説明

花粉荷を含有する育毛剤

【課題】飲食品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能である花粉荷を有効成分として含有する育毛剤を提供する。
【解決手段】花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする育毛剤であって、該育毛剤は、例えば経口育毛剤又は塗布用育毛剤として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする育毛剤に関し、より詳しくは飲食品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能である育毛剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
一般に、花粉荷は、蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得て、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、良質なタンパク質、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる事から「パーフェクトフード」とも呼ばれている。花粉荷は、採集器等により蜜蜂から容易に回収され、主に栄養補助食品等として摂取されている。
【0003】
従来より、花粉荷は、いくつかの薬理効果を有することが知られている。花粉荷の薬理効果を利用した発明として、例えば特許文献1,2に開示される組成物が知られている。特許文献1は、花粉荷を有効成分として含有する骨量増進組成物について開示する。特許文献2は、花粉荷を有効成分として含有する糖尿病性疾患の予防・治療用組成物について開示する。特許文献3は、花粉荷を有効成分として含有するコラーゲンとヒアルロン酸の産生促進剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−016014号公報
【特許文献2】特開2008−105982号公報
【特許文献3】特開2008−133270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、脱毛症は、男女を問わず、様々な原因、例えば性ホルモンのバランスの変化、ストレス、頭皮の炎症・血行不良、偏食、運動・睡眠不足、及び皮脂の過剰分泌が原因で生ずることが知られている。しかしながら、その発生のメカニズムは、各個人により様々であり、未だ不明な点が多い。従来より、様々な育毛剤が開発されているが、依然として育毛作用が不十分であったり、副作用が生ずる等の問題が生じていた。そのため、育毛効果に優れ、副作用の少ない育毛剤が切望されている。また、従来の育毛剤は、塗付することにより適用するものが多く知られている。例えば、育毛剤を経口摂取により適用する方法は、各個人による適用のばらつき等が生ずることがないため、適用方法としてより重要であると考えられる。
【0006】
本発明者らは、上述した花粉荷の新たな生理作用を模索した結果、花粉荷に育毛作用を有することを発見するに至った。
本発明の目的とするところは、飲食品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能である花粉荷を有効成分として含有する育毛剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の育毛剤は、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の育毛剤において、前記育毛剤は、経口育毛剤又は塗布用育毛剤であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の育毛剤において、前記溶媒は、水、親水性有機溶媒、及び水/親水性有機溶媒の混合液から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、飲食品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能である花粉荷を有効成分として含有する育毛剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】C3H/Heマウスを用いた育毛試験の結果を示すグラフ。
【図2】C57BL/6Crマウスを用いた育毛促進試験の結果を示すグラフ。
【図3】正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を用いた育毛促進試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の育毛剤を具体化した一実施形態を説明する。
