説明

芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法

【課題】医農薬の中間体としてあるいは機能性高分子の製造原料として有用な芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを製造する方法に係り、特に芳香族ポリイミドや芳香族ポリエステル等の機能性高分子を製造する上で不可欠な高純度の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを高収率で簡便かつ安価に製造する方法を提供。
【解決手段】ポリアルキル芳香族炭化水素の酸化反応で得られた芳香族ポリカルボン酸を、水、有機溶剤、またはこれらの混合物で洗浄することにより得られる、ナトリウム含有量が150ppm以下である芳香族ポリカルボン酸を、鉄若しくは亜鉛の塩化物または酸化物からなる酸クロライド化触媒を使用して、(トリクロロメチル)ベンゼン化合物と反応させ、生成物を蒸留精製することにより、芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医農薬の中間体としてあるいは機能性高分子の製造原料として有用な芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを製造する方法に係り、特に芳香族ポリイミドや芳香族ポリエステル等の機能性高分子を製造する上で不可欠な高純度の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法としては、原料となる芳香族ポリカルボン酸を、塩素化剤により塩素化反応させて芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを製造する方法がある。塩素化剤としては、塩化チオニル、五酸化リン、三塩化リン、塩化オキサリル、塩化スルフリルまたは塩化ホスホリルなどが挙げられる。
【0003】
芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法として、芳香族ポリカルボン酸と(トリクロロメチル)ベンゼン類とを反応させ、ポリカルボン酸ポリクロライドを製造する方法がある(特許文献1)。ただし、使用原料である芳香族ポリカルボン酸のロットによっては、反応が十分に進行せず、ポリカルボン酸ポリクロライドの収率が不十分であることがあった。
【0004】
また、芳香族ポリカルボン酸中の不純物金属除去方法としては、特許文献2で記載されるような、超臨界水で洗浄するような極めて困難な方法であったり、特許文献3で記載されるような、粗ナフタレンジカルボン酸をアミン水溶液に溶解させ、金属分を不溶物として析出させた後、細孔径10μm以下のフィルターを用いてろ過を行うといった煩雑な方法であったりするなど、労力・コスト・作業時間などの点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−46664号公報
【特許文献2】特開平7−173100号公報
【特許文献3】特開平9−208518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、医農薬の中間体としてあるいは機能性高分子の製造原料として有用な芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを製造する方法に係り、特に芳香族ポリイミドや芳香族ポリエステル等の機能性高分子を製造する上で不可欠な高純度の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを高収率で簡便かつ安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、酸クロライド化を阻害しているのがナトリウムであることを見出し、従来の超臨界水を使用するような特殊な方法だったり、金属塩にして洗浄後、酸で再生させるといった煩雑な方法ではなく、単に溶剤で洗浄することにより、ナトリウム含有量を150ppm以下にした芳香族ポリカルボン酸を、鉄若しくは亜鉛の塩化物または酸化物を酸クロライド化触媒として、(トリクロロメチル)ベンゼン化合物と反応させることによって、酸クロライド化が阻害されずに芳香族ポリカルボン酸転化率が99%に到達することを見出し、本発明に至った。
すなわち、以下(1)〜(9)よりなる。
(1)ポリアルキル芳香族炭化水素の酸化反応により得られた、ナトリウム含有量が150ppm以下である芳香族ポリカルボン酸を、鉄若しくは亜鉛の塩化物または酸化物からなる酸クロライド化触媒を使用して、(トリクロロメチル)ベンゼン化合物と反応させ、生成物を蒸留精製することを特徴とする芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(2)ナトリウム含有量が150ppm以下である芳香族ポリカルボン酸が、ポリアルキル芳香族炭化水素の酸化反応で得られた芳香族ポリカルボン酸を、水、有機溶剤、またはこれらの混合物で洗浄することにより得られる、(1)記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(3)芳香族ポリカルボン酸がオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,3,5−ベンゼンテトラカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのカルボン酸に炭素数1〜4のアルキル基が置換した誘導体から選ばれる1種以上である、(1)または(2)に記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(4)水、有機溶剤、またはこれらの混合物での洗浄が、溶