説明

芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】同一の製造設備に於いて、製造設備を一旦停止させたり、且つ洗浄操作を入れたりすることなく、構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法を提供する。
【解決手段】 構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を同一の製造設備で製造する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法であって、
300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・s以下である芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造し、次いで、前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aの構造単位とは異なる構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂Bを製造する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。より詳しくは構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を、同一の製造系列を用いて、且つ途中に洗浄操作を入れることなく、切り替えて製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性、透明性等に優れ、各種機械部品、光学用ディスク、自動車部品等の用途に広く用いられている。
このような芳香族ポリカーボネートの製造方法としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と記す。)に代表されるジヒドロキシ化合物類のアルカリ水溶液と塩化カルボニルとを有機溶剤存在下、相界面にて反応させる方法(界面法)と、ジヒドロキシ化合物類とジフェニルカーボネートに代表される炭酸ジエステルとを、エステル交換反応触媒存在下、溶融状態にて重縮合反応させる方法(溶融法)が知られている。なかでも、エステル交換反応による溶融法は、界面法と比較して安価に芳香族ポリカーボネートを製造できたり、多くの種類のジヒドロキシ化合物を取り扱えたりすることができるという利点を有している。
【0003】
一般的に、芳香族ポリカーボネートは多くの用途に使用されるため、その用途により、複数の品種の芳香族ポリカーボネートが必要とされる。一方、前述した溶融法で芳香族ポリカーボネートを製造する場合は、通常、減圧下で複数の反応槽を直列に接続した製造装置でなされている。
前記複数の品種の芳香族ポリカーボネートを製造する場合、特許文献1では、複数の反応槽を接続した製造装置において、前段の反応槽においてビスフェノールAとジフェニルカーボネートとを単一系列で重縮合させ(前期重合工程)、引き続いて行う重縮合反応(後期重合工程)を複数系列とすることにより、複数の品種の芳香族ポリカーボネートを連続的に製造する方法が報告されている。また、特許文献2では、原調槽が単一系列で、複数の重合系列を有する反応装置を用いて、重合系列の最初の反応槽の前にジフェニルカーボネートを追加添加することにより、複数の品種の芳香族ポリカーボネートを連続的に製造する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−26916号公報
【特許文献2】国際公開第2008/12987号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1及び2においては、同一の構造単位の芳香族ポリカーボネート樹脂を種々の分子量領域にて作り分けることには有効であるが、構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するには不向きであり、複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するには、それぞれの構造単位別に製造設備を分けるか、製造設備を一旦停止し、洗浄操作を実施した後に、別の構造単位の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するといった方法しかこれまではなく、製造設備の建設コストが高くなったり、洗浄操作が必須であるといった問題があった。
かかる現状下、本発明の目的は、同一の製造設備に於いて、製造設備を一旦停止させたり、且つ洗浄操作を入れたりすることなく、更には、製造条件を変更した際に発生する規格外品(以下、切り替えロスと称する場合がある。)を減少させて、構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することを目的とする。さらに、本発明の別の目的は、色調に優れた構造の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記<1>から<6>に係る芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法に関するものである。
<1> 構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を同一の製造設備で製造する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法であって、
300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・s以下である芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造し、次いで、前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aの構造単位とは異なる構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂Bを製造する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
<2> 前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造する前に、前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aと同じ構造単位を有し、かつ300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・sを超える芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する前記<1>に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
<3> 前記構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一種が、下記一般式(1)で表される構造単位からなる前記<1>又は<2>に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化1】

(一般式(1)において、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
<4> 前記一般式(1)のXの置換若しくは無置換のアルキリデン基が、
【化2】

である前記<3>に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
(R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のポリメチレン基を示す。)
<5> 前記構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一種が、下記一般式(2)の構造単位を50重量%以上有する芳香族ポリカーボネート樹脂である<1>乃至<4>のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化3】

(一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
<6> 前記一般式(2)のXの置換若しくは無置換のアルキリデン基が、
【化4】

