説明

芳香族ビニル化合物重合体の製造方法

【課題】粉体床重合により芳香族ビニル化合物重合体を製造する場合において、高い転化率を示し、かつ生成物が攪拌翼や反応器へ付着することなく安定に運転することができる、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定の触媒溶液を反応器に連続的または段階的に供給しながら、前記反応器内で芳香族ビニル化合物を重合させる工程を含む、粉体重合による芳香族ビニル化合物重合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ビニル化合物重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オレフィン系重合体は成形材料等として重要であり、当該重合体やその製造方法に関して多くの技術開発が行われてきた。例えば、製造方法に関しては、チーグラーナッタ触媒等の固体触媒や金属錯体を利用する触媒について技術開発が行われ、その成果が報告されてきた。特に、金属錯体を利用する触媒は、生成物の均質性が高いという特性や、金属錯体の中心金属や配位子等を変えることでその反応性が変わるという特性が見出され、現在も開発が続けられている。
【0003】
前記金属錯体としては、例えばメタロセン錯体が挙げられ、これまでに、シクロペンタジエニル基やインデニル基等の環状配位子を2つ有する金属錯体、環状配位子を結合する架橋基を含む金属錯体(架橋型メタロセン錯体)、環状配位子を1つ有する金属錯体(ハーフメタロセン錯体)等が報告されている(以下、メタロセン錯体を利用する触媒をメタロセン触媒と省略することがある。)。
メタロセン触媒においては、環状配位子の選択や置換基の導入等により、重合時におけるモノマーと伸長中の重合鎖との位置関係を制御することができ、当該触媒を用いることで特定の立体規則性(アイソタクチック性やシンジオタクチック性等)を有する重合体を製造することができる。
また、メタロセン錯体中の中心金属に関しては、従来はチタン、ジルコニウム、ハフニウム等の4族遷移金属がよく用いられていたが、近年、スカンジウム、イットリウム、ランタン等の3族遷移金属やランタノイド金属を用いるメタロセン錯体を用いた重合反応が報告されている。
例えば、特許文献1は、スカンジウム、イットリウム、ランタン又はランタニド金属を利用するハーフメタロセン錯体や、当該錯体を用いて極性若しくは非極性オレフィン性不飽和モノマー又はラクトンを(共)重合させて(共)重合体を製造する方法を開示する。
【0004】
ところで、シンジオタクチック構造を有する、芳香族ビニル化合物の重合体(以下、シンジオタクチックポリマーと省略することがある。)は、機械的強度、耐熱性、外観、耐溶剤性等に優れるという特徴があり、種々の用途において使用されている。
シンジオタクチックポリマーを製造する際の触媒に関しても、4族遷移金属以外の金属を利用するメタロセン触媒についての報告があり、例えば、特許文献2は、第3族金属原子またはランタノイド金属原子を含むハーフメタロセン錯体を含む重合触媒組成物およびそれを用いて得られるシンジオタクチシティーが高い重合体を開示する。
【0005】
このように、各種のメタロセン触媒や当該触媒を用いて得られたシンジオタクチックポリマーが報告されているが、以下に説明するようにさらなる技術開発が必要な状況にある。
例えば、特許文献1の課題として、種々のモノマーを配位重合して均質で高純度の生成物を工業的規模で得ることができる安定な金属錯体を見出すことが挙げられているが、特許文献1には工業的規模で行う際の特有の問題について記載がなく、また実施例で開示する態様は実験室規模で実施したものである。したがって、工業的規模で実施した際に初めて生じる問題に対しては、特許文献1に記載の技術は十分ではない。
また、特許文献2には、重合活性やオレフィンやジエンとの共重合性に優れる触媒や、当該触媒により得られる分子量分布が狭く、高いシンジオタクチシティーを有する重合体が記載されているが、特許文献2が実施例で開示する態様も実験室規模で実施したものであり、工業的規模で実施する場合においても同様の結果を得るためにはさらなる技術開発が必要である。
【0006】
通常、実験室規模の反応で得られた結果を工業的規模の反応においてそのまま再現することは困難であり、シンジオタクチックポリマーを工業的規模で製造する場合においても多くの課題が生じていた。例えば、シンジオタクチックポリマーの重合方法として塊状重合等の無溶媒重合が挙げられるが、このような無溶媒重合においては、未反応モノマーが原因となる塊状化の問題や触媒活性低下の問題を解決する必要があった。特許文献3はこれらの問題を解決する方法を開示するものであり、重合触媒を反応器に投入する際に、重合触媒に不活性溶媒を予め合流させ、その後に反応器に投入することを特徴とするスチレン系重合体の製造方法を開示する。
【0007】
一般に、工業的規模でシンジオタクチックポリマーを製造する際には高い生産性が求められるため、高い重合活性を有する触媒が好ましく利用される。しかしながら、高い重合活性を有する触媒は失活しやすいため、取り扱いが困難であるという問題があった。また、実験室規模の反応で見られた高い活性を工業的規模の反応において再現することは非常に困難であった。特に、粉体重合において生成物が塊状化しやすく、生成物が攪拌翼や反応器へ付着するため安定な運転が困難になることがあった。このように、上記特許文献3が開示する技術は、高い重合活性を有する触媒の特性を十分に生かすことに関しては十分ではなく、さらなる改良が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−178293号公報
【特許文献2】国際公開第2006/004068号パンフレット
【特許文献3】特開平11−236404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、粉体重合による芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、高い転化率を示し、かつ生成物が攪拌翼や反応器へ付着することなく安定に運転することができる、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、粉体重合により芳香族ビニル化合物重合体を製造する場合において、特定の濃度条件を満たすように調製された特定の触媒溶液を反応器に投入して重合反応を行うことで、上記課題が解決することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1. 粉体重合による芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含むハーフメタロセン錯体を用いてなる重合触媒の溶液を反応器に連続的または段階的に供給しながら、前記反応器内で芳香族ビニル化合物を重合させる工程を含み、前記重合触媒の溶液中のハーフメタロセン錯体の濃度が0.1〜1.5mmol/Lである、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
