説明

芳香性防虫剤

【課題】香料成分を有効成分とする液体タイプの衣料害虫用防除剤であって、安全性にも優れ、ほのかな芳香性が効果の立ち上がりを知らしめると共に使用感を高め、更には、使用末期における薬剤の取替え時期もわかりやすい、衣料害虫用の芳香性防虫剤の提供。
【課題の解決手段】
エステル基を有する特定の防虫剤香料成分を、炭素数が12から14であるノルマルパラフィン系炭化水素とグリコールエーテルとが1:3から1:5の範囲で混合してなる揮散助剤に混ぜ合わせて得られる液体香料剤は、適度な揮散速度を持って液体香料剤透過性フィルムを通して揮散させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料害虫に対する液体式芳香性防虫剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、イガ類、カツオブシムシ類やシミ類等の衣料害虫から繊維製品を保護するため、主に、タンス、引き出し、クロ−ゼットや衣料収納箱用として、様々な防虫剤が提案、実用化されている。その有効成分としては、古くはパラジクロロベンゼンやナフタレン等の昇華性防虫剤成分が使用されたが、強い刺激性や安全性の問題が指摘され、近年、エムペントリンやプロフルトリン等の常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分が主流となっている。後者のピレスロイド系殺虫成分は、衣料害虫に対して微量で高い殺虫効果を示し、無臭で、しかも安全性に優れ、有用性の高い有効成分であるが、処理空間に充分に拡散するまでに幾分時間がかかり、初期効果の改善が望まれている。また、最近の消費者ニ−ズの多様化に伴い、無臭よりも若干の香りを有する防虫剤を使用して、処理空間や衣類への賦香を積極的に行う傾向もみられるようになった。
【0003】
このような状況を背景として、防虫効果と芳香性を兼ね備える天然産の精油由来成分を防虫成分として用いる提案がいくつかなされている。
例えば特開平9−278621号公報は、ハッカ油、レモン油、オレンジ油、シトロネロ−ル、ケシ油から選ばれる揮発性防虫剤と、ヒバ油、ヒノキ油、カンファ−、ピネンから選ばれる低揮発性防虫剤を組み合わせた防虫剤に関するものである。また、特許第4311773号公報では、衣料害虫の孵化抑制剤に着目し、卵から幼虫への移行を抑制すれば衣料害虫による食害を防止できると考え、卵孵化抑制剤として、リナロ−ル、ゲラニオ−ル、シトロネラ−ル、ヘプタン酸アリル、酢酸ネリル等、数多くのテルペン化合物が提案されている。しかしながら、これらについても、衣料害虫に対する効果は十分とは言えず、防虫効果と芳香性を兼ね備える天然産の精油由来成分や香料成分を有効成分とする衣料害虫用防虫剤の開発に当たっては、有効成分の選抜、他の剤や溶剤との組み合わせと供に、防虫剤の形態の検討が不可欠な状況であった。
【0004】
防虫剤の形態としては、前述の常温昇華性固体である樟脳、ナフタリン、パラジクロロベンゼン等を有効成分とした固形の防虫剤が知られている。またこの固形防虫剤に代わるものとして、有効成分であるエムペントリンやプロフルトリン等の常温揮散性ピレスロイド系殺虫剤を有機溶剤で溶解した薬液を、パルプ製の台紙や不織布製シ−トなどに含浸させた防虫剤や、薬液をゲル化させたゲル状の防虫剤などが商品化されている。
固形タイプの防虫剤は、使用とともに経時的に小さくなっていくため薬剤の交換の時期がわかりやすいという利点があるが、その一方で独特の臭気があり、人によっては敬遠される向きがある。また含浸タイプの防虫剤は、防虫剤が揮散して消費されても、含浸担体そのものの外観形状には変化がなく、防虫効果の終点が明確でないという欠点がある。一方、ゲル状の防虫剤においては、使用とともに経時的に収縮していくため、ある程度の使用経過の判断はできるが、ゲルが完全に消滅するわけでなく、依然として防虫効果の終点が明確でないという欠点が残る。また、収縮したゲルの美観に問題が残る場合もある。
これらの問題を克服するものとして、液体の芳香剤をベースにした防虫機能を兼ね備えた芳香剤が提案されている(特許文献3)。これらの多くは、薬液の入ったボトルに差し込まれた吸液芯と呼ばれる吸液芯の毛細管現象により吸い上げられた薬液が、上面に位置するフェルトやパルプ素材の揮散面に染み出し、その面から薬液成分が揮散していくというシステムである。このシステムは薬液の減りが容易に目視でき、薬剤の交換時期がわかりやすいというメリットがある反面、ボトルを倒した際に薬液が周囲にこぼれ出すという心配があった。このことから、薬剤の減りが容易に確認でき、尚且つ、倒してもこぼれない液体タイプの防虫剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−278621号公報
【特許文献2】特許第4311773号公報
