説明

花粉脱落性織物および衣料

【課題】引裂強力に優れた花粉脱落性織物、および該花粉脱落性織物を用いてなる衣料を提供する。
【解決手段】総繊度が110dtex以下のポリエステルマルチフィラメントを用いて得られた花粉脱落性織物であって、カバーファクターCFが1300〜3000の範囲であり、かつ該織物に撥水加工が施されており、かつ織物の引裂強力が8N以上であることを特徴とする花粉脱落性織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引裂強力に優れた花粉脱落性織物、および該花粉脱落性織物を用いてなる衣料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉症に悩まされる人が多くなっており、その対策が種々検討されている。例えば、特許文献1では、織物表面を平滑にすることにより花粉の付着を防止した花粉付着防止織物が提案されている。
【0003】
しかしながら、かかる織物において、織物表面を平滑にするため細繊度繊維が用いられており、織物の引裂強力が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2003−227070号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、引裂強力に優れた花粉脱落性織物、および該花粉脱落性織物を用いてなる衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、用いる繊維の種類、織物のカバーファクターなどを最適化することにより、花粉脱落性と引裂強力とが両立することを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「総繊度が110dtex以下のポリエステルマルチフィラメントを用いて得られた花粉脱落性織物であって、下記式で表されるカバーファクターCFが1300〜3000の範囲であり、かつ該織物に撥水加工が施されており、かつ織物の引裂強力が8N以上であることを特徴とする花粉脱落性織物。」が提供される。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0007】
その際、下記花粉脱落性評価で評価した花粉脱落率が70%以上であることが好ましい。
<花粉脱落性評価>タテ10cm、ヨコ10cmの大きさに裁断したシートを、同サイズの、表面が平らなステンレス製平板に貼り付けた後、試料をビニールボックス内に配置し、1gの擬似花粉(石松子)をエアブラシにて噴霧し均一に飛散させた。飛散5分後に擬似花粉が均一に付着した試料を取り出し、デジタルカメラ顕微鏡システム(商品名:NYpixS2スーパーシステム、マイクロネット社製)で100倍に拡大し画面上の擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。次いで、シートを貼り付けた該平板を上下逆さにした状態で、高さ5cmより15gのおもりを該平板に落下させ、デジタルカメラ顕微鏡システムで擬似花粉付着数を測定した場所と同一の場所での残存擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。そして、次式で花粉脱落性(%)を求める。
花粉脱落性(%)=100−((残存擬似花粉付着数)/(擬似花粉付着数)×100)
【0008】
また、前記ポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度が2.5dtex以下であることが好ましい。また、前記撥水加工が、フッ素系撥水剤を用いた撥水加工であることが好ましい。また、織物表面にシリコン系樹脂が織物重量に対して0〜3重量%付着していることが好ましい。また、織物にカレンダー加工が施されていることが好ましい。また、織物の通気度が10cc/cm・sec以下であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の花粉脱落性織物を用いてなる衣料が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引裂強力に優れた花粉脱落性織物、および該花粉脱落性織物を用いてなる衣料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の花粉脱落性織物は、総繊度が110dtex以下(好ましくは30〜95dtex、より好ましくは60〜90dtex)のポリエステルマルチフィラメントを用いて得られた織物である。
ここで、前記ポリエステルマルチフィラメントの総繊度が110dtexよりも大きいと、織物表面の平滑性が損われ、花粉脱落性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0011】
前記ポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度としては、織物表面を平滑性にする上で2.5dtex以下(好ましくは0.00001〜2.5dtex)であることが好ましい。該単糸繊度が2.5dtexよりも大きいと、織物表面の平滑性が損われ、花粉脱落性が低下するおそれがある。
【0012】
前記ポリエステルマルチフィラメントを形成するポリマーの種類としてはポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。特に、優れた引裂強力を得る上でポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0013】
該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0014】
前記ポリエステルマルチフィラメントにおいて、単繊維の横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付扁平などいずれでもよい。また、繊維形態も特に限定されず、紡績糸、長繊維(マルチフィラメント)いずれでもよい。さらには、仮撚捲縮加工や空気加工が施されていてもさしつかえない。
【0015】
また、前記ポリエステルマルチフィラメントは芯成分に制電性ポリエステルが配された芯鞘型複合繊維であってもよい。
その際、前記制電性ポリエステルとしては、芳香族ポリエステル100重量部に対して(a)ポリオキシアルキレン系ポリエーテル0.2〜30重量部および(b)有機イオン性化合物0.05〜10重量部を含有してなる制電性ポリエステルであると、優れた制電性が得られ好ましい。
