説明

芯鞘型複合糸

【課題】耐熱性に優れるとともに、高い引張強度と高い破断伸度の両者を同時に満足する複合糸を提供すること。
【解決手段】乾燥工程後、または1段延伸後に得られるパラ型全芳香族コポリアミド繊維は高い耐熱性を有しているにもかかわらず、弾性率が低いことに着目し、この繊維と高い耐熱性や引張強度をする高強度繊維とを組み合わせて芯鞘型複合糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維を含む芯糸を有する芯鞘型複合糸に関する。さらに詳しくは、高い耐熱性を有するとともに、高い引張強度と高い破断伸度の両者を同時に満足する芯鞘型複合糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パラ型全芳香族コポリアミド繊維やパラ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維等のいわゆる高強度繊維は、高い引張強度や、高い弾性率、高い耐熱性等の特徴を有することから、様々な用途で幅広く用いられている。
しかしながら、高強度繊維は、高い機械的特性を有するが故に破断伸度が小さく、例えば、ゴム補強用途や樹脂補強用途等、マトリックス樹脂に対する補強繊維として用いる場合には、マトリックス樹脂の熱や応力に対する寸法変化に対して、補強繊維の寸法変化が明らかに小さいために、樹脂に歪みやクラック等を発生させるという問題があった。
【0003】
一方、メタ型全芳香族ポリアミド繊維や、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維等は、高い伸度を有することが知られている。そして、高い伸度であることを活かして、産業資材用途や衣料用途等において幅広く用いられている。
しかしながら、このような高い伸度を有する繊維は、機械的物性自体が小さく、また一般に融点や熱分解開始温度が低いため、高い耐熱性や補強効果が求められる用途には適さないという問題があった。
【0004】
そこで、高い耐熱性を有するとともに、高い引張強度と高い破断伸度の両者を同時に満足する繊維を求めて、2種類以上の繊維を組み合わせた複合糸の開発が進められている。
例えば、特許文献1および2には、様々な繊維の組合せによる、ゴム補強用や樹脂補強用となる芯鞘型複合糸が報告されている。これら複合糸は、芯と鞘の組合せにより高い耐熱性や高い引張強度を有するが、高い破断伸度については未だ満足できるものではなかった。
【0005】
また、特許文献3には、高伸度かつ低弾性率の特性を有するパラ型全芳香族アミド繊維が報告されている。特許文献3に記載された繊維は、パラ型全芳香族ポリアミドから形成されるため、高い耐熱性を有する。しかしながら、延伸等を行っていないため引張強度が著しく低い繊維となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−199580号公報
【特許文献2】特開2006−161225号公報
【特許文献3】特開2011−001666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、耐熱性に優れるとともに、高い引張強度と高い破断伸度の両者を同時に満足する複合糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、乾燥工程後、または1段延伸後に得られるパラ型全芳香族コポリアミド繊維は高い耐熱性を有しているにもかかわらず、弾性率が低いことに着目し、この繊維と高い耐熱性や引張強度をする高強度繊維とを組み合わせて芯鞘型複合糸とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維を含む芯糸を有する芯鞘型複合糸であって、融点および/または熱分解開始温度が450℃以上であり、かつ、引張強度が10〜30cN/dtex、破断伸度が5〜30%、初期弾性率が40cN/dtex以下である芯鞘型複合糸である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の芯鞘型複合糸は、耐熱性に優れるとともに、高い引張強度と高い破断伸度の両者を同時に満足した繊維となる。このため、本発明の繊維は、ゴム等の補強材用途や、その他様々な産業資材用途において、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族コポリアミド>
本発明の芯鞘型複合糸において、芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミドとは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、パラ位にてアミド結合により直接連結されたポリマーである。芳香族基としては、2個の芳香環が、酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたものであってもよい。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。
【0012】
<パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法>
