説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品

【課題】高度な難燃性を有しつつ、耐衝撃性に優れ、表面転写性に優れる環境負荷の少ない樹脂材料の提供。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、(B)ポリ乳酸樹脂および/または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体10〜100重量部、(C)リン酸エステル系難燃剤5〜50重量部、(D)コア−シェル型のグラフト共重合体1〜30重量部、(E)軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物0.1〜2重量部、(F)無機充填剤0.1〜20重量部からなり、かつA成分、B成分、C成分、D成分のそれぞれの組成割合が下記式(I)を満たす範囲にあり、


α≧1.0(I)かつB成分とE成分の組成割合が、下記式(II)を満たす範囲にあり、E<0.02B(II)かつB成分とF成分の組成割合が、下記式(III)を満たす範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。F<0.3B(III)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関する。より詳しくは、芳香族ポリカーボネート樹脂、環境負荷の少ないポリ乳酸樹脂および/または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、リン酸エステル系難燃剤、コアーシェル型のグラフト共重合体、軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物、並びに無機充填剤を特定割合含有する樹脂組成物であって、電気・電子機器用の材料において求められる高度な難燃性を有しつつ、耐衝撃性に優れ、かつ表面転写性に優れる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、優れた耐熱性、機械特性、耐衝撃性、および寸法安定性等を有しており、OA機器分野、自動車分野、電気・電子部品分野等の用途に広く用いられている。また、芳香族ポリカーボネート樹脂に剛性および強度などの向上を目的として無機充填材を配合することも広く行われている。一方で芳香族ポリカーボネートは、原料のほとんどを石油資源に依存するという側面も有している。近年、石油資源の枯渇の懸念や、地球温暖化を引き起こす空気中の二酸化炭素の増加問題から、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになり、ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。バイオマスプラスチックとしてポリ乳酸樹脂がよく知られており、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、食器、包装材料、雑貨などに用途展開が広がりつつあるが、更に、工業材料としての可能性も検討されるようになってきた。芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂との樹脂組成物、並びに該樹脂組成物が良好なパール光沢を有し、さらに流動性、耐熱性、および剛性などに優れることは公知である(特許文献1参照)。しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂との樹脂組成物はその難燃性の低さから、エンジニアリングプラスチックが使われる電気・電子部品、自動車部品などの工業材料への展開が進んでいない。
【0003】
芳香族ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂は非相容であり、その非相容性に起因する上記パール光沢を均一な外観に制御するため、反応性化合物や酸化チタンの添加により外観の改良が試みられている(特許文献2、3参照)。同様に非相容性に起因する衝撃強度の低さについても、衝撃改質剤や酸化チタンの添加により耐衝撃性の向上が図られている(特許文献4、5参照)。しかしながら、耐衝撃性についても工業材料として展開するためにはそのレベルは不十分である。また、ポリ乳酸樹脂は耐加水分解性が低いことが知られており、カルボジイミド化合物と酸化防止剤を始めとする安定剤を配合する事で耐加水分解性を向上させる技術が示されている(特許文献6参照)。
【0004】
さらには、外観改良や衝撃改質のため、または耐加水分解性向上のための添加剤を多量に添加すると、成形加工性に問題が生じる。具体的には表面転写性が落ちるため微細な凹凸のある模様等の加工が難しくなり、工業材料として展開するにあたり使用可能な範囲が限られるといったことが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−109413号公報
【特許文献2】特開2007−56246号公報
【特許文献3】特開2010−222553号公報
【特許文献4】特開2005−48067号公報
【特許文献5】特開2009−144075号公報
【特許文献6】特開2008−255214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の第1の目的は、高度な難燃性を有しつつ、耐衝撃性に優れ、かつ表面転写性に優れる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
本発明の第2の目的は、脱石油資源材料を含有しつつ電気・電子機器用の材料にしばしば求められる高度な難燃性を有する材料を提供することにより、脱石油資源材料の用途を拡大し、樹脂材料全体における脱石油資源材料の比率を高め、それにより環境負荷の低減に寄与することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはかかる目的を達成すべく鋭意研究の結果、芳香族ポリカーボネート、環境負荷の少ないポリ乳酸および/または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、リン酸エステル系難燃剤、コアーシェル型のグラフト共重合体、軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物、並びに無機充填剤を特定割合含有する樹脂組成物が、驚くべきことに高度な難燃性を有し、耐衝撃性に優れ、かつ表面転写性に優れ、上述の第1および第2の目的が達成された樹脂組成物およびその成形品が得られることを見出した。本発明者らはかかる知見を基に本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、
(1)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)ポリ乳酸樹脂および/または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体(B成分)10〜100重量部、(C)リン酸エステル系難燃剤(C成分)5〜50重量部、(D)コア−シェル型のグラフト共重合体(D成分)1〜30重量部、(E)軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物(E成分)を0.1〜2重量部、並びに(F)無機充填剤(F成分)0.1〜20重量部からなり、かつA成分の組成割合(A重量部)、A成分100重量部当たりのB成分の組成割合(B重量部)、C成分の組成割合(C重量部)とD成分の組成割合(D重量部)が下記式(I)を満たす範囲にあり、
【数1】

α≧1.0 (I)
かつA成分100重量部当たりのB成分の組成割合(B重量部)とE成分の組成割合(E重量部)が、下記式(II)を満たす範囲にあり、
E<0.02B (II)
かつA成分100重量部当たりのB成分の組成割合(B重量部)とF成分の組成割合(F重量部)が、下記式(III)を満たす範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
F<0.3B (III)
(2)A成分100重量部に対し、(G)酸化防止剤(G成分)0.01〜2重量部を含有する(1)に記載の樹脂組成物である。
(3)G成分がホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、ヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤である(2)に記載の樹脂組成物である。
(4)A成分100重量部に対し、(H)ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体(H成分)0.01〜2重量部を含有する(1)〜(3)のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形品である。
(6)射出成形、押出成形、熱成形、ブロー成形および発泡成形よりなる群より選ばれる少なくとも1種の成形法により成形した(5)に記載の成形品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品は、高度な難燃性と耐衝撃性、かつ表面転写性に優れるものであることから、幅広い用途に適用可能な環境負荷を低減した樹脂材料が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(A成分:芳香族ポリカーボネート樹脂)
