説明

芳香族ポリエーテルの製造方法および芳香族ポリエーテル

【課題】目標とする分子量の芳香族ポリエーテルをより確実に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明の芳香族ポリエーテルの製造方法は、特定の二価フェノール化合物と、特定のジハロゲノジフェニル化合物とを、塩基の存在下に反応させ、芳香族ポリエーテルの還元粘度が所定の値に到達した時点で、反応液中に酸を添加することで、芳香族ポリエーテルを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリエーテルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエーテルは、耐熱性、耐衝撃性、透明性等に優れた高分子化合物として有用である。かかる芳香族ポリエーテルは、塩基および反応溶媒の共存下に、二価フェノール化合物とジハロゲノジフェニル化合物とを重縮合反応させて製造される(たとえば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−315764号公報
【特許文献2】特開2008−248013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
芳香族ポリエーテルの分子量は物性に影響するので、所定の分子量を有する芳香族ポリエーテルを製造することが求められる。しかしながら、特に分子量の高い芳香族ポリエーテルを製造する場合、二価フェノール化合物とジハロゲノジフェニル化合物との重縮合反応において、芳香族ポリエーテルの分子量の上昇速度が速いので、芳香族ポリエーテルの分子量が目標の分子量となるように、重縮合反応を停止させることが容易ではない。そのため、目標とする分子量の芳香族ポリエーテルを得ることは容易ではない。
【0005】
本発明の目的は、目標とする分子量の芳香族ポリエーテルをより確実に製造する方法およびその方法によって得られる芳香族ポリエーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、二価フェノール化合物と、ジハロゲノジフェニル化合物とを、塩基および反応溶媒の存在下に反応させ、N,N−ジメチルホルムアミド溶媒中における25℃での芳香族ポリエーテルの還元粘度が所定の値に到達した時点で、反応液中に酸を添加することで、芳香族ポリエーテルを得ることを特徴とする芳香族ポリエーテルの製造方法である。
【0007】
また本発明は、前記二価フェノール化合物が下記式(1);
【化1】

(式中、Yは単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、式−CH(T1)−{式中、T1はフェニル基を示す。}で示される2価基、式−C(T2)(T3)−{式中、T2は炭素数1〜5のアルキル基を示し、T3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数4〜7のシクロアルキル基を示す。}で示される2価基、−O−、−CO−、−SO−、−S−または
下記式(i);
【化2】

{式中、aは2〜5の整数を示す。}
で示される2価基を示す。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
で表される二価フェノール化合物であり、
前記ジハロゲノジフェニル化合物が下記式(2);
【化3】

(式中、Zは−SO−または−CO−を表し、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。XおよびX’は、それぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
で表されるジハロゲノジフェニル化合物であることを特徴とする芳香族ポリエーテルの製造方法である。
【0008】
また本発明は、前記式(1)で表される二価フェノール化合物が下記式(3);
【化4】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
で表されるジヒドロキシジフェニルスルホンであり、
前記式(2)で表されるジハロゲノジフェニル化合物が下記式(4);
【化5】

(式中、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
で表されるジクロロジフェニルスルホンであり、前記ジヒドロキシジフェニルスルホンと前記ジクロロジフェニルスルホンとを、塩基および反応溶媒の存在下に反応させて、
芳香族ポリエーテルとして下記式(5);
【化6】