本発明の芯鞘型複合糸において、芯糸に用いるパラ型全芳香族コポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分とを反応せしめることにより、芳香族コポリアミドのポリマー溶液を得ることができる。
【0013】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分は、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド等を挙げることができる。これらのなかでは、汎用性や繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドを用いることが最も好ましい。
【0014】
また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、パラ位以外の結合を形成するイソフタル酸ジクロライド等の成分が、少量が含まれていてもよい。
【0015】
(芳香族ジアミン成分)
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、例えば、パラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、パラビフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。芳香族環に置換基がついていたり、その他複素環等が存在していたりしても差し支えない。また、これらは1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、パラ位以外の結合を形成するメタフェニレンジアミン等の成分が、少量含まれていてもよい。
【0016】
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料としては、これらの内、2種類以上を用いる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性等の観点から、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。また、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%とする。
【0017】
(原料組成比)
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0018】
[パラ型全芳香族コポリアミドの重合]
(重合条件)
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との重合条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、重合温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0019】
(重合溶媒)
パラ型全芳香族コポリアミドの製造に用いるアミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として用いることも可能である。なお、用いる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0020】
(中和反応)
重合終了後には、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加して、中和反応を実施することが好ましい。
【0021】
(重合後処理等)
重合して得られるパラ型全芳香族コポリアミドは、アルコール、水などの非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族コポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得られたポリマー溶液を、そのまま紡糸用溶液(ドープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族コポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記した重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0022】
<芯糸>
本発明の芯鞘型複合糸の芯糸は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維を含むものである。芯糸におけるパラ型全芳香族コポリアミド繊維の含有量は、芯糸質量全体に対して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。芯糸質量全体に対して90質量%未満の場合には、目標とする伸度や耐熱性を有する芯鞘型複合糸を得ることが困難となる。
【0023】
パラ型全芳香族コポリアミド繊維以外の繊維であって、本発明の芯鞘型複合糸の芯糸を構成する繊維としては、例えば、メタ型全芳香族ポリアミド繊維等が挙げられる。なおこのような繊維はパラ型全芳香族コポリアミド繊維に比べ耐熱性に劣るが、10質量%未満の少量含む場合においては特に差し支えない。
パラ型全芳香族コポリアミド繊維とそれ以外の繊維との混合方法としては、特に限定されるものではなく、例えば両方の長繊維を引き揃えたり、合撚する方法等が挙げられる。
