説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品

【課題】外観不良が少なく、リプロ性、耐熱性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂およびその成形品を提供する。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)ペンタエリスリトールテトラステアレート(B成分)0.25〜0.55重量部、ならびに(C)リン系安定剤(C1成分)0.0005〜1重量部およびヒンダードフェノール系酸化防止剤(C2成分)0.0005〜1重量部を配合してなる樹脂組成物であって、該A成分は、Fe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下であり、該B成分は、酸価が1.6〜4.0であり、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が360℃以上であり、且つNaイオン濃度が10ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐熱性、機械的強度等を有するため電気、機械、自動車、医療用途等に幅広く使用されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂を用いて成形を行う場合、そのゲル化物を起因とした外観不良や、異物由来の外観不良(白モヤ)、繰り返し使用時の色相安定性(リプロ性)が問題となることがある。これらの特性は、近年の成形品の軽量化、薄肉化、低コスト化に伴い要求が高まっている。ポリカーボネート樹脂の成形性を向上させるために種々の添加剤を使用する技術が検討されており、特許文献1には離型剤の酸価、ヨウ素価、金属元素Sn含有量を規定することにより成形耐熱性低下を抑制する方法が記載されている。しかし、外観不良やリプロ性などの改善については不十分である。また、特許文献2では離型剤の脂肪酸成分の比率、熱安定性、酸価を規定することにより成形耐熱性、離型性をはじめ、内部歪み、割れ耐性などの問題点を改善する方法が提案されているが、特許文献2においてもゲル化物やリプロ性といった問題改善には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3869606号公報
【特許文献2】特許第4243512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明では、外観不良が少なく、リプロ性、耐熱性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂およびその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するために以下の構成を採用する。
1.(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)ペンタエリスリトールテトラステアレート(B成分)0.25〜0.55重量部、ならびに(C)リン系安定剤(C1成分)0.0005〜1重量部およびヒンダードフェノール系酸化防止剤(C2成分)0.0005〜1重量部を配合してなる樹脂組成物であって、該A成分は、Fe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下であり、該B成分は、酸価が1.6〜4.0であり、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が360℃以上であり、且つNaイオン濃度が10ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
2.該A成分は、Fe含有量とNa含有量との合計が200ppb以下である前項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
3.該B成分は、酸価が2.0〜4.0である前項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
4.該B成分は、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が370℃以上である前項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
5.該B成分は、Naイオン濃度が5ppm以下である前項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
6.該C1成分および該C2成分を、A成分100重量部に対しそれぞれ0.005〜0.1重量部配合してなる前項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
7.(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(D)エポキシ化合物(D成分)0.003〜0.1重量部を配合してなる前項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
8.前項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂からなる成形品。
9.該成形品は、シートまたはフィルムである前項8に記載の成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、外観不良が少なく、リプロ性、耐熱性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂およびその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
[芳香族ポリカーボネート樹脂について]
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂はいかなる製造方法によって製造されたものでもよく、界面重縮合の場合は通常一価フェノール類の末端停止剤が使用される。芳香族ポリカーボネート樹脂は前記二価フェノールまたは二官能性アルコールに加えて、3官能以上の例えば3官能フェノール類の如き多官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネートであってもよい。更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、ポリオルガノシロキサン成分、並びにビニル系単量体を共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。二価フェノールの代表的な例として2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等があげられる。好ましい二価フェノールはビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系であり、特にビスフェノールAが好ましい。上記二価フェノールは単独で又は二種以上併用して使用することができる。
【0008】
カーボネート前駆物質として例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間である。
