説明

芳香族フッ素化合物の製造方法

【課題】芳香族ハロゲン化合物とフッ素化剤とのハロゲン交換反応をより高収率なものとし、最終的に得られる芳香族ハロゲン化合物を安定に高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)又は(2);
【化1】


(式中、Xは、ハロゲン原子を表す。Aは、−CN、−NO、−COF又は−COClを表す。aは、Aの置換数であり、b及びcは、Xの置換数である。Zは、−O−又は=N−Rを表す。Rは、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。)で表される芳香族ハロゲン化合物を有機溶媒中でフッ素化剤によりフッ素化する工程により、下記一般式(3)又は(4);
【化2】


(式中、Fは、フッ素原子を表す。d及びeは、Fの置換数であり、b−d及びc−eは、残存Xの置換数である。)で表される芳香族フッ素化合物を製造する方法であって、該フッ素工程は、遊離酸の含有量を500ppm以下としてフッ素化する芳香族フッ素化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族フッ素化合物の製造方法に関する。より詳しくは、芳香族ハロゲン化合物をハロゲン交換反応における原料とすることにより、これをフッ素化剤によりフッ素化して、対応する芳香族化合物を高収率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族フッ素化合物は、芳香環がフッ素に置換された化合物であり、医薬品の中間体等の各種の工業原料の用途に有用であり、現在工業的に生産され、供給されているものである。
このような芳香族フッ素化合物を工業的規模で生産する場合、目的物である芳香族フッ素化合物を高収率で得られることが望ましく、各種用途に好適に適用できる芳香族フッ素化合物を従来より高い収率で製造する方法を開発することは、当該技術分野において継続的な課題である。
【0003】
芳香族フッ素化合物の製造方法としては、ベンゼン、ベンゾニトリル、無水フタル酸、無水フタル酸アミド等の芳香族を塩素、臭素又はヨウ素によりハロゲン化し、得られた芳香族ハロゲン化合物をフッ素化剤とのハロゲン交換反応により、対応する芳香族フッ素化合物を製造し、その後、種々の精製工程を経て、芳香族フッ素化合物を得ることになる。このような芳香族フッ素化合物の製造方法におけるハロゲン交換反応としては、例えば、ペンタフルオロベンゾニトリルの製法に関し、ペンタクロロベンゾニトリルをベンゾニトリル媒体中で270〜400℃の範囲の温度でフッ素化剤と自然発生圧下で反応せしめる製法(例えば、特許文献1参照。)が開示されている。また、有機フッ素化合物の製法に関し、クロルまたはブロム化有機化合物をベンゾニトリル媒体中で190〜400℃の範囲の温度でフッ素化剤と自然発生圧下で反応せしめる製法(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
しかしながら、これらの芳香族フッ素化合物の製法については、ハロゲン交換反応における反応溶媒及び反応温度が特定のものであるが、反応の収率に影響を与える別の要因を制御することによって、反応の収率を向上させて、各種の用途に用いられる芳香族フッ素化合物の製造方法をより効率的なものとする工夫の余地があった。
【特許文献1】特公昭62−24417号公報
【特許文献2】特公平3−13206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、芳香族ハロゲン化合物とフッ素化剤とのハロゲン交換反応をより高収率なものとし、最終的に得られる芳香族ハロゲン化合物を安定に高収率で製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、芳香族フッ素化合物の製造方法について種々検討したところ、芳香族ハロゲン化合物とフッ素化剤とのハロゲン交換反応としては、ハロゲン交換反応に使用するフッ素化剤が遊離フッ化水素酸を形成することに起因して、ハロゲン交換反応の収率に影響を及ぼすことを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、ハロゲン交換反応に使用するフッ素化剤中の遊離フッ化水素酸の量を特定の濃度範囲として反応に供することにより、ハロゲン交換反応の選択率を特定の範囲とすることができるという特性が発揮されることから、芳香族フッ素化合物を従来よりも高収率で製造できることも見いだし、本発明に到達したものである。
【0006】
すなわち本発明は、下記一般式(1)又は(2);
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Xは、同一若しくは異なって、塩素、臭素又はヨウ素のハロゲン原子を表す。Aは、同一若しくは異なって、−CN、−NO、−COF又は−COClを表す。aは、Aの置換数であって、0、1又は2の整数であり、bは、Xの置換数であって、2〜6の整数である。ただし、a+b≦6である。cは、Xの置換数であって、1〜4の整数である。Zは、−O−又は=N−Rを表す。Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)で表される芳香族ハロゲン化合物を有機溶媒中でフッ素化剤によりフッ素化する工程により、
下記一般式(3)又は(4);
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、A、X、Z、R、a、b及びcは、上記一般式(1)又は(2)と同様であり、Fは、フッ素原子を表す。dは、Fの置換数であって、1〜6の整数であり、b−dは、残存Xの置換数である。eは、Fの置換数であって、1〜4の整数であり、c−eは残存Xの置換数である。)で表される芳香族フッ素化合物を製造する方法であって、上記フッ素化工程は、遊離酸の含有量を500ppm以下としてフッ素化する芳香族フッ素化合物の製造方法である。なお、本発明において、塩素、臭素又はヨウ素のハロゲン原子を、単に、ハロゲン原子又はハロゲンと呼ぶことがある。また、フッ素化する工程における反応を、ハロゲン交換反応と呼ぶことがある。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明の芳香族フッ素化合物の製造方法は、芳香族ハロゲン化合物を有機溶媒中でフッ素化剤によりフッ素化して、芳香族フッ素化合物を製造する方法である。