本実施形態の育毛剤は、花粉荷又は花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として含有する。花粉荷は、上述したように蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得て、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる。花粉荷の原産地は、特に限定されず、例えば日本、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、及びアメリカ等のいずれであってもよい。また、花粉荷の原料となる花粉の起源植物としては、特に限定されず、蜜蜂が採取したものであればいずれも使用することができる。花粉の起源植物としては、例えば、ハンニチバナ科、ツツジ科、シソ科、ムラサキ科、ブナ科、キク科、モクセイ科、アブラナ科、マメ科、バラ科、及びヤナギ科が挙げられる。これらの中で、ハンニチバナ科、及びアブラナ科が入手容易性の観点から好ましい。ハンニチバナ科としては、例えばシスタス属ジャラが挙げられる。アブラナ科としては、例えばアブラナ属ナタネ、及びダイコン属ダイコンが挙げられる。花粉荷の採集方法としては、特に限定されず公知の方法を適宜採用することができる。例えば、巣箱の出入り口に取り付けられ、格子状の剥取多孔板を備えてなる花粉採集器を用いる方法、巣板又は蜜蜂に付着した花粉荷を直接採集する方法等が挙げられる。
【0012】
本実施形態において、有効成分として花粉荷自体の他、花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として使用してもよい。抽出処理に使用される溶媒としては、例えば水、親水性有機溶媒、及び水/親水性有機溶媒の混合液が挙げられる。親水性有機溶媒としては、水に溶解する性質を有するエタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコールのほか、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサン、酢酸エチルを適宜選択して使用することができる。これらの親水性有機溶媒を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これら溶媒の中でも、抽出物の育毛作用がより優れる水又はエタノールを好ましく適用することができる。また、不純物の除去又は有効成分の濃縮を目的として、抽出の前処理又は後処理として、酸・アルカリ処理を施してもよい。
【0013】
抽出溶媒として例えば水が使用される場合、溶媒の花粉荷に対する添加量は、抽出効率の点から、花粉荷1質量部に対して1〜10質量部が好ましく、4〜8質量部がより好ましく、5〜6質量部が最も好ましい。これらの抽出溶媒は、花粉荷とともに混合及び撹拌される。抽出温度は溶媒の種類等により適宜設定されるが、水の場合、有効成分の抽出効率の観点から温水であることが好ましい。具体的には、30〜80℃が好ましく、55〜65℃がより好ましい。抽出温度が30℃未満の場合には、溶解成分と不溶性成分の分離効率が低下するため好ましくない。逆に抽出温度が80℃を超える場合には、抽出成分の変性を招くおそれがある。抽出の時間は、抽出温度等により適宜設定されるが、例えば2〜48時間程度が好ましく、2〜10時間程度がより好ましい。得られた抽出物は、水に可溶性の画分と沈殿物からなる不溶性の画分から構成される。これらの可溶性画分と不溶性画分は、公知の方法、例えば濾過処理、及び遠心分離を用いることにより、容易に分離することができる。このうち可溶性画分を溶媒抽出物として使用することができる。
【0014】
抽出溶媒として例えばエタノールが使用される場合、溶媒の花粉荷に対する添加量は、抽出効率の点から、花粉荷1質量部に対して1〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましく、2〜3質量部が最も好ましい。これらの抽出溶媒は、花粉荷とともに混合及び撹拌される。抽出温度は溶媒の種類等により適宜設定されるが、エタノールの場合、有効成分の抽出効率の観点から10〜40℃であることが好ましい。抽出温度が10℃未満の場合には、溶解成分と不溶性成分の分離効率が低下するため好ましくない。逆に抽出温度が40℃を超える場合には、抽出溶媒が蒸発するため抽出効率の低下を招くおそれがある。抽出の時間は、抽出温度等により適宜設定されるが、例えば2〜48時間程度が好ましく、2〜20時間程度がより好ましい。得られた抽出物は、エタノール溶媒に可溶性の画分と沈殿物からなる不溶性の画分から構成される。これらの可溶性画分と不溶性画分は、公知の方法、例えば濾過処理、及び遠心分離を用いることにより、容易に分離することができる。このうち可溶性画分を溶媒抽出物として使用することができる。また、抽出効率を向上させる観点から、エタノール不溶性の画分に再度エタノールを添加し、抽出処理を行ってもよい。
【0015】
本実施形態の育毛剤は、摂取又は頭皮に対する塗布により、育毛作用を発揮する。したがって、本実施形態の育毛剤は、脱毛症の治療剤又は予防剤として好適に適用される。本実施形態の育毛剤の具体的な配合形態としては、例えば、経口育毛剤、塗布用育毛剤として、上記の作用効果を得ることを目的とした飲食品、化粧品、医薬品、及び研究用試薬等に適用することができる。
【0016】
本実施形態の育毛剤を飲食品に適用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状等のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤等のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられ、保存安定性が良好なカプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0017】
