説明

芳香族ジオールのジアセテートの回収方法

【課題】芳香族ジオールを単量体として用いる液晶ポリエステルの製造工程において、副生酢酸を含む留分から、芳香族ジオールのジアセテートを回収する方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ジオールおよび他の共重合成分からなる単量体の水酸基を、無水酢酸によりアセチル化した後に、加熱下に溶融状態で脱酢酸重合して液晶ポリエステルを製造する方法において、アセチル化および/または脱酢酸重合から留出する副生酢酸を含む留分を回収する工程、回収された副生酢酸を含む留分を蒸留して蒸留残渣を得る工程、蒸留残渣と水を混合して芳香族ジオールのジアセテートを析出させる工程、および、析出物を分離する工程、を含む、芳香族ジオールのジアセテートの回収方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジオールを単量体として用いる液晶ポリエステルの製造工程において留出する、副生酢酸を含む留分から、芳香族ジオールのジアセテートを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れており、成形品用途のみならず、繊維やフィルムといった各種用途にその使用が拡大しつつある。
【0003】
液晶ポリエステルは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸などから選択される単量体を、目的とする液晶ポリエステルの物性に合わせて適宜組み合わせて用い、これらを重縮合して得られるものである。
【0004】
液晶ポリエステルを製造するための重縮合方法としては、以下の工程1)および2)を含む、脱酢酸重合法が広く知られている(特許文献1および2を参照)。
1)単量体の混合物を無水酢酸と反応させ、単量体に含まれる水酸基をアセチル化する工程、および、
2)工程1)で得られるアセチル化された単量体の混合物を溶融状態で加熱し、酢酸を留去しながら重縮合を行う工程。
【0005】
しかし、脱酢酸重合法においては、液晶ポリエステルの原料に用いられる芳香族ジオールのアセチル化物である芳香族ジオールのジアセテートが非常に昇華しやすいため、反応槽から酢酸と共に留去されやすく、系外に留去された芳香族ジオールのジアセテートは製造原料のロスとなり、液晶ポリエステルの製造コストアップの要因となる問題がある。
【特許文献1】特開2004−331828号公報
【特許文献2】特開2005−089558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、芳香族ジオールを単量体として用いる液晶ポリエステルの製造工程において、アセチル化および/または脱酢酸重合から留出する、副生酢酸を含む留分から、芳香族ジオールのジアセテートを回収する方法を提供することにある。
【0007】
さらに、本発明の目的は、液晶ポリエステルの製造工程において留出する、副生酢酸を含む留分から回収された芳香族ジオールのジアセテートを用いる液晶ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、芳香族ジオールおよび他の共重合成分からなる単量体の水酸基を、無水酢酸によりアセチル化した後に、加熱下に溶融状態で脱酢酸重合して液晶ポリエステルを製造する方法において、
アセチル化および/または脱酢酸重合から留出する副生酢酸を含む留分を回収する工程、
回収された副生酢酸を含む留分を蒸留して蒸留残渣を得る工程、
蒸留残渣と水を混合して芳香族ジオールのジアセテートを析出させる工程、および、
析出物を分離する工程、
を含む、芳香族ジオールのジアセテートの回収方法を提供する。
【0009】
本発明において、「副生酢酸を含む留分」とは、単量体の無水酢酸によるアセチル化反応の際に生じる酢酸、および/または、脱酢酸重合時に副生する酢酸を主成分とする反応槽からの留出物を意味する。副生酢酸を含む留分は、酢酸を主成分として含むほか、無水酢酸や芳香族ジオールのジアセテート等を含む。
【0010】
本発明において、「蒸留」とは、副生酢酸を含む留分の加熱により、副生酢酸を含む留分に含まれる低沸点成分を蒸発させることをいう。低沸点成分には、酢酸、無水酢酸等が含まれる。
【0011】
本発明において、「蒸留残渣」とは、副生酢酸を含む留分の蒸留により、低沸点成分が除かれた後の残渣をいい、回収すべき芳香族ジオールのジアセテートの他に、酢酸、芳香族ジオールの他の単量体のアセチル化物等を含む。
【0012】
本発明の方法において製造される液晶ポリエステルは、異方性溶融相を形成するポリエステルであり、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれるものであれば特に制限されない。
【0013】
異方性溶融相の性質は直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわちホットステージにのせた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0014】
本発明は、単量体として芳香族ジオールを必須に用いる液晶ポリエステルの製造方法における、芳香族ジオールのジアセテートの回収方法に関するものである。
【0015】
以下本発明において液晶ポリエステルの製造原料として用いる単量体について説明する。
【0016】