上記芳香族ハロゲン化合物は、ハロゲン交換反応における原料として使用されるものであり、前記一般式(1)又は(2)において表されるものである。
上記一般式(1)又は(2)のXとしては、同一若しくは異なって、塩素、臭素又はヨウ素のハロゲン原子を表す。これらの中でも好ましくは、塩素又は臭素、より好ましくは、塩素である。
上記Aは、同一若しくは異なって、−CN、−NO、−COF又は−COClを表す。これらの中でも好ましくは、−CN又は−NO、より好ましくは、−CNである。
上記Zは、−O−又は=N−Rを表し、好ましくは、−O−である。
上記Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等が好適である。炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−、m−又はp−トリル基、2,3−又は2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、ピレニル基等が好適である。
【0012】
上記芳香族ハロゲン化合物としては、例えば、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラブロモベンゼン、ペンタクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン等のモノ〜ヘキサハロベンゼン;2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4,6−トリクロロベンゾニトリル、3,4,5,6−テトラクロロベンゾニトリル、ペンタクロロベンゾニトリル等のモノ〜ペンタハロベンゾニトリル;3,4,5,6−テトラクロロフタロニトリル、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル等のモノ〜テトラハロフタロニトリル;テトラクロロ無水フタル酸等のモノ〜テトラハロ無水フタル酸;テトラクロロ無水フタル酸アミド等のモノ〜テトラハロ無水フタル酸アミド;N−メチルテトラクロロ無水フタル酸アミド、N−エチルテトラクロロ無水フタル酸アミド、N−n−プロピルテトラクロロ無水フタル酸アミド、N−イソプロピルテトラクロロ無水フタル酸アミド、N−n−ブチルテトラクロロ無水フタル酸アミド、N−イソブチルテトラクロロ無水フタル酸アミド等のN−アルキルモノ〜テトラハロ無水フタル酸アミド;N−フェニルテトラクロロ無水フタル酸アミド等のN−アリールモノ〜テトラハロ無水フタル酸アミド;2,3,4−トリクロロニトロベンゼン、ペンタクロロニトロベンゼン等のモノ〜ペンタハロニトロベンゼン等を挙げることができる。これらの中でも、3,4,5,6−テトラクロロフタロニトリル、ペンタクロロベンゾニトリル及び2,6−ジクロロベンゾニトリルが好適に用いられる。
【0013】
本発明においては、上記芳香族ハロゲン化合物を有機溶媒中でフッ素化剤により、ハロゲン交換反応をさせてなるものである。このような有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン(TMSO)、N,N−ジメチルスルホキシド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホラン(DMSO)、ベンゾニトリル(BN)等の非プロトン性極性溶媒を用いることができる。これらの中でも、BNが好ましい。上記ハロゲン交換反応においては、DMSOやTMSOのように極性が高い溶媒を用いると反応性が高まるが、これらは耐熱性が低く、分解しやすい。一方、BNにおいては、その極性はDMSOやTMSOのように高くはないが、耐熱性が高いため、高温での反応が可能となり、反応性が高まり、収率を向上することができるため、BNが好ましい。また、他の溶媒にみられるような溶媒と、原料又は生成物との副反応が生じない利点もあるためである。
【0014】
上記ハロゲン交換反応においては、反応温度が低くかつ反応時間が短い場合、塩素原子又は臭素原子等のハロゲン原子が完全に交換されていない化合物が一部生成することもあるが、溶媒と目的化合物である芳香族フッ素化合物との組み合わせを、溶媒の沸点より目的化合物の沸点が低いものとすることにより、反応の収率を高めることができる。このような組み合わせの場合には、反応により生成した目的化合物をストリッピングで取り出すことができ、反応容器である反応釜には高沸点の塩素または臭素等のハロゲン含有フッ素化合物が有機溶媒に溶解して残存する。この残存したハロゲン含有フッ素化合物を含む回収有機溶媒を、次の反応に溶媒として再使用することによって、未反応中間体のハロゲン含有フッ素化合物を、容易に目的化合物である芳香族フッ素化合物に反応させることができる。例えば、溶媒としてベンゾニトリルを用いて、ペンタフルオロベンゾニトリルやペンタフルオロピリジンを得る場合、これらの沸点は0.1MPa下で、ベンゾニトリルが191℃であるのに対して、ペンタフルオロベンゾニトリルは163℃、ペンタフルオロピリジンは84℃である。このように、目的の化合物の沸点が溶媒の沸点より低い場合には、目的化合物をストリッピングで取り出し、その後に残存するハロゲン含有フッ素化合物を含む回収ベンゾニトリル溶媒を再使用することによって、ペンタフルオロベンゾニトリル、ペンタフルオロピリジン等の目的化合物の収率を高めることができる。
