説明

芯鞘複合型導電性繊維

【課題】 表面抵抗測定法における導電性と導電性の耐久性に優れ、紡糸工程および後工
程の通過性が良好で、耐薬品性にも優れた芯鞘複合型導電性繊維を得ることである。
【解決手段】 芯鞘型の導電性複合繊維において芯成分がエチレンテレフタレートを主体
とするポリエステルからなり、鞘成分が構成単位の10〜90mol%がエチレンテレフ
タレートである共重合ポリエステルとカーボンブラックとの混合物からなることを特徴と
する芯鞘複合型導電性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘複合型導電性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から導電性繊維としては、導電性粒子を含有する導電成分を非導電成分で被覆した複
合繊維が一般的に利用されている。
【0003】
近年欧米では導電性繊維を含んだ繊維製品を破壊せずにその導電性を評価する手段として
、繊維製品の表面の二ヶ所に電極を当て電極間の抵抗値を測定する方法(以下表面抵抗測
定法と記す)が採用されている。本方法であると、繊維製品に混用する導電性繊維の表面
に導電成分が露出していない場合、導電成分と電極が接触しないため見かけ上の導電性が
低いつまり抵抗値が高くなるという問題がある。
【0004】
この欠点を無くする為には表面層を導電成分とすればよいことは容易に考えられその提案
は種種なされている。たとえば酸化チタン、ヨウ化第1銅などの金属を表面にコーティン
グまたはメッキする方法が提案されているが、これらの方法で得られる導電性繊維には洗
濯耐久性が無く、初期の評価では導電性が高いが繰り返し洗濯を行うと金属成分の剥離お
よび脱落がおこり、導電性を低下させるので実用時に多数の洗濯が必要不可欠な無塵衣料
などに供することは難しい。
【0005】
また、カーボンブラックを練りこんだ導電成分を鞘部に配した芯鞘型複合繊維が特許文献
1に提案されているが、芯鞘形成が難しく実用的な製品はなかった。これは、カーボンブ
ラックの混合により熱可塑性ポリマーの溶融流動性が著しく低下し、芯成分と鞘成分の溶
融流動性の格差が広がるため、曳糸性が著しく悪化し、更に同様の理由から芯鞘複合形状
が部分的に乱れ、延伸・織編等の後工程においても操業性が低下する、という問題があっ
たことに起因する。
【0006】
【特許文献1】特公昭57−25647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、表面抵抗測定法における導電性と導電性の耐久性に優れ、紡糸工程およ
び後工程の通過性が良好な導電繊維を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の芯鞘複合型導電性繊維は、芯鞘型の導電性複合繊維において芯成分が、エチレン
テレフタレートを主体とするポリエステル、鞘成分が構成単位の10〜90mol%がエ
チレンテレフタレートである共重合ポリエステルとカーボンブラックとの混合物からなる
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の好ましい態様として、芯鞘複合型導電性繊維の鞘成分はイソフタル酸および/ま
たはオルトフタル酸および/またはナフタレンジカルボン酸を酸成分の共重合体として共
重合してなるポリエステルからなることを特徴とする。
【0010】
更に好ましい態様として、共重合成分であるイソフタル酸および/またはオルトフタル酸
および/またはナフタレンジカルボン酸の共重合比率が10〜50mol%であることを
特徴とする。
【0011】
更に好ましい態様として、鞘成分のカーボンブラック含有量が10〜50wt%であるこ
とを特徴とする。
【0012】
更に好ましい態様として、芯鞘の複合比率が、芯成分と鞘成分の面積比率で20:1〜1
:2であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、鞘成分が導電成分である芯鞘複合型導電性繊維のうち、特にポリエステル系の
繊維に関する。素材をポリエステル系にする事により、導電性、導電性の耐久性、紡糸工
程及び後工程の通過性を良好にするだけでなく、更に耐薬品性に優れる導電性繊維を得る
ことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の芯鞘複合型導電性繊維の鞘成分である共重合ポリエステルは構成単位の10〜9
