説明

芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法

【課題】芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法において、吸光度の減少を防止するため、測定系において芳香族アゾ化合物を凝集させることがない方法を提供する。
【解決手段】水溶液中における芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法であって、前記芳香族アゾ化合物を含む水溶液中の界面活性剤の濃度が2体積%以上であることを特徴とする、前記溶液中の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アゾ化合物を生成させるために用いるジアゾカップリング反応の反応溶液中の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜硝酸と芳香族第一級アミンをジアゾ化反応させることにより、芳香族ジアゾニウム化合物が得られる。また、求電子試薬としての芳香族ジアゾニウム化合物は電子供与性基を持つ芳香族の活性化置換基(カップリング試薬)のパラ位に求電子体として働き、芳香族アゾ化合物を生じる。この反応をジアゾカップリング反応という。
【0003】
芳香族アゾ化合物は高度に共役した構造を有し、可視部に大きな吸収をもつため着色して見える。これにより、芳香族アゾ化合物の可視光領域の吸光度が測定可能であり、芳香族アゾ化合物の濃度を測定できるだけでなく、原材料である亜硝酸、芳香族第一級アミン、芳香族ジアゾニウム化合物、カップリング試薬、芳香族アゾ化合物の濃度を測定することもできる。
【0004】
しかしながら、芳香族アゾ化合物は結晶化しやすく、濃度が高い場合は凝集がおこりやすい。凝集が生じると吸光度は減少し、正しい測定ができなくなる。希釈して測定をおこなえば凝集は回避できるが、未知濃度の溶液の測定であれば希釈の程度が不明であり、煩わしい。また、凝集が軽微な場合は凝集の生成が目視で判断できないことがあり、この場合も正しい吸光度測定ができない。
【0005】
ジアゾカップリング反応による芳香族アゾ化合物またはその原材料を測定する方法としては、エンドトキシンの検出(特許文献1)やウロビリノーゲンの検出(特許文献2)などに用いられている方法が公知であるが、これらは濃度の高い芳香族アゾ化合物を検出する必要はなく、生成した芳香族アゾ化合物が凝集することは想定していない。より具体的に述べると、ジアゾカップリング反応に用いる溶液中に界面活性剤が含まれるケースである、エンドトキシンの測定に関する文献(特許文献1)があるが、この場合、界面活性剤は血液中に含まれるエンドトキシン検出試薬の妨害因子を除くために用いられており、芳香族アゾ化合物の凝集を防ぐ目的で使用されているのではない。また、使用されている界面活性剤は全血に対して0.08〜0.33重量/容量%の範囲(ジアゾカップリング反応後の濃度はさらに低くなる)であり、凝集した高濃度の芳香族アゾ化合物を分散させるには不十分である。また、ウロビリノーゲンの検出(特許文献2)にも界面活性剤が使用されているが、ここではウロビリノーゲンとジアゾニウム塩の反応を促進させる目的で用いられており、芳香族アゾ化合物の凝集を防ぐ目的で使用されてはいない。また、ジアゾニウム化合物を安定化する方法として、有機塩基、界面活性剤、有機ホウ酸塩、抗酸化剤、酸安定化剤、塩化亜鉛といった物質を使用する種々の試み(特許文献3)がなされてきたが、これらはジアゾニウム塩の分解を防ぐための方法であり、芳香族アゾ化合物の凝集を阻止するためのものではない。
【特許文献1】特開平4−16765号公報
【特許文献2】特公平03−056424号公報
【特許文献3】特開平8−220090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法において、吸光度の減少を防止するため、測定系において芳香族アゾ化合物を凝集させることがない方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、芳香族アゾ化合物を含む溶液に界面活性剤を添加することで、芳香族アゾ化合物を溶液中に分散させることが可能であること、さらに、ジアゾカップリング反応の反応溶液に界面活性剤を添加することで、芳香族アゾ化合物の凝集阻止が可能であることを見いだした。本発明は、界面活性剤を利用した芳香族アゾ化合物の濃度測定方法を提供するために、以下の構成を有する。
