説明

芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよび織物

【課題】必要十分な引張強度と抜群の耐加水分解性を兼備すると共に、織物として高温・多湿条件下で長時間使用した際に目ズレの発生頻度が抑制されるなど良好な熱接着性を有し、各種織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適な芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた織物を提供する。
【解決手段】芯成分および鞘成分がいずれもポリエステル系樹脂からなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであって、前記鞘成分を構成するポリエステル系樹脂は、融点が150℃以上で、かつ前記芯成分を構成するポリエステル系樹脂の融点より30℃以上低い融点を有する共重合ポリエステル系樹脂からなり、さらに前記芯成分および鞘成分を構成する両成分が、いずれもカルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下のポリエステル系樹脂であると共に、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必要十分な引張強度と抜群の耐加水分解性を兼備すると共に、織物として高温・多湿条件下で長時間使用した際に目ズレの発生頻度が抑制されるなどの良好な熱接着性を有し、各種織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適な芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイドおよびポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなるモノフィラメントに代表される繊維は、優れた抗張力および耐熱性などを有していることから、各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。
【0003】
これらの織物としては、抄紙機用織物、フィルター用織物、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア用の織物、熱処理炉内搬送ベルト用織物などが挙げられ、さらに他の用途としては、各種ブラシ、毛筆、印刷スクリーン用紗、釣り糸、ゴム補強用繊維材料などが知られている。
【0004】
なかでも、抄紙業界における抄紙用ワイヤーや抄紙用ドライヤーカンバス(以下、カンバスという)の構成素材としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなるモノフィラメントが広く使用されており、これら、ポリエステルモノフィラメントからなる抄紙用の工業用織物は、寸法安定性や走行安定性、耐加水分解性や耐熱性の他、優れた表面性、適切な通気度など多様な物性と機能を併せ持つ必要があり、とりわけ耐加水分解性や耐熱性および通気度が重要視されている。
【0005】
ここで、ポリエステルモノフィラメントを高温・多湿条件下で用いられる工業用織物に使用した場合には、使用中にポリエステルモノフィラメントが加水分解劣化によって強度低下を起こすという欠点を有していた。
【0006】
さらに、今日では抄紙速度の高速化によって抄造能力の増強によるコストダウンが推し量られているが、工業用織物の強度低下による織物交換作業のために生産工程を一時停機せざるを得ず、その結果として生産効率ならびに作業効率の悪化に多大な悪影響を及ぼしていた。
【0007】
また、耐加水分解性と並んで工業用織物の重要特性でもある通気度に関しては、紙の品質に大きく影響し、通気度が低すぎると抄紙時の脱水効率や乾燥効率が低下し、また通気度が高すぎると、工業用織物の走行安定性が低下し(フラッタリング)、紙に皺が発生するなど品質の低下を招いてしまう。さらに最近、その通気度の安定性について注目が集まっている。これは使用途中で織物の目付け部分がずれてしまい(以下、目ズレという)、製品である紙に乾燥ムラが発生することで紙の品質の低下を招いてしまうというものである。この目ズレは使用途中に発生することから実態を把握しにくく、出来上がった製品の品質を検査して初めて乾燥ムラに気づくといったケースが多いため、結果的に収率の低下を招いてしまい、通気度の安定性、すなわち使用途中における織物の目ズレ防止がしきりに求められていた。
【0008】
この目ズレ防止について以前より各種検討がなされており、その検討の中でも織物の表面に塩化ビニル樹脂をコーティングする方法が広く用いられていた。しかしこの方法では織物の目ズレが防止され、加工性が良好であるという利点はあるものの、得られる織物が重くなり、また使用時の作業性が悪いという点があった。さらに、織物を廃棄物として焼却する際に、塩素ガスやダイオキシンといった有害ガスが発生してしまい、環境や人体に悪い影響を与えてしまっていた。
【0009】
そこでこのような欠点を解決するため従来から様々の提案が行われてきた。
【0010】
例えば、織物や繊維を塩化ビニル樹脂でコーティングする代替方法として、芯部がポリプロピレン樹脂からなり、鞘部がポリエチレン樹脂からなる熱接着繊維(例えば、特許文献1参照)が知られている。この技術で得られる繊維を使用した織物は、軽量化することができ、また廃棄物として焼却時に有害ガスを発生しないという利点はあるが、接着される繊維がポリエステル系繊維の場合には、熱接着するポリオレフィン系繊維との親和性が悪く、熱接着した後に目付け部分が剥離して目ズレが発生してしまうため、熱接着性繊維としては不満足なものであった。
【0011】
