説明

芳香族ポリアミド多孔質膜ならびに電池用セパレータおよびその製造方法

【課題】高空孔率でありながら緻密な孔構造を有し、かつその孔構造が厚み方向に均一である、芳香族ポリアミドを構成成分とする多孔質膜およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】水銀圧入法を用いて測定した気孔率が50〜95%であり、細孔径のピーク直径が0.01〜0.20μmであり、かつ対数微分細孔容積が0.2cm/g以上である細孔のうち最大細孔直径と最小細孔直径の差が0.0〜0.6μmである、芳香族ポリアミド多孔質膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミド多孔質膜に関するものであり、特に電池などの蓄電デバイスのセパレータとして好適に使用できる芳香族ポリアミド多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LIB)などの非水系二次電池は、携帯機器用途を中心に広範に普及しており、今後は電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの車載用途にも急速に拡大すると考えられる。そのため、LIBの開発においては、更なる高容量化、高出力化、大型化が進められる一方で、これまで以上に高い安全性が求められている。それに伴い、セパレータにも優れたイオン透過性と同時に、安全性の付与が強く求められている。
【0003】
セパレータによる安全性付与に関して、従来のポリオレフィン系のセパレータには、電池が異常発熱した際に孔が閉塞して電流を遮断する、いわゆるシャットダウン(SD)機構が備わっている。しかしながら、電池内部の温度がポリオレフィンの融点を超えた場合、セパレータの溶融によりその機能を失い(メルトダウン)、電池が熱暴走し発火につながる危険性がある。また、電池を大型化した際、異常発熱時に孔の閉塞が不十分な領域が残ると、その部分に電流が集中し、かえって危険であるとの考えもあり、車載用などの高度な安全性が求められるLIBではセパレータを耐熱化する方向で開発が進んでいる。
【0004】
そこで、ポリオレフィン多孔膜の片面または両面に耐熱層(HRL)を設けたセパレータが開示されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このHRLの効果は限定的で、大面積におけるポリオレフィン層のメルトダウン時にセパレータの収縮を有効に阻止できないことがあり、特に端部において短絡を起こす可能性がある。さらに、積層体であるため一般的に薄膜化が困難である。
【0005】
一方、例えば特許文献2〜4には、耐熱性に優れる芳香族ポリアミドを単体でセパレータに用いることが開示されている。特許文献2はアラミド不織布やアラミドペーパーのセパレータとしての用途を開示した例であるが、不織布や紙状シートでは50μm以下の薄い厚みで、かつ十分な強度を持ち、繊維間の空隙が緻密なものを工業的に製造することは困難である。また、特許文献3および4はアラミド多孔質フィルムからなるセパレータを開示した例であるが、アラミドからなる多孔質膜において、高空孔率でありながら緻密かつ厚み方向に均一な孔構造を有するものは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−92881号公報
【特許文献2】特開平5−335005号公報
【特許文献3】特開平9−208736号公報
【特許文献4】特開2001−98106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高空孔率でありながら緻密な孔構造を有し、かつその孔構造が厚み方向に均一である、芳香族ポリアミドを構成成分とする多孔質膜ならびにそれを用いた電池用セパレータおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有する。
【0009】
(1)水銀圧入法を用いて測定した気孔率が50〜95%であり、細孔径のピーク直径が0.01〜0.20μmであり、かつ対数微分細孔容積が0.2cm/g以上である細孔のうち最大細孔直径と最小細孔直径の差が0.0〜0.6μmである、芳香族ポリアミド多孔質膜。
【0010】
(2)膜厚が6〜40μmであり、一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、もう一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、および厚み方向中心部の厚み2μmの層の3領域における空孔率の標準偏差が0.0〜5.0%である、上記(1)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【0011】
(3)上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いてなる電池用セパレータ。
【0012】
(4)有機極性溶媒に溶解させた芳香族ポリアミド溶液を、表面積1mあたりの熱容量が1.0kJ/K以上の支持体上に塗布した後、温度20〜80℃、相対湿度50〜95%RHの雰囲気中で吸湿させることにより孔構造を形成させる、上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明するとおり、高空孔率でありながら緻密な孔構造を有し、かつその構造が厚み方向に均一である多孔質膜が得られ、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータに好適に用いることができる。多孔質膜が緻密な孔構造を有することで、電池の使用時に析出したリチウム金属やその他製造工程で混入した異物などによる正負極の短絡を防止することができる。また、気孔率が高く、孔構造が厚み方向に均一であることで、リチウムイオンの移動度が膜中において均一となり、イオン伝導が効率良く行われる。さらに、イオンの透過経路の偏在化を抑制することにつながり、長期使用時のリチウム金属析出による孔の閉塞、微小短絡を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において用いる芳香族ポリアミドとしては、次の化学式(1)および/または化学式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好適である。