【特許文献3】特開平11−196930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、天然産又は合成の香料成分を有効成分とする液体タイプの衣料害虫用防除剤であって、高い防虫効果を発揮する一方で、人やペットに対する安全性にも優れ、しかも、ほのかな芳香性が効果の立ち上がりを知らしめると共に使用感を高め、更には消費者に対して、使用末期における薬剤の取替え時期もわかりやすい、実用性の高い衣料害虫の芳香性防虫剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明は、衣料害虫に対して防虫効果のある香料成分を、液体香料剤透過性フィルムを通して適度な揮散速度で揮散させるために、防虫効果のある香料成分と液体香料剤透過性フィルムの種類を検討し、次いでその揮散を調整するための揮散助剤の組み合わせを鋭意検討した。
検討中の知見として、防虫効果のある香料成分単独だけではなく、香料成分に適当な揮散助剤の添加が必要であることがわかった。しかし、その組み合わせは極めて多種多様であったが、試行錯誤を繰り返した結果、ある特定の防虫剤香料成分と、ある特定の揮散助剤を組み合わせた液体香料剤は、適度な揮散速度を持って液体香料剤透過性フィルムを通して揮散し、衣料害虫に対し適度の防虫効果を発現できることがわかった。そしてこの方式による液体香料剤の揮散は、薬液の減少が経時的に明瞭に目視でき、さらには薬液の揮散後も容器内に残渣による汚れが残らず良好であることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて更に改良を重ねることにより、完成したものである。
即ち、本発明は、以下の構成の芳香性防虫剤である。
(1)液体香料剤透過性フィルムを通して、防虫性香料と揮散助剤からなる液体香料剤を揮散させる芳香性防虫剤において、
前記揮散助剤が、パラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの混合物であることを特徴とする芳香性防虫剤。
(2)前記パラフィン系炭化水素が炭素数12から14のノルマルパラフィン系炭化水素であり、前記グリコールエーテルがプロピレングリコールアルキルエーテルであることを特徴とする(1)に記載の芳香性防虫剤。
(3)前記パラフィン系炭化水素が炭素数12から14のノルマルパラフィン系炭化水素であり、前記グリコールエーテルがプロピレングリコールモノブチルエーテルであることを特徴とする(1)に記載の芳香性防虫剤。
(4)前記パラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの重量混合比が、1:3から1:5の範囲であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(5)前記防虫性香料が、
エステル基を有し、その分子量が130から210の範囲にある化合物群のうちのいずれか一つ、又は二つ以上を含有することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(6)前記防虫性香料が、
安息香酸メチル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸ベンジル、ヘキサン酸アリル、酢酸フェニルエチル、ヘプタン酸アリル、酢酸シンナミル、オクタン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、酢酸トリシクロデセニル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、酢酸2−ターシャリーブチルシクロヘキシル、酢酸4−ターシャリーブチルシクロヘキシル、シクロヘキシルオキシ酢酸アリル、フルーテート
のいずれか一つ、または二つ以上を含有することを特徴とする(1)から(5)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(7)前記防虫性香料が、衣料害虫の生育および生存に対して阻害となる活性を有する香料群から選ばれた一種、または二種以上の混合物であることを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(8)前記衣料害虫の生育および生存に対して阻害となる活性が、
衣類害虫の卵孵化抑制活性、殺幼虫活性、幼虫摂食阻害活性、幼虫忌避活性、成虫忌避活性、殺成虫活性のうちの一種、又は二種の混合活性であることを特徴とする(7)記載の芳香性防虫剤。
(9)前記衣料害虫の生育および生存に対して阻害となる活性が、
衣類害虫の殺幼虫活性、幼虫摂食阻害活性のうちの一種、又は二種の混合活性であることを特徴とする(7)に記載の芳香性防虫剤。
(10)前記液体香料剤を、
該液体香料剤が透過しない素材からなり、その一部が開放した形状の容器に液体状態で、収め、且つ、容器の開放部に蓋材として液体香料剤透過性フィルムを貼り付け、このフィルムを通して該液体香料剤を揮散させることを特徴とする(1)から(9)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(11)前記液体香料剤透過性フィルムが、ポリエチレン素材からなるフィルムであることを特徴とする(1)から(10)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(12)前記液体香料剤透過性フィルムが、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムであることを特徴とする(1)から(11)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(13)前記蓋材が、液体香料剤透過性フィルムと液体香料剤非透過性フィルムとを剥離可能なように積層成形したものであり、使用前に、外層に位置する液体香料剤非透過性フィルムのみを剥離して取り除き、液体香料剤透過性フィルムを露出させることにより使用を開始することを特徴とする(1)から(12)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
