説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形体の製造方法及び成形体

【課題】固体無機化合物を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を優れた外観特性を有する成形体として得るための製造方法及び成形体の提供。
【解決手段】芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂成分(A)100質量部、固体無機化合物(B)0.1〜200質量部、有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物(C)0.001〜3質量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形する際に、溶融樹脂の第一の射出工程後に溶融樹脂を計量し、該計量部の容積増加率10%以下にて第二の射出工程に移行することを特徴とする射出成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体無機化合物を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形体を製造するにあたり、優れた外観特性を有する成形体を得るための製造方法及び成形体に関する。更に詳しくは、剛性や強度などの機械的特性、あるいは難燃性などの性能が改善された固体無機化合物を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を優れた外観特性を有する成形体として得るための製造方法及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、耐衝撃性などの機械的特性に優れ、しかも耐熱性に優れた樹脂材料であることから、デスクトップパソコン及びノート型パソコンなどの各種コンピューター、プリンター、ワードプロセッサー、コピー機などのハウジング材料や部品材料や、自動車外装部品、自動車内装部品などに広く利用されている。
近年、芳香族ポリカーボネートからなる成形体に関して、特に自動車部品に関しては外部応力による変形や、内部部品による変形が起こりやすいために、芳香族ポリカーボネートに対して高い剛性と寸法精度が要求される。更に自動車の内外装部品の場合には、塗装の有無にかかわらず優れた外観特性が求められる。
【0003】
一方、電気部品関連のハウジングに使用する場合には軽量化を目的とした薄肉化が強く求められている。
芳香族ポリカーボネートの剛性や寸法精度を改良するために、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、ワラストナイト等の無機化合物を、強化材及び/または充填材としてポリカーボネートに配合する方法が試みられている。
しかしながら、これらの無機化合物を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物では、成形加工時において、無機化合物により芳香族ポリカーボネートの分解劣化が促進されるという問題がある。特に、タルクやマイカなどの塩基性の無機化合物を使用した場合において、芳香族ポリカーボネートの溶融安定性が著しく低下し、材料の物性が大きく損なわれるという問題があった。
【0004】
この問題に対して、特許文献1の特開平2−283760号公報ではリン化合物を併用することにより、特許文献2の特開平3−21664号公報では有機酸を併用することにより、また、特許文献3の特開平10−60248号公報では、スルホン酸ホスホニウム塩を併用することによって、芳香族ポリカーボネートの分子量の低下を抑制する方法が提案されているが、これらの方法では溶融安定性、特に高温での溶融安定性が不十分であることから、成形加工温度範囲が制限されるという問題があった。
一方、OA機器や電気・電子機器用として使用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物では、高い剛性と寸法精度だけでなく、高度な難燃性も求められており、最近では、環境に対する配慮から、難燃剤として、臭素系化合物あるいはリン系化合物を使用しない難燃性の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物による成形体が求められている。
【0005】
特許文献4の特開2002−80709号公報では、芳香族ポリカーボネートに対して無機充填材、有機リン化合物難燃剤、及び有機酸アルカリ金属塩を配合した樹脂組成物において、0.8mm厚みの試験片においてUL94規格でV−0が達成されているが、リン系難燃剤を使用しており、また、同組成物を用いた成形体は高温高湿下での物性の低下が著しいという欠点がある。
特許文献5の特開2003−82218号公報、特開2003−268226号公報では、芳香族ポリカーボネートに対して有機酸金属塩、アルコキシシラン化合物、含フッ素ポリマー、無機充填剤、場合により更に、有機シロキサン化合物を配合した樹脂組成物が開示されている。同組成物は、有機シロキサン化合物を配合した場合において0.8mm厚みの試験片においてUL94規格でV−0が達成されているが、有機シロキサン化合物の熱安定性が不十分であるために、高い溶融樹脂温度では容易に変色する、揮発成分の発生量が多くなる等の欠点がある。
【0006】
特許文献5の特開2003−82218号公報、特許文献6の特開2003−268226号公報では、芳香族ポリカーボネートに対してフッ素含有樹脂、及び珪酸塩化合物を配合した樹脂組成物が開示されているが、同組成物の難燃性、並びに溶融安定性は、十分なものではない。