2. 前記重合触媒の溶液中のハーフメタロセン錯体の濃度が0.2〜1.0mmol/Lである、前記1に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
3. 前記重合触媒が、前記ハーフメタロセン錯体の他に有機アルミニウム化合物および非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を用いてなるものである前記1または2に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
4. 前記重合触媒の溶液の溶媒が不活性溶媒である前記1〜3のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
5. 前記不活性溶媒が、芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素溶媒である前記4に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
6. 前記反応器が、連続式または半連続式の反応器である前記1〜5のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
7. 前記反応器が、下部に抜出しノズルを有する混合槽型反応器である前記1〜5のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
8. 前記ハーフメタロセン錯体が、下記式(II)で表される錯体である前記1〜7のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
RMXa-1b (II)
[(II)式中、Rは少なくとも一つが飽和環である縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子を示し、Mは周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を示し、Xはσ配位子を示し、Yはルイス塩基を示す。aはMの価数、bは0、1または2を示す。]
9. 前記有機アルミニウム化合物が、下記式(VII)で表される有機アルミニウム化合物である前記3〜8のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
R’R’’R’’’Al (VII)
[(VII)式中、R’、R’’およびR’’’はそれぞれ独立に炭素数3〜5のアルキル基を示す。]
10. 前記イオン性化合物が、置換又は無置換のトリアリールカルベニウムまたは置換又は無置換のアニリニウムから選ばれるカチオンと下記式(VIII)で表される非配位性アニオンからなるイオン性化合物である前記3〜9のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
(BZ1234- (VIII)
[式中、Z1〜Z4は、それぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基(ハロゲン置換アリール基を含む)、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基及び有機メタロイド基又はハロゲン原子を示す。]
11. 前記1〜10のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物を重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
12. 前記1〜10のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物およびオレフィン系モノマーを重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粉体重合により芳香族ビニル化合物重合体を製造する場合において、高い転化率を示し、かつ生成物が攪拌翼や反応器へ付着することなく安定に運転することができる、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法が提供される。当該製造方法を利用することで、工業的規模で重合反応を行う場合であっても、高い重合活性を有する重合触媒の特性を生かし、芳香族ビニル化合物重合体を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法は、粉体重合による芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、重合触媒の溶液(以下、触媒溶液ということがある。)を反応器に供給しながら、前記反応器内で芳香族ビニル化合物を重合させる工程を含むものである。
【0013】
本明細書において「芳香族ビニル化合物重合体」とは、芳香族ビニル化合物単量体単位が1モル%以上である重合体をいい、具体的には、1種の芳香族ビニル化合物からなる単独重合体、2種以上の芳香族ビニル化合物からなる共重合体、芳香族ビニル化合物とその他の単量体(オレフィン)からなる共重合体を含むものである。また、「粉体重合」とは、生成物である芳香族ビニル化合物重合体が固相(粉体)として存在している状態で行う重合反応をいう。
【0014】
本発明においては、周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含むハーフメタロセン錯体を用いてなる重合触媒が用いられる。また、助触媒等その他の成分として、有機アルミニウム化合物および非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を用いることが好ましい。
【0015】
本発明で用いる重合触媒を調製する際は、前記ハーフメタロセン錯体に対するモル比が20〜500となる量の前記有機アルミニウム化合物が用いられることが好ましい。当該モル比が20以上であると、高い重合活性が得られる。また、経済的な理由で当該モル比は500以下が好ましい。当該観点から、当該モル比は好ましくは50〜400であり、より好ましくは100〜300である。
本発明においては、好ましくは、前記ハーフメタロセン錯体に対するモル比が0.5〜3.0となる量の前記イオン性化合物が用いられる。当該モル比が0.5以上のときは、高い重合活性が得られる。また、経済的な理由で当該モル比は3.0以下が好ましい。当該観点から、当該モル比は好ましくは0.5〜2.5であり、より好ましくは0.5〜2.0である。