【0024】
<芯糸の物性>
[融点および熱分解温度]
芯糸の融点および/または熱分解温度は、450℃以上であることが必須である。芯糸の融点および/または熱分解温度が450℃未満の場合には、得られる複合糸の融点および/または熱分解温度を450℃以上とすることができない。芯糸の融点および/または熱分解温度を450℃以上とするためには、融点および/または熱分解温度が450℃以上である繊維を芯糸に用いる。
【0025】
<芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造>
芯鞘型複合糸の芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。芯糸として用いることができるのは、乾燥工程後に採取された繊維、または1段熱延伸後に採取された繊維である。
【0026】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整工程]
繊維の製造にあたっては、先ず、繊維を形成するための紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する。紡糸用溶液(ドープ)は、パラ型全芳香族コポリアミドおよび溶媒を含むものであり、調整する方法は特に限定されるものではない。紡糸用溶液(ドープ)の調製に用いられる溶媒としては、上記したパラ型全芳香族コポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することが好ましい。なお、用いられる溶媒は1種単独であっても、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒であってもよい。本発明の製造方法においては、パラ型全芳香族コポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま用いることも可能である。
【0027】
さらに、パラ型全芳香族コポリアミドの溶媒への溶解性を高める目的で、溶解助剤として無機塩を用いることもできる。無機塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化リチウム等が挙げられる。ポリマードープに対する無機塩の添加量としては特に限定されるものではないが、ポリマー溶解性向上の効果や、無機塩の溶媒への溶解度等の観点から、ポリマードープ質量に対して1〜10質量%とすることが好ましい。
【0028】
また、繊維に機能性等を付与する目的で、本発明の要旨を超えない範囲において添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。添加剤等を配合する場合には、ドープの調整において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用して導入することができる。
【0029】
なお、紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度、すなわちパラ型全芳香族コポリアミドの濃度は、0.5質量%以上30質量%以下の範囲とすることが好ましい。紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度が0.5質量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少ないため紡糸に必要な粘度を得ることができず、紡糸時の吐出安定性が低下してしまう。一方で、ポリマー濃度が30質量%を超える場合には、ドープの粘性が急激に増加することから紡糸時の吐出安定性が低下し、紡糸パック内の急激な圧上昇により安定した紡糸が困難となりやすい。
【0030】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、湿式法、半乾半湿式法等により繊維を成形する。例えば半乾半湿式法においては、紡糸用溶液(ドープ)を紡糸口金から吐出し、貧溶媒からなる凝固浴中で凝固させて未延伸糸を得る。本発明において用いる紡糸口金は、最終的に複合糸の繊度が100〜5000dtexとなるものを調整すれば、特に限定されるものではない。
紡糸口金を通過する際のポリマードープの温度、および紡糸口金の温度は、特に限定されるものではないが、曵糸性やポリマードープの吐出圧の観点から、80〜120℃とすることが好ましい。
【0031】
次に、紡糸口金から吐出したポリマードープを、凝固液中で凝固する。このとき、紡糸口金と凝固液との温度が大きく異なる場合には、紡糸口金と凝固液とが接触するとそれぞれの温度が変化し、その結果、紡糸工程の制御が困難となる。そこで、紡糸口金と凝固液との温度が大きく異なる場合には、エアギャップを設けた半乾半湿式紡糸を行うことが好ましい。エアギャップの長さは、特に限定されるものではないが、温度の制御性、曵糸性等の観点から、5〜15mmの範囲とすることが好ましい。
ここで用いる凝固液は、例えばNMP水溶液であり、その温度や濃度は、特に限定されるものではない。形成された糸の凝固状態や後の工程通過性等に問題がない範囲で、適宜調整することができる。
【0032】
[水洗工程]