本発明でA成分として使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0011】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも靭性や変形特性に優れる点からビスフェノールAが特に好ましく、汎用されている。
【0012】
本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、他の二価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ−トをA成分として使用することが可能である。例えば、二価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ−ト(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の二価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。
【0013】
殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分が次の(1)〜(3)の共重合ポリカーボネートであるのが特に好適である。(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、好適にはBPM成分が20〜80モル%であり、より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBCF成分が、好適には20〜80モル%であり、より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、好適にはBPA成分が10〜95モル%であり、より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%であり、かつBCF成分が好適には、5〜90モル%であり、より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が好適には、20〜80モル%であり、より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%であり、かつBis−TMC成分が好適には、20〜80モル%より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%である共重合ポリカーボネート。
【0014】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0015】
なお、上述した各種のポリカーボネートの中でも、共重合組成等を調整して、吸水率及びTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が、好ましくは、0.05〜0.15%、より好ましくは0.06〜0.13%であり、かつTgが、好ましくは、120〜180℃であるポリカーボネート、あるいは
(ii)Tgが好ましくは、160〜250℃、より好ましくは170〜230℃であり、かつ吸水率が好ましくは、0.10〜0.30%、より好ましくは0.13〜0.30%、さらに好ましくは0.14〜0.27%であるポリカーボネート。
【0016】
ここで、ポリカーボネートの吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62−1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JISK7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0017】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0018】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0019】
分岐ポリカーボネート樹脂は、本発明の樹脂組成物の溶融張力を増加させ、かかる特性に基づいて押出成形、発泡成形およびブロー成形における成形加工性を改善できる。結果として寸法精度により優れた、これらの成形法による成形品が得られる。
【0020】
かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキジフェニル)ヘプテン−2、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、および4−{4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}−α,α−ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。その他多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4−ビス(4,4−ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、並びにトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が例示される。中でも1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンおよび1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0021】
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、二価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.03〜1モル%、より好ましくは0.07〜0.7モル%、特に好ましくは0.1〜0.4モル%である。
【0022】
また、かかる分岐構造単位は、多官能性芳香族化合物から誘導されるだけでなく、溶融エステル交換反応時の副反応の如き、多官能性芳香族化合物を用いることなく誘導されるものであってもよい。尚、かかる分岐構造の割合についてはH−NMR測定により算出することが可能である。
【0023】
また、本発明の樹脂組成物においてA成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族もしくは脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。また、得られたポリカーボネートの2種以上をブレンドした混合物でも差し支えない。
【0024】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、およびイコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環式ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0025】
A成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述した二価フェノールの異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体等の各種ポリカーボネートの2種以上を混合したものであってもよい。さらに、製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネート等を2種以上混合したものを使用することもできる。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などのの反応形式は、各種の文献および特許公報などで良く知られている方法である。
【0026】
本発明の樹脂組成物を製造するにあたり、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、特に限定されないが、好ましくは1×10〜5×10であり、より好ましくは1.4×10〜3×10であり、さらに好ましくは1.4×10〜2.4×10である。粘度平均分子量が1×10未満のポリカーボネート樹脂では、実用上十分な靭性や割れ耐性が得られない場合がある。一方、粘度平均分子量が5×10を超えるポリカーボネート樹脂から得られる樹脂組成物は、概して高い成形加工温度を必要とするか、または特殊な成形方法を必要とすることから汎用性に劣る。高い成形加工温度は、樹脂組成物の変形特性やレオロジー特性の低下を招きやすい。
【0027】
なお、上記ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が上記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。殊に、上記値(5×10)を超える粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、本発明の樹脂組成物の溶融張力を増加させ、かかる特性に基づいて押出成形、発泡成形およびブロー成形における成形加工性を改善できる。かかる改善効果は、上記分岐ポリカーボネートよりもさらに良好である。
【0028】
