説明

芳香族ポリアミドおよび積層体

【課題】高い光線透過率と大きいヤング率を有する芳香族ポリアミドを得ること。
【解決手段】 化学式(I)で示される構造単位を含み、400nmの波長の光の光線透過率が80%以上であり、かつヤング率が6.7GPa以上である芳香族ポリアミドとする。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリアミドおよび積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドはその高い耐熱性、機械強度から工業材料として有用なポリマーである。特に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下PPTAと記すことがある)に代表されるようなパラ配向性芳香核からなる芳香族ポリアミドはその剛直性から上記特性に加え強度、弾性率に優れた成形体を与えるのでその利用価値は高い。しかしながらPPTAのごときパラ配向性芳香族ポリアミドは黄色に着色しており、光学用途への展開は困難であった。
【0003】
本発明者らは、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニルを原料として特異的に無色透明な芳香族ポリアミドを得ることに成功し、特許文献1に開示した。さらに無色透明でありながら、高ヤング率、高Tgの芳香族ポリアミドを特許文献2に開示した。しかしながらナフタレン構造を有し、400nmの波長の光の光線透過率が80%以上であり、かつヤング率が6.7GPa以上の物性を同時に得ることは困難であった。
【0004】
一方で、特許文献3〜5にはナフタレンジカルボン酸クロライドを用いた芳香族ポリアミドの開示があるが、いずれも無色透明ではなく、光学用途には適用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/039863号パンフレット
【特許文献2】特開2010−59392号公報
【特許文献3】特開平5−9293号公報
【特許文献4】特開平11−322975号公報
【特許文献5】特開平4−39329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は高い光線透過率と大きいヤング率を有する芳香族ポリアミドを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、化学式(I)で示される構造単位を含み400nmの波長の光の光線透過率が80%以上である芳香族ポリアミドであることを特徴とする。
【0008】
【化1】

【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、透明性に優れた高ヤング率の芳香族ポリアミドおよび芳香族ポリアミドフィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における芳香族ポリアミドは、化学式(I)で示される構造単位を含み、400nmの波長の光の光線透過率が80%以上である芳香族ポリアミドである。
【0011】
【化2】

【0012】
化学式(I)で示される2,6−ナフタレンジカルボニル基は剛直なナフタレン構造を持つために高いガラス転移温度や大きなヤング率の発現に寄与すると考えられる。また、パッキングに優れるナフタレン構造を導入することで、水蒸気バリア性、ガスバリア性の向上が期待できる。
【0013】
本発明における芳香族ポリアミドは、全ての構造単位が芳香族である全芳香族ポリアミドであることが好ましい。全芳香族であることによって、高いガラス転移温度を実現できる。また、本発明における芳香族ポリアミドは、全ての構造単位がパラ配向性であることが好ましい。本発明において、パラ配向性とは同一軸あるいは平行軸で結合されていることを示し、芳香族ポリアミドの主鎖に存在する芳香族基がフェニル基においては1,4−位、ナフタレンにおいては2,6位や1,4位で接続された構造を有することを意味する。
【0014】
芳香族ポリアミド構成する他のジカルボン酸由来の構造単位としては化学式(II)で示されるテレフタル酸残基であることが好ましい。化学式(II)で示されるテレフタル酸残基は高い剛直性を持ち、高ヤング率に寄与する。
【0015】
【化3】

【0016】
ジアミン由来の構造単位としては化学式(III)および化学式(IV)であることが好ましい。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
:SOまたは、O-Ph-SO-Ph-O(ただし、分子内においてこれらの基を有する構造単位が混在していてもよい。)
化学式(IV)においてRはSO、または、O-Ph-SO-Ph-Oである。また、分子内においてこれらの基を有する構造単位が混在していてもよい。R部位にSO、または、O-Ph-SO-Ph-O以外の構造単位を用いた場合、例えば−O−や、−CH−、−C(CF−の場合、得られる芳香族ポリアミドの光線透過率が劣る問題がある。これに対し、SO、または、O-Ph-SO-Ph-Oは、SO部位が電子の共役を阻害し、高い光線透過率を得ることができる。また、Rにメタ配向性の構造単位を導入すれば、高い光線透過率を得るが、熱膨張係数が大きく、機械物性が低くなる問題がある。