【0009】
カーボネート前駆物質として例えば炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0010】
末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端停止剤として使用されるものであればよく、前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0011】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は粘度平均分子量で表して好ましくは1.0×10〜3.5×10であり、より好ましくは1.3×10〜3.0×10であり、さらに好ましくは1.5×10〜2.5×10である。本発明でいう粘度平均分子量は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0012】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、Fe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下である必要がある。当該量を超える場合、成形耐熱性が低下し、さらにはゲル化物が発生しやすくなるため好ましくない。Fe含有量は150ppb以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。Na含有量は70ppb以下が好ましく、50ppb以下がより好ましい。また、Fe含有量とNa含有量との合計は200ppb以下が好ましく、150ppb以下がより好ましく、100ppb以下がさらに好ましい。
【0013】
[ペンタエリスリトールテトラステアレートについて]
本発明で使用されるペンタエリスリトールテトラステアレートは、離型性、流動性などの成形性の向上だけでなく、ゲル化物発生の抑制に効果を発揮する。
ペンタエリスリトールテトラステアレートの酸価は、1.6〜4.0であり、2.0〜4.0が好ましく、2.2〜3.8がより好ましく、2.5〜3.5がさらに好ましい。純度は95重量%以上が好ましく、純度98重量%以上が特に好ましい。ペンタエリスリトールテトラステアレートの酸価の測定は、公知の方法を用いることができる。
【0014】
また、本発明で使用されるペンタエリスリトールテトラステアレートは、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が360℃以上であり、370℃以上が好ましい。360℃未満の場合、ブリードアウトによる金型汚れや成形品の外観異常の原因となり好ましくない。
さらに、本発明で使用されるペンタエリスリトールテトラステアレートは、Naイオン濃度が10ppm以下であり、5ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。当該量を超える場合、成形耐熱性が低下し、さらにはゲル化物が発生しやすくなるため好ましくない。
【0015】
ペンタエリスリトールテトラステアレートの配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し0.25〜0.55重量部の範囲であり、0.30〜0.50重量部の範囲が好ましい。かかるペンタエリスリトールテトラステアレートの配合量が0.25重量部に満たない場合、ゲル化物発生抑制等の所望の効果が得られず、0.55重量部を超える場合、成形耐熱性に劣り好ましくない。
【0016】
[リン系安定剤について]
本発明で使用されるC1成分のリン系安定剤としては、特に成形時にポリカーボネート樹脂の劣化を抑制できるものであり、既にポリカーボネート樹脂の熱安定剤として知られたものが使用できる。例えば、ホスファイト系、ホスフェート系、ホスホナイト系の化合物が例示される。
【0017】
ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0018】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0019】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0020】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0021】
上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でも、ホスファイト化合物またはホスホナイト化合物が好ましい。殊にトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトおよびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましい。
【0022】
上記のリン系安定剤の添加量は、A成分100重量部に対して0.0005〜1重量部含有されることが必要である。好ましくはA成分100重量部に対して0.001〜0.5重量部であり、より好ましくは0.005〜0.1重量部である。リン系安定剤の添加量がA成分100重量部に対して0.0005重量部未満だと、目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の安定化効果が少なくなり、リン系安定剤の添加量が1重量部を超えると芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の着色や成形品の割れ等を引き起こす可能性がある。
【0023】
[ヒンダードフェノール系酸化防止剤について]
本発明で使用されるC2成分のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特に繰り返し使用時のポリカーボネート樹脂の色抜けを抑制できるものであり、各種樹脂などに適用可能な酸化防止剤が利用できる。例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられ、特に好ましくはテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。上記ヒンダードフェノール系安定剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
【0024】
上記のヒンダードフェノール系安定剤の添加量は、A成分100重量部に対して0.0005〜1重量部含有されることが必要である。好ましくはA成分100重量部に対して0.001〜0.5重量部であり、より好ましくは0.005〜0.1重量部である。ヒンダードフェノール系安定剤の添加量がA成分100重量部に対して0.0005重量部未満だと、目的とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の色相安定化効果が少なくなり、1重量部を超えると芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の着色や成形品の割れ等を引き起こす可能性がある。
【0025】
[エポキシ化合物について]