(14)前記液体香料剤に、その視認性を高めるために着色剤を添加して着色したことを特徴とする(1)から(13)のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、天然産の植物精油由来成分又は合成香料成分を有効成分とする液体タイプの衣料害虫用防除剤であって、高い防虫効果を発揮する一方で、人やペットに対する安全性にも優れている。しかも、ほのかな芳香性が効果の立ち上がりを知らしめると共に使用感を高め、薬液中の防虫剤香料成分と溶剤とがバランスよく揮散していくことから、使用後も容器内に残渣による汚れが残らず、使用末期における薬剤の取替え時期もわかりやすいので、その実用性は極めて高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一般的な実施形態の断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の芳香性防虫剤の一般的な形態としては、防虫性香料と揮散助剤からなる液体香料剤6を適当な容器1に入れ、開口した容器の一部に貼り付けた液体香料剤透過性フィルム2から、液体香料剤6が揮散するように構成される。
【0011】
本発明に用いられる防虫性香料としては、天然香料成分、合成香料成分、天然精油の中から選ばれ、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シミ等の衣料害虫に対して防虫効果があるものを用いる事ができる。本発明でいう防虫効果とは、殺幼虫、殺成虫活性はもちろんのこと、衣料害虫の生育ステ−ジにおいて、致命的な作用を与えるかあるいは、死に至らずとも、生育に阻害効果をもたらし、衣料への損害を防止することができるすべての効果を包含する。具体的には産卵抑制活性、卵孵化抑制活性、殺卵活性、殺幼虫活性、幼虫摂食阻害活性、幼虫営巣阻害活性、幼虫羽化阻害活性、幼虫忌避活性、成虫忌避活性、殺成虫活性、成虫交尾撹乱活性等をあげることができる。
【0012】
防虫性香料として具体的には、テルピネオ−ル、シトロネラ−ル、シトラ−ル、ノナナ−ル、ゲラニオ−ル、ネロ−ル、ボルネオ−ル、デカノ−ル、リナロ−ル、ジヒドロリナロ−ル、テトラヒドロリナロ−ル、ジヒドロミルセノ−ル、ロジノ−ル、メント−ル、p−メンタン−3,8−ジオ−ル、チモ−ル、エバノ−ル、メンタン、カンフェン、ピネン、リモネン、β−ヨノン、セドリルメチルエ−テル、アネト−ル、シンナミルアルデヒド、クミンアルデヒド、安息香酸メチル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸ベンジル、ヘプタン酸エチル、酢酸フェニルエチル、ヘキサン酸ブチル、ヘキサンイソ酸ブチル、酢酸シンナミル、酢酸アニシル、酢酸トリシクロデセニル、酢酸2−ターシャリーブチルシクロヘキシル(ベルドックス)、酢酸4−ターシャリーブチルシクロヘキシル(ベルテネックス)、フル−テ−ト、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸アリル、蟻酸ゲラニル、蟻酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、酢酸ネリル、メチルサリシレ−ト、イソブチルオキシ酢酸アリル、n−アミルオキシ酢酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル(アリルアミルグリコレート)、イソヘキシルオキシ酢酸アリル、3−エチルアミルオキシ酢酸アリル、シクロペンチルオキシ酢酸アリル、シクロヘキシルオキシ酢酸アリル(シクロガルバネート)、フェノキシ酢酸アリル、オクタン酸アリル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、クエン酸トリエチル、δダマスコン、カルボン、シトロネラ油、シナモン油、ユ−カリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油、ラベンダー油、オレンジ油、グレープフルーツ油、シダーウッド油、ゼラニウム油、タイムホワイト油、ハッカ油などから選ばれた1種又は2種以上を配合することができる。
【0013】
これらの中では、エステル基を有し、その分子量が130から210の範囲にある化合物が好ましく、安息香酸メチル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸ベンジル、ヘキサン酸アリル、酢酸フェニルエチル、ヘプタン酸アリル、酢酸シンナミル、オクタン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、酢酸トリシクロデセニル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、酢酸2−ターシャリーブチルシクロヘキシル、酢酸4−ターシャリーブチルシクロヘキシル、シクロヘキシルオキシ酢酸アリル、フルーテートから選ばれた1種又は2種以上を配合するのがより好ましく、特に衣料害虫であるイガ、コイガの幼虫に対して優れた食害防止効果や殺虫活性を発揮する。
