説明

芳香族カルボン酸化合物の製造方法

【課題】芳香環に結合されたメチル基、メチレン基又はメチン基を有する芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸化合物を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法において、その酸化反応を促進させることができる芳香族カルボン酸化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】光照射により芳香族カルボン酸化合物(各種安息香酸誘導体)を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法において、所定のアントラキノン系化合物(2−クロロアントラキノン及び2−カルボキシアントラキノンなど)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で、所定の芳香族化合物(4−t−ブチルトルエン及びベンジルアルコールなど)を反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族カルボン酸化合物の製造方法に関し、更に詳しくは、芳香環に結合されたメチル基、メチレン基又はメチン基を有する芳香族化合物を酸化して、芳香族カルボン酸化合物を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法に関する。この芳香族カルボン酸化合物は、医薬品、殺虫剤、染料、香料等の製造中間体等として有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、光照射下において、酸素自体を酸化剤としてカルボン酸化合物を得る方法が知られている。酸素自体を酸化剤とすることで、酸化剤の取り込んだ副生成物の発生を防止できる点において優れている。
発明者らは、光照射下においてN−ブロモコハク酸イミド(以下「NBS」という)を触媒とし、酸素の存在下でトルエンメチル基をカルボン酸基へ変換する方法を示した(非特許文献1)。
更に、4−tert−ブチルトルエンを基質とし、酢酸エチル中、触媒量のLiBr存在下、紫外線照射することにより、基質のベンジル位が酸化されて4−tertブチル安息香酸を得ることを示した(非特許文献2)。
また、脂肪族アルコールを基質とし、臭化アルカリ触媒を用いて光酸素酸化を行うことで、対応する脂肪族カルボン酸が効率よく得られることを示した(非特許文献3)。更に、非特許文献3の反応を、メソポーラスシリカ、ゼオライト及びイオン交換樹脂等を担体とした触媒を用いることで促進できることを示した(非特許文献4)。
更に、より広範な基質をカルボン酸化合物の製造に利用できる光酸化触媒として、アントラセン及びアントラセン誘導体が有用であることを示した(特許文献1)。
また、光増感剤として9、10−ジシアノアントラセンを用い、紫外線照射下において各種の芳香族アルカンを分子状の酸素で酸化すると、芳香族アルカンが酸化されることが示されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−201747号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Synthesis,2289(2003)
【非特許文献2】平成14年度 日本薬学会東海支部例会講演要旨集 6頁(2002)
【非特許文献3】第29回 反応と合成の進歩シンポジウム発表要旨集 162頁(2003)
【非特許文献4】第30回 反応と合成の進歩シンポジウム講演要旨集 182頁(2004)
【非特許文献5】Tetrahedron Letters 2889−2892 (1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の各非特許文献1−5及び特許文献1は、光照射により基質を酸化してカルボン酸化合物を得る方法が示されているものの、その収率は未だ十分でない場合がある。特に芳香環に結合されたメチル基、メチレン基又はメチン基を有する芳香族化合物を酸化して、安息香酸誘導体などの芳香族カルボン酸化合物を効率よく得る方法については知られていない。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、芳香環に結合されたメチル基、メチレン基又はメチン基を有する芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸化合物を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法において、その酸化反応を促進させることができる芳香族カルボン酸化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
〈1〉光照射により、下記式(11)で表される芳香族化合物から下記式(21)で表される芳香族カルボン酸化合物、又は、下記式(12)で表される芳香族化合物から下記式(22)で表される芳香族カルボン酸化合物、を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法であって、
下記式(3)で表されるアントラキノン系化合物と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で、前記芳香族化合物を反応させることを特徴とする芳香族カルボン酸化合物の製造方法。
【化1】

[式(11)中、R11は、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R21は、メチル基又はメチロール基であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、シアノ基、又は炭素数6〜10のベンゼン骨格を有する芳香族基である。]
【化2】

[式(12)中、R12及びR13は、各々独立に、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R22及びR23は、各々独立に、メチル基又はメチロール基である。]
【化3】

[式(21)中、Rは、前記式(11)におけるRと同じである。]
【化4】

【化5】

[式(3)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はカルボキシル基である]
〈2〉前記酸は、水に対する酸解離定数(pKa)が−15〜+5である前記〈1〉に記載の芳香族カルボン酸化合物の製造方法。
〈3〉前記塩基は、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の酢酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の酢酸塩の群から選ばれる少なくとも1種である前記〈1〉に記載の芳香族カルボン酸化合物の製造方法。
〈4〉上記光は、波長300〜830nmの光を含む前記〈1〉乃至〈3〉のうちのいずれかに記載の芳香族カルボン酸化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芳香族カルボン酸化合物の製造方法によれば、芳香環に結合されたメチル基、メチレン基又はメチン基を有する芳香族化合物を酸化して芳香族カルボン酸化合物を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法において、その酸化反応を促進させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の芳香族カルボン酸化合物の製造方法は、光照射により、下記式(11)で表される芳香族化合物(以下、単に「芳香族化合物(11)」ともいう)から下記式(21)で表される芳香族カルボン酸化合物(以下、単に「芳香族カルボン酸化合物(21)」ともいう)、又は、下記式(12)で表される芳香族化合物(以下、単に「芳香族化合物(12)」ともいう)から下記式(22)で表される芳香族カルボン酸化合物(以下、単に「芳香族カルボン酸化合物(22)」ともいう)、を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法であって、
下記式(3)で表されるアントラキノン系化合物(以下、単に「アントラキノン系化合物(3)」ともいう)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で、前記芳香族化合物を反応させることを特徴とする。
【化6】