【0016】
ここで、前記芳香族ポリエステルとしては、二官能性芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体との反応により得られる重合体を対象とする。
【0017】
ここでいう二官能性芳香族カルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5―ナフタレンジカルボン酸、2,5―ナフタレンジカルボン酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルジカルボン酸、3,3′―ビフェニルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′―ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4′―ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボン酸、2,5―アントラセンジカルボン酸、2,6―アントラセンジカルボン酸、4,4′―p―フェニレンジカルボン酸、2,5―ピリジンジカルボン酸、β―ヒドロキシエトキシ安息香酸、p―オキシ安息香酸等をあげることができ、特にテレフタル酸が好ましい。
【0018】
これらの二官能性芳香族カルボン酸は2種以上併用してもよい。なお、少量であればこれらの二官能性芳香族カルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸の如き二官能性脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸の如き二官能性脂環族カルボン酸、5―ナトリウムスルホイソフタル酸等を1種または2種以上併用することができる。
【0019】
また、ジオール化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2―メチル―1,3―プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコールの如き脂肪族ジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等およびそれらの混合物等を好ましくあげることができる。また、少量であればこれらのジオール化合物と共に両末端または片末端が未封鎖のポリオキシアルキレングリコールを共重合することができる。
【0020】
更に、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸の如きポリカルボン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールの如きポリオールを使用することができる。
【0021】
具体的な好ましい芳香族ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン―1,2―ビス(フェノキシ)エタン―4,4′―ジカルボキシレート等のほか、ポリエチレンイソフタレート・テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート・デカンジカルボキシレート等のような共重合ポリエステルをあげることができる。なかでも機械的性質、成形性等のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0022】
かかる芳香族ポリエステルは任意の方法によって合成される。例えばポリエチレンテレフタレートついて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかして、テレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段反応、次いでその生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段の反応とによって容易に製造される。
【0023】
次に、(a)ポリオキシアルキレン系ポリエーテルとしては、ポリエステルに実質的に不溶性のものであれば、単一のオキシアルキレン単位からなるポリオキシアルキレングリコールであっても、二種以上のオキシアルキレン単位からなる共重合ポリオキシアルキレングリコールであってもよい。かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテルの具体例としては、分子量が4000以上のポリオキシエチレングリコール、分子量が1000以上のポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、分子量が2000以上のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド共重合体、分子量4000以上のトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物、分子量3000以上のノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、並びにこれらの末端OH基に炭素数が6以上の置換エチレンオキサイドが付加した化合物があげられ、なかでも分子量が10000〜100000のポリオキシエチレングコール、及び分子量が5000〜16000の、ポリオキシエチレングリコールの両末端に炭素数が8〜40のアルキル基置換エチレンオキサイドが付加した化合物が好ましい。
【0024】
かかるポリオキシアルキレン系ポリエーテル化合物の配合量は、前記芳香族ポリエステル100重量部に対して0.2〜30重量部の範囲であることが好ましい。0.2重量部より少ないときは親水性が不足して充分な制電性を呈することができないおそれがある。一方30重量部より多くしても最早制電性の向上効果は認められず、かえって得られる組成物の機械的性質を損うようになる上、該ポリエーテルがブリードアウトし易くなるため溶融成形時チップのルーダーへのかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになるおそれがある。
【0025】
次に、(b)有機イオン性化合物としては、例えば下記一般式(I)、(II)で示されるスルホン酸金属塩及びスルホン酸第4級ホスホニウム塩を好ましいものとしてあげることができる。