【0014】
また、衣料害虫の卵孵化抑制効果を発揮させたいのであれば、特許第4311773号および特許第4332301号公報に示された、テトラヒドロリナロール、シトロネラール、シトラール、ゲラニオール、リナロール、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸アリル、カンフェン、β−ヨノン、クミンアルデヒド、ダマスコン、シトロネラ油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油などを配合するのが好ましい。さらに、衣料害虫の交尾、産卵、卵孵化等の増殖行為の阻害活性を付与するのであれば、特許第4148552号公報に示されたように、カルボン、アネトール、リナロール等を配合するのが好ましい。
【0015】
本発明において、前述の防虫剤香料成分とともに用いられる、揮散助剤としては、
水のほか、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール、
プロピレングリコールのようなグリコール、
ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテルのようなエチレングリコールエーテル、
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルのようなプロピレングリコールエーテル、
エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルのようなジアルキルグリコールエーテル、
各種炭素数のノルマルパラフィン系炭化水素やイソパラフィン系炭化水素もしくは芳香族炭化水素や、界面活性剤、可溶化剤、分散剤が適宜用いられる。
【0016】
本発明においては、これらの中でも、パラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの混合物が本発明においては好適である。
パラフィン系炭化水素は炭素数12から14のノルマルパラフィン系炭化水素がより好適である。炭素数11以下の物では、自身の揮散が早すぎて本防虫剤用途では不適である。また炭素数15以上では揮散補助効果が小さく、本用途では使用できない。
また、グリコ−ルエーテルではプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルが好適であるが、中でもプロピレングリコールモノブチルエーテルがより好ましい。
【0017】
パラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの混合比率に関しては、
パラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの混合比が1:3から1:5の範囲であることが好ましい。グリコールエーテルの比率がこれより低ければ揮散が早すぎたり、保管中にフィルムに浸出したりすることがあり、逆にグリコールエーテルの比率がこれより高ければ揮散性が低く、残渣として残ってしまうことになる。
【0018】
揮散助剤は自身の揮散の際に香料成分も牽引して揮散する役目を持つと予想され、揮散助剤の比率が低いと揮散効率は改善されない。防虫性香料と揮散助剤との配合比は本発明においては揮散助剤の比率が高いことが望ましく、防虫性香料:揮散助剤は重量比で2:3から2:5、なかでもおよそ1:2がより好ましい。
【0019】
本発明の芳香性防虫剤は、衣料害虫に対する防虫効果と人やペットに対する安全性に支障を来たさない限りにおいて、各種消臭剤成分や、香調の調整のために他の芳香成分、香料成分を配合してもよい。例えば、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコ−ルや青葉アルデヒド等を添加して、リラックス効果を付与することができる。
また、常温揮散性のピレスロイド系殺虫成分、例えば、エムペントリン、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(2,2−ジクロロビニル)シクロプロパンカルボキシレ−ト[トランスフルトリン]、4−メチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレ−ト[プロフルトリン]、4−メトキシメチル−2,3,5,6−テトラフルオロベンジル−2,2−ジメチル−3−(1−プロペニル)シクロプロパンカルボキシレ−ト[メトフルトリン]などを添加すれば防虫効果の向上を図ることが可能となる。
【0020】
その他、本発明の芳香性防虫剤に添加できる成分としては、
消臭剤として、揮発性のヒバ油、ヒノキ油、竹エキス、ヨモギエキス、キリ油やピルビン酸エチル、ピルビン酸フェニルエチル等のピルビン酸エステルなどが、
防黴剤としては、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、イソプロピルメチルフェノ−ル、オルソフェニールフェノールなどが、