【0016】
本発明で用いる重合触媒を調製する際は、前記ハーフメタロセン錯体と前記有機アルミニウム化合物を接触させた後、その接触生成物と前記イオン性化合物とを接触することが好ましい。
【0017】
重合触媒を調製する際の温度や各成分の接触時間に関しては特に制限はなく、例えば、接触時間は1〜60分、温度は0〜50℃が挙げられる。また、上記順序で触媒を調製する場合、前記ハーフメタロセン錯体と前記有機アルミニウム化合物を接触させる際の接触時間は、通常、1分〜60分程度であり、その温度条件は、通常、0〜50℃である。また、このハーフメタロセン錯体と前記有機アルミニウム化合物の接触生成物にさらに前記イオン性化合物を接触する際の接触時間及び接触温度は、通常、1分〜60分程度であり、その温度条件は、通常、0〜50℃である。
【0018】
重合触媒を調製する際には溶媒を使用してもよい。この溶媒としては不活性溶媒が好ましく、例えば、芳香族炭化水素溶媒や脂肪族炭化水素溶媒が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。
重合触媒を調製する場合には、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、接触操作を行うことが望ましい。
【0019】
また、本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法においては、あらかじめ触媒に対して予備重合処理を行ってもよい。その方法には特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。予備重合に用いる芳香族ビニル化合物については特に制限はなく、後述する重合用の単量体と同じものを挙げることができる。予備重合温度は、通常−20〜200℃、好ましくは−1℃〜130℃である。
【0020】
本発明で用いる触媒溶液は、前記ハーフメタロセン錯体の濃度が0.1〜1.5mmol/Lである。濃度がこの範囲にあることで、反応器内における触媒濃度の偏りを減らすことができ、高い転化率で重合反応を行うことができる。このため、未反応モノマーが低減化され、生成物が攪拌翼や反応器へ付着することなく安定に運転することができる。当該観点から、触媒濃度は0.1〜1.0mmol/Lが好ましく、0.2〜1.0mmol/Lがより好ましい。
【0021】
触媒濃度を上記範囲に調整する際は、比較的濃い状態の触媒溶液を調製し、その後不活性溶媒によって希釈して所望の濃度に調節する方法が好ましく用いられる。不活性溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素溶媒や脂肪族炭化水素溶媒が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等が挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。
上記範囲に濃度を調整する限り、希釈方法について特に制限はなく、例えば触媒調製槽において希釈する方法や、反応器に供給するライン内で混合して希釈する方法が挙げられる。
【0022】
本発明において、触媒溶液を反応器に供給する際の態様は特に制限されず、一定速度で連続的に供給してもよく、また複数回に分けて段階的に供給してもよい。供給速度については目的に合わせて適宜設定すればよい。
本発明においては、触媒溶液を反応器に供給する際に当該溶液を単独で供給し、別の供給口から芳香族ビニル化合物を反応器に供給してもよく、また触媒溶液と芳香族ビニル化合物を供給ライン等において予め混合し、当該混合液を反応器に供給してもよい。
【0023】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法は、前記のように触媒溶液を反応器に供給しながら、当該反応器内で芳香族ビニル化合物を重合させる。
本発明で使用する反応器に関しては特に制限はなく、例えば、連続式または半連続式の反応器が挙げられる。反応器に設けられる攪拌翼については特に限定されず、例えば、多段パドル型、ヘリカルリボン型等各種のものを用いることができる。さらには温度制御を容易にするためにジャケット等が設けられていてもよい。
触媒溶液等を供給するための供給口については特に制限はなく、単なるノズルであってもよく、その先端がシャワー状になっていてもよい。また供給口の数も特に制限はなく、1つの供給口から触媒溶液を供給してもよく、複数の供給口から触媒溶液を供給してもよい。さらに、温度制御の目的で投入する不活性溶媒投入用の供給口を設けてもよい。
本発明で使用する反応器は、生成したポリマーを反応器から間歇的に、あるいは連続的に排出できる構造を有することが好ましい。例えば、反応器下部に抜出しノズルを有する混合槽型反応器や、スクリューフィーダーやロータリーバルブ等を有する反応器が挙げられる。
【0024】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法において用いられる芳香族ビニル化合物としては、各種のものがあるが、下記式(I)で表されるものが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、Rは水素原子、ハロゲン原子あるいは炭素数20個以下の炭化水素基を示し、mは1〜3の整数を示す。なお、mが複数のときは、各Rは同じでも異なってもよい。)
【0027】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−n−プロピルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−メチルスチレン、o−エチルスチレン、o−n−プロピルスチレン、o−イソプロピルスチレン、m−メチルスチレン、m−エチルスチレン、m−n−プロピルスチレン、m−イソプロピルスチレン、m−n−ブチルスチレン、メシチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、4−ブテニルスチレン等のアルキルスチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、o−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、o−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレン等のハロゲン化スチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン等のアルコキシスチレン、ビニル安息香酸エステル等を挙げることができる。上記芳香族ビニル化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法においては、原料として芳香族ビニル化合物のみを用いることが好ましいが、芳香族ビニル化合物とオレフィン系モノマーを組み合わせて共重合をしてもよい。