次に、上記で得られた凝固糸を水洗する。水洗工程は、水を用いて糸中のNMPを拡散させ、糸中から除去することを目的とする。糸からNMPを十分に除去できれば、温度や水洗時間等の水洗条件は、特に限定されるものではない。
【0033】
[乾燥工程]
次に、水洗後の糸を乾燥工程する。乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維に付着した水分を十分に除去できる条件であれば問題はないが、作業性や繊維の熱による劣化を考慮すると、150〜250℃の範囲とすることが好ましい。また、乾燥は、ローラー等の接触型の乾燥装置や、乾燥炉中に繊維を通過させる等といった非接触型の乾燥装置のいずれを用いることもできる。
本発明の芯鞘型複合糸においては、この乾燥工程後に得られた乾燥繊維を、複合糸の芯糸として用いることができる。あるいは、物性等必要に応じて、後述の熱延伸を実施した後の繊維を用いてもよい。
【0034】
[熱延伸工程]
次いで、乾燥後の繊維を熱延伸する。この工程は、繊維に熱を付与することで、分子構造を緻密化するとともに、延伸することで分子の配向を促して、物性を向上させることを目的とする。本発明の芯糸に用いるパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得るためには、熱延伸温度は400℃以下とすることが好ましく、さらに好ましくは380℃以下、最も好ましくは350℃以下である。熱延伸温度が400℃を超える場合には、分子構造が緻密化され過ぎるため、目的の物性を有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られない。なお、熱延伸温度を400℃以下とするためには、熱延伸を行う雰囲気温度を400℃以下に調整する。
【0035】
また熱延伸工程においては、熱を加えるとともに延伸を実施する。この際の延伸倍率は、1.00〜1.40倍の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは1.05〜1.3倍、最も好ましくは1.10〜1.30倍の範囲である。延伸倍率が1.4倍を超える場合には、分子の配向が促進されすぎて、目的の物性を有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られない。一方で、繊維の収縮させることが困難であるため、延伸倍率を1.00倍未満にすることはできない。延伸倍率を1.00〜1.40倍の範囲にする方法としては、延伸前後の送り速度と引き取り速度の比を1.00〜1.40倍の範囲に設定すること方法等が挙げられる。
【0036】
<芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の物性>
芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の物性は、引張強度が0.5〜5cN/dtex、破断伸度が3〜30%、初期弾性率が40cN/dtex以下であることが好ましく、さらに好ましくは、引張強度が1.0〜4.5cN/dtex、破断伸度が3.5〜27%、初期弾性率が35cN/dtex以下、最も好ましくは、引張強度が1.5〜4cN/dtex、破断伸度が4〜25%、初期弾性率が30cN/dtex以下である。
【0037】
[引張強度]
芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の引張強度が0.5cN/dtex未満の場合には、強度が弱すぎて、芯鞘型複合糸の芯糸として用いることが困難となる。一方、引張強度が5cN/dtexを超える繊維を得るためには、熱延伸工程において分子の配向をより促進させる必要があるが、そのような条件で製造された繊維は、本発明の芯鞘型複合糸の芯糸とするために必要なその他の物性を満足することができない。
引張強度を0.5〜5cN/dtexの範囲とする方法としては、例えば、熱延伸工程において、前述した温度および延伸倍率の範囲内で熱延伸する方法等が挙げられる。
【0038】
[破断伸度]
芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の破断伸度が3%未満の場合には、目標とする破断伸度が5〜30%の複合糸を得ることができない。一方、パラ型全芳香族コポリアミド繊維の場合には、破断伸度が30%を超える繊維を得ることは困難である。したがって、芯糸として用いるパラ型全芳香族コポリアミド繊維の破断伸度は、高ければ高いほど好ましい。
破断伸度を3〜30%の範囲とする方法としては、例えば、熱延伸工程において、前述した温度および延伸倍率の範囲内で熱延伸する方法等が挙げられる。
【0039】
[初期弾性率]
芯糸を構成するパラ型全芳香族コポリアミド繊維の初期弾性率が40cN/dtexを超える場合には、目標とする初期弾性率が40cN/dtex以下の複合糸を得ることができない。初期弾性率を40cN/dtex以下とするためには、例えば、熱延伸工程において、前述した温度および延伸倍率の範囲内で熱延伸する方法等が挙げられる。
【0040】
<鞘糸>
本発明の芯鞘型複合糸の鞘糸に用いる繊維としては、目的とする物性の複合糸が得られるものであれば特に限定されるものではない。複合糸の融点および/または熱分解開始温度を450℃以上、引張強度を10〜30cN/dtexとするためには、例えば、パラ型全芳香族コポリアミド繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また鞘糸の繊度としては、複合糸とした際の繊度が100〜5000dtexの範囲にできるものであれば、特に限定されるものではない。