RSOM (I)
【0026】
式中、Rは炭素原子数3〜30のアルキル基又は炭素原子数7〜40のアリール基、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示す。上記式(I)においてRがアルキル基のときはアルキル基は直鎖状であっても又は分岐した側鎖を有していてもよい。MはNa、K、Li等のアルカリ金属又はMg、Ca等のアルカリ土類金属であり、なかでもLi、Na、Kが好ましい。かかるスルホン酸金属塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としてはステアリルスルホン酸ナトリウム、オクチルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム混合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
RSOPR (II)
【0027】
式中、Rは上記式(I)におけるRの定義と同じであり、R1 、R2 、R3 及びR4 はアルキル基又はアリール基でなかでも低級アルキル基、フェニル基又はベンジル基が好ましい。かかるスルホン酸第4級ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても2種以上を混合して使用してもよい。好ましい具体例としては炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸テトラフェニルホスホニウム、炭素原子数の平均が14であるアルキルスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)、ドデシルベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム(ハード型、ソフト型)等をあげることができる。
【0028】
かかる有機のイオン性化合物は1種でも、2種以上併用してもよく、その配合量は、芳香族ポリエステル100重量部に対して0.05〜10重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では制電性向上の効果が小さく、10重量部を越えると組成物の機械的性質を損なうようになる上、該イオン性化合物もブリードアウトし易くなるため、溶融成形時のチップのルーダーかみこみ性が低下して、成形安定性も悪化するようになる。
【0029】
前記芯鞘型複合繊維の鞘成分としては、前記の芳香族ポリエステルが好適である。該芳香族ポリエステルに艶消し剤を含ませる場合は、ポリエステル重量に対して10wt%以下とするのが好ましい。艶消し剤が10wt%を超えると芯鞘型複合繊維の紡糸性が悪化するおそれがある。なお、前記芯鞘型複合繊維の芯成分および/または鞘成分には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて着色防止剤、熱安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、着色剤抗菌剤、マイナスイオン発生剤等を添加してもよい。
【0030】
さらに、前記芯成分と鞘成分との面積比は(芯成分:鞘成分)10:90〜65:35の範囲にすることが好ましい。芯成分の面積比が10:90より小さい場合には芯成分による制電性能の発現が不十分になり、65:35よりも大きくなる場合は、10%以上のアルカリ減量を施した場合に、部分的に芯部の制電性ポリエステルが溶出し、制電性能が低下するおそれがある。
【0031】
本発明の花粉脱落性織物は前記のポリエステルマルチフィラメントを用いて得られた織物である。
織物を製織する際、前記のポリエステルマルチフィラメントだけを用いて織物を製織することが最も好ましいが、織物重量に対して50重量%以下であれば、他の繊維が含まれていてもよい。
【0032】
また、織物の織組織は特に限定されず、例えば、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも、織物表面を平滑にする上で平織が最も好ましい。また、製織方法も通常の織機(例えば、通常のウオータージェットルームやエアージェットルーム)を用いた通常の製織方法でよい。
【0033】
本発明の花粉脱落性織物は、かかる織物に撥水加工を施したものである。ここで、撥水加工としては通常のものでよい。例えば、特許第3133227号公報や特公平4−5786号公報に記載された方法が好適である。すなわち、撥水剤として市販のふっ素系撥水剤(例えば、旭硝子(株)製、アサヒガードLS−317)を使用し、必要に応じてメラミン樹脂、触媒を混合して撥水剤の濃度が3〜15重量%程度の加工剤とし、ピックアップ率50〜90%程度で、該加工剤を用いて織物の表面を処理する方法である。加工剤で織物の表面を処理する方法としては、パッド法、スプレー法などが例示され、なかでも、加工剤を織物内部まで浸透させる上でパッド法が最も好ましい。なお、前記ピックアップ率とは、加工剤の織物(加工剤付与前)重量に対する重量割合(%)である。
【0034】
また、本発明の目的が損なわれない範囲内であれば、撥水加工の前または後において、常法のアルカリ減量加工、染色仕上げ加工、起毛加工、紫外線遮蔽あるいは抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0035】
特に、シリコン系樹脂を織物に付与すると織物の引裂強力が向上し好ましい。ただし、シリコン系樹脂の付着量が多すぎると、花粉脱落率が低下するので、シリコン系樹脂の付着量としては、織物重量に対して0〜3重量%(好ましくは0.5〜2.5重量%)であることが好ましい。
【0036】
また、織物表面を平滑にする上で、織物にカレンダー加工を施すことは好ましいことである。その際、カレンダー加工の条件としては、温度130℃以上(より好ましくは140〜195℃)、線圧200〜20000N/cmの範囲内であることが好ましい。
【0037】
かくして得られた織物において、下記式で表されるカバーファクターCFが1300〜3000の範囲であることが肝要である。該カバーファクターCFが1300よりも小さいと花粉が織物の空隙に入り込んで花粉脱落性が低下するおそれがある。逆に、該カバーファクターCFが3000よりも大きいと織物の引裂強力が低下するおそれがある。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である