抗菌剤としては、ヒノキチオ−ル、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネートなどが挙げられる。
【0021】
本発明において用いられる液体香料剤透過性フィルム2とは、液体香料剤6を、液体ではなく気体の状態でフィルムから透過、放散させるものである。本液体香料剤透過性フィルム2としては、耐薬品性があり、液体香料剤を液体として滲出させることなく、気体として容器外へ揮散透過するものであれば特に限定されない。
一例としては、ポリエチレン、低密度ポリエチレン樹脂フィルム、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムといったポリエチレン素材からなるフィルムや、ポリプロピレン、エチレン−酢酸共重合樹脂フィルム等が挙げられる。中でも本発明においては、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムが最も好ましい。また、これ以外の素材でも、微小多孔化処理をして透過性を付与したポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の他のプラスティック樹脂フィルムも用いることができる。
【0022】
また、本発明では、使用前に液体香料剤が揮散するのを防止するために、容器の蓋剤5としての素材が、上記液体香料剤透過性フィルム2の外気と接触する面である表面を、取り除き可能なガスバリア性の液体香料剤非透過性フィルム3で覆った多層体フィルムであることが望ましい。
具体的には、蓋材5が、液体香料剤透過性フィルム2と液体香料剤非透過性フィルム3とが接着層4を介した積層体であり、外層に位置する液体香料剤非透過性フィルム3を、接着層4と共に剥離、取り除くことにより、液体香料剤透過性フィルム2を露出させ、使用開始することができる。
この液体香料剤非透過性フィルム3部材については、使用する防虫性香料の種類に応じて適宜選択されるが、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、アルミ箔等が例示される。上記液体香料剤非透過性フィルム3は、1種の部材からなる単層のフィルムであってもよく、また2種以上の素材を積層したフィルムであってもよい。
【0023】
なお、上記のように、液体香料剤透過性フィルム2を、取り除き可能な液体香料剤非透過性フィルム3で覆わない場合には、本発明の芳香性防虫剤は、使用前に香料が揮散するのを防止するために、容器1全体を、液体香料剤非透過性部材からなる包装体に密閉した状態で収容しておくことが望ましい。
【0024】
容器本体1としてはプラスチック製の物を用いるのが実用上適当である。このプラスチックの材質として、液体香料剤が透過しない素材であることが必要であり、耐内容物性を考慮して、基材にポリエチレンフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミドなどが使用できる。 容器の形状は液体が収納でき、一部に開口部を有する形状であればよく、真空成形法や圧空成形法などの熱成形法や、インジェクション成形法など公知慣用の成形方法で作製される。
この容器本体の開口部周辺には平坦な面やフランジ部7を設け、液体香料剤透過性フィルムを接着剤や、あるいは超音波溶着などにより熱シールして、容器内に液体香料剤を封じることができる。この際、液体自体の減りを確認できるように、吸液性の含浸体等に担持させることなく、液体香料剤を液体のまま容器に添加することが望ましい。
【0025】
芳香性防虫剤は、薬液の減り具合が観察しやすいように、必要に応じて染料で着色することができる。染料は、本発明で使用する防虫性香料と揮散助剤に溶けるものであれば特に限定されず、橙色403号のようなアゾ染料、緑色202号のようなアントラキノン染料、その他、タール色素、インジゴ系色素等が提示できる。
【0026】
次に具体的な実施等を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(試験例1:防虫性香料基礎効力試験)
【0027】
10×10cmの濾紙に、表1記載の各種香料成分100mgをエタノールで10倍希釈したものを1ml分注して含浸させ、エタノールは風乾して供試濾紙とした。
容量約6Lのガラス瓶の底に供試濾紙を置き、その5cm上方に、30日令、平均体重30〜35mg/頭のイガ幼虫10頭と、羊毛試験布(2cm×2cm、40〜45mg)を入れたカゴを固定した。次に、ガラス瓶を密閉し、27℃、湿度65%の恒温恒湿室内に7日間放置したのち、羊毛試験布を取り出して食害率(食害量/元の重量×100)を測定するとともに、死虫率を求めた。
食害率、死虫率と総合評価を表1に示す。
総合評価は以下の基準で示した。 ◎:食害がなく、死虫率が100%のもの。○:食害がなく、死虫率が50〜99%のもの。△:食害はないものの、死虫率が1〜50%のもの。×:食害があるもの、あるいは食害がないものの死虫率が0%のもの。
【0028】
【表1】

【0029】
試験の結果より、各種香料成分のうち、防虫性香料として効果の認められたものを選抜して、フィルム透過性の試験を行った。
(試験例2:フィルム透過性揮散試験)