また、ポリエステル系の熱接着繊維を開発する技術として、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートからなるポリエステルを芯部とし、該ポリエステルと相溶性があり、軟化温度が130〜200℃であるポリマーを鞘部とした芯鞘複合繊維(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかしながら、この芯鞘複合繊維は、熱収縮が非常に高く、また熱接着した織物は寸法安定性に欠けてしまうだけではなく、高温・多湿条件下でこれら織物を使用した場合は目付け部分が溶融し、目ズレの発生頻度が高くなるという問題があった。
【0012】
さらに、耐熱性を有するポリエステル系の熱接着繊維を開発する技術として、アルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルAと、融点がポリエステルAより30℃以上低いポリエステルBからなり、ポリエステルAを芯部にポリエステルBを鞘部に配し、乾熱処理後の強度保持率が60%以上である芯鞘型ポリエステル複合繊維(例えば、特許文献3参照)が知られているが、この技術で得られる繊維は、耐熱性の観点では高温条件下でも目ズレは防止されるものの、耐加水分解性の観点では目付け部分が加水分解劣化を起こすことで接着強力が低下し、目ズレの発生頻度が高くなるばかりか、芯部も加水分解劣化の影響を受けることで、繊維自体の強力が低下するといった問題を包含していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−246232号公報
【特許文献2】特開昭62−184119号公報
【特許文献3】特開2008−106394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、必要十分な引張強度と抜群の耐加水分解性を兼備すると共に、織物として高温・多湿条件下で長時間使用した際に目ズレの発生頻度が抑制されるなど良好な熱接着性を有し、各種織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適な芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、芯成分および鞘成分がいずれもポリエステル系樹脂からなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであって、前記鞘成分を構成するポリエステル系樹脂は、融点が150℃以上で、かつ前記芯成分を構成するポリエステル系樹脂の融点より30℃以上低い融点を有する共重合ポリエステル系樹脂からなり、さらに前記芯成分および鞘成分を構成する両成分が、いずれもカルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下のポリエステル系樹脂であると共に、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを提供するものである。
【0017】
なお、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントにおいては、
前記芯成分および鞘成分を構成する両成分が、いずれも各ポリエステル系樹脂100重量部に対して、モノカルボジイミド0.1〜3.0重量部を含有すること、および
前記芯成分と鞘成分の複合比率が、芯成分:20〜80重量%および鞘成分:80〜20重量%であること
が好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することで、一層優れた引張強度と耐加水分解性が取得できると共に、織物として高温・多湿条件下で長時間使用した際に、目ズレの発生頻度をより一層抑制できるなど、抜群の熱接着性を取得することができる。
【0018】
また、本発明の織物は、上記の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用することを特徴とし、特に抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物において、必要十分な引張強度および抜群の耐加水分解性のみならず、高温・多湿条件下で長期間使用した際に目ズレの発生頻度が抑制されるなど良好な熱接着性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来の熱接着繊維では実現することのできなかった、必要十分な引張強度と抜群の耐加水分解性を兼備すると共に、織物として高温・多湿条件下で長時間使用した際に目ズレの発生頻度が抑制されるなど良好な熱接着性を有した、各種織物、特に抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適な芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた織物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを構成する芯成分のポリエステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのジカルボン酸またはエステル形成誘導体およびジオールまたはエステル形成誘導体から合成されるポリエステル系化合物のことである。これらの内でも、ジカルボン酸成分の90モル%以上がテレフタル酸からなり、またグリコール成分の90モル%以上がエチレングリコールからなるPETが好適である。
【0022】
PETは、上記のテレフタル酸成分の一部を、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、スルホン酸金属塩置換イソフタル酸などで置き換えたものであってもよい。また、上記のエチレングリコール成分の一部を、例えばプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、ポリアルキレングリコールなどで置き換えたものであってもよい。さらに、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸、トリメシン酸、硼酸などの鎖分岐剤を少量併用することもできる。