【0038】
かくして得られた織物は花粉脱落性に優れる。その際、下記花粉脱落性評価で評価した花粉脱落率が70%以上であることが好ましい。なお、かかる花粉脱落率はなお、前記のポリエステルマルチフィラメントを用い、かつ前記のカバーファクターCFを採用し、撥水加工を施すことにより得られる。
【0039】
<花粉脱落性評価>タテ10cm、ヨコ10cmの大きさに裁断したシートを、同サイズの、表面が平らなステンレス製平板に貼り付けた後、試料をビニールボックス内に配置し、1gの擬似花粉(石松子)をエアブラシにて噴霧し均一に飛散させた。飛散5分後に擬似花粉が均一に付着した試料を取り出し、デジタルカメラ顕微鏡システム(商品名:NYpixS2スーパーシステム、マイクロネット社製)で100倍に拡大し画面上の擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。次いで、シートを貼り付けた該平板を上下逆さにした状態で、高さ5cmより15gのおもりを該平板に落下させ、デジタルカメラ顕微鏡システムで擬似花粉付着数を測定した場所と同一の場所での残存擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。そして、次式で花粉脱落性(%)を求める。
花粉脱落性(%)=100−((残存擬似花粉付着数)/(擬似花粉付着数)×100)
【0040】
また、前記織物は引裂強力に優れる。かかる引裂強力としては織物の経方向および緯方向のうち少なくともどちらか一方において(好ましくは両方向において)、織物の引裂強力が8N以上(好ましくは8〜20N)であることが好ましい。なお、かかる引裂強力は、前記のポリエステルマルチフィラメントを用い、かつ前記のカバーファクターCFを採用し、必要に応じてシリコン系樹脂を織物に付与することにより得られる。
【0041】
次に、本発明の衣料は前記の花粉脱落性織物を用いてなる衣料である。かかる衣料は前記の花粉脱落性織物を用いているので、優れた引裂強力と花粉脱落性とを有する。
なお、前記花粉脱落性織物は衣料だけでなく、ふとんカバー、ふとん干しカバー、手袋、帽子などの用途にも好適に用いられる。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0043】
(1)捲縮率
仮撚加工糸サンプルに0.044cN/dtexの張力を掛けてカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作成した。該カセの一端に、0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS0(cm)を測定した。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後0.0177cN/dtexの荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥し、再び0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さを測定しS1(cm)とした。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さを測定しS2とし、次の算式で捲縮率を算出し、10回の測定値の平均値で表した。
捲縮率(%)=[(S1−S2)/S0]×100
【0044】
(2)通気度
JIS L1096−8.27.1A法により測定した。
【0045】
(3)カバーファクターCF
下記式によりカバーファクターCFを算出した。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0046】
(4)引裂強力
JIS1096 D法により、織物の経方向と緯方向について引裂強力を測定した。
【0047】
(5)花粉脱落性評価
下記の方法により花粉脱落性を評価した。50%以上を合格とする。
まず、タテ10cm、ヨコ10cmの大きさに裁断したシートを、同サイズの、表面が平らなステンレス製平板に貼り付けた後、試料をビニールボックス内に配置し、1gの擬似花粉(石松子)をエアブラシにて噴霧し均一に飛散させた。飛散5分後に擬似花粉が均一に付着した試料を取り出し、デジタルカメラ顕微鏡システム(商品名:NYpixS2スーパーシステム、マイクロネット社製)で100倍に拡大し画面上の擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。次いで、シートを貼り付けた該平板を上下逆さにした状態で、高さ5cmより15gのおもりを該平板に落下させ、デジタルカメラ顕微鏡システムで擬似花粉付着数を測定した場所と同一の場所での残存擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。そして、次式で花粉脱落性(%)を求める。
花粉脱落性(%)=100−((残存擬似花粉付着数)/(擬似花粉付着数)×100)
【0048】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートを用いて通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2800m/分の速度で引取り、延伸することなく巻取り、半延伸されたポリエステル糸条140dtex/72filを得た。
次いで、該ポリエステル糸条を用いて、延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(S方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行った。また、前記ポリエステル糸条を用いて延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(Z方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行い、ポリエステル仮撚加工糸84dtex/72fil(捲縮率16%)を得た。
次いで、該ポリエステル仮撚加工糸(ポリエステルマルチフィラメント)を経糸および緯糸に配して、通常のウォータージェットルーム織機を使用して平組織の織物を織成した。そして、該織物に通常の染色仕上げ加工を行い、撥水加工(シリコン系樹脂使用せず)したあとでファイナルセットを施し、カレンダー加工を行った。その際、撥水加工は下記の加工剤を使用し、ピックアップ率70%で搾液し、130℃で3分間乾燥後170℃で45秒間熱処理を行った。また、カレンダー加工は、ロール温度160℃の条件でカレンダー加工を行った。
