポリエステルが挙げられ、いずれでもよい。なかでもPETは溶融紡糸を行う際の操業性、コストの面でも最適である。
【0115】
本発明の第3の実施形態で使用する鞘成分ポリエステルの種類としては、なかでも、
【化8】

で表わされるスルホン酸ホスホニウム塩が3〜10モル%程度共重合されている芳香族ポリエステルが好ましい。
【0116】
この鞘成分ポリエステルの固有粘度は0.40〜0.65dL/gであることが必要であり、0.50〜0.60が好適である。通常、高モジュラス物性を持ちつつ、繊度が15dtex以下のモノフィラメントでは表面の糸削れが発生する。ところが、本発明者らの研究によれば上記鞘部分の固有粘度を0.40〜0.65dL/gとすることにより、糸削れを抑制することができることが判った。これに対し、鞘成分の固有粘度が0.65を超えると芯鞘構造の効果が得られなくなり、糸削れが発生する。一方、固有粘度0.40dL/g未満では送液粘度が低すぎて溶融紡糸時の吐出が不安定になるだけではなく、芯鞘の形成にも悪影響を与え、芯部分が表面に露出する危険がある。
【0117】
フィラメントの断面形状については、第1及び第2の実施形態と同様に、安定した製糸性及び高次加工性が得やすいという点や製織後の乳剤を塗布して感光させる際に発生するハレーションを防止する点、スクリーン紗の目開きの安定性等により丸断面が好ましい。
【0118】
該モノフィラメントも、芯成分の重量比率が50〜90%であることが必要であり、好ましくは60〜70%である。50重量%未満であると、糸物性として鞘成分の影響が顕著となり、高強力・高モジュラス化が困難である。一方、芯成分の重量比率が90重量%を超えると鞘側の厚みが繊維径の5%程度となり、非常に薄くなり、粘度変動等による送液の流出変動が起こると厚みが変化し、甚だしい場合には、芯成分が糸表面に露出する危険を有する。
【0119】
さらに、該モノフィラメントの繊維長手方向10万メートル当り繊維直径に対し1.1倍以上の節部が1個以下である。節部の発生要因としてはポリマーに含有する未溶融異物やポリマー自身の劣化が挙げられる。ポリマー内の未溶融異物については、紡糸パック入口から口金吐出口までに濾過層を形成することでその排出を抑制させたり、分散させたりすることができる。この濾過層についてはモノフィラメント直径の約10〜15%の目開き量が好ましい。目開きをモノフィラメント直径の10%未満にするとパック内に異常な圧力がかかり、パック内部品とパック本体の破損につながる。15%より大きくすると節糸の主因となる未溶融異物が粗大粒子のまま糸に含有し、節の発生リスクが大きくなる。また、ポリマー自身の劣化についてはポリマー送液に関し、配管の曲がりを減らし、パック導入から吐出までの時間を1分以内とし、ポリマーが受ける熱量を出来る限り軽減することによって節の発生リスクを低減させることができる。
【0120】
そして、該モノフィラメントは製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下である。ここで最内層部とは、ボビン等に巻き上げたモノフィラメントのうち巻き取り開始後、500m以内の部分をいう。本発明のような高モジュラス物性のモノフィラメントは糸内部に持つ繊維構造歪の影響でパーンひけが出やすい。これを軽減するために製品中の歪を十分に緩和した状態で巻き取ることが重要である。本発明では延伸後、0.3〜0.5%リラックス処理を施した後、最終ローラーから巻き取りまでに0.05秒以上に緩和時間を持つように条件設定することで、パーンひけを抑制することができる。また、そのリラックス処理が0.3〜0.5%であれば、5%LASEを損なうことなく、繊維内部の構造歪を緩和することができる。
【0121】
かかる第3の実施形態のモノフィラメントにあっても、上述した特定組成の油剤、すなわち、エステルベースに特定のアルキレンオキサイド付加エステルやリン酸エステル塩を配合した油剤の採用と繊維と金属及び繊維と繊維の静摩擦を特定な範囲に設定することによって延伸以降の工程通過安定性が改善される。油剤は、製織工程での糸削れを極めて少なく、優れた工程通過性を得るために紡糸時に付与する。
【0122】
油剤のモノフィラメントへの付与は、通常一般に公知の任意の手段を採用することができるが、なかでも糸に与える抵抗を少なくするオイリングノズルを介して計量された量を付与する方法がより好ましい方法である。
【0123】
モノフィラメントへの油剤付着量は、繊維に対して有効成分として0.1〜0.4重量%が必要である。付着量が0.1重量%未満の場合には平滑性が不十分となって糸削れ、スカム発生等のトラブルを惹き起こす。一方、0.4重量%を超えても糸削れ抑制効果の向上は少なく、逆に筬へのスカムの発生過剰の油剤が糸導等を汚染することになり、新たな問題を惹き起こすことにもなるので工業上得策でない。以上の手法を用いて得られたモノフィラメントは繊維−繊維静摩擦係数を下がっていることと油膜強化を行っていることにより、筬等の繰り返し擦過に対しても糸削れやスカムが発生することなく、良好に製織工程を通過することができる。
【0124】
<第4の実施形態について>