【0023】
また、PETには、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、ジルコニウム酸、カーボンブラックなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、各種界面活性剤などが添加されていてもよい。
【0024】
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを構成する鞘成分のポリエステル系樹脂とは、融点が150℃以上で、かつ芯成分を構成するポリエステル系樹脂の融点よりも30℃以上低い融点を有する共重合ポリエステル系樹脂であることが好ましい。芯成分のポリエステル系樹脂との融点差が30℃未満であると、鞘成分を熱接着させる際の温度が芯成分の融点付近に達するため、芯成分のポリエステル系樹脂が熱劣化によって強度低下を招き、例えば工業用織物用途の原糸として使用する場合に、最低限必要な強力を維持できない可能性が高いことから好ましくない。
【0025】
また、鞘成分を構成するポリエステル系樹脂の融点が150℃未満であると、織物として高温・多湿条件下で使用した場合、その高温条件が故に目付け部分が溶融してしまい、熱接着性(接着強力)の低下によって目ズレの発生頻度が高くなってしまうため好ましくない。
【0026】
ここでいう共重合ポリエステル系樹脂とは、ジカルボン酸成分とジアルコール成分をランダムで共重合させたランダムコポリマーをいう。共重合ポリエステル系樹脂におけるジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、スルホイソフタル酸ナトリウムが挙げられる。この中でジカルボン酸成分としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、アジピン酸、セバシン酸が特に好ましく用いられる。
【0027】
ジアルコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリストリール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。なかでもエチレングリコール、1,2プロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましく用いられる。具体例としては、東レ・ファインケミカル製“ケミット”などの市販品が挙げられる。
【0028】
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、芯成分および鞘成分を構成する両ポリエステル系樹脂のいずれもが、カルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下の条件を満たすことが重要であり、これにより抜群の耐加水分解性を発揮することができる。カルボキシル末端基濃度が8当量/10g以上であると、高温・多湿条件下ではポリエステルの加水分解劣化が著しく進行し、芯成分の場合はモノフィラメント自体が著しい強度低下が、さらに鞘成分の場合は織物として使用する際に目付け部分の加水分解劣化により熱接着性が著しく低下し、目ズレの発生頻度が高くなってしまうなど、両成分のうちどちらか一方でも欠けてしまうと製品品位が低下してしまうため好ましくない。
【0029】
また、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、芯成分および鞘成分の両成分が共に、モノカルボジイミド化合物(以下、MCD化合物という)を含有することが好ましく、これにより耐加水分解性が飛躍的に向上する。
【0030】
MCD化合物は分子中に1個のカルボジイミド基(−N=C=N−)を含有する活性な化合物であり、言い換えればポリエステルモノフィラメント中に添加されたMCD化合物の内、ポリエステルモノフィラメント中に未反応の状態で残存するMCD化合物である。このMCD化合物は、ポリエステルの加水分解を促進する触媒作用を有するポリエステル自身のカルボキシル末端基を反応封鎖して不活性化する作用を有する。
【0031】
ポリエステルのカルボキシル末端基は、原料由来、重縮合起因、溶融成型時の熱や加水分解、および湿熱雰囲気中で使用中に加水分解等によって発生する。
【0032】
ポリエステルの加水分解を抑制するためには、溶融成形前のポリエステルにMCD化合物を添加して溶融中にMCD化合物とカルボキシル末端基とを反応させてカルボキシル末端基不活性化すると共に、成形品中にもMCD化合物を含有させて湿熱雰囲気中で使用中に加水分解によって発生するカルボキシル末端基を不活性化する必要がある。したがって、ポリエステルモノフィラメントを長時間使用するという観点では、モノフィラメント中にいかに多量のMCD化合物を残存・含有させるかが重要になる。
【0033】
このMCD化合物としてはいずれでもよいが、例えば、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミドなどが挙げられる。これらのMCD化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリエステルモノフィラメントに含有させればよいが、ポリエステルに添加後の安定性から、芳香族骨格を有する化合物が有利な傾向にあり、中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミドなどが、特にN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICという)が好適である。TICは、市販品である Rhein−Chemie社製のSTABAXOL(登録商標)Iまたは Raschig AG社製のStabilizer(登録商標)7000などを購入して使用することができる。