1.水溶液中における芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法であって、前記芳香族アゾ化合物を含む水溶液中の界面活性剤の濃度が2体積%以上であることを特徴とする、前記溶液中の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法。
2.前記水溶液がジアゾカップリング反応後の溶液であって、前記水溶液中のジアゾカップリング反応後の溶液中の界面活性剤の濃度が1.5体積%以上であることを特徴とする、前記1記載の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法。
3.前記水溶液がジアゾカップリング反応の反応液であって、前記ジアゾカップリング反応を界面活性剤の存在下でおこなうことを特徴とする、前記1または2記載の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法。
4.亜硝酸塩および芳香族第一級アミンをジアゾ化反応させることにより得られた芳香族ジアゾニウム化合物をカップリング試薬と作用せしめるジアゾカップリング反応により製造される芳香族アゾ化合物の濃度を前記1〜3いずれか記載の方法により測定することにより、前記亜硝酸塩、芳香族第一級アミン、芳香族ジアゾニウム化合物およびカップリング試薬の少なくともいずれか1つの濃度を測定する方法。
【発明の効果】
【0008】
凝集した芳香族アゾ化合物を分散させて芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法、または、ジアゾカップリング反応によって生成する芳香族アゾ化合物を凝集させないような方法が望まれていた。
我々は鋭意検討の結果、芳香族アゾ化合物を含む溶液に界面活性剤を添加することで、芳香族アゾ化合物を溶液中に分散させること、さらに、ジアゾカップリング反応の反応液に界面活性剤を添加することで、芳香族アゾ化合物の凝集を阻止することができることを見いだした。
【0009】
これにより、高濃度の溶液中の芳香族アゾ化合物を測定することが可能となり、また芳香族アゾ化合物の濃度を測定することにより、間接的に亜硝酸塩、芳香族第一級アミン、芳香族ジアゾニウム化合物、カップリング試薬、芳香族アゾ化合物のいずれか1つまたはそれ以上の物質の濃度を測定することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第一級アミンを塩酸などの酸の水溶液に溶かし亜硝酸塩を加えるとジアゾニウム塩が生成する(ジアゾ化)。第一級アミンが芳香族第一級アミンの場合、ジアゾニウム塩は電子供与性基を持つ芳香族の活性化置換基(カップリング試薬)のパラ位に求電子体として働き(ジアゾカップリング反応)、芳香族アゾ化合物を生じる。
芳香族アゾ化合物は高度に共役しているため、可視領域に吸収波長を持っていることが多い。これを利用し、反応溶液中の芳香族アゾ化合物を測定することができる。
しかしながら、芳香族アゾ化合物は結晶化しやすいため、濃度が高いと凝集しやすくなる。凝集がおこる濃度には化合物によって差があるが、例えば、亜硝酸ナトリウム、パラクロロアニリン、スルファミン酸アンモニウム、N(1−ナフチル)エチレンジアミン二塩酸塩から製造される芳香族アゾ化合物を例に挙げると、0.2μmol/ml以上であれば凝集がおこる。凝集がおこった場合は吸光度が減少するため、正しい吸光度測定ができない。凝集が目視で確認できれば芳香族アゾ化合物を希釈して再度測定をおこなえば良いが、凝集が軽微な場合は目視で判断できないこともあり、この場合は誤った測定値を出してしまうこととなる。