本発明の第4の実施形態は、制電性モノフィラメント、特に、スクリーン印刷用のメッシュ織物、プリント配線基盤の製造用等の高度な精密性を要求されるハイメッシュでハイモジュラスのスクリーン紗とするのに好適な制電性複合モノフィラメントに係るものである。
【0125】
最近の電子回路分野での印刷においては集積度が高まる一方であり、印刷用スクリーン紗としての印刷緻密性及び印刷性向上のための要求、すなわち、高強度・高モジュラスで、かつ、ハイメッシュといった要求がますます強くなっている。このため、印刷用スクリーン紗の構成原糸であるモノフィラメントについても、高強力、高モジュラスで、かつ、より細繊度のものが要求されている。
【0126】
一方、ハイメッシュ、ハイモジュラススクリーン紗を用いることによって、紗の目開き量が小さい緻密性の高い印刷が可能になり、今まで問題にならなかったごく僅かな印刷欠点も著しく目立つようになってきており、このごく僅かな印刷欠点を改善する手段が求められている。このような印刷欠点の中には糸削れによるものばかりでなく、使用する紗が帯電することに起因するものが多い。例えば、加工工程において紗への摩擦等によって静電気が紗に帯電すると塵やゴミの付着に伴う印刷欠点が生じたり、静電気を帯電した静電気によって印刷時に印刷インキが飛散したりすることにより、印刷欠点が生ずるという問題があった。これらの印刷欠点を解消するために特開平2−289119号公報、特開2001−262438号公報等には、ポリアルキレンエーテルを含有するポリエステルを芯成分とした芯鞘型複合モノフィラメントを提案されているが、芯側に制電剤が含有し、表面に露出しないため、良好な制電性能を得ることができない。
【0127】
また、このような種類の問題に対処するためにポリエステルモノフィラメント織物の一部に、銅線等の金属線を交織した工業用織物が知られているが、これは使用中に金属線に錆が発生したり、織物が接触するローラーを擦過したりする等の問題があるため、実用的ではない。
【0128】
また、高導電性カーボンブラックを高濃度にブレンドした導電性ナイロン樹脂組成物を鞘成分に用いた導電性芯鞘ナイロンモノフィラメントを、ポリエステルモノフィラメント織物に交織した工業用織物も用いられたが、この場合、ポリエステルモノフィラメントと導電性芯鞘ナイロンモノフィラメントとの吸湿時の寸法安定性が異なるため、乾燥機内等で織物にうねりが発生するばかりか、カーボンブラックを高濃度にブレンドしたナイロン樹脂の流動性が悪いため、均一な導電性芯鞘ナイロンモノフィラメントを得られない等の問題があった。
【0129】
また、特開昭56−85423号公報に記載の如き芳香族ポリエステル/脂肪族ポリエステル(混合重量比率80/20〜98/2)のポリエステル混合物と導電性カーボンブラックとの組成物からなる芯成分と芳香族ポリエステルからなる鞘成分とを有する導電性複合繊維も提案されているが、鞘成分に導電性カーボンブラックが存在しないため導電性が不十分であり、カーボンブラックを20〜30重量%のように多量に混合する必要があるため、紡糸口金面汚れが発生し、長時間安定した生産が困難であるという問題を有していた。
【0130】
また、特開平8−74125号公報には、高導電性カーボンブラック4〜15重量%と共重合ポリエステル組成物96〜85重量%を含む鞘成分と芳香族ポリエステルからなる芯成分にて構成される芯鞘複合型導電性ポリエステルモノフィラメントが提案されているが、カーボンブラックが表面に露出しているため、製織時での筬磨耗や織物が接触するローラーを擦過する等の問題があり、染色が出来ないため、スクリーン紗作成時、乳剤を塗布して感光させる際に発生するハレーション防止色の染色ができない。
【0131】
本発明の第4の実施形態によれば、従来のモノフィラメントでは実現できなかった、優れた寸法安定性、糸削れ抑制効果、パーン引け防止効果を有し、さらに制電性に優れ、しかも、ハレーション防止効果があり、かつハイメッシュ化が可能な細繊度でかつ高強度、高モジュラスなモノフィラメントが提供される。
【0132】
この実施形態では、芯成分が固有粘度0.70dL/g以上の繊維成形性ポリマーからなり、鞘成分が固有粘度0.50〜0.65dL/gの芳香族ポリエステルと該芳香族ポリエステル100重量部当りポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部及び該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有する制電性ポリエステル組成物からなり、芯成分の重量比率が50〜90%である芯鞘型複合モノフィラメントであって、該モノフィラメントの繊維−繊維間の動摩擦係数が0.2〜0.35であり、該モノフィラメントの平均繊維直径に対し1.1倍以上の直径を有する節糸部の個数が繊維長10万メートル当たり1個以下であり、かつ、製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した巻取りパッケージ最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること特徴とする芯鞘型複合モノフィラメントが提供される。