より好適な態様としては、A成分が粘度平均分子量7×10〜3×10の芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1−1成分)、および粘度平均分子量1×10〜3×10の芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1−2成分)からなり、その粘度平均分子量が1.6×10〜3.5×10である芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)(以下、“高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂”と称することがある)も使用できる。
【0029】
かかる高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)において、A−1−1成分の分子量は7×10〜2×10が好ましく、より好ましくは8×10〜2×10、さらに好ましくは1×10〜2×10、特に好ましくは1×10〜1.6×10である。またA−1−2成分の分子量は1.0×10〜2.5×10が好ましく、より好ましくは1.1×10〜2.4×10、さらに好ましくは1.2×10〜2.4×10、特に好ましくは1.2×10〜2.3×10である。
【0030】
高分子量成分含有芳香族ポリカーボネート樹脂(A−1成分)は前記A−1−1成分とA−1−2成分を種々の割合で混合し、所定の分子量範囲を満足するよう調整して得ることができる。好ましくは、A−1成分100重量%中、A−1−1成分が2〜40重量%の場合であり、より好ましくはA−1−1成分が3〜30重量%であり、さらに好ましくはA−1−1成分が4〜20重量%であり、特に好ましくはA−1−1成分が5〜20重量%である。
【0031】
また、A−1成分の調製方法としては、(1)A−1−1成分とA−1−2成分とを、それぞれ独立に重合しこれらを混合する方法、(2)特開平5−306336号公報に示される方法に代表される、GPC法による分子量分布チャートにおいて複数のポリマーピークを示す芳香族ポリカーボネート樹脂を同一系内において製造する方法を用い、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂を本発明のA−1成分の条件を満足するよう製造する方法、および(3)かかる製造方法((2)の製造法)により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂と、別途製造されたA−1−1成分および/またはA−1−2成分とを混合する方法などを挙げることができる。
【0032】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0033】
尚、本発明の樹脂組成物における粘度平均分子量の算出は次の要領で行なわれる。すなわち、該組成物を、その20〜30倍重量の塩化メチレンと混合し、組成物中の可溶分を溶解させる。かかる可溶分をセライト濾過により採取する。その後得られた溶液中の溶媒を除去する。溶媒除去後の固体を十分に乾燥し、塩化メチレンに溶解する成分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上記と同様にして20℃における比粘度を求め、該比粘度から上記と同様にして粘度平均分子量Mを算出する。
【0034】
本発明のA成分である芳香族ポリカーボネート樹脂は、再利用されたものを用いることもできる。その場合には、脱石油資源材料のB成分と併せて環境負荷の小さい成分の割合が増大することになり、環境負荷低減効果の上でより好ましい材料となる。再利用された芳香族ポリカーボネート樹脂とは、少なくとも目的の製品を製造するための加工工程により形成された樹脂成形品からポリマーの分解工程を得ることなく回収された樹脂をいい、例えば使用済みの製品から分別回収された樹脂成形品、製品製造時に不良品として発生したものから分別回収された樹脂成形品、並びに成形加工時に生じるスプール・ランナーなどの不要部分などからなる樹脂成形品が代表的に例示される。なお、分解工程とは、芳香族ポリカーボネートの主鎖を形成する結合を分解し、分解されて生ずるモノマーやオリゴマーを回収することを目的とする工程をいい、混練、粉砕、および加工などを目的とする工程における熱分解を意味するものではない。一方、いわゆるバージンの芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常自社で生産した樹脂、並びに市場から入手される樹脂などであり、その形態は粉状、もしくはペレット状、チップ状または球状に造粒されたものが通常使用される。再利用された芳香族ポリカーボネート樹脂は、その樹脂材料100重量%中、芳香族ポリカーボネート成分を90重量%以上含有するものが好ましくに用いられ、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上含有するものが用いられる。
【0035】
前記使用済みの製品としては、防音壁、ガラス窓、透光屋根材、および自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、並びに光記録媒体などが好ましく挙げられる。これらは多量の添加剤や他樹脂などを含むことがなく、目的の品質が安定して得られやすい。殊に透明なポリカーボネート樹脂成形品表面にハードコート被膜が積層されてなる成形品が好ましい態様として例示される。かかる成形品は良好な透明性を有しながら、ハードコート剤の影響で着色する場合が多いためである。かかる成形品の具体例としては、各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材が例示される。
【0036】
また再利用された芳香族ポリカーボネート樹脂は、前記の不要となった樹脂成形品の粉砕物、および粉砕物を再溶融押出して製造されたペレットのいずれも使用できる。さらに樹脂成形品が印刷塗膜、シール、ラベル、化粧塗装膜、導電塗装、導電メッキ、金属蒸着などが施されている場合には、かかる部分を除去した粉砕物(除去後の粉砕、粉砕後の除去のいずれであってもよい)、並びに該粉砕物を再溶融押出して製造されたペレットのいずれも使用可能である。前記印刷塗膜などを含む場合には、これらの影響により着色しやすいことから、本発明の効果が十分に発揮されにくい。したがって印刷塗膜など除去することが本発明において好適である。かかる印刷塗膜やメッキなどを除去する方法としては、2本のロール間で圧延する方法、加熱・加圧水、各種溶剤、酸・アルカリ水溶液などに接触させる方法、かかる除去部分を機械的に削り取る方法、超音波を照射する方法、およびブラスト処理する方法などを挙げることができ、これらを組み合わせて使用することも可能である。
【0037】
一方、透明なポリカーボネート樹脂成形品表面にハードコート被膜が積層されてなる成形品においては、良好な色相の達成が可能であることから粉砕物をそのまま配合することがより効率的であり、環境負荷の低減に貢献する。粉砕物は公知の粉砕機を用いて樹脂成形品を粉砕することにより製造することができる。
【0038】
再利用された芳香族ポリカーボネート樹脂は、A成分の芳香族ポリカーボネート樹脂100重量%中、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上含有できる。上限は100重量%とすることが可能であるが、実用的には50重量%以下であるとより特性の安定した樹脂組成物が得られ好ましい。(B成分:ポリ乳酸樹脂および/または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体)
本発明でB成分として使用されるポリ乳酸樹脂および乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体の中で、ポリ乳酸は通常ラクタイドと呼ばれる乳酸の環状二量体から開環重合により合成され、その製造方法に関してはUSP1,995,970、USP2,362,511、USP2,683,136に開示されている。また乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸の共重合体は通常ラクタイドとヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体から開環重合により合成され、その製造法に関してはUSP3,635,956、USP3,797,499に開示されている。開環重合によらず直接脱水重縮合により乳酸系樹脂を製造する場合には、乳酸類と必要に応じて他のヒドロキシカルボン酸を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより、本発明に適した重合度の乳酸系樹脂が得られる。
【0039】
原料の乳酸類としてはL−およびD−乳酸、またはその混合物、乳酸の二量体であるラクタイドのいずれも使用できる。また乳酸類と併用できる他のヒドロキシカルボン酸類としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。なお、乳酸系樹脂の製造に際し、適当な分子量調節剤、分岐剤、その他の改質剤などの添加は差し支えない。また乳酸類、および共重合体成分としてのヒドロキシカルボン酸類はいずれも単独あるいは2種以上で使用することができ、さらに得られた乳酸系樹脂を2種以上混合使用してもよい。本発明においては乳酸類のみの重合体であるポリ乳酸が好適に用いられ、主としてL−乳酸単位からなるポリ−L乳酸樹脂、主としてD−乳酸単位からなるポリ−D乳酸樹脂、またはその混合物の何れを用いてもよい。