である前記<5>に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
(R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のポリメチレン基を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、同一の製造設備に於いて、製造設備を一旦停止させたり、且つ洗浄操作を行うことなく、構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を連続的に製造することができる。さらに、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、色調に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂製造設備の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
本発明は、構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を同一の製造設備で製造する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法であって、
300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・s以下である芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造し、次いで、前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aの構造単位とは異なる構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂Bを製造する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称す場合がある。)に関する。
【0011】
なお、本発明でいう「同一の製造設備」とは、原料調製から重合反応を経て、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造までが一貫して実施することが可能な設備を意味し、バッチ反応方式でも連続反応方式でもかまわない。また、配管等により連続的に接続されていれば複数の反応槽を有していてもよい。なお、重合反応途中で反応液が複数の系列へ分岐するような、一般的に重合工程が複数系列有していると解されるものであっても、前記複数系列の各系列は本発明の「同一の製造設備」である。
【0012】
また、本発明でいう「構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂」とは、その芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する、構造単位の一部又は全てが異なる芳香族ポリカーボネート樹脂をいう。ここでいう、構造単位の「一部」とは、芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する構造単位の一部が別の構造単位を有していることを示し、例えば後述の一般式(3)のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとから製造されるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂と、同一般式(3)のジヒドロキシ化合物および後述の一般式(4)のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとから製造される共重合芳香族ポリカーボネート樹脂とは、本発明でいう「構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂」に含まれる。また、ここでいう、構造単位の「全て」とは、構造単位が全く異なることを意味する。例えば、一般式(1)で示される構造単位のビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂と、一般式(2)に示される構造単位の芳香族ポリカーボネート樹脂とは、本発明でいう「構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂」に含まれる。
又、芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する構造単位が同一であっても、構造単位が複数であり、且つその構成比率が異なる場合も「構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂」である。例えば、一般式(1)で示される構造単位(30重量%)と一般式(2)に示される構造単位(70重量%)からなる芳香族ポリカーボネート樹脂と、一般式(1)で示される構造単位(50重量%)と一般式(2)に示される構造単位(50重量%)からなる芳香族ポリカーボネート樹脂とは本発明でいう「構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂」である。
一方、本発明でいう「同じ構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂」とは、その芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する、全ての構造単位が同じであり、且つ構造単位の構成比率が同一の芳香族ポリカーボネート樹脂をいう。
また、本発明でいう「製造切り替え」とは、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物、触媒、又は製造条件等の変更による構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂製造への切り換えをいう。
【0013】
本発明の製造方法において、構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂への製造切り替えに当たり、切り替え前の芳香族ポリカーボネート樹脂の300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・s以下であることに特徴がある。(以下、前記特定粘度の芳香族ポリカーボネートを芳香族ポリカーボネートAと称する場合がある。)
切り替え前の芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が上記範囲であることによって、次いで、前記芳香族ポリカーボネートAとは異なる構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、「芳香族ポリカーボネートB」と称する場合がある。)を製造した場合、前記芳香族ポリカーボネートAの前記芳香族ポリカーボネートBへの過度の混入を抑えることができ、前記芳香族ポリカーボネートBを安定的に製造できる。
その結果、製造設備を一旦停止させて、フェノール等の溶媒で洗浄操作を行なうことなく、複数種の芳香族ポリカーボネートを連続的に製造することが可能となる。
【0014】
より具体的には、本発明の製造方法において、300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・s以下である芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造し、次いで、前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aの構造単位とは異なる構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂Bを製造する。
また、上記において、芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造する前に、当該芳香族ポリカーボネート樹脂Aと同じ構造単位を有し、かつ300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・sを超える芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することが好ましい。
【0015】
本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂は、下記の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料として用い、エステル交換触媒の存在下、溶融重縮合反応を行うことにより製造することができる。
以下、本発明にかかる芳香族ポリカーボネート樹脂の一般的製造方法について先ず説明する。
【0016】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂の原料である芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0017】
【化5】

ここで、一般式(1)において、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。
【0018】
また、本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂の原料である芳香族ジヒドロキシ化合物の他の例としては、下記一般式(4)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0019】
【化6】

【0020】
ここで、一般式(4)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
1及びR2の、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
3及びR4の、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R1及びR2は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。R3及びR4は、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特に水素原子、メチル基が好ましい。
【0021】
一般式(3)または一般式(4)において、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。置換若しくは無置換の硫黄原子としては、例えば、−S−、−SO2−が挙げられる。また、置換若しくは無置換のアルキリデン基は、
【0022】
【化7】

【0023】
を示す。ここで、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のポリメチレン基を示す。
5及びR6の、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R5及びR6は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特に、メチル基が好ましい。
Zは、一般式(3)または一般式(4)において、2個のフェニル基を結合する炭素と結合して、置換若しくは無置換の二価の炭素環を形成する。二価の炭素環としては、例えば、シクロペンチリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基等のシクロアルキリデン基(好ましくは、炭素数5〜炭素数12)が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロドデシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体が好ましい。
【0024】
一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、5,5−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド等が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好適に使用される。尚、一般式(3)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
また、一般式(4)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、3,3’−ジメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロドデカン、1,4−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)プロパン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルホン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)スルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェノール等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、3,3’−ジメチルビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、5,5−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)ヘキサヒドロ−4,7−メタノインダン、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェノール等が好ましいものとして挙げられる。
【0028】
これらの中で、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロドデカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサンが更に好ましく、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロドデカンが最も好ましい。尚、一般式(4)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
(炭酸ジエステル)
本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂の原料である炭酸ジエステルとしては、下記一般式(5)で示される化合物が挙げられる。
【0030】
【化8】