(式中、R〜R16は、前記と同じ意味を示す。)
で表される構造単位を有する芳香族ポリエーテルスルホンを得ることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記二価フェノール化合物が4,4' −ジヒドロキシジフェニルスルホンであり、
前記ジハロゲノジフェニル化合物が4,4' −ジクロロジフェニルスルホンであることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記酸が、硫酸水素ナトリウムであることを特徴とする。
また本発明は、前記塩基が、炭酸カリウムであることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記芳香族ポリエーテルの製造方法によって製造されることを特徴とする芳香族ポリエーテルである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族ポリエーテルの製造方法は、二価フェノール化合物と、ジハロゲノジフェニル化合物とを、塩基および反応溶媒の存在下に反応させ、N,N−ジメチルホルムアミド溶媒中における25℃での芳香族ポリエーテルの還元粘度が所定の値に到達した時点で、反応液中に酸を添加することで、芳香族ポリエーテルを得る。
【0013】
芳香族ポリエーテルの還元粘度が所定の値に到達した時点で反応液中に酸を添加することによって、反応液を中和することができるので、芳香族ポリエーテルの還元粘度の上昇、すなわち、芳香族ポリエーテルの分子量の上昇を抑制することができる。そのため、芳香族ポリエーテルの分子量が目標の分子量であるときに、ジハロゲノジフェニル化合物と、二価フェノール化合物との反応を停止させることが容易になる。したがって、目標とする分子量の芳香族ポリエーテルをより確実に製造することができる。
【0014】
また本発明によれば、前記二価フェノール化合物が上記式(1)で表される二価フェノール化合物であり、前記ジハロゲノジフェニル化合物が上記式(2)で表されるジハロゲノジフェニル化合物である。これらの二価フェノール化合物とジハロゲノジフェニル化合物とを反応させるときに酸添加を行うことによって、目標とする分子量の芳香族ポリエーテルをより確実に製造することができる。
【0015】
また本発明によれば、上記式(1)で表される二価フェノール化合物である上記式(3)で表されるジヒドロキシジフェニルスルホンと、上記式(2)で表されるジハロゲノジフェニル化合物である上記式(4)で表されるジクロロジフェニルスルホンとを、塩基および反応溶媒の存在下に反応させて、芳香族ポリエーテルとして上記式(5)で表される構造単位を有する芳香族ポリエーテルスルホンを得る。
【0016】
芳香族ポリエーテルである芳香族ポリエーテルスルホンの還元粘度が所定の値に到達した時点で反応液中に酸を添加することによって、反応液を中和することができるので、芳香族ポリエーテルスルホンの還元粘度の上昇、すなわち、芳香族ポリエーテルスルホンの分子量の上昇を抑制することができる。そのため、芳香族ポリエーテルスルホンの分子量が目標の分子量であるときに、ジクロロジフェニルスルホンと、ジヒドロキシジフェニルスルホンとの反応を停止させることが容易になる。したがって、目標とする分子量の芳香族ポリエーテルスルホンをより確実に製造することができる。
【0017】
また本発明によれば、二価フェノール化合物が4,4' −ジヒドロキシジフェニルスルホンであり、ジハロゲノジフェニル化合物が4,4' −ジクロロジフェニルスルホンである。これらの4,4' −ジヒドロキシジフェニルスルホンと4,4' −ジクロロジフェニルスルホンとを反応させるときに酸添加を行うことによって、目標とする分子量の芳香族ポリエーテルをより確実に製造することができる。
【0018】
また本発明によれば、反応液中に添加する酸として硫酸水素ナトリウムを用いることによって、芳香族ポリエーテルの還元粘度の上昇をより効果的に抑制することができる。そのため、芳香族ポリエーテルの分子量が目標の分子量であるときに、ジハロゲノジフェニル化合物と二価フェノール化合物との反応を容易に停止させることができる。
【0019】
また本発明によれば、塩基として炭酸カリウムを用いることによって、ジハロゲノジフェニル化合物と二価フェノール化合物とを反応させて、芳香族ポリエーテルを得ることができる。
【0020】
また本発明によれば、芳香族ポリエーテルは、本発明の芳香族ポリエーテルの製造方法によって製造されるので、目標の分子量を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実験例1〜3における、重縮合反応の最高温度に到達してから1時間毎にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度を示すグラフである。
【図2】硫酸水素ナトリウムの添加量と、重縮合反応の最高温度に到達してから4時間後にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の芳香族ポリエーテルの製造方法では、二価フェノール化合物とジハロゲノジフェニル化合物とを、塩基および反応溶媒の存在下に反応(重縮合反応)させ、芳香族ポリエーテルを得る。
【0023】
二価フェノール化合物とは、フェノール性水酸基を2つ有するフェノール化合物であり、たとえば、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシンおよび下記式(1)で表される二価フェノール化合物が挙げられる。ジハロゲノジフェニル化合物としては、たとえば、下記式(2)で表されるジハロゲノジフェニル化合物が挙げられる。
【0024】
【化7】

