説明

芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法

【課題】低温度下の反応条件でも高収率で目的物が得られる芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】媒体中で、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含む芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法において、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩1モルに対して、0.01〜1.0モルの配位子を単独または金属錯体として存在させて反応を行う工程を含むことを特徴とする、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含む芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−ヒドロキシ安息香酸や2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸は、顔料・染料、液晶・液晶分子あるいは医薬・農薬などの原料あるいは中間体として重要であり、一般にはフェノール性水酸基をもつ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を経て製造される。
【0003】
上記反応としては、古くからコルベ・シュミット反応と呼ばれる固気相反応が用いられてきたが、固気相反応であるため反応時間が長いこと、熱的不均一性のため副反応での原料損失が多いこと、反応制御が困難で安定した収率が得られない等の問題があった。
【0004】
この固気相反応の欠点を改良するため、本出願人は、液状系でフェノール類のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応を行う際、フェノール類のアルカリ金属塩と二酸化炭素との接触を良好にして反応を進行させること、さらに連続操作を行うために液状物の融点を低くして輸送などの便宜をはかることを目的として、特定モル比のフェノール類のアルカリ金属塩、フェノール類および特定量の反応媒体を用いると、良好な液−液の懸濁系が形成されることを見出し、提案した(特許文献1)。
【0005】
この方法によると、連続的反応が可能になるとともに反応速度が高められ、反応器当たりの生産能力が増大し、タール分の少ない純粋な芳香族ヒドロキシカルボン酸が得られる。
【0006】
しかしながら、この方法では、得られる芳香族ヒドロキシカルボン酸の収率を上げるためには220℃を超える高温下で反応を行う必要があり、反応に際し多大なエネルギーが必要になるとともに、製造設備も煩雑になるという問題があった。
【0007】
したがって、環境問題の観点からも低温度下の反応条件でも高収率で目的物が得られる芳香族ヒドロキシカルボン酸の製法の確立が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭45−9529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、低温度下での反応条件にもかかわらず、高収率で芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造でき、環境負荷の少ない芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応について鋭意検討した結果、特定の配位子を単独または金属錯体として存在させて反応させることによって、低温度下であるにもかかわらず、反応が進行し、高収率で芳香族ヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩が得られ、これを酸析することにより高収率で目的の芳香族ヒドロキシカルボン酸を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、媒体中で、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含む芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法において、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩1モルに対して、0.01〜1.0モルの配位子を単独または金属錯体として存在させて反応を行う工程を含むことを特徴とする、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、配位子を使用することにより、20℃〜220℃程度の低温条件下においても芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応が促進され、低コストで簡易な装置を用いて芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、媒体中で芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含む方法に関する。
【0014】
本明細書および請求の範囲において、「芳香族ヒドロキシ化合物」とは、環数2までの芳香族環上にヒドロキシル基を有する化合物であって、芳香族環上に少なくとも一つの置換基を有していてもよい化合物をいう。置換基としては、例えば、フッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、メチル、エチル、プロピル等の炭素原子数1〜6のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素原子数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、硫酸基、アミノ基、フェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
本発明において用いられる「芳香族ヒドロキシ化合物」としては、例えば、フェノール、1−ナフトール、2−ナフトール等が挙げられる。
【0015】
本明細書および請求の範囲において、「芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩」とは、上記の「芳香族ヒドロキシ化合物」のフェノール性水酸基の水素原子が、アルカリ金属によって置換された塩をいい、アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、リチウム等が挙げられる。
【0016】
本発明において用いられる芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩としては、フェノールナトリウム、フェノールカリウム、2−ナフトールカリウム、1−ナフトールナトリウムあるいは1−ナフトールカリウム等が挙げられ、これらの中でも、フェノールナトリウム、フェノールカリウムおよび2−ナフトールカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用される。
【0017】
反応に供する芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩は、十分脱水されていることが必要であり、脱水が不完全であると反応収率が低下する。脱水は、例えば、エバポレーターなどの装置を用い、真空状態で加熱することにより行われ、水分量が1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下となるまで脱水するのがよい。
【0018】
本発明において、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応に際し、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩1モルに対して、0.01〜1.0モル、好ましくは0.02〜0.7モル、より好ましくは0.03〜0.5モル、さらに好ましくは0.05〜0.2モルの配位子を、単独または金属錯体として存在させて反応を行う。
【0019】
配位子を存在させることによって、低温条件下においても反応が進行し、高収率で目的物である芳香族ヒドロキシカルボン酸を得ることができる。
【0020】
芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩1モルに対して、配位子の添加量が0.01モルを下回ると反応が十分に進行せず、配位子の添加量が1モルを上回ると収率がかえって低下する傾向があり、コスト的にも不利となる。
【0021】
本明細書および特許請求の範囲において、「配位子」とは、金属原子に配位結合で直接結合し、錯体を形成しうる分子またはイオンを意味する。また、「金属錯体」とは、金属原子に配位子が結合した化合物を意味する。
【0022】
本発明において好適に用いられる配位子は、以下のI〜Vの群から選択される少なくとも1種である:
I.下記式(I)で示される2,4−ペンタンジオナト骨格を有する化合物:
【化1】