上記有機溶媒と芳香族ハロゲン化合物との仕込み割合としては、有機溶媒100質量部に対して、芳香族ハロゲン化合物を1〜100質量部であることが好ましい。より好ましくは、5〜80質量部、更に好ましくは、10〜70質量部である。
【0015】
本発明における芳香族フッ素化合物の製造方法としては、フッ素化工程において遊離酸の含有量を500ppm以下とするものである。このような遊離酸が混入する工程としては、フッ素化工程の前工程やフッ素化工程等が挙げられる。フッ素化工程の前工程としては、通常フッ素化工程の前に行われる、ベンゾニトリル等をハロゲン化(例えば、塩素化)する工程、フッ素化工程において使用する原料を精製する工程及びフッ素化工程において使用する原料をフッ素化工程に輸送する工程等である。フッ素化工程の前工程において混入する場合としては、フッ素化工程で用いられる原料等に含まれる場合や、これらの工程において発生する場合等が挙げられる。また、フッ素化工程で混入する場合としては、フッ素化工程で用いられるフッ素化剤及びその他の原料等に含まれる場合があり、例えば、フッ素化工程で使用する溶媒等に含まれる場合や、フッ素化剤が遊離酸を生成する工程により製造されたものが挙げられる。また、フッ素化工程において発生する場合としては、ハロゲン交換反応の過程で生じる場合等が挙げられる。
これらの中でも、芳香族フッ素化合物の製造方法において、フッ素化する工程が、遊離酸を生成する工程により製造されたフッ素化剤を用いる芳香族フッ素化合物の製造方法は、本発明の好ましい形態の一つである。
【0016】
上記遊離酸としては、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、遊離フッ化水素酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、及び、ハロゲン交換反応の過程で生じる芳香族化合物の酸フルオライド類等が挙げられる。これらの中でも、塩化水素酸、遊離フッ化水素酸、安息香酸が好ましく、中でも、遊離フッ化水素酸がより好ましい。このように、遊離酸が、遊離フッ化水素酸である形態は、本発明の好ましい形態の一つである。
【0017】
本発明におけるフッ素化する工程としては、上記遊離酸の含有量を500ppm以下としてフッ素化するものである。遊離酸の含有量としては、フッ素化剤に対して500ppm以下であることが好ましい。遊離酸の含有量が、500ppmを超えると、目的とする芳香族フッ素化合物の収率が低下するだけでなく、遊離酸がフッ化水素酸である場合に顕著に、フッ化水素酸の有する腐蝕性に起因して、反応器の腐蝕が起こるおそれがある。
上記遊離酸の含有量としては、反応溶液に対して重量割合で、好ましくは、500ppm以下であり、より好ましくは、400ppm以下であり、更に好ましくは、300ppm以下である。また、上記遊離酸の含有量としては、本反応に使用するフッ素化剤に対して重量割合で、好ましくは、500ppm以下であり、より好ましくは、400ppm以下であり、更に好ましくは、300ppm以下である。このように、遊離酸の含有量が、フッ素化剤に対して500ppm以下である形態は、本発明の好ましい形態の一つである。
【0018】
上記遊離酸として、フッ化水素酸である場合において、フッ化水素酸が多量に含まれる場合の収率の低下としては、例えば、ペンタクロロベンゾニトリルをベンゾニトリル溶媒中、フッ素化剤としてフッ化カリウム(KF)を用いてハロゲン交換反応した際、フッ素化剤に対して約800ppmのフッ化水素が含有されていると、目的物のペンタフルオロベンゾニトリルの収率が、約20%低下することとなる。KFは、HFとKF・HFの型の化合物を形成するので、このKF・HFが、収率に悪影響を及ぼしていることが挙げられる。
上記フッ化水素酸の含有量を所望の範囲に調整する方法としては、特に制限はなく、例えばハロゲン交換反応の仕込み時に、500ppm以下の量のフッ化水素酸を含有するように製造したフッ化カリウムを使用する方法、フッ化水素を含有する薬液を添加してフッ素化剤に対するフッ化水素の量が500ppm以下とする方法、又は、フッ化水素ガスを反応器に導入する方法が挙げられる。これらの中でも、フッ化水素酸の含有量を500ppm以下となるように製造したフッ化カリウムを使用する方法、又は、仕込み時にフッ化水素を含有する薬液を添加する方法が好ましい。
【0019】
上記フッ素化剤としては、この種の反応に一般に用いられているフッ素化剤を好適に用いることができる。例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム等のアルカリ土類金属フッ化物;フッ化アンチモン等の遷移金属のフッ化物;N−フルオロペンタクロロピリジニウム塩、テトラエチルアンモニウムフルオライド、テトラブチルアンモニウムフルオライド等の有機塩基とフッ素との塩等を挙げることができる。なかでも、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物が好ましく、スプレードライした微粒子状のフッ化カリウム(スプレードライフッ化カリウム)がより好ましい。
上記スプレードライフッ化カリウムの粒径としては、レーザー光散乱を原理とした測定方法(例えば、HORIBA製 LASER SCATTERING PARTICLE SIZE DISTRIBUTION ANALYZER LA−920)で測定した粒径が、0.01μm〜2000μmが好ましい。より好ましくは、0.05μm〜1500μmであり、更に好ましくは、0.1μm〜1000μmである。
上記スプレードライフッ化カリウムの平均嵩比重としては、0.1〜0.7g/mlであることが好ましい。
上記フッ素化剤は、シリカ等の無機化合物を含有していてもよい。無機化合物としては、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等の元素の酸化物を挙げることができる。具体的には、微粉砕したシリカ、ゼオライト、珪藻土等のシリカ及びアルミナ化合物、チタニア、ジルコニアを主成分とする化合物を挙げることができる。なかでも、微粒子状シリカが好ましい。