[式(11)中、R11は、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R21は、メチル基又はメチロール基であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、シアノ基、又は炭素数6〜10のベンゼン骨格を有する芳香族基である。]
【化7】

[式(12)中、R12及びR13は、各々独立に、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R22及びR23は、各々独立に、メチル基又はメチロール基である。]
【化8】

[式(21)中、Rは、前記式(11)におけるRと同じである。]
【化9】

【化10】

[式(3)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はカルボキシル基である]
【0010】
即ち、本発明の芳香族カルボン酸化合物の製造方法としては、例えば、以下の〈1〉〜〈3〉の三態様が挙げられる。
〈1〉光照射により、芳香族化合物(11)から芳香族カルボン酸化合物(21)を得る芳香族カルボン酸化合物(21)の製造方法であって、アントラキノン系化合物(3)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で、芳香族化合物(11)を反応させることを特徴とする芳香族カルボン酸化合物(21)の製造方法。
〈2〉光照射により、芳香族化合物(12)から芳香族カルボン酸化合物(22)を得る芳香族カルボン酸化合物(22)の製造方法であって、アントラキノン系化合物(3)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で、芳香族化合物(12)を反応させることを特徴とする芳香族カルボン酸化合物(22)の製造方法。
〈3〉光照射により、芳香族化合物(11)から芳香族カルボン酸化合物(21)を得るとともに、芳香族化合物(12)から芳香族カルボン酸化合物(22)を得る、芳香族カルボン酸化合物(21)及び芳香族カルボン酸化合物(22)の製造方法であって、アントラキノン系化合物(3)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で、芳香族化合物(11)及び芳香族酸化合物(12)を共存させて、反応させることを特徴とする芳香族カルボン酸化合物(21)及び芳香族カルボン酸化合物(22)の製造方法。
但し、生成物の分離を要するため、通常、上記〈3〉を採用する必要はない。
【0011】
尚、以下では、芳香族化合物(11)及び芳香族化合物(12)をまとめていう場合には、芳香族化合物(1)ともいう。更に、芳香族カルボン酸化合物(21)及び芳香族カルボン酸化合物(22)をまとめていう場合には、芳香族カルボン酸化合物(2)ともいう。
【0012】
[1]芳香族化合物(1)
本発明の芳香族カルボン酸化合物(2)の製造方法における芳香族化合物(1)は、基質である。本方法では、通常、アントラキノン系化合物(3)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、が同時に共存された環境下で、光照射により、芳香族化合物(1)を反応させて、芳香族カルボン酸化合物(2)を製造できる。この形態に加えて、更に、酸及び/又は塩基を除いた系、即ち、アントラキノン系化合物(3)及び酸素が存在し且つ酸及び塩基が存在しない環境下で、光照射により、芳香族化合物(1)を反応させて、芳香族カルボン酸化合物(2)となる中間体を生成した後、この中間体を含む系に対して酸及び/又は塩基を添加し、引き続き反応を行うことで芳香族カルボン酸化合物(2)を製造してもよい。このような後者の場合においても芳香族化合物(1)は基質である。
【0013】
[1−1]芳香族化合物(11)
芳香族化合物(11)は、下記式(11)で表される化合物である。
【化11】