【0031】
ここで、一般式(5)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜炭素数10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。
なお、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜炭素数10のアルキル基、炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が例示される。
【0032】
炭酸ジエステル化合物の具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
また、上記の炭酸ジエステル化合物は、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0034】
本発明の製造方法において、これらの炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)の使用量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステル化合物が1.01モル〜1.30モル、好ましくは1.02モル〜1.20モルの比で用いられる。前記炭酸ジエステルのモル比が過度に小さいと、エステル交換反応速度が低下し、所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の生産が困難となったり、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度が高くなり、熱安定性が悪化したりする傾向にある。また、前記炭酸ジエステルのモル比が過度に大きいと、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステル化合物の残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となることがあり、好ましくない。
【0035】
(エステル交換触媒)
本発明の製造方法において使用されるエステル交換触媒としては、通常、エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。
一般的には、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、ベリリウム化合物、マグネシウム化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、実用的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物が好ましい。これらのエステル交換触媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
エステル交換触媒の使用量は、通常、全芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して1×10-9モル〜1×10-3モルの範囲で用いられるが、成形特性や色相に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂を得るためには、エステル交換触媒の量は、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いる場合、全芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、好ましくは1.0×10-8モル〜1×10-4モルの範囲内、より好ましくは1.0×10-8モル〜1×10-5モルの範囲内であり、特に好ましくは1.0×10-7モル〜5.0×10-6モルの範囲内である。上記下限量より少なければ、所望の分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、分岐成分量が多すぎて流動性が低下し、目標とする溶融特性の優れた芳香族ポリカーボネート樹脂が製造できない。
【0037】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物;アルカリ金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0038】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物;アルカリ土類金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0039】
また、ベリリウム化合物及びマグネシウム化合物としては、例えば、当該金属の水酸化物、炭酸塩等の無機金属化合物;前記金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。
【0040】
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0041】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0042】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0043】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0044】
(触媒失活剤)
本発明に於いては、エステル交換反応終了後に、触媒を中和失活させるための触媒失活剤を添加しても良い。このような処理により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の耐熱性、耐加水分解性が向上する。
このような触媒失活剤としては、スルホン酸やスルホン酸エステルのようなpKaが3以下の酸性化合物が好ましく、具体的にはベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸プロピル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸プロピル、並びにp−トルエンスルホン酸ブチルなどが挙げられる。
これらの中でも、p−トルエンスルホン酸並びにp−トルエンスルホン酸ブチルが好適に用いられる。
【0045】
<芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程>
次に、本発明の製造方法が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な製造工程について説明する。
芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程は、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの原料混合溶融液を調製し(原調工程)、前記原料混合溶融液を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応槽を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。反応槽は、複数基の竪型撹拌反応槽、及び必要に応じてこれに続く少なくとも1基の横型撹拌反応槽が用いられる。通常、これらの反応槽は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
重縮合工程後、反応を停止させ、重縮合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、芳香族ポリカーボネート樹脂を所定の粒径に形成する工程等を適宜追加してもよい。
次に、製造方法の各工程について説明する。
【0046】
(原調工程)
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の撹拌槽型の装置を用いて、原料混合溶融液として調製される。溶融混合の温度は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用い、炭酸ジエステル化合物としてジフェニルカーボネートを用いる場合は、通常120℃〜180℃、好ましくは125℃〜160℃の範囲から選択される。
以下、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールA、炭酸ジエステル化合物としてジフェニルカーボネートを原料として用いる場合を例として説明する。
この際、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との割合は、炭酸ジエステル化合物が過剰になるように調整され、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステル化合物は、通常1.01モル〜1.30モル、好ましくは1.02モル〜1.20モルの割合になるように調整される。
【0047】
(重縮合工程)
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換反応による重縮合は、通常、2段階以上、好ましくは3段階〜7段階の多段方式で連続的に行われる。各段階の具体的な反応条件としては、温度:150℃〜320℃、圧力:常圧〜0.01Torr(1.3Pa)、平均滞留時間:5分〜150分の範囲である。
多段方式の各反応槽においては、エステル交換反応の進行とともに副生するフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物をより効果的に系外に除去するために、上記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。
【0048】
重縮合工程を多段方式で行う場合は、通常、竪型撹拌反応槽を含む複数基の反応槽を設けて、芳香族ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応槽は通常2基〜6基、好ましくは4基〜5基設置される。
ここで、反応槽としては、例えば、撹拌槽型反応槽、薄膜反応槽、遠心式薄膜蒸発反応槽、表面更新型二軸混練反応槽、二軸横型撹拌反応槽、濡れ壁式反応槽、自由落下させながら重縮合する多孔板型反応槽、ワイヤーに沿わせて落下させながら重縮合するワイヤー付き多孔板型反応槽等が用いられる。
【0049】
竪型撹拌反応槽の撹拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼((株)神鋼環境ソリューション製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼((株)日立プラントテクノロジー製)等が挙げられる。
【0050】
また、横型撹拌反応槽とは、撹拌翼の回転軸が横型(水平方向)であるものをいう。横型撹拌反応槽の撹拌翼としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの撹拌翼やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、あるいはメガネ翼、格子翼((株)日立プラントテクノロジー製)等の二軸タイプの撹拌翼が挙げられる。
【0051】
尚、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との重縮合に使用するエステル交換触媒は、通常、予め溶液として準備されていてもよい。触媒溶液の濃度は特に限定されず、触媒の溶媒に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。溶媒としては、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール、水等の適宜選択することができる。
【0052】
触媒の溶媒として水を選択した場合、水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
【0053】
(芳香族ポリカーボネート樹脂)
次いで、本発明の製造方法にて製造される芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、「本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂」と称す場合がある。)について説明する。
【0054】
本発明に係る芳香族ポリカーボネート樹脂は、前記一般式(3)、前記一般式(4)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する、分子中に少なくとも下記一般式(1)または一般式(2)で表される構造単位を有するものが代表的なものとして挙げられる。
【0055】
【化9】