(式中、Yは単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、式−CH(T1)−{式中、T1はフェニル基を示す。}で示される2価基、式−C(T2)(T3)−{式中、T2は炭素数1〜5のアルキル基を表し、T3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数4〜7のシクロアルキル基を示す。}で示される2価基、−O−、−CO−、−SO−、−S−または下記式(i)で表される2価基を表す。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)
【化8】

(式中、aは2〜5の整数を表す。)
【化9】

(式中、Zは−SO−または−CO−を表し、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。XおよびX’は、それぞれ独立にハロゲン原子を表す。)
【0025】
前記式(1)におけるYで表されるアルキレン基としては、たとえば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。また、式−C(T2)(T3)−で示される2価基におけるT2およびT3で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−アミル基等が挙げられる。上記のT3で表される炭素数4〜7のシクロアルキル基としては、たとえば、シクロペンチル基やシクロへキシル基等が挙げられる。
【0026】
上記式(1),(2)において、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。このアルキル基およびアルコキシ基は直鎖状でも分岐状でもよい。炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等を挙げることができる。炭素数1〜4のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−ブトキシ基、t−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0027】
上記式(1)で表される二価フェノール化合物としては、4,4'−ビフェノールの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類、4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのジヒドロキシジフェニルスルホン類、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどのジヒドロキシジフェニルエーテル類、4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルフィドなどのジヒドロキシジフェニルスルフィド類、4,4'−ジヒドロキシベンゾフェノンなどのジヒドロキシベンゾフェノン類等が挙げられ、これらのベンゼン環の水素原子の少なくとも一つが、メチル基、エチル基、プロピル基などの低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基などの低級アルコキシ基で置換されたものが挙げられる。芳香族ポリエーテルの製造に際しては、それらの2種以上の混合物を用いてもよい。中でもハイドロキノン、4,4'−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、または4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホンが好ましく用いられる。
【0028】
上記式(2)で表されるように、ジハロゲノジフェニル化合物とはハロゲノフェニル基を2つ有する化合物であり、スルホン基を有するジハロゲノジフェニル化合物、たとえば4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、4,4'−ジフルオロジフェニルスルホンなどのジハロゲノジフェニルスルホン類、1,4−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−フルオロフェニルスルホニル)ベンゼンなどのビス(ハロゲノフェニルスルホニル)ベンゼン類、および4,4'−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ビフェニル、4,4'−ビス(4−フルオロフェニルスルホニル)ビフェニルなどのビス(ハロゲノフェニルスルホニル)ビフェニル類や、ハロゲノフェニル基を2つ有するケトン化合物、たとえば4,4'−ジクロロジフェニルケトン、4,4'−ジフルオロジフェニルケトンなどのジハロゲノジフェニルケトン類、1,4−ビス(4−クロロフェニルカルボニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−フルオロフェニルカルボニル)ベンゼンなどのビス(ハロゲノフェニルカルボニル)ベンゼン類、および4,4'−ビス(4−クロロフェニルカルボニル)ビフェニル、4,4'−ビス(4−フルオロフェニルカルボニル)ビフェニルなどのビス(ハロゲノフェニルカルボニル)ビフェニル類が挙げられ、芳香族ポリエーテルの製造に際しては、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。中でも4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、4,4'−ジフルオロジフェニルスルホンなどのジハロゲノジフェニルスルホン類が好ましく用いられる。
【0029】
以下では、本実施形態の芳香族ポリエーテルの製造方法について、上記式(1)で表される二価フェノール化合物としてジヒドロキシジフェニルスルホンを用い、上記式(2)で表されるジハロゲノジフェニル化合物としてジクロロジフェニルスルホンを用いて、芳香族ポリエーテルとして芳香族ポリエーテルスルホンを製造することを例として説明する。
【0030】
芳香族ポリエーテルとして芳香族ポリエーテルスルホンを製造する方法では、下記式(3)で表されるジヒドロキシジフェニルスルホンと、下記式(4)で表されるジクロロジフェニルスルホンとを、塩基および反応溶媒の存在下に反応(重縮合反応)させ、下記式(5)で表される構造単位を有する芳香族ポリエーテルスルホンを得る。
【0031】
【化10】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
【化11】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
【化12】