我々は鋭意検討の結果、芳香族アゾ化合物の濃度が高い場合でも凝集を生成させず濃度測定をする方法を見いだした。具体的には、芳香族アゾ化合物を含む溶液に界面活性剤を添加することで、芳香族アゾ化合物を溶液中に分散可能であることを見いだした。さらに、ジアゾカップリング反応を利用して芳香族アゾ化合物を生成させる場合は、反応液に界面活性剤を添加することで、芳香族アゾ化合物の凝集を阻止できることを見いだした。すなわち、界面活性剤をジアゾカップリング反応の終了後に添加して既に凝集した芳香族アゾ化合物を溶液中に分散する方法を採っても良いし、カップリング試薬の溶液に添加してその溶液をジアゾカップリング反応に用いて、界面活性剤の存在下でジアゾカップリング反応を行うことにより、あらかじめ芳香族アゾ化合物の凝集を阻止する方法を採ってもよく、いずれの方法を用いても芳香族アゾ化合物を水溶液に可溶化できることを見いだした。なお、前者の場合は、ジアゾカップリング反応後の溶液中に界面活性剤が1.5体積%以上、好ましくは2体積%以上の濃度で存在しているとよい。界面活性剤の作用について、詳細な機構は不明であるが、凝集した芳香族アゾ化合物は水と親和性のある極性溶媒、非極性溶媒のどちらを加えても十分に分散させられず、また酸性試薬を加えて塩の状態としても分散不可能であったが、界面活性剤を添加した場合にのみ、芳香族アゾ化合物の凝集を阻止することができた。
【0011】
界面活性剤は親水基と疎水基を持つ両親媒性の分子であり、疎水性物質と親水性物質を均一に混合させる作用を持つ。界面活性剤としては、芳香族アゾ化合物を水に可溶化することができるならばどれを用いても良く、イオン性、非イオン性、両性イオン性のいずれでも良い。
【0012】
負に荷電したイオン性界面活性剤としては、水に溶解したときに親水部分が陰イオンに電離する界面活性物質ならばどれでも使用でき、例えば、胆汁酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、コール酸ナトリウムや、N−メチルグリシンと脂肪酸の結合物であるアシルサルコシン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)のようなアルキル硫酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0013】
正に荷電したイオン性界面活性剤としては、水に溶解したときに親水部分が陽イオンに電離する界面活性物質ならばどれでも使用でき、例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミドや、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)のようなトリメチルアンモニア基を含むカチオン性界面活性剤などを用いることができる。
【0014】
両性界面活性剤としては、水に溶解してイオンに解離し、分子内に陽イオン性官能基と陰イオン性官能基を有する界面活性物質であればどれでも使用でき、例えばリン脂質であるレシチン、ホスファチジルエタノールアミン、レゾレシチンや、イミダゾリン型、アミドプロピルベタイン型、スルホベタイン型、アミドアミンオキシド型、CHAPS、ZWITTERGENTなどを用いることができる。
【0015】
非イオン性界面活性剤は、その構造により、エステル型、エーテル型(エトキシレート型ともいう)、エステル・エーテル型(ポリエチレングルコール型ともいう)などに分類されるが、水溶液中でイオンに解離する基をもたない界面活性剤であればいずれをも用いることもできる。エステル型としては例えば、グリセリン、ソルビトール、ショ糖などの脂肪酸エステルがあり、エーテル型としては高級アルコール、アルキルフェノールなど水酸基をもつ原料に、酸化エチレン(エチレンオキシド)を付加重合したものを使用することができる。エステル・エーテル型としては、脂肪酸や多価アルコール脂肪酸エステルに酸化エチレンを付加したものなどが挙げられる。その他の非イオン界面活性化剤として、親水基と親油基がアミド結合で結合した脂肪酸アルカノールアミドや、糖類を原料とするアルキルポリグルコシドなどもある。アシルソルビタンのようなスパン(Span)系界面活性剤やアラセル(Arlacel)系界面活性剤、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類であるツィーン(Tween)系界面活性剤、ポリオキシエチレンp−t−オクチルフェニルエーテル類であるトリトン(Triton)系界面活性剤、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテルのようなBrij系界面活性剤なども非イオン性界面活性剤である。なお、ジアゾカップリング反応を用いたエンドトキシン測定法において全血に界面活性剤であるTriton−Xを添加することがあるが、これはエンドトキシンレセプターを遊離させるなど、血液中に存在する阻害因子を除去するために使用されるのであって、芳香族アゾ化合物を可溶化する目的で使用されるのではない。
