説明

芳香族ポリエステル系樹脂組成物の製造方法

【課題】短い生産サイクルでヒケ、反り、離型時の割れ・変形が無く、金型追随性、表面平滑性、耐薬品性に優れた芳香族ポリエステル系樹脂組成物の成形体を得る製造方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ポリエステル系樹脂と、不飽和ニトリル単量体由来の構成単位の含有量が10〜30質量%であるスチレン系樹脂とを含み、結晶化温度が150〜180℃の範囲にある芳香族ポリエステル系樹脂組成物を、金型温度60〜78℃に加温された金型を用いて成形することを特徴とする、芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒケ、反り、離型時の割れ・変形が無く、金型追随性、表面平滑性、耐薬品性に優れ、なおかつ短い生産サイクルで生産することを可能とする芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される芳香族ポリエステルは、機械特性、耐薬品性に優れ、家電・OAなどの幅広い分野で使用されている。しかし、これらは成形後に収縮による凹み(以下、ヒケと表記)や反り、離型時の割れ・変形が発生しやすいという問題点があった。これらを抑制するために、フィラーを添加する方法が知られている。ところが、添加されたフィラーが成形体表面に浮き上がり、表面平滑性を損ねるという問題点がある。
【0003】
その対策として、フィラーで強化したポリブチレンテレフタレート及びスチレン系樹脂からなる組成物にポリエチレンテレフタレートを配合すること(例えば、特許文献1)や、フィラーで強化したポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略記する)と熱可塑性組成物からなる組成物やその成形体(例えば、特許文献2、3、4)が知られている。しかし、これらの芳香族ポリエステル系樹脂組成物は、射出成形において金型通りの成形体を得るために金型温度を80℃〜120℃と高くしなければならず、成形体の冷却に時間がかかり成形サイクルが長くなってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開1993−202275号公報
【特許文献2】特開2003−20389号公報
【特許文献3】特開2008−156507号公報
【特許文献4】特開2008−156508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、ヒケ、反り、離型時の割れ・変形が無く、金型追随性、表面平滑性、耐薬品性に優れ、なおかつ短い生産サイクルで生産することを可能とする芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体の製法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、芳香族ポリエステル系樹脂をベースとし、これに不飽和ニトリル単量体由来の構成単位を10〜30質量%含むスチレン系樹脂を配合して芳香族ポリエステル系樹脂組成物を製造したところ、該芳香族ポリエステル系樹脂組成物の結晶化温度が低下することを見出し、その結果金型表面の最も高い部位の温度が60〜78℃である金型を用いて得られた芳香族ポリエステル系樹脂組成物を成形できることを突き止め、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)芳香族ポリエステル系樹脂と、不飽和ニトリル単量体由来の構成単位の含有量が10〜30質量%であるスチレン系樹脂とを含み、結晶化温度が150〜180℃の範囲にある芳香族ポリエステル系樹脂組成物を、金型温度60〜78℃に加温された金型を用いて成形することを特徴とする、芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体の製造方法。
(2)前記芳香族ポリエステル系樹脂組成物が、前記芳香族ポリエステル系樹脂50〜95質量%と前記スチレン系樹脂50〜5質量%とを含む、請求項1に記載の芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体の製造方法。
(3)1)前記芳香族ポリエステル系樹脂と前記スチレン系樹脂とをスクリュー回転数
が230〜300rpmに設定した押出機で混練する工程、
2)1)の工程で混練して得られた樹脂組成物をペレット加工する工程、及び
3)2)で得られたペレットを射出成形機に投入し、60〜78℃に加温された金
型で成形体を成形する工程、
を含む、(1)又は(2)に記載の射出成形体の製造方法。
(4)前記芳香族ポリエステル系樹脂が、ポリトリメチレンテレフタレートである、又はポリトリメチレンテレフタレートを50質量%以上含むポリエステル混合物である、(1)から(3)のいずれかに記載の射出成形体の製造方法。
(5)前記スチレン系樹脂が、スチレン・アクリロニトリル共重合体である(1)から(4)のいずれかに記載の射出成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製法によれば、短い生産サイクルでヒケ・反りが無く、離型時の割れや変形が無いことに加え、金型追随性、表面平滑性に優れ、耐薬品性の高い芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を実施するための形態について、以下具体的に説明する。