(式中、R〜R16は、前記と同じ意味を示す。)
【0032】
なお、芳香族ポリエーテルスルホンの反応スキームは、下記式(6)のとおりである。
【化13】

【0033】
芳香族ポリエーテル(本実施形態では、上記式(5)で表される構造単位を有する芳香族ポリエーテルスルホン)の製造において用いることができる反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒、N−メチル−2−ピペリドン等のピペリドン系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の2−イミダゾリノン系溶媒、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン等のジフェニル化合物、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒、スルホラン等のスルホラン系溶媒、およびこれらの二種以上の混合物等が挙げられる。中でもジフェニルスルホン等のジフェニル化合物が好ましく用いられる。
【0034】
塩基は、ジハロゲノジフェニル化合物(本実施形態では、上記式(4)で表されるジクロロジフェニルスルホン)のハロゲン原子(塩素原子)と二価フェノール化合物(本実施形態では、上記式(3)で表されるジヒドロキシジフェニルスルホン)のフェノール性水酸基とから脱ハロゲン化水素させるものであり、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。中でもアルカリ金属炭酸塩である炭酸カリウムが好ましく用いられる。
【0035】
ジハロゲノジフェニル化合物は、二価フェノール化合物の1当量に対して通常、0.9〜1.1当量、好ましくは0.98〜1.05当量の範囲で使用する。理論上、二価フェノール化合物の1当量に対するジハロゲノジフェニル化合物の使用量が1当量に近づくほど、高分子量の芳香族ポリエーテルが得られるので、目標とする分子量となるように、当該使用量を設定する。
【0036】
塩基は、二価フェノール化合物のフェノール性水酸基の1当量に対して約1当量以上、好ましくは1.005〜1.25当量の範囲で使用する。
【0037】
反応溶媒は、二価フェノール化合物とジハロゲノジフェニル化合物の合計1重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜3重量部を使用する。
【0038】
重縮合の反応温度は、140〜340℃で実施するのが好ましい。340℃より高い温度で重縮合させると、生成物ポリマーの分解反応が進むため、高純度の芳香族ポリエーテルが得られなくなる傾向にあり、140℃より低い温度で重縮合させると、高分子量の芳香族ポリエーテルが得られない傾向にある。
【0039】
このような重縮合反応を行った反応液中には、重縮合反応により脱離したハロゲン化水素と塩基との反応生成物である副生塩と、反応溶媒と、芳香族ポリエーテルとが含まれる。副生塩とは、たとえば、重縮合反応により塩化水素が脱離し、塩基として炭酸カリウムを用いた場合には塩化カリウムである。
【0040】
反応液中から芳香族ポリエーテルを分離するには、まず、反応液中の、副生塩と反応溶媒と芳香族ポリエーテルとを含む混合物を固化させる。その後、固化した混合物を微粉砕し、微粉砕した混合物を水洗する。次に、混合物から、反応溶媒より沸点が低く、反応溶媒を溶解するが芳香族ポリエーテルを溶解しない精製溶媒を用いて反応溶媒を抽出して反応溶媒を除去し、芳香族ポリエーテルを分離する。
【0041】
このような精製溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0042】
精製溶媒で反応溶媒を抽出して得られる抽出溶液を蒸留し、低沸点の精製溶媒および水を留出除去し、反応溶媒を分離する。分離した精製溶媒および反応溶媒は、通常、それぞれ再使用する。
【0043】
本発明の芳香族ポリエーテルの製造方法では、重縮合反応において、芳香族ポリエーテルの還元粘度が所定の値に到達した時点で反応液中に酸を添加する。
【0044】
芳香族ポリエーテルにおいて、還元粘度と分子量とは相関関係があり、還元粘度の値が大きいほど、高分子量であることを示す。
【0045】
ここで、芳香族ポリエーテルの還元粘度は、以下のようにして測定する。
芳香族ポリエーテルをN,N−ジメチルホルムアミド(試薬特級)溶媒に溶解させて、重合体溶液を得る。芳香族ポリエーテルの還元粘度の測定は、オストワルド型粘度管を使用して、25℃で行う。重合体溶液の濃度は、N,N−ジメチルホルムアミド(試薬特級)溶媒中1.0g/100mlとする。
【0046】
還元粘度(RV)は、下記式(I)により定義される。
RV=[1/C]×[(t−t)/t] …(I)
(式中、tは重合体溶液の流出時間(秒)、tは純溶媒の流出時間(秒)、Cは重合体の溶液の濃度(g/100ml−溶媒)を表す。)
【0047】
芳香族ポリエーテルの還元粘度が所定の値に到達した時点で反応液中に酸を添加することによって、反応液を中和することができるので、芳香族ポリエーテルの還元粘度の上昇、すなわち、芳香族ポリエーテルの分子量の上昇を抑制することができる。そのため、芳香族ポリエーテルの分子量が目標の分子量であるときに、ジハロゲノジフェニル化合物と、二価フェノール化合物との反応を停止させることが容易になる。したがって、目標とする分子量の芳香族ポリエーテルをより確実に製造することができる。