【0133】
該モノフィラメントでは、その表面に上述した脂肪族エステル化合物(a)50〜80重量%と炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド0〜10モル付加物の部分リン酸エステル塩(b)1〜10重量%とを含有する油剤というが、繊維重量を基準として0.1〜0.4重量%付着している。
【0134】
このようなモノフィラメントにあって、精密印刷に適したハイメッシュスクリーン用原糸としては、繊度が15dtex以下であって、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、伸度が40%以下であることが好ましい。また、該モノフィラメントの芯成分を形成する繊維成形性ポリマーが、固有粘度0.70dL/g以上の芳香族ポリエステルであることが好ましい。
【0135】
本発明の第4に実施形態のモノフィラメントは、従来のモノフィラメントでは得られなかった、優れた寸法安定性、糸削れ抑制効果、パーン引け防止効果を有する。しかも、鞘成分として染色可能な制電ポリエステルを使用することにより、制電性に優れ、さらにハレーション防止効果を有し、かつハイメッシュ化が可能な、細繊度でかつ高強度、高モジュラスなモノフィラメントである。したがって、従来あまり使用されなかった分野にも有効に使用することができる。
【0136】
特に、精密印刷に適したハイメッシュスクリーン(300〜400メッシュ)の製造に用いる紗織物用フィラメントの繊度15dtex以下、特に10〜15dtexである細繊度モノフィラメントにあっては、製織性の低下や紗伸び等の発生を抑えるだけの寸法安定性が必要とされる。その寸法安定性を実現するための代用特性として低伸度領域での発生応力で議論されることが多く、一般的には、伸度5%時の応力(5%LASE)により性能を評価することが一般的である。本発明のモノフィラメントでは、芯成分を0.7dL/g以上の高固有粘度のポリマーで構成することで高強度化が可能となり、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、伸度が40%以下の特性を満足するものとなる。
【0137】
本発明の第4に実施形態に係るモノフィラメントは、芯成分が繊維成形性ポリマーで、鞘成分が特定の制電性ポリエステル組成物で構成される芯鞘型複合モノフィラメントであり、これら芯成分及び鞘成分が、それぞれ、以下のポリマー及びポリマー組成物で構成される。
【0138】
すなわち、本発明の第4の実施形態のモノフィラメントにおける芯成分を構成するポリマーの種類は、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル系ポリマー等が挙げられ、鞘成分となるポリエステル組成物との芯鞘複合紡糸が可能で、かつ固有粘度が0.7dL/g以上であれば、特に限定されず、任意に使用することができる。なかでも、ポリエステルは鞘側に使用する制電性ポリエステル組成物との親和性が良好であるため、特に好ましい。芯成分に適したポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のような芳香族ポリエステルが挙げられる。とりわけ、固有粘度が0.70〜0.85のポリエチレンテレフタレート(PET)は溶融紡糸を行う際の操業性、コストの面でも最も好適である。この芯成分には、必要に応じ、安定剤、難燃剤、フィラー等の添加剤を含んでもよい。
【0139】
一方、本実施形態のモノフィラメントにおける鞘成分は、特定の2種の化合物を含む制電性を有する芳香族ポリエステル組成物にて構成される。
すなわち、鞘成分となる制電性芳香族ポリエステル組成物は、上記のような通常の芳香族ポリエステルを主成分とし、これに制電剤としてポリオキシアルキレン系ポリエーテル(A)と該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物(B)の両方を含有するものである。
【0140】
上記ポリオキシアルキレン系ポリエーテル(A)は、ベースとなる芳香族ポリエステルに実質的に不溶性のものであれば単一のオキシアルキレン単位からなるポリオキシアルキレングリコールであってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位からなる共重合ポリオキシアルキレングリコールであってもよく、また、下記一般式(I)で表わされるポオキシエチレン系ポリエーテルであってもよい。
【0141】
【化9】