【0029】
上記オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−フェニル−1−ブテン、6−フェニル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、2−フルオロプロペン、フルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン、3−フルオロプロペン、トリフルオロエチレン、3,4−ジクロロ−1−ブテン、ブタジエン、イソプレン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、アセチレン等が挙げられ、中でも、エチレン、プロピレン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0030】
芳香族ビニル化合物およびオレフィン系モノマーを原料として共重合を行う方法において、得られる共重合体中の芳香族ビニル化合物単位の含有量は、1モル%以上であり、好ましくは5〜99モル%であり、より好ましくは40〜95モル%である。すなわち、オレフィン系モノマー単位の含有量は99モル%以下であり、好ましくは1〜95モル%であり、より好ましくは5〜60モル%である。オレフィン系モノマー単位の含有量が、上記範囲内であることで、芳香族ビニル化合物重合体の物性が向上する。
【0031】
以下において、本発明で用いられる触媒の一例を示す。
前記ハーフメタロセン錯体としては、例えば、以下の式(II)で表される遷移金属化合物が挙げられる。
RMXa-1b (II)
式(II)において、Rは少なくとも一つが飽和環である縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子を示し、Mは周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を示す。Xはσ配位子を示し、Xが複数ある場合には複数のXは同じでも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合していてもよい。Yはルイス塩基を示し、Xと架橋していてもよい。aはMの価数、bは0、1または2を示す。
【0032】
前記Xで表されるσ配位子としては、例えば、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアミド基、炭素数1〜20のシリル基、炭素数1〜20のホスフィド基、炭素数1〜20のスルフィド基、炭素数1〜20のアシル基等が挙げられる。Yで表されるルイス塩基としては、例えば、アミン類、エーテル類、ホスフィン類、チオエーテル類等が挙げられる。
【0033】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基等のアルキル基、アリル基、イソプロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、N,N−ジメチルアミノベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
【0034】
炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基等が挙げられる。炭素数1〜20のアミド基としては、例えば、N−メチルアミド基、N,N−ジメチルアミド基等が挙げられる。炭素数1〜20のシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメチルシリルメチル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基等が挙げられる。炭素数1〜20のホスフィド基としては、例えば、ジフェニルホスフィド基等が挙げられる。炭素数1〜20のスルフィド基としては、例えば、フェニルスルフィド基等が挙げられる。炭素数1〜20のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。
【0035】
Mは好ましくは周期律表第3族の金属であり、より好ましくはスカンジウムである。
式(II)中のRは、以下の式(III)、(IV)および(V)で表されるいずれかの縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子であることが好ましい。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
式(III)〜(V)中、R1〜R33は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のチオアルコキシ基、炭素数6〜20のチオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基又はアルキルシリル基を示し、R1〜R33は互いに同一でも異なっていてもよく、c、d、e及びfは1以上の整数を示し、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは2である。
【0040】
式(III)〜(V)において、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、トリ−t−ブチルフェニル基等のアルキル置換フェニル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントニル基等が挙げられる。炭素数1〜20のチオアルコキシ基としては、例えば、チオメトキシ基等が挙げられる。炭素数6〜20のチオアリーロキシ基としては、例えば、チオフェノキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、アルキルシリル基の具体例については、式(II)に挙げたものと同一のものが挙げられる。
【0041】
