説明

花粉荷を含有する抗ヒスタミン剤

【課題】医薬品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能である花粉荷を有効成分として含有する抗ヒスタミン剤を提供する。
【解決手段】花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗ヒスタミン剤であって、例えばI型アレルギー疾患の治療又は予防剤として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗ヒスタミン剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、花粉荷は、蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得て、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、良質なタンパク質、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる事から「パーフェクトフード」とも呼ばれている。花粉荷は、採集器等により蜜蜂から容易に回収され、主に栄養補助食品等として摂取されている。
【0003】
従来より、花粉荷は、いくつかの薬理効果を有することが知られている。花粉荷の薬理効果を利用した発明として、例えば特許文献1,2に開示される組成物が知られている。特許文献1は、花粉荷を有効成分として含有する骨量増進組成物について開示する。特許文献2は、花粉荷を有効成分として含有する糖尿病性疾患の予防・治療用組成物について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−016014号公報
【特許文献2】特開2008−105982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、免疫反応が特定の抗原に対して過剰に起こる疾患としてアレルギー疾患が知られている。この中でも、生理活性物質としてヒスタミンを介するアレルギー疾患としてI型アレルギーが知られている。I型アレルギーは、即時型過敏症とも呼ばれ、代表的な疾患として、例えば気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、並びに蜂毒、食物及び薬物等が原因で生ずるアナフィラキシーショックが知られている。I型アレルギーは、まず免疫グロブリンであるIgEがマスト細胞(肥満細胞)や好塩基球に結合し、そこに抗原が結合すると細胞内に顆粒として貯蔵されるヒスタミンが細胞外に放出されることによって生ずる。従来よりI型アレルギーの治療薬として種々の第一世代及び第二世代抗ヒスタミン薬が知られている。しかしながら、それらのいずれも副作用の問題があり、投与に慎重を要する場合があった。
【0006】
本発明者らは、上述した花粉荷の新たな生理作用を模索した結果、花粉荷にマスト細胞や好塩基球からのヒスタミンの遊離を抑制する作用を有することを発見するに至った。
本発明の目的とするところは、医薬品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能である花粉荷を有効成分として含有する抗ヒスタミン剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の抗ヒスタミン剤は、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の抗ヒスタミン剤において、I型アレルギー疾患の治療又は予防剤として用いられることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の抗ヒスタミン剤において、前記溶媒は、水、親水性有機溶媒、及び水/親水性有機溶媒の混合液から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、医薬品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能である花粉荷を有効成分として含有する抗ヒスタミン剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ラット腹腔内マスト細胞からのヒスタミン遊離抑制効果を示す図。(a)花粉荷エタノール抽出エキス(花粉荷エタノール抽出物)を各量(図中において固形分濃度%を示す。以下同じ)添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(b)花粉荷エタノール抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。(c)花粉荷水抽出エキス(花粉荷水抽出物)を各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(d)花粉荷水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。(e)甜茶水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(f)甜茶水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。