【0009】
本発明で用いられる芳香族ポリエステル系樹脂としては、一般に知られたものを用いることができる。例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン及びポリエチレンなどが挙げられ、これらのうちポリエステル、ポリアミドが好ましく、更にポリエステルが好ましく、その中でもポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと略す)が特に好ましい。
ポリエステル自体は、公知のものを用いることができる。ポリエステルの製造は、テレフタル酸、そのエステル又は他のエステル形成性誘導体と1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール又は1,2−エタンジオールとの反応によって公知の方法で行うことができる。
ポリエステルは、他の共重合成分を含有してもよい。そのような共重合成分としては、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール−Aのエチレンオキシド付加物、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、等のエステル形成性モノマーが挙げられる。
共重合する場合の共重合量は、本発明の目的を損なわない範囲であればよく、通常、酸成分の30モル%以下、又はグリコール成分の30モル%以下であることが好ましい。
また、本発明で使用するポリエステルは、芳香族ポリエステル系樹脂組成物としたときの結晶化温度が、150℃〜180℃の範囲にあるものである。結晶化温度が150℃以上であれば、射出成形時に溶融された樹脂が一定の耐薬品性を得るために必要な結晶化にかかる時間を抑えられ、生産サイクルを短くすることができる。一方、180℃以下であれば、射出成形において金型内に樹脂が流れる際、結晶化の開始が遅れることで金型全体に樹脂が流れ込めるため、金型追随性の高い成形体を得ることができる。この効果によって、これまで80〜120℃と高い金型温度でしか得られなかった金型追随性の高い成形体を、60〜78℃と低い温度で得られるようになった。
なお、ここで示す結晶化温度とは、示差走査熱量計(DSC)により以下の方法で測定できる。試料5mgを、示差走査熱量測定器を用いて、30℃から100℃/minの昇温速度にて270℃まで加熱し溶解させる。3分間保持した後、5℃/minの設定降温速度で冷却し、結晶化を示すピークを測定する。このとき、観測される結晶化ピークの頂点における温度を結晶化温度と定義する。
また、本発明で用いるポリエステルは、芳香族ポリエステル系樹脂組成物としたときの結晶化速度が270℃において溶融している状態からの等温結晶化時間が25〜100secであることが好ましい。25sec以上とすることで、ヒケ・反りをより容易に抑制することができる。これは、25sec以上とすることで、結晶性樹脂である芳香族ポリエステルの結晶化速度を落とし、結晶化していない領域で非晶性樹脂と混ざり合いやすく、分散性を向上させることができることにより得られる効果である。一方、100sec以下とすることで、一定の耐薬品性を得るために必要な結晶化にかかる時間を抑えられ、生産サイクルをより容易に短くすることができる。等温結晶化時間は示差走査熱量計(DSC)により以下の方法でより容易に測定できる。試料5mgを、示差走査熱量測定器を用いて、30℃から100℃/minの昇温速度にて270℃まで加熱し溶解させる。3分間保持した後、500℃/minの設定降温速度にて140℃まで急冷し、等温結晶化時間を測定する。ここで等温結晶化時間とは、270℃、3分保持後から140℃における結晶化ピークが現われるまでの時間と定義する。よって、等温結晶化時間が短いほど結晶化が速いと判断することができる。
上記等温結晶化時間を満たすには、PTTを用いることが好ましい。また、二種のポリエステルを併用することで上記等温結晶化時間を満たすこともできる。例えば結晶化速度の高いポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略す)を用いる時は、結晶化速度が低いポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)等と併用することが好ましい。しかし併用する場合はエステル交換が進行し、結晶化度が低下することがある。そのため、本発明に用いるポリエステルとしては、結晶化速度が適度に高いポリトリメチレンテレフタレートを単独で用いるか、又は他の芳香族ポリエステルと併用する場合は、結晶化速度制御の点からPTTを主成分として用いたポリエステル混合物がより好ましく、該混合物中のPTT含有量は50質量%以上が好ましい。
【0010】
本発明で得られる成形体中の芳香族ポリエステル系樹脂組成物における芳香族ポリエステル系樹脂の含有量は、好ましくは50〜95質量%であり、より好ましくは55〜80質量%、更に好ましくは55〜65質量%である。芳香族ポリエステル系樹脂の含有量を50質量%以上とすることで、短い生産サイクルでも結晶化領域を増やし耐薬品性の効果を得ることができる。95質量%以下とすることで、金型温度が低い場合でも、ヒケや反りなどの外見上の不良発生を抑制する効果が得られる。
