説明

芳香族アミン化合物の製造方法

【課題】本発明は、遷移金属を使用することなくカップリング反応により効率的に芳香族アミン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子の存在下に、窒素上に脱離基を有するアミン類及び芳香族マグネシウム化合物を反応させることを特徴とする芳香族アミン化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族マグネシウム化合物と窒素上に脱離基を有するアミン類とを反応させて芳香族アミン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族アミン類は、医薬品、機能性材料、農薬等の製造原料などに広く用いられており、その効率的な合成方法が望まれていた。芳香族アミン類の合成方法としては、例えば、遷移金属(Pd、Cu等)触媒の存在下にアミンと芳香族ハライドとをカップリング反応させて炭素−窒素(C-N)を形成する方法(例えば、非特許文献1、2等)、遷移金属(Cu等)触媒の存在下に、脱離基を有するアミンと芳香族金属(Mg、Li、B、Sn、Zn等)試薬をカップリング反応させて炭素−窒素(C-N)を形成する方法(例えば、非特許文献3〜7等)等が報告されている。しかし、これらの合成方法は、いずれも遷移金属を用いて反応させるため、製造される芳香族アミン類に遷移金属が残存する可能性がある。そのため、より純度の高い材料が求められる用途には不都合が生じる。
【0003】
また、遷移金属触媒を用いずに芳香族アミン類を合成する方法として、例えば、非特許文献8には、N,N-ジアルキル-O-アリールスルホニルヒドロキシルアミンにアリール金属(Mg、Li)試薬を反応させて(求電子的アミノ化反応)、芳香族アミン類を製造する方法が記載されている。しかし、この方法では収率が低くかつ原料の反応性に大きく依存することが確認された。
【0004】
非特許文献9には、N-クロロベンジルアミン類にアリールマグネシウム試薬を反応させて芳香族アミン類を製造する方法が記載されている。しかし、非特許文献9のp3306の左カラムには、このアミノ化工程はベンジルN-クロロアミンのみに限定されることが記載されており、アミンの原料としてベンジルアミン構造が必須である。そのため、本方法は原料の基質依存性が高いため汎用性に欠けることが分かる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Adv. Synth. Catal. 2004, 346, 1599-1626
【非特許文献2】Angew. Chem. Int. Ed., 1998, 37, 2046-2067
【非特許文献3】J. Org. Chem., 2006, 71, 219-224
【非特許文献4】Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 6414-6417
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, 5680-5681
【非特許文献6】J. Org. Chem., 2005, 70, 364-366
【非特許文献7】Org.Lett., 2008, 10(14), 3005-3008
【非特許文献8】Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 17(1978) No.9, p687
【非特許文献9】Synlett 2006, No. 19, pp3304-3308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遷移金属を使用することなくカップリング反応により効率的に芳香族アミン化合物を製造する方法を提供することを目的とする。特に、芳香族マグネシウム化合物と脱離基を有するアミン類とを反応させて高収率で芳香族アミン化合物を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した如き課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ジメトキシエタン(DME)等の配位能を有する化合物の存在下に、芳香族マグネシウム化合物と窒素上に脱離基を有するアミン類(例えば、N-ハロゲン化合物)を反応させることにより、極めて高収率でN-Cカップリング成績体、即ち芳香族アミン化合物を製造できることを見出した。かかる知見に基づき、さらに検討を加えた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の芳香族アミン化合物の製造方法を提供する。
【0008】
項1. 酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子の存在下に、窒素上に脱離基を有するアミン類及び芳香族マグネシウム化合物を反応させることを特徴とする芳香族アミン化合物の製造方法。
【0009】
項2. 前記配位子が、キヌクリジン、N,N-ジアルキルアミノピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ヘキサメチレンテトラミン(HMTA)、4-ピロリジノピリジン、4-ピペリジノピリジン、及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【0010】
項3. 前記配位子が、ジオキサン、