0mol%がエチレンテレフタレートである共重合ポリエステルである。
【0015】
また、前記鞘成分の共重合ポリエステルの共重合成分は種々のものが利用可能である。例
えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のようなジカルボン酸類
、ポリエチレングリコールなどのグリコール(ジオール)類などが挙げられる。中でもイ
ソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく用いられる。またこれ
らの共重合比は10〜50mol%が好ましく、更に好ましくは10〜40mol%であ
る。
【0016】
なお、この共重合比率は、ジカルボン酸類にあっては酸成分中の比率を示し、グリコール
類にあってはグリコール成分中の比率を示す。
共重合比率が10mol%より小さいと芯鞘構造を形成しない。この場合、繊維表面に突
起が出来たり、また、繊維の一部の単糸の鞘部分へ該ポリマーが流れ込まず芯成分のみと
なってしまう。このような繊維は、紡糸、延伸および後加工の工程通過性が著しく悪くな
る。一方、共重合比率が90mol%を超えると低融点となり、芯成分に必要なる紡糸温
度にて加熱するとポリマーが劣化してしまうため、糸切れの原因となり、曳糸性が著しく
悪くなる。
【0017】
本発明の芯鞘複合型導電性繊維における芯成分はエチレンテレフタレートを主体とするホ
モまたは共重合ポリエステルであり好ましくはホモPET(ポリエチレンテレフタレート
)が良い。共重合ポリエステルに用いられる共重合成分として、例えばアジピン酸、セバ
シン酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、スルホイソフタル酸などのジカルボン酸成
分、1−ヒドロキシ−2−カルボキシエタンなどのヒドロキシカルボン酸成分、およびエ
チレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレング
リコールなどのジオール成分が挙げられる。中でもスルホイソフタル酸が好ましく用いら
れる。共重合ポリエステルを用いる場合、10〜30mol%共重合したものである事が
好ましい。また、目的に応じて酸化チタン等の無機粒子を含んでいてもよい。
【0018】
本発明の芯鞘複合型導電性繊維中の鞘成分のカーボンブラックの量は10〜50重量%が
好ましい。カーボンブラックの量が上記範囲であると、繊維形成能と導電性に優れた繊維
が得られる。
【0019】
導電性カーボンブラックと共重合ポリエステルとの混合は、公知の方法、例えば2軸混練
押し出し機などで加熱下に混練することにより得ることが出来る。
【0020】
本発明の芯鞘複合型導電繊維の導電成分と非導電成分の複合構造は導電成分が非導電成分
を完全に封抱するような芯鞘型であることが肝要である。
【0021】
本発明の芯鞘複合型導電繊維の芯鞘複合比率は、芯成分:鞘成分の面積比率で1:2〜2
0:1であることが好ましい。鞘成分が上記範囲にあると、繊維形成能と導電性と強度に
優れた繊維が得られるので好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0023】
最初に各物性値の測定方法、評価方法を記す。
【0024】
表面抵抗測定は、緯糸に10mmピッチで芯鞘複合型導電性繊維を混入させた布帛の緯糸
方向×経糸方向=60mm×50mmを試料とし、経糸方向の50mm全体に接触する電
極を緯糸方向に50mm離して布帛上に接触させ、導電ペースト無しの条件下で抵抗値を
測定した。抵抗測定機は、ヒューレットパッカード製ハイレジスタンスメーター4329
Aを使用した。
【0025】
工程通過性は、紡糸の巻取り、延伸時ボビンの解舒、後加工時のパーンの解舒性が良い場
合を○、悪い場合を×とした。
【0026】
MI値は、株式会社 東洋精機製作所製 type・C−5059Dを使用して測定した。
特定温度で樹脂を溶融させて直径0.5mmの孔より10分間押し出したときの樹脂の吐
出質量で表した。
【0027】
洗濯耐久性はJIS L 0217 E 103法の100回までの抵抗値の増大の有無にて
評価した。洗濯100回にて抵抗値の増大が無い場合を○、増大が認められる場合を×と
した。
【0028】
耐酸性としては95%蟻酸に浸漬して溶解の有無にて評価した。浸漬して5分程度経過し
て溶解しない場合を○、溶解する場合を×とした。
【0029】
繊維の芯鞘形成状態は全フィラメント芯鞘を形成している場合を○、それ以外を×とした