ここで、一般式(1)において、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。
【0056】
【化10】

ここで、一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。
【0057】
一般式(1)または一般式(2)において、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。置換若しくは無置換の硫黄原子としては、例えば、−S−、−SO2−が挙げられる。また、置換若しくは無置換のアルキリデン基は、
【0058】
【化11】

【0059】
を示す。ここで、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のポリメチレン基を示す。
5及びR6の、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R5及びR6は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特に、メチル基が好ましい。
Zは、一般式(1)または一般式(2)において、2個のフェニル基を結合する炭素と結合して、置換若しくは無置換の二価の炭素環を形成する。二価の炭素環としては、例えば、シクロペンチリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基等のシクロアルキリデン基(好ましくは、炭素数5〜炭素数12)が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロドデシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体が好ましい。
【0060】
上記一般式(1)で表される構造単位を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂の好ましい例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)を原料としたビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0061】
上記一般式(2)で表される構造単位を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂の好ましい例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシ-3−メチルフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールC」と略記することがある。)を原料としたビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、2,2−ビス(4−ヒドロキシ-3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロドデカン、及び/又は1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロドデカンを原料にした芳香族ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0062】
本実施の形態が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明の目的を妨げない範囲で上記一般式(1)と一般式(2)の両方の構造単位を有していても良い。この場合、一般式(1)と(2)で表される構造単位の合計量に対する一般式(2)で表される構造単位の割合は、製品である芳香族ポリカーボネート樹脂の種類や用途にもよるが、一般的には、50重量%以上、好ましくは70重量%以上である。
【0063】
本発明における、「構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂」とは、例えば2種類の場合には、第1の芳香族ポリカーボネート樹脂として上記一般式(1)の構造単位を有する樹脂であり、第2の芳香族ポリカーボネート樹脂として上記一般式(2)の構造単位を有する樹脂であり、第2の芳香族ポリカーボネート樹脂が上記一般式(1)と一般式(2)の両方の構造単位を有していても良い。
本発明においては、構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一種が、上記一般式(1)で表される構造単位からなる、即ち上記一般式(1)で表される構造単位のみから構成されることが好ましい。
【0064】
次に、本発明の複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂の連続製造法につき説明する。
本発明の製造方法は、構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造を、原料調製から重合反応を経て、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造までが一貫して実施することが可能な同一の製造設備を使用して行うことにその特徴がある。上述のように、本発明でいう同一の製造設備とは、バッチ反応方式でも連続反応方式でもかまわないし、配管等により連続的に接続されていれば複数の反応槽を有していてもよい。