【0048】
次に、酸の種類による還元粘度上昇抑制効果の影響、酸の添加量の違いによる還元粘度上昇抑制効果の影響、および酸添加のタイミングによる還元粘度上昇停止効果の影響について、実験例を示しながら説明する。
【0049】
<酸の種類による還元粘度上昇抑制効果の影響>
反応液中に添加する酸としては、高温(重縮合反応の最高温度)で分解せず、昇華しない無機酸および有機酸を用いることができる。これらの中で、硫酸水素ナトリウムと、テレフタル酸(TPA)とを用いて、酸の種類による芳香族ポリエーテルスルホンの還元粘度上昇抑制効果の影響を確認する実験を行った。
【0050】
(実験例1)
撹拌機、窒素導入管、温度計、および先端に受器を付したコンデンサーを備えた反応容器中に、ジクロロジフェニルスルホンとして4,4'−ジクロロジフェニルスルホンを118.08重量部、ジヒドロキシジフェニルスルホンとして4,4'−ジヒドロキシジフェニルスルホンを100.11重量部、および反応溶媒としてジフェニルスルホンを192.78重量部仕込んだ。
【0051】
反応容器内を窒素雰囲気に置換した後、さらに窒素を反応容器内に流通させながら、180℃まで昇温して溶解させた。次いで、塩基として炭酸カリウムを57.77重量部添加した。その後、290℃まで徐々に昇温し、290℃に到達した時点で、酸として硫酸水素ナトリウムを1.36重量部添加し、同温度で4時間反応させた。酸を添加してから(290℃に到達してから)1時間毎に、反応液をサンプリングした。
【0052】
サンプリングした反応液を室温まで冷却して固化させ、粉末状に細かく粉砕した。得られた芳香族ポリエーテルスルホン、および反応溶媒を含む粉末状反応混合物を温水で洗浄した。次に、粉末状反応混合物をアセトン/メタノール混合液で抽出した。アセトン/メタノール混合液による抽出後の前記粉末状反応混合物を150℃に加熱して乾燥して芳香族ポリエーテルを得た。
【0053】
(実験例2)
酸として、硫酸水素ナトリウムの代わりに、TPAを0.94重量部用いたこと以外は実験例1と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。
【0054】
ここで、下記表1に示す反応液中の残存塩基の濃度は、以下のようにして求められる。
1時間毎にサンプリングし、反応液を室温まで冷却して固化させ、粉末状に細かく粉砕した反応液2.5gに、水50mlを添加する。この液を、塩酸を用いて自動滴定し、液中の炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムの含有量を測定する。求めた炭酸水素カリウムの含有量を炭酸カリウムの含有量に換算することで、炭酸カリウムとしての残存塩基の濃度を求める。
【0055】
(実験例3)
酸を添加しなかったこと以外は実験例1と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。
【0056】
表1に、実験例1〜3における、重縮合反応の最高温度に到達してから1時間毎にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度、および重縮合反応の最高温度に到達してから4時間後にサンプリングした反応液に残存する塩基の量を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
また、図1は、実験例1〜3における、重縮合反応の最高温度に到達してから1時間毎にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度を示すグラフである。横軸は、重縮合反応の最高温度に到達してからの経過時間を示し、縦軸は、それぞれの経過時間にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度を示す。線Aは実験例1に対応し、線Bは実験例2に対応し、線Cは実験例3に対応する。
【0059】
表1および図1から、酸として硫酸水素ナトリウムを添加した実験例1、および酸としてTPAを添加した実験例2は、酸を添加しない実験例3よりも芳香族ポリエーテルの還元粘度が低く、還元粘度の上昇を抑制できていることがわかる。
【0060】
<酸の添加量の違いによる還元粘度上昇抑制効果の影響>
上記の実験において、還元粘度上昇抑制効果の発現を確認した硫酸水素ナトリウムを用いて、酸の添加量の違いによる還元粘度上昇抑制効果の影響を確認する実験を行った。
【0061】
(実験例4)
硫酸水素ナトリウムの添加量を1.36重量部から0.68重量部に変更したこと以外は実験例1と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。
【0062】
(実験例5)
硫酸水素ナトリウムの添加量を1.36重量部から2.72重量部に変更したこと以外は実験例1と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。
【0063】