【図2】ラット好塩基球性白血病細胞からのカルシウムイオノホアによるヒスタミン遊離の抑制効果を示す図。(a)花粉荷エタノール抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(b)花粉荷水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(c)花粉荷水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。(d)甜茶水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(e)甜茶水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。
【図3】ラット好塩基球性白血病細胞からのコンカナバリンA(ConA)及びホスファチジルセリン(PS)によるヒスタミン遊離の抑制効果を示す図。(a)花粉荷エタノール抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(b)花粉荷エタノール抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。(c)花粉荷水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(d)花粉荷水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。(e)甜茶水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離量を示す図。(f)甜茶水抽出エキスを各量添加した場合のヒスタミン遊離抑制率を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の抗ヒスタミン剤を具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態の抗ヒスタミン剤は、花粉荷又は花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として含有する。花粉荷は、上述したように蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得て、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる。花粉荷の原産地は、特に限定されず、例えば日本、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、及びアメリカ等のいずれであってもよい。また、花粉荷の原料となる花粉の起源植物としては、特に限定されず、蜜蜂が採取したものであればいずれも使用することができる。花粉の起源植物としては、例えば、ハンニチバナ科、ツツジ科、シソ科、ムラサキ科、ブナ科、キク科、モクセイ科、アブラナ科、マメ科、バラ科、及びヤナギ科が挙げられる。これらの中で、ハンニチバナ科、及びアブラナ科が入手容易性の観点から好ましい。ハンニチバナ科としては、例えばシスタス属ジャラが挙げられる。アブラナ科としては、例えばアブラナ属ナタネ、及びダイコン属ダイコンが挙げられる。花粉荷の採集方法としては、特に限定されず公知の方法を適宜採用することができる。例えば、巣箱の出入り口に取り付けられ、格子状の剥取多孔板を備えてなる花粉採集器を用いる方法、巣板又は蜜蜂に付着した花粉荷を直接採集する方法等が挙げられる。
【0012】
本実施形態において、有効成分として花粉荷自体の他、花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として使用してもよい。抽出処理に使用される溶媒としては、例えば水、親水性有機溶媒、及び水/親水性有機溶媒の混合液が挙げられる。親水性有機溶媒としては、水に溶解する性質を有するエタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコールのほか、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類を適宜選択して使用することができる。これらの親水性有機溶媒を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これら溶媒の中でも、抽出物の抗ヒスタミン遊離作用がより優れる水又はエタノールを好ましく適用することができる。
【0013】
抽出溶媒として例えば水が使用される場合、溶媒の花粉荷に対する添加量は、抽出効率の点から、花粉荷1質量部に対して1〜10質量部が好ましく、4〜8質量部がより好ましく、5〜6質量部が最も好ましい。これらの抽出溶媒は、花粉荷とともに混合及び撹拌される。抽出温度は溶媒の種類等により適宜設定されるが、有効成分の抽出効率の観点から30〜60℃であることが好ましい。抽出温度が30℃未満の場合には、溶解成分と不溶性成分の分離効率が低下するため好ましくない。逆に抽出温度が60℃を超える場合には、抽出成分の変性を招くおそれがある。抽出の時間は、抽出温度等により適宜設定されるが、例えば4〜48時間程度が好ましく、5〜20時間程度がより好ましい。得られた抽出物は、水に可溶性の画分と沈殿物からなる不溶性の画分から構成される。これらの可溶性画分と不溶性画分は、公知の方法、例えば濾過処理、及び遠心分離を用いることにより、容易に分離することができる。このうち可溶性画分を溶媒抽出物として使用することができる。
【0014】