本実施形態の育毛剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状等のいずれであってもよい。化粧品としては、ヘアケア剤、例えばヘアトニック、ヘアローション、ヘアクリーム、シャンプー、リンス、及びヘアトリートメント剤が挙げられる。また、化粧品は、毛髪に適用される整髪剤、染毛剤、毛髪脱色剤、及び毛髪改質剤として構成してもよい。このような化粧品を頭皮・頭髪に適用することにより、育毛効果を得ることができる。化粧品の基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0018】
本実施形態の育毛剤を医薬品として使用する場合は、目的等に応じ公知の投与方法を適宜採用することができる。例えば、頭皮への塗布、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。これらの中で、育毛効果を効果的に発揮することができる観点から、経口育毛剤又は塗布用育毛剤の形態が好ましい。さらに、手軽に摂取することができる観点から、経口育毛剤として摂取する方法が好ましい。剤形としては、育毛剤の目的等に応じ公知の剤形を適宜採用することができる。例えば、軟膏、液剤、スプレー剤、シート剤、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0019】
本実施形態の育毛剤を育毛研究用試薬又は毛乳頭細胞増殖促進剤の形態で実験用・研究用試薬として適用してもよい。脱毛作用の生理メカニズムの解明又は脱毛症の治療法等の研究・開発等の分野において好適に用いられる。
【0020】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態において、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物は、高い育毛作用を有している。したがって、育毛剤として育毛作用を目的とした飲食品、化粧品、医薬品、及び研究用試薬に好ましく適用することができる。
【0021】
(2)本実施形態の育毛剤は、好ましくは経口摂取又は頭皮へ塗布される。したがって、育毛効果を効果的に発揮することができる。
(3)本実施形態の育毛剤は、好ましくは経口摂取される。したがって、頭皮への塗布作業の必要がなく、容易に育毛効果を発揮することができる。また、塗布作業の個人差、塗布のばらつき等が生じることがないため、育毛効果をより効果的に発揮することができる。また、塗布用育毛剤中に含まれるその他の成分由来の頭皮へのべたつき及び臭気等の不快感が生ずることがない。
【0022】
(4)本実施形態の育毛剤において、花粉荷の溶媒抽出物を得るために用いられる溶媒は、好ましくは水、親水性有機溶媒、又は水/親水性有機溶媒の混合液である。したがって、有効成分として花粉荷自体を用いるよりも不純物の含有量が少ないため、より効果の高い育毛作用の発揮を期待することができる。
【0023】
(5)本実施形態では、育毛剤の有効成分として、天然素材である花粉荷又はその溶媒抽出物が用いられる。したがって、副作用を生ずるおそれがなく、安全に各種用途に適用することができる。
【0024】
(6)本実施形態の育毛剤は、有効成分として花粉荷が含有される場合、花粉荷には、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる事から、摂取により各種栄養成分の補給も行うことができる。
【0025】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の育毛剤は、脱毛症の症状の治療又は症状の軽減の為の用途のみならず、脱毛症の発症予防のために適用してもよい。
【0026】
・上記実施形態の育毛剤は、ヒト以外にも、飼養動物、例えば犬、猫、ラット及びマウス等のペットに投与してもよい。
【実施例】
【0027】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(製造例1)
半径数キロ以内の周辺植物としてシスタス属ジャラ等が存在するセイヨウミツバチの巣箱から花粉荷を得た。その花粉荷50gに、抽出溶媒としてのエタノール100gを加えて室温で一晩攪拌して抽出した。そして、前記花粉荷の抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、エタノールに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、抽出液98g(固形分4.8質量%)を得た(一次エタノール抽出エキス)。さらに残渣に、抽出溶媒としてのエタノール100gを加えて室温で4時間攪拌して抽出した。濾過して、エタノールに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、抽出液95g(固形分3.8質量%)を得た(二次エタノール抽出エキス)。一次エタノール抽出エキスと二次エタノール抽出エキスを混合し、これを製造例1における花粉荷エタノール抽出エキス(花粉荷エタノール抽出物)とした。
【0028】
(製造例2)
半径数キロ以内の周辺植物としてシスタス属ジャラ等が存在するセイヨウミツバチの巣箱から花粉荷を得た。その花粉荷50gに、抽出溶媒としての水300gを加えて60℃で4時間攪拌して抽出した。そして、前記花粉荷の攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、水に不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、抽出液285g(固形分7.7質量%)を得た。これを製造例2の花粉荷水抽出エキス(花粉荷水抽出物)とした。