式(III)の縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の具体例としては、4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2,3−トリメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、2―メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−エチル−2,3−ジメチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2−ジエチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2−ジエチル−3−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジエチル−4、5、6、7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジエチル−2−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,2,3−トリエチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、2−エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1−メチル−2―エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、1,3−ジメチル−2―エチル−4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、テトラヒドロペンタレニル基、1−メチルテトラヒドロペンタレニル基、2−メチルテトラヒドロペンタレニル基、1,2−ジメチルテトラヒドロペンタレニル基、1,3−ジメチルテトラヒドロペンタレニル基、1,2,3−トリメチルテトラヒドロペンタレニル基、ヘキサヒドロアズレニル基、1−メチルヘキサヒドロアズレニル基、2−メチルヘキサヒドロアズレニル基、1,2−ジメチルヘキサヒドロアズレニル基、1,3−ジメチルヘキサヒドロアズレニル基、1,2,3−トリメチルヘキサヒドロアズレニル基等が挙げられる。
【0042】
式(IV)の縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の具体例としては、トリシクロ[6,4,0,0]ドデカジエニル基、2−メチルトリシクロ[6,4,0,0]ドデカジエニル基等が挙げられる。
【0043】
式(V)の縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の具体例としては、1,2,3,4−テトラヒドロフルオレニル基、9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル基、9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル基、9−nプロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル基、1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−メチル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−エチル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−n−プロピル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−フェニル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、8−トリメチルシリル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデン、4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−メチル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−エチル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−n−プロピル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−フェニル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基、10−トリメチルシリル−4a,5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル基等が挙げられる。
【0044】
前記縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子の中で、式(V)で表される配位子が特に好ましく、脂環式6員環構造を有する配位子、すなわち以下の式(VI)で表される配位子が、重合活性、錯体の安定性、製造コストの点で最も好ましい。
【0045】
【化5】

【0046】
なお、式(VI)中、R34〜R46は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のチオアルコキシ基、炭素数6〜20のチオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基又はアルキルシリル基を示す。これらの置換基の具体例としては、式(III)〜(V)に関して例示したものが挙げられる。
【0047】
式(II)で表される遷移金属化合物の具体例としては、(1,3−ジメチルテトラヒドロペンタレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(トリシクロ[6,4,0,0]ドデカジエニルビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(8−メチル−1,2,3,8−テトラヒドロシクロペンタ[α]インデニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−n−プロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−トリメチルシリル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(4a、5,6,7,8,9−ヘキサヒドロベンゾ[α]アズレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム、(9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−n−プロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−トリメチルシリル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(トリメチルシリルメチル)スカンジウム、(9−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム、(9−n−プロピル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム、(9−トリメチルシリル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(アリル)スカンジウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0048】