(I)
[式中、R〜Rは、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基またはフェニル基];II.下記式(II)で示されるホスフィン化合物:
【化2】

(II)
[式中、R〜Rは、シクロヘキシル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基またはフェニル基];
III.下記式(III)で示されるビスオキサゾリン化合物:
【化3】

(III)
[式中、RおよびRは、水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基、RおよびR10は、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基またはフェニル基];
IV.ピリジン、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリンまたはそれらの誘導体から選択される含窒素芳香族化合物;
V.酢酸、トリフルオロ酢酸またはそれらの誘導体から選択される酢酸誘導体。
【0023】
上記Iの2,4−ペンタンジオナト骨格を有する化合物としては、2,4−ペンタンジオナト、3−メチル−2,4−ペンタンジオナト、3−エチル−2,4−ペンタンジオナト、3−プロピル−2,4−ペンタンジオナト、3−n−ブチル−2,4−ペンタンジオナト等の、2,4−ペンタンジオナトの3位に置換基を有する化合物、ならびに、2,4−オクタンジオナト、2,4−ノナンジオナト、1−フェニル−1,3−ブタンジオナト、2,2−ジメチル−3,5−ヘキサンジオナト、3,5−ヘプタンジオナト、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオナト等の、2,4−ペンタンジオナトの1位または5位またはそれらの両方に置換基を有する化合物が挙げられる。
上記Iの化合物を金属錯体の形態ではなく配位子単独として添加する場合、2,4−ペンタンジオン骨格を有する化合物の形態で添加してもよい。
【0024】
上記IIのホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等の3つの置換基を有する化合物が挙げられる。
【0025】
上記IIIのビスオキサゾリン化合物としては、2,2−ビス−(2−オキサゾリン−2−イル)プロパン、3,3−ビス−(2−オキサゾリン−2−イル)ペンタン、5,5−ビス−(2−オキサゾリン−2−イル)ノナン、2,2−ビス[(4S)−4−フェニル−2−オキサゾリン−2−イル]プロパン、ジエチルメチレン−2,2’−ビス(2−オキサゾリン)等の化合物が挙げられる。
【0026】
上記IVの含窒素芳香族化合物としては、ピリジン、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリンまたはそれらの誘導体が挙げられ、誘導体としては、メチル等の置換基を有するもの等が挙げられる。
【0027】
上記Vの酢酸誘導体としては、酢酸、トリフルオロ酢酸等の酢酸の誘導体が挙げられる。
【0028】
本発明において、反応系に存在させる配位子としては、上記のなかでも、2,4−ペンタンジオナト、2,2’−ビピリジル、3−n−ブチル−2,4−ペンタンジオナトおよび酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用でき、これらの配位子を単独で、または金属錯体の形で用いるのが良い。特に好ましくは、2,4−ペンタンジオナトを単独で、または金属錯体の形で用いる。
【0029】
配位子を金属錯体に含まれる形態として存在させる場合、かかる金属錯体としては、金属として、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、PbまたはRuを有する金属錯体が好ましく、中でもMn、CuまたはPbを有する金属錯体がより好ましい。具体的には、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)鉛(II)またはトリス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン(III)が特に好ましく使用される。
【0030】
本発明において、反応に用いる媒体は、反応温度において液体であり、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応に対して不活性なものである。好ましくは、媒体は沸点が220℃以上のものである。
【0031】
媒体としては、脂肪族、脂環族もしくは芳香族の炭化水素またはこれらの残基を有するエーテル化合物が好適に使用され、例えば、軽油、灯油、ガソリン、潤滑油、白油、アルキルベンゼン、アルキルナフタリン、ジトリフェニル、水素化トリフェニル、ジフェニルエーテル、アルキルフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、iso−オクチルアルコールなどの高沸点高級アルコールなど、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
また、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩の溶解性を向上させる目的で、反応媒体にフェノールなどの芳香族ヒドロキシ化合物を加えて、液状混合物として、反応に供してもよい。
【0033】
媒体の使用量は、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩に対して0.5倍重量以上、好ましくは0.5〜20倍重量であるのがよい。
【0034】
反応媒体に芳香族ヒドロキシ化合物を加えて液状混合物とする場合は、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩1モルに対して、芳香族ヒドロキシ化合物0.05〜3モルを混合するのがよい。
【0035】
芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応温度は、配位子を単独または金属錯体として存在させることによって、20〜220℃、好ましくは50〜215℃、より好ましくは100〜210℃と低温度下で行うことができる。20℃より低温では、反応が進行せず、220℃より高温では、反応が頭打ちとなりエネルギーが損失するとともに、副反応が生じるおそれがある。
【0036】
芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素との反応時の圧力は、1.5MPa以下、好ましくは0.1〜1.0MPaの二酸化炭素圧力下で行うのがよい。
【0037】
反応時間は数分ないし15時間、好ましくは10分〜10時間、特に好ましくは20分〜10時間の間で適宜選択することができる。
【0038】