【0011】
【化1】

【0012】
O−(CHR2−OR (3c)
N−(CHR2−NR (3d)
O−(CHR2−NR (3e)
O−(CHR2−O−(CHR2−OR (3f)
N−(CHR2−O−(CHR2−NR (3g)
N−(CHR2−NR−(CHR2−NR (3h)
O−(CHR2−O−(CHR2−O−(CHR2c−OR (3i)
(式中、a、b及びcは独立して2又は3を示す。Rは同一又は異なってアルキル基を示し、R2は同一又は異なって水素原子またはアルキル基を示す。或いは、RとR2は結合して環を形成していてもよく、又は、2つのR2が結合して環を形成してもよい。)
で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【0013】
項4. 前記配位子が、DMAP、HMTA、ジオキサン、DME、及びTMEDAからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【0014】
項5. 前記窒素上に脱離基を有するアミン類が、式(1):
N−X (1)
(式中、Xは脱離基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、或いは2つのR基が結合して隣接する窒素原子と共に環を形成してもよく、該環にはヘテロ原子を含んでいてもよく、該環には置換基を有していてもよい。)
で表されるアミン類である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
項6. 式(1)においてXがハロゲン原子である請求項5に記載の製造方法。
【0016】
項7. 前記芳香族マグネシウム化合物が、式(2):
Ar−MgY (2)
又は、式(3):
ArMg (3)
(式中、Arは、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Yはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、上記所定の配位子の存在下で、芳香族マグネシウム化合物と脱離基を有するアミン類とを反応さることにより、高収率で芳香族アミン化合物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の芳香族アミン化合物の製造方法は、酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子の存在下に、窒素上に脱離基を有するアミン類及び芳香族マグネシウム化合物を反応させることを特徴とする。即ち、該アミン類が芳香族マグネシウム化合物の求核攻撃を受けて窒素上の脱離基が芳香族基で置換される反応、いわゆる求電子的置換反応を経て進行する。
【0019】
窒素上に脱離基を有するアミン類
窒素上に脱離基を有するアミン類としては、窒素上に少なくとも1つの脱離基を有するアミン類であればよく、本発明の製法に悪影響を与えない範囲で広範なアミン類を用いることができる。該アミン類は、窒素上に1又は2個の脱離基を有するものが挙げられ、好ましくは窒素上に1個の脱離基を有するものである。また、該アミン類は、該脱離基を有する窒素を1個又は2個以上有していてもよい。好ましくは1個である。
【0020】
該脱離基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等のハロゲン原子(特にフッ素原子)で置換されていても良いアルキル(特にC1〜C3アルキル)スルホニルオキシ基;ベンゼンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基、キシレンスルホニルオキシ基、メシチレンスルホニルオキシ基等のアリールスルホニルオキシ基;アセトキシ基,トリフルオロアセトキシ基,ベンゾイルオキシ基等のアシロキシル基が例示される。好ましい脱離基として、ハロゲン原子が挙げられ、特に好ましくは塩素原子である。
【0021】
窒素上に脱離基を有するアミン類としては、例えば、式(1):
N−X (1)
(式中、Xは脱離基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、或いは2つのR基が結合して隣接する窒素原子と共に環を形成してもよく、該環にはヘテロ原子を含んでいてもよく、該環には置換基を有していてもよい。)
で表されるアミン類が挙げられる。
【0022】
Xで示される脱離基としては上記のものが挙げられる。好ましくはハロゲン原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0023】
Rで示される置換されていてもよいアルキル基のアルキル基としては、C1〜C20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、デシル等のC1〜C10のアルキル基が挙げられる。該アルキル基は、本反応に悪影響を与えない範囲で、置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、保護されていてもよい水酸基、アリール基(例えばフェニル基)、アルコキシ基、エステル基、オキソ基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基の数は特に限定はないが、通常1〜5個程度である。
【0024】