【0142】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテル(A)の具体例としては、分子量が4000以上のポリオキシエチレングリコール、分子量が1000以上のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量が2000以上のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド共重合体、分子量4000以上のトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、分子量3000以上のノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、並びに、これらの末端OH基に炭素数が6以上の置換エチレンオキサイドが付加した化合物が挙げられ、なかでも、分子量が10000〜100000のポリオキシエチレングコール及び分子量が5000〜16000のポリオキシエチレングリコールの両末端に炭素数が8〜40のアルキル基置換エチレンオキサイドが付加した化合物が好ましい。
【0143】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物(A)の含有量(配合量)は、上記芳香族ポリエステル100重量部に対し0.2〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部、の範囲である。この含有量が0.2重量部より少ないときは親水性が不足して鞘成分に充分な制電性を賦与することができない。一方、30重量部より多くしても最早制電性の向上効果は認められず、かえって得られる組成物の機械的性質を損なうようになる上、該ポリエーテルがブリードアウトし易くなるため、溶融紡糸時チップのルーダーへの噛込み性が低下して、紡糸安定性も悪化するようになる。
【0144】
本発明のモノフィラメントの鞘成分となるポリエステル組成物は、制電性を格段に向上させるため、上記の如きポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物(a)に加え、さらに該ポリオキシアルキレン系ポリエーテル(A)とは非反応性の有機イオン性化合物(B)を含有する。
【0145】
好ましい有機イオン性化合物(B)としては、例えば、下記一般式(II)で示されるスルホン酸金属塩及び下記一般式(III)で示されるスルホン酸第4級ホスホニウム塩を挙げることができる。
【0146】
【化10】

【0147】
上記式(II)において、Rがアルキル基のときは直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい。Mは、Na,K,Li等のアルカリ金属又はMg,Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi,Na,Kが好ましい。かかるスルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましいスルホン酸金属塩の具体例としては、ステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等を挙げることができる。
【0148】
【化11】

【0149】
かかるスルホン酸第4級ホスホニウム塩は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。好ましいスルホン酸第4級ホスホニウム塩の具体例としては、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等を挙げることができる。
【0150】
これらの有機イオン性化合物(B)は単独で使用しても、2種以上併用してもよいが、いずれの場合も、その合計配合量が芳香族ポリエステル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲とする。有機イオン性化合物の量が0.05重量部未満では制電性向上の効果が小さく、10重量部を超えると組成物の機械的性質を損なうようになる上、該イオン性化合物もブリードアウトし易くなるため、溶融紡糸時のチップのルーダーへの噛込み性が低下して、紡糸安定性も悪化するようになる。
【0151】
鞘成分のポリエステル組成物の固有粘度は0.40〜0.65dL/gであることが必要であり、0.50〜0.65が好ましい。通常、高モジュラス物性を持ちつつ、繊度が15dtex以下のモノフィラメントでは表面の糸削れが発生する。これを抑制するため、鞘部分の固有粘度を0.40〜0.65dL/gとすることにより、糸削れを抑制することができる。固有粘度が0.40dL/g未満では紡糸時に鞘成分の送液粘度が低くなりすぎて吐出が不安定になるだけではなく、芯鞘型複合フィラメントの形成にも悪影響を与え、芯部分が表面に露出する危険がある。逆に、固有粘度が0.65を超えると芯鞘構造の効果が得られなくなり、糸削れが発生する。
鞘成分の芳香族ポリエステル組成物には、上記各成分のほか、必要に応じて、安定剤、難燃剤、着色剤、つや消し剤、フィラー等の添加剤を含んでもよい。
【0152】