[式(11)中、R11は、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R21は、メチル基又はメチロール基であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、シアノ基、又は炭素数6〜10のベンゼン骨格を有する芳香族基である。]
【0014】
芳香族化合物(11)における、R11としての炭素数1〜3のアルキレン基には、メチレン基、エチレン基、及びプロピレン基が含まれる。これらのなかでは、メチレン基が最も好ましい。芳香族化合物(11)においてR11としてアルキレン基が採用される場合、芳香族化合物(11)が有する芳香環に結合されたメチレン基が酸化されると考えられるためである。即ち、後述するR1121基を構成する炭素原子のうち、芳香環を構成する炭素原子に直接結合された炭素原子が酸化されることで、カルボキシル基が形成されるものと考えられる。従って、芳香族化合物(11)においてR11としてメチレン基が採用されても、エチレン基が採用されても、プロピレン基が採用されても、得られる芳香族カルボン酸化合物(生成物)は、式(21)で表される芳香族化合物(以下、単に「芳香族化合物(21)」ともいう)となる。
【0015】
芳香族化合物(11)におけるR11とR21との組合せ(以下、R11とR21とにより構成される基を単に「R1121基」という)は特に限定されないが、なかでも、R11が単結合であり且つR21がメチル基(−CH)の組合せ(即ち、R1121基がメチル基である)からなる基、R11が単結合であり且つR21がメチロール基(−CH−OH)の組合せ(即ち、R1121基がメチロール基である)からなる基、R11が炭素数1〜3のアルキレン基であり且つR21がメチル基(−CH)の組合せ(即ち、R1121基が炭素数2〜4のアルキル基である)からなる基、が好ましい。
【0016】
更に、芳香族化合物(11)における、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、シアノ基、又は炭素数6〜10のベンゼン骨格を有する芳香族基である。
より具体的には、芳香族化合物(11)におけるRとしてのハロゲン原子としては、塩素原子(Cl)又は臭素原子(Br)が好ましい。
また、芳香族化合物(11)におけるRとしての炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基が好ましく、なかでも、メチル基又はブチル基がより好ましく、更には、メチル基又はt−ブチル基がとりわけ好ましい。
更に、芳香族化合物(11)におけるRとしての炭素数1〜3のアルコキシ基としては、メトキシ基(−O−CH)、エトキシ基(−O−C)、プロポキシ基(−O−C)等が挙げられる。これらのなかでも、メトキシ基が好ましい。
また、芳香族化合物(11)におけるRとしての炭素数6〜10のベンゼン骨格を有する芳香族基としては、フェニル基(−C)、ベンジル基(−CH−C)、ナフチル基(−C10)等が挙げられる。これらのなかでも、フェニル基又はベンジル基が好ましい。
【0017】
即ち、芳香族化合物(11)におけるRとしては、水素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、t−ブチル基、メトキシ基、フェニル基、ベンジル基、又はシアノ基(−CN)がより好ましい。更に、これらのなかでも、水素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、t−ブチル基、メトキシ基、又はフェニル基が特に好ましく、とりわけ水素原子、臭素原子、t−ブチル基、又はメトキシ基が好ましい。
また、芳香族化合物(11)におけるRの位置は、R11及びR21により構成される基とともに、オルト位、メタ位、及びパラ位のいずれであってもよいが、これらのなかでは、メタ位又はパラ位が好ましく、パラ位が特に好ましい。
【0018】
[1−2]芳香族化合物(12)
芳香族化合物(12)は下記式(12)で表される化合物である。
【化12】

[式(12)中、R12及びR13は、各々独立に、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R22及びR23は、各々独立に、メチル基又はメチロール基である。]
【0019】
芳香族化合物(12)における、R12及びR13としての炭素数1〜3のアルキレン基には、メチレン基、エチレン基、及びプロピレン基が含まれる。これらのなかでは、メチレン基が最も好ましい。メチレン基が好ましい理由は、芳香族化合物(12)が有する芳香環に結合されたメチレン基が酸化されると考えられるためであり、芳香族化合物(11)におけると同様である。即ち、後述するR1222基やR1323基を構成する炭素原子のうち、芳香環を構成する炭素原子に直接結合された炭素原子が酸化されることで、カルボキシル基が形成されるものと考えられる。従って、芳香族化合物(12)においてR12やR13としてメチレン基が採用されても、エチレン基が採用されても、プロピレン基が採用されても、得られる芳香族カルボン酸化合物(生成物)は、芳香族化合物(22)となる。
尚、芳香族化合物(12)において、R12とR13とは同じであってもよく異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。更に、R22とR33とは同じであってもよく異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0020】
芳香族化合物(12)におけるR12とR22との組合せ(以下、R12とR22とにより構成される基を単に「R1222基」という)は特に限定されないが、芳香族化合物(11)と同様に、R1222基がメチル基(R12が単結合であり且つR22がメチル基)であるか、R1222基がメチロール基(R12が単結合であり且つR22がメチロール基)であるか、R1222基が炭素数2〜4のアルキル基(R12が炭素数1〜3のアルキレン基であり且つR22がメチル基)であることが好ましい。
更に、芳香族化合物(12)におけるR13とR23との組合せ(以下、R13とR23とにより構成される基を単に「R1323基」という)は特に限定されないが、R1222基と同様に、R1323基がメチル基であるか、R1323基がメチロール基であるか、R1323基が炭素数2〜4のアルキル基であることが好ましい。
加えて、芳香族化合物(12)におけるR1222基とR1323基との組合せは特に限定されないものの、前述のように同じであることが好ましい。
従って、芳香族化合物(12)としては、R1222基とR1323基とが共にメチル基である芳香族化合物(12)、R1222基とR1323基とが共にメチロール基である芳香族化合物(12)、及び、R1222基とR1323基とが共に炭素数2〜4のアルキル基である芳香族化合物(12)が好ましい。
【0021】
[2]芳香族カルボン酸化合物(2)
本方法で得られる芳香族カルボン酸化合物(21)は、下記式(21)で表される化合物である。
【化13】

[式(21)中、Rは、前記式(11)におけるRと同じである。]
この芳香族カルボン酸化合物(21)は、芳香族化合物(11)を基質とする生成物である。芳香族カルボン酸化合物(21)におけるRについては、芳香族化合物(11)におけるRと同様であり、その好ましい態様についても同様である。
尚、本方法においては、芳香族化合物(11)が有するR1121基が優先して酸化され、Rは変化することなく、芳香族カルボン酸化合物(21)内に残存されることとなる。
【0022】
また、本方法で得られる芳香族カルボン酸化合物(22)は、下記式(22)で表される化合物である。
【化14】

この芳香族カルボン酸化合物(22)は、芳香族化合物(12)を基質とする生成物である。
【0023】
[3]アントラキノン系化合物(3)
本方法で用いられるアントラキノン系化合物(3)は、下記式(3)で表される化合物である。このアントラキノン系化合物(3)は、本方法における環境下において光増感し、芳香族化合物(1)を酸化して芳香族カルボン酸化合物(2)にするための触媒として機能するものと考えられる。
これらのアントラキノン系化合物(3)は、以下に示す各種のアントラキノン系化合物(3)のうちの1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【化15】