界面活性剤は、芳香族アゾ化合物を水に可溶化することができるならば使用時の濃度は問わない。芳香族アゾ化合物を含む溶液中、またはジアゾカップリング反応後の溶液中に含まれている界面活性剤の量が1体積%以下では芳香族アゾ化合物が凝集してしまう可能性があるが、1.5体積%以上であれば十分であり、2体積%以上であれば好ましい。ピペッティング操作の面から、粘性のある界面活性剤を利用する場合には添加の際の濃度が20体積%以下であることが好ましいが、最終濃度は20体積%以上であっても、芳香族アゾ化合物の分散に影響はない。
【0016】
ジアゾカップリング反応では、ジアゾ化反応において芳香族第一級アミンと亜硝酸塩が反応してジアゾニウム化合物を生成することができる程度の時間が経過すれば、次のカップリング反応工程に進むことができる。ただし、分解する恐れのあるジアゾニウム化合物の場合は、分解してしまう前にカップリング反応をおこなうか、または氷冷してジアゾ化反応をおこなうべきである。
【0017】
亜硝酸塩としては、亜硝酸、亜硝酸エステル、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどが使用でき、使用時は酸性の水溶液に溶解することが好ましい。亜硝酸塩を溶解するための液体としては、塩酸水溶液、硫酸水溶液など、酸性水溶液であればいずれをも用いることができる。
【0018】
芳香族第一級アミンとしてはパラクロロアニリン、スルファニルアミド、スルファニル酸などを使用することができる。
【0019】
ジアゾニウム化合物としては、亜硝酸塩と芳香族第一級アミンのジアゾ化反応により生成可能な化合物であれば、いずれをも用いることができる。
カップリング試薬としては、ジアゾニウム化合物と反応してアゾ化合物を生じるような物質であれば良い。例えばジアゾニウム化合物が求電子的置換反応をすることができるような電子供与性基を持つ芳香族化合物があげられ、具体的には、ナフチルエチレンジアミンやα−ナフチルアミンなどのアミノアリール化合物やフェノール化合物などが利用できる。
また、本発明に係る測定の方法においては、溶液中の吸光度を測定する方法があり、かかる溶液中の吸光度を測定する方法としては常法が用いられるが、吸光度測定により未知濃度の溶液中芳香族アゾ化合物の濃度を知るためには、例えば、既知濃度の芳香族アゾ化合物を含む溶液(標準液)の吸光度を測定し、芳香族アゾ化合物を含む未知濃度の溶液の吸光度を測定して吸光度を比較するなどすれば良い。
さらに、溶液中の芳香族アゾ化合物の濃度を測定することによって、アゾ化合物の原材料となる亜硝酸塩、芳香族第一級アミン、芳香族ジアゾニウム化合物、カップリング試薬の濃度を間接的に測定することもできる。つまり、ジアゾ化反応、ジアゾカップリング反応に使用した試薬の種類と量が同じであれば、最終生成物(芳香族アゾ化合物)の量は、原材料の量に比例することを利用できる。例えば、未知濃度の亜硝酸塩を含む溶液中の亜硝酸塩濃度を測定する場合は、同じ種類の濃度既知である亜硝酸塩を含む溶液を用意し、未知濃度溶液、既知濃度溶液ともに、同じ試薬、同じ量でジアゾ化反応、ジアゾカップリング反応をおこない、最終生成物である芳香族アゾ化合物の濃度を測定、比較して原材料である亜硝酸塩の量を決定することができる。
【実施例】
【0020】
[比較例1]
高濃度の芳香族アゾ化合物を生成させる系として、複数濃度のパラクロロアニリン標準液を用意し、このパラクロロアニリンに対して、亜硝酸ナトリウム、スルファミン酸アンモニウム、N(1−ナフチル)エチレンジアミン二塩酸塩を過剰量添加する方法を企画した。
具体的な方法を下記する。
<反応溶液の準備>
サンプル:パラクロロアニリン(分子量:127.57)を塩酸(6N−HCl)に溶解し、濃度が1000、500、250、125、62.5、31.25、15.625nmol/mlとなるよう調製する。
A液:亜硝酸ナトリウム(分子量:69.00)4.8 mg(69.5μmol)に塩酸(0.5N−HCl)を12ml添加する。
B液:スルファミン酸アンモニウム(分子量:114.12)36mg(315.4μmol)に対して水(HO)12mlを添加。