図2は、硫酸水素ナトリウムの添加量と、重縮合反応の最高温度に到達してから4時間後にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度との関係を示すグラフである。横軸は、硫酸水素ナトリウムの添加量(重量部)を示し、縦軸は、重縮合反応の最高温度に到達してから4時間後の反応液の還元粘度を示す。なお、図2において、硫酸水素ナトリウムの添加量が「0重量部」であるプロットは、実験例3に対応し、硫酸水素ナトリウムの添加量が「0.68重量部」であるプロットは、実験例4に対応し、硫酸水素ナトリウムの添加量が「1.36重量部」であるプロットは、実験例1に対応し、硫酸水素ナトリウムの添加量が「2.72重量部」であるプロットは、実験例5に対応する。
【0064】
図2から、実験例1は、酸を添加しない実験例3、および酸の添加量が半分である実験例4よりも、還元粘度の上昇を抑制する効果が大きいことがわかる。酸の添加量が2倍である実験例5は、さらに還元粘度の上昇を抑制できることがわかる。したがって、反応液中に添加する酸の量は、重縮合反応の最高温度(290℃)に到達してから4時間後の反応液中に残存する塩基の量に相当する量以上が好ましいことがわかる。
【0065】
<酸添加のタイミングによる還元粘度上昇停止効果の影響>
(実験例6)
反応容器内の温度が290℃に到達した時点で酸を添加せず、反応容器内の温度が290℃に到達してから4時間後に、酸として硫酸水素ナトリウムを1.36重量部添加し、同温度でさらに3時間反応させたこと以外は実験例1と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。なお、実験例6では、反応容器内の温度が290℃に到達した時点から7時間後までの反応液のサンプリングを行った。なお、実験例6において、酸の添加量は、重縮合反応の最高温度(290℃)に到達してから4時間後の反応液中に残存する塩基の量に相当する量である。
【0066】
(実験例7)
酸添加量を、1.36重量部から0.68重量部に変更したこと以外は実験例6と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。なお、実験例7において、酸の添加量は、重縮合反応の最高温度に到達してから4時間後の反応液中に残存する塩基の量に相当する量の1/2の量である。
【0067】
(実験例8)
酸添加量を、1.36重量部から2.72重量部に変更したこと以外は実験例6と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。なお、実験例8において、酸の添加量は、重縮合反応の最高温度に到達してから4時間後の反応液中に残存する塩基の量に相当する量の2倍の量である。
【0068】
(実験例9)
酸添加量を、1.36重量部から4.52重量部に変更したこと以外は実験例6と同様にして、芳香族ポリエーテルを得た。
【0069】
なお、実験例9における酸の添加量は、重縮合反応の最高温度(290℃)に到達してから4時間後の反応液中に残存する塩基の量に相当する量よりも大幅に過剰な量である。
【0070】
表2に、実験例1における、重縮合反応の最高温度に到達してから1時間後(酸を添加してから1時間後)にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度と、重縮合反応の最高温度に到達してから2,3,4時間後にサンプリングした反応液(酸を添加してから2,3,4時間後にサンプリングした反応液)に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度との差の絶対値を示す。
【0071】
また、表3に、実験例3,6〜9における、重縮合反応の最高温度に到達してから4時間後(酸を添加した時点)にサンプリングした反応液に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度と、重縮合反応の最高温度に到達してから5,6,7時間後にそれぞれサンプリングした反応液(酸を添加してから1時間毎にそれぞれサンプリングした反応液)に含まれる芳香族ポリエーテルの還元粘度との差の絶対値を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
表2,3の結果から、実験例6〜9では、重縮合反応の最高温度(290℃)に到達してから4時間後に酸の添加を行うことで、芳香族ポリエーテルの還元粘度の上昇、すなわち、芳香族ポリエーテルの分子量の上昇を停止させる効果が高いことがわかる。したがって、重縮合反応の最高温度(290℃)に到達してから所定時間経過後(たとえば4時間後)に酸添加を行うことで、目標の分子量を有する芳香族ポリエーテルをより確実に得ることができることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノール化合物と、ジハロゲノジフェニル化合物とを、塩基および反応溶媒の存在下に反応させ、N,N−ジメチルホルムアミド溶媒中における25℃での芳香族ポリエーテルの還元粘度が所定の値に到達した時点で、反応液中に酸を添加することで、芳香族ポリエーテルを得ることを特徴とする芳香族ポリエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記二価フェノール化合物が下記式(1);
【化14】