剤中での攪拌洗浄、溶剤による通液洗浄、またはこれらの組み合わせによる洗浄である、(2)または(3)のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(5)前記酸クロライド化触媒が塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、および酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(4)のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(6)前記酸クロライド化触媒が酸化亜鉛である(5)記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(7)(トリクロロメチル)ベンゼン化合物が(トリクロロメチル)ベンゼン、p-クロロ(トリクロロメチル)ベンゼン、および3,4−ジクロロ(トリクロロメチル)ベンゼンから選ばれる1種以上である(1)〜(6)のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(8)(トリクロロメチル)ベンゼン化合物が(トリクロロメチル)ベンゼンである(1)〜(7)のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
(9)ナトリウム含有量が150ppm以下である芳香族ポリカルボン酸が、ポリアルキル芳香族炭化水素の酸化反応で得られた芳香族ポリカルボン酸を、水で洗浄することにより得られる、(1)〜(8)のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、医農薬の中間体または機能性高分子の製造原料、中でも特に芳香族ポリイミドや芳香族ポリエステル等の機能性高分子を製造する上で不可欠な高純度の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを高収率、簡便かつ安価に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、溶剤を用いて洗浄することでナトリウム含有量を150ppm以下にした芳香族ポリカルボン酸を、鉄若しくは亜鉛の塩化物または酸化物を酸クロライド化触媒として、トリクロロメチルベンゼン化合物と反応させ、生成物を蒸留・精製することにより得られる、高純度の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法に関する。
【0010】
芳香族ポリカルボン酸としては、芳香環上に2個以上のカルボン酸が置換基として存在していれば良く、芳香環としてはベンゼン環、ナフタレン環、および3環以上の多環芳香族炭化水素などが例示できる。具体的には、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,3,5−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、およびこれらのカルボン酸に炭素数1〜4のアルキル基が置換した誘導体から選ばれる1種以上が挙げられる。
なお、好ましくは、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、トリメシン酸および1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸から選ばれる一種である。より好ましくは、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸およびトリメシン酸から選ばれる一種である。特に好ましくはトリメシン酸である。
【0011】
芳香族ポリカルボン酸の製造方法としては、キシレン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ジメチルナフタレンおよびこれらに炭素数1〜4のアルキル基が置換した誘導体等のポリアルキル芳香族炭化水素を、酢酸溶媒中でコバルトやマンガン等の重金属と臭素化合物の存在下に、分子状酸素により高温・高圧で酸化する方法が挙げられる。
この酸化反応により得られる芳香族ジカルボン酸には、酸化反応の中間生成物であるモノカルボン酸類やアルデヒド類、触媒由来の臭素付加物、構造不明の着色成分及び酸化触媒由来のコバルトやマンガン等の金属成分が不純物として含まれている。
また、芳香族ポリカルボン酸中に数百〜数千ppm単位でナトリウムが混入する場合がある。これは、製造品種切替時または配管閉塞等のトラブル発生時に、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄が必須となることに由来する。なお、プラントでの製造において、この水酸化ナトリウム水溶液洗浄は定期的な頻度で発生することが避けられない。本願の方法は高ナトリウム含有芳香族ポリカルボン酸に対して用いるのが好ましい。
【0012】
上記芳香族ポリカルボン酸中のナトリウムを除去する方法としては、溶剤洗浄が良く、溶剤との効果的な接触を伴う洗浄方法であればその方法は特に限定されないが、たとえば、溶剤の通液により洗浄する方法、溶剤中での攪拌による洗浄方法などが挙げられる。
【0013】
溶剤としては水または有機溶剤といった液体であればいずれでも良く、複数の溶剤を選択した場合は、これらを組み合わせて使用しても良い。有機溶剤としてはメタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;ジオキサン、ジブチルエーテルなどのエーテル;トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘプタン、ヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;エチルプロピオネート等のカルボン酸エステル;酢酸等のカルボン酸等が挙げられる。好ましくは水、メタノール、トルエン、キシレン、酢酸が挙げられる。特に好ましくは水である。