化学式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
化学式(2):
【0017】
【化2】

【0018】
ここで、Ar、Ar、Arの基としては、例えば、次の化学式(3)〜(7)などが挙げられる。
化学式(3)〜(7):
【0019】
【化3】

【0020】
また、X、Yの基は、
A群: −O−、−CO−、−CO−、−SO−、
B群: −CH−、−S−、−C(CH
などから選択することができる。
【0021】
さらに、これら芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素などのハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチルやエチル、プロピルなどのアルキル基(特にメチル基)、メトキシやエトキシ、プロポキシなどのアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、溶媒への溶解性が向上すること、および吸湿率を低下させ湿度変化による寸法変化が小さくなることから好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。
【0022】
本発明に用いられる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有しているものが、全芳香環の50モル%以上を占めていることが好ましく、60モル%以上を占めていることがより好ましい。ここでいうパラ配向性とは、芳香環上主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が50モル%未満の場合、芳香族ポリアミド多孔質膜(以下、単に多孔質膜ということがある。)の剛性および耐熱性が不十分となったり、孔径が大きくなる場合がある。さらに、芳香族ポリアミドが下記化学式(8)で表される繰り返し単位を40モル%以上含有する場合、多孔質膜の特性が特に優れることから好ましい。
化学式(8):
【0023】
【化4】

【0024】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、水銀圧入法を用いて測定した気孔率が50〜95%であることが好ましい。より好ましくは60〜95%であり、さらに好ましくは70〜85%である。気孔率が50%未満であると、電池用セパレータとして用いたときに、電解液の保液量が少なく、充放電を繰り返した際に液枯れによる性能低下が起きることがある。また、多孔質膜の細孔径を本発明の範囲としたときに気孔率が50%未満であると、イオン伝導の抵抗が大きく、電池用セパレータとして使用した際に膜の劣化が起きたり、内部抵抗が上昇し十分な出力が得られないことがある。気孔率が95%を超えると、機械強度が不足し、セパレータとして現実的に使用することが困難になる。気孔率を上記範囲内とするため、製膜原液の処方、多孔化方法を後述の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、水銀圧入法を用いて測定した細孔径のピーク直径が0.01〜0.20μmであることが好ましい。より好ましくは0.02〜0.10μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.08μmである。細孔径のピーク直径が0.20μmを超えると、電池用セパレータとして用いて充放電を繰り返した際に、リチウム金属のデンドライト状結晶によるものと思われる微小短絡が起き、サイクル特性や保存特性が低下することがある。また、製造工程などで混入した異物による正負極の短絡が起きることがある。さらに、膜構造が脆弱となることで破断伸度などの機械特性も低下することがある。細孔径のピーク直径が0.01μm未満であると、電池用セパレータとして用いた際に目詰まりが起き、電池特性が低下することがある。ピーク直径を上記範囲内とするため、多孔化方法、特に多孔化時の製膜原液温度の制御を後述の方法で行うことが好ましい。
【0026】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、水銀圧入法を用いて測定した対数微分細孔容積が0.2cm/g以上である細孔のうち、最大細孔直径と最小細孔直径の差が0.0〜0.6μmであることが好ましい。より好ましくは0.0〜0.3μmである。最大細孔直径と最小細孔直径の差が0.6μmを超えると、多孔質膜中の細孔直径の斑が大きく、細孔直径の小さい領域のイオン透過が律速となり、十分なイオン伝導性が得られないことがある。また、充放電時にリチウムイオンが正負極間を移動する際、このイオン透過が律速となる領域の一部分でイオンが停滞するため、Li金属の析出が起こりやすくなり、微小短絡などが起きることがある。孔構造が膜中で均一であることで、リチウムイオンの移動度が膜中において均一となり、イオン伝導が効率良く行われる。最大細孔直径と最小細孔直径の差を上記範囲内とするため、多孔化方法、特に多孔化時の製膜原液温度の制御を後述の方法で行うことが好ましい。ここで、対数微分細孔容積(またはlog微分細孔容積)とは、差分細孔容積を、細孔径の対数差分値で除した値である。
【0027】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の厚みは、6〜40μmであることが好ましく、より好ましくは10〜40μmである。6μm未満であると強度が不足し、加工時にフィルムの破断が起きたり、セパレータとして使用した際に電極間が短絡する可能性がある。40μmを超えるとセパレータとして使用した際に内部抵抗の上昇により出力が低下したり、電池内に組み込める活物質層の厚みが薄くなり容量が小さくなることがある。