[式(3)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はカルボキシル基である]
【0024】
アントラキノン系化合物(3)におけるRとしてのハロゲン原子には、塩素原子(Cl)又は臭素原子(Br)が好ましい。
また、アントラキノン系化合物(3)におけるRとしての炭素数1〜6のアルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等が含まれる。これらの基は各々、直鎖状のアルキル基であってもよく、分枝状のアルキル基であってもよい。即ち、分枝状のアルキル基としては、イソプロピル基、t−ブチル基等が上げられる。これらの各種基のなかでも、アントラキノン系化合物(3)におけるRとしての炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基又はt−ブチル基が好ましい。
【0025】
従って、アントラキノン系化合物(3)におけるRとしは、水素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、t−ブチル基、又はカルボキシル基が好ましい。これらのなかでも、水素原子、塩素原子、メチル基、t−ブチル基、又はカルボキシル基がより好ましく、更には、塩素原子又はカルボキシル基が特に好ましい。
【0026】
本方法において、アントラキノン系化合物(3)の使用量は特に限定されないが、通常、芳香族化合物(1)に対して、0.0001〜1当量が好ましく、0.001〜0.5当量がより好ましく、0.01〜0.3当量が更に好ましい。これらの範囲では、芳香族カルボン酸化合物(2)への変換の効率に優れ、上記各好ましい範囲では各々より優れた収率を得ることができる。
【0027】
[4]酸素
本方法における反応系に存在する酸素は、通常、分子状の酸素(O)であり、この酸素はどのように供給されてもよい。即ち、例えば、大気雰囲気下において反応を行うことにより空気中に含まれる酸素を利用することができる。更に、より積極的に酸素と接触できる環境を形成することもできる。このような環境の形成方法としては、即ち例えば、(1)大気を反応系に供給する方法(大気環境に開放、曝気及び大気バブリングなど)、(2)実質的に酸素のみからなる気体酸素を反応系に供給する方法(酸素ガス環境に開放、酸素バブリングなど)、(3)他の気体に酸素を混合してなり、大気よりも高濃度に酸素を含む気体を供給する方法(窒素酸素混合気体バブリングなど)、(4)酸素発泡剤を投入して酸素を系内で発生させる酸素供給、などの各種方法が挙げられる。これらの酸素供給方法は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記酸素供給を行う場合、その供給量は特に限定されないが、例えば、芳香族化合物(1)に対して、少なくとも5当量以上の酸素が供給されることが好ましく、更には、10〜300当量の酸素が供給されることが好ましい。
【0029】
[5]酸及び塩基
本方法において酸及び塩基は、芳香族化合物(1)から芳香族カルボン酸化合物(2)を製造するうえで重要である。即ち、アントラキノン系化合物(3)及び酸素が存在するとともに酸及び塩基が存在しない環境下において、芳香族化合物(1)を基質として光照射により反応させても芳香族カルボン酸化合物(2)を得ることができる場合があるが、酸及び/又は塩基が存在することで、収率を効果的に向上させることができる。この効果は、例えば、酸及び塩基が存在しない場合に比べて、より短時間で反応を進行させることができたり、所定の芳香族カルボン酸化合物(2)又はこれに至る中間体が形成されて反応系が平衡に達した場合であっても、その平衡を芳香族カルボン酸化合物(2)の生成が促される方向へ移動させたりできるためであると考えることができる。
更に、これらの酸及び塩基は、その理由はより定かではないが、酸及び塩基のいずれか一方のみを利用することで収率を向上させることができるが、更に、酸及び塩基の両方を共存させても収率を向上させることができる。
【0030】
[5−1]酸
本方法における酸の種類は特に限定されず、無機酸であってもよく、有機酸であってもよく、その他の形態の酸であってもよい。更に、反応系に添加されて実際に酸として機能することができれば、反応系へ添加される前の状態においては酸として機能するか否かは問わない。
【0031】
本方法における酸としては、以下に挙げる、無機酸(1)及び有機酸(2)が例示される。即ち、
上記無機酸(1)としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、テトラフルオロホウ酸、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素錯体、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸、フルオロスルホン酸、炭酸などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記有機酸(2)としては、酢酸等の脂肪族カルボン酸(2−1)、モノフルオロ酢酸、モノクロロ酢酸等のモノハロゲン酢酸、ジフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸等のジハロゲン酢酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ブロモジフルオロ酢酸等の各種トリハロゲン酢酸などの各種ハロゲン酢酸(2−2)、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸などの各種脂肪族スルホン酸(2−3)、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸(2−4)、並びに、その他、安息香酸及びクエン酸などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
これらのうちの無機酸は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、有機酸は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、無機酸及び有機酸はいずれか1種を用いてもよく併用してもよい。
【0034】
本方法では、上記の各種酸のなかでも、水に対する酸解離定数(pKa)が−15〜+5である酸が好ましく、更には、pKaが−12〜2である酸がより好ましく、特にpKaが−3〜1である酸が好ましく、とりわけpKaが−0.5〜0.8である酸が好ましい。とりわけ好ましいpKaが−0.5〜0.8である酸を用いた場合には、より短時間で高い収率を得ることができる。このような−0.5〜0.8である酸としては、例えば、テトラフルオロホウ酸(pKa=−0.4)、トリフルオロ酢酸(pKa=0.23)、トリクロロ酢酸(pKa=0.77)が挙げられる。
【0035】
また、酸を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、通常、芳香族化合物(1)に対して、0.05〜0.8当量が好ましく、0.1〜0.5当量がより好ましく、0.2〜0.4当量が更に好ましい。これらの範囲では、芳香族カルボン酸化合物(2)への変換効率に優れ、上記各好ましい範囲では各々より優れた収率を得ることができる。
【0036】
尚、上述のように、本方法では、酸として酢酸を利用するとこができる。酢酸は、後述する反応溶媒としても利用できる。従って、酢酸を用いる場合には、酢酸は、本方法においては、酸として機能されるとともに、反応溶媒としても機能できる。そして、反応溶媒として機能させる場合には、上記酸の使用量を超えて酢酸を用いることができる。即ち、例えば、芳香族化合物(1)に対して、1〜1000当量が好ましく、5〜500当量がより好ましく、10〜300当量が更に好ましい。
【0037】
[5−2]塩基
本方法における塩基の種類は特に限定されず、無機塩基であってもよく、有機塩基であってもよく、その他の形態の塩基であってもよい。更に、反応系に添加されて実際に塩基として機能することができれば、反応系へ添加される前の状態においては塩基として機能するか否かは問わない。
【0038】
本方法における塩基としては、以下に挙げる、無機塩基及び有機塩基が例示される。即ち、
上記無機塩基としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属の酢酸塩;酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属の酢酸塩;などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらのなかでは、アルカリ金属の炭酸塩、及び、アルカリ金属の炭酸水素塩が好ましく、なかでも、炭酸カリウム及び炭酸リチウムが特に好ましい。
【0039】
これらのうちの無機塩基は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、有機塩基は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、無機塩基及び有機塩基はいずれか1種を用いてもよく併用してもよい。