【0020】
化学式(IV)において、Rは好ましくはSOである。屈曲性の構造単位の過度な増加はヤング率の低下や熱膨張係数の増大という問題を引き起こす。RがSOの場合、O-Ph-SO-Ph-Oと比較して、屈曲性のエーテル結合が2個少ないため、同じモル分率導入した場合、溶解性の向上や、液晶性の発現阻害という目的は満足しながらもヤング率や熱膨張係数への負の影響が小さいため好ましい。
【0021】
さらに、これら構造単位について、化学式(I)で表される構造単位のモル分率をa、化学式(II)で表される構造単位のモル分率をb、化学式(III)で表される構造単位のモル分率をc、化学式(IV)で表される構造単位のモル分率をdとしたとき、a、b、cおよびdが次式(1)〜(4)を満足することが好ましい。
【0022】
0<a≦20 ・・・(1)
30<c<50 ・・・(2)
0<d<20 ・・・(3)
49<(a+b)/(c+d)<51 ・・・(4)
aは2,6ナフタレンジカルボン酸残基のモル分率を示すが、aが0の場合、ガラス転移温度が332℃未満になってしまったり、熱膨張係数が負の値となってしまうことがある。またaが20を超える場合、有機溶媒に対するポリマーの溶解性が悪化して重合中に析出したり、溶液製膜において白濁したフィルムを与えることがある。aは好ましくは5以上20以下である。
【0023】
化学式(II)で示されるテレフタル酸残基は高い剛直性を持ち、高ヤング率に寄与する。一方で、化学式(II)で示される構造単位のモル分率bが100の時、得られるポリマーは液晶性を持ってしまい、物性に異方性が発現したりすることがある。このためbは100未満とし、他の剛直なカルボン酸残基である化学式(I)で示される構造単位と共重合することが重要である。bは80以上100未満であることが好ましい。さらに好ましくは80以上95以下である。
【0024】
化学式(III)で示される2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル残基は低い熱膨張係数と高い光線透過率の実現に寄与するが、これをジアミン成分として単独で使用した場合(c=50の場合)、過度に剛直であるために溶媒に対する溶解性の低下や、液晶性の発現という問題を生じることがある。得られるフィルムが等方性を持ち、有機溶媒への溶解性に優れたパラ配向性芳香族ポリアミドを得るためには、化学式(IV)で示される屈曲性の構造単位を共重合することが好ましい。
【0025】
化学式(III)で表される構造単位のモル分率cは30を超えて50未満である。この範囲を外れるとポリマーの剛直性、直線性が高くなりすぎて溶解性が不十分であったり、液晶性を発現してしまうことがある。より好ましくはcは35以上50未満、さらに好ましくは35以上45以下である。
【0026】
化学式(IV)で表される構造単位のモル分率dは0を超えて20未満である。dが0である場合、ポリマーの柔軟性が不十分になり、溶解性が不十分であったり、脆くなってしまうことがある。またdが20以上の場合は熱膨張係数が大きくなったり、機械強度が小さくなることがある。より好ましくはdは0を超えて15以下、さらに好ましくは5以上15以下である。
【0027】
次に、本発明における芳香族ポリアミドやその組成物の製造方法、および成形体としてフィルムを製造する例を説明するが、もちろん本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
ポリアミド溶液、すなわち製膜原液を得る方法は種々の方法が利用可能であり、例えば、低温溶液重合法、界面重合法、溶融重合法、固相重合法などを用いることができる。低温溶液重合法つまりカルボン酸ジクロライドとジアミンから得る場合には、非プロトン性有機極性溶媒中で合成される。
【0029】
カルボン酸ジクロライドとしては2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、2クロロ−テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ナフタレンジカルボニルクロライド、ビフェニルジカルボニルクロライド、ターフェニルジカルボニルクロライドなどが挙げられるが、最も好ましくは2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライドが用いられる。
【0030】
ジアミンとしては例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)フルオレン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられるが、好ましくは4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、が挙げられる。
【0031】
ポリアミド溶液は、単量体として酸ジクロライドとジアミンを使用すると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤が使用される。また、イソシアネートとカルボン酸との反応は、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行なわれる。