かかる方法により、2−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシナフタレンー3,6−ジカルボン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩が低温条件下でも高収率にて得られる。これら芳香族ヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩を酸析などの常套の手段に供することにより、目的物質である、2−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシナフタレンー3,6−ジカルボン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸が高収率にて得られる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例1
120mLのオートクレイブ中に、フェノールカリウム4.5g(34ミリモル)、フェノール3.2g(34ミリモル)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)0.89g(3.4ミリモル)、および軽油45gを入れて攪拌し、窒素置換した後、密閉した。
【0041】
次いで、混合物を100℃まで昇温した後、窒素を炭酸ガスに置き換えて0.6MPaで1時間反応させた。反応終了後冷却し、水18gを加えて60℃で30分攪拌した。
【0042】
冷却後、得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸(POB)5.5%、2−ヒドロキシ安息香酸(SA)8.3%であった。
【0043】
比較例1
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)を加えない以外は、実施例1と同様にして反応を行った。得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析したが、4−ヒドロキシ安息香酸は検出されず、2−ヒドロキシ安息香酸も痕跡量であった。
【0044】
実施例2
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、ビス(2,4−ペンタンジオナト)鉛(II)1.38g(3.4ミリモル)を加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0045】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸5.6%、2−ヒドロキシ安息香酸10.4%であった。
【0046】
実施例3
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、トリス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン(III)1.2g(3.4ミリモル)を加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0047】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸7.0%、2−ヒドロキシ安息香酸11.9%であった。
【0048】
実施例4
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、2,4−ペンタンジオン0.34g(3.4ミリモル)を加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0049】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸3.8%、2−ヒドロキシ安息香酸6.9%であった。
【0050】
実施例5
120mLのオートクレイブ中に、フェノールナトリウム4.5g(38.8ミリモル)、フェノール3.2g(34ミリモル)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)1.01g(3.9ミリモル)、および軽油45gを入れて攪拌し、窒素置換した後、密閉した。
【0051】
次いで、混合物を120℃まで昇温した後、窒素を炭酸ガスに置き換えて0.6MPaで1時間反応させた。反応終了後冷却し、水18gを加えて60℃で30分攪拌した。
【0052】
冷却後、得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールナトリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸3.1%、2−ヒドロキシ安息香酸32.7%であった。
【0053】
比較例2
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)を加えない以外は、実施例5と同様にして反応を行った。得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールナトリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸は痕跡量、2−ヒドロキシ安息香酸は0.8%であった。
【0054】
実施例6
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、2,4−ペンタンジオン0.78g(7.8ミリモル)を加えた以外は実施例5と同様にして反応を行った。
【0055】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールナトリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸3.9%、2−ヒドロキシ安息香酸33.9%であった。
【0056】
実施例7
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、3−n−ブチル−2,4−ペンタンジオン1.06g(6.8ミリモル)を加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0057】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸3.4%、2−ヒドロキシ安息香酸6.3%であった。
【0058】
実施例8
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、トリシクロヘキシルホスフィン1.91g(6.8ミリモル)を加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0059】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸5.2%、2−ヒドロキシ安息香酸9.9%であった。
【0060】
実施例9
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、ジエチルメチレン−2,2’−ビス(2−オキサゾリン)酢酸銅(II)0.67g(1.7ミリモル)を加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0061】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸5.6%、2−ヒドロキシ安息香酸10.8%であった。
【0062】
実施例10
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、2,2’−ビピリジル酢酸銅(II)1.15g(3.4ミリモル)を加えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。