また、本発明の第4の実施形態においても、モノフィラメントの繊維長手方向10万メートルで繊維直径に対し1.1倍以上の節糸が1個以下であること、繊度が15dtex以下のモノフィラメントにおいて伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足すること、製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること、そして、脂肪族エステル化合物が50〜80重量%と炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド0〜10モル付加物の部分リン酸エステル塩が1〜10重量%含有する油剤が繊維重量を基準として0.1〜0.4重量%付着することによってモノフィラメントの繊維−繊維動摩擦係数が0.2〜0.35に調整されていることが必要なことは、既に述べた第1〜第3の実施形態と同様である。
【実施例】
【0153】
以下の実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各例中における、固有粘度、強度、伸度、強度保持率、フリー収縮率、糸への油剤の付着率、動摩擦係数の測定、節部の数の評価、糸削れの等評価は、以下の方法で行った。また、例中に単に「部」とあるは、特に断らない限り重量部を意味する。
【0154】
(ア)芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステル組成物の固有粘度:
35℃でオルトクロロフェノールにサンプルを溶解した各濃度(C)の希釈溶液を作成し、それら溶液の粘度(ηr)から下記式によってCを0に近づけることで算出した。
【0155】
【数1】

【0156】
なお、芯鞘各成分の固有粘度は、製糸時に使用する紡糸口金と溶融での滞留時間が同等となるとともに芯成分と鞘成分のポリマーが別々に吐出できるよう設計した紡糸口金を作成し、十分に放流状態を安定させた上で、放流ポリマーをそれぞれ採取して測定した。
【0157】
(イ)強度、伸度:
繊維(モノフィラメント)の強度及び伸度は、JIS−L1017に準拠し、オリエンテック社製のテンシロンを用いてサンプル長25cm、伸張速度30cm/minで測定し、サンプルが破断したときの強度と伸度である。また、5%LASEは上記の測定時のサンプルが5%伸張した時の応力(cN/dtex)を測定した値である。
【0158】
(ウ)強度保持率:
糸サンプルを135℃×60hrで湿熱分解条件下の条件で処理し、その強度を測定し、原糸(湿熱分解処理前の糸)の強度に対する割合として強度保持率で評価した。
【0159】
(エ)フリー収縮率:
2.0kg捲いたサンプルを最内層部まで歪が起こらないように最内層部分から5000m採取して、かせ状態にて室温・無荷重にて放置し、10日後に糸長を再度測定した。10日後の糸長を放置前の糸長5000mで割って百分率表示としてフリー収縮率とした。
【0160】
(オ)糸への油剤の付着率:
延伸糸3gを105℃で2時間乾燥後、直ちに、その重量(A)を測定した。その後、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダを主成分とする洗浄用水溶液300cc中に浸漬し、40℃にて超音波を少なくとも10分かけた。洗浄液を廃棄し、40℃の温水により30分流水洗浄後、室温にて風乾した。その後、105℃×2時間乾燥後直ちに重量(B)を測定し、下記式により糸への油剤付着率(OPU)を算出した。
【0161】
【数2】

【0162】
(カ)動摩擦係数:
延伸糸を用い、繊維・金属間走行摩擦測定機で、走行速度300m/分で摩擦体として径60mmの梨地クロムピンを用いて、接触角180度、摩擦体入側張力10g(T1)で摩擦体出側の張力(T2)を測定した。繊維−繊維間の動摩擦係数(f)は、これらの測定値(T1、T2)に基づき、円筒上を走行するベルトの摩擦に関する良く知られた下記式より算出される。
【0163】
【数3】

【0164】
(キ)節部の数の評価:
整経機のクリール出口に設置されているドロッパー前に隙間が糸径×1.1倍で公差±2μmとなる12本通しのスリットガイドを設置した。そのスリットガイドに糸を通し、12本×8段=96本をそれぞれ糸速500m/minにて各糸長20万m整経した。その際、スリットガイドにて断糸した回数を節部の数とみなし、整経中での断糸回数を測定した。そして、検出した断糸回数を糸長10万mに換算して評価を行った。
【0165】
(ク)糸削れの評価:
スルーザー型織機により、織機の回転数250rpmとして織幅1インチ当り300本の経糸を用いてメッシュ織物を製織し、織り上がった反物を検反機にて目視検査を行った。この時、通常黒に見えるメッシュ模様が白色化して見える織物欠点の数を数えて評価した。その結果に基づき、織幅1.5m×織物長さ30m当りの糸削れによる欠点5個未満を○、5以上10個未満を△、10個以上を×と判定した。
【0166】
(ケ)制電性能評価:
延伸糸を織物もしくは筒編みとして精練を行い、JIS−L−1094法に準拠して摩擦帯電圧を測定した。摩擦布は羊毛とし、測定室温を20℃、湿度40%として測定を行い、摩擦60秒後の帯電圧が500V以下のものを○、1000V以下のものを△、1000V以上のものを×と評価した。
【0167】
(コ)印刷性能評価:
前記で得られた織物を紗張りし、紫外線硬化型感光樹脂を塗布して、その上に50μの線幅の細線パターンを高圧水銀灯にて露光焼付けを行い、スクリーン版を作成した。そのスクリーン版を用いて基板に印刷を行い、インクのかすれを顕微鏡300倍にて40枚判定をおこなった。異常基板が0枚である場合は5点、1〜10枚は4点、11〜20枚は3点、21〜30枚は2点、31〜40枚は1点と評価した。
【0168】
(サ)染色評価:
延伸糸を筒編みもしくは織物状とし、100℃の常圧染色したときの織編物で、もっとも濃染レベルを5点とし、もっとも淡染レベルを1点とし、5段階にて染色評価を行った。
【0169】
[実施例1]
芯成分として、末端カルボキシル基濃度が10eq/10gポリマーより小さく、かつリン酸エステルをリン原子の重量にして10ppm含有する、固有粘度0.86dL/gの耐加水分解性ポリエチレンテレフタレートを使用し、鞘部分として、末端カルボキシル基濃度が10eq・106gより小さく、かつリン酸エステルをリン原子の重量にして10ppm含有する、0.60dL/gの耐加水分解性ポリエチレンテレフタレートを使用し、それぞれ独立して295℃の温度にて溶融し、芯鞘比率が60:40となるように計量を行った。放流開始から2時間後にサンプリングしたポリマーの固有粘度は芯成分が0.72dL/g、鞘成分が0.55dL/gであった。
【0170】
芯鞘成分の上記両ポリマーを、紡糸温度295℃、紡速1200m/分にて同心状の芯鞘型に溶融複合紡糸して巻き取りつつ、オイリングノズルにて、上記の油剤を、繊維重量基準で表1に示す量付着させ、未延伸糸を得た。その後、該未延伸糸を加熱されたホットローラーにて予熱後、スリットヒーターで加熱しながら3.8倍で延伸し、0.3%のリラックス処理を施した後、巻き取り、13dtex−1filの延伸糸を得た。
【0171】
得られた延伸糸(芯鞘型複合モノフィラメント原糸)は、強度6.0cN/dtex、伸度23%、強度保持率67%、5%LASE 3.9cN/dtex、フリー収縮率0.23%、油剤付着率(OPU)0.21重量%、動摩擦係数0.25であった。また、湿熱処理後の強度保持率は67%、原糸の節糸発生個数は糸長10万m当り0個であった。この原糸をスルーザー型織機で製織した際、糸削れ発生による織物欠点は30m当り0個であった。
【0172】
[実施例2]
実施例1において、芯成分に用いる耐加水分解性ポリエチレンテレフタレートの固有粘度を0.9dL/gのポリマー(チップ)に変更した以外は実施例1と同様の条件・方法で延伸糸を製造した。実施例1と同様の方法で放流サンプルを採取した芯成分の固有粘度は0.8dL/gであった。5%LASEが若干向上した以外はその他品位面では差はなかった。
【0173】
[比較例1]
実施例1において、オイリングノズルでの油剤吐出量とし、それ以外は実施例1と同様の方法にて延伸糸を得たが、強度保持率は65%と保っているものの、油剤付着率(OPU)は0.05重量%となり、製織時の糸削れが多発した。
以上の如く、芯成分又は鞘成分の固有粘度と油剤付着率等を変更した実施例1〜2及び比較例1の結果を、以下の表1にまとめて示す。
【0174】
【表1】

【0175】
[実施例3]
芯成分として固有粘度0.86dL/gのポリエチレンテレフタレート、鞘成分として固有粘度0.60dL/gのポリエチレンテレフタレートに「チヌビン400」(登録商標、チバスペシャルティーケミカル社製のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤)を所定量配合した紫外線吸収性ポリエチレンテレフタレートを、それぞれ独立して295℃の温度にて溶融、芯鞘比率が60:40となるように計量を行った。放流開始から2時間後にサンプリングした固有粘度は芯成分が0.72dL/g、鞘成分が0.55dL/gであった。
【0176】
これらの両成分を紡糸温度295℃で鞘芯型に複合溶融紡糸し、1200m/分の紡速にて巻き取りつつ、オイリングノズルにて実施例1と同じ油剤を付着させながら、未延伸糸を得た。その後、加熱されたホットローラーにて予熱後、スリットヒーターで加熱しながら3.8倍で延伸し、0.3%のリラックス処理を施した後、巻き取り、13dtex−1filの延伸糸を得た。
【0177】
得られた延伸糸(芯鞘型複合モノフィラメント原糸)は強度6.0cN/dtex、伸度23%、5%LASE 3.9cN/dtex、フリー収縮率0.23%、油剤付着率0.21%、動摩擦係数0.25であった。原糸の節糸発生個数は0個であった。この原糸をスルーザー型織機で製織した際、糸削れ発生による織物欠点は30m当り0個で、印刷性能も5点と良好であった。
【0178】
[実施例4]
実施例3において、芯成分に用いる紫外線吸収性ポリエチレンテレフタレートの固有粘度を0.9dL/gに変更した以外は実施例1と同様な方法で延伸糸を得た。実施例1と同様な方法で放流サンプルを採取した。芯成分の固有粘度は0.8dL/gであった。5%LASEが若干向上した以外はその他品位面では差はなかった。
【0179】
[比較例2]
実施例3において、油剤成分を変更し、動摩擦係数を0.5とし、それ以外は実施例1と同様の方法にて延伸糸を得た。油剤付着率(OPU)は0.19重量%で印刷性能は5点と良好であったが、製織時の糸削れが多発した。