抽出溶媒として例えばエタノールが使用される場合、溶媒の花粉荷に対する添加量は、抽出効率の点から、花粉荷1質量部に対して1〜10質量部が好ましく、4〜8質量部がより好ましく、5〜6質量部が最も好ましい。これらの抽出溶媒は、花粉荷とともに混合及び撹拌される。抽出温度は溶媒の種類等により適宜設定されるが、有効成分の抽出効率の観点から10〜40℃であることが好ましい。抽出温度が10℃未満の場合には、溶解成分と不溶性成分の分離効率が低下するため好ましくない。逆に抽出温度が40℃を超える場合には、抽出溶媒が蒸発するため抽出効率の低下を招くおそれがある。抽出の時間は、抽出温度等により適宜設定されるが、例えば4〜48時間程度が好ましく、5〜20時間程度がより好ましい。得られた抽出物は、エタノール溶媒に可溶性の画分と沈殿物からなる不溶性の画分から構成される。これらの可溶性画分と不溶性画分は、公知の方法、例えば濾過処理、及び遠心分離を用いることにより、容易に分離することができる。このうち可溶性画分を溶媒抽出物として使用することができる。
【0015】
本実施形態の抗ヒスタミン剤は、マスト細胞(肥満細胞)や好塩基球からのヒスタミンの遊離を阻害する作用を有する。したがって、マスト細胞や好塩基球からのヒスタミンの遊離により生じる各種疾患の治療剤又は予防剤として適用することができる。ヒスタミンは、生体に対し、例えば血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、及び腺分泌促進等の薬理作用を有する。ヒスタミンは通常マスト細胞や好塩基球等の細胞内に顆粒として貯蔵されるが、免疫グロブリンであるIgEがマスト細胞や好塩基球に結合し、そこに抗原が結合すると細胞内に顆粒として貯蔵されるヒスタミンが細胞外に放出される。マスト細胞や好塩基球からのヒスタミンの遊離が関連(介在)する疾患として例えばI型アレルギーや炎症反応が挙げられる。I型アレルギーは、即時型過敏症とも呼ばれ、ヒスタミンが過剰に分泌された場合、平滑筋、血管内皮細胞及び中枢神経等の組織において発現するヒスタミン1型受容体に結合し、その後血圧降下や平滑筋収縮等の生理作用を介した喘息発作や浮腫発赤等の症状を生じさせる。I型アレルギーの代表的な疾患として、気管支喘息、蕁麻疹、PIE症候群、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、並びに蜂毒、食物及び薬物等が原因で生ずるアナフィラキシーショック(薬物過敏症)が知られている。本実施形態の抗ヒスタミン剤により、これらの症状の緩和が期待される。したがって、本実施形態の抗ヒスタミン剤は、I型アレルギーの治療、症状の軽減又は発症抑制を得ることを目的とした治療剤又は予防剤として好ましく適用することができる。
【0016】
本実施形態の抗ヒスタミン剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした医薬品、研究用試薬、化粧品及び飲食品等として適用することができる。
本実施形態の抗ヒスタミン剤を医薬品として使用する場合は、目的等に応じ公知の投与方法を適宜採用することができる。例えば、患部への塗布、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、抗ヒスタミン剤の目的等に応じ公知の剤形を適宜採用することができる。例えば、軟膏、液剤、スプレー剤、シート剤、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0017】
本実施形態の抗ヒスタミン剤をマスト細胞や好塩基球からのヒスタミン遊離抑制試薬の形態で実験用・研究用試薬として適用してもよい。上記ヒスタミンの遊離が関係する生理作用のメカニズムの解明又は各種症状の治療法等の研究・開発等の分野において好適に用いられる。
【0018】
本実施形態の抗ヒスタミン剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状等のいずれであってもよい。このような化粧品を肌に適用することにより、ヒスタミンを介する炎症の抑制作用等の効果を得ることができる。化粧品基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0019】
本実施形態の抗ヒスタミン剤を飲食品に適用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状等のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0020】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態において、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物は、高い抗ヒスタミン作用を有している。したがって、抗ヒスタミン剤として抗ヒスタミン作用を目的とした医薬品、研究用試薬、化粧品、及び飲食品に好ましく適用することができる。
【0021】
(2)本実施形態の抗ヒスタミン剤は、好ましくはI型アレルギー疾患の治療又は予防剤として用いられる。I型アレルギーは、マスト細胞や抗塩基球からのヒスタミンの遊離を介するアレルギーである。したがって、本実施形態の抗ヒスタミン剤は、I型アレルギーの代表的な症状である気管支喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、並びに蜂毒、食物及び薬物等が原因で生ずるアナフィラキシーショック等に対し、治療剤又は予防剤として好ましく適用することができる。
【0022】
(3)本実施形態の抗ヒスタミン剤において、花粉荷の溶媒抽出物を得るために用いられる溶媒は、好ましくは水、親水性有機溶媒、又は水/親水性有機溶媒の混合液である。したがって、有効成分として花粉荷自体を用いるよりも不純物の含有量が少ないため、より効果の高い抗ヒスタミン作用を発揮することができる。
【0023】