【0032】
2種類以上のジアミンを用いて重合を行う場合、ジアミンは1種類づつ添加し、該ジアミンに対し10〜99モル%の酸ジクロライドを添加して反応させ、この後に他のジアミンを添加して、さらに酸ジクロライドを添加して反応させる段階的な反応方法、およびすべてのジアミンを混合して添加し、この後に酸ジクロライドを添加して反応させる方法などが利用可能である。また、2種類以上の酸ジクロライドを利用する場合も同様に段階的な方法、同時に添加する方法などが利用できる。いずれの場合においても全ジアミンと全酸ジクロライドのモル比、すなわち式(4)で示した(a+b)/(c+d)は49〜51が好ましく、この値を外れた場合、成形に適したポリマー溶液を得ることが困難となることがある。
【0033】
ジアミンとジカルボン酸ジクロライドを原料とした場合、原料の組成比によってアミン末端あるいはカルボン酸末端となる。または他のアミン、カルボン酸クロライド、カルボン酸無水物によって、末端封止を行ってもよい。
【0034】
末端封止に用いる化合物としては塩化ベンゾイル、置換塩化ベンゾイル、無水酢酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−エチニルアニリン、4−フェニルエチニルフタル酸無水物、無水マレイン酸などが例示できる。
【0035】
ポリアミドの製造において、使用する非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。さらにはポリマーの溶解を促進する目的で溶媒には50質量%以下のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の塩を添加することができる。
【0036】
本発明の芳香族ポリアミドには、表面形成、加工性改善などを目的として10質量%以下の無機質または有機質の添加物を含有させてもよい。表面形成を目的とした添加剤としては例えば、無機粒子ではSiO、TiO、Al、CaSO、BaSO、CaCO、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粉末等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えば、架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、ポリアミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆等の処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0037】
上記した芳香族ポリアミドは、フィルムの形態を有していることが好ましい(以下、単にフィルム、または芳香族ポリアミドフィルムということがある)。
【0038】
フィルム化について説明する。本発明の芳香族ポリアミドは有機溶媒に可溶であるため、PPTAのように濃硫酸を用いた特殊な製膜方法は必ずしも必要としない。上記のように調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法によりフィルム化が行なわれる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがありいずれの方法で製膜されても差し支えないが、本発明の芳香族ポリアミドは溶解性に優れるため、製膜工程の制御が容易な乾湿式法での製膜が可能である。ここでは乾湿式法を例にとって説明する。
【0039】
乾湿式法で製膜する場合は該原液を口金からドラム、エンドレスベルト、フィルム等の支持体上に押し出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層が自己保持性をもつまで乾燥する。乾燥条件は例えば、室温〜220℃、60分以内の範囲で行うことができる。仮に溶解度の不十分なポリマー用液を用いると、この工程で白濁してしまう。またこの乾燥工程で用いられるドラム、エンドレスベルト、フィルムの表面はなるだけ平滑であれば表面の平滑なフィルムが得られる。乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれ、さらに延伸、乾燥、熱処理が行なわれてフィルムとなる。
【0040】
延伸は延伸倍率として面倍率で0.8〜8(面倍率とは延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルムの面積で除した値で定義する。1以下はリラックスを意味する。)の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは1.3〜8である。また、熱処理としては200℃〜500℃、好ましくは250℃〜400℃の温度で数秒から数分間熱処理が好ましく実施される。さらに、延伸あるいは熱処理後のフィルムを徐冷することは有効であり、50℃/秒以下の速度で冷却することが有効である。
【0041】
フィルムにおいては、その厚みは、0.01μm〜1,000μmであることが好ましい。より好ましくは、1μmから100μmである。より好ましくは2μmから50μm、より好ましくは2μmから30μm、さらに好ましくは2μmから20μmである。フィルムの厚みが1,000μmを超えると光線透過率が低くなることがある。またフィルムの厚みが0.01μm未満ではたとえ高剛性の芳香族ポリアミドとの有機無機複合体であっても加工性が低下することがある。なお、フィルムの厚みは用途により適切に選定されるべきものであることは言うまでもない。