(式中、Yは単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、式−CH(T1)−{式中、T1はフェニル基を示す。}で示される2価基、式−C(T2)(T3)−{式中、T2は炭素数1〜5のアルキル基を示し、T3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数4〜7のシクロアルキル基を示す。}で示される2価基、−O−、−CO−、−SO−、−S−または
下記式(i);
【化15】

{式中、aは2〜5の整数を示す。}
で示される2価基を示す。R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
で表される二価フェノール化合物であり、
前記ジハロゲノジフェニル化合物が下記式(2);
【化16】

(式中、Zは−SO−または−CO−を表し、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。XおよびX’は、それぞれ独立にハロゲン原子を示す。)
で表されるジハロゲノジフェニル化合物であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
【請求項3】
前記式(1)で表される二価フェノール化合物が下記式(3);
【化17】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
で表されるジヒドロキシジフェニルスルホンであり、
前記式(2)で表されるジハロゲノジフェニル化合物が下記式(4);
【化18】

(式中、R〜R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。)
で表されるジクロロジフェニルスルホンであり、前記ジヒドロキシジフェニルスルホンと前記ジクロロジフェニルスルホンとを、塩基および反応溶媒の存在下に反応させて、
芳香族ポリエーテルとして下記式(5);
【化19】

(式中、R〜R16は、前記と同じ意味を示す。)
で表される構造単位を有する芳香族ポリエーテルスルホンを得ることを特徴とする請求項2に記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記二価フェノール化合物が4,4' −ジヒドロキシジフェニルスルホンであり、
前記ジハロゲノジフェニル化合物が4,4' −ジクロロジフェニルスルホンであることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記酸が、硫酸水素ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
【請求項6】
前記塩基が、炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の芳香族ポリエーテルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の芳香族ポリエーテルの製造方法によって製造されることを特徴とする芳香族ポリエーテル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−1716(P2013−1716A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130711(P2011−130711)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】