【0040】
また、塩基を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、通常、芳香族化合物(1)に対して、0.01〜0.2当量が好ましく、0.05〜0.15当量がより好ましく、0.06〜0.1当量が更に好ましい。これらの範囲では、芳香族カルボン酸化合物(2)への変換効率に優れ、上記各好ましい範囲では各々より優れた収率を得ることができる。
【0041】
[6]反応溶媒
本方法では、その反応を、アントラキノン系化合物(3)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で行えばよく、この反応系には、他の成分が存在しなくてもよいが、他の成分が存在してもよい。他の成分としては、反応溶媒が挙げられる。
反応溶媒の種類は特に限定されず、例えば、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、ニトリル、芳香族化合物、その他の化合物が挙げられる。これらの反応溶媒は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
より詳しくは、上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール(2−プロパノール等)、ブタノール(t−ブタノール等)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、上記エーテルとしては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、2−メトキシ−2−メチルプロパン(t−ブチルメチルエーテル)、2−エトキシ−2−メチルプロパン(t−ブチルエチルエーテル)、ジイソプロピルエーテル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0043】
更に、上記エステルとしては、特に、脂肪族エステルが好ましい。即ち、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸ペンチル、プロピオン酸ヘキシル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸イソプロピル、酪酸ブチル、酪酸イソブチル、酪酸ペンチル、酪酸ヘキシル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、イソ酪酸ペンチル、イソ酪酸ヘキシル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0044】
また、上記ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセチルアセトン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0045】
更に、上記カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、上記ニトリルとしては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、アセトニトリルが収率の観点から好ましい。
【0046】
更に、上記芳香族化合物としては、炭素数6〜15の芳香族化合物{但し、基質である芳香族化合物(1)を除く}が好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、t−ブチルベンゼン、ジ−t−ブチルベンゼン、トリ−t−ブチルベンゼン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、その他の化合物として、ヘキサン等の炭化水素(直鎖状アルカン)、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0047】
反応溶媒を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、通常、芳香族化合物(1)に対して体積比で1〜10000が好ましく、1〜5000がより好ましく、1〜500が更に好ましい。これらの範囲では、反応溶媒を用いることによる芳香族カルボン酸化合物(2)への変換効率に優れ、上記各好ましい範囲では各々より優れた収率を得ることができる。
【0048】
更に、本方法では、その反応を、アントラキノン系化合物(3)と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で行えばよく、この反応系には、他の成分(前述した反応溶媒を除く)が存在しなくてもよいが、他の成分(前述した反応溶媒を除く)が存在してもよい。他の成分としては、水(HO)が挙げられる。この水は、反応系に添加されてもよく、反応によって副成物として生成されたものであってもよい。
水を用いる場合、その使用量は特に限定されないが、通常、基質1モルに対して、1〜50が好ましく、1〜40がより好ましく、1〜30が更に好ましい。これらの範囲では、芳香族カルボン酸化合物(2)への変換効率に優れ、上記各好ましい範囲では各々より優れた収率を得ることができる。
【0049】
[6]光照射
本方法で用いる光照射における光の波長は特に制限されず、紫外線、可視光、赤外線などを用いることができる。更に、単一波長の光を用いてもよく、異なる複数の波長の光を含む混合光を用いてもよい。上記光のなかでも、特に、波長300〜830nmの光、又は、波長300〜830nmの光を含む光(混合光)が好ましい。以下、同様に、波長350〜800nmの光を含むことがより好ましく、波長360〜790nmの光を含むことが特に好ましく、
特に波長380〜780nmの光は、可視光であり、安全且つ容易に光反応を行うことができる。更に、光照射を行う間に反応系の温度を大きく変化させることもなく安定して反応させることができる。
尚、反応温度は特に限定されないが、例えば、15〜40℃とすることができる。
【0050】
また、光照射には、各種の光源を用いることができ特に限定されない。即ち、太陽光及び/又は各種人工照明を用いることができる。人工照明としては、蛍光灯、キセノンランプ、水銀ランプ、各種波長のレーザー等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
更に、光照射の照射時間、即ち、反応時間は特に限定されず、目的とする収率を得るように時間を変更できる。即ち、芳香族化合物(1)の種類、芳香族化合物(1)の反応系内における濃度、反応系の構成、光量、光の強さ等により適宜のものとすることが好ましい。より具体的には、例えば、0.1〜72時間とすることができる。
【0051】
尚、本方法においては、光照射を所望の間行った後、即ち、光照射工程を終えた後、目的物たる芳香族カルボン酸(2)を取り出すために、未反応の芳香族化合物(1)や、芳香族カルボン酸(2)となる前の副生成物、アントラキノン系化合物(3)、酸、塩基、反応溶媒等を除去する精製工程を備えることができる。精製工程における上記除去は、どのように行ってもよいが、例えば、クロマトグラフィー、蒸留等を用いることができる。このうち、クロマトグラフィーによる精製方法の一例としては、反応生成物を、薄層クロマトグラフィー(展開液として、例えば、ヘキサン/ジエチルエーテル=4/1)により展開、分離し、目的の芳香族カルボン酸化合物(2)を回収することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[1]酸を用いた反応
[1−1]実施例1−11及び比較例1
表1に示す各芳香族化合物(11)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.08当量(0.024mmol)と、酸としてのトリフルオロ酢酸を芳香族化合物(11)に対して0.3当量(0.09mmol)と、純水(HO)を75μLと、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて表1に示す各時間照射した。
その後、試験管中に得られた芳香族カルボン酸(21)の収率(%)を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表1に併記した。
【0054】
[1−2]実施例12
表1に示す芳香族化合物(2)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(2)に対して0.16当量(0.048mmol)と、酸としてのトリフルオロ酢酸を芳香族化合物(2)に対して0.8当量(0.24mmol)と、純水(HO)を100μLと、反応溶媒としての酢酸エチルを2mLとをパイレックス(登録商標)試験管に投入した。その他、上記[1−1]と同様にして光照射を行ったうえで、同様に得られた芳香族カルボン酸(21)の収率(%)を分析し、その結果を表1に併記した。
【0055】
【表1】