C液:N(1−ナフチル)エチレンジアミン二塩酸塩(分子量:259.17)8.4 mg(32.4μmol)に対して水(HO)12mlを添加。
<ジアゾ化反応>
サンプル100μlにA液 100μlを添加・攪拌混合し、5分後にB液100μlを添加・攪拌混合した。
<カップリング反応>
B液添加の5分後にC液100μlを添加・攪拌混合した。
<吸光度測定>
カップリング反応から20〜50分後に545nmで溶液の吸光度を測定した結果を表1に示す。
表中、凝集の生成を確認できたものについて「*」印を付した。
C液添加から時間を経れば吸光度は増すものの、芳香族アゾ化合物が凝集してしまい、正しい吸光度測定ができなくなった。
これより、芳香族アゾ化合物の濃度が高い場合には凝集が生成しやすいことが判明した。
【0021】
【表1】

【0022】
[比較例2]
比較例1におけるサンプルを次の方法で調整し、それ以外は比較例1と同じ操作をおこなった。
サンプル:パラクロロアニリンが100μmol/mlとなるよう塩酸(6N−HCl)に溶解した。次に、パラクロロアニリンの濃度が1000、500、250、125、62.5、31.25、15.625 nmol/mlとなるよう、水(HO)で調製した。
カップリング反応から20〜50分後に545nmで吸光度を測定した結果を表2に示す。
表中、沈殿生成を確認できたものについて「*」印を付した。
C液添加から時間を経ると、吸光度はわずかに減少する傾向にあった。また、比較例1よりも吸光度が高くなった。
しかしながら、パラクロロアニリン濃度が1000nmol/mlでは芳香族アゾ化合物が沈殿してしまい、正しい吸光度測定ができなくなることが判明した。
比較例1,2より、塩酸濃度が高い場合は凝集が生成しやすいことが判明した。
【0023】
【表2】

【0024】
[比較例3]
不溶化したジアゾカップリング反応の最終生成物を可溶化させるための試薬を検討した。
比較例1と同じ方法でジアゾカップリング反応をおこなったが、比較例1におけるサンプルを、塩酸(6N−HCl)で溶解した10μmol/mlパラクロロアニリンとし、また、C液を添加後すぐにD液を100μlずつ添加し、凝集が生成するか否かを観察した。D液としては、水と混じり合う溶媒としてアセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールを選択した。これは、芳香族アゾ化合物が疎水化しているのではないかという予想に基づく。
D液が塩酸(6N−HCl)の場合はD液添加後5分以内で凝集が生成したが、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールのいずれも、凝集の生成はD液添加後10〜20分後であった。
[比較例4]
比較例3におけるD液を水(HO)とし、不溶化したジアゾカップリング反応の最終生成物を可溶化させるための試薬を検討した。これは、酸濃度が低くなることで芳香族アゾ化合物が塩として水溶液中にとけ込むことができなくなり、結果として凝集速度が早まるのではないかいう予想に基づく。
結果は予想とは逆で、凝集が確認されたのは、D液としての水(HO)を添加してから10〜20分後であった。
詳細な機構は不明であるが、比較例3,4より、溶液中の酸濃度を低下させることによって芳香族アゾ化合物が凝集する速度を遅くすることができるが、完全に可溶化することはできないことがわかった。
[実施例1]
比較例3におけるD液をツィーン20(Tween20)とし、不溶化したジアゾカップリング反応の最終生成物を可溶化させるための試薬を検討した。これは、疎水化した芳香族アゾ化合物を界面活性剤の作用により可溶化させることができるのではないかという予想に基づく。
結果として、D液をTween20とした場合、50分経過後も凝集は確認されなかった。
これより、Tween20のような界面活性剤を使用することで芳香族アゾ化合物を水溶液に可溶化できることが判明した。
[実施例2]
実施例1記載のB液、C液作製時に使用する水(HO)を、Tween20を添加した水(HO)に置き換えてジアゾカップリング反応をおこない、凝集の生成状況を観察した。
結果を表3に示す。
Tween20の濃度が1体積%以下の場合は40分以内に凝集が出現したが、5体積%以上では、C液添加から90分以上経っても凝集が生成しないことが判明した。これにより、界面活性剤を含む試薬を使用してジアゾカップリング反応をおこなうことでも、芳香族アゾ化合物の凝集を阻止できることが確認できた。