【0034】
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントにおいて、芯成分および鞘成分の両成分に対するMCD化合物の含有量は、各成分のポリエステル系樹脂100重量部に対し、それぞれ0.1〜3.0重量部であると好ましく、0.3〜2.5重量部であるとより好ましく、0.6〜2.0重量部の範囲であるとさらに好ましい。MCD化合物の含有量が0.1重量部未満であると、高温・多湿条件下で使用される工業用織物用途の原糸として要求される耐加水分解性を満足することができず、また3.0重量部より多いと、モノフィラメントの製造が困難になり、また得られるモノフィラメントの引張強度が著しく低下するため好ましくない。
【0035】
ここで、MCD化合物を0.1〜3.0重量部含有させるには、原料のポリエステルが保有していたカルボキシル末端基および溶融紡糸時の加熱による加水分解や熱分解で発生したカルボキシル末端基の両者を合計した総カルボキシル末端基と、ポリエステル中の水酸末端基を封鎖・不活性化反応させ、更に製品ポリエステルモノフィラメント中に0.1〜3.0重量部のMCD化合物が残存含有する量のMCD化合物をポリエステルに添加し溶融混練した後、溶融紡糸する方法が有利である。また、MCD化合物と共に、ポリエステルのカルボキシル末端基および水酸末端基と反応する公知のエポキシド化合物およびオキサゾリン化合物などを併用することもできる。
【0036】
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントにおける芯成分と鞘成分の複合比率は、芯成分が20〜80重量%および鞘成分:80〜20重量%であることが好ましく、芯成分が20重量%未満ではカンバスで必要とされる引張強度が得られず、また80重量%を越えると鞘成分の比率が少なくなり、織物にした際の熱接着性が著しく低下し、目ズレの発生頻度が高くなるため好ましくない。
【0037】
また、本発明の芯鞘複合モノフィラメントは、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましい。強度が3.0cN/dtex以下では工業用織物としての必要最低限の強力を維持できない可能性が高く、工業用織物への展開が難しくなることがある。
【0038】
次に、本発明に芯鞘複合モノフィラメントの耐加水分解性は、下記方法によって得られた強力保持率が50%以上であることが好ましく、強力保持率が50%未満であると、耐加水分解性を満足することができず、高温・多湿条件下で使用される工業用織物用途の原糸としては不十分なものとなってしまうため好ましくない。
【0039】
[モノフィラメントの耐加水分解性]
モノフィラメントを100リットルオートクレーブに入れ、121℃の飽和水蒸気で12日間連続処理した後、処理後のモノフィラメントおよび未処理(処理前)のモノフィラメントの強力を上記の引張強力と同一の方法で測定し、処理前後のモノフィラメントの強力保持率を算出し、耐加水分解性の尺度とした。なお、算式は、強力保持率(%)=(処理後モノフィラメントの強力÷処理前モノフィラメントの強力)×100とした。
【0040】
本発明における芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、1本からなる連続糸であり、繊維軸方向に垂直な断面の形状(以下、断面形状もしくは断面という)は、丸、楕円、3角、T、Y、H、+、5葉、6葉、7葉、8葉、などの多様形状、正方形、長方形、菱形、ドッグボーン状および繭型などいかなる断面形状を有するものでもよい。
【0041】
また、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの直径は、その使用用途に合わせ適宜選択することができるが、通常は0.05〜3mm程度(異形断面の場合は、丸断面面積に換算して直径を算出する)の範囲のものが好適に使用される。
【0042】
次に、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの製造方法としては、従来公知の方法にて製造が可能である。
【0043】
芯成分となるポリエステル系樹脂は、例えばPETの場合、あらかじめ予備乾燥をしておき、次いでエクストルダー式紡糸機を用いて260℃〜300℃にて溶融されるのが好ましい。
【0044】
また、鞘成分となる共重合ポリエステル系樹脂も芯成分と同様で、あらかじめ予備乾燥をしておき、芯成分とは別のエクストルダー式紡糸機を用いて240℃〜260℃にて溶融されるのが好ましい。
【0045】
さらに、MCD化合物を含有させる場合は、例えば、そのものの固体または高濃度マスターバッチとして計量供給しても良いが、融点以上に加熱して溶融させた液体として各々のエクストルダーの入口、またはエクストルダーのバレルの途中から計量供給する方法が好ましい。
【0046】
別々に溶融されたポリマーは各々計量され、別々の配管を通り、複合紡糸金型で合流して口金から吐出される。なお、この際に複合紡糸金型の温度は、鞘成分の共重合ポリエステル系樹脂の熱劣化を避けるため、280℃以下であることが好ましい。さらに、ポリエステルおよびMCD化合物の熱劣化を防ぐため、紡糸機滞留時間は15分以下であることが好ましく、10分間以下にすることがさらに好ましい。その後冷却され、延伸・熱セットすることにより、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを得ることができる。
【0047】
本発明の織物とは、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントをその少なくとも一部に使用しており、織物の目付け部分を固定させるため、一旦織物にした後、鞘成分の融点以上で熱処理をすることで鞘成分を溶融させ、目付け部分を熱接着させることが好ましい。