【0056】
尚、上記表1の欄「置換位置」とは、芳香族化合物(1)におけるR1121基とRとの芳香環上における置換位置、並びに、芳香族カルボン酸化合物(2)におけるカルボキシル基とR基との芳香環上における置換位置、を意味する。即ち、「O」はオルト位、「M」はメタ位、「P」はパラ位を意味する。また、芳香族化合物(2)及び芳香族カルボン酸化合物(2)においては、パラ位のみであるため、「P」と示す。
また、表1の欄「生成物・目的物」における「R1121基」、「R1222基」、「R1323基」は、比較例1を除き、いずれも基質において対応する基を便宜的に示したものである。
【0057】
[1−3]実施例13−17及び比較例2
表2に示す各芳香族化合物(11)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.08当量(0.024mmol)と、酸としてのトリフルオロ酢酸を芳香族化合物(11)に対して0.4当量(0.12mmol)と、純水(HO)を100μLと、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて表2に示す各時間照射した。
その後、試験管中に得られた芳香族カルボン酸(21)の収率(%)を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析し、その結果を表2に併記した。
【0058】
【表2】

【0059】
尚、上記表2の欄「置換位置」とは、芳香族化合物(1)におけるR1121基とRとの芳香環上における置換位置、並びに、芳香族カルボン酸化合物(2)におけるカルボキシル基とR基との芳香環上における置換位置、を意味する。即ち、「O」はオルト位、「M」はメタ位、「P」はパラ位を意味する。
また、表2の欄「生成物・目的物」における「R1121基」、「R1222基」、「R1323基」は、比較例2を除き、いずれも基質において対応する基を便宜的に示したものである。以下の表6及び表7においても同様である。
【0060】
[1−4]実施例18−28
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを表3に示すように芳香族化合物(11)に対して0.06〜0.1当量(0.018〜0.03mmol)と、酸としてのトリフルオロ酢酸を表3に示すように芳香族化合物(11)に対して0.2〜0.4当量(0.06〜0.12mmol)と、純水(HO)を表3に示すように50〜100μLと、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて24時間照射した。
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表3に併記した。
【0061】
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物との計4種の混合物であった。他の2種のうち、副生成物(A)はR1121基が−CO−OOH、R基がt−ブチル基、且つR1121基とR基とがパラ位である化合物であり、副生成物(B)はR1121基が−COH、R基がt−ブチル基、且つR1121基とR基とがパラ位である化合物であった。そして、これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表3に示した。但し、未反応の基質については表3から割愛している。
【0062】
【表3】