上記フッ素化剤の使用量としては、フッ素原子により置換される原料化合物の芳香族ハロゲン化合物に含まれる塩素等のハロゲン原子に対し、少なくとも等モルである必要があり、一般的には、ハロゲン原子1モルに対して、フッ素化剤中のフッ素原子が1〜2モルが好ましい。より好ましくは、1〜1.5モルである。
【0020】
上記ハロゲン交換反応においては、また、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物及び/又は炭酸化物を存在させてもよい。これらの存在により、芳香族化合物の酸フルオライド類を発生防止又は除去することができ、芳香族化合物の酸フルオライド類に起因するフッ化水素酸やフッ化イオン等の発生を防止することができる。
上記アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物及び/又は炭酸化物としては、NaO、KO等のアルカリ金属の酸化物;MgO、CaO等のアルカリ土類金属の酸化物;NaOH、KOH等のアルカリ金属の水酸化物;Mg(OH)、Ca(OH)等のアルカリ土類金属の水酸化物;NaCO、KCO等のアルカリ金属の炭酸化物;MgCO、CaCO等のアルカリ土類金属の炭酸化物等が例示できる。これらの中でも、効果が高いという点から、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、KOHがより好ましい。
【0021】
上記アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物及び/又は炭酸化物の添加量としては、有機溶媒に対し50〜1500ppmであり、好ましくは、100〜600ppmである。添加量が50ppm未満の場合には、芳香族化合物の酸フルオライド類の発生防止効果が充分ではなく、一方、1500ppmを越える場合には、ハロゲン交換反応における出発原料に対してヒドロキシル化反応等の副反応が起こり易くなるため好ましくない。
【0022】
上記ハロゲン交換反応では、できるだけ無水条件下で行うのが、副反応による芳香族化合物の酸フルオライドの発生を抑えかつ反応速度を高めるために好ましい。そのため、反応に先立って、ベンゼン、トルエン等を加えて水分を共沸混合物として予め蒸留除去するのが好ましい。芳香族ハロゲン化合物、有機溶媒及びフッ素化剤を含む反応液中の水含量としては、50〜2000ppmである。2000ppmを超えると、タール状の副生物が生じ、芳香族フッ素化合物の収率が低下する一方、50ppmより少ないとフッ素化剤の溶媒への溶解度が低下し、収率が低下する。水含量としては、好ましくは、80〜1900ppmであり、より好ましくは、100〜1800ppmである。
なお上記水分量は、芳香族ハロゲン化合物、有機溶媒及びフッ素化剤を反応容器に仕込んでから測定するか、又は、芳香族ハロゲン化合物、有機溶媒及びフッ素化剤のそれぞれの水分量を測定して求めることができる。
【0023】
上記ハロゲン交換反応においては、反応系にさらに相間移動触媒を存在させることが好ましい。相間移動触媒を存在させることにより、反応速度が速くなり、反応時間を短縮できることとなる。このような相間移動触媒としては、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル等のクラウン化合物、分子量300〜600のポリエチレングリコール等が使用できる。この相間移動触媒の添加量としては、ハロゲン交換反応における原料であるクロル又はブロム等の芳香族ハロゲン化合物1モルに対し、0.01〜0.25モルが好ましく、0.05〜0.20モルがより好ましい。
【0024】
上記反応温度としては、通常、150〜400℃である。好ましくは180〜380℃であり、より好ましくは、200〜360℃である。このような反応における圧力としては、特に制限はないが、上記温度範囲で常圧下還流しながら反応を行ってもよく、自然発生圧力下行ってもよい。また、窒素ガス等により圧力を高くして反応させてもよい。反応温度及び反応圧力としては、190〜400℃の温度範囲で約0〜約3MPa(ゲージ圧)であり、好ましくは、230〜360℃の温度範囲で約0.15〜2.2MPa/cm(ゲージ圧)である。
上記反応における反応時間は、通常、2〜48時間である。好ましくは、3〜30時間であり、より好ましくは、6〜25時間、更に好ましくは、8〜20時間である。
上記反応に用いる反応容器には特に制限はないが、一般には、SUS316等の耐薬品性の素材を使用し、攪拌翼を配設した耐圧性反応容器を用いるのがよい。
【0025】
またKF遊離酸分規定の好ましい製法におけるハロゲン交換反応で使用する芳香族ハロゲン化合物として、芳香族ハロゲン化合物を平均粒子径20〜200μm、好ましくは40〜170μm、より好ましくは50〜150μmの範囲の粒子として反応に供する点にある。具体的には、芳香族ハロゲン化合物を有機溶媒や本発明にかかるフッ素化剤とともに、あるいは予め有機溶媒やフッ素化剤を反応容器に仕込んだ後に、平均粒子径20〜200μmの範囲の粒子として反応容器に仕込む。このようにすることにより、遊離酸量を規定することとあいまって目的物である芳香族フッ素化合物の収率を向上させることができる。なお、上記平均粒子径は、レーザー光回折散乱法を利用した測定装置、堀場製作所製LA−920を用いて求めた。
【0026】
平均粒子径が200μmを超えると、目的物である芳香族フッ素化合物の収率が低下する場合がある。これは芳香族ハロゲン化合物の有機溶媒への溶解性あるいは溶解速度が低下するとともに、反応時のフッ素化剤との接触効率が低下するためと考えられる。一方、平均粒子径を20μmより小さくすると、有機溶媒の表面に浮遊し、有機溶媒中に充分に分散されなかったり、あるいは分散に時間がかかり、甚だしい場合には、溶解しない状態(ままこ状)となって反応収率が低下する場合もある。さらには、微粒子状にするために多大なエネルギーが必要となったり、また多量の粉塵が発生して、原料のロスや作業環境の悪化などの問題が生じる。