【0040】
ポリL−乳酸樹脂およびポリD‐乳酸樹脂の重量平均分子量は、本発明組成物の機械物性及び成形性を両立させるため、好ましくは8万〜30万、より好ましくは10万〜25万、さらに好ましくは12万〜23万の範囲が選択される。
【0041】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し、10〜100重量部であり、12〜80重量部が好ましく、15〜60重量部がより好ましい。かかる含有量が10重量部より小さい場合には、環境負荷の低減が十分でなく、また100重量部を超えると、強度低下、耐熱性低下および耐加水分解性低下が著しくなるため好ましくない。
【0042】
(C成分:リン酸エステル系難燃剤)
本発明のC成分として使用されるリン酸エステル系難燃剤としては、下記式(1)で表される1種または2種以上のリン酸エステル化合物を挙げることができる。
【0043】
【化1】

【0044】
式中Xは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドから誘導される基である。nは0〜5の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0〜5の平均値である。R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−クミルフェノールから誘導される基である。
【0045】
さらに好ましいものとしては、式中のXが、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルから誘導される基であり、nは1〜3の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルのブレンドの場合はその平均値であり、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくはより好適には置換していないフェノール、クレゾール、キシレノールから誘導される基であるものが挙げられる。
【0046】
かかる有機リン酸エステル系難燃剤の中でも、ホスフェート化合物としてはトリフェニルホスフェート、ホスフェートオリゴマーとしてはレゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が耐加水分解性などにも優れるため好ましく使用できる。さらに好ましいのは、耐熱性などの点からレゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)である。これらは耐熱性も良好であるためそれらが熱劣化したり揮発するなどの弊害がないためである。
【0047】
C成分の含有量は、A成分100重量部に対して、5〜50重量部であり、より好ましくは7〜48重量部、さらに好ましくは10〜45重量部である。含有量が5重量部未満では難燃剤の添加量が少なすぎ、難燃性が得られず、50重量部を超えると耐熱性が悪化して離型性が低下し、寸法安定性が悪化するため、好ましくない。
【0048】
(D成分:コア−シェル型のグラフト共重合体)
本発明のD成分として使用されるコア−シェル型のグラフト共重合体としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分のコアに、芳香族ビニル、シアン化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびこれらと共重合可能なビニル化合物から選択されたモノマーの1種または2種以上のシェルがグラフト共重合されたコア−シェル型のグラフト共重合体である。
【0049】
コア−シェル型のグラフト共重合体において、そのコアの粒径は重量平均粒子径において0.05〜0.8μmが好ましく、0.1〜0.6μmがより好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。0.05〜0.8μmの範囲であればより良好な耐衝撃性が達成される。重合体は、ゴム成分を40%以上含有するものが好ましく、60%以上含有するものがさらに好ましい。
【0050】
かかるゴム成分としては、ブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴム、イソブチレン−シリコーン複合ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−アクリルゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴムおよびこれらの不飽和結合部分に水素が添加されたものを挙げることができるが、燃焼時の有害物質の発生懸念という点から、ハロゲン原子を含まないゴム成分が環境負荷の面において好ましい。
【0051】
ゴム成分のガラス転移温度は好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下であり、ゴム成分としては特にブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴムが好ましい。複合ゴムとは、2種のゴム成分を共重合したゴムまたは分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造をとるように重合したゴムをいう。またゴム成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率差が0.015より大きいものを用いると、組成物の真珠光沢が低減するようになるため、均一な外観を求める場合にはこの点に配慮すればよい。ゴム成分の芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率差は0.020より大きいことがより好ましい。かかる点において、ゴム成分の屈折率はより具体的には、屈折率が1.48〜1.56の範囲が好ましく、1.50〜1.54の範囲がさらに好ましい。
【0052】
ゴム成分に共重合するビニル化合物における芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等を挙げることができ、特にスチレンが好ましい。またアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸メチルが特に好ましい。これらの中でも特にメタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステルを必須成分として含有することが好ましい。これは芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性に優れることから、該樹脂中により多くのコア−シェル型グラフト共重合体が存在するようになり、芳香族ポリカーボネート樹脂の有する良好な耐衝撃性がより効果的に発揮され、結果として樹脂組成物の耐衝撃性が良好となるためである。より具体的には、メタアクリル酸エステルはグラフト成分100重量%中(コア−シェル型重合体の場合にはシェル100重量%中)、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上含有される。
【0053】
ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分を含有するコア−シェル型グラフト共重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの重合法で製造したものであってもよく、共重合の方式は一段グラフトであっても多段グラフトであっても差し支えない。また製造の際に副生するグラフト成分のみのコポリマーとの混合物であってもよい。さらに重合法としては一般的な乳化重合法の他、過硫酸カリウム等の開始剤を使用するソープフリー重合法、シード重合法、二段階膨潤重合法等を挙げることができる。また懸濁重合法において、水相とモノマー相とを個別に保持して両者を正確に連続式の分散機に供給し、粒子径を分散機の回転数で制御する方法、および連続式の製造方法において分散能を有する水性液体中にモノマー相を数〜数十μm径の細径オリフィスまたは多孔質フィルターを通すことにより供給し粒径を制御する方法などを行ってもよい。その反応はコアおよびシェル共に、1段であっても多段であってもよい。
【0054】
かかる重合体は市販されており容易に入手することが可能である。例えばゴム成分として、ブタジエンゴム、アクリルゴムまたはブタジエン−アクリル複合ゴムを主体とするものとしては、鐘淵化学工業(株)のカネエースBシリーズ(例えばB−56など)、三菱レイヨン(株)のメタブレンCシリーズ(例えばC−223Aなど)、Wシリーズ(例えばW−450Aなど)、呉羽化学工業(株)のパラロイドEXLシリーズ(例えばEXL−2602など)、HIAシリーズ(例えばHIA−15など)、BTAシリーズ(例えばBTA−IIIなど)、KCAシリーズ、ローム・アンド・ハース社のパラロイドEXLシリーズ、KMシリーズ(例えばKM−336P、KM−357Pなど)、宇部サイコン(株)のUCLモディファイヤーレジンシリーズ(ユーエムジー・エービーエス(株)のUMG AXSレジンシリーズ)が挙げられ、ゴム成分としてアクリル−シリコーン複合ゴムを主体とするものとしては三菱レイヨン(株)よりメタブレンS−2001あるいはSRK−200という商品名で市販されているものが挙げられる。
【0055】