【0065】
例えば、複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂として、構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂aと芳香族ポリカーボネート樹脂bとを製造し、更に前記芳香族ポリカーボネート樹脂a、前記芳香族ポリカーボネートbそれぞれの溶融粘度を変え製造した場合の本発明の製造切り換えについて具体的に説明する。なお、芳香族ポリカーボネート樹脂aの溶融粘度が異なる各芳香族ポリカーボネート樹脂を、樹脂a(1)、樹脂a(2)、・・・、樹脂a(n)、また芳香族ポリカーボネート樹脂bの溶融粘度が異なる各芳香族ポリカーボネート樹脂を、樹脂b(1)、樹脂b(2)、・・・、樹脂b(n)とする。
【0066】
例1:樹脂a(1)→ 樹脂a(2)→ 樹脂b(1)
例2:樹脂b(1)→ 樹脂b(2)→ 樹脂a(1)
例3:樹脂a(1)→ 樹脂a(2)→ 樹脂b(1)→ 樹脂b(2)
例4:樹脂b(1)→ 樹脂b(2)→ 樹脂a(1)→ 樹脂a(2)
例5:樹脂a(1)→ 樹脂a(2)→ 樹脂a(3)→ 樹脂b(1)
例6:樹脂b(1)→ 樹脂b(2)→ 樹脂b(3)→ 樹脂a(1)
例7:樹脂a(2)→ 樹脂b(1)→ 樹脂b(2)→ 樹脂a(1)
上記例1は、先ず樹脂a(1)を製造した後、製造条件等を変更し、樹脂a(2)を製造し、その後、構造単位の異なる樹脂b(1)の製造を同一製造設備で連続的に行ったことを示している。また、例5では、先ず樹脂a(1)を製造した後、製造条件等を変更し、樹脂a(2)、樹脂a(3)を順じ製造し、その後構造単位の異なる樹脂b(1)の製造を同一製造設備で連続的に行ったことを示している。更に、例7では、先ず樹脂a(2)を製造した後、構造単位の異なる樹脂b(1)へ切り換え、さらに製造条件等を変更し、樹脂b(2)を製造し、次いで再度構造単位の異なる樹脂a(1)を同一製造設備で連続的に行ったことを示している。
【0067】
上記例において、本発明の特徴は、構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂に移行する(切り換え)前の芳香族ポリカーボネート樹脂(例1では樹脂a(2)、例2では樹脂b(2)、例3では樹脂a(2)、例4では樹脂b(2)、例5では樹脂a(3)、例6では樹脂b(3)、例7では樹脂a(2)および樹脂b(2))の溶融粘度を400Pa・s、好ましくは380Pa・s(300℃で、剪断速度912sec-1おいて測定)以下にすることが必要である。
【0068】
このように、構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂に移行する前の芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が特定範囲であることにより、反応設備内に残存する芳香族ポリカーボネート樹脂を、変更後の構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂の物性を損なうことが無いレベルまで同伴除去することができる。
【0069】
一方、前記構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂に移行する前の芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高い場合には、反応設備内に残存する移行前の高溶融粘度芳香族ポリカーボネート樹脂の同伴により、変更後の構造単位の異なる芳香族ポリカーボネート樹脂の色相が悪くなったり、異物が混入したりする等の問題が起こる場合がある。
【0070】
(製造装置)
次に、図面に基づき、本実施の形態が適用される芳香族ポリカーボネートの製造設備について具体的に説明する。
本発明でいう「同一の製造設備」とは、前記のように原料調製から重合反応を経て、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造重合反応を経て、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造までが一貫して実施することが可能な設備を意味し、バッチ反応方式でも連続反応方式でも良い。
以下、連続反応方式の芳香族ポリカーボネート製造装置の一例を図1に基づき説明する。
【0071】
図1に示す製造装置において、芳香族ポリカーボネート樹脂は、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル化合物を調製する原調工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応槽を用いて重縮合反応する重縮合工程とを経て製造する。