【0042】
本発明のフィルムは少なくとも一方向のヤング率が7GPa以上であることが加工時、使用時に負荷される力に対して抵抗でき、平面性が一層良好となるため好ましい。また少なくとも一方向のヤング率が7GPa以上であることによりフィルムの薄膜化が可能になる。
【0043】
全ての方向のヤング率が7GPa未満であると、加工時に変形を起こすことがある。また、ヤング率に上限はないが、ヤング率が20GPaを超えると、フィルムの靱性が低下し、製膜、加工が困難になることがある。ヤング率は、より好ましくは、少なくとも一方向において8GPa以上であり、さらに好ましくは、少なくとも一方向において9GPa以上である。
【0044】
また、ヤング率の最大値(Em)とそれと直交する方向のヤング率(Ep)の比、Em/Epが、1.1〜3であると、加工時の裁断性が向上するため好ましい。より好ましくは、1.2〜2.5であり、さらに好ましくは1.5〜2.5である。Em/Epが3を超えると、却って、破断しやすくなることがある。
【0045】
また、本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、JIS−K7127−1989に準拠した測定において、少なくとも一方向の破断伸度が5%以上、より好ましくは10%以上であると成形、加工時の破断が少なくなるため好ましい。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。
【0046】
本発明のフィルムは、200℃で30分間、実質的に張力を付与しない状態で熱処理したときの少なくとも一方向の熱収縮率が1%以下であると、加工時の寸法変化、また位相差特性の変化を抑えることができるため好ましい。より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。なお、熱収縮率は、以下の式で定義される。
【0047】
熱収縮率(%)=((熱処理前の試料長−熱処理し、冷却後の試料長)/熱処理前の試料長)×100
上記の熱収縮率は低い方が好ましいが、現実的には下限は0.1%程度である。上記条件で測定した少なくとも一方向の熱収縮率が1%以下であると、フィルム上に電気回路を形成することや電子部品をハンダ付けすることなどが可能となる。また、光学部材として他部材と貼り合わせる時にフィルムが歪みにくいため、位相差などの光学特性にむらが生じにくくなる。さらには抗張力性が高いので配向が乱されず、位相差などの光学特性にむらが生じにくくなる。
【0048】
本発明のフィルムはフィルムの少なくとも1方向の100℃〜200℃の平均熱膨張係数が0ppm/℃以上10ppm/℃以下であることも好ましい。
【0049】
フィルムの少なくとも1方向の100℃〜200℃の平均熱膨張係数が0ppm/℃以上10ppm/℃以下であると、熱膨張係数の小さいインジウムをドープした酸化錫(ITO)や半導体と積層したときにカールや割れが少なくなるため好ましい。より好ましくは−10ppm/℃以上10ppm/℃以下、さらに好ましくは−5ppm/℃以上5ppm/℃以下である。
【0050】
また、平均熱膨張係数が一方向のみではなく、直交する2方向について上記範囲に制御されていることにより、さらにインジウムをドープした酸化錫(ITO)や半導体と積層したときにカールや割れが少なくなる。熱膨張係数が制御される方向は、フィルムの製膜方向(「長手方向」または「MD方向」ということがある)と、その直交方向(「幅方向」または「TD方向」ということがある)の組であることが好ましい。また、フィルム面内の1方向およびこれと直交する方向の平均熱膨張係数の差は5ppm/℃以下であることが好ましい。平均熱膨張係数の差はより好ましくは3ppm/℃以下、さらに好ましくは1ppm/℃以下、最も好ましくは0.5ppm/℃以下である。
【0051】
なお、本発明において、「平均熱膨張係数」とは温度T1から温度T2までの平均熱膨張係数を指し、「熱膨張係数」とはある温度Tでの熱膨張係数を意味する。
【0052】
100℃〜200℃の平均熱膨張係数は250℃まで昇温した後の降温過程において測定する。23℃、65RH%における初期試料長をL0、温度T1の時の試料長をL1、温度T2の時の試料長をL2とするとT1からT2の平均熱膨張係数は以下の式で求められる。
【0053】
平均熱膨張係数(ppm/℃)
=(((L2−L1)/L0)/(T2−T1))×10
フィルムの少なくとも1方向の100℃〜200℃の平均熱膨張係数が0ppm/℃以上10ppm/℃以下とするためには、化学式(III)で示される2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル残基のモル分率cを制御するとよい。cが30以下の場合は100℃〜200℃の平均熱膨張係数は10ppm/℃を超えてしまうことがある。
【0054】
また、本発明のフィルムはガラス転移温度が332℃以上であることも好ましい。300℃を超えるガラス転移温度を持つことでTFTの製造工程やガスバリア膜の製膜など本発明のフィルム上への様々な加工が可能となる。