コア−シェル型グラフト共重合体の含有量は、A成分100重量部に対し、1〜30重量部であり、好ましくは2〜25重量部、より好ましくは3〜20重量部である。含有量が1重量部未満では衝撃改質効果が十分でなく、30重量部を超えると耐熱性の低下や難燃性に悪影響するため好ましくない。
【0056】
さらに、本発明のAおよびB、C、D成分の組成割合は、下記式(I)を満たす必要がある。
【数2】

α≧1.0 (I)
上記式(I)は好ましくは500≧α≧2.0であり、より好ましくは300≧α≧3.0である。上記式(I)の範囲においては、高度な難燃性を達成することができる。
【0057】
(E成分:軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物)
本発明においてE成分として使用されるカルボジイミド化合物は、多価イソシアナート化合物を用いた(共)重合体である。上記多価イソシアネートの具体例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ピリジンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート等が挙げられる。その中でもシクロヘキサンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートが好ましく使用される。
上記E成分のカルボジイミド化合物としては、日清紡績(株)製のカルボジライトHMV−8CAやカルボジライトLA−1、ラインケミー製のスタバックゾールP等が挙げられる。
【0058】
カルボジイミド化合物の含有量は、A成分100重量部に対し、0.1〜2重量部であり、好ましくは0.3〜2重量部、更に好ましくは0.5〜2重量部である。含有量が0.1重量部未満の場合、耐衝撃性の向上効果が十分ではなく、2重量部を超えると、表面転写性が顕著に悪化し、かつ十分な難燃性が得られない。
カルボジイミド化合物の軟化温度は50℃以上であり、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは70℃以上である。軟化温度が50℃未満では、押出する際の原料供給のホッパー下で融着し、シュートアップを起こし押出が困難となる。軟化温度が120℃より高いカルボジイミド化合物は製造上困難であるため、産業上の有用性が無い。このため、カルボジイミド化合物の軟化温度の上限は実質上120℃である。
【0059】
さらに、本発明のBおよびE成分の組成割合は、下記式(II)を満たす必要がある。
E<0.02B (II)
上記式(II)は好ましくはE<0.018Bであり、より好ましくはE<0.016Bである。上記式(II)の範囲においては、高度な難燃性かつ表面転写性を得ることができる。
【0060】
カルボジイミド化合物は旧知の化合物であり、従来ポリ乳酸樹脂等加水分解されやすい樹脂へ添加する場合には、加水分解防止を目的として利用されていた。ある一定以上の量を配合することにより、加水分解に対して非常に効果的であり、広く利用されていた。しかしながら本発明の樹脂組成物では、E成分の配合量が特定割合の範囲において、新たに表面転写性に優れることを見出した。その理由は定かではないが、反応性化合物であるカルボジイミド化合物は組成物として混練されると、活性水素をもつような化合物と反応する。また同時に、未反応のカルボジイミド化合物も存在していると考えられる。表面付近にはこの反応生成物と未反応カルボジイミド化合物がともに存在し、その割合が特定範囲にある場合に表面転写性が良好になると想定している。
【0061】
(F成分:無機充填剤)
本発明のF成分である無機充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスフレーク、ワラストナイト、カオリンクレー、マイカ、タルクおよび各種ウイスカー類(チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカーなど)といった一般に知られている各種フィラーを使用することができる。無機充填材の形状は繊維状、フレーク状、球状、中空状を自由に選択でき、樹脂組成物の耐衝撃性向上のためには繊維状、フレーク状のものが好適である。
【0062】
F成分は好適には天然鉱物の粉砕物からなる無機充填材であり、より好適には珪酸塩の天然鉱物の粉砕物からなる無機充填材であり、更にその形状の点から、マイカ、タルク、およびワラストナイトが好ましい。一方、これらの無機充填材は、炭素繊維のような石油資源材料に比較して脱石油資源材料であることから、環境負荷のより低い原料を用いることとなり、結果として環境負荷の小さいB成分を使用する意義がより高められるという効果を奏する。
【0063】
本発明で使用できるマイカの平均粒子径は走査型電子顕微鏡により観察し、1μm以上のものを抽出した合計1000個の数平均にて算出される数平均粒子径である。その数平均粒子径は10〜500μmが好ましく、より好ましくは30〜400μm、更に好ましくは30〜200μm、最も好ましくは35〜80μmである。数平均粒子径が10μm未満となると衝撃強度が低下する場合がある。また500μmを超えると、表面転写性が悪化する。マイカの厚みとしては、電子顕微鏡観察により実測した厚みが0.01〜10μmのものを好ましく使用できる。より好ましくは0.1〜5μmのものを使用できる。アスペクト比としては好ましくは5〜200、より好ましくは10〜100のものを使用できる。また使用するマイカはマスコバイトマイカが好ましく、そのモース硬度は約3であることが好ましい。マスコバイトマイカはフロゴパイトなど他のマイカに比較してより高剛性および高強度を達成でき、より好適な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。また、マイカの粉砕法としては、マイカ原石を乾式粉砕機にて粉砕する乾式粉砕法と、マイカ原石を乾式粉砕機にて粗粉砕した後、水などの粉砕助剤を加えてスラリー状態にて湿式粉砕機で本粉砕し、その後脱水、乾燥を行う湿式粉砕法がある。本発明のマイカはいずれの粉砕法において製造されたものも使用できるが、乾式粉砕法の方が低コストで一般的である。一方湿式粉砕法は、マイカをより薄く細かく粉砕するのに有効であるがコストがかかる。マイカは、シランカップリング剤、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの各種表面処理剤で表面処理されていてもよく、更に各種樹脂、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの集束剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
【0064】
本発明で使用できるタルクとは、層状構造を持った鱗片状の粒子であり、化学組成的には含水珪酸マグネシウムであり、一般的には化学式4SiO・3MgO・2HOで表され、通常SiOを56〜65重量%、MgOを28〜35重量%、HO約5重量%程度から構成されている。その他の少量成分としてFeが0.03〜1.2重量%、Alが0.05〜1.5重量%、CaOが0.05〜1.2重量%、KOが0.2重量%以下、NaOが0.2重量%以下などを含有しており、比重は約2.7、モース硬度は1である。本発明のタルクの平均粒子径は0.5〜30μmが好ましい。該平均粒子径はJIS M8016に従って測定したアンドレアゼンピペット法により測定した粒度分布から求めた積重率50%時の粒子径である。タルクの粒子径は2〜30μmがより好ましく、5〜20μmが更に好ましく、10〜20μmが最も好ましい。0.5〜30μmの範囲のタルクは芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に剛性および耐衝撃性、低異方性に加えて、良好な難燃性および表面転写性を付与する。またタルクを原石から粉砕する際の製法に関しては特に制限はなく、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、及び容器回転式圧縮剪断型ミル法等を利用することができる。更に粉砕後のタルクは、各種の分級機によって分級処理され、粒子径の分布が揃ったものが好適である。分級機としては特に制限はなく、インパクタ型慣性力分級機(バリアブルインパクターなど)、コアンダ効果利用型慣性力分級機(エルボージェットなど)、遠心場分級機(多段サイクロン、ミクロプレックス、ディスパージョンセパレーター、アキュカット、ターボクラシファイア、ターボプレックス、ミクロンセパレーター、およびスーパーセパレーターなど)などを挙げることができる。更にタルクは、その取り扱い性等の点で凝集状態であるものが好ましく、かかる製法としては脱気圧縮による方法、集束剤を使用し圧縮する方法等がある。特に脱気圧縮による方法が簡便かつ不要の集束剤樹脂成分を本発明の樹脂組成物中に混入させない点で好ましい。
【0065】
また、本発明で使用できるワラストナイトは、実質的に化学式CaSiOで表され、通常SiOが約50重量%以上、CaOが約47重量%、その他Fe、Al等を含んでいる。ワラストナイトは、ワラストナイト原石を粉砕、分級した白色針状粉末で、モース硬度は約4.5である。使用するワラストナイトの平均繊維径は0.5〜20μmが好ましく、0.5〜10μmがより好ましく、1〜5μmが最も好ましい。該平均繊維径は走査型電子顕微鏡により観察し、0.1μm以上のものを抽出した合計1000個の数平均にて算出されるものである。
【0066】