以上の如く、新成分と鞘成分及び油剤付着率を変更した実施例3〜4及び比較例2の結果を、以下の表2にまとめて示す。
【0180】
【表2】

【0181】
[実施例5]
芯成分として固有粘度0.86dL/gのポリエチレンテレフタレート、鞘部分として固有粘度0.60dL/gのスルホン酸ホスホニウム塩共重合易染性ポリエチレンテレフタレートを、それぞれ独立して290℃の温度にて溶融、芯鞘比率が60:40となるように計量を行った。放流開始から2時間後にサンプリングした固有粘度は芯成分が0.72dL/g、鞘成分が0.54dL/gであった。
【0182】
これらの両成分を紡糸温度290℃で鞘芯型に複合紡糸して、1200m/分の紡速にて巻き取りつつ、オイリングノズルにて実施例1と同様の油剤を付着させながら、未延伸糸を得た。その後、加熱されたホットローラーにて予熱後、スリットヒーターで加熱しながら3.8倍で延伸し、0.3%のリラックス処理を施した後、巻き取り、13dtex−1filの延伸糸を得た。
【0183】
得られた延伸糸(芯鞘型複合モノフィラメント原糸)は強度6.0cN/dtex、伸度23%、5%LASE 3.9cN/dtex、フリー収縮率0.23%、油剤付着率0.21%、動摩擦係数0.25であった。原糸の節糸発生個数は0個であった。この原糸をスルーザー型織機で製織した際、糸削れ発生による織物欠点は30m当り0個であった。また、染色評価では5点で、いずれも良好であった。
【0184】
[実施例6]
実施例5において、芯成分に用いるポリエチレンテレフタレートの固有粘度を0.9dL/gに変更した以外は実施例5と同様な方法で延伸糸を得た。実施例1と同様な方法で放流サンプルを採取した。芯成分の固有粘度は0.8dL/gであった。5%LASEが若干向上した以外はその他品位面では差はなかった。
【0185】
[比較例3]
実施例5において、5%の油剤吐出量とし、それ以外は実施例5と同様の方法にて延伸糸を得たが、油剤付着率(OPU)は0.05重量%となり、製織時の糸削れが多発した。
以上の如く鞘成分又は芯成分、芯鞘比率及び油剤付着率等を変更した実施例5〜6、比較例3の結果を、以下の表3にまとめて示す。
【0186】
【表3】

【0187】
[実施例7]
芯成分として固有粘度0.86dL/gのポリエチレンテレフタレート、鞘部分として固有粘度0.63dL/gであるポリエチレングリコールとスルホン酸金属塩を所定量含む制電性ポリエチレンテレフタレート組成物を用い、それぞれ独立して294℃の温度にて溶融し、芯鞘比率(重量比)が60:40となるように計量を行った。放流開始から2時間後にサンプリングした固有粘度は芯成分が0.72dL/g、鞘成分が0.58dL/gであった。
【0188】
これらの両成分を、紡糸温度294℃にて複合紡糸用の紡糸パック及び口金を用い、合流、芯鞘型に複合吐出させ、1200m/分の紡速にて巻き取った。その際、オイリングノズルにて実施例1と同じ油剤を表1に示す量で付着させながら、モノフィラメントの未延伸糸を得た。その後、該未延伸糸を加熱されたホットローラーにて予熱後、スリットヒーターで加熱しながら3.8倍で延伸し、さらに0.3%のリラックス処理を施した後、パーンに巻き取って、13dtex/1filの延伸糸を得た。
【0189】
得られた延伸糸(芯鞘型複合モノフィラメント原糸)は、強度6.0cN/dtex、伸度25%、5%LASE4.0cN/dtex、フリー収縮率0.21%、油剤付着率0.19重量%、動摩擦係数0.25であった。また、該モノフィラメント原糸10万m当りの節糸発生個数は0個であった。
この原糸をスルーザー型織機で製織した際、糸削れ発生による織物欠点は30m当り0個であった。製織で得られた織物の摩擦帯電圧を測定すると60秒後の帯電圧が225Vであった。
【0190】
[実施例8]
実施例7において、芯成分に用いるポリエチレンテレフタレートの固有粘度を0.9dL/gに変更した以外は実施例1と同様な方法で延伸糸を得た。実施例1と同様な方法で放流サンプルを採取した。芯成分の固有粘度は0.8dL/gであった。5%LASEが若干向上した以外はその他品位面では差はなかった。
【0191】
[比較例4]
実施例7においてオイリングノズルからの油剤吐出量を5%と変更し、それ以外は実施例7と同様の方法にて延伸糸を得たが、油剤付着率は0.01重量%となり、製織時の糸削れが多発した。
【0192】
[比較例5]
実施例7において、芯鞘の比率(重量比)を95:5に変えて紡糸した以外は、実施例7と同様の方法で延伸糸を得た。得られた延伸糸(モノフィラメント原糸)は芯成分が糸表面に露出した部分が多い影響で、糸削れによる織物欠点が多かった。また、鞘成分の吐出量が下がった影響で溶融領域内での滞留が長くなり、節糸が若干発生した。
以上のように各条件を変更した実施例7〜8及び比較例4〜5の結果を以下の表4にまとめて示す。