【0028】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、もう一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、および厚み方向中心部の厚み2μmの層の3領域における空孔率の標準偏差が0.0〜5.0%であることが好ましい。より好ましくは0.0〜4.0%であり、さらに好ましくは0.0〜3.0%である。標準偏差は各値のばらつきを表す尺度であり、3領域における空孔率が同値である場合、標準偏差は0.0%である。空孔率の標準偏差が5.0%を超えると、多孔質膜中の厚み方向における空孔率の斑が大きく、空孔率の大きい領域と小さい領域が生じる。その結果、空孔率の小さい領域のイオン透過が律速となり、十分なイオン伝導性が得られないことがある。また、このイオン透過が律速となる領域でイオンが停滞するため、充放電を繰り返した際にLi金属の析出が起こりやすくなり、微小短絡などが起きることがある。さらに、空孔率の小さい領域において電解液の保液量が少なく、充放電を繰り返した際に液枯れによる性能低下が起きることがある。空孔率の標準偏差を上記範囲内とするため、製膜原液処方、多孔化方法、特に多孔化時の製膜原液温度の制御を後述の方法で行うことが好ましい。なお、上記した3領域のうち、厚み方向中心部の厚み2μmの層とは、厚み方向の中点から両表面方向に各々1μm進んだところを境界とする層である。
【0029】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、電解液の吸い上げ性が10〜200mm/10minであることが好ましい。より好ましくは30〜200mm/10min、さらに好ましくは50〜200mm/10minである。電解液の吸い上げ性が10mm/10min未満であると、電池用セパレータとして使用した際、部分的に電解液が不足したときに平均化が速やかに行われず、液枯れによる性能低下が起きることがある。また、吸い上げ性が10mm/10min未満である場合、面方向のイオン透過経路が不十分となることが予想され、イオン伝導が効率良く行われず、出力やサイクル特性が低下することがある。上限は特に定めないが、測定法上200mm/10minを超えることは困難である。吸い上げ性を上記範囲内とするため、製膜原液の処方、多孔化方法を後述の範囲内とし、高空孔率かつ緻密な孔構造を形成することが好ましい。
【0030】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、ガーレ透気度が0.5〜300秒/100mlであることが好ましい。より好ましくは0.5〜200秒/100mlであり、さらに好ましくは0.5〜150秒/100mlである。ガーレ透気度が0.5秒/100mlより小さいと強度が著しく低下し、300秒/100mlより大きいとイオン伝導の抵抗が大きく、電池用セパレータとして使用した際に十分な出力が得られないことがある。ガーレ透気度を上記範囲内とするため、製膜原液処方、多孔化方法を後述のとおりとし、厚み方向に均一な孔構造であり、高抵抗の領域を形成させないことが好ましい。
【0031】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、200℃における長手方向(MD)および幅方向(TD)の熱収縮率のいずれもが−0.5〜2.0%、より好ましくは−0.5〜1.0%であることが好ましい。熱収縮率が2.0%を超える場合、電池の異常発熱時にセパレータの収縮により、電池端部において短絡が起こることがある。熱収縮率を上記範囲内とするため、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、芳香族ポリアミドの芳香環がパラ配向性を有しているものが全芳香環の50モル%以上を占めていることが好ましい。また、製膜原液処方、多孔化方法を後述のとおりとし、緻密かつ均一な孔構造を形成させることが好ましい。さらに、熱処理時にリラックスを施すことも効果的である。
【0032】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、少なくとも一方向のヤング率が300MPa以上であることが好ましい。ヤング率が高いことにより、薄膜化しても、加工時のハンドリング性を良好に保つことができる。また、電池用セパレータとして使用する際、充放電によりセパレータが圧迫されても、構造を維持することができる。ヤング率は500MPa以上であることがより好ましく、700MPa以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に10GPa程度が限界である。ヤング率を上記範囲内とするため、本発明の芳香族ポリアミドは、芳香環がパラ配向性を有しているものが全芳香環の50モル%以上を占めていることが好ましい。
【0033】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、少なくとも一方向の破断点応力が10MPa以上であることが好ましい。破断点応力が10MPa未満の場合、加工時の高張力、張力変動などによりフィルムが破断し、生産性が低下することがある。生産性がより良くなることから、破断点応力は20MPa以上であることがより好ましく、30MPa以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に1GPa程度が限界である。破断点応力を上記範囲内とするため、本発明の芳香族ポリアミドは、芳香環がパラ配向性を有しているものが全芳香環の50モル%以上を占めていることが好ましい。
【0034】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、長手方向(MD)および幅方向(TD)の破断点伸度がいずれも5%以上であることが好ましい。伸度が高いことにより、加工工程でのフィルム破れを低減することができ、高速で加工することが可能となる。また、電池用セパレータとして使用する際、充放電時の電極の膨張収縮に破断することなく追随でき、電池の耐久性や安全性が確保できる。加工性、耐久性、および安全性がより向上することから、破断伸度は20%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に200%程度が限界である。破断点伸度を上記範囲内とするため、製膜原液処方、多孔化方法を後述のとおりとし、緻密かつ均一な孔構造を形成させることが好ましい。さらに、熱処理条件を後述する条件で施し、その際にリラックスを施すことも効果的である。
【0035】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の製造方法について、以下説明する。
【0036】
まず、芳香族ポリアミドの重合方法として、例えば、酸クロライドとジアミンから得る場合には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合により合成する方法や、水系媒体を使用する界面重合で合成する方法等をとることができる。ただし、ポリマーの分子量を制御しやすいことから、非プロトン性有機極性溶媒中での溶液重合が好ましい。