【0048】
また本発明の織物は、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用した各種用途に使用される織物のことであり、例えば工業用織物、衣料、不織布、各種フィルターなどの織物のことである。
【0049】
さらに工業用織物とは、例えば、抄紙ワイヤー、カンバスなどの抄紙機に装着される織物類、熱処理炉内搬送用ベルト織物もしくは各種フィルター織物のことである。
【0050】
ここで、抄紙ワイヤーとは、平織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉き上げ工程で使用される織物のことで、長網あるいは丸網などとして用いられるものである。また、カンバスとは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後する緯糸と緯糸とがスパイラル状の経糸用モノフィラメントによって織り継がれたスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことである。さらに、熱処理炉内搬送用ベルト織物とは、各種半製品の乾燥、熱硬化、殺菌、加熱調理などのために高温ゾーン内において半製品を搬送する織物のことである。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントの実施例に関し、さらに詳細を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
また、各種特性の評価は次に説明する方法にしたがって行った。
【0053】
[ポリエステル系樹脂の融点]
セイコー電子工業社製DSC220を用いて、昇温速度10℃/分で測定した。
【0054】
[モノフィラメント中のMCD化合物含有量]
(1)100mlメスフラスコに試料約200mgを秤取する。
(2)ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム(容量比1/1)2m lを加えて試料を溶解させる。
(3)試料が溶解したら、クロロホルム8mlを加える。
(4)アセトニトリル/クロロホルム(容量比9/1)を徐々に加えポリマーを 析出させながら100mlとする。
(5)試料溶液を目開き0.45μmのディスクフィルターで濾過し、HPL Cで定量分析する。HPLC分析条件は次の通り。
カラム:Inertsil ODS−2 4.6mm×250mm
移動相:アセトニトリル/水(容量比94/6)
流 量:1.5ml/min.
試料量:20μl
検出器:UV(280nm)
【0055】
[モノフィラメントのカルボキシル末端基濃度]
(1)10ml試験管に0.5±0.002gのモノフィラメントサンプルを秤取する。
(2)o−クレゾール10mlを前記試験管に注入し、100℃で30分間加熱、攪拌しサンプル溶解させる。
(3)試験管の内容液を30mlビーカーに移す(試験管内の残液を3mlのジクロルメタンで洗浄してビーカーに追加する)。
(4)ビーカー内の液温が25℃になるまで放冷する。
(5)0.02NのNaOHメタノール溶液で滴定する。
(6)サンプル無しで前記(1)〜(5)と同様に行い、サンプル滴定に要した0.02NのNaOHメタノール溶液滴定量からモノフィラメント10gあたりのカルボキシル末端基当量を求める。
【0056】
[モノフィラメントの引張強力および引張強度]
JIS−L1013に記載の方法に準拠して、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)を使用して測定し、試料が切断したときの強力を求めた。また、その強力を繊度で割り返して強度(cN/dtex)を求めた。
【0057】
[モノフィラメントの耐加水分解性]
モノフィラメントを100リットルオートクレーブに入れ、121℃の飽和水蒸気で12日間連続処理した後、処理後のモノフィラメントおよび未処理(処理前)のモノフィラメントの強力を上記の引張強力と同一の方法で測定し、処理前後のモノフィラメントの強力保持率を算出し、耐加水分解性の尺度とした(以下、蒸熱処理後の強力保持率という)。なお、算式は、蒸熱処理後の強力保持率(%)=(処理後モノフィラメントの強力÷処理前モノフィラメントの強力)×100であり、強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを示す。
【0058】
[目ズレの発生頻度]
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを経糸に用いて製織した平織り織物(密度は経糸が11.0本/2.54cm、緯糸が8.0本/2.54cmとした)を、鞘成分の融点より20℃高い温度で熱処理を施すことで熱接着させた後、10cm四方の大きさにカットし、100リットルのオートクレーブに入れ、121℃飽和水蒸気中で12日間処理した後の目ズレの発生頻度を調査した。なお、目ズレの発生頻度は下記式より算出した。
○・・・目ズレの発生頻度が10%未満であった。
×・・・目ズレの発生頻度が10%以上であった。
目ズレの発生頻度・・・(目ズレ部の数÷全目付け数)×100
【0059】
〔実施例1〕
芯成分のポリエステル系樹脂として融点265℃のPET(東レ(株)製 T755M)を、鞘成分として融点170℃の共重合ポリエステル系樹脂(東レ・ファインケミカル(株)製 ケミットQ−1500)を用いて各々のエクストルダー式紡糸機に供給した。さらに併せて75℃で加熱溶融させたMCD化合物(Raschig AG社製 Stabilizer7000)を各成分100重量部に対してそれぞれ1.27重量部となるようにして各々のエクストルダーの入口から流入させ、各成分に含有させた。それぞれ285℃、250℃にて溶融後、複合比率が芯成分:70重量%、および鞘成分:30重量%になるようにポンプによる計量を行い、別々の配管を通過させた後、ポリマー温度270℃にて複合紡糸金型に合流させ、芯鞘構造を備えた口金から吐出させた後、直ちに70℃の温水浴中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0060】