また、Tween20の濃度が高いほど、吸光度が最大値となるまでの時間が遅くなることが判明した。
【0025】
【表3】

【0026】
[実施例3]
実施例2記載のTween20濃度を5体積%とし、表4記載の濃度でパラクロロアニリンの吸光度を30回測定した結果、3.906〜1500nmol/mlの範囲で測定できることがわかった。(結果を表4に示す)。
3.906nmol/ mlの吸光度の平均±3sd値が0nmol/mlおよび7.813nmol/mlの平均±3sd値に重ならないことから、検出感度は3.906nmol/ml以上である。
また、2000nmol/mlの濃度で調製したサンプルは、分光光度計の測定値をオーバー(測定不可能)した。
【0027】
【表4】

【0028】
〔実施例4〕
実施例1におけるD液をポリオキシエチレン(5)ノニルフェニルエーテルの5重量%水溶液、ポリオキシエチレン(15)ノニルフェニルエーテルの5重量%水溶液、ブリッジ56、58、76、78(Brij56、58、76、78)の5重量%水溶液、トリトン114、305、405、705(Triton114、305、405、705)、ツィーン80(Tween80)とし、不溶化したジアゾカップリング反応の最終生成物を可溶化できるか否か検討したところ、50分経過後も凝集は確認されなかった。
これより、Tween20以外の非イオン系界面活性剤でも、水溶液中における芳香族アゾ化合物の濃度測定を可能にすることが示された。
〔実施例5〕
実施例1におけるD液をドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の5重量%水溶液とし、不溶化したジアゾカップリング反応の最終生成物を可溶化できるか否か検討したところ、50分経過後も凝集は確認されなかった。
これより、陰イオン性界面活性剤でも、水溶液中における芳香族アゾ化合物の濃度測定を可能にすることが示された。
〔実施例6〕
実施例1におけるD液をチャップス(CHAPS)の5重量%水溶液とし、不溶化したジアゾカップリング反応の最終生成物を可溶化できるか否か検討したところ、50分経過後も凝集は確認されなかった。
これより、両性界面活性剤でも、水溶液中における芳香族アゾ化合物の濃度測定を可能にすることが示された。

実施例1〜6より、界面活性剤によって芳香族アゾ化合物を水溶液に可溶化し、水溶液中芳香族アゾ化合物の濃度測定を可能にすることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中における芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法であって、前記芳香族アゾ化合物を含む水溶液中の界面活性剤の濃度が1.5体積%以上であることを特徴とする、前記溶液中の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法。
【請求項2】
前記水溶液がジアゾカップリング反応後の溶液であって、前記水溶液中のジアゾカップリング反応後の溶液中の界面活性剤の濃度が1.5体積%以上であることを特徴とする、請求項1記載の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法。
【請求項3】
前記水溶液がジアゾカップリング反応の反応液であって、前記ジアゾカップリング反応を界面活性剤の存在下でおこなうことを特徴とする、請求項1または2記載の芳香族アゾ化合物の濃度を測定する方法。
【請求項4】
亜硝酸塩および芳香族第一級アミンをジアゾ化反応させることにより得られた芳香族ジアゾニウム化合物をカップリング試薬と作用せしめるジアゾカップリング反応により製造される芳香族アゾ化合物の濃度を請求項1〜3いずれか記載の方法により測定することにより、前記亜硝酸塩、芳香族第一級アミン、芳香族ジアゾニウム化合物およびカップリング試薬の少なくともいずれか1つの濃度を測定する方法。

【公開番号】特開2009−98116(P2009−98116A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85858(P2008−85858)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】