【0027】
なお、平均粒子径20〜200μmの芳香族ハロゲン化合物粒子は、ボールミル、ハンマーミルなどの粉砕機で機械的に粉砕する方法、粉砕したものを篩い分けする方法などの一般に知られている粒子径調整手段を適宜選択して容易に得ることができる。また、芳香族ハロゲン化合物の製造時の精製条件を最適化して上記平均粒子径範囲に調整してもよい。
よって、このフッ素遊離酸の量と、好ましい原料である芳香族ハロゲン化合物(テトラクロロフタロニトリルやペンタクロロベンゾニトリル等芳香族塩素化合物)の好ましい平均粒子径の組み合わせで、反応収率が向上する。
そして、好ましい原料である芳香族ハロゲン化合物(テトラクロロフタロニトリルやペンタクロロベンゾニトリル等芳香族塩素化合物)の好ましい平均粒子径は、以下の捕集条件で得ることができる。
また、本発明の芳香族ハロゲン化合物を有機溶媒中でフッ素化剤によりフッ素化する工程で遊離酸量を規定する製造方法において使用する、好ましい原料である芳香族ハロゲン化合物(テトラクロロフタロニトリルやペンタクロロベンゾニトリル等芳香族塩素化合物)は、以下で記載する捕集条件により捕集することで上記の平均粒子径のものを得ることができる。
【0028】
公知の製造方法で製造された芳香族ハロゲン化合物、具体的には芳香族塩素化合物を含有する温度が200℃〜350℃等の温度の反応ガスを、公知の捕集器に導き捕集する。その時に、捕集器のジャケットの温度と捕集器に導入される上記反応ガスの量や線速を適宜設定することで、平均粒子径が20−200μmの芳香族ハロゲン化合物を効率よく捕集することができる。
【0029】
また捕集器としては、公知の単管式や多管式の捕集器を使用することができる。本発明の遊離酸の量を規定した芳香族フッ素化合物の製造方法にあっては、捕集器により捕集され平均粒子径が20−200μmの範囲とした芳香族ハロゲン化合物を使用することは好ましい形態である。
【0030】
本発明の製造方法における目的化合物は、上記芳香族ハロゲン化合物をフッ素化剤によりハロゲン交換反応して得られる前記一般式(3)又は(4)で表される芳香族フッ素化合物である。
上記芳香族フッ素化合物としては、例えば、1,3,5−トリフルオロベンゼン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、へキサフルオロベンゼン等のモノ〜ヘキサフルオロベンゼン;2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル、3,4,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル、ペンタフルオロベンゾニトリル等のモノ〜ペンタフルオロベンゾニトリル;3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル、2,4,5,6−テトラフルオロイソフタロニトリル等のモノ〜テトラフルオロフタロニトリル;テトラフルオロ無水フタル酸等のモノ〜テトラフルオロ無水フタル酸;テトラフルオロ無水フタル酸アミド等のモノ〜テトラフルオロ無水フタル酸アミド;N−メチルテトラフルオロ無水フタル酸アミド、N−エチルテトラフルオロ無水フタル酸アミド、N−n−プロピルテトラフルオロ無水フタル酸アミド、N−イソプロピルテトラフルオロ無水フタル酸アミド、N−n−ブチルテトラフルオロ無水フタル酸アミド、N−イソブチルテトラフルオロ無水フタル酸アミド等のN−アルキルモノ〜テトラフルオロ無水フタル酸アミド;N−フェニルテトラフルオロ無水フタル酸アミド等のN−アリールモノ〜テトラフルオロ無水フタル酸アミド;2,3,4−トリフルオロニトロベンゼン、ペンタフルオロニトロベンゼン等のモノ〜ペンタフルオロニトロベンゼン等を挙げることができる。なかでも、3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル、ペンタフルオロベンゾニトリルおよび2,6−ジフルオロベンゾニトリルが好ましい。
【0031】
上記目的化合物は、前記一般式(3)又は(4)で表される芳香族フッ素化合物において、b−d又はc−eが0であり、ハロゲン交換反応の原料である前記一般式(1)又は(2)で表される芳香族ハロゲン化合物のハロゲンが完全にフッ素に交換されたものであるが、一般式(1)又は(2)で表される芳香族ハロゲン化合物のハロゲンの一部が交換された化合物もまた、本発明の好ましい芳香族フッ素化合物の一つである。
上記好ましいフッ素以外のハロゲン原子を分子内に有する芳香族フッ素化合物としては、例えば、1−クロロ−3,5−ジフルオロベンゼン、1,5−ジクロロ−2,4−ジフルオロベンゼン等のハロゲン原子を分子内に1〜5個有するモノ〜ペンタフルオロベンゼン;3−クロロ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル、2−クロロ−6−フルオロベンゾニトリル、3−クロロ−4,5,6−トリフルオロベンゾニトリル、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル等のハロゲン原子を分子内に1〜4個有するモノ〜ヘキサフルオロベンゾニトリル;3−クロロ−4,5,6−トリフルオロフタロニトリル、5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル等のハロゲン原子を分子内に1〜3個有するモノ〜トリフルオロフタロニトリル;3−クロロ−4,5,6−トリフルオロ無水フタル酸等のハロゲン原子を分子内に1〜3個有するモノ〜トリフルオロ無水フタル酸;3−クロロ−4,5,6−トリフルオロ無水フタル酸アミド等のハロゲン原子を分子内に1〜3個有するモノ〜トリフルオロ無水フタル酸アミド;3−クロロ−4,5,6−トリフルオロ−N−アルキル無水フタル酸アミド等のハロゲン原子を分子内に1〜3個有するN−アルキルモノ〜トリフルオロ無水フタル酸アミド;3−クロロ−4,5,6−トリフルオロ−N−アリール無水フタル酸アミド等のハロゲン原子を分子内に1〜3個有するN−アリールモノ〜トリフルオロ無水フタル酸アミド;3−クロロ−2,4−ジフルオロニトロベンゼン等のハロゲン原子を分子内に1〜4個有するモノ〜テトラフルオロニトロベンゼン等を挙げることができる。