【0037】
溶液重合の場合、フィルムの自己支持性が発現するのに必要な分子量のポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。使用するジアミン及び酸クロライドは、純度の高いものを用いることは言うまでもないが、両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成する傾向にあるため、モル比を、一方が他方の97.0〜99.5%、より好ましくは98.0〜99.0%になるように調整することが好ましい。また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合中の溶液の温度を40℃以下にすることが好ましい。40℃を超えると、副反応が起きて、重合度が十分に上がらないことがある。重合中の溶液の温度は30℃以下にすることがより好ましい。さらに、重合反応に伴って塩化水素が副生するが、これを中和する場合には炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤を使用するとよい。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を得るためにはポリマーの対数粘度ηinh(ポリマー0.5gを98質量%硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5(dl/g)以上であることが、多孔質膜とした時に剛性、靱性が高く、ハンドリング性が良くなるので好ましい。対数粘度は1.0以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。
【0038】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の製膜原液(以下、単に製膜原液ということがある。)について、説明する。
【0039】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の製膜原液には重合後のポリマー溶液をそのまま使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上述の非プロトン性有機極性溶媒や硫酸などの無機溶剤に再溶解して使用してもよい。芳香族ポリアミドを単離する方法としては、特に限定しないが、重合後の芳香族ポリアミド溶液を多量の水中に投入することで溶媒および中和塩を水中に抽出し、析出した芳香族ポリアミドのみを分離した後、乾燥させる方法などが挙げられる。また、再溶解時に溶解助剤として金属塩などを添加してもよい。金属塩としては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム等が挙げられる。製膜原液100質量部中の芳香族ポリアミドの含有量は、10〜20質量部が好ましく、より好ましくは10〜15質量部である。
【0040】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の製膜原液には孔形成能を向上させる目的で、親水性ポリマーを混合してもよい。親水性ポリマーを混合することで、製膜原液からの多孔質化の過程において、芳香族ポリアミド分子の凝集を抑え、孔形成を誘起し、気孔率を本発明の範囲とすることができる。混合する親水性ポリマーは芳香族ポリアミド100質量部に対して10〜300質量部であることが好ましい。製膜原液における親水性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対して10質量部未満の場合、多孔質化の際に芳香族ポリアミド分子が凝集し、孔構造が制御できず、気孔率が本発明の範囲内とならないことがあり、含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対して300質量部を超える場合、最終的に多孔質膜中の親水性ポリマーの残存量が多くなり耐熱性や剛性の低下、親水性ポリマーの電解液中への溶出などが起きることがある。本発明に用いる親水性ポリマーとしては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するポリマーのうち、極性の置換基、特に、水酸基、アシル基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を含有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーとして、例えば、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと記すことがある。)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン等が挙げられるが、芳香族ポリアミドとの相溶性が良いPVPを用いることがより好ましい。さらに、本発明で用いるPVPとしては重量平均分子量20万〜200万であることが好ましい。重量平均分子量が20万未満であると、低分子量のPVPが多孔質膜に残った場合、多孔質膜の耐熱性が低下したり、セパレータとして使用した際にPVPが電解液中に溶出したりする恐れがある。重量平均分子量が200万を超えると、製膜原液の溶液粘度が上昇し、生産性が低下したり、透気性が低下することがある。親水性ポリマーは重合後の芳香族ポリアミド溶液あるいは再溶解した芳香族ポリアミド溶液中に投入しても、単離した芳香族ポリアミドとともに非プロトン性有機極性溶媒中に投入してもよい。
【0041】
また、多孔質膜の静摩擦係数を低減し加工性を向上させる目的で、製膜原液に無機粒子または有機粒子を添加し、表面に突起を形成してもよい。
【0042】
上記のようにして調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法により、多孔質膜化が行われる。溶液製膜による多孔質膜化の方法として、代表的には湿式法、析出法などが挙げられるが、凝固浴を用いる湿式法では、厚み方向で孔の形状が異なったり、膜表面に緻密な被膜層が形成されたり、凝固条件の変動で孔構造にバラツキが生じる場合がある。そのため、孔構造を本発明の範囲内とするには、多孔質膜の孔構造を任意に制御しやすい析出法で製膜することが好ましい。
【0043】