Rで示される置換されていてもよいアルケニル基のアルケニル基としては、C2〜20の直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基が挙げられる。具体的には、ビニル、アリル、クロチル、メタリル、プレニル、ブタジエニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル等のC1〜10のアルケニル基が挙げられる。該アルケニル基は、本反応に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、保護されていてもよい水酸基、アリール基(例えばフェニル基)、アルコキシ基、エステル基、オキソ基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基の数は特に限定はないが、通常1〜5個程度である。
【0025】
Rで示される置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、単環又は2環以上のアリール基が挙げられる。具体例として、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基等が挙げられる。該アリール基は、本反応に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、エステル基、オキソ基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基の数は特に限定はないが、通常1〜5個程度である。
【0026】
Rで示される置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、単環又は2環以上のヘテロアリール基が挙げられる。ヘテロ原子として、例えば酸素、窒素、硫黄等が挙げられる。具体例として、チエニル基、フリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基等が例示される。該ヘテロアリール基は、本反応に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、エステル基、オキソ基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基の数は特に限定はないが、通常1〜5個程度である。
【0027】
2つのR基が結合して隣接する窒素原子と共に環を形成する場合、該環としては、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環等が挙げられる。該環は、本反応に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、保護されていてもよい水酸基、アリール基(例えばフェニル基)、アルコキシ基、エステル基、オキソ基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基の数は特に限定はないが、通常1〜5個程度である。
【0028】
窒素上に脱離基を有するアミン類は、公知の方法により製造することができる。例えば、脱離基(X)がハロゲン原子であるアミン類は、N−H構造を有するアミン類を、ハロゲン化試薬を用いてN−X構造を有するアミンに変換して製造することができる。ハロゲン化試薬としては、例えば、N−クロロコハク酸イミド(NCS)、N−ブロモコハク酸イミド(NBS)、N−ヨードコハク酸イミド(NIS)等のN−ハロコハク酸イミド、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、フッ素、塩素、臭素等が挙げられる。好ましくは次亜塩素酸ナトリウム、NCS、塩素である。ハロゲン化試薬は、N−H構造を有するアミン類のN−H構造1モルに対して、通常1〜3モル程度用いればよい。
【0029】
また、脱離基が、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、又はアシロキシル基であるアミン類は、ヒドロキシルアミノ基(N−OH構造)を有する化合物に、対応するスルホニルハライド、アシルハライド等を反応させて製造することができる。
【0030】
芳香族マグネシウム化合物
芳香族マグネシウム化合物としては、広く芳香族のsp炭素とマグネシウムの結合を有する化合物であれば特に限定はない。芳香族マグネシウム化合物として、例えば、置換されていてもよいアリールマグネシウム化合物、置換されていてもよいヘテロアリールグネシウム化合物等が挙げられる。
【0031】
芳香族マグネシウム化合物として、例えば、式(2):
Ar−MgY (2)
(式中、Arは、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Yはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物が挙げられる。式(2)はさらにLiY’(式中、Y’はハロゲン原子を示す。)との塩(錯体)を形成していても良い。
【0032】
或いは、又は、式(3):
ArMg (3)
(式中、Arは前記に同じ。)
で表される化合物を用いても良い。式(3)はさらにエーテル化合物(1,4−ジオキサン、THF等)と錯体を形成していてもよい。