F成分の含有量は、A成分100重量部に対し、0.1〜20重量部であり、0.5〜17重量部が好ましく、1〜15重量部がより好ましい。かかる含有量が0.1重量部より小さい場合には、本発明の樹脂組成物の機械特性に対する補強効果が十分でなく、また20重量部を超えると、表面転写性が悪化するため好ましくない。
【0067】
さらに、本発明のBおよびF成分の組成割合は、下記式(III)を満たす必要がある。
F<0.3B (III)
上記式(III)は好ましくはE<0.25Bであり、より好ましくはE<0.2Bである。上記式(III)の範囲においては、高度な難燃性かつ表面転写性を得ることができる。
【0068】
本発明の表面転写性を得るためには上述の特定割合のE成分とともに、特定割合のF成分が含有されていなければならない。その効果の発現機構については定かではないが、E成分の項で述べたように、表面付近のE成分およびF成分が特定の割合で存在する場合に表面転写性が良好になると想定している。
【0069】
(G成分:酸化防止剤)
本発明の樹脂組成物には、G成分として酸化防止剤を含有することができる。この酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤が好ましく使用される。酸化防止剤を配合する事により、成形加工時の色相や流動性が安定するだけでなく、耐加水分解性の向上にも効果がある。
【0070】
ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。上記化合物の中でも、本発明においてはテトラキス[メチレン−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、および3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが好ましく利用される。特にオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0071】
ホスファイト系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。さらに他のホスファイト系化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、および2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。好適なホスファイト系化合物は、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス{2,4−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェニル}ペンタエリスリトールジホスファイトである。これらはいずれも入手容易である。上記ホスファイト系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
ホスホナイト系化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられる。テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト系化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト系化合物との併用可能であり好ましい。ホスホナイト系化合物としてはテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイトが好ましく、該ホスホナイトを主成分とする安定剤は、Sandostab P−EPQ(商標、Clariant社製)およびIrgafos P−EPQ(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販されておりいずれも利用できる。上記ホスホナイト系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0073】
チオエーテル系化合物の具体例として、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)等が挙げられる。上記チオエーテル系化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0074】
酸化防止剤の含有量は、A成分100重量部に対し、好ましくは0.01〜2重量部であり、より好ましくは0.05〜1.5重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。かかる含有量が0.01重量部より少ない場合は酸化防止効果が不足し、成形加工時の色相や流動性が不安定になることがある。また、かかる含有量が2重量部よりも多い場合、酸化防止剤由来の反応成分などがかえって難燃性や表面転写性を悪化させてしまうことがある。
【0075】
また、前記ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか1種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。ヒンダードフェノール系化合物とホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、チオエーテル系化合物のいずれか1種類以上を組み合わせて使用することで、安定剤としての相乗効果が発揮され、より成形加工時の色相、流動性の安定化に効果がある。
【0076】
(H成分:ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体)
本発明のH成分であるポリテトラフルオロエチレン系混合体としては、粒子径10μm以下、具体的にはポリテトラフルオロエチレンは粒子径が10μmを超える凝集体となっていないポリテトラフルオロエチレン粒子および有機系重合体からなるものである。さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に配合した際の分散性の観点から、粒子径0.05〜1.0μmのポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液(H1)と有機系重合体粒子水性分散液(H2)とを混合した分散液中で、ビニル単量体(h2)を重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して得られるものを用いることが好ましい。本発明に係わるポリテトラフルオロエチレン系混合体を得るために用いる、粒子径0.05〜1.0μmポリテトラフルオロエチレン粒子水性分散液(H1)は、含フッ素界面活性剤を用いる乳化重合でテトラフルオロエチレンモノマーを重合させることにより得られる。
【0077】
ポリテトラフルオロエチレン粒子の乳化重合の際、ポリテトラフルオロエチレンの特性を損なわない範囲で、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートを用いることができる。共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して10重量%以下であることが好ましい。
【0078】
ポリテトラフルオロエチレン粒子分散液(H1)の市販原料としては、旭硝子フロロポリマー社製のフルオンAD−1、AD−936、ダイキン工業社製のポリフロンD−1、D−2、三井デュポンフロロケミカル社製のテフロン(登録商標)30J等を代表例として挙げることができる。本発明に係わるポリテトラフルオロエチレン系混合体を得るために用いる有機系重合体粒子水性分散液(H2)は、ビニル単量体(h1)を乳化重合等の公知の方法により重合させることにより得ることができる。
【0079】
なお、上記のビニル単量体(h1)およびビニル単量体(h2)は同一でも異なっていてもよく、特に制限されるものではないが、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に配合する際の分散性の観点からA成分およびB成分との親和性が高いものであることが好ましい。
【0080】
これらビニル単量体(h1)および(h2)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヒキシルマレイミド等のマレイミド単量体;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、単独であるいは2種以上混合して用いることができる。
【0081】
これらの単量体の中で本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物との親和性の観点から好ましいものとして、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、オレフィン系単量体を挙げることができる。特に好ましいものとして、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を50%以上用いることが好ましい。
【0082】
本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン系混合体中に占めるポリテトラフルオロエチレンの含有割合は、0.1重量%〜90%重量であることが好ましく、1.0重量%〜 80重量%であるのがより好ましく、10重量%〜70重量%が最も好ましい。0.1重量%未満であると難燃性の改良効果が不十分となり、90重量%を超えると表面転写性に悪影響を及ぼす可能性があるので好ましくない。