【0063】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、フェノールカリウムからの転化率は、4−ヒドロキシ安息香酸9.5%、2−ヒドロキシ安息香酸14.8%であった。
【0064】
実施例1〜10および比較例1〜2の結果を表1に示す。
【0065】
実施例11
120mLのオートクレイブ中に、2−ナフトールカリウム4.2g(23ミリモル)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)0.6g(2.3ミリモル)、および直鎖型アルキルベンゼン(アルケン200P)42gを入れて攪拌し、窒素置換した後、密閉した。
【0066】
次いで、混合物を210℃まで昇温した後、窒素を炭酸ガスに置き換えて0.3MPaで4時間反応させた。反応終了後冷却し、水16.8gを加えて90℃で60分攪拌した。
【0067】
冷却後、得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、2−ナフトールカリウムからの転化率は、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸(BON3)8.1%、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(BON6)1.6%であった。
【0068】
比較例3
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)を加えない以外は、実施例11と同様にして反応を行った。得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、2−ナフトールカリウムからの転化率は、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸(BON3)2.4%、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(BON6)0.8%であった。
【0069】
実施例12
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、2,4−ペンタンジオン0.46g(4.6ミリモル)を加えた以外は実施例11と同様にして反応を行った。
【0070】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、2−ナフトールカリウムからの転化率は、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸(BON3)7.3%、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(BON6)2.0%であった。
【0071】
実施例13
ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)に代えて、3−n−ブチル−2,4−ペンタンジオン0.72g(4.6ミリモル)を加えた以外は実施例11と同様にして反応を行った。
【0072】
得られた媒体層と水層を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、2−ナフトールカリウムからの転化率は、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸(BON3)8.8%、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(BON6)2.5%であった。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体中で、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩と二酸化炭素とを反応させる工程を含む芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法において、芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩1モルに対して、0.01〜1.0モルの配位子を単独または金属錯体として存在させて反応を行う工程を含むことを特徴とする、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
配位子が、以下のI〜Vの群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法:
I.下記式(I)で示される2,4−ペンタンジオナト骨格を有する化合物:
【化1】

(I)
[式中、R〜Rは、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基またはフェニル基];
II.下記式(II)で示されるホスフィン化合物:
【化2】

(II)
[式中、R〜Rは、シクロヘキシル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基またはフェニル基];
III.下記式(III)で示されるビスオキサゾリン化合物:
【化3】

(III)
[式中、RおよびRは、水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基、RおよびR10は、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基またはフェニル基];
IV.ピリジン、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリンまたはそれらの誘導体から選択される含窒素芳香族化合物;
V.酢酸、トリフルオロ酢酸またはそれらの誘導体から選択される酢酸誘導体。
【請求項3】
配位子が、2,4−ペンタンジオナト、2,2’−ビピリジル、3−n−ブチル−2,4−ペンタンジオナトおよび酢酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
配位子が、2,4−ペンタンジオナトである請求項1から3のいずれかに記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
金属錯体が、金属としてAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Zr、Mo、Pd、PbまたはRuを有するものである、請求項1から4のいずれかに記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩が、フェノールナトリウム、フェノールカリウムおよび2−ナフトールカリウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
反応時の温度が20〜220℃である、請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−12382(P2012−12382A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120260(P2011−120260)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】