【0033】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、単環又は2環以上のアリール基が挙げられる。具体例として、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基等が挙げられる。該アリール基は、本反応に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、エステル基、オキソ基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基の数は特に限定はないが、通常1〜5個程度である。
【0034】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、単環又は2環以上のヘテロアリール基が挙げられる。ヘテロ原子として、例えば酸素、窒素、硫黄等が挙げられる。具体例として、チエニル基、フリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基等が例示される。該ヘテロアリール基は、本反応に悪影響を与えない範囲で置換基を有していてもよい。該置換基としては、例えば、保護されていてもよい水酸基、アルコキシ基、エステル基、オキソ基、シアノ基、アシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。置換基の数は特に限定はないが、通常1〜5個程度である。
【0035】
Yで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子又は臭素原子である。
【0036】
Y’で示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子又は臭素原子である。
【0037】
芳香族マグネシウム化合物は、公知の方法により製造することができる。例えば、上記式(2)で表される化合物は、溶媒(THF、ジエチルエーテル等)中、芳香族ハライド化合物にマグネシウムを反応させて調製することができる。また、芳香族ハライド化合物をリチウム試薬(例えば、金属リチウム、n-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム等)で還元して芳香族リチウム化合物とし、これにハロゲン化マグネシウム(MgY、式中Yはハロゲン原子を示し、特に塩素原子又は臭素原子である。)を反応させて、芳香族マグネシウム化合物とすることもできる。また、芳香族ハライド化合物に、iPrMgCl・LiCl等のアルキルマグネシウム化合物を反応させて、直接芳香族マグネシウム化合物を調製することもできる(非特許文献9を参照)。また、上記式(3)で表される化合物は、例えば、Journal of Organometallic Chemistry, 292 (1985) 325-333、Organometallics 2001, 20, 1569-1574等の記載に準じて調製することができる。
【0038】
配位子
酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子は、上記の窒素上に脱離基を有するアミン類及び芳香族マグネシウム化合物のカップリング反応を促進する働きを有する。該配位子としては、分子内に、エーテル結合単位(C−O−C)、第3アミンの構成単位(C−N(−C))、ピリジン環等の含窒素ヘテロ芳香環等から選ばれる2以上を有しているものが好ましい。上記式中、Cは炭化水素の炭素原子を意味する。
【0039】
配位子の具体例としては、キヌクリジン、N,N-ジアルキルアミノピリジン(特に、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP))、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ヘキサメチレンテトラミン(HMTA)、4-ピロリジノピリジン、4-ピペリジノピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)等が挙げられる。これらは、立体が規制された構造を有し窒素原子の配位能が高くなっているため、単座配位であってもマグネシウムに強く配位して反応を促進していると考えられる。例えば、これらの化合物のpKb(水中)は1〜6程度であり、好適には2〜5程度である。
【0040】
配位子の他の具体例としては、ジオキサン、
【0041】
【化2】

【0042】
O−(CHR2−OR (3c)
N−(CHR2−NR (3d)
O−(CHR2−NR (3e)
(式中、aは2又は3を示す。Rは同一又は異なってアルキル基を示し、R2は同一又は異なって水素またはアルキル基を示す。或いは、RとR2は結合して環を形成していてもよく、2つのR2が結合して環を形成してもよい。)
で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、マグネシウムに2座配位すると考えられる。
【0043】
で示されるアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル等のC1〜C6(特にC1〜C3)のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル又はエチルである。aは好ましくは2である。Rで示されるアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル等のC1〜C6(特にC1〜C3)のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル又はエチルである。aは好ましくは2である。