リンスの際に用いられるリンス液としては、上記で溶剤としてあげられたものが例示される。
【0014】
本発明においては、上記芳香族ポリカルボン酸中の洗浄溶剤中にナトリウムや金属酸化触媒を効果的に除去する添加剤を加えるとより好ましい。添加剤としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸または臭化水素酸などの無機酸;p−トルエンスルホン酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸またはコハク酸といった有機酸;ゼオライト、珪藻土または活性炭などが挙げられ、これらを組み合わせても良い。添加剤の使用量は、洗浄溶剤中の1%以下の質量が好適である。1%以下の質量であれば芳香族ポリカルボン酸中に残存する添加剤が多くなく好ましい。
【0015】
上記、洗浄溶剤の温度は0〜150℃であるが、好ましくは5〜120℃、より好ましくは10〜95℃、さらに好ましくは10〜50℃である。0℃以上であれば、特別な冷却が必要でなく、また溶剤凝固などの不具合も少なく好ましい。また、150℃以下であれば、系内が過度の加圧にならず、過度の加熱も不要であり好ましい。
反応時間は8時間以内が好ましく、より好ましくは5時間、さらに好ましくは3時間である。8時間以内であれば作業工程時間が長くなく、好ましい。
【0016】
洗浄溶剤およびリンス液の量は、原料の芳香族ポリカルボン酸質量に対して1〜5倍質量が良く、好ましくは1〜3倍、さらに好ましくは2〜3倍である。1倍以上であれば十分な撹拌を行えるため好ましく、5倍以下であれば、1回の原料芳香族ポリカルボン酸使用量が多くなり、効率的である。
洗浄回数およびリンス回数は特に規定しないが、洗浄回数とリンス回数の合計は1〜5回が好ましい。5回以内であれば洗浄工程にかける時間も多くなく好ましい。
【0017】
ろ過方法については特に限定されないが、通常のろ布・ろ紙等によるろ過が好ましい。乾燥方法は特に限定されないが、加熱乾燥・減圧乾燥等が挙げられる。
【0018】
洗浄後の芳香族ポリカルボン酸中のナトリウム含有量は150ppm以下が好ましく、より好ましくは120ppm以下であり、さらに好ましくは80ppm以下である。150ppmを超えると、ナトリウムの影響により酸クロライド化反応の進行が遅くなるため、(1)反応温度を上げる(2)酸クロライド化触媒を増加する(3)反応時間を延長するなどの対策が必要になるため、好ましくない。
【0019】
酸クロライド化触媒としては、鉄若しくは亜鉛の塩化物または酸化物が挙げられる。鉄若しくは亜鉛の塩化物または酸化物としては、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、または酸化亜鉛が挙げられ、なかでも酸化亜鉛、塩化亜鉛が好ましい。なお、これらの2種以上を混合して使用しても良い。
【0020】
酸クロライド化触媒の使用量は使用する反応原料の芳香族ポリカルボン酸種類、酸クロライド化触媒の種類、反応温度に依存するが、原料芳香族ポリカルボン酸100質量部に対して0.001〜0.3質量部、好ましくは0.01〜0.2質量部、さらに好ましくは0.01〜0.1質量部である。酸クロライド化触媒使用量が0.001質量部以上であれば反応が円滑に進行し、また0.3質量部以下であれば縮合反応が進行せず、タール状の残渣が多量に生成することもない。
【0021】
(トリクロロメチル)ベンゼン化合物としては(トリクロロメチル)ベンゼン、p-クロロ(トリクロロメチル)ベンゼン、および3,4−ジクロロ(トリクロロメチル)ベンゼンが挙げられる。芳香族ポリカルボン酸と(トリクロロ)メチルベンゼン化合物の配合量は、芳香族ポリカルボン酸中のカルボン酸モル数/(トリクロロ)メチルベンゼン化合物のトリクロロメチルモル数=1/1〜1/1.5が好ましく、好ましくは1/1〜1/1.2、さらに好ましくは1/1〜1/1.1である。この範囲内であれば、未反応物質が多くならず、また、縮合反応の進行による副生成物が多く生成することもなくなる。
【0022】
酸クロライド化反応温度は100〜150℃が好ましく、より好ましくは120〜140℃である。100℃以上では酸クロライド化反応が進み、反応時間が長くなることもなく好ましい。150℃以下であれば、GL釜での加熱に耐え好ましい。芳香族ポリカルボン酸と(トリクロロメチル)ベンゼン化合物を仕込み、撹拌しながら触媒を添加して、反応を開始する。
【0023】
酸クロライド化反応では、原料の(トリクロロメチル)ベンゼン残存率1%以下到達後にさらに反応させて、生成物の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの純度を上げる。
反応終了時には、未反応の(トリクロロメチル)ベンゼン化合物を消費させるために、過剰の(トリクロロメチル)ベンゼン化合物のトリクロロメチルモル数と同じモル数のカルボン酸化合物を加えても良い。カルボン酸化合物としては脂肪酸でも良いし、芳香族カルボン酸でも良い。脂肪酸であれば、炭素数1〜8のモノカルボン酸が挙げられ、例えば酢酸、プロピオン酸、2-エチルヘキサン酸が例示できる。また芳香族カルボン酸としては安息香酸が挙げられる。
【0024】
蒸留精製は通常の方法に従えばよい。缶内圧力は0.3〜3kPa・absの範囲、缶内温度は200〜250℃の範囲で行う。0.3kPa・abs以上であれば特殊な真空ポンプを必要とせず、3kPa・abs以下であれば、缶内温度を高くする必要がなく、蒸留速度が小さくなることもない。