【0030】
5×15cmのサイズ(厚さ70μm)のポリエチレンフィルムの長辺を二つ折りにして、長辺二方をヒートシールした後、表1記載の香料成分を1.5g(約2ml)分注し、さらに残りの一方もシールして香料入り簡易フィルム容器を作製した。
この香料入り簡易フィルム容器を25℃恒温室にて吊り下げ設置し、30日目まで定期的に重量の減少を測定し、初期との差から揮散率を求めた。
15日および30日目での揮散率と総合評価を表2に示す。
(総合評価は◎:30日目で揮散率が75%以上のもの。○:30日目で揮散率が30〜74%のもの。△:30日目で揮散率が10〜29%のもの。×:30日目で揮散率が9%以下のもの。で示した。)
【0031】
【表2】

【0032】
試験の結果、アルコール系、エーテル系、ケトン系の香料に比べて、エステル系の防虫剤香料の揮散が比較的良好な傾向にあった。 ただし防虫性
香料のみでは揮散速度が緩慢なことから、防虫剤として実用性を高めるために、揮散を促進する揮散助剤の検討を行った。
(試験例3: 防虫性香料と揮散助剤の組合せ: 実施例1〜実施例6)
【0033】
試験例2で比較的良好であった防虫剤香料のうちから選んで調合して作製した表3記載の防虫性香料と揮散助剤と色素を、表4に示す処方で混ぜ合わせ、各種液体香料剤を作製した。この液体香料剤の薬液を、所定の容器(ポリエチレンでラミレートしたポリエチレンテレフタレート樹脂シ−トを、縦×横×厚みが30×30×6mmであり、開口部周囲に8mmのフランジを有するようトレ−状に真空成形したもの)に3g分注し、フランジ部分を含む開口部を、蓋材フィルムで覆いヒートシールした。
蓋材フィルムは、液体香料剤透過性フィルム(直鎖状低密度ポリエチレンフィルム:厚さ70μm)と非透過性フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルムとアルミニウムフィルムとポリプロピレンフィルム)とを接着層として溶融樹脂のポリエチレン層を介して張り合わせて積層成形したものであり、使用前に蓋材を容器から剥がすと、液体香料剤非透過性フィルムのみが剥離され、容器側に残った液体香料剤透過性フィルムが外気に露呈し、容器内の液体香料剤が揮散を始める。この液体香料剤非透過性フィルム剥離させた容器を、25℃恒温室にて静置し、60日目まで定期的に重量の減少を測定し、初期重量との差から液体香料剤の揮散率を測定した。 また蓋材フィルムを含む容器の安定性を見るために、蓋材における液体香料剤非透過性フィルムを剥離しない状態での容器も、同条件である25℃恒温室にて60日目まで静置した。 20日、40日、60日目での各揮散率と総合評価を表5に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
この試験の結果、防虫剤香料と、揮散助剤としてのパラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの混合物からなる処方である実施例1から6において、使用開始から60日目まで安定した揮散が認められた。その中においても、パラフィン系溶剤:グリコールエーテルの比が1:3から1:5の範囲にある実施例2、4,5,6が有効であった。この範囲外であって、グリコールエーテルの比率が小さいと揮散速度が速すぎる傾向にあり、グリコールエーテルの比率が大きいと揮散速度が遅すぎる傾向にあった。また、実施例2と6を比較して、着色剤にて薬液に着色を施すと、薬液の揮散による減少がわかり易く有効であった。
本発明では揮散助剤としてのパラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの混合物であることが重要であり、揮散助剤としてパラフィン系炭化水素だけ(比較例2)や、グリコールエーテルだけ(比較例3)では良好な揮散が得られなかった。
【実施例】
【0038】
先の試験例3での実施例2に用いられた物と同一の薬液、容器、フィルムからなる防虫剤を、周囲に開口部を有するポリプロピレン製外容器(45×45×15mm)に納めた。
本芳香性防虫剤を、衣類が8割ほど収納された縦50cm×横40cm×高さ25cm(約50リットル)の衣装ケース 内の衣類の隙間に2個設置したところ、約2ヶ月にわたり、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の衣類害虫に対して食害を受けることなく、さらに消臭効果も付与されて極めて実用的であった。
【0039】
先の試験例3での実施例3に用いられた物と同一の薬液、容器、フィルムからなる防虫剤を、吊り下げ部が付属し、周囲に開口部と薬液の減りが確認できる開口窓を有するポリプロピレン製外容器(100×50×15mm)1個につき2個納めた。この外容器を2個、すなわち計4個の芳香性防虫剤を容積約500Lの洋服タンスに吊るして2ヶ月間使用した。その結果、その間、衣料害虫から衣類を完全に保護することができ、また、2ヶ月後の時点で着色された薬液によって認められる残量は僅かで、終点表示機能を有することが認められた。また薬液の残量以外には容器内に色素や油分残渣の汚れは認められず極めて実用的であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、衣料防虫剤だけでなく、害虫忌避分野においても広く利用可能であり、極めて有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 容器