【0044】
式(3a)で表される化合物として、好ましくはN-メチルモルホリンである。
【0045】
式(3b)で表される化合物として、好ましくはN,N’-ジメチルピペラジンである。
【0046】
式(3c)で表される化合物として、好ましくはジメトキシエタン(DME)である。
【0047】
式(3d)で表される化合物として、好ましくはN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)である。RとR2が結合して環を形成した化合物としては、式(3d1):
【0048】
【化3】

【0049】
(式中、nは0、1又は2を示し、Rは前記に同じ。)
で表される化合物が挙げられる。好ましくはnが1、Rがメチルである化合物である。また、2つのR2が結合して環を形成した化合物としては、式(3d2):
【0050】
【化4】

【0051】
(式中、mは0、1又は2を示し、Rは前記に同じ。)
が挙げられ、好ましくはmが1、Rがメチルである化合物である。
【0052】
式(3e)で表される化合物として、好ましくは2-メトキシ-(N,N-ジメチル)エチルアミンである。
【0053】
配位子の他の具体例としては、
O−(CHR2−O−(CHR2−OR (3f)
N−(CHR2−O−(CHR2−NR (3g)
N−(CHR2−NR−(CHR2−NR (3h)
O−(CHR2−O−(CHR2−O−(CHR2c−OR (3i)
(式中、b及びcは2又は3を示し、R、R2及びaは前記に同じ。)
で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、マグネシウムに3座配位すると考えられる。
【0054】
で示されるアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル等のC1〜C6(特にC1〜C3)のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル又はエチルである。Rで示されるアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル等のC1〜C6(特にC1〜C3)のアルキル基が挙げられ、好ましくはメチル又はエチルである。a及びbは好ましくは2である。
【0055】
式(3f)で表される化合物として、好ましくはジグライムである。
【0056】
式(3g)で表される化合物として、好ましくはビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテルである。
【0057】
式(3h)で表される化合物として、好ましくはN,N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDTA)である。
【0058】
式(3i)で表される化合物として、好ましくはトリグライムである。
【0059】
上記のうち好ましい配位子としては、DMAP、DABCO、HMTA、ジオキサン、上記(3a)〜(3e)で表される化合物(特に、DME、TMEDA)である。特に好ましくは、DMAP、ジオキサン、DME、TMEDAである。
【0060】
反応条件
本発明の製造方法では、通常、溶媒中で、酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子の存在下に、窒素上に脱離基を有するアミン類及び芳香族マグネシウム化合物を反応させる。典型的には、例えば、下記式で表すことができる。
【0061】
【化5】

【0062】
(式中、R、X、Ar及びYは前記に同じ。)
本反応で用いうる溶媒としては、上記の配位子をそのまま溶媒として用いることが可能である。しかし、経済性、取り扱い性観点から、溶媒として汎用される溶媒を用いて、上記の配位子を所定量添加して反応させることが好ましい。溶媒としては、本反応に悪影響を及ぼさない溶媒であれば特に限定はない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、tert-ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)等のエーテル系溶媒が挙げられる。上記の溶媒中で、好ましくはTHF、トルエン、ジオキサン、DMEである。
【0063】
反応液中における窒素上に脱離基を有するアミン類の濃度は、通常、0.1〜3.0モル/L程度、好ましくは0.3〜2.0モル/L程度である。この範囲において反応は好適に進行する。
【0064】
芳香族マグネシウム化合物の使用量は、窒素上に脱離基を有するアミン類に含まれる脱離基を有する窒素原子1モルに対し、通常1〜3モル程度、好ましくは1〜2モル程度、より好ましくは1〜1.5モル程度である。なお、該アミン類が分子内に脱離基を有する窒素原子を1個有する場合は、芳香族マグネシウム化合物の使用量は該アミン類1モルに対して、通常1〜3モル程度、好ましくは1〜2モル程度、より好ましくは1〜1.5モル程度である。
【0065】
酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子の使用量は特に限定はなく広範は範囲から選択することができる。原料の窒素上に脱離基を有するアミン類に対し、触媒量から量論量、さらに反応溶媒に相当する量を用いても良い。具体的には、配位子の使用量は、窒素上に脱離基を有するアミン類1モルに対して、0.05モル以上、好ましくは0.1〜50モル、より好ましくは0.1〜10モルである。特に経済性を考慮すれば、0.2〜3モルが好適である。