【0193】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明の芯鞘型複合モノフィラメントは、ロープ、ネット、テグス、ターポリン、テント、スクリーン、パラグライダー及びセールクロス等の原糸として有用であり、特にスクリーン印刷用のメッシュ織物、プリント配線基盤の製造等の高度な精密性を要求されるハイメッシュでハイモジュラスのスクリーン紗を得るのに好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分が固有粘度0.70dL/g以上の繊維形成性ポリマーからなり、かつ鞘成分が固有粘度0.40〜0.65dL/gのポリエステル又はそれを主成分とする組成物からなる芯鞘型複合モノフィラメントであって、下記(A)〜(E)の条件:
(A)芯成分の重量比率が50〜90%であること、
(B)モノフィラメントの平均繊維直径に対し1.1倍以上の直径を有する節糸部分が繊維長手方向10万メートルに対し1個以下であること、
(C)繊度が15dtex以下であって、伸度5%時のモジュラスが3.0cN/dtex以上、破断伸度が40%以下を満足すること、
(D)製品巻上げ翌日から10日間かけて測定した最内層部分のフリー収縮率が0.3%以下であること、そして、
(E)モノフィフィラメント表面に付与された油剤(非水成分)の繊維重量に対する付着量が0.1〜0.4重量%であり、かつ該油剤によってモノフィラメントの動摩擦係数が0.2〜0.35に調整されていること、
を同時に満足することを特徴とする芯鞘型複合モノフィラメント。
【請求項2】
モノフィラメント表面に付与された油剤が、脂肪族エステル化合物が50〜80重量%と炭素数8〜18のアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド0〜10モル付加物の部分リン酸エステル塩が1〜10重量%含有する油剤であることを特徴とする請求項1記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【請求項3】
芯成分と鞘成分がともにポリエステルであり、かつ該ポリエステルは末端カルボキシル基濃度が15eq/106g以下である芳香族ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【請求項4】
芯成分と鞘成分を構成するポリエステルが、下記一般式で表されるリン酸エステルを、リン原子の含有量に換算して3〜50ppm含有する耐加水分解性芳香族ポリエステルであることを特徴とする請求項3記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【化1】

【請求項5】
鞘成分のポリエステルが有機紫外線吸収剤をポリマーに対し0.01〜5.0重量%含有している紫外線吸収性ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【請求項6】
有機紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤及びベンゾオキサジン系紫外線吸収剤からなる群から選ばれる少なくとも一種の紫外線吸収剤であることを特徴とする請求項5記載芯鞘型複合モノフィラメント。
【請求項7】
鞘成分のポリエステルが、スルホン酸ホスホニウム塩が0.5〜2.5モル%共重合された易染性ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【請求項8】
鞘成分のポリエステルに共重合されているスルホン酸ホスホニウム塩が、下記式で表されるスルホン酸ホスホニウム塩であることを特徴とする請求項7記載の芯鞘型複合モノフィラメント。
【化2】

【請求項9】
鞘成分が、芳香族ポリエステル100重量部当りポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部及び該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有する制電性ポリエステル組成物からなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の芯鞘型複合フィラメント。
【請求項10】
有機イオン性化合物が下記の一般式で表わされるスルホン酸金属塩であることを特徴とする請求項9記載の芯鞘型複合フィラメント。
【化3】

【請求項11】
芯成分が固有粘度0.70dL/g以上の繊維成形性ポリマーからなり、鞘成分が固有粘度0.50〜0.65dL/gの芳香族ポリエステルと該芳香族ポリエステル100重量部当りポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部及び該ポリエステルと実質的に非反応性の有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有するポリエステル組成物からなることを特徴とする請求項9又は請求項10記載の芯鞘型複合モノフィラメント。

【公開番号】特開2008−121125(P2008−121125A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302622(P2006−302622)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】