【0055】
ガラス転移温度は特に上限値は無いが、低温ポリシリコンTFTの製造工程が550℃〜600℃であるため、600℃が好ましい上限値である。
【0056】
光線透過率について、400nmの波長の光の光線透過率は80%以上であることが重要である。さらに好ましくは85%以上である。
【0057】
400nmの波長の光の光線透過率が80%未満であると、表示材料用途での利用が困難になるばかりでなく、UV硬化性の接着剤を使用した場合にフィルムの反対面からUVを照射してもフィルムに吸収されてしまい硬化しづらくなる問題がある。
【0058】
光線透過率は好ましくは400nm〜700nmの全ての波長の光において80%以上、より好ましくは75%以上、最も好ましくは80%以上である。なお、芳香族ポリアミドは屈折率が大きいため表面反射が大きく、空気中の測定では光線透過率は90%を超えることはない。しかし、反射防止膜などを付与することによって90%を超える光線透過率を得ることが可能となる。光線透過率は100%以下であることが好ましい。
【0059】
フィルムの構造(構成成分)は、その原料によって決定される。原料が不明であるフィルムの構造分析を行う場合は、質量分析、核磁気共鳴法による分析、分光分析などを用いることができる。
【0060】
上記で説明した本発明のフィルムは、表示材料、表示材料基板、回路基板、光電複合回路基板、光導波路基板、半導体実装用基板、多層積層回路基板、透明導電フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、コンデンサー、プリンターリボン、音響振動板、太陽電池、光記録媒体、磁気記録媒体のベースフィルム、包装材料、粘着テープ、接着テープ、加飾材料等種々の用途に好ましく用いられる。
【0061】
表示材料について、一般に表示材料基板としてはガラスが用いられているが、本発明のフィルムを表示材料基板として用いると、薄膜化、軽量化、割れないという大きなメリットを有する表示材料を得ることができる。本発明の表示材料の種類は特に限定は無いが、薄膜、軽量がメリットとなる薄膜ディスプレイ、あるいは薄膜表示体であることが好ましい。薄膜ディスプレイとしては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパーなどが例示できる。
【0062】
また、フィルム形態以外の用途としては、プリズムシート、光ファイバーや光導波路、レンズ、マイクロレンズアレイ、光学フィルタ、反射防止膜、平坦化膜、他素材へのコート剤、他素材と貼り合わせた積層品、成型品などに好適に利用できる。
【0063】
積層体としては、電気回路材料、光回路材料、ディスプレイ基板、TFT基板、コンデンサーなどが例示できる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0065】
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0066】
(1)100℃〜200℃の平均熱膨張係数
平均熱膨張係数はJIS K7197−1991に準拠して250℃まで昇温した後の降温過程に於いて測定した。23℃、65RH%における初期試料長をL0、温度T1の時の試料長をL1、温度T2の時の試料長をL2とし、T1からT2の平均熱膨張係数を以下の式で求めた。なお、T2=100(℃)、T1=200(℃)である。
【0067】
熱膨張係数(ppm/℃)=(((L2−L1)/L0)/(T2−T1))×10
装置:TMA/SS6000(セイコー電子社製)
昇温、降温速度:10℃/min
測定方向:製膜方向と直交する方向(TD方向)について、測定した。
【0068】
試料幅:4mm
荷重:フィルム厚み10μmの時44.5mN。フィルム厚みに比例して荷重は変更する。
【0069】
(2)400nmの光の光線透過率
下記装置を用いて測定し、下記式を用いて算出した。なお、試料がポリマー形態の場合(フィルム等の形状でない場合)は厚み10μmのフィルムに成形して評価する。厚み10μmのフィルムが得られない場合、10μmを超える少なくとも一つの厚みで400nmの波長の光の光線透過率を測定し、その値が80%以上の場合、「(400nmの光の光線透過率が)80%以上」とする。
【0070】
透過率(%)=(Tr1/Tr0)×100
ただしTr1は試料を通過した光の強度、Tr0は試料を通過しない以外は同一の距離の空気中を通過した光の強度である。
【0071】
装置:UV測定器U−3410(日立計測社製)
波長範囲:300nm〜800nm(400nmの値を利用)
測定速度:120nm/分
測定モード:透過
(3)ヤング率、引張強度、破断伸度
ロボットテンシロンRTA(オリエンテック社製)を用いて、温度23℃、相対湿度65%において測定した。試験片は製膜方向またはバーコーターの移動方向をMD方向、これと直交する方向をTD方向として、MD方向またはTD方向について幅10mmで長さ50mmの試料とした。引張速度は300mm/分である。但し、試験を開始してから荷重が1Nを通過した点を伸びの原点とした。
【0072】