本発明で好適に使用されるD成分のエポキシ化合物は、良好な耐沸水性を付与するという目的や、金型腐食を抑制するという目的に対しては、基本的にエポキシ官能基を有するもの全てが適用できる。例えば、3,4ーエポキシシクロヘキシルメチルー3’,4’ーエポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロセキサン付加物、メチルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体等が挙げられる。
【0026】
上記のエポキシ化合物の添加量としては、A成分100重量部に対して0.003〜0.1重量部が好ましい。より好ましくはA成分100重量部に対して0.004〜0.05重量部であり、さらに好ましくは0.005〜0.03重量部である。エポキシ化合物の添加量が0.003重量部以上であると、耐沸水性の改善効果が十分であり、また本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する際の金型腐食の抑制効果が十分である。エポキシ化合物の添加量が0.1重量部以下であると芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性が良好であり、結果として成形品の着色を引き起こす等の問題が抑制される。
【0027】
[その他の添加剤について]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更にブルーイング剤を芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中0.05〜3ppm(重量割合)含むことが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂成形品の黄色味を消し、自然な透明感を付与するために有効である。
【0028】
ここでブルーイング剤とは、橙色ないし黄色の光線を吸収することにより青色ないし紫色を呈する着色剤をいい、特に染料が好ましい。ブルーイング剤の配合により本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、更に良好な色相を達成する。ここで重要な点はかかるブルーイング剤の配合量である。樹脂組成物中、ブルーイング剤が0.05ppm未満では色相の改善効果が不十分な場合がある一方、3ppmを超える場合には光線透過率が低下し適当ではない。より好ましいブルーイング剤の配合量は樹脂組成物中0.2〜2.5ppm、更に好ましくは0.3〜2ppmの範囲である。
【0029】
ブルーイング剤としては代表例として、バイエル(株)製のマクロレックスバイオレットBおよびマクロレックスブルーRRや、クラリアントジャパン(株)製のポリシンスレンブルーRLSなどが挙げられる。
【0030】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、発明の目的を損なわない範囲で上記ブルーイング剤以外にも各種の染顔料を使用することができる。特に透明性を維持する点から、染料が好適である。好ましい染料としてはペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、およびフタロシアニン系染料などを挙げることができる。更にビスベンゾオキサゾリル−スチルベン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−ナフタレン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−チオフェン誘導体、およびクマリン誘導体などの蛍光増白剤を使用することができる。これら染料および蛍光増白剤の使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部あたり、0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましい。
【0031】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲で、前記以外の樹脂添加剤、例えば、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤などを配合してもよい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。上記の他樹脂の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常40重量部以下、好ましくは30重量部以下である。
【0032】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法等について]
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば、A〜C成分並びに任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、ペレタイザーによりペレット化する方法が挙げられる。
【0033】
A〜C成分およびその他の添加剤とのブレンドにあたっては、一段階で実施してもよいが、二段階以上に分けて実施してもよい。二段階に分けて実施する方法には、例えば、配合予定の芳香族ポリカーボネート樹脂パウダーやペレットの一部と添加剤とをブレンドした後、つまり、添加剤を芳香族ポリカーボネート樹脂パウダーで希釈して添加剤のマスターバッチとした後、これを用いて最終的なブレンドを行う方法がある。
【0034】
例えば、一段階でブレンドする方法においては、各所定量の各添加剤を予め混合したものを芳香族ポリカーボネート樹脂パウダーやペレットとブレンドする方法、また、各所定量の各添加剤を各々別個に計量し、芳香族ポリカーボネート樹脂パウダーやペレットに順次添加後ブレンドする方法等を採用することができる。リン系化合物以外の添加剤の配合にあたっては、かかる添加剤を押出機に直接添加、注入する方法をとることができる。その場合、各添加剤を加熱融解後注入することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。なお実施例、比較例中の性能評価は下記の方法に従った。
【0036】
(1)酸価
JIS K 0070に準拠して中和滴定法により酸価(KOHmg/g)を求めた。
【0037】
(2)熱重量測定による5%重量減少温度
TA−instruments社製のHi−Res TGA2950 Thermogravimetric Analyzerを使用し、N雰囲気下において20℃/minで昇温させ、試料の減量が仕込み重量の5重量%となった時の温度をTGA5%重量減少温度として測定した。
【0038】
(3)ペンタエリスリトールテトラステアレート中のNaイオン量
イオンクロマトグラフによってペンタエリスリトールテトラステアレートのNaイオン濃度を求めた。
【0039】
(4)芳香族ポリカーボネート樹脂中のFeおよびNa量
ICP発光分光分析にて芳香族ポリカーボネート樹脂中のFeおよびNaの含有量を求めた。
【0040】
(5)ゲル化率
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる粉粒体(ペレット)5,000mgをアルミ箔上にて温度300℃および空気中の条件において6時間加熱した後、ジクロロメタンに溶解し、孔径10μmのPTFE製メンブランフィルターを通して濾過した際にフィルター上に捕集されるゲル化物の重量測定し、下記式によりゲル化率を求めた。