【0030】
繊維の強度は島津製作所製のオートグラフAGS−1KNGにて測定を行なった。
【0031】
(実施例1−1)
イソフタル酸を12mol%共重合したポリエチレンテレフタレートに導電性カーボンブ
ラックを26重量%混合分散させた導電性ポリマーを鞘成分、ホモポリエチレンテレフタ
レートを芯成分とし、表1−1に示す芯鞘複合比率になるように複合し、285℃にて、
導電性ポリマーの流路リード孔の壁面Hの粗度1.6S以下で孔径0.5mmのオリフィ
スから紡出し、オイリングしながら1000m/minの速度で巻き取り、丸断面の12
フィラメントの未延伸糸を得た。更に100℃の延伸ローラー上で延伸し、140℃の熱
プレート上で熱処理して巻取り、84デシテックス/12フィラメントの延伸糸を得た。
評価結果を表1に示す。
【0032】
(実施例1−2)
ポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレートに導電性カーボンブラ
ックを23重量%混合分散させた導電性ポリマーを鞘成分、ホモポリエチレンテレフタレ
ートを芯成分とし、表1に示す芯鞘複合比率になるように複合し、285℃にて、導電性
ポリマーの流路リード孔の壁面Hの粗度1.6S以下で孔径0.5mmのオリフィスから
紡出し、オイリングしながら1000m/minの速度で巻き取り、丸断面の12フィラ
メントの未延伸糸を得た。更に100℃の延伸ローラー上で延伸し、140℃の熱プレー
ト上で熱処理して巻取り、84デシテックス/12フィラメントの延伸糸を得た。評価結
果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例2−1)
イソフタル酸30mol%を共重合したポリエチレンテレフタレートに導電性カーボンブ
ラックを26重量%混合分散させたMI値が0.02の導電性ポリマーを鞘成分、MI値
2.1のポリエチレンテレフタレート(PET)を芯成分とし、表1に示す芯鞘複合比率
になるように複合し、290℃にて、孔径0.25mmのオリフィスから紡出し、オイリ
ングしながら700m/minの速度で巻き取り、丸断面の12フィラメントの未延伸糸
を得た。更に100℃の延伸ローラー上で延伸し、140℃の熱プレート上で熱処理して
巻取り、84デシテックス/12フィラメントの延伸糸を得た。評価結果を表2に示す。
【0035】
(実施例2−2)
共重合ポリエステルを表2のように変更した以外は実施例2−1と同様にした結果を表
2に示す。
【0036】
(比較例2−1)
実施例2−1における共重合ポリエステルと芯鞘比率を表1のように変更した以外は実施
例1と同様にした結果を表2に示す。比較例1の条件では糸を採取することが出来なかっ
たので表面抵抗、強度、洗濯耐久性、耐蟻酸性、は評価できず「−」と記した。
【0037】
(比較例2−2)
実施例2−1における共重合ポリエステルを表1のように変更した以外は実施例2−1と
同様にした。比較例2の条件では糸を採取することが出来なかったので表面抵抗、強度、
洗濯耐久性、耐蟻酸性、は評価できず「−」と記した。
【0038】
(実施例2−3)
実施例2−1における芯鞘比率を表2のように変更した以外は実施例2−1と同様にした
結果を表2に示す。
(比較例2−3)
【0039】
実施例2−1における芯成分を6ナイロン(6Ny)に変更し、芯鞘比率を表2のように
変更した以外は実施例1と同様にした結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の芯鞘複合型導電性繊維は、繊維断面形状において導電成分が非導電成分を完全に
封抱しており導電成分が表面全体に露出している形態であり、良好な紡糸工程および後工
程通過性を有する。更に、芯成分、鞘成分を特定のポリエステルとする事により耐薬品性
にも優れる複合導電糸を得ることが出来る。
本発明の導電性繊維は単独又は他繊維と混用して様々な用途に利用できる。例えば、無塵
衣などの特殊作業服やカーペットなどのインテリア用途などである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘型の導電性複合繊維において芯成分がエチレンテレフタレートを主体とするポリエス
テルからなり、鞘成分が構成単位の10〜90mol%がエチレンテレフタレートである
共重合ポリエステルとカーボンブラックとの混合物からなることを特徴とする芯鞘複合型
導電性繊維。
【請求項2】
鞘成分がイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸から選ばれる群よりな
る共重合成分を共重合してなるポリエステルである請求項1記載の芯鞘複合型導電性繊維

【請求項3】
鞘成分の共重合成分の共重合比率が10〜50mol%である請求項1記載の芯鞘複合型
導電性繊維。
【請求項4】
鞘成分のカーボンブラック含有量が、10〜50重量%である請求項1記載の芯鞘複合型
導電性繊維。
【請求項5】
芯鞘の複合比率が、芯成分と鞘成分の面積比率で芯:鞘=20:1〜1:2である請求項
1記載の芯鞘複合型導電性繊維。

【公開番号】特開2008−156810(P2008−156810A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30008(P2008−30008)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【分割の表示】特願2001−525021(P2001−525021)の分割
【原出願日】平成12年9月7日(2000.9.7)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】