その後、反応を停止させ重合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程(図示せず)や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程(図示せず)、芳香族ポリカーボネート樹脂を所定の粒径のペレットに形成する工程(図示せず)を経て、芳香族ポリカーボネート樹脂のペレットを成形する。
【0072】
原調工程においては、直列に接続した第1原料混合槽1a及び第2原料混合槽1bと、調製した原料を重縮合工程に供給するための原料供給ポンプ2とを設けている。第1原料混合槽1aと第2原料混合槽1bとには、例えばアンカー型撹拌翼をそれぞれ設けている。
また、第1原料混合槽2aには、炭酸ジエステルとして例えばジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と記載することがある。)を溶融状態で供給し、芳香族ジヒドロキシ化合物として例えばビスフェノールA(以下、「BPA」と記載することがある。)を粉末状態で供給し、溶融したジフェニルカーボネートにビスフェノールAを溶解させる。
【0073】
次に、重縮合工程においては、直列に接続した第1竪型反応槽4a、第2竪型反応槽4b、第3竪型反応槽4c及び第4竪型反応槽4dと、第4竪型反応槽4dの後段に直列に接続した第5横型反応槽6とを設けている。第1竪型反応槽4a、第2竪型反応槽4b及び第3竪型反応槽4cには、マックスブレンド翼がそれぞれ設け、第4竪型反応槽4dには、ダブルヘリカル翼が設けられている。また、第5横型反応槽6には、撹拌翼を設けている。
また、これらの5基の反応槽には、それぞれ重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管(図示せず)を取り付けている。
【0074】
図1に示す芳香族ポリカーボネート樹脂の製造装置において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製したDPC溶融液と、窒素ガス雰囲気下で計量したBPA粉末とを、それぞれ第1原料混合槽1aに連続的に供給する。第1原料混合槽1aの液面が移送配管中の最高位と同じ高さを超えると、原料混合物が第2原料混合槽1bに移送される。
【0075】
次に、原料混合物を、原料供給ポンプ2および原料フィルター3を経由して第1竪型反応槽4aに連続的に供給する。また触媒として、水溶液状の炭酸セシウムを、原料混合物の移送配管途中の触媒供給口(図示せず)から連続的に供給する。
第1竪型反応槽4aでは、窒素雰囲気下、例えば、温度220℃、圧力13.33kPa(100Torr)、撹拌翼の回転数を160rpmに保持し、副生したフェノールを留出管から留出させながら平均滞留時間60分になるように液面レベルを一定に保ち、重縮合反応を行う。
【0076】
次に、第1竪型反応槽4aより排出した重合反応液を、引き続き、第2竪型反応槽4b、第3竪型反応槽4c、第4竪型反応槽4d及び第5横型反応槽6に順次連続供給し、重縮合反応を進行させる。なお、第3竪型反応槽4cから第4竪型反応槽4dへは送液ポンプ5a、第4竪型反応槽4dから第5横型反応槽6へは送液ポンプ5bが使用される。
各反応槽における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるようにそれぞれ設定する。重縮合反応の間、各反応槽における平均滞留時間は、例えば、60分程度になるように液面レベルを制御する。また各反応槽においては、副生するフェノールが留出管から留出する。
【0077】
第5横型反応槽6より排出された芳香族ポリカーボネート樹脂は、送液ポンプ(図示せず)により冷却固化されることなくそのままベント式二軸押出機(図示せず)へと供給され、触媒失活剤としてp−トルエンスルホン酸ブチルを前記ベント式二軸押出機内に添加混合し、脱揮押出し、ベント式二軸押出機よりストランド状に抜き出し、水にて冷却し、ペレタイザー(図示せず)にてチップ状の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる。
なお、ベント式二軸押出機における脱揮押出処理に於いて、必要に応じて溶剤を注入し、脱揮処理を実施しても良い。この場合、好ましい溶剤としては水が用いられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例で使用した芳香族ポリカーボネート樹脂の物性は、下記の方法により評価した。
【0079】
(1)溶融粘度
120℃、5hr乾燥した芳香族ポリカーボネート樹脂を、ダイス径1mmφ×10mmLを具備したキャピラリーレオメーター(東洋精機株式会社製)を用い、300℃に加熱して剪断速度γ=9.12〜1824(sec-1)間で測定し、剪断速度912sec-1における溶融粘度η*912を読み取ることにより求めた。
【0080】
(2)色相
射出成型機J100SS−2((株)日本製鋼所製)を用いて、バレル温度280℃、金型温度90℃の条件下にて、厚み3mm、縦100mm、横100mmのプレートを射出成形した。この射出成形プレートについて、カラーテスター(スガ試験機株式会社製 SC−1−CH)で、色の絶対値である三刺激値XYZを測定し、次の関係式により黄色度の指標であるYI値を計算した。このYI値が正に大きいほど、黄色に着色していることを示す。
【0081】
【数1】