析出法による多孔質膜化を行う場合、まず、製膜原液を口金やダイコーターを用いて、支持体上にキャスト(流延)し、膜形状とする。次に析出による孔構造形成を行うが、その方法として、調温調湿雰囲気下で吸湿させて析出させる方法、冷却によりポリマーの溶解性を低下させて相分離または析出させる方法、霧状の水を吹き付けて析出させる方法などが挙げられる。これらの中で、調温調湿雰囲気下で吸湿させる方法が、水の供給速度および量を細かく制御可能で、均質な多孔質構造を短時間で形成させることができることから、より好ましい。
【0044】
調温調湿雰囲気下で吸湿させて孔構造を形成させる方法では、雰囲気の温度を20〜80℃、相対湿度を50〜95%RHとすることが好ましい。温度が20℃未満では、絶対湿度が低く、吸湿によるポリマーの析出が穏やかに進行する結果、多孔質化に時間を要し、孔構造の粗大化や厚み方向の孔構造の不均一化が進行することがある。また、生産性が低下することがある。80℃を超えると表面の吸湿が急激に起こることで緻密な層ができ、孔構造およびガーレ透気度が本発明の範囲外となることや、貫通孔が形成されないことがある。また、相対湿度が50%RH未満では、吸湿よりも溶媒の乾燥が進行することで多孔質構造が形成されないことがあり、95%RHを超えると、表面の吸湿が急激に起こることで緻密な層ができて、孔構造およびガーレ透気度が本発明の範囲外となることや、貫通孔が形成されないことがある。
【0045】
ここで、多孔質膜の孔構造を、本発明の範囲を満たす緻密かつ厚み方向に均一なものとする方法について説明する。吸湿によりポリマーを析出させる方法は、ポリマーと水との間に相分離を誘起させることで孔構造を得るものであり、形成される孔構造の大きさは、ポリマーの析出が完了し、構造が固定化されるまでの相分離の進行度によって決まる。また、吸湿の方法として、支持体にキャストした膜を支持体に接していない表面側から吸湿させるため、水濃度は表面側から上昇していき、ポリマーの移動度が高いとポリマーはより安定な裏面側(支持体側)に移動する。その結果、厚み方向にポリマーの濃度勾配が生じ、支持体に接していない側(表面側)の孔構造が粗大となり、支持体に接している側の孔構造が極めて緻密あるいは閉塞した構造となることがある。以上のことから、孔構造の肥大化および厚み方向の孔構造の不均一化を抑制する方法の一つとして、溶液の温度を低く抑えた状態で速やかに構造を固定化することが挙げられる。一方で、吸湿の際、水と溶媒との溶解熱により製膜原液の温度は大きく上昇するため、この温度上昇を抑制することが重要な要素となる。
【0046】
吸湿による製膜原液温度の上昇を抑制する方法としては、吸湿工程において連続的に支持体を冷却する方法、支持体を熱容量の大きいものとする方法などが挙げられる。生産性の点から、支持体を熱容量の大きいものとする方法がより好ましい。なお、調温調湿雰囲気の温度条件を低くすることも考えられるが、製膜原液温度の上昇を抑制する効果が限定的であり、また、雰囲気の絶対湿度が低下し析出までの時間が長くなる結果、構造の粗大化や不均一化が進行することがあるため、適用に関しては限定的である。連続的に支持体を冷却する方法を用いる場合、支持体に熱伝導性が10W/m・K以上のものを用いることが好ましい。このような支持体として、例えば、アルミニウム(熱伝導性204W/m・K)、ステンレス(熱伝導率17W/m・K)などが挙げられる。一方、支持体を熱容量の大きいものとする方法を用いる場合、支持体の表面積1mあたりの熱容量が1.0kJ/K以上のものを用いることが好ましい。2.0kJ/K以上であることがより好ましく、3.0kJ/K以上であることがさらに好ましい。支持体の熱容量は支持体の素材(これにより比熱と密度が決まる。)および厚みで制御できる。このような支持体として、例えば、ガラスを用いる場合は厚み0.5mm(表面積1mあたりの熱容量1.1kJ/K)以上、ステンレス(SUS304、SUS316)を用いる場合は厚み0.3mm(表面積1mあたりの熱容量1.4kJ/K)以上のものが挙げられる。また、支持体全体としての熱容量が上記範囲内であれば、異素材を積層したものを用いても良い。
【0047】
調温調湿雰囲気下で析出した芳香族ポリアミド膜は、支持体ごとあるいは支持体から剥離して湿式浴に導入され、溶媒、取り込まれなかった親水性ポリマー、および無機塩等の添加剤の除去が行われる。浴組成は特に限定されないが、水、あるいは有機溶媒/水の混合系を用いることが、経済性、取扱いの容易さから好ましい。また、湿式浴中には無機塩が含まれていてもよい。この時、同時に延伸あるいはリラックスを行ってもよいし、フィルムの幅方向を把持せずに湿式浴に導入し、自由収縮させてもよい。
【0048】
湿式浴温度は、溶媒等を効率的に除去できることから、20℃以上であることが好ましい。浴温度が20℃未満であると、溶媒が残存し、熱処理時に突沸して靱性を低下させたり、取り込まれなかった親水性ポリマーが残存し、セパレータとして使用した際に電解液中へ溶出することがある。浴温度の上限は特に定めることはないが、水の蒸発や沸騰による気泡の発生の影響を考えると、90℃までに抑えることが効率的である。導入時間は、1〜20分にすることが好ましい。
【0049】
次に、脱溶媒を終えた多孔質膜は、テンターなどで熱処理が行われる。この時、まず100〜210℃で予備乾燥させた後、220〜300℃で高温熱処理を施すことが、靱性と耐熱性を両立させるために好ましい。ここで、予備乾燥はポリマー内部に取り込まれている水分を、高温での熱処理前に取り除く目的で行う。予備乾燥温度が100℃未満であると、ポリマー内部の水分まで取り除くことができず、次工程の高温での熱処理時に水分が突沸し発泡することで破断伸度などの機械特性が低下することがある。一方で、210℃を超えると、予備乾燥時に内部の水分が突沸し、機械特性が低下することがある。乾燥温度は上記範囲内において高い方が好ましく、より好ましくは150〜210℃である。さらに、予備乾燥を親水性ポリマーのガラス転移温度以上(例えばPVPを用いる場合、180℃以上)で施すと、内部に含有する水分をより効率的に除去でき、次工程で高温熱処理を施しても機械特性の低下を抑えることができるため、最も好ましい。
【0050】
予備乾燥後の高温熱処理は220〜300℃で施すのが好ましい。高温熱処理温度が220℃未満であると、耐熱性が不十分となり、熱収縮率が大きくなることがある。高温熱処理温度が高いほど耐熱性は向上するが、300℃を超えると、ポリマーの分解などにより、破断伸度などの機械特性が低下することがある。また、この時、幅方向への延伸およびリラックスが施されてもよい。