液晶ポリエステルの単量体のうち芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエ−テル、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体からなる群より選択される1種以上のものを用いるのが好ましい。
【0017】
これらの芳香族ジオールの中では、ハイドロキノンおよび/またはレゾルシンを用いるのが重合時の反応性、得られる液晶ポリエステルの特性などの点からより好ましく、ハイドロキノンを単独で用いるのが特に好ましい。
【0018】
本発明において、芳香族ジオールの他の共重合成分として用いる単量体としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオールなどが挙げられる。
【0019】
本発明において液晶ポリエステルの原料として好適に用いられる芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、パラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体からなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。これらの中ではパラヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が得られる液晶ポリエステルの特性や融点を調整しやすいという点から好ましい。
【0020】
本発明において液晶ポリエステルの原料として好適に用いられる芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体からなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。これらの中ではテレフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸が得られる液晶ポリエステルの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0021】
本発明において液晶ポリエステルの原料として好適に用いられる芳香族ヒドロキシジカルボン酸の具体例としては、たとえば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、5−ヒドロキシイソフタル、およびこれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体からなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0022】
本発明において液晶ポリエステルの原料として好適に用いられる脂肪族ジオールの具体例としては、たとえばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールからなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0023】
以上説明した単量体は、複数を適宜組み合わせてオリゴマーとして用いてもよい。また、脂肪族ジオールおよび芳香族ジカルボン酸を単量体として用いる場合には、公知の方法によりこれらを縮重合した、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルを液晶ポリエステルの原料として用いることが出来る。
【0024】
以上、本発明において液晶ポリエステルの原料として好適に用いられる単量体について説明したが、本発明において製造される液晶ポリエステルは、芳香族ジオールとともに、芳香族ヒドロキシカルボン酸である、4−ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を共重合したものであるのがより好ましい。
【0025】
芳香族ジオールとともに、4−ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を共重合して得られる液晶ポリエステルのなかでも好ましいものとしては、例えば下記のモノマー構成単位からなる共重合体が挙げられる:
1)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
2)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/レゾルシン共重合体
3)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
4)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/レゾルシン共重合体
5)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
7)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/イソフタル酸/ハイドロキノン共重合体
8)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/イソフタル酸/レゾルシン共重合体
9)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
10)4−ヒドロキシ安息香酸/6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/レゾルシン共重合体