【0082】
(実施例1)
BPA 6,700gとDPC 6,539gに、炭酸セシウムの水溶液を添加し、混合物を調製した。尚、炭酸セシウムはBPA 1mol当たり1μmolであった。次に、該混合物を、内温が80℃以下、内容量40Lであり、撹拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ、還流冷却器を具備した第1反応槽に投入した。
【0083】
続いて、第1反応槽内を1.33kPa(10torr)にし、次いで、窒素で大気圧とする操作を5回繰り返し、第1反応槽の内部を窒素置換した。窒素置換後、熱媒ジャケットに温度230℃の熱媒を通じて第1反応槽の内温を徐々に昇温させ、内容物を溶解させた。その後、300rpmで撹拌し、熱媒ジャケット内の温度をコントロールして、第1反応槽の内温を220℃に保った。そして、第1反応槽の内部で行われるBPAとDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて第1反応槽内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100torr)まで減圧した。
【0084】
続いて、第1反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、オリゴマー化反応を行った。オリゴマー化反応終了後、系内を窒素で絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、予め200℃以上に加熱した移送配管を用いて、オリゴマー化反応により得られたオリゴマーを、内温240℃に制御した内容量40Lの撹拌機、熱媒ジャケット、真空ポンプ並びに還流冷却器を具備した第2反応槽(内圧:0.05MPa−G)に圧送した。
【0085】
次に、第2反応槽内に圧送したオリゴマーを38rpmで撹拌し、熱媒ジャケットにて内温を昇温し、第2反応槽内を40分かけて絶対圧で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。その後、昇温を継続し、さらに40分かけて、内圧を絶対圧で13.3kPaから399Pa(3Torr)まで減圧し、溜出するフェノールを系外に除去した。さらに昇温、減圧を続け、第2反応槽内の絶対圧が70Pa(約0.5torr)に到達後、70Paを保持し、重縮合反応を行った。第2反応槽内の最終的な内部温度は285℃であった。
【0086】
本実施の形態では、第2反応槽が備えた撹拌機の撹拌動力を、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量の指標としている。第2反応槽の撹拌機が、予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。次いで、第2反応槽内を、窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、第2反応槽の槽底から芳香族ポリカーボネート樹脂をストランド状で抜き出し、水槽にて冷却しながら、回転式カッターを使用してペレット化した。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は597Pa・sであり、YI=2.0であった。
【0087】
前記ペレット化を開始したと同時に、予め80℃まで冷却した第1反応槽内に、BPAを6,700g、DPC 6,583gに炭酸セシウムの水溶液を、BPA1mol当たり0.5μmolとなるように添加混合した混合物を投入し、前記製造条件と同様に製造を行った。第2反応槽にて生成芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が357Pa・sとなるように攪拌動力を調整し、所定の攪拌動力にて、第2反応槽の槽底より芳香族ポリカーボネート樹脂をストランド状にて抜き出し、水槽にて冷却しながら、回転式カッターを使用してペレット化した。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は357Pa・sであり、YI=1.8であった。
【0088】
次いで、溶融粘度357Pa・sである、芳香族ポリカーボネート樹脂を第2反応槽の槽底よりストランド状にて抜き出し、ペレット化を開始した直後に、予め80℃まで冷却した第1反応槽内に、ビスフェノールC(以下、「BPC」と記す。)6,700gとDPC 5,711gに炭酸セシウムの水溶液を添加し、混合物を調製した。尚、炭酸セシウムはBPC1mol当たり1.5μmolであった。次いで、該混合物を用いて前記製造条件と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂の製造を行った。第2反応槽にて生成芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が434Pa・sとなるように攪拌動力を調整し、所定の攪拌動力にて、第2反応槽の槽底より芳香族ポリカーボネート樹脂をストランド状にて抜き出し、水槽にて冷却しながら、回転式カッターを使用してペレット化した。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は434Pa・sであり、YI=2.0であった。
【0089】
(実施例2)
実施例1において、まずBPCを原料に434Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造後、ペレット化を開始した直後に、予め80℃まで冷却した第1反応槽内に、BPC6,700gとDPC 5,767gに炭酸セシウムの水溶液を添加し、混合物を調製した。尚、炭酸セシウムはBPC1mol当たり1.5μmolであった。次いで、該混合物を用いて前記製造条件と同様に製造を行い、溶融粘度357Pa・s、YI=2.0の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した後、BPAを原料とし溶融粘度597Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した以外は、実施例1と同様に製造を行った。BPAを原料に得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は597Pa・s、YI=2.0であった。
【0090】
(比較例1)
実施例1において、BPAを原料とし溶融粘度597Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造後、そのままBPCを原料とし、溶融粘度434Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した以外は、実施例1と同様に製造を行った。BPCを原料として得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は434Pa・sであり、YI=3.0であった。
【0091】
(比較例2)
実施例1において、まずBPCを原料に434Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造後、そのままBPAを原料とし溶融粘度597Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した以外は、実施例1と同様に製造を行った。BPAを原料に得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は597Pa・s、YI=4.0であった。
【0092】
(実施例3)
図1に示すような連続重合設備を用いて、原料DPCとBPCのモル比が1.02となるように原料調製槽1aにDPCとBPCを連続的に供給した。原料調製槽1a及び1bにて調整された原料溶融混合物について、送液ポンプ2を介して原料フィルター3を通過し、攪拌翼を備えた第1竪型反応槽4aへ50kg/hrにて供給した。加えて、炭酸セシウム水溶液をBPA1モルに対して、炭酸セシウムとして1.2μモルとなるように、第1竪型反応槽4aへ供給した。第1竪型反応槽4aから、第2竪型反応槽4b、第3竪型反応槽4c、第4竪型反応槽4d、第5横型反応槽6にて、各槽での平均滞留時間が60分となるように、下記に示されるような反応条件にて、重合反応を進め、副生されるフェノールは適宜溜出ラインより排出した。