【0066】
本反応の典型的な反応操作としては特に限定はないが、反応系において、芳香族マグネシウム化合物と窒素上に脱離基を有するアミン類が反応する際には、酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子が共存していることが好ましい。例えば、窒素上に脱離基を有するアミン類及び該配位子を含む溶液中に、芳香族マグネシウム化合物を添加する方法が挙げられる。また、芳香族マグネシウム化合物及び該配位子を含む溶液中に、窒素上に脱離基を有するアミン類を添加する方法が挙げられる。
【0067】
本反応における反応温度は特に限定はなく、通常−78〜80℃の範囲を広く選択できる。好ましくは−78〜30℃である。反応時間は、通常、1〜48時間、特に1〜12時間である。反応は、無水かつ不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気下で行うことが好ましい。
【0068】
本反応終了後は公知の後処理操作により、目的のカップリング成績体である芳香族アミン化合物(例えば、上記式(4)で表される化合物)を取得する。通常、反応液を酸でクエンチして、有機溶媒で抽出、クロマトグラフィー、再結晶、蒸留、トリチュレーション等で単離又は精製される。本発明の方法によれば、高収率かつ高選択的に目的とする芳香族アミン化合物を製造することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に詳細に説明する。
【0070】
製造例1(N-クロロピペリジンの製造)
ピペリジン(4.258g,50mmol)のメチルt-ブチルエーテル溶液(150ml)に,0℃で,t-ブタノール(1.853g,25mmol),酢酸(3.002g,50mmol)及び次亜塩素酸ナトリウム溶液(75mL,50mmol,5w/w%)を加えて,同温で3時間撹拌した。有機層を水,飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムを用いて乾燥し,標記化合物(4.255g,収率71%)を得た。
H NMR δ 1.45(brs,2H),1.71(quint,J=5.6Hz,4H),3.12(brs,4H)
製造例2(3-エトキシカルボニル-N-クロロピペリジンの製造)
ピペリジンに代えて3-エトキシカルボニルピペリジンを用いること以外は、製造例1と同様にして標記化合物を製造した。
H NMR δ 1.26(t,J=7.3Hz,3H),1.52(brs,1H)1.73-1.82(m,2H),1.92(brs,1H),2.70-2.80(m,1H),2.87(brs,1H),3.02(brs,1H),3.33(brs,1H),3.56(brs,1H),4.15(q,J=7.3Hz,2H)
実施例1
[エントリー7]N-(4-メチルフェニル)ピペリジンの調製
N-クロロピペリジン(59.6mg,0.50mmol)及びN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(145.2mg,1.25mmol)のTHF溶液(2ml)に,アルゴン雰囲気下,−78℃で,4-メチルフェニルマグネシウムブロミドのTHF溶液(1mL,0.625mmol,0.625M)を添加した。同温で4時間撹拌した後,反応混合物に−78℃で塩酸エーテル溶液を添加した後,室温に昇温し塩酸水溶液を加えた。ヘキサンをもちいて水層を3回洗浄した。水層を0℃に冷却し,水酸化カリウム水溶液を添加した。ジエチルエーテルを用いて水層を3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を減圧下に除去すると淡黄色液体としてN-(4-メチルフェニル)ピペリジンを得た(80.0mg,収率91%,>99%純度(GC分析))。
H NMR δ 1.52-1.59(m,2H),1.66-1.75(m,4H),2.26(s,3H),3.08(t,J=5.6Hz,4H),6.84-6.88(m,2H),7.05(d,J=8.4Hz,2H)
[エントリー1〜6,8〜16]
表1に記載の原料及び反応条件を用いて、エントリー7と同様にしてエントリー1〜6,8〜16の化合物を製造した。
【0071】
表1の結果より、反応系に所定の配位子(TMEDA等)を添加することにより、カップリング反応の収率及び選択制が劇的に向上することが確認された。
【0072】
【表1】

【0073】
実施例2
[エントリー2]N-(2-ナフチル)ピペリジンの調製
N-クロロピペリジン(119.6mg,1.00mmol)及びN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(174.3mg,1.50mmol)のTHF溶液(2.5ml)に,アルゴン雰囲気下,−40℃で,2-ナフチルマグネシウムブロミドのTHF溶液(1.23mL,1.25mmol,1.02M)を添加した。同温で6時間撹拌した後,反応混合物に−40℃で塩酸エーテル溶液を添加した後,室温に昇温し塩酸水溶液を加えた。ヘキサンをもちいて水層を3回洗浄した。水層を0℃に冷却し,水酸化カリウム水溶液を添加した。ジエチルエーテルを用いて水層を3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を減圧下に除去すると淡黄色液体としてN-(2-ナフチル)ピペリジンを得た(196.7mg,収率93%,>99%純度(GC分析))。