すなわち、従来技術では、無機化合物を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、難燃剤として、臭素系化合物あるいはリン系化合物を使用することなく、薄肉の成形体での高度難燃性(例えば、製品厚み0.7mm未満で、UL94規格でV−0を達成できるような高度な難燃性)を有し、且つ、成形材料としての溶融安定性や機械的強度に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物による薄肉成形体は、未だ得られておらず、その開発が望まれていた。
また、特許文献7の特開平3−21664号公報では、芳香族ポリカーボネートに対してタルクと有機酸を配合した樹脂組成物を開示してあるが、実際の成形温度に耐えて外観不良の課題を実質的に解決するような有機酸の規定が不十分であると同時に、十分な外観改良を達成できる成形方法についても記載がされていない。
【0007】
【特許文献1】特開平2−283760号公報
【特許文献2】特開平3−21664号公報
【特許文献3】特開平10−60248号公報
【特許文献4】特開2002−80709号公報
【特許文献5】特開2003−82218号公報
【特許文献6】特開2003−268226号公報
【特許文献7】特開平3−21664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、剛性や強度などの機械的特性、あるいは難燃性などの性能が改善された固体無機化合物を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を優れた外観特性を有する成形体として得るための製造方法及び成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した。その結果驚くべき事に、芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂成分(A)100質量部、固体無機化合物(B)0.1〜200質量部、有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物(C)0.001〜3質量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形方法する際に、溶融樹脂の第一の射出工程後に溶融樹脂を計量し、該計量部の容積増加率10%以下にて第二の射出工程に移行することを特徴とする射出成形体の製造方法、言い換えれば、溶融樹脂の計量後に樹脂にかかる圧力を保ったまま射出工程に移行する射出成形方法を用いることで、機械的特性、溶融安定性に優れ、更に外観良好な成形品を容易に得られることを見出し本発明に至った。
【0010】
また、該射出成形方法を、芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂成分(A)100質量部、固体無機化合物(B)0.1〜200質量部、140℃における蒸気圧が、380mmHg以下である有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物(C)0.001〜3質量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、該化合物(C)の量が該固体無機化合物(B)と該化合物(C)との混合物のpH値が4〜8となる量である芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に対して用いることによって250℃以上といった高温のポリカーボネートの成形温度でも、成形品の外観が一層良好な成形品を容易に得られることを見出し本発明に至った。これら新しい知見に基づき本発明を完成したものである。
【0011】
従って、本発明の1つの目的は、ポリカーボネート樹脂の剛性、強度、あるいは難燃性といった付加的性能を高めるために固体無機化合物を入れても樹脂の分解、強度低下が起こらないような組成物を提供し、更に外観に優れた成形体を作成する成形法を提供することにある。
また、難燃剤として臭素系化合物或いはリン系化合物を使用することなく高度な難燃性を有する外観に優れた成形体を得るための成形方法を提供することにある。特に、本発明により、薄肉の成形体であっても、極めて高度な難燃性を有するのみならず、優れた溶融安定性、耐熱エージング性、耐湿熱性、剛性及び耐衝撃性を有する芳香族ポリカーボネート成形体を提供することにある。
【0012】
次に本発明の理解を容易にするために、まずは発明の基本的特長及び好ましい諸態様を列挙する。
即ち、本発明は、下記1−13の発明である。
1.芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂成分(A)100質量部、固体無機化合物(B)0.1〜200質量部、有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物(C)0.001〜3質量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形する際に、溶融樹脂の第一の射出工程後に溶融樹脂を計量し、該計量部の容積増加率10%以下にて第二の射出工程に移行することを特徴とする射出成形体の製造方法。
2.上記射出成形は、その成形に用いる射出成形機のノズルが、開閉弁を備えていることを特徴とする前記1.に記載の射出成形体の製造方法。
3.該開閉弁は、射出工程に移行するために上記開閉弁を開放するにあたり開閉弁の開放直前の射出シリンダ内の計量された溶融樹脂の圧力が1kgf/cm以上で操作されることを特徴とする前記2.に記載の射出成形体の製造方法。