高純度化のためには充填材の詰められた精留塔を使用することが好ましい。また、その充填材の材質は酸クロライドに対する耐性が強いガラス、フッ化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンなどが好ましく、特にガラス、フッ化ポリエチレンが好ましい。
【0025】
蒸留精製に際しては、酸クロライド化触媒を失活させて副反応を抑制するために、トリフェニルホスフィン類やヘキサミンを添加することもできる。これらの添加量は酸クロライド化触媒1モルに対して0.8〜2モル、より好ましくは0.9〜1.5モル、さらに好ましくは0.9〜1.2モルである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0027】
<ナトリウム含有量測定>
装置:株式会社リガク製蛍光X線分析装置ZSX100
【0028】
<(トリクロロメチル)ベンゼン残存率および芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの収率・純度についての測定>
ガスクロマトグラフィーにより行った。
装置:HWELETT PACKARD社製HP6890series
カラム:DB−1 30m×0.53mm×1.5μm
試料導入部・検出器温度:250℃
カラム温度:120℃→8℃/分昇温→220℃
キャリアー:ヘリウム
【0029】
<実施例1>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた5Lフラスコに、ナトリウム含有量774ppmの粗トリメシン酸650g、水1950gを入れ、室温で3時間攪拌し、ろ過を行い、水1950gで1回リンス洗浄した後、乾燥することで精製トリメシン酸640gを得た。この精製トリメシン酸中のナトリウム含有量は78ppmだった。 結果を表1に示す。
【0030】
<実施例2>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた5Lフラスコに、ナトリウム含有量774ppmの粗トリメシン酸650g、水1950g、添加剤として臭化水素酸9.8gを入れ、室温で1時間攪拌し、ろ過を行い、水1950gで3回リンス洗浄した後、乾燥することで精製トリメシン酸638gを得た。この精製トリメシン酸中のナトリウム含有量は8ppmだった。結果を表1に示す。
【0031】
<実施例3>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた5Lフラスコに、ナトリウム含有量774ppmの粗トリメシン酸650g、水1950gを入れ、95℃で1時間攪拌し、ろ過を行い、水1950gで1回リンス洗浄した後、乾燥することで精製トリメシン酸641gを得た。この精製トリメシン酸中のナトリウム含有量は26ppmだった。結果を表1に示す。
【0032】
<実施例4>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた5Lフラスコに、ナトリウム含有量774ppmの粗トリメシン酸650g、水1300gを入れ、室温で1時間攪拌し、ろ過を行い、水1300gで1回リンス洗浄した後、乾燥することで精製トリメシン酸641gを得た。この精製トリメシン酸中のナトリウム含有量は121ppmだった。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
<実施例5>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた2L四つ口フラスコに、実施例1で得られたナトリウム含有量78ppmのトリメシン酸600g(2.86mol)、(トリクロロメチル)ベンゼン1776g(9.09mol)および酸化亜鉛1.08g(0.012mol)を入れ、反応容器を140℃に加熱し、反応した。(トリクロロメチル)ベンゼンの残存率が1%以下になったのは5時間後だった。その後12時間反応させ、安息香酸62g(0.51mol)を入れ、さらに2時間反応し、2232gの粗トリメシン酸トリクロライドを得た。これにヘキサメチレンテトラミン1.68g(0.012mol)を加え減圧下(0.8kPa・abs)で蒸留し、738gのトリメシン酸トリクロライド(収率97.2%、純度99.4%)を得た。結果を表2に示す。
【0035】
<実施例6>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた2L四つ口フラスコに、実施例2で得られたナトリウム含有量8ppmのトリメシン酸600g(2.86mol)、(トリクロロメチル)ベンゼン1776g(9.09mol)および酸化亜鉛0.36g(0.004mol)を入れ、反応容器を140℃に加熱し、反応した。(トリクロロメチル)ベンゼンの残存率が1%以下になったのは4時間後だった。その後13時間反応させ、安息香酸62g(0.51mol)を入れ、さらに2時間反応し、2234gの粗トリメシン酸トリクロライドを得た。これにヘキサメチレンテトラミン0.56g(0.004mol)を加え減圧下(0.8kPa・abs)で蒸留し、740gのトリメシン酸トリクロライド(収率97.5%、純度99.7%)を得た。結果を表2に示す。
【0036】
<実施例7>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた2L四つ口フラスコに、実施例3で得られたナトリウム含有量26ppmのトリメシン酸600g(2.86mol)、(トリクロロメチル)ベンゼン1776g(9.09mol)および酸化亜鉛0.36g(0.004mol)を入れ、反応容器を140℃に加熱し、反応した。(トリクロロメチル)ベンゼンの残存率が1%以下になったのは4時間後だった。その後13時間反応させ、安息香酸62g(0.51mol)を入れ、さらに2時間反応し、2234gの粗トリメシン酸トリクロライドを得た。これにヘキサメチレンテトラミン0.56g(0.004mol)を加え減圧下(0.8kPa・abs)で蒸留し、740gのトリメシン酸トリクロライド(収率97.5%、純度99.5%)を得た。結果を表2に示す。