なかでも、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゾニトリルが好ましい。これらのフッ素以外のハロゲン原子を分子内に1〜4個有する芳香族フッ素化合物は、有効成分として有用であり、再度ハロゲン交換反応を行うことにより、芳香族ハロゲン化合物のハロゲンが完全にフッ素に交換された上記芳香族フッ素化合物を得ることもできる。
【0032】
本発明における目的物である芳香族ハロゲン化合物の精製方法としては、特に制限はなく、1)前記ハロゲン交換反応によって得られた反応液をろ過し、固形分をろ別した後、ろ液を蒸留して、反応溶媒を回収し、残留分を、別途選択された溶媒を使用して再結晶を行い、芳香族ハロゲン化合物を得る方法、2)前記ハロゲン交換反応によって得られた反応液を粗蒸留し、ハロゲン交換反応によって副生する塩化カリウム等の固形分を分離した後、留出液を蒸留して、芳香族ハロゲン化合物を蒸留して得た後、前記有効成分を含有する反応溶媒を回収再使用する方法が挙げられる。これらの中でも、工業的に有利な理由から2)が好ましい。
【0033】
本発明の製造方法における好ましい形態としては、例えば、芳香族フッ素化合物として、ペンタフルオロベンゾニトリル(F5BN)あるいは、テトラフルオロフタロニトリルを得る形態が挙げられる。このような形態においては、通常、芳香族ハロゲン化合物として、例えば、ペンタクロロベンゾニトリルをハロゲン交換して製造することになるが、ペンタクロロベンゾニトリルは、一般に、ベンゾニトリル(BN)を、塩素によりハロゲン化して得られるものである。
【0034】
上記ペンタクロロベンゾニトリルをBNの塩素化反応により製造する工程において、原料であるベンゾニトリル(BN)は、通常、化成器に供給後、気相化され、活性炭を触媒として用いることにより塩素化され、ペンタクロロベンゾニトリルとなる。
上記塩素化工程の後に、共存する余剰の塩素ガスはペンタクロロベンゾニトリルと分離されて処理され、ペンタクロロベンゾニトリルが得られることになる。
【0035】
上記塩素ガスが分離されたペンタクロロベンゾニトリルは、前述のハロゲン交換反応によりフッ素化される。該ハロゲン交換反応における好ましい実施態様としては、フッ素化剤としてフッ化カリウム(KF)を、溶媒としてBNを用いて、耐圧容器であるオートクレーブにて、加圧下、300℃前後の温度で、20〜30時間反応する等の反応条件である。本件の遊離酸の量を規定する工程は、このフッ素化工程である。該フッ素化工程においては、反応混合物中に、反応によって副生する塩化カリウムに起因すると思われる塊状の固形物が発生するため、この塊状固形分を解砕しつつ、及び/又は、反応器内壁に付着した塊状固形分を除去しつつ反応を行うことが好ましい。上記好ましい実施態様における反応器として、耐圧容器であるオートクレーブが挙げられるほか、ニーダーミキサー、インターナルミキサー、ミュラーミキサー、クラッチャー、リボン型ミキサー、垂直スクリュー型(遊星運動型)ミキサー及びローターミキサーから選ばれる装置も反応器として挙げられる。
上記ハロゲン交換反応により得られたペンタフルオロベンゾニトリル (F5BN)は、20〜250℃の範囲の温度で反応器から抜き出されてもよい。この抜き出しにおいて、F5BNを含有する反応物を、反応器内で攪拌しつつ温度を20〜250℃の範囲に調整し、次いで反応器から抜き出す形態であってもよい。更に、反応物の抜き出しを加圧下に行ってもよく、反応物の抜き出しを吸引下に行ってもよい。
【0036】
上記抜き出し方法により抜き出されたF5BNは、次いで、蒸留塔にて、粗留分離されてもよい。蒸留塔では、BNとF5BNとが分離され、このようにして回収されたBNは、ハロゲン交換反応に、反応溶媒として再利用されてもよい。一方、F5BNの初留は、蒸留塔に戻されて再蒸留されてもよい。このように、BNや初留をリサイクルすることは、工業的規模で生産する場合には重要なこととなる。また、F5BNの精留は、通常、回収塔に回収されることになる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の芳香族フッ素化合物の製造方法は、上述の構成よりなり、芳香族ハロゲン化合物とフッ素化剤とのハロゲン交換反応をより高収率なものとし、最終的に得られる芳香族ハロゲン化合物を安定に高収率で製造する方法であり、目的物である芳香族フッ素化合物は、医薬品の中間体等の各種の工業原料の用途に有用であり、現在工業的に生産され、供給されることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0039】
実施例1
1LのSUS316製オートクレーブにベンゾニトリル300g、ペンタクロロベンゾニトリル86.2g(0.313モル)及びスプレードライフッ化カリウム100g(1.721モル)を仕込んだ後、フッ化水素を70%含有するピリジン溶液0.064gを添加した。フッ化水素の量は、スプレードライフッ化カリウムに対して、450ppmであった。次に、オートクレーブ内の空気を窒素置換し、攪拌下、340℃で18時間ハロゲン交換反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物であるペンタフルオロベンゾニトリル56.2g(0.291モル、収率93.1モル%)と有効成分である3−クロロ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル1.3g(0.006モル、収率2モル%)、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル3.2g(0.014モル、収率4.5モル%)とが含まれていた。なお、上記のペンタクロロベンゾニトリルは、平均粒子径が100μmになるように捕集器を使用し捕集したものを使用した。