【0083】
本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン系混合体は、その水性分散液を、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、凝固した後に乾燥することにより粉体化することもできる。
【0084】
通常のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは、粒子分散液の状態から粉体として回収する工程で100μm以上の凝集体となってしまうために熱可塑性樹脂に均一に分散させることが困難であるのに対して、本発明に用いるポリテトラフルオロエチレン系混合体は、ポリテトラフルオロエチレンが単独で粒子径10μmを超えるドメインを形成していないために芳香族ポリカーボネート樹脂に対する分散性がきわめて優れている。この結果、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレンが芳香族ポリカーボネート中で効率よく微細繊維化しており、難燃性が優れる上に、耐衝撃性、表面転写性にも優れるものとなる。
【0085】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物には、更に本発明の目的を損なわない範囲で、C成分以外の難燃剤(例えば、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、有機金属塩系難燃剤、水酸化金属化合物系難燃剤など)、D成分以外の衝撃改質剤、他の熱可塑性樹脂(例えば、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、並びにエポキシ樹脂など)、可塑剤(ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤、およびエポキシ系可塑剤など)、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系など)、光安定剤(HALSなど)、離型剤(飽和脂肪酸エステル、不飽和脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス、フッ素化合物、パラフィンワックス、蜜蝋など)、加水分解防止剤、結晶化促進剤、流動改質剤(ポリカプロラクトンなど)、着色剤(カーボンブラック、二酸化チタン、各種の有機染料、メタリック顔料など)、光拡散剤(アクリル架橋粒子、シリコーン架橋粒子など)、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、帯電防止剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛など)、赤外線吸収剤、並びにフォトクロミック剤紫外線吸収剤、加工助剤などを配合してもよい。これら各種の添加剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂に配合する際の周知の配合量で利用することができる。
【0086】
(樹脂組成物の製造)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造には、任意の方法が採用される。例えばA成分からF成分を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合(いわゆるドライブレンド)した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより得られた予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、溶融混練後の組成物をペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。
【0087】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。尚、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融押出機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。かかる液注装置、または液添装置は加温装置が設置されているものが好ましく使用される。
【0088】
押出された樹脂は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化することができる。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。得られたペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0089】
(成形品の作製)
上記の如く得られた本発明の樹脂組成物は通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。更にペレットを経由することなく、二軸押出機で溶融混練された樹脂組成物を直接シート、フィルム、異型押出成形品、ダイレクトブロー成形品、および射出成形品にすることも可能である。
【0090】
かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。より好ましいのは低射出速度でも成形が可能な射出圧縮成形および射出プレス成形である。
【0091】
また本発明の樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物は回転成形やブロー成形などにより成形品にしてもよい。
【0092】
本発明の樹脂組成物は、例えばOA機器や家電製品の外装材に好適であり、例えばパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなど)、ディスプレー装置(CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、および有機ELなど)、マウス、並びにプリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)などの外装材、キーボードのキーや各種スイッチなどのスイッチ成形品が例示される。更に本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、その他幅広い用途に有用であり、例えば、携帯情報端末(いわゆるPDA)、携帯電話、携帯書籍(辞書類等)、携帯テレビ、記録媒体(CD、MD、DVD、次世代高密度ディスク、ハードディスクなど)のドライブ、記録媒体(ICカード、スマートメディア、メモリースティックなど)の読取装置、光学カメラ、デジタルカメラ、パラボラアンテナ、電動工具、VTR、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、照明機器、冷蔵庫、エアコン、空気清浄機、マイナスイオン発生器、およびタイプライターなど電気・電子機器を挙げることができ、これらの外装材などの各種部品に本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から形成された樹脂製品を使用することができる。また各種容器、カバー、筆記具本体、装飾品などの各種雑貨において好適である。更にはランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、インストルメンタルパネル、センターコンソールパネル、ディフレクター部品、カーナビケーション部品、カーオーディオビジュアル部品、オートモバイルコンピュータ部品などの車両用部品を挙げることができる。
【0093】
更に本発明の樹脂組成物からなる成形品には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理が例示される。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、評価としては以下の項目について実施した。原料は以下の原料を用いた。
【0095】
[実施例1〜11、比較例1〜20]
1.組成物ペレットの製造
表1〜3に記載の各成分のうちC成分を除く成分を、表1〜3に示す割合にてドライブレンドした後、押出機の第1供給口から供給した。C成分を添加する場合は、80℃に加熱した状態で液注装置(富士テクノ工業(株)製HYM−JS−08)を用いてシリンダー途中の第3供給口(第1供給口とベント排気口との間に位置)から押出機に供給した。液注装置は一定量を供給する設定とし、その他の原料の供給量は計量器[(株)クボタ製CWF]により精密に計測された。径30mmφのベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30XSST]を用い、シリンダー温度250℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/h、およびベント減圧度3kPaで溶融押出してペレット化した。
【0096】
2.成形品の作製
得られたペレットを80℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形により、シリンダー温度250℃、金型温度40℃で、評価項目の試験片を作成した。
【0097】
3.評価方法