【0041】
<複合糸>
[複合糸の製造方法]
本発明の芯鞘型複合糸は、前述した芯糸および鞘糸を用いて製造する。複合糸の製造は、公知の芯鞘型複合糸の製造手法をそのまま用いることができる。例えば、鞘糸を芯糸に対してZ撚りまたはS撚りになるよう1重に被覆してシングルカバーリングヤーンとする方法や、鞘糸となる糸に片撚りを掛けた後、これと芯糸となる糸とを引き揃え、鞘糸の撚り方向と反対方向の撚りを掛けて、芯糸を鞘糸にて覆う壁糸とする方法などが挙げられる。
【0042】
この際、芯糸は直線状に配列させ、かつ鞘糸は曲線状に配列させる必要がある。芯糸が曲線状に配列されている場合には、複合糸に荷重が掛かった際に、その荷重を受けることができない。一方、鞘糸が直線状に配列されている場合には、物性の高い鞘糸に直ちに荷重が掛かるため芯糸の伸度を活用することができず、その結果、目的とする破断伸度が5〜30%となる複合糸を得ることができない。
【0043】
芯糸を直線状に、かつ鞘糸を曲線状に配列させるためには、芯鞘型複合糸の製造段階において、直線状に配した芯糸に対して、鞘糸を供給する方法等が挙げられる。曲線状に配する鞘糸の曲線度合いについては、目的とする物性を有する複合糸となれば、特に限定されるものではない。
【0044】
また、芯糸、鞘糸とも、物性の均一性や性能を十分に発現させるために、撚糸したものを用いることが望ましい。その撚り数は特に限定されるものではないが、撚り係数=1となるよう撚りを掛けることが最も好ましい。なおここでいう撚り係数および撚り数とは、下記式(1)より算出される数値である。
【0045】
【数1】

【0046】
[複合糸中の芯糸と鞘糸の割合]
複合糸中における芯糸と鞘糸の割合は、目的とする機械的物性を有する複合糸が得られれば特に限定されるものではないが、複合糸の繊度に対し、芯糸の繊度の割合を10〜50%の範囲とすることが好ましい。
【0047】
[複合糸の物性]
本発明の複合糸は、融点および/または熱分解開始温度が450℃以上であり、引張強度が10〜30cN/dtex、破断伸度が5〜30%、初期弾性率が40cN/dtex以下の複合糸である。
また、繊度は、100〜5000dtexの範囲とすることが好ましい。複合糸の繊度が100dtex未満の場合には、芯糸および鞘糸のそれぞれはさらに細繊度となり、そのような細繊度の芯糸および鞘糸の作製は非常に困難となる。一方で、複合糸の繊度が5000dtexを超える場合には、芯糸および鞘糸のそれぞれが太繊度となるため、複合糸を作製する作業性が著しく悪くなる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0049】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
(1)繊維および複合糸の繊度
得られた繊維を、公知の検尺機を用いて100m巻き取り、その質量を測定した。得られた質量に100を乗じた値を10000mあたりの質量、即ち繊度(dtex)として算出した。
(2)繊維および複合糸の引張強度、破断伸度、弾性率
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :75cm
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :500mm
(3)複合糸の融点または熱分解開始温度
熱分析装置(理学株式会社製 TAS−200)を用い、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
測定開始温度 :室温
昇温温度 :10℃/分
測定雰囲気 :空気中
【0050】
<実施例1>
[パラ型全芳香族コポリアミドの製造]
公知の方法により、NMPに溶解させたパラフェニレンジアミン50質量部と3,4’−ジアミノジフェニルエーテル50質量部に、テレフタル酸ジクロライド100質量部を添加し、重縮合反応を行い、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのポリマー溶液(ドープ)を得た。
[芯糸となるパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造]
穴径0.3mm、穴数が10の紡糸口金を105℃に加熱した後、105℃に加熱した上記で得られたポリマー溶液(ドープ)を吐出し、10mmのエアギャップを介して、NMP濃度が30質量%の50℃の水溶液で満たされた凝固浴を通過させることにより、ポリマーが凝固した繊維束を得た。
次いで、55℃に調整した水洗浴に、凝固後の繊維束を通過させて水洗を行った後、200℃の乾燥ローラーにて乾燥を行った。続いて、300℃で1.12倍に熱延伸し、芯糸となるパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られた繊維の物性は、繊度=138dtex、引張強度=3.00cN/dtex、破断伸度=4.74%、初期弾性率=15.7cN/dtexであった。
[鞘糸]
鞘糸として、市販のパラ型全芳香族コポリアミド繊維であるテクノーラ(帝人テクノプロダクツ社製)を用いた。