【0051】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、高空孔率でありながら緻密な孔構造を有し、かつその孔構造が厚み方向に均一であるため、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータとして好適に使用できる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を電池用セパレータとして用いた場合、イオン伝導が効率良く行われるため優れた出力特性が得られるとともに、長期使用時のリチウム金属析出による孔の閉塞、微小短絡、電解液の枯渇を抑制することができ、電池容量の低下を低減することができる。
【実施例】
【0052】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
実施例における物性の測定方法は次の方法に従って行った。
【0053】
(1)細孔径分布
以下の条件の下、水銀圧入法を用いて求めた。
【0054】
装置 :オートポアIV9510(マイクロメリティックス社製)
水銀圧入圧力 :約4kPa〜400MPa
測定細孔直径 :約4nm〜10μm
測定モード :昇圧(圧入)過程
測定セル容積 :約5,000mm
水銀接触角 :141.3°
水銀表面張力 :4.84N/m
試料体積 :50〜100mm
得られた細孔径分布から、各細孔パラメータを求めた。
【0055】
A.気孔率
下式により求めた。
【0056】
気孔率(%)=(V×W×100)/V
:解析範囲内の累積細孔・間隙容積(mm/g)
W:試料重量(g)
V:試料体積(mm
B.ピーク直径
縦軸を対数微分細孔容積、横軸を細孔直径として細孔径分布曲線をプロットし、解析範囲内の分布ピークトップ直径をピーク直径とした。ピークが複数ある場合は対数微分細孔容積が最大のものをピークとした。ここで、対数微分細孔容積(またはlog微分細孔容積)とは、測定点間の細孔容積の増加分である差分細孔容積dVを、細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で除した値であり、dV/d(logD)で表される。
【0057】
C.最大細孔直径と最小細孔直径の差
縦軸を対数微分細孔容積、横軸を細孔直径として細孔径分布曲線をプロットし、解析範囲内に存在する最大細孔直径と最小細孔直径の差を求めることで、多孔質膜中の細孔径の分布幅を評価した。ここで、ノイズを除去するため、対数微分細孔容積が0.2cm/g以上である細孔に限定して評価を行った。
【0058】
(2)膜厚
定圧厚み測定器FFA−1(尾崎製作所製)を用いて、測定子径5mm、測定荷重1.25Nで測定した。幅方向に、20mm間隔で10箇所測定し、平均値を求めた。ここで、平均値とは相加平均により求めた値のことをいう。(以下、特に断りのない限りにおいて、同様である。)
(3)空孔率の標準偏差
初めに、以下の条件の下、試料の長手方向−厚み方向断面および幅方向−厚み方向断面の断面像を得た。
【0059】
装置 :透過型電子顕微鏡H−7100FA(日立社製)
加速電圧 :100kV
試料調製 :超薄切片法(空孔部:樹脂包埋)
得られた断面像のうち、一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、もう一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、および厚み方向中心部の厚み2μmの層の各層の、長手方向(または幅方向)に5μmの領域について解析を行い、空孔の面積を解析領域の面積(10μm)で除することで各層の空孔率を求めた。各層の空孔率は、長手方向−厚み方向断面から求めた値と幅方向−厚み方向断面から求めた値の平均値とした。
【0060】
解析は、画像解析ソフト「ImageJ 1.44p」(アメリカ国立衛生研究所)を用いて、以下の手順で行った。まず、8ビット化した各画像について、空孔部と構成ポリマー部との二値化処理を行った。二値化処理における閾値設定のパラメータとして、「Default」を使用した。次に、スケール設定を行った後、計測条件を「Limit to Threshold」として、「Measure」により、ポリマー部のみの面積を求めた。
【0061】
各層について得られた空孔率から下式により標準偏差を求めた。
【0062】
標準偏差(%)=[{Σ(X−Xav}/n]0.5
(i=1,2,3,・・・,n):各データ
av:平均値
n:データ数(ここではn=3)。
【0063】
(4)電解液吸い上げ性
試験液を水からエチレンカーボネート30質量部、ジメチルカーボネート70質量部の混合液に変更した以外は、JIS−P8141(2004)に規定された方法を用いて測定した。
【0064】
(5)ガーレ透気度
B型ガーレーデンソメーター(安田精機製作所製)を使用し、JIS−P8117(1998)に規定された方法に従って測定を行った。試料の多孔質膜を直径28.6mm、面積645mmの円孔に締め付け、内筒により(内筒質量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、空気100mlが通過する時間を測定することでガーレ透気度とした。
【0065】
(6)熱収縮率
試料の多孔質膜を、幅10mm、長さ220mmの短冊状に、長辺が測定方向になるように切り取った。長辺の両端から約10mmの部分に印をつけ、印の間隔をLとした。200℃の熱風オーブン中で10分間、実質的に張力を掛けない状態で熱処理を行った後の印の間隔をLとし、次式で計算した。フィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ5回測定し、それぞれ平均値を求めた。
【0066】
熱収縮率(%)=((L−L)/L)×100。
【0067】
(7)ヤング率、破断点応力、破断点伸度
幅10mm、長さ150mmに切断したフィルムを、ロボットテンシロンAMF/RTA−100(オリエンテック製)を用いてチャック間距離50mm、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行うことで求めた。フィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ5回測定し、それぞれの値について平均値を求めた。
【0068】
(8)電池評価