11)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/ハイドロキノン共重合体
12)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
13)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体。
【0026】
これらの中では、成形加工性や、機械的性質から、1)、3)、5)、6)、7)、おおび9)の共重合体が特に好ましい。
【0027】
以下、本発明における液晶ポリエステルの製造方法に関する単量体のアセチル化について説明する。
【0028】
本発明の方法において、単量体のアセチル化に用いるアセチル化剤は、無水酢酸である。無水酢酸の使用量は、単量体に含まれる水酸基の量に対して、1〜1.1倍モルが好ましく、1.01〜1.08倍モルがより好ましく、1.02〜1.05倍モルが特に好ましい。
【0029】
本発明において、単量体を無水酢酸と反応させてアセチル化を行う際の条件は、アセチル化反応が良好に進行する限り特に制限されない。アセチル化反応は、例えば、所望の組成の単量体の混合物を、無水酢酸とともに反応槽に仕込んだ後に、80〜150℃で0.5〜3時間反応させることにより行う。アセチル化反応時の圧力条件は特に制限されないが、大気圧下に於いて行うのが好ましい。
【0030】
アセチル化反応により副生する酢酸は、還流させ反応槽に戻してもよく、反応槽より系外に留出させてもよいが、通常、還流される。
【0031】
アセチル化反応において系には、単量体、単量体のアセチル化物、無水酢酸、酢酸等が含まれる。
【0032】
このようにして得られたアセチル化された単量体は、次いで、脱酢酸重合工程に供される。
【0033】
本発明における液晶ポリエステルの製造方法において、脱酢酸重合を行うに当たり、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0034】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(たとえばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;、三酸化アンチモン;二酸化チタン;アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(たとえば酢酸カリウム);無機酸塩類(たとえば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0035】
触媒の使用割合は、通常モノマー重量に対して10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmである。
【0036】
触媒は脱酢酸重合を開始する前の任意の時点で加えればよく、単量体のアセチル化工程の前に単量体とともに反応槽に加えるのが好ましい。
【0037】
脱酢酸重合は、公知の液晶ポリエステルの製造方法に従って行えばよく、例えば、80〜150℃のアセチル化された単量体の混合物を、副生する酢酸を反応槽から留去しながら、得られる樹脂の融点+10〜50℃まで、10〜50℃/分の速度で昇温して行えばよい。なお脱酢酸重合の最終段階では、副生する酢酸の除去を容易にするため真空を適用してもよい。
【0038】
脱酢酸重合反応において系には、重合生成物、単量体、単量体のアセチル化物、無水酢酸、酢酸等が含まれる。
【0039】
なお、アセチル化反応と脱酢酸重合とは、別々の反応槽で行ってもよいし、同じ反応槽で行ってもよい。
【0040】
このようにして、得られた液晶ポリエステルは、それぞれ溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0041】
本発明は、以上説明した液晶ポリエステルの製造方法において回収された、副生酢酸を含む留分から芳香族ジオールのジアセテートを回収する方法を提供するものである。
【0042】
なお、副生酢酸を含む留分は、脱酢酸重合時の反応槽の内温が240℃に達した後の留出分を含まないものを用いるのが、後述する工程で回収される芳香族ジオールのジアセテートの純度が優れる点で好ましい。
【0043】
本発明における、副生酢酸を含む留分からの芳香族ジオールのジアセテートの回収方法は、副生酢酸を含む留分を蒸留して得られた蒸留残渣と水とを混合し、析出する芳香族ジオールのジアセテートを分離回収することにより行われる。
【0044】
副生酢酸を含む留分の蒸留方法は、公知の蒸留方法を用いればよく、大気圧下で行っても減圧下に行ってもよい。典型的には、115〜125℃にて大気圧下で蒸留操作を行えばよい。
【0045】
副生酢酸を含む留分の蒸留は、蒸留残渣に含まれる芳香族ジオールのジアセテートの含有量が2〜20重量%、より好ましくは3〜10重量%となるまで行えばよい。
【0046】
副生酢酸を含む留分や蒸留残渣に含まれる芳香族ジオールのジアセテートの含有量は、ガスクロマトグラフや高速液体クロマトグラフなどの公知の方法により分析することが出来る。
【0047】
このようにして得られた副生酢酸を含む留分の蒸留残渣と水とを混合して、芳香族ジオールのジアセテートを析出させる。
【0048】