前記有機アルミニウム化合物としては、例えば、以下の式(VII)で表される有機アルミニウム化合物が挙げられる。
R’R’’R’’’Al (VII)
式(VII)中、R’、R’’およびR’’’はそれぞれ独立に炭素数3〜5のアルキル基を示す。アルキル基の炭素数が3〜5の範囲であれば十分な重合活性が得られるため好ましい。炭素数3〜5のアルキル基としては、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基が挙げられる。
【0049】
前記有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−t−ブチルアルミニウム、トリ−n−ペンチルアルミニウムが挙げられる。これらの中で、高い重合活性が得られることから炭素数4の置換基のみを有する有機アルミニウム化合物が好ましく、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムがより好ましい。
本発明においては、前記有機アルミニウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0050】
前記非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物としては、例えば、非配位性アニオンと置換又は無置換のトリアリールカルベニウムとからなるイオン性化合物や、非配位性アニオンと置換又は無置換のアニリニウムからなるイオン性化合物が挙げられる。
【0051】
前記非配位性アニオンとしては、例えば、以下の式(VIII)で表される非配位性アニオンを挙げることができる。
(BZ1234- (VIII)
式(VIII)中、Z1〜Z4は、それぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基(ハロゲン置換アリール基を含む)、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基及び有機メタロイド基又はハロゲン原子を示す。
【0052】
式(VIII)で表される非配位性アニオンの具体例としては、テトラキス(フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トルイル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、〔トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル〕ボレート、トリデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート等を挙げることができる。
【0053】
前記置換又は無置換のトリアリールカルベニウムとしては、例えば、以下の式(IX)で表わされるトリアリールカルベニウムを挙げることができる。
〔CR474849+ (IX)
式(IX)中、R47、R48及びR49は、それぞれフェニル基,置換フェニル基,ナフチル基及びアントラセニル基等のアリール基であって、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0054】
前記置換フェニル基は、例えば、以下の式(X)で表わすことができる。
65-k50k (X)
式(X)中、R50は、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、チオアルコキシ基、チオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基及びハロゲン原子を示し、kは1〜5の整数である。kが2以上の場合、複数のR50は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0055】
式(IX)で表される置換又は無置換のトリアリールカルベニウムの具体例としては、トリ(フェニル)カルベニウム、トリ(トルイル)カルベニウム、トリ(メトキシフェニル)カルベニウム、トリ(クロロフェニル)カルベニウム、トリ(フルオロフェニル)カルベニウム、トリ(キシリル)カルベニウム、〔ジ(トルイル),フェニル〕カルベニウム、〔ジ(メトキシフェニル),フェニル〕カルベニウム、〔ジ(クロロフェニル),フェニル〕カルベニウム、〔トルイル,ジ(フェニル)〕カルベニウム、〔メトキシフェニル,ジ(フェニル)〕カルベニウム、〔クロロフェニル,ジ(フェニル)〕カルベニウム等が挙げられる。
また、置換又は無置換のアニリニウムの具体例としては例えば、N,N−ジメチルアニリニウムが挙げられる。
【0056】
前記非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物の具体例としては、トリ(フェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(4−メチルフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(4−メトキシフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
本発明において、前記イオン性化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明で得られる芳香族ビニル化合物重合体は、シンジオタクチック構造を有することが好ましい。すなわち、該重合体に含まれる芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位が連続している場合に、その繰り返し単位の芳香環が、高分子主鎖がつくる平面に対して、交互に配置している割合(シンジオタクチシティー)が高いことが好ましい。そして、シンジオタクチシティーは、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]で表すことができる。本発明の重合体において、立体規則性[rrrr]は、通常80モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上である。80モル%未満であると、シンジオタクチック構造の特徴である耐熱性が低下する。