用いた繊維の物性は、繊度=220dtex、引張強度=24.7cN/dtex、破断伸度=4.05%、初期弾性率=599cN/dtexであった。
[複合糸の製造]
上記の芯糸および鞘糸を、それぞれ撚り係数=1となるように撚糸した後、公知のシングルカバーリング装置を用いて、直線状に配向させた芯糸に対して、鞘糸をZ撚りにて200T/mの割合で被覆して、複合糸を得た。
得られた複合糸の繊度、引張強度、破断伸度、初期弾性率、および分解開始温度を、表1に示す。
【0051】
<実施例2>
実施例1の、芯糸となるパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造する工程において、熱延伸工程を実施することなく、乾燥ローラーによる乾燥の後に採取した糸を芯糸として用いた以外は、実施例1と同じ手法により複合糸を得た。
芯糸として用いた乾燥糸の物性は、繊度=154dtex、引張強度=2.08cN/dtex、破断伸度=19.6%、初期弾性率=8.7cN/dtexであった。
得られた複合糸の繊度、引張強度、破断伸度、初期弾性率および分解開始温度を、表1に示す。
【0052】
<実施例3>
市販のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(商標名:ザイロン、東洋紡社製)を、そのまま鞘糸に用いた以外は、実施例1と同じ手法により複合糸を得た。
鞘糸として用いたポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維の物性は、繊度=110dtex、引張強度=37.2cN/dtex、破断伸度=3.63%、初期弾性率=1134cN/dtexであった。
得られた複合糸の繊度、引張強度、破断伸度、初期弾性率および分解開始温度を、表1に示す。
【0053】
<比較例1>
実施例1の、芯糸となるパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造する工程において、熱延伸の条件を380℃で2.3倍延伸とした糸を芯糸として用いた以外は、実施例1と同じ手法により複合糸を得た。
芯糸として用いた熱延伸糸の物性は、繊度=67dtex、引張強度=6.37cN/dtex、破断伸度=2.41%、初期弾性率=93cN/dtexであった。
得られた複合糸の繊度、引張強度、破断伸度、初期弾性率および分解開始温度を、表1に示す。
【0054】
<比較例2>
市販のポリエステル繊維(商標名:テトロン、帝人ファイバー社製)を、そのまま芯糸に用いた以外は、実施例1と同じ手法により複合糸を得た。
芯糸として用いたポリエステル繊維の物性は、繊度=110dtex、引張強度=7.82cN/dtex、破断伸度=11.7%、初期弾性率=83cN/dtexであった。
得られた複合糸の繊度、引張強度、破断伸度、初期弾性率および分解開始温度を、表1に示す。
【0055】
<比較例3>
芯鞘型複合糸ではなく、実施例1で芯糸となるパラ型全芳香族コポリアミド繊維のみを単体でそのまま評価した。パラ型全芳香族コポリアミド繊維の繊度、引張強度、破断伸度、初期弾性率および分解開始温度を、表1に示す。
【0056】
<比較例4>
芯鞘型複合糸ではなく、実施例1で鞘糸となるパラ型全芳香族コポリアミド繊維のみを単体でそのまま評価した。パラ型全芳香族コポリアミド繊維の繊度、引張強度、破断伸度、初期弾性率および分解開始温度を、表1に示す。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の複合糸は、耐熱性に優れるとともに、高い引張強度と破断伸度の両者を同時に満足した複合糸となる。したがって、本発明の複合糸は、様々な産業資材として有用であり、ゴム等の補強材用途においては特に有用となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型全芳香族コポリアミド繊維を含む芯糸を有する芯鞘型複合糸であって、
融点および/または熱分解開始温度が450℃以上であり、かつ、引張強度が10〜30cN/dtex、破断伸度が5〜30%、初期弾性率が40cN/dtex以下である芯鞘型複合糸。
【請求項2】
前記パラ型全芳香族コポリアミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維である請求項1記載の芯鞘型複合糸。
【請求項3】
前記パラ型全芳香族コポリアミド繊維が、引張強度が0.5〜5cN/dtex、破断伸度が3〜30%、初期弾性率が40cN/dtex以下である請求項1または2に記載の芯鞘型複合糸。
【請求項4】
鞘糸が、パラ型全芳香族コポリアミド繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の繊維である請求項1〜3いずれか記載の芯鞘型複合糸。
【請求項5】
繊度が100〜5000dtexである請求項1〜4いずれか記載の芯鞘型複合糸。

【公開番号】特開2013−2026(P2013−2026A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137477(P2011−137477)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】