以下の通り、リチウムイオン二次電池を作製し、評価を行った。
【0069】
・正極
コバルト酸リチウム(LiCoO、日本化学工業社製)89.5質量部と、アセチレンブラック(電気化学工業社製)4.5質量部およびポリフッ化ビニリデン(PVdF、クレハ社製)の乾燥質量が6質量部となるように、6質量%のPVdFのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を用い、正極剤ペーストを作製した。得られたペーストを集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗布、乾燥後、直径13mmの円形に打ち抜き加工を行うことで正極を得た。
【0070】
・負極
メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB、大阪ガスケミカル社製)87質量部と、アセチレンブラック3質量部およびPVdFの乾燥質量が10質量部となるように、6質量%のPVdFのNMP溶液を用い、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを集電体である厚さ18μmの銅箔上に塗布、乾燥後、直径14.5mmの円形に打ち抜き加工を行うことで負極を得た。
【0071】
・電解液
エチレンカーボネート30質量部、ジメチルカーボネート70質量部の混合液にLiPFが1mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。
【0072】
・組み立て
封口板の上に上記負極を負極剤が上になるように静置し、上から電解液を注液した。その上に実施例および比較例で作製したセパレータ(直径17mmの円形)を静置し、さらにセパレータ上から電解液を注液した。次に正極を正極剤が下になるように静置し、ケースを静置した。これをカシメ機で封口し、直径20mm、厚み3.2mmのコイン型電池を作製した。
【0073】
A.高温サイクル特性
作製した各リチウムイオン二次電池について、120℃の雰囲気下、定電流1mA(0.2C)で電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、充電後、1時間放置した。その後、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行い、放電後、1時間放置した。この充放電を1サイクルとし、1サイクル目の放電容量を基準とし、100サイクル目の放電容量を以下の基準で評価した。○または△が実用範囲である。
【0074】
○:80%以上
△:70%以上80%未満
×:70%未満
B.高温保存特性
作製した各リチウムイオン二次電池について、120℃の雰囲気下、定電流0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、充電後、1時間放置した。その後、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行い、放電後、1時間放置した。この充放電を1サイクルとし、2サイクル行った後、定電流0.2Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電した。この充電状態の電池を120℃の雰囲気下に10日間放置した。放置後、定電流0.2Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電を行い、放電後、1時間放置した。その後、再度1サイクルの充放電を行い、放電容量を測定した。10日間放置前の2サイクル目の放電容量を基準とし、放置後の放電容量を以下の基準で評価した。○または△が実用範囲である。
【0075】
○:80%以上
△:70%以上80%未満
×:70%未満
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0076】
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを溶解させ、これに98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加して、30℃以下で約2時間の撹拌を行い、芳香族ポリアミドを重合した。この重合溶液を炭酸リチウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンにより中和することで芳香族ポリアミドの溶液を得た。この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながらポリマーを沈殿させて取り出した。取り出したポリマーを水洗し、減圧120℃下で24時間乾燥させ、芳香族ポリアミドを単離した。
【0077】
得られた芳香族ポリアミドおよびポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量120万、ISP社製)をNMP中に投入し、60℃で7時間撹拌することで均一で透明な製膜原液を得た。それぞれの添加量は芳香族ポリアミド10質量部、PVP5質量部、NMP85質量部とした。
【0078】
この製膜原液を、口金から支持体である厚み1mmのステンレス(SUS316)ベルト上に厚み約50μmの膜状に塗布し、温度50℃、相対湿度85%RHの調温調湿空気中で1分間、塗布膜が失透するまで処理した。次に、失透した塗布膜をベルトから剥離し、60℃の水浴に2分間導入することで溶媒の抽出を行った。続いて、テンター中で200℃において1分、230℃において幅方向に5%収縮させながら2分、熱処理を行い、多孔質膜を得た。
【0079】
得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0080】
(実施例2、3)
塗布厚みを表1に記載の通りとすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0081】
(実施例4)
実施例1と同様の製膜原液を用いて、支持体である厚み0.5mmのステンレス(SUS304)板上にアプリケーターで厚み約70μmの膜状に塗布した。その後、温度50℃、相対湿度85%RHの調温調湿空気中で1分間、塗布膜が失透するまで処理した。次に、失透した塗布膜を支持体から剥離し、ステンレス製の枠に固定した後、60℃の水浴に10分間浸漬することで溶媒の抽出を行った。続いて、枠に固定したまま、熱風オーブンを用いて200℃において1分、230℃において2分、熱処理を行い、多孔質膜を得た。