立体規則性[rrrr]とは、芳香族ビニル化合物重合体中のペンタッド(五連鎖)単位でのラセミ分率(モル%)であり、立体規則性分布を表す指標である。この立体規則性[rrrr]は、エイ・ザンベリ(A.Zambelli)等により「Macromolecules,6,925(1973)」で提案された方法に準拠し、13C−NMRスペクトルの測定によって算出することができる。具体的には、共重合体中のスチレン連鎖のフェニルC1炭素領域(146.3ppm〜144.5ppm)のうち、ノイズ(サテライトピークやスピニングサイドバンド)を除いたピークの分率で表される。
【0058】
本発明で得られる芳香族ビニル化合物重合体は、GPC法により測定した分子量分布(Mw/Mn)が、通常1.7以上、好ましくは2.0〜5.0、より好ましくは2.0〜3.5である。
分子量分布は、ゲルパーミエイションクロマトグラフ(GPC)法により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)から与えられる。GPCの測定は、例えば、GPCカラムShodex UT806L(GLサイエンス社製)を用いて、温度145℃、溶媒1,2,4−トリクロロベンゼン、流速1.0ml/分の条件で行うことができる。
また、本発明の製造方法により得られる芳香族ビニル化合物重合体の重量平均分子量は特に限定されないが、耐衝撃性の観点から、ポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、10,000〜3,000,000、好ましくは50,000〜900,000の範囲である。
また、重量平均分子量は、分子量の指標である極限粘度[η]を測定することにより求めることができる。実施例において、極限粘度[η]は、(株)離合社製粘度計(VMR−053U−PC・F01)、ウベローデ型粘度管(測時球容積:2〜3ml、毛細管直径:0.44〜0.48mm)、溶媒として1,2,4−トリクロルベンゼンを用いて、0.02〜0.16g/dLの溶液を145℃にて測定した。本発明の芳香族ビニル化合物重合体を極限粘度[η]で表すと、通常、0.1〜16dl/g(重量平均分子量で10,000〜3,000,000)、好ましくは0.2〜5.0dl/g(重量平均分子量で50,000〜900,000)の範囲である。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
製造例1 ジメチルアミノベンジルリチウムの合成
N,N−ジメチル‐o‐トルイジン(162ml、1.11mmol)のヘキサン(437ml)−ジエチルエーテル(140ml)溶液にn−BuLiのヘキサン溶液(2.6mol/L,440ml)を100分かけて滴下した。45時間撹拌した後、ろ過により沈殿をろ別した。得られた固体をヘキサンにより洗浄(200ml×3回)した後に、減圧乾燥してジメチルアミノベンジルリチウムを130g(収率83%)得た。
【0060】
製造例2 トリス(ジメチルアミノベンジル)スカンジウムの合成
無水ScCl3(20.7g,0.14mol)のテトラヒドロフラン(THF)懸濁液(160ml)を室温で1時間撹拌し、ここへ製造例1で合成したジメチルアミノベンジルリチウム(57.9g,0.41mol)のTHF溶液(250ml)を滴下し、40時間撹拌した。溶媒を留去した後にトルエンで抽出し、さらに再結晶により精製し、トリス(ジメチルアミノベンジル)スカンジウムを淡黄色の結晶として49gを得た。収率は80%であった。
【0061】
製造例3 9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレンの合成
フルオレン(60g,0.36mol)をエチレンジアミン350ml−THF350mlの混合溶液に溶解させた。この溶液に、10℃以下で金属リチウム(11.3g,1.62mol)を4時間かけて投入した。反応終了後、水を添加し、ジエチルエーテルにより抽出後、塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。ジエチルエーテル層に硫酸マグネシウムを入れ、冷蔵庫にて一晩乾燥させた。硫酸マグネシウムをろ別し、ジエチルエーテル留去することによって、1,2,3,4−テトラヒドロフルオレンを58.7g得た。収率は90%であった。この1,2,3,4−テトラヒドロフルオレン(55.0g,0.32mol)をTHF400mlに溶解させた。この溶液を−78℃に冷却し、n−BuLiのヘキサン溶液(2.6mol/L,141ml)を90分かけて滴下した。室温まで昇温後、40時間撹拌した。再び、0℃まで冷却し、エチルブロミド(24.2ml,0.32mol)を加え、室温にて更に24時間撹拌した。反応終了後、水を添加することにより反応を停止し、エーテル抽出後、硫酸マグネシウムを用いて乾燥し、50.4gの9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレンを得た。収率は79%であった。
【0062】
製造例4 (9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウムの合成
製造例2で得られたトリス(ジメチルアミノベンジル)スカンジウム(35g,78mmol)のTHF溶液100mlに、製造例3で得られた9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレン(18.6g,94mmol)のTHF溶液60mlをいれ、70℃で12時間攪拌した。反応終了後、溶媒を除去し、ヘキサン150mlで3回洗浄後、トルエンで抽出し、さらに再結晶により精製し、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−フルオレニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウムを淡黄色の結晶として19.6g得た。収率は49%であった。
【0063】
製造例5 触媒溶液の調製
パイロット装置のジャケット付き触媒調合槽(50L)の温度を25℃に設定し、この触媒調合槽にエチルベンゼン22.0Lを入れた。その後、トリノルマルブチルアルミニウムを1.6mol(トルエン溶液1.6L)、製造例4で得られたスカンジウム錯体を0.008mol(トルエン溶液0.098L)、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートを0.009mol(エチルベンゼン溶液2.3L)を加え、触媒を調製し、さらに、エチルベンゼンで希釈することで触媒濃度0.3mmol/Lの触媒溶液を得た。
【0064】
実施例1