【0011】
本発明で用いられるスチレン系樹脂とは、少なくとも芳香族ビニル単量体及び不飽和ニトリル単量体を含む単量体の混合物からなる共重合体であり、必要に応じて共重合可能な他の単量体を共重合することもできる。共重合体可能な他の単量体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、及びマレイミド系単量体が挙げられる。具体的にはスチレン・アクリロニトリル共重合体(以下、AS樹脂と略記する)が好ましい。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、及びp−t−ブチルスチレンなどが挙げられ、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びエタクリロニトリルなどが挙げられ、アクリロニトリルが好ましい。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
本発明で用いるスチレン系樹脂における不飽和ニトリル単量体由来の構成単位の含有量は、10〜30質量%であり、15〜25質量%がより好ましい。不飽和二トリル単量体由来の構成単位の含有量を10%以上とすることで、芳香族ポリエステル系樹脂との分散性を向上させ、30%以下とすることで、芳香族ポリエステル系樹脂組成物の結晶化温度を低下させ、金型温度が低温でもその流動性を維持し、金型追随姓が高く、ヒケ・反りのない成形体を得ることができる。
また、スチレン系樹脂としては、結晶性樹脂との分散性に影響することから、その比粘度ηSP/cが0.4〜0.8であることが好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレートが挙げられ、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましく、ブチルアクリレート、メチルメタクリレートが更に好ましい。最も好ましくは、n−ブチルアクリレートである。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
マレイミド系単量体としては、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミドが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0012】
スチレン系樹脂には、ゴム状重合体を含むことができる。ゴム状重合体としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが使用できる。これらゴム状重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル共重合体、ブタジエン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン系共重合体、エチレン−イソプレン共重合体及びエチレン−アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。これらのゴム状重合体に芳香族ビニル単量体、不飽和ニトリル単量体、及び不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体から選ばれる1種以上の単量体がグラフトされることが好ましい。ゴム状重合体の質量平均粒子径は、0.1〜0.5μmが好ましい。
スチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、及びこれら重合法の組合せ等の方法がある。
【0013】
本発明で得られる、成形体中の芳香族ポリエステル系樹脂組成物におけるスチレン系樹脂の含有量は、好ましくは50〜5質量%であり、より好ましくは20〜45質量%、更に好ましくは35〜45質量%である。スチレン系樹脂の含有量を50質量%以下とすることで、短い生産サイクルでも耐薬品性の効果を得ることができ、5質量%以上とすることで、金型温度が低い場合でも、ヒケや反りなどの外見上の不良発生を抑制する効果が得られる。
【0014】
本発明の製造方法においては、芳香族ポリエステル系樹脂と不飽和ニトリル単量体由来の構成単位を10〜30質量%含むスチレン系樹脂とを押出機に投入し混練する。その際、異なる2樹脂をより細かくブレンドするために、押出機のスクリュー回転数を230〜300rpmの範囲とすることが好ましい。この範囲にスクリュー回転数を制御することで、異なる2樹脂をより細かくブレンドすることが可能となり、ヒケや反りなどの外見上の不良発生を抑制する効果が得られ、耐薬品性も向上する。
【0015】
混練した溶融樹脂は、押出機よりストランド状で得られ、その後水冷・カッティングによりペレットに加工される。さらに、このペレットを絶乾状態にした後、射出成形機に投入し、60〜78℃に加温された金型にて成形体を得る。ここで金型温度を60℃以上とすることで、溶融樹脂が金型に充分に流れ込む前に固化してしまうこともなく、目的の形状の成形体を得ることができる。また、78℃以下の温度であれば、樹脂の冷却に時間がかからず、生産性の低下要因となることもない。金型の温度としては、70〜78℃がより好ましい。