なお、試料がポリマー形態の場合(フィルム等の形状でない場合)は厚み10μmのフィルムに成形して評価する。厚み10μmのフィルムが得られない場合、10μmを超える少なくとも一つの厚みでMD方向またはTD方向についてヤング率を測定し、いずれかの試料のいずれかの方向について、ヤング率が6.7GPa以上である場合、そのポリマーの「ヤング率が6.7GPa以上である」と判定する。
【0073】
(4)ガラス転移温度(Tg)
装置:粘弾性測定装置EXSTAR6000 DMS(セイコーインスツルメンツ社製)
測定周波数:1Hz
昇温速度:2℃/分
ガラス転移温度(Tg):ASTM E1640−94に準拠し、E’の変曲点をTgとした。
【0074】
(実施例1)
攪拌機を備えた200ml3つ口フラスコ中に2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(東レ・ファインケミカル株式会社製)6.40g、N−メチル−2−ピロリドン139mlを入れ窒素雰囲気下、0℃に冷却、攪拌しながら30分かけてテレフタル酸ジクロライド(東京化成社製)2.84g、4,4’−ビフェニルジカルボニルクロライド(東京化成社製)1.67gを5回に分けて添加した。ポリマーが析出したためさらにN−メチル−2−ピロリドン100ml、臭化リチウム5gを追加したところ、ポリマーは溶解した。1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウムで中和してポリマー溶液を得た。また、このポリマー溶液は2週間放置後も流動性を保っていた。
【0075】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性を測定し、表1に示した。
【0076】
(比較例1)
攪拌機を備えた200ml3つ口フラスコ中に無水塩化リチウム4.19gを入れ、窒素気流下攪拌をしながら110℃まで加熱して乾燥する。30℃まで放冷した後に2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(東レ・ファインケミカル社製)7.92g、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(和歌山精化株式会社製「44DDS」)1.53g、N−メチル−2−ピロリドン173mlを入れ窒素雰囲気下、0℃に冷却、攪拌しながら30分かけて4,4’−ビフェニルジカルボニルクロライド(東レ・ファインケミカル社製)1.73gを5回に分けて添加し、添加終了後30分攪拌した。次にテレフタル酸ジクロライド(東京化成社製)5.02gを5回に分けて添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウムで中和してポリマー溶液を得た。
【0077】
得られたポリマー溶液の一部をガラス板上に取り、バーコーターを用いて均一な膜を形成せしめた。これを120℃で7分間加熱し、自己保持性のフィルムを得た。得られたフィルムをガラス板から剥がして金枠に固定して、流水中10分間水洗し、さらに280℃1分で熱処理を行い芳香族ポリアミドフィルムを得た。得られたフィルムの物性を測定し、表1に示した。
【0078】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)で示される構造単位を含み、400nmの波長の光の光線透過率が80%以上であり、かつヤング率が6.7GPa以上である芳香族ポリアミド。
【化1】

【請求項2】
化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を含む芳香族ポリアミド。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

:SOまたは、O-Ph-SO-Ph-O(ただし、分子内においてこれらの基を有する構造単位が混在していてもよい。)
【請求項3】
化学式(I)で表される構造単位のモル分率をa、化学式(II)で表される構造単位のモル分率をb、化学式(III)で表される構造単位のモル分率をc、化学式(IV)で表される構造単位のモル分率をdとしたとき、a、b、cおよびdが次式(1)〜(4)を満足する、請求項2に記載の芳香族ポリアミド。
0<a≦20 ・・・(1)
30<c<50 ・・・(2)
0<d<20 ・・・(3)
49<(a+b)/(c+d)<51 ・・・(4)
【請求項4】
フィルムの形態を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミド。
【請求項5】
少なくとも1方向の100℃〜200℃の平均熱膨張係数が0ppm/℃以上10ppm/℃以下であり、かつガラス転移温度が332℃以上である、請求項4に記載の芳香族ポリアミド。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリアミドを含む層を少なくとも1層含む積層体。

【公開番号】特開2013−100392(P2013−100392A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244110(P2011−244110)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】