引き続き未延伸糸を常法にしたがい合計5.5倍の延伸および0.85倍の熱セットを行ない、直径0.40mmの断面形状が円形の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを得た。得られた芯鞘複合ポリエステルのカルボキシル末端基濃度、引張強度、耐加水分解性および織物にした際の目ズレの発生頻度評価結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例2〜4〕
芯成分に使用したポリエステル系樹脂の融点、芯成分と鞘成分の複合比率、MCD化合物含有量およびカルボキシル末端基濃度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの断面形状が円形の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを得た。
【0062】
〔比較例1〜4〕
芯成分に使用したポリエステル系樹脂の融点、鞘成分に使用したポリエステル系樹脂の融点、MCD化合物含有量およびカルボキシル末端基濃度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.40mmの断面形状が円形の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを得た。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から明らかなとおり、本発明における芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント(実施例1〜4)は、必要十分な引張強度と抜群の耐加水分解性を兼備すると共に、本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを使用した織物は目ズレの発生頻度が抑制されるなど良好な熱接着性を有していることがわかる。
【0065】
これに対して、本発明外である芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント、つまり鞘成分のポリエステル系樹脂の融点が規定から外れた芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント(比較例1)、および芯成分のポリエステル系樹脂と鞘成分のポリエステル系樹脂の融点差が規定から外れた芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント(比較例2)およびカルボキシル末端基濃度が規定から外れた芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント(比較例3〜4)などは、引張強度または耐加水分解性に欠け、また織物にした際の目ズレの発生頻度が高いなど、各種織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスといった工業用織物としての要求特性を満足していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントは、従来の熱接着繊維では実現することのできなかった、必要十分な引張強度と抜群の耐加水分解性を兼備すると共に、織物として高温・多湿条件下で長時間使用した際に目ズレの発生頻度が抑制されるなど良好な熱接着性を有することから、各種織物、特に抄紙用ドライヤーカンバスといった工業用織物の構成素材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分および鞘成分がいずれもポリエステル系樹脂からなる芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントであって、前記鞘成分を構成するポリエステル系樹脂は、融点が150℃以上で、かつ前記芯成分を構成するポリエステル系樹脂の融点より30℃以上低い融点を有する共重合ポリエステル系樹脂からなり、さらに前記芯成分および鞘成分を構成する両成分が、いずれもカルボキシル末端基濃度が8当量/10g以下のポリエステル系樹脂であると共に、JIS−L1013に記載の方法に準拠した引張強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記芯成分および鞘成分を構成する両成分が、いずれも各ポリエステル系樹脂100重量部に対して、モノカルボジイミド0.1〜3.0重量部を含有することを特徴とする請求項1に記載の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
前記芯成分と鞘成分の複合比率が、芯成分:20〜80重量%および鞘成分:80〜20重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の芯鞘複合ポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする織物。
【請求項5】
工業用織物であることを特徴とする請求項4に記載の織物。

【公開番号】特開2011−127261(P2011−127261A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288676(P2009−288676)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】