(4)本実施形態では、抗ヒスタミン剤の有効成分として、天然素材である花粉荷又はその溶媒抽出物が用いられる。したがって、副作用を生ずるおそれがなく、安全に各種用途に適用することができる。
【0024】
(5)本実施形態の抗ヒスタミン剤は、有効成分として花粉荷が含有される場合、花粉荷には、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる事から、摂取により各種栄養成分の補給も行うことができる。
【0025】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の抗ヒスタミン剤は、ヒトに適用される医薬品、化粧品及び飲食品のみならず、家畜等の飼養動物に対する医薬品等に適用してもよい。
【0026】
・上記実施形態の抗ヒスタミン剤は、マスト細胞や抗塩基球からのヒスタミンの遊離が関係する疾患の症状の治療又は症状の軽減の為の用途のみならず、その疾患の症状の発症予防のために適用してもよい。
【実施例】
【0027】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(製造例1)
半径数キロ以内の周辺植物としてシスタス属ジャラ等が存在するセイヨウミツバチの巣箱から花粉荷を得た。その花粉荷100gに、抽出溶媒としてのエタノール600gを加えて室温で4時間攪拌して抽出した。そして、前記花粉荷の攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、エタノールに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、抽出液30g(固形分4質量%)を得た。これを製造例1における花粉荷エタノール抽出エキス(花粉荷エタノール抽出物)とした。
【0028】
(製造例2)
半径数キロ以内の周辺植物としてシスタス属ジャラ等が存在するセイヨウミツバチの巣箱から花粉荷を得た。その花粉荷100gに、抽出溶媒としての水600gを加えて60℃で6時間攪拌して抽出した。そして、前記花粉荷の攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、水に不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、抽出液50g(固形分7.5質量%)を得た。これを製造例2の花粉荷水抽出エキス(花粉荷水抽出物)とした。
【0029】
(試験例1:マスト細胞からのヒスタミン遊離抑制試験)
花粉荷の生理活性作用の一つである抗ヒスタミン作用について、ラット腹腔内マスト細胞を用い、ヒスタミン遊離抑制作用を測定した。試料として上記製造例1,2の各花粉荷溶媒抽出エキスを使用した。陽性対象として甜茶水抽出エキス(松浦薬業社製、固形分100%)を使用した。各試料は、固形分濃度が図1に記載の各量になるようリン酸緩衝生理食塩液で希釈した。
【0030】
被験動物として、Wistar系雄ラットを用いた。ラットをエーテル過麻酔致死させた後、腹腔内にリン酸緩衝生理食塩液(Dulbecco's Phosphate Buffered Saline:D−PBS(+)、ナカライテスク社製)20mLを注入し、腹腔内液を回収した。回収液を、1200rpm、4℃、5分間遠心分離し、上清を除去した。さらに、リン酸緩衝生理食塩液(D−PBS(−)、カルシウム及びマグネシウム不含、ナカライテスク社製)5mLを加えた細胞浮遊液を、1200rpm、4℃、5分間遠心分離して上清を除去することを2回繰り返して、均一な細胞浮遊液を作成した。血球計算盤で細胞数を測定し、4×10cell/mLに調整したものをマスト細胞浮遊液とした。
【0031】
まず、15mL容のプラスチック製チューブにマスト細胞浮遊液を2.5mL分注し、固形分濃度が上記所定量となるように調製した各試料を0.5mLを加えた後、37℃のウォーターバスで5分間前培養した。脱顆粒誘発剤として、Compound48/80(シグマアルドリッチジャパン社製)0.5mL(10μg/mL)を添加した後、37℃のウォーターバスで10分間培養した。5分間、氷水中で反応を停止した。1200rpm、4℃、5分間遠心分離してマスト細胞を除去し、上清を回収して、遊離ヒスタミン量を測定した。ヒスタミンの分析は、市販のヒスタミン測定キット(チェックカラーヒスタミン、キッコーマン社製)を用いて行った。ヒスタミン遊離抑制率は、下記の計算式から算出した。
【0032】
ヒスタミン遊離抑制率(%)=[(a−c)−(b−c)]/(a−c)×100
aは脱顆粒誘発剤を加えたマスト細胞浮遊液上清中のヒスタミン量を示す(エキス0%)。bは脱顆粒誘発剤、及び花粉荷溶媒抽出エキス又は甜茶水抽出エキスを加えたマスト細胞浮遊液上清中のヒスタミン量を示す。cはマスト細胞浮遊液上清中のヒスタミン量を示す(ベースライン)。遊離したヒスタミン量及びヒスタミン遊離抑制率の結果を図1に示す。また、検量線を作成し、ヒスタミン遊離の80%阻害濃度(抽出エキスの固形分濃度)を算出した。この結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

図1に示されるように、花粉荷のエタノール抽出エキス及び水抽出エキス共に、ラット腹腔内マスト細胞からのヒスタミン遊離を濃度依存的に抑制することが確認された。表1に示されるように、マスト細胞からのヒスタミン遊離を抑制する作用は、花粉荷の水抽出エキスよりエタノール抽出エキスの方が高いことが確認される。
【0034】
(試験例2:ラット好塩基球性白血病細胞からのヒスタミン遊離抑制試験)