実施例中における各値は下記の方法で求めた。
(1)表面転写性
見本板(全体は縦90mm×横50mmの大きさで、縦方向の20mmの厚さが3mm、縦方向の45mmの厚さが2mm、縦方向の25mmの厚さが1mmの階段状になっている板)を用い、表面転写性を評価した。見本板の金型表面は#000の鏡面仕上げになっており、その鏡面性の転写度合を評価した。マット調のものは×、鏡面に近いが多少曇っているものは○、輝くほどの鏡面性をもつものを◎とした。
(2)シャルピー衝撃強度
ISO179に準拠してノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。試験片厚み4mm。
(3)燃焼性
米国アンダーライターラボラトリー社の定める方法(UL94)により、試験片厚さ0.8mmおよび1.2mmにおける難燃性を評価した。
各実施例および比較例の各評価結果を表1〜4に示した。
【0098】
なお、実施例及び比較例で使用した原材料は、下記の通りである。
(A成分:芳香族ポリカーボネート樹脂)
A:粘度平均分子量25,110の直鎖状芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製パンライトL−1250WQ(商品名))
(B成分:ポリ乳酸樹脂および/または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体)
B−1:ネイチャーワークス社製ポリ乳酸、グレード名“NatureWorks4032D”(D体含有量=1.4%、MVR値=2cm/10min、水分量=360ppm、Tm=166℃、重量平均分子量=220,000)
B−2:ネイチャーワークス社製ポリ乳酸、グレード名“NatureWorks4060D”(D体含有量=12.0%、MVR値=3cm/10min、水分量=3,190ppm、Tm=無し、重量平均分子量=200,000)
(C成分:難燃剤)
C−1:大八化学工業(株)製ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル、“CR−741”
C−2:日産化学工業(株)製メラミンシアヌレート、“MC440”
(D成分;コア−シェル型のグラフト共重合体)
D−1:三菱レイヨン(株)製ブタジエン系コア−シェル型グラフト共重合体、“メタブレンC−223A”
D−2:三菱レイヨン(株)製シリコン系コア−シェル型グラフト共重合体、“メタブレンS−2001”
D−3:三菱レイヨン(株)製アクリル系コア−シェル型共重合体、“メタブレンW−450A”
D−4:東レ・デュポン(株)製ポリエステルエラストマー、“ハイトレル4047”
(E成分:軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物)
E−1:日清紡(株)社製カルボジイミド化合物、“HMV−8CA”(軟化温度:71℃)
E−2:ラインケミー(株)社製カルボジイミド化合物、“スタバックゾールI”(軟化温度:40℃)
(F成分:無機充填剤)
F−1:林化成工業(株)製タルク、“HS−T0.8”(板状、平均粒子径2μm)
F−2:(株)山口雲母工業所製、“A−41”(平均粒子径40μm)
F−3:清水工業製(株)製ワラストナイト、“H−1250F”(繊維径5μm)
(G成分:酸化防止剤)
G−1:n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・ジャパン(株)製“イルガノックス”1076)
G−2:ビス(2,4−ジ−texrt−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業(株)製“アデカスタブ”PEP−24G)
(H成分:ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体)
H−1:ダイキン工業(株)製、“ポリフロンMPA FA500”(ポリテトラフルオロエチレン)
H−2:三菱レイヨン(株)製ポリテトラフルオロエチレン系混合体、“メタブレンA−3750”(ポリテトラフルオロエチレンアクリル系共重合体からなる混合物、ポリテトラフルオロエチレン含有量50重量%))
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
表1〜4の結果から明らかな通り、ポリカーボネート樹脂とポリ乳酸樹脂との混合物にリン酸エステル系難燃剤、コアーシェル型のグラフト共重合体、軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物、並びに無機充填剤を特定割合含有する樹脂組成物において、高度な難燃性を有しつつ、耐衝撃性に優れ、かつ表面転写性に優れた成形品を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品は、高度な難燃性と耐衝撃性、かつ表面転写性に優れるものであることから、幅広い用途に適用可能な環境負荷を低減した樹脂材料が提供できることから、例えばパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなど)、ディスプレー装置(LCD、有機EL、電子ペーパー、プラズマディスプレー、およびプロジェクタなど)、送電部品(誘電コイル式送電装置のハウジングに代表される)、プリンター、コピー機、スキャナーおよびファックス(これらの複合機を含む)、VTRカメラ、光学フィルム式カメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ用レンズユニット、防犯装置、および携帯電話などの精密機器が例示される。特に本発明の樹脂組成物は、パソコン、ノートパソコン、ゲーム機、ディスプレー装置、プリンター、コピー機、スキャナーおよびファックスの如きOA機器、情報処理装置の筐体、カバー、および枠に好適に利用される。その他更に本発明の樹脂組成物は、マッサージ機や高酸素治療器などの医療機器、画像録画機(いわゆるDVDレコーダーなど)、オーディオ機器、電子楽器などの家庭電器製品、および精密なセンサーを搭載する家庭用ロボットなどの部品にも好適なものである。また本発明の樹脂組成物は、各種の車両部品、電池、発電装置、回路基板、集積回路のモールド、光学ディスク基板、ディスクカートリッジ、光カード、ICメモリーカード、コネクター、ケーブルカプラー、電子部品の搬送用容器(ICマガジンケース、シリコンウエハー容器、ガラス基板収納容器、およびキャリアテープなど)、帯電防止用または帯電除去部品(電子写真感光装置の帯電ロールなど)、並びに各種機構部品(ギア、ターンテーブル、ローター、およびネジなど。マイクロマシン用機構部品を含む)に利用可能である。したがって本発明の樹脂組成物は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)ポリ乳酸樹脂および/または乳酸類とその他のヒドロキシカルボン酸との共重合体(B成分)10〜100重量部、(C)リン酸エステル系難燃剤(C成分)5〜50重量部、(D)コア−シェル型のグラフト共重合体(D成分)1〜30重量部、(E)軟化温度が50℃以上であるカルボジイミド化合物(E成分)を0.1〜2重量部、並びに(F)無機充填剤(F成分)0.1〜20重量部からなり、かつA成分の組成割合(A重量部)、A成分100重量部当たりのB成分の組成割合(B重量部)、C成分の組成割合(C重量部)とD成分の組成割合(D重量部)が下記式(I)を満たす範囲にあり、
【数1】

α≧1.0 (I)
かつA成分100重量部当たりのB成分の組成割合(B重量部)とE成分の組成割合(E重量部)が、下記式(II)を満たす範囲にあり、
E<0.02B (II)
かつA成分100重量部当たりのB成分の組成割合(B重量部)とF成分の組成割合(F重量部)が、下記式(III)を満たす範囲にある芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
F<0.3B (III)
【請求項2】
A成分100重量部に対し、(G)酸化防止剤(G成分)0.01〜2重量部を含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
G成分がホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、ヒンダードフェノール系化合物およびチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
A成分100重量部に対し、(H)ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体(H成分)0.01〜2重量部を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
射出成形、押出成形、熱成形、ブロー成形および発泡成形よりなる群より選ばれる少なくとも1種の成形法により成形した請求項5に記載の成形品。
【請求項7】
自動車部品、電気・電子部品、電気機器外装部品およびOA外装部品からなる群より選ばれる部品である請求項5または6に記載の成形品。

【公開番号】特開2012−236957(P2012−236957A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108592(P2011−108592)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】