【0016】
溶融樹脂を金型に射出した後、金型形状を転写するため適切な保圧をかけ、充填した樹脂が固化させるために金型を閉じた状態で一定時間保持する。ここで、保圧完了後から金型を開き始めるまでの時間は成形体の冷却時間に相当する。
【0017】
本発明の製法によれば、金型の形状、すなわち得られる成形体の形状が、厚さ3.0mm以下の薄型形状を有する成形体の場合には、従来実現することが難しかった金型追随性に優れた成形体をより容易に得ることができる。
【実施例】
【0018】
下記の実施例及び比較例は、本発明をさらに具体的に説明するためのものである。各実施例及び各比較例に使用した成分は下記のとおりである。
【0019】
1.実施例及び比較例に用いた原材料
<芳香族ポリエステル系樹脂(A)>
(A−1)数平均分子量が190000であるPTT(デュポン(株)製)
(商品名)ソロナ(登録商標)3GT
(A−2)数平均分子量が170000であるPTT(シェルケミカルズジャパン(株)
製)(商品名)コルテラ(登録商標) CP502901
(A−3)メルトインデックス (235℃、2160g)(ISO1133準拠)
が23であるPBT(ポリプラスチックス社製)
(商品名)ジュラネックス(登録商標) 500FP
<スチレン系樹脂(B)>
(B−1)アクリロニトリル20質量%、スチレン80質量%からなり、ηSP/Cが
0.67であるAS樹脂(旭化成ケミカルズ(株)製)
(商品名)スタイラックAS(登録商標)T0401
(B−2)アクリロニトリル29質量%、スチレン71質量%からなり、ηSP/Cが
0.73であるAS樹脂(旭化成ケミカルズ(株)製)
(商品名)スタイラックAS(登録商標)783
(B−3)アクリロニトリル40質量%、スチレン60質量%からなり、ηSP/Cが
0.58であるAS樹脂(旭化成ケミカルズ(株)製)
(商品名)スタイラックAS(登録商標)727
<ガラスフィラー>
(C) チョップドストランドガラス繊維 平均繊維径13μm、平均繊維長3mm
(日本電気硝子(株)製)
(商品名)ECS03 T−187
<結晶化温度>
芳香族ポリエステル系樹脂組成物の結晶化温度は、以下の方法で測定した。示差走査熱量計(DSC)を用いて、試料5mgを、30℃から100℃/minの昇温速度にて270℃まで加熱し溶解させる。3分間保持した後、5℃/minの設定降温速度で冷却し、結晶化をしめすピークを測定する。このとき、観測される結晶化ピークの頂点における温度を結晶化温度とした。
【0020】
2.物性評価
本件発明の効果を評価するために、上記実施例、比較例で製造した成形体について以下の物性を評価した。
1)ヒケ :実施例で成形した成形体の表面を、目視にて観察したとき、表面に凹みが皆無であったものを良(○)、凹みが見られたものを不可(×)とした。
2)反り量 :実施例で成形した成形体の角の1点を押さえ、押さえた点と対角線上の角の浮いた高さを反り量とした(単位:mm)。反りが0mmであれば良(○)とした。
3)離型時の割れ・変形 :実施例で成形した成形体を金型から取出す際に割れおよび変形が無いか確認し、無い場合を良(○)、有った場合はその内容を記載した。
4)金型追随性 :実施例で成形した成形体の形状・サイズと金型から得られるはずの成形体の形状・サイズとを比較し、差異が無ければ良(○)、差異があればその内容を記載した。
5)表面平滑性 :実施例で成形した成形体の表面平滑性を、光沢計を用いて評価した。デジタル変角光沢計UGV−5K(スガ試験機(株)製)を用い、JIS−K7105に準じて、洗浄液浸漬後成形体のグロス(60°)値を測定した。数値によって、以下のように判定、判定結果と数値を表に記載した。
○:光沢が90以上
△:光沢が80以上90未満
×:光沢が80未満
なお、成形体が得られなかった場合は、光沢を測定するまでもなく不良(××)とした。
6)耐薬品性 :実施例で成形した成形体を排水パイプ洗浄剤原液に室温にて2週間浸漬し、取り出し後、水で洗浄し乾燥させて成形体の外観変化を観察した。
外観変化は、デジタル変角光沢計UGV−5K(スガ試験機(株)製)を用い、JIS−K7105に準じて、洗浄液浸漬後成形体のグロス(60°)値を測定し、洗浄液浸漬前のグロス(60°)値と比較した。そして、そのグロス保持率によって、以下のように判定、判定結果と数値を表に記載した。
◎:グロス保持率が80%以上
○:グロス保持率が75%以上80%未満
×:グロス保持率が75%未満
なお、成形体が得られなかった場合は、グロス保持率を測定するまでもなく不良(××)とした。
用いた洗浄剤:パイプユニッシュプラス(水酸化ナトリウム3%、次亜塩素酸塩、界面活性剤アルキルアミンオキシド)(ジョンソン(株)製)
7)生産性 :溶融樹脂の金型への射出開始から、成形体取り出しまでの時間を生産サイクルと定義し、その生産サイクルの長さによって生産性の良さを以下のように定義する。生産サイクルが185秒未満のものを優(◎)、185秒以上〜205秒未満のものを良(○)、205秒以上のものを不可(×)とした。また、上記1)〜6)で判定が◎、○以外のものは、冷却時間にかかわらず、不良(××)とした。
【0021】