【0040】
実施例2
1LのSUS316製オートクレーブにベンゾニトリル300g、3,4,5,6−テトラクロロフタロニトリル104.1g(0.391モル)及びスプレードライフッ化カリウム100g(1.721モル)を仕込んだ後、フッ化水素を70%含有するピリジン溶液0.057gを添加した。遊離のフッ化水素酸の量は、スプレードライフッ化カリウムに対して、400ppmであった。次に、オートクレーブ内の空気を窒素置換し、攪拌下、260℃で20時間ハロゲン交換反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル73.4g(0.367モル、収率93.8モル%)と有効成分である3−クロロ−4,5,6−トリフルオロフタロニトリル4.4g(0.02モル、収率5.2モル%)とが含まれていた。なお、上記の3,4,5,6−テトラクロロフタロニトリルは、平均粒子径が130μmになるように捕集器を使用し捕集したものを使用した。
【0041】
実施例3
1LのSUS316製オートクレーブに2−シアノピリジン300g、2,6−ジクロロベンゾニトリル134.5g(0.782モル)及びスプレードライフッ化カリウム100g(1.721モル)を仕込んだ後、フッ化水素を70%含有するピリジン溶液0.05gを添加した。遊離のフッ化水素酸の量は、スプレードライフッ化カリウムに対して、350ppmであった。次に、オートクレーブ内の空気を窒素置換し、攪拌下、300℃で6時間ハロゲン交換反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である2,6−ジフルオロベンゾニトリル100.3g(0.722モル、収率92.3モル%)と有効成分である2−クロロ−6−フルオロベンゾニトリル8.3g(0.053モル、収率6.8モル%)とが含まれていた。
【0042】
実施例4
実施例1において、仕込み時に添加するフッ化水素を70%含有するピリジン溶液の量を0.036g(フッ化水素として250ppm)とした以外は同様な方法で反応を行った。
反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物であるペンタフルオロベンゾニトリル56.3g(0.292モル、収率94.3モル%)と有効成分である3−クロロ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル3.3g(0.016モル、収率5.0モル%)、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゾニトリルとが含まれていた。
【0043】
実施例5
実施例2において、仕込み時に添加するフッ化水素を70%含有するピリジン溶液の量を0.02g(フッ化水素として140ppm)とした以外は同様な方法で反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である3、4、5、6−テトラフルオロフタロニトリル73.6g(0.368モル、収率94.0モル%)と有効成分である3−クロロ−4,5,6−トリフルオロフタロニトリル4.3g(0.02モル、収率5.1モル%)が含まれていた。
【0044】
実施例6
実施例1において、フッ化水素を70%含有するピリジン溶液0.064gのかわりに、フッ化水素を50%含有する水溶液0.01g(遊離のフッ化水素酸の量は、スプレードライフッ化カリウムに対して、50ppm)を添加した以外は同様にハロゲン交換反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物であるペンタフルオロベンゾニトリル57.2g(0.296モル、収率94.7モル%)と有効成分である3−クロロ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル1.1g(0.005モル、収率1.7モル%)、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル1.8g(0.008モル、収率2.5モル)とが含まれていた。
【0045】
実施例7
実施例2において、フッ化水素を70%含有するピリジン溶液0.057gのかわりに、フッ化水素を50%含有する水溶液0.005g(遊離のフッ化水素酸の量は、スプレードライフッ化カリウムに対して、25ppm)を添加した以外は同様にハロゲン交換反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である3,4,5,6−テトラフルオロフタロニトリル72.5g(0.363モル、収率92.7モル%)と有効成分である3−クロロ−4,5,6−トリフルオロフタロニトリル3.6g(0.017モル、収率4.3モル%)とが含まれていた。
【0046】
実施例8
実施例1において、仕込み時に添加するフッ化水素酸の量を0.007g(フッ化水素として49ppm)とした以外は同様な方法で反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物であるペンタフルオロベンゾニトリル57.9g(0.30モル、収率95.8モル%)と有効成分である2−クロロ−6−フルオロベンゾニトリル3.1g(0.015モル、収率4.8モル%)が含まれていた。
【0047】
実施例9