2 液体香料剤透過性フィルム
3 液体香料剤非透過性フィルム
4 接着層
5 蓋材
6 液体香料剤
7 フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体香料剤透過性フィルムを通して、防虫性香料と揮散助剤からなる液体香料剤を揮散させる芳香性防虫剤において、
前記揮散助剤が、パラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの混合物であることを特徴とする芳香性防虫剤。
【請求項2】
前記パラフィン系炭化水素が炭素数12から14のノルマルパラフィン系炭化水素であり、前記グリコールエーテルがプロピレングリコールアルキルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の芳香性防虫剤。
【請求項3】
前記パラフィン系炭化水素が炭素数12から14のノルマルパラフィン系炭化水素であり、前記グリコールエーテルがプロピレングリコールモノブチルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の芳香性防虫剤。
【請求項4】
前記パラフィン系炭化水素とグリコールエーテルの重量混合比が、1:3から1:5の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項5】
前記防虫性香料が、
エステル基を有し、その分子量が130から210の範囲にある化合物群のうちのいずれか一つ、又は二つ以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項6】
前記防虫性香料が、
安息香酸メチル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸ベンジル、ヘキサン酸アリル、酢酸フェニルエチル、ヘプタン酸アリル、酢酸シンナミル、オクタン酸アリル、イソアミルオキシ酢酸アリル、酢酸トリシクロデセニル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、酢酸2−ターシャリーブチルシクロヘキシル、酢酸4−ターシャリーブチルシクロヘキシル、シクロヘキシルオキシ酢酸アリル、フルーテート
のいずれか一つ、または二つ以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項7】
前記防虫性香料が、衣料害虫の生育および生存に対して阻害となる活性を有する香料群から選ばれた一種、または二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項8】
前記衣料害虫の生育および生存に対して阻害となる活性が、
衣類害虫の卵孵化抑制活性、殺幼虫活性、幼虫摂食阻害活性、幼虫忌避活性、成虫忌避活性、殺成虫活性のうちの一種、又は二種の混合活性であることを特徴とする請求項7記載の芳香性防虫剤。
【請求項9】
前記衣料害虫の生育および生存に対して阻害となる活性が、
衣類害虫の殺幼虫活性、幼虫摂食阻害活性のうちの一種、又は二種の混合活性であることを特徴とする請求項7に記載の芳香性防虫剤。
【請求項10】
前記液体香料剤を、
該液体香料剤が透過しない素材からなり、その一部が開放した形状の容器に液体状態で、収め、且つ、容器の開放部に蓋材として液体香料剤透過性フィルムを貼り付け、このフィルムを通して該液体香料剤を揮散させることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項11】
前記液体香料剤透過性フィルムが、ポリエチレン素材からなるフィルムであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項12】
前記液体香料剤透過性フィルムが、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項13】
前記蓋材が、液体香料剤透過性フィルムと液体香料剤非透過性フィルムとを剥離可能なように積層成形したものであり、使用前に、外層に位置する液体香料剤非透過性フィルムのみを剥離して取り除き、液体香料剤透過性フィルムを露出させることにより使用を開始することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の芳香性防虫剤。
【請求項14】
前記液体香料剤に、その視認性を高めるために着色剤を添加して着色したことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれかに記載の芳香性防虫剤。


【図1】
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【公開番号】特開2013−14524(P2013−14524A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147028(P2011−147028)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】