<加工剤組成>
・ふっ素系撥水剤 10.0wt%
(旭硝子(株)製、アサヒガードLS−317)
・メラミン樹脂 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスレジンM−3)
・触媒 0.3wt%
(住友化学(株)製、スミテックスアクセレレータACX)
・水 89.4wt%
得られた織物は、カバーファクターCFが2060で、引裂強力が経9.0N、緯9.5N、通気度は3cc/cm・secであった。この織物の花粉脱落性は95%と大変優れたものであった。
【0049】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレートを用いて通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2800m/分の速度で引取り、延伸することなく巻取り、半延伸されたポリエステル糸条90dtex/72filを得た。
次いで、該ポリエステル糸条を用いて、延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(S方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行った。また、前記ポリエステル糸条を用いて延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(Z方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行い、ポリエステル仮撚加工糸56dtex/72filを得た。
次いで、該ポリエステル仮撚加工糸を経糸および緯糸に配して、通常のウォータージェットルーム織機を使用して平組織の織物を織成した。そして、該織物に通常の染色仕上げ加工を行った。
次いで、加工剤に柔軟剤(シリコン系樹脂、日華化学製ドライポン600)を含有させること以外が実施例1と同様に、撥水加工(シリコン系樹脂使用せず)したあとでファイナルセットを施し、カレンダー加工を行った。その際、前記柔軟剤を織物重量に対して2重量%付着させた。
得られた織物は、カバーファクターCFが2070で、引裂強力が経11.0N、緯10.5N、通気度は2cc/cm・secであった。この織物の花粉脱落性は98%と大変優れたものであった。
【0050】
[比較例1]
実施例2において、撥水加工の際に柔軟剤を使用しないこと以外は実施例2と同様に実施した。
得られた織物は、カバーファクターCFが2070で、引裂強力が経5.6N、緯6.7N、通気度は2cc/cm・secであった。
この織物の花粉脱落性は98%と大変優れたものであったが、引裂強力が低く衣料品として使用できないものであった。
【0051】
[実施例3]
実施例2において、撥水加工の際に柔軟剤を織物重量に対して4wt%付着させたこと以外は実施例2と同様に実施した。
得られた織物は、カバーファクターCFが2070で、引裂強力が経15.6N、緯14.3N、通気度は2cc/cm・secであった。また、この織物の花粉脱落性は54%と実施例2よりも劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、引裂強力に優れた花粉脱落性織物、および該花粉脱落性織物を用いてなる衣料が得られ、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が110dtex以下のポリエステルマルチフィラメントを用いて得られた花粉脱落性織物であって、下記式で表されるカバーファクターCFが1300〜3000の範囲であり、かつ該織物に撥水加工が施されており、かつ織物の引裂強力が8N以上であることを特徴とする花粉脱落性織物。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項2】
下記花粉脱落性評価で評価した花粉脱落率が70%以上である、請求項1に記載の花粉脱落性織物。
<花粉脱落性評価>タテ10cm、ヨコ10cmの大きさに裁断したシートを、同サイズの、表面が平らなステンレス製平板に貼り付けた後、試料をビニールボックス内に配置し、1gの擬似花粉(石松子)をエアブラシにて噴霧し均一に飛散させた。飛散5分後に擬似花粉が均一に付着した試料を取り出し、デジタルカメラ顕微鏡システム(商品名:NYpixS2スーパーシステム、マイクロネット社製)で100倍に拡大し画面上の擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。次いで、シートを貼り付けた該平板を上下逆さにした状態で、高さ5cmより15gのおもりを該平板に落下させ、デジタルカメラ顕微鏡システムで擬似花粉付着数を測定した場所と同一の場所での残存擬似花粉付着数(n数=3)をカウントする。そして、次式で花粉脱落性(%)を求める。
花粉脱落性(%)=100−((残存擬似花粉付着数)/(擬似花粉付着数)×100)
【請求項3】
前記ポリエステルマルチフィラメントの単糸繊度が2.5dtex以下である、請求項1または請求項2に記載の花粉脱落性織物。
【請求項4】
前記撥水加工が、フッ素系撥水剤を用いた撥水加工である、請求項1〜3のいずれかに記載の花粉脱落性織物。
【請求項5】
織物表面にシリコン系樹脂が織物重量に対して0〜3重量%付着している、請求項1〜4のいずれかに記載の花粉脱落性織物。
【請求項6】
織物にカレンダー加工が施されている、請求項1〜5のいずれかに記載の花粉脱落性織物。
【請求項7】
織物の通気度が10cc/cm・sec以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の花粉脱落性織物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の花粉脱落性織物を用いてなる衣料。

【公開番号】特開2010−138502(P2010−138502A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313236(P2008−313236)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】