【0037】
<実施例8>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた2L四つ口フラスコに、実施例4で得られたナトリウム含有量121ppmのトリメシン酸600g(2.86mol)、(トリクロロメチル)ベンゼン1776g(9.09mol)および酸化亜鉛1.44g(0.016mol)を入れ、反応容器を140℃に加熱し、反応した。(トリクロロメチル)ベンゼンの残存率が1%以下になったのは15時間後だった。その後2時間反応させ、安息香酸62g(0.51mol)を入れ、さらに2時間反応し、2234gの粗トリメシン酸トリクロライドを得た。これにヘキサメチレンテトラミン2.24g(0.016mol)を加え減圧下(0.8kPa・abs)で蒸留し、732gのトリメシン酸トリクロライド(収率96.4%、純度99.0%)を得た。結果を表2に示す。
【0038】
<比較例1>
攪拌機、温度計および還流冷却器を取り付けた2L四つ口フラスコに、ナトリウム含有量774ppmの粗トリメシン酸600g(2.86mol)、(トリクロロメチル)ベンゼン1776g(9.09mol)および酸化亜鉛1.08g(0.012mol)を入れ、反応容器を140℃に加熱し、反応した。反応17時間後の(トリクロロメチル)ベンゼンの残存率は84%で、トリメシン酸トリクロライドは生成しなかった(収率0%)。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、医農薬の中間体としてあるいは機能性高分子の製造原料として有用な芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを製造する方法に係り、特に芳香族ポリイミドや芳香族ポリエステル等の機能性高分子を製造する上で不可欠な高純度の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドを簡便かつ安価に製造する方法として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキル芳香族炭化水素の酸化反応により得られた、ナトリウム含有量が150ppm以下である芳香族ポリカルボン酸を、鉄若しくは亜鉛の塩化物または酸化物からなる酸クロライド化触媒を使用して、(トリクロロメチル)ベンゼン化合物と反応させ、生成物を蒸留精製することを特徴とする芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項2】
ナトリウム含有量が150ppm以下である芳香族ポリカルボン酸が、ポリアルキル芳香族炭化水素の酸化反応で得られた芳香族ポリカルボン酸を、水、有機溶剤、またはこれらの混合物で洗浄することにより得られる、請求項1記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項3】
芳香族ポリカルボン酸がオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,3,5−ベンゼンテトラカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸およびこれらのカルボン酸に炭素数1〜4のアルキル基が置換した誘導体から選ばれる1種以上である、請求項1または2に記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項4】
水、有機溶剤、またはこれらの混合物での洗浄が、溶剤中での攪拌洗浄、溶剤による通液洗浄、またはこれらの組み合わせによる洗浄である、請求項2または3のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項5】
前記酸クロライド化触媒が塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、塩化亜鉛、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、および酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項6】
前記酸クロライド化触媒が酸化亜鉛である請求項5記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項7】
(トリクロロメチル)ベンゼン化合物が(トリクロロメチル)ベンゼン、p-クロロ(トリクロロメチル)ベンゼン、および3,4−ジクロロ(トリクロロメチル)ベンゼンから選ばれる1種以上である請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項8】
(トリクロロメチル)ベンゼン化合物が(トリクロロメチル)ベンゼンである請求項1〜7のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。
【請求項9】
ナトリウム含有量が150ppm以下である芳香族ポリカルボン酸が、ポリアルキル芳香族炭化水素の酸化反応で得られた芳香族ポリカルボン酸を、水で洗浄することにより得られる、請求項1〜8のいずれかに記載の芳香族ポリカルボン酸ポリクロライドの製造方法。


【公開番号】特開2013−53100(P2013−53100A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192631(P2011−192631)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】