3.成形体の製造
(実施例1、2、4)
上記各成分につき、表1に記載の配合割合で(A)成分と(B)成分をブレンドし、2軸押出機(東芝機械(株)製:TEM35、2軸同方向スクリュー回転型、L/D=47.6(D=37mmφ))を用い、スクリュー回転数250rpm、シリンダー温度260℃で溶融混練を行ってアロイを製造した。先端ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷、カッティングして得られたペレットを射出成形機(東芝機械(株)製:EC60N−II)を用い、シリンダー設定温度250℃、金型温度70℃で、7.0mm×3.0mm×2.5mmのカラープレートを成形した。
また、その他の成形条件の設定として、射出保圧時間を15秒、冷却時間を150秒に設定した。また、型開閉速度およびイジェクタピンの突き出し速度を、金型および成形体に反り・破損等の異常が生じない範囲の一般的な設定とし、それにかかる時間は型開閉動作とイジェクタピン突き出し動作合わせて約10秒となった。よって冷却時間に25秒加えた秒数を生産サイクルとした。
【0022】
(実施例3)
(A−1)成分と(B−2)成分を表1に記載の配合割合でブレンドする点と、冷却時間を175秒に設定する以外は実施例1と同様に実施した。
【0023】
(実施例5)
金型温度を77℃、冷却時間を175秒に設定する以外は、実施例1と同様に実施した。
【0024】
(実施例6)
スクリュー回転数を200rpmと設定する以外は、実施例1と同様に実施した。
【0025】
(比較例1)
(A−1)成分と(B−3)成分を表1に記載の配合割合でブレンドする点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0026】
(比較例2)
金型温度を85℃に設定する以外は、実施例1と同様に実施した。
【0027】
(比較例3)
金型温度を85℃、冷却時間を200秒に設定する以外は実施例1と同様に実施した。
【0028】
(比較例4)
金型温度を55℃、冷却時間を130秒に設定する以外は実施例1と同様に実施した。
【0029】
(比較例5)
(A−3)成分と(B−1)成分を表1に記載の配合割合でブレンドする点以外は、実施例1と同様に実施した。
【0030】
(比較例6)
金型温度を85℃、冷却時間を200秒に設定する以外は比較例5と同様に実施した。
(比較例7)
比較例1の組成物100質量部に対し、(C)ガラスフィラーを30質量部加えてブレンドする点以外は、比較例1と同様に実施した。
【表1】


表1に示すように、本発明に規定する条件を満たさない場合には、本発明の効果を得ることができないが、本発明の製法による射出成形体では、短い生産サイクルでヒケ、反り、離型時の割れ・変形が無く、金型追随性、表面平滑性、耐薬品性に優れた効果が得られていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の製法による射出成形体は、人の目に触れ、且つ手で触われる製品、例えば、スポイラー、ガーニッシュ、ドアハンドルなどの自動車製品、TV、PC、ゲーム機などの家電・OA製品、洗面台、キッチン、バスなどの住宅建材製品などの用途に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル系樹脂と、不飽和ニトリル単量体由来の構成単位の含有量が10〜30質量%であるスチレン系樹脂とを含み、結晶化温度が150〜180℃の範囲にある芳香族ポリエステル系樹脂組成物を、金型温度60〜78℃に加温された金型を用いて成形することを特徴とする、芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族ポリエステル系樹脂組成物が、前記芳香族ポリエステル系樹脂50〜95質量%と前記スチレン系樹脂50〜5質量%とを含む、請求項1に記載の芳香族ポリエステル系樹脂組成物の射出成形体の製造方法。
【請求項3】
1)前記芳香族ポリエステル系樹脂と前記スチレン系樹脂とをスクリュー回転数が23
0〜300rpmに設定した押出機で混練する工程、
2)1)の工程で混練して得られた樹脂組成物をペレット加工する工程、及び
3)2)で得られたペレットを射出成形機に投入し、60〜78℃に加温された金型で
成形体を成形する工程、
を含む、請求項1又は2に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ポリエステル系樹脂が、ポリトリメチレンテレフタレートである、又はポリトリメチレンテレフタレートを50質量%以上含むポリエステル混合物である、請求項1から3のいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項5】
前記スチレン系樹脂が、スチレン・アクリロニトリル共重合体である請求項1から4のいずれか一項に記載の射出成形体の製造方法。

【公開番号】特開2012−135970(P2012−135970A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290506(P2010−290506)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】