【0082】
得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0083】
(実施例5、6)
支持体を表1に記載の通りとすること以外は実施例4と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0084】
(実施例7)
芳香族ポリアミド中の4、4’−ジアミノジフェニルエーテルの量を、ジアミン全量に対して50モル%とし、製膜原液を芳香族ポリアミド11質量部、PVP5質量部、NMP84質量部とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0085】
(実施例8)
芳香族ポリアミドを、75モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと25モル%に相当するパラフェニレンジアミン、および98.5モル%に相当するイソフタル酸クロライドから重合し、製膜原液を芳香族ポリアミド12質量部、PVP4質量部、NMP84質量部とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0086】
(実施例9)
製膜原液を芳香族ポリアミド10質量部、ポリエチレングリコール(PEG、重量平均分子量300、第一工業製薬社製)20質量部、NMP70質量部とし、厚み約100μmの膜状に塗布した後、温度20℃、相対湿度80%RHの調温調湿空気中で15分間処理すること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0087】
(実施例10)
製膜原液を芳香族ポリアミド14質量部、PVP4質量部、NMP82質量部とすること以外は実施例7と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0088】
(実施例11)
塗布厚みを20μmとすること以外は実施例7と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0089】
(実施例12、13)
調温調湿条件を表1に記載の通りとすること以外は実施例7と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0090】
(比較例1〜4)
支持体を表1に記載の通りとすること以外は実施例4と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0091】
(比較例5)
支持体を厚み50μmのステンレス(SUS304)箔とし、温度20℃、相対湿度85%RHの調温調湿空気中で2分間処理すること以外は実施例4と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0092】
(比較例6)
実施例1と同様の製膜原液を用いて、支持体である厚み5mmのガラス板上にアプリケーターで厚み約100μmの膜状に塗布した。その後、水50質量部、NMP50質量部で温度40℃の凝固液中に浸漬し、失透した塗布膜を支持体から剥離した。以降は実施例4と同様にステンレス製の枠に固定し、水洗、熱処理を行い、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0093】
(比較例7)
製膜原液を芳香族ポリアミド8質量部、PVP4質量部、NMP88質量部とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0094】
(比較例8)
塗布厚みを150μmとすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0095】
(比較例9〜11)
調温調湿条件を表1に記載の通りとすること以外は実施例7と同様にして、多孔質膜を得た。得られた多孔質膜の、主な製造条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、高空孔率でありながら緻密な孔構造を有し、かつその孔構造が厚み方向に均一であるため、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータとして好適に使用できる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を電池用セパレータとして用いた場合、イオン伝導が効率良く行われるため優れた出力特性が得られるとともに、長期使用時のリチウム金属析出による孔の閉塞、微小短絡、電解液の枯渇を抑制することができ、電池容量の低下を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀圧入法を用いて測定した気孔率が50〜95%であり、細孔径のピーク直径が0.01〜0.20μmであり、かつ対数微分細孔容積が0.2cm/g以上である細孔のうち最大細孔直径と最小細孔直径の差が0.0〜0.6μmである、芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項2】
膜厚が6〜40μmであり、一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、もう一方の表面から膜の厚み方向2μmまでの層、および厚み方向中心部の厚み2μmの層の3領域における空孔率の標準偏差が0.0〜5.0%である、請求項1に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いてなる電池用セパレータ。
【請求項4】
有機極性溶媒に溶解させた芳香族ポリアミド溶液を、表面積1mあたりの熱容量が1.0kJ/K以上の支持体上に塗布した後、温度20〜80℃、相対湿度50〜95%RHの雰囲気中で吸湿させることにより孔構造を形成させる、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜の製造方法。

【公開番号】特開2013−32491(P2013−32491A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−99416(P2012−99416)
【出願日】平成24年4月25日(2012.4.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】