H NMR δ 1.57-1.65(m,2H),1.72-1.81(m,4H),3.25(t,J=5.6Hz,4H),7.12(d,J=2.6Hz,1H),7.23-7.30(m,2H),7.37(td,J=6.8,1.3Hz,1H),7.66-7.72(m,3H)
[エントリー1,3,4]
表2に記載の原料及び反応条件を用いて、エントリー2と同様にしてエントリー1,3,4の化合物を製造した。
【0074】
【表2】

【0075】
実施例3(N-フェニルピペリジンの調製)
フェニルリチウムのジブチルエーテル溶液(0.33mL,0.625mmol,1.89M)にアルゴン雰囲気下,0℃で臭化マグネシウム(115.1mg,0.625mmol)を添加した。続いてN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(87.2mg,0.75mmol)及びN-クロロピペリジン(59.8mg,0.50mmol)を添加した。同温で10時間撹拌した後,反応混合物に0℃で塩酸水溶液を加えた。ヘキサンをもちいて水層を3回洗浄した。水層を0℃に冷却し,水酸化カリウム水溶液を添加した。ジエチルエーテルを用いて水層を3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し,硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を減圧下に除去すると淡黄色液体としてN-フェニルピペリジンを得た(62.9mg, 収率78%,97%純度(GC分析))。
H NMR δ 1.52-1.61(m,2H),1.67-1.75(m,4H),3.15(t,J=5.6Hz,4H),6.78-6.84(m,1H),6.91-6.98(m,2H),7.21-7.28(m,2H)
【0076】
【化6】

【0077】
上記の結果より、芳香族リチウムを芳香族マグネシウムに変換し、かつTMEDA等の配位子を添加することにより、カップリング反応の収率が劇的に向上することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素及び窒素からなる群より選ばれる2以上のヘテロ原子を有する配位子の存在下に、窒素上に脱離基を有するアミン類及び芳香族マグネシウム化合物を反応させることを特徴とする芳香族アミン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記配位子が、キヌクリジン、N,N-ジアルキルアミノピリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、ヘキサメチレンテトラミン(HMTA)、4-ピロリジノピリジン、4-ピペリジノピリジン、及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記配位子が、ジオキサン、
【化1】

O−(CHR2−OR (3c)
N−(CHR2−NR (3d)
O−(CHR2−NR (3e)
O−(CHR2−O−(CHR2−OR (3f)
N−(CHR2−O−(CHR2−NR (3g)
N−(CHR2−NR−(CHR2−NR (3h)
O−(CHR2−O−(CHR2−O−(CHR2c−OR (3i)
(式中、a、b及びcは独立して2又は3を示す。Rは同一又は異なってアルキル基を示し、R2は同一又は異なって水素原子またはアルキル基を示す。或いは、RとR2は結合して環を形成していてもよく、又は、2つのR2が結合して環を形成してもよい。)
で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記配位子が、DMAP、HMTA、ジオキサン、DME、及びTMEDAからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記窒素上に脱離基を有するアミン類が、式(1):
N−X (1)
(式中、Xは脱離基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアリール基、又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、或いは2つのR基が結合して隣接する窒素原子と共に環を形成してもよく、該環にはヘテロ原子を含んでいてもよく、該環には置換基を有していてもよい。)
で表されるアミン類である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
式(1)においてXがハロゲン原子である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記芳香族マグネシウム化合物が、式(2):
Ar−MgY (2)
又は、式(3):
ArMg (3)
(式中、Arは、置換されていてもよいアリール基又は置換されていてもよいヘテロアリール基を示し、Yはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−209017(P2010−209017A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58274(P2009−58274)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】