(第1竪型攪拌反応槽4a):220℃、常圧
(第2竪型攪拌反応槽4b):220℃、13.3kPa
(第3竪型攪拌反応槽4c):240℃、2kPa
(第4竪型攪拌反応槽4d):270℃、67Pa
(第5横型攪拌反応槽6):290℃、67Pa
【0093】
第5横型反応槽6より排出された芳香族ポリカーボネート樹脂は、送液ポンプ(図示せず)により冷却固化されることなくそのままベント式二軸押出機(図示せず)へと供給され、触媒失活剤としてp−トルエンスルホン酸ブチルを12ppm、前記ベント式二軸押出機内に添加混合し、脱揮押出し、前記ベント式二軸押出機よりストランド状に抜き出し、水にて冷却し、ペレタイザー(図示せず)にてチップ状の芳香族ポリカーボネート樹脂とした。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は434Pa・sであり、YI=1.9であった。
【0094】
前記製造条件にて1週間芳香族ポリカーボネート樹脂を製造後、炭酸セシウム水溶液をBPC1モルに対して、炭酸セシウムとして0.75μモルとなるように変更し、各槽の条件を次のように変更した。
(第1竪型攪拌反応槽4a):220℃、常圧
(第2竪型攪拌反応槽4b):220℃、13.3kPa
(第3竪型攪拌反応槽4c):240℃、2kPa
(第4竪型攪拌反応槽4d):270℃、67Pa
(第5横型攪拌反応槽6):280℃、67Pa
【0095】
第5横型反応槽6より排出された芳香族ポリカーボネート樹脂は、送液ポンプ(図示せず)により冷却固化されることなくそのままベント式二軸押出機(図示せず)へと供給され、触媒失活剤としてp−トルエンスルホン酸ブチルを7.5ppm、前記ベント式二軸押出機内に添加混合し、脱揮押出し、前記ベント式二軸押出機よりストランド状に抜き出し、水にて冷却し、ペレタイザー(図示せず)にてチップ状の芳香族ポリカーボネート樹脂とした。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は357Pa・sであり、YI=1.8であった。
【0096】
前記、BPCを原料として溶融粘度が357Pa・sである、芳香族ポリカーボネート樹脂を2日間製造後、原料をBPCよりBPAへ変更し、炭酸セシウム水溶液をBPA1モルに対して、炭酸セシウムとして0.75μモルとなるように変更し、各槽の条件を次のように変更した。
(第1竪型攪拌反応槽4a):220℃、常圧
(第2竪型攪拌反応槽4b):220℃、13.3kPa
(第3竪型攪拌反応槽4c):240℃、2kPa
(第4竪型攪拌反応槽4d):270℃、67Pa
(第5横型攪拌反応槽6):290℃、67Pa
【0097】
第5横型反応槽より排出された芳香族ポリカーボネート樹脂は、送液ポンプ(図示せず)により冷却固化されることなくそのままベント式二軸押出機(図示せず)へと供給され、触媒失活剤としてp−トルエンスルホン酸ブチルを7.5ppm、前記ベント式二軸押出機内に添加混合し、脱揮押出し、前記ベント式二軸押出機よりストランド状に抜き出し、水にて冷却し、ペレタイザー(図示せず)にてチップ状の芳香族ポリカーボネート樹脂とした。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は597Pa・sであり、YI=2.0であった。
【0098】
(比較例3)
実施例3において、BPCを原料とし、溶融粘度434Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造後、そのままBPAを原料として、溶融粘度597Pa・sの芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した以外は、実施例3と同様に実施した。BPAを原料とし得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は597Pa・s、YI=3.0であった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、既存の同一の製造設備に於いて、製造設備を一旦停止させたり、洗浄操作を入れたりすることなく、構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネートを連続的に製造することができる。本発明は、バッチ反応方式、連続反応方式のいずれにも適用が可能であり、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、色調等の物性において従来のものと遜色がなく、芳香族ポリカーボネートの効率的製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0100】
1a、1b 原料調製槽
2、5a、5b 送液ポンプ
3 原料フィルター
4a、4b、4c、4d 竪型反応槽
6 横型反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂を同一の製造設備で製造する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法であって、
300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・s以下である芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造し、次いで、前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aの構造単位とは異なる構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂Bを製造することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aを製造する前に、前記芳香族ポリカーボネート樹脂Aと同じ構造単位を有し、かつ300℃、剪断速度912sec-1における溶融粘度が400Pa・sを超える芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一種が、下記一般式(1)で表される構造単位からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化1】

(一般式(1)において、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
【請求項4】
前記一般式(1)のXの置換若しくは無置換のアルキリデン基が、
【化2】

であることを特徴とする請求項3に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
(R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のポリメチレン基を示す。)
【請求項5】
前記構造単位の異なる複数種の芳香族ポリカーボネート樹脂の少なくとも一種が、下記一般式(2)の構造単位を50重量%以上有する芳香族ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化3】

(一般式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、単結合、カルボニル基、置換若しくは無置換のアルキリデン基、置換若しくは無置換の硫黄原子、又は酸素原子を示す。)
【請求項6】
前記一般式(2)のXの置換若しくは無置換のアルキリデン基が、
【化4】

であることを特徴とする請求項5に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
(R5及びR6は、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Zは、置換若しくは無置換の炭素数4〜炭素数20のポリメチレン基を示す。)

【図1】
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【公開番号】特開2011−246628(P2011−246628A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121996(P2010−121996)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】