ゲル化率(%)=(ゲル化物重量/試料重量)×100
【0041】
(6)成形耐熱性
各実施例で得られたペレットを最大型締め力が85Tonの射出成形機にて、シリンダー温度350℃、金型温度80℃の条件で、成形サイクル60秒で成形して「滞留前の成形板」(縦90mm×横50mm×厚み2mm)を得た。さらに、該射出成形機のシリンダー中に樹脂を10分間滞留させた後に成形して、「滞留後の成形板」(縦90mm×横50mm×厚み2mm)を得た。滞留前後の成形板の色相(L、a、b)を、日本電色(株)製SE−2000を用いてC光源反射法で測定し、下記式により色差ΔEを求めた。ΔEが大きいほど成形耐熱性に劣ることを示す。
ΔE={(L−L’)+(a−a’)+(b−b’)1/2
「滞留前の成形板」の色相:L、a、b
「滞留後の成形板」の色相:L’、a’、b’
【0042】
(7)リプロ性
各実施例で得られたバージンペレットを30mm径の単軸押出機にて2回リペレットした。得られたペレットの黄色度(b)を日本電色(株)製SE−2000を用いてC光源反射法で測定し、バージンペレットと2回リペレットの変色の度合い△bを求めた。△bが小さいほど色相の変化が小さく良好である。
Δb=b’−b
「バージンペレットの色相」:b
「2回リペレットの色相」:b’
【0043】
(8)白モヤ発生率
各実施例で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後、住友重機社製射出成形機SG−150によりシリンダー温度300℃、金型温度110℃の条件で、成形板(縦150mm×横150mm×厚み3mm)を作成した。HIDランプを該成形板(縦150mm×横150mm×厚み3mm)に照射し、成形板50枚中に観察される白モヤ発生枚数から白モヤ発生率(%)を算出した。
【0044】
表1における記号表記の各成分は下記の通りである。
(A成分)
A−1:ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造された粘度平均分子量22,500、Fe含有量:50ppb、Na含有量:30ppbの芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP)
A−2:ビスフェノールAとホスゲンから界面重合法により製造された粘度平均分子量22,500、Fe含有量:210ppb、Na含有量:20ppbの芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製:パンライトL−1225WP)
(B成分)
B−1:酸価:3.1、TGA5%重量減少温度:378℃、Naイオン濃度:0.5ppmであるぺンタエリスリトールテトラステアレート(日油(株)製:ユニスターH−476)
B−2:酸価:10.0、TGA5%重量減少温度:322℃、Naイオン濃度:27.0ppmであるぺンタエリスリトールテトラステアレート(理研ビタミン(株)製:EW−400)
B−3:酸価:1.0、TGA5%重量減少温度:382℃、Naイオン濃度:13.4ppmであるぺンタエリスリトールテトラステアレート(エメリー オレオケミカルズ(株)製:ロキシオールVPG861)
(C成分)
C−1:リン系安定剤(主成分テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、クラリアントジャパン(株)製:ホスタノックスP−EPQ)
C−2:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、バスフジャパン(株)製 イルガノックス1010)
(D成分)
D−1:スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体(日油(株)製:マープルーフG−0250SP)
(その他添加剤)
ブルーイング剤(バイエル(株)製:マクロレックスバイオレットB)
【0045】
[実施例1〜9、比較例1〜10]
ビスフェノールAとホスゲンから界面縮重合法により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー100重量部に、表1記載の各種添加剤を各配合量で、ブレンダーにて混合した。スクリュー径30mmのベント付単軸押出機により、シリンダー温度280℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを作成した。
下表1から明らかなように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、成形耐熱性、リプロ性に優れ、ゲル化物や白モヤの発生が抑制されたことが分かる。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品は、特にシートやフィルムの成形品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)ペンタエリスリトールテトラステアレート(B成分)0.25〜0.55重量部、ならびに(C)リン系安定剤(C1成分)0.0005〜1重量部およびヒンダードフェノール系酸化防止剤(C2成分)0.0005〜1重量部を配合してなる樹脂組成物であって、該A成分は、Fe含有量が200ppb以下およびNa含有量が100ppb以下であり、該B成分は、酸価が1.6〜4.0であり、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が360℃以上であり、且つNaイオン濃度が10ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
該A成分は、Fe含有量とNa含有量との合計が200ppb以下である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
該B成分は、酸価が2.0〜4.0である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
該B成分は、TGA(熱重量解析)における5%重量減少温度が370℃以上である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
該B成分は、Naイオン濃度が5ppm以下である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
該C1成分および該C2成分を、A成分100重量部に対しそれぞれ0.005〜0.1重量部配合してなる請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対し、(D)エポキシ化合物(D成分)0.003〜0.1重量部を配合してなる請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂からなる成形品。
【請求項9】
該成形品は、シートまたはフィルムである請求項8に記載の成形品。

【公開番号】特開2013−1800(P2013−1800A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134203(P2011−134203)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】