【0063】
[1−5]実施例29−45
芳香族化合物(11)としてのベンジルアルコール(R1121基がメチロール基、R基が水素原子)を用いて、表4に示す条件により、上記[1−4]と同様に24時間の光照射を行った。そして、上記[1−4]と同様に反応生成物の含有量を分析し、結果を表4に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物との計4種の混合物であった。他の2種のうち、副生成物(C)はR1121基が−CO−OOH、且つR基が水素原子である化合物であり、副生成物(D)はR1121基が−COH、且つR基が水素原子である化合物であった。そして、これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表4に示した。但し、未反応の基質については表4より割愛している。
【0064】
【表4】

【0065】
[1−6]実施例46−55
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−カルボキシアントラキノンを表5に示すように芳香族化合物(11)に対して0.08〜0.1当量(0.024〜0.03mmol)と、酸としての表5に示す各種酸を芳香族化合物(11)に対して0.3〜0.4当量(0.09〜0.12mmol)と、純水(HO)を75μLと、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部には酸素ガスを充填した風船を取付け、試験管内を酸素雰囲気に維持した。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて表5に示すように24〜72時間照射した。
【0066】
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表5に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(A)及び副生成物(B)}であった。そして、これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表5に示した。但し、未反応の基質については表5から割愛している。
【0067】
【表5】

【0068】
[2]塩基を用いた反応
[2−1]実施例56−66及び比較例3
表6に示す各芳香族化合物(11)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.08当量(0.024mmol)と、塩基としての炭酸カリウムを芳香族化合物(11)に対して0.05当量(0.015mmol)と、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて表6に示す各時間照射した。
その後、試験管中に得られた芳香族カルボン酸(21)の収率(%)を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表6に併記した。
【0069】
【表6】

【0070】
[2−3]実施例67−71
表7に示す各芳香族化合物(11)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.08当量(0.024mmol)と、塩基としての炭酸カリウムを芳香族化合物(11)に対して0.05当量(0.015mmol)と、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて表7に示す各時間照射した。
その後、試験管中に得られた芳香族カルボン酸(21)の収率(%)を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析し、その結果を表7に併記した。
【0071】
【表7】

【0072】
[2−4]実施例72−87
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを表8に示すように芳香族化合物(11)に対して0.05〜0.1当量(0.015〜0.03mmol)と、塩基としての炭酸カリウムを表8に示すように芳香族化合物(11)に対して0.01〜0.1当量(0.003〜0.03mmol)と、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて24時間照射した。
【0073】
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表8に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(A)及び副生成物(B)}との計4種の混合物であった。これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表8に示した。但し、未反応の基質については表3から割愛している。
【0074】
【表8】

【0075】
[2−5]実施例88−93
芳香族化合物(11)としてのベンジルアルコール(R1121基がメチロール基、R基が水素原子)を用いて、表9に示す条件により、上記[2−4]と同様に24時間の光照射を行った。そして、上記[2−4]と同様に反応生成物の含有量を分析し、結果を表9に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(C)及び副生成物(D)}との計4種の混合物であった。これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表9に示した。但し、未反応の基質については表9より割愛している。
【0076】
【表9】

【0077】
[2−6]実施例94−102
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.08当量(0.024mmol)と、塩基としての表10に示す各種塩基を芳香族化合物(11)に対して0.05当量(0.015mmol)と、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて24時間照射した。
【0078】
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表10に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(A)及び副生成物(B)}との計4種の混合物であった。これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表10に示した。但し、未反応の基質及び副生成物(B)については表10から割愛している。
【0079】
【表10】

【0080】
[2−7]実施例103−115
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.08当量(0.024mmol)と、塩基としての表11に示す各種塩基を芳香族化合物(11)に対して表11に示す0.05〜0.1当量(0.015〜0.03mmol)と、純水(HO)を75μLと、反応溶媒としての酢酸エチルを1mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて24時間照射した。
【0081】
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表11に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(A)及び副生成物(B)}との計4種の混合物であった。これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表11に示した。但し、未反応の基質については表11から割愛している。
【0082】
【表11】

【0083】
[3]触媒に関する検討
[3−1]参考例1−28
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、表12に示す各化合物を芳香族化合物(11)に対して0.1当量と、反応溶媒としての酢酸エチルを5mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は酸素ガスを充填した風船を取付け、試験管内を酸素雰囲気に維持した。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて10時間照射した。
【0084】
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析し、その結果を表12に併記した。この反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(A)及び副生成物(B)}との計4種の混合物であった。これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表12に示した。
【0085】
【表12】

【0086】
[3−2]参考例29−56
芳香族化合物(11)としてのベンジルアルコール(R1121基がメチロール基、R基が水素原子)を用いた以外は、上記[3−1]と同様に10時間の光照射を行うとともに、同様に反応生成物の含有量を分析し、結果を表13に併記した。
【0087】
【表13】