清掃したヘリカル翼を有する完全混合槽型反応器(内径435mm、高さ740mm、内容積100リットル)を90℃まで昇温し、真空中にて3時間乾燥させた。次いで、窒素ガスにより反応器を復圧後、80℃まで降温し、予め乾燥窒素ガスを流通処理して十分乾燥させたシンジオタクチックポリスチレンパウダー(以下、SPSパウダーと省略する。)65リットルをこの反応器に投入し、さらに窒素気流下で2時間乾燥させた。続いて、攪拌速度100rpmで攪拌を開始し、反応器内の温度を70℃に調節した。
その後スチレンモノマーおよび製造例5で得られた触媒溶液を以下の条件で供給した。
スチレンモノマー:8リットル/h
触媒溶液:0.16mmol/h
さらに、温度調節用として、n−ペンタンを約15kg/hの量で投入することで内温を70℃に保った。反応器レベルを一定に保ちつつSPSパウダーを底部より連続的に抜き出したところ、転化率84.3%にてSPSパウダーを105時間連続して製造することができた。終了時の付着性を以下の基準により評価した。
○:重合器内壁、攪拌翼に付着が無く、運転状態も良好であった。
△:重合器内壁、攪拌翼に若干の付着は有るが、運転状態は良好であった。
×:重合器内壁、攪拌翼に付着が有り、温度変動,排出不良などにより運転が困難であった。
【0065】
実施例2〜7、比較例1〜3
触媒溶液調製時において、触媒濃度および希釈溶媒を第1表に記載のものに変更したことを除き、実施例1と同様にしてSPSパウダーを製造した。結果を第2表に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、粉体重合により芳香族ビニル化合物重合体を製造する場合において、高い転化率を示し、かつ生成物が攪拌翼や反応器へ付着することなく安定に運転することができる、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法が提供される。当該製造方法を利用することで、工業的規模で重合反応を行う場合であっても、潜在的に高い重合活性を有する芳香族ビニル化合物重合用触媒の特性を生かし、芳香族ビニル化合物重合体を効率よく生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体重合による芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、
周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を含むハーフメタロセン錯体を用いてなる重合触媒の溶液を反応器に連続的または段階的に供給しながら、前記反応器内で芳香族ビニル化合物を重合させる工程を含み、前記重合触媒の溶液中のハーフメタロセン錯体の濃度が0.1〜1.5mmol/Lである、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合触媒の溶液中のハーフメタロセン錯体の濃度が0.2〜1.0mmol/Lである、請求項1に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項3】
前記重合触媒が、前記ハーフメタロセン錯体の他に有機アルミニウム化合物および非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物を用いてなるものである請求項1または2に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合触媒の溶液の溶媒が不活性溶媒である請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項5】
前記不活性溶媒が、芳香族炭化水素溶媒または脂肪族炭化水素溶媒である請求項4に記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項6】
前記反応器が、連続式または半連続式の反応器である請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項7】
前記反応器が、下部に抜出しノズルを有する混合槽型反応器である請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項8】
前記ハーフメタロセン錯体が、下記式(II)で表される錯体である請求項1〜7のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
RMXa-1b (II)
[(II)式中、Rは少なくとも一つが飽和環である縮合多環式シクロペンタジエニルπ配位子を示し、Mは周期律表第3族またはランタノイド系列の遷移金属を示し、Xはσ配位子を示し、Yはルイス塩基を示す。aはMの価数、bは0、1または2を示す。]
【請求項9】
前記有機アルミニウム化合物が、下記式(VII)で表される有機アルミニウム化合物である請求項3〜8のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
R’R’’R’’’Al (VII)
[(VII)式中、R’、R’’およびR’’’はそれぞれ独立に炭素数3〜5のアルキル基を示す。]
【請求項10】
前記イオン性化合物が、置換又は無置換のトリアリールカルベニウムまたは置換又は無置換のアニリニウムから選ばれるカチオンと下記式(VIII)で表される非配位性アニオンからなるイオン性化合物である請求項3〜9のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
(BZ1234- (VIII)
[式中、Z1〜Z4は、それぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基(ハロゲン置換アリール基を含む)、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基及び有機メタロイド基又はハロゲン原子を示す。]
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物を重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法であって、芳香族ビニル化合物およびオレフィン系モノマーを重合する工程を含む、芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80モル%以上である芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−57017(P2012−57017A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200371(P2010−200371)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】