本発明の方法において、蒸留残渣と混合する水は、芳香族ジオールのジアセテートが良好に析出するかぎり、少量の有機溶媒を含むものであってもよい。水が少量の有機溶媒を含むものである場合、有機溶媒の含有量は水と有機溶媒の合計量に対して10重量%以下が好ましく、5重量%以下であるのがより好ましい。
【0049】
蒸留残渣と混合する水が含んでいてもよい有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸、プロピオン酸などの有機酸類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの含窒素極性有機溶媒などが挙げられる。
【0050】
蒸留残渣と混合する、有機溶媒を含んでいてもよい水の量は、芳香族ジオールのジアセテートが良好に析出する限り特に制限されないが、蒸留残渣100重量部に対して、10重量部〜2000重量部が好ましく、10重量部〜1500重量部がより好ましく、10重量部〜1000重量部が特に好ましい。
【0051】
有機溶媒を含んでいてもよい水の量が蒸留残渣100重量部に対して、10重量部より少ない場合は、芳香族ジオールのジアセテートが析出しにくく、2000重量部より多い場合は、芳香族ジオールのジアセテートの回収率が減少する傾向がある。
【0052】
蒸留残渣と水を混合する温度は、芳香族ジオールのジアセテートが良好に析出する限り特に制限されないが、0〜90℃が好ましく、0〜70℃がより好ましく、0〜50℃が特に好ましい。
【0053】
このようにして析出した芳香族ジオールのジアセテートは、遠心分離機やフィルタープレスなどの常法によって分離される。
【0054】
このようにして分離された芳香族ジオールのジアセテートは、液晶ポリエステルの原料として再利用できる他、各種有機化成品の製造原料として使用することができる。
【0055】
本発明の方法により回収された芳香族ジオールのジアセテートを液晶ポリエステルの原料として再利用する場合は、無水酢酸の使用量を調節する外は、従来知られる脱酢酸重合による方法と同様にして液晶ポリエステルを製造することが出来る。
【0056】
本発明の方法により、従来、利用されていなかった液晶ポリエステル製造時の副生酢酸に含まれる芳香族ジオールのジアセテートを容易に回収することが可能となる。また、本発明の方法により回収される芳香族ジオールのジアセテートを液晶ポリエステルの製造原料として再使用することによって、液晶ポリエステルの製造コストが低減されるものである。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
以下に、実施例において使用する略号について説明する。
HQ:ハイドロキノン
HQDA:ハイドロキノンジアセテート
HQMA:ハイドロキノンモノアセテート
POB:4−ヒドロキシ安息香酸
AcPOB:4−アセトキシ安息香酸
BON6:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
TPA:テレフタル酸
【0058】
〔参考例〕
○液晶ポリエステルの製造例
(アセチル化工程)
POB:149.8Kg(1084.9モル)、BON6:74.9Kg(398.2モル)、HQ:57.6Kg(523.5モル)、TPA:87.3Kg(523.5モル)および無水酢酸:266.0Kg(2606.0モル)を、攪拌翼、副生酢酸の留出ライン、および熱交換器を有する容量0.5mのSUS製の反応槽に仕込み、窒素ガス雰囲気に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、同温度で0.5時間保持した。
(脱酢酸重合工程)
その後、副生する酢酸を留去しながらさらに8時間かけて348℃まで昇温した。続いて同温度で常圧から120分かけて10torrまで減圧を行った。10torr下で90分さらに重合を続けた結果、所定のトルクに達したので、重合槽を密閉し、窒素ガスにより重合槽内を0.1MPa(G)に加圧し反応を終了した。次いで、反応槽底部のバルブを開け、ダイスを通じ溶融状体の樹脂をストランド状に抜き出し、ストランド状の樹脂を冷却後に切断することによりペレット状の液晶ポリエステルを得た。
【0059】
上記の液晶ポリエステルの製造例において、単量体のアセチル化反応時および反応槽の内温が240℃に到達するまでの脱酢酸重合時の副生酢酸を含む留分を回収したところ、副生酢酸を含む留分の回収量は299.7KgでありのHQDAの含有量は2.98Kgであった。
【0060】
〔実施例1〕
○副生酢酸を含む留分の蒸留
液晶ポリエステルの製造例において得られた副生酢酸を含む留分のうち3Kgを用いて、大気圧下にて、副生酢酸を115〜120℃に加熱して蒸留操作を行い、以下の表1に記す組成の蒸留残渣300gを得た。
【0061】
表1:蒸留残渣に含まれるHQDA、HQMA、およびHQの比率
【0062】
【表1】

【0063】
〔HQDAの回収〕
副生酢酸を含む留分の蒸留により得られた蒸留残渣100gに対して、水400gを25℃にて混合することにより、白色の結晶が析出した。析出物を吸引ろ過により回収した後に、乾燥し8.7gのHQDAを得た。
得られたHQDAをガスクロマトグラフにより分析したところ、HQMA、4−ヒドロキシ安息香酸など他のモノマーのアセチル化物やオリゴマーなどの不純物を含まない純粋なHQDAであることが確認された
【0064】
実施例2
実施例1に記載と同様の方法により得られたHQDA261.2gを用いて、液晶ポリエステルを製造した。