実施例2において、仕込み時に添加するフッ化水素を70%含有するピリジンの量を0.007g(フッ化水素として49ppm)とした以外は同様な方法で反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である3、4、5、6−テトラフルオロフタロニトリル74.7g(0.374モル、収率95.5モル%)と有効成分である3−クロロ−4,5,6−トリフルオロフタロニトリル3.4g(0.016モル、収率4.0モル%)が含まれていた。
【0048】
実施例10
1LのSUS316製オートクレーブにベンゾニトリル300g、テトラクロロテレフタロニトリル104.1g(0.391モル)及びスプレードライフッ化カリウム100g(1.721モル)を仕込んだ後、フッ化水素を50%含有する水溶液0.005gを添加した。遊離のフッ化水素酸の量は、スプレードライフッ化カリウムに対して、25ppmであった。
次に、オートクレーブ内の空気を窒素置換し、攪拌下、240℃で、15時間ハロゲン交換反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である2,3,5,6−テトラフルオロテレフタロニトリル74.6g(0.373モル、95.4モル%)と有効成分である2−クロロ−3,5,6−トリフルオロテレフタロニトリル2.5g(0.01モル、収率2.9モル%)とが含まれていた。
【0049】
実施例11
1LのSUS316製オートクレーブにベンゾニトリル300g、テトラクロロイソフタロニトリル104.1g(0.391モル)及びスプレードライフッ化カリウム100g(1.721モル)を仕込んだ後、フッ化水素を50%含有する水溶液0.002gを添加した。遊離のフッ化水素酸の量は、スプレードライフッ化カリウムに対して、10ppmであった。
次に、オートクレーブ内の空気を窒素置換し、攪拌下、330℃で、20時間ハロゲン交換反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である2,4,5,6−テトラフルオロイソフタロニトリル72.1g(0.361モル、92.2モル%)と有効成分である5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル3.0g(0.014モル、収率3.5モル%)とが含まれていた。
【0050】
比較例1
実施例1において、仕込み時に添加する、フッ化水素を70%含有するピリジン溶液を0.12g(フッ化水素として、840ppm)として反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物であるペンタフルオロベンゾニトリル44.6g(0.231モル、収率73.9モル%)と有効成分である3−クロロ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル6.9g(0.033モル、収率10.6モル%)、3,5−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゾニトリル11.8g(0.052モル、収率16.7モル%)、とが含まれていた。
【0051】
比較例2
実施例2において、仕込み時に添加する、フッ化水素を70%含有するピリジン溶液を0.15g(フッ化水素として、1050ppm)として反応を行った。反応終了後、反応液をガスクロマトグラフィー分析したところ、反応液中には、目的物である3、4、5、6−テトラフルオロフタロニトリル54.5g(0.272モル、収率72.1モル%)と有効成分である3−クロロ−4,5,6−トリフルオロフタロニトリル21.9g(0.101モル、収率25.9モル%)、が含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2);
【化1】

(式中、Xは、同一若しくは異なって、塩素、臭素又はヨウ素のハロゲン原子を表す。Aは、同一若しくは異なって、−CN、−NO、−COF又は−COClを表す。aは、Aの置換数であって、0、1又は2の整数であり、bは、Xの置換数であって、2〜6の整数である。ただし、a+b≦6である。cは、Xの置換数であって、1〜4の整数である。Zは、−O−又は=N−Rを表す。Rは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)で表される芳香族ハロゲン化合物を有機溶媒中でフッ素化剤によりフッ素化する工程により、
下記一般式(3)又は(4);
【化2】

(式中、A、X、Z、R、a、b及びcは、上記一般式(1)又は(2)と同様であり、Fは、フッ素原子を表す。dは、Fの置換数であって、1〜6の整数であり、b−dは、残存Xの置換数である。eは、Fの置換数であって、1〜4の整数であり、c−eは残存Xの置換数である。)で表される芳香族フッ素化合物を製造する方法であって、
該フッ素化工程は、遊離酸の含有量を500ppm以下としてフッ素化することを特徴とする芳香族フッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素化する工程は、遊離酸を生成する工程により製造されたフッ素化剤を用いることを特徴とする請求項1記載の芳香族フッ素化合物の製造方法。
【請求項3】
前記遊離酸は、遊離フッ化水素酸であることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香族フッ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記遊離酸の含有量は、フッ素化剤に対して500ppm以下であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の芳香族フッ素化合物の製造方法。

【公開番号】特開2006−188434(P2006−188434A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381591(P2004−381591)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】