【0029】
(試験例1:C3H/Heマウスを用いた育毛試験)
花粉荷の生理活性作用である育毛作用について、C3H/Heマウスを用いて育毛作用を測定した。本試験例に使用されるC3H/Heマウスは、特定周齢において均一で同調したヘアサイクルを有している。具体的には、C3H/Heマウスは、生後45〜90日の間、ヘアサイクルが休止期にあるため、その時期に試験部位(例えば、背部)を除毛処理すると均一にヘアサイクルを成長期に移行させることができる特徴を有している。
【0030】
まず、生後55日齢のC3H/Heマウスの背部を剃毛し、次に表1に示される各試験成分を含有する飼料を経口摂取させた。マウスは室温23±1℃、相対湿度55±10%、照明時間12時間/日(8:00〜20:00)の条件で飼育した。飼料は、中部科学資材社製の粉末飼料CE−IIに表1に記載される各成分を各混餌濃度になるように配合して調製した。飲料水は水道水を自由に摂取させた。最後に、除毛後17日経過後における育毛率を測定した。育毛率は、マウス背部を撮影後、Scion Imageを用いて画像解析し、剃毛した面積に対する再生の認められた発毛面積の割合(%)で求めた。結果を図1に示す。
【0031】
【表1】

図1に示されるように、花粉荷の各溶媒抽出物において、経口摂取により有意に育毛促進作用を発揮することが確認された。
【0032】
(試験例2:C57BL/6Crマウスを用いた育毛促進試験)
花粉荷の生理活性作用である育毛作用について、C57BL/6Crマウスを用いて育毛作用を測定した。本試験例に使用されるC57BL/6Crマウスは、背部へのテストステロンの塗付により休止期から成長期への変換が抑制される特徴を有している。
【0033】
まず、55日齢の休止期下にあるC57BL/6Crマウスの背部を剃毛し、5質量%テストステロンを300μL塗布した(無処理群を除く)。そこに、陽性対照群として1質量%オキセンドロンを100μL、花粉荷群として5質量%花粉荷エタノール抽出物(製造例1)を100μLそれぞれ塗付した。無処理群(コントロール)は、剃毛後100%エタノールを100μL塗付した。上記塗付作業を一日一回実施した。最後に、除毛後18日経過後における育毛率を測定した。育毛率は、マウス背部を撮影後、Scion Imageを用いて画像解析し、剃毛した面積に対する再生の認められた発毛面積の割合(%)で求めた。結果を図2に示す。
【0034】
図2に示されるように、5質量%花粉荷エタノール抽出物の塗布群において有意に育毛促進作用を発揮することが確認された。本試験系は、皮膚に塗布したテトステロンが、毛包内で5α−リダクターゼによりジヒドロテストステロンに変換される事による、発毛阻害を誘導した試験系である。花粉荷エタノール抽出物の塗付により、ジヒドロテストステロン生成が抑制されるため、発毛すると考えられる。
【0035】
(試験例3:毛乳頭細胞を用いた育毛促進試験)
花粉荷の生理活性作用である育毛作用について、正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を用いて育毛作用を測定した。試験試料として、製造例1の花粉荷エタノール抽出物及びそのコントロールとしてエタノール、並びに製造例2の花粉荷水抽出物及びそのコントロールとして水を使用した。まず、正常ヒト頭髪毛乳頭細胞(HFDPC:TOYOBO社製)を毛頭細胞増殖培地(PCGM:TOYOBO社製)で1.0×10cells/mLの濃度に希釈した後、コラーゲンコート下96wellプレートに200μL播種し、3日間培養した。次に、培地を抜き、各試験試料を1,10,100μg/mLの各濃度になるように溶解した無血清PCGM培地を添加し、さらに4日間培養した。培養後、Cell Counting Kitにより細胞数を求めた。各コントロールの細胞生存率を100%した場合の各試験試料の細胞生存率を求めた。結果を図3に示す。
【0036】
図3に示されるように、花粉荷水抽出物は全濃度で有意な毛乳頭細胞増殖作用が認められた。一方、花粉荷エタノール抽出物では毛乳頭細胞増殖作用は認められなかった。上記結果から、花粉荷水抽出物には毛乳頭細胞増殖作用を発揮する成分が含まれているものと思料される。
【0037】
(実験例4:5α−リダクターゼ阻害試験)
(製造例3)
半径数キロ以内の周辺植物としてシスタス属ジャラ又はアブラナ属ナタネ等が存在するセイヨウミツバチの巣箱から花粉荷を得た。その花粉荷を乳鉢を用いて粉砕処理した。この粉砕処理物2kgに、抽出溶媒としての水6kgを加えて室温で7時間攪拌して抽出した。そして、前記花粉荷の粉砕物の攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、水に不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、製造例3の水抽出エキス(花粉荷水抽出物)5.5kg(固形分12質量%)を得た。
【0038】
(製造例4)