POB:384.8g(2.79モル)、BON6:192.4g(1.02モル)、HQDA:261.2g(1.34モル)、TPA:224.3g(1.34モル)および無水酢酸400.6g(3.92モル)を攪拌翼、副生酢酸を含む留分の留出ライン、および熱交換器を備えた、フランジを有する容量2Lのガラス製のセパラブルフラスコに仕込み、参考例と同様の条件で脱酢酸重合を行った。攪拌のトルクが所定の値に達した時点で、フラスコの内部に窒素を導入し反応を終了した。反応終了後、フラスコ内の溶融状体の樹脂を掻き出し冷却固化させた後に粉砕し、フレーク状の液晶ポリマーを得た。
【0065】
実施例2で得られた液晶ポリエステルと参考例で得られた液晶ポリエステルの物性を、以下の表2に示す。
表2:参考例および実施例で得られた樹脂の物性比較
【0066】
【表2】

【0067】
各物性の測定は下記の方法に従い行った。
〔融点(Tm)〕
示差走査熱量計としてセイコーインスツルメント株式会社製、Exstar6000を用い、液晶ポリエステルの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク(Tm1)の観測後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステルの融点(Tm)とした。
【0068】
〔荷重たわみ温度〕
液晶ポリエステルの試料を射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000−110)を用いて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D648に従い、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0069】
〔引張強度〕
型締め圧15トンの射出成形機(住友重機工業株式会社製、MINIMAT M26/15)を用いて、シリンダ温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、図1に記載の形状の、厚み2.0mmのダンベル状試験片を得た。
引張試験は、万能試験機(インストロンジャパン カンパニイリミテッド社製、INSTRON5567)を用いて、スパン間距離25.4mm、引張速度5mm/min.で、ASTM D638に従って行った。
【0070】
〔白色度〕
型締め圧15トンの射出成形機(住友重機工業株式会社製MINIMAT M26/15)を用いて、シリンダ温度350℃、金型温度70℃で射出成形し、12.7×6.4×2.0mmの短冊状試験片を得た。
この短冊状試験片のゲート側、中央部、流動先端部の3点にて、MINOLTACR200にて白色度を測定しそれらの平均値を算出し、白色度とした。
【0071】
表2より、参考例での液晶ポリエステルの製造時の副生酢酸を含む留分から回収したハイドロキノンジアセテートを単量体の一部として使用して液晶ポリエステルを製造しても、品質に特に問題が生じないことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】引張強度試験に用いたダンベル状試験片の図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジオールおよび他の共重合成分からなる単量体の水酸基を、無水酢酸によりアセチル化した後に、加熱下に溶融状態で脱酢酸重合して液晶ポリエステルを製造する方法において、
アセチル化および/または脱酢酸重合から留出する副生酢酸を含む留分を回収する工程、
回収された副生酢酸を含む留分を蒸留して蒸留残渣を得る工程、
蒸留残渣と水を混合して芳香族ジオールのジアセテートを析出させる工程、および、
析出物を分離する工程、
を含む、芳香族ジオールのジアセテートの回収方法。
【請求項2】
芳香族ジオールが、ハイドロキノンおよび/またはレゾルシンである、請求項1に記載の芳香族ジオールのジアセテートの回収方法。
【請求項3】
芳香族ジオールがハイドロキノンである、請求項2に記載の芳香族ジオールのジアセテートの回収方法。
【請求項4】
回収された副生酢酸を含む留分の蒸留を、蒸留残渣に含まれる芳香族ジオールのジアセテートの含有量が2〜20重量%となるまで行う、請求項1〜3の何れかに記載の芳香族ジオールのジアセテートの回収方法。
【請求項5】
蒸留残渣と混合する水の量が、蒸留残渣100重量部に対して、10〜2000重量部である、請求項1〜4の何れかに記載の芳香族ジオールのジアセテートの回収方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の方法により得られた芳香族ジオールのジアセテートをアセチル化された単量体として用いる、液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載の方法により得られた芳香族ジオールのジアセテートをアセチル化された単量体として用いて得られた液晶ポリエステル。

【図1】
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【公開番号】特開2009−221405(P2009−221405A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69402(P2008−69402)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】