花粉荷の生理活性作用の一つである抗ヒスタミン作用について、ラット好塩基球性白血病細胞を用い、ヒスタミン遊離抑制作用を測定した。試料として上記製造例1,2の各花粉荷溶媒抽出エキスを使用した。陽性対象として甜茶水抽出エキス(松浦薬業社製、固形分100%)を使用した。各試料は、固形分濃度が図1に記載の各量になるようリン酸緩衝生理食塩液で希釈した。
【0035】
ラット好塩基球性白血病細胞として、RBL−2H3細胞を、10%非動化牛胎児血清(シグマアルドリッチジャパン社製)、ペニシリン(100U/mL、ナカライテスク社製)及びストレプトマイシン(0.1mg/mL、ナカライテスク社製)含有のダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle’s medium:D−MEM、シグマアルドリッチジャパン社製)にて5%CO、37℃の条件下で前培養を行った。前培養終了後、0.25%トリプシン−1mMのEDTA溶液(ナカライテスク社製)を用いて細胞を剥がした。1000rpm、4℃、5分間遠心分離して細胞を集めた。血球計算盤で細胞数を測定し、4×10cell/mLに調整したものをRBL−2H3細胞浮遊液とした。
【0036】
まず、24ウェルの培養プレートに、RBL−2H3細胞浮遊液を500μL(2×10cell/ウェル)播種し、5%CO、37℃の条件下で12時間培養した。培養終了後、培地を除去し、PBS(−)で各ウェルを洗浄した。L−glutamine及びPhenol Red不含のD−MEM培地(シグマアルドリッチジャパン社製)を各ウェルに400μL添加後、固形分濃度が上記所定量となるように調製した各試料を50μLを添加して、5%CO、37℃の条件下で30分間培養した。異なる作用機序を想定して脱顆粒誘発剤として、カルシウムイオノホア(A23187、和光純薬社製)と、IgE受容体のアゴニストであるコンカナバリンA(ConA、和光純薬社製)及びホスファチジルセリン(PS、フナコシ社製)の組み合わせの2種類を用いた。A23187では、各ウェルに50μL(10μg/mL)添加した後、5%CO、37℃の条件下で30分間培養した。ConA(2mg/mL)及びPS(0.5mg/mL)では、各ウェルに25μLずつ添加した後、5%CO、37℃の条件下で60分間培養した。各ウェルの培養上清を回収し、1000rpm、4℃、5分間遠心分離してRBL−2H3細胞を除去した後、遊離ヒスタミン量を測定した。
【0037】
ヒスタミンの分析は、市販のヒスタミン測定キット(チェックカラーヒスタミン、キッコーマン社製)を用いて行った。ヒスタミン遊離抑制率は、下記計算式から算出した。
ヒスタミン遊離抑制率(%)=(a−b)/a×100
aは脱顆粒誘発剤を加えた培養上清中のヒスタミン量を示す(エキス0%)。bは脱顆粒誘発剤、及び花粉荷溶媒抽出エキス又は甜茶水抽出エキスを加えた培養上清中のヒスタミン量を示す。遊離したヒスタミン量及びヒスタミン遊離抑制率の結果を図2,3に示す。ラット好塩基球性白血病細胞からのカルシウムイオノホアによるヒスタミン遊離の抑制効果の結果を図2に示す。ラット好塩基球性白血病細胞からのコンカナバリンA(ConA)及びホスファチジルセリン(PS)によるヒスタミン遊離の抑制効果の結果を図3に示す。また、検量線を作成し、ヒスタミン遊離の80%阻害濃度(抽出エキスの固形分濃度)を算出した。この結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

脱顆粒誘発剤としてA23187を用いた場合、花粉荷水抽出エキスにRBL−2H3細胞からのヒスタミン遊離を濃度依存的に抑制する効果が確認された。一方、花粉荷エタノール抽出エキスには、ヒスタミン遊離の抑制効果は確認されなかった。脱顆粒誘発剤としてConA及びPSの組み合わせを用いた場合、花粉荷のエタノール抽出エキス及び水抽出エキス共に、RBL−2H3細胞からのヒスタミン遊離の抑制効果が確認された。以上の結果より、花粉荷のエタノール抽出エキスは、細胞膜を安定化させることによりヒスタミン遊離を阻害している可能性が示唆される。一方、花粉荷の水抽出エキスは、カルシウム流入工程以降のシグナル伝達系を阻害している可能性が示唆される。
【0039】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)前記抗ヒスタミン剤を含有する医薬品、研究用試薬、化粧品、及び飲食品。
【0040】
(b)前記親水性有機溶媒は、エタノールである前記抗ヒスタミン剤。
(c)花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とするマスト細胞又は好塩基球における脱顆粒抑制剤又はヒスタミン遊離抑制剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗ヒスタミン剤。
【請求項2】
前記抗ヒスタミン剤は、I型アレルギー疾患の治療又は予防剤として用いられることを特徴とする請求項1に記載の抗ヒスタミン剤。
【請求項3】
前記溶媒は、水、親水性有機溶媒、及び水/親水性有機溶媒の混合液から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の抗ヒスタミン剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−235524(P2010−235524A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85864(P2009−85864)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】