半径数キロ以内の周辺植物としてシスタス属ジャラ又はアブラナ属ナタネ等が存在するセイヨウミツバチの巣箱から花粉荷を得た。その花粉荷を乳鉢を用いて粉砕処理した。この粉砕処理物50gに、抽出溶媒としてのエタノール150gを加えて室温で4時間攪拌して抽出した。そして、前記花粉荷の粉砕物の攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、エタノールに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、製造例4のエタノール抽出エキス(花粉荷エタノール抽出物)100.3g(固形分9質量%)を得た。
【0039】
(製造例5)
製造例3において、水に不溶性の残渣を凍結乾燥後、抽出原料として使用した。該残渣723.3gに、抽出溶媒としてのヘキサン2.17kgを加えて室温で17時間攪拌して抽出した。そして、前記攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、ヘキサンに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、製造例5のヘキサン抽出エキス(花粉荷ヘキサン抽出物)1785g(固形分4.6質量%)を得た。
【0040】
(製造例6)
製造例5において、ヘキサンに不溶性の残渣を蒸発乾固後、抽出原料として使用した。該残渣615.8gに、抽出溶媒としてのメタノール1.8kgを加えて室温で20時間攪拌して抽出した。そして、前記攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、メタノールに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、製造例6のメタノール抽出エキス(花粉荷メタノール抽出物)1210g(固形分3.4質量%)を得た。
【0041】
花粉荷の生理活性作用の一つである5α−リダクターゼ阻害作用を測定した。試料として上記製造例3〜6のものを使用した。また、対照(コントロール)としては滅菌水を用いた。また、陽性対照としてノコギリヤシオイルを使用した。まず、テストステロン20μL、NADPH825μL、5α−リダクターゼ(ラット肝ミクロソーム)(1590U/mL)75μL、及び各試料80μLを混合し、37℃60分間反応後、酢酸エチルを添加により反応を停止した。その後、遠心分離処理(2500rpm、10分)により、上層の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル層を蒸発乾固後、メタノールを添加し、これをHPLC分析試料とした。HPLCの条件は、カラムがODSカラム、カラム移動相がメタノール/水=30/70、流量が0.8mL/分、カラム温度が40℃、検出波長が238nmである。HPLCの分析結果により、テストステロンの添加量に対する酵素反応後の残存する割合(テストステロン変換率%)を求めた。5α−リダクターゼ阻害活性率は以下の式より求め、検量線を作成し、50%阻害濃度を算出した(試験はN=3で測定)。結果を表2に示す。
【0042】
5α−リダクターゼ阻害活性率(%)={ ( Bc - Bs ) / Bc }× 100
Bc:コントロールのテストステロン変換率
Bs:試料のテストステロン変換率
【0043】
【表2】

全ての試料について5α-リダクターゼ阻害活性が確認された。これらの中でも、製造例4〜6の抽出物において強い5α-リダクターゼ阻害活性が確認された。花粉荷中に含まれる5α-リダクターゼ阻害活性成分は、脂溶性である事が示唆された。
【0044】
上記試験例2,4の結果より、花粉荷エタノール抽出物は、5α-リダクターゼ阻害活性を有することが示唆されるとともに、テストステロン由来の発毛阻害を抑制する作用があることが示された。しかしながら、花粉荷エタノール抽出物は、毛乳頭細胞活性化作用を有しておらず、毛乳頭細胞活性化作用は、花粉荷水抽出物に有することが確認されている(試験例3)。したがって、花粉荷の発毛作用は、複数の作用メカニズムが働いて発揮されることが推認される。脱毛症は、男女を問わず、様々な原因が複合的に絡み合って生ずることが多い。そのため、花粉荷によって、脱毛症を効果的に治療することができることが期待される。
【0045】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記育毛剤を含有する飲食品、化粧品、医薬品、及び研究用試薬。
(b)前記親水性有機溶媒は、エタノールである前記育毛剤。
【0046】
(c)花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする毛乳頭細胞増殖促進剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする育毛剤。
【請求項2】
前記育毛剤は、経口育毛剤又は塗布用育毛剤であることを特徴とする請求項1に記載の育毛剤。
【請求項3】
前記溶媒は、水、親水性有機溶媒、及び水/親水性有機溶媒の混合液から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の育毛剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−26240(P2011−26240A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173297(P2009−173297)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】