【0088】
上記[3−1]及び上記[3−2]では、酸及び/又は塩基を用いることなく、反応を行っている参考例であるが、上記[3−1]及び上記[3−2]から、参考例1−9及び参考例29−34に示した本方法にいうアントラキノン系化合物(3)では、基質を酸化することができることが分かる。しかし、酸及び/又は塩基を用いなければ、これ以上、平衡を移動することはできなくなる又は移動するために長い時間を要したり、加温を要したりするものと考えられる。しかし、この反応系に酸及び/又は塩基を添加して光反応を行うことで容易に平衡を移動することができ、目的化合物の収率を効果的に向上させることができる。また、より短時間で目的化合物を得ることができる。このことは、以下の結果からも分かる。
【0089】
[4]反応溶媒の種類及び酸・塩基による効果
[4−1]参考例57−63
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.1当量(0.03mmol)と、表14に示す各反応溶媒を5mLと、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は酸素ガスを充填した風船を取付け、試験管内を酸素雰囲気に維持した。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて10時間照射した。
【0090】
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表14に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(A)及び副生成物(B)}であった。これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表14に示した。
【0091】
[4−2]参考例64−70
芳香族化合物(11)としてベンジルアルコール(R1121基がメチロール基、R基が水素原子)を用い、アントラキノン系化合物(3)として2−カルボキシアントラキノンを、芳香族化合物(11)に対して0.1当量(0.03mmol)を用いた以外は、上記[5−1]と同様に10時間の光照射を行った。その後、同様に反応生成物{前述の副生成物(C)及び副生成物(D)}の含有量を分析し、結果を表14に併記した。
【0092】
【表14】

【0093】
[4−3]実施例116−128
芳香族化合物(11)としての4−t−ブチルトルエン(R1121基がメチル基、R基がt−ブチル基、R1121基とR基とがパラ位)を0.3mmolと、アントラキノン系化合物(3)としての2−クロロアントラキノンを芳香族化合物(11)に対して0.08当量(0.024mmol)と、表15に示す酸、塩基及び水を各々表15に記載の量と、表15に示す各反応溶媒を表15に示す量と、をパイレックス(登録商標)試験管に投入した。試験管の開口部は大気に開放した状態に維持し、試験管内を大気雰囲気とした。そして、反応系の撹拌は行わず、試験管の外側に配設した蛍光灯(88W)から放射される可視光(波長380〜780nmの光)を、室温(25℃)にて表15に示す時間照射した。
【0094】
その後、試験管の中の基質(未反応物)及び反応生成物の含有量を、H−NMR分析(溶媒:CDCl、日本電子社製「JMN−EX−400spectrometer」又は「JMN−AL−400spectrometer」)により分析した。その結果を表15に併記した。
尚、反応後の生成物は、目的物たる芳香族カルボン酸(21)と、未反応の基質{芳香族化合物(11)}と、他の2種の副生成物{前述の副生成物(A)及び副生成物(B)}であった。これらの計4種の化合物の合計を100モル%として、各化合物の含有量を算出して表15に示した。
【0095】
【表15】

【0096】
本方法では、通常、上記のように反応溶媒を用いる。この用いる反応溶媒の種類については特に限定されないものの、上記の実施例及び参考例のように、反応溶媒からも影響うけ得るものと考えられる。そして、酸及び塩基を添加しない反応系(表14参照)において、少量であっても目的物たる芳香族カルボン酸化合物(2)の生成、又は、中間生成物が確認できるものであれば、酸及び/又は塩基の共存により、芳香族カルボン酸化合物(2)を得ることができ、その収率を向上でき、又は、生成時間を短縮できるなどの効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明により製造された芳香族カルボン酸化合物(2)は、医薬品、殺虫剤、染料、香料等の製造中間体等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により、下記式(11)で表される芳香族化合物から下記式(21)で表される芳香族カルボン酸化合物、又は、下記式(12)で表される芳香族化合物から下記式(22)で表される芳香族カルボン酸化合物、を得る芳香族カルボン酸化合物の製造方法であって、
下記式(3)で表されるアントラキノン系化合物と、酸素と、酸及び/又は塩基と、の存在下で、前記芳香族化合物を反応させることを特徴とする芳香族カルボン酸化合物の製造方法。
【化1】

[式(11)中、R11は、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R21は、メチル基又はメチロール基であり、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、シアノ基、又は炭素数6〜10のベンゼン骨格を有する芳香族基である。]
【化2】

[式(12)中、R12及びR13は、各々独立に、単結合、又は炭素数1〜3のアルキレン基であり、R22及びR23は、各々独立に、メチル基又はメチロール基である。]
【化3】

[式(21)中、Rは、前記式(11)におけるRと同じである。]
【化4】

【化5】

[式(3)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はカルボキシル基である]
【請求項2】
前記酸は、水に対する酸解離定数(pKa)が−15〜+5である請求項1に記載の芳香族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項3】
前記塩基は、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ金属の酢酸塩、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物及びアルカリ土類金属の酢酸塩の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の芳香族カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項4】
上記光は、波長300〜830nmの光を含む請求項1乃至3のうちのいずれかに記載の芳香族カルボン酸化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−56851(P2012−56851A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198411(P2010−198411)
【出願日】平成22年9月4日(2010.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電気通信回線を通じて発表 掲載年月日:平成22年3月5日 掲載アドレス:http://nenkai.pharm.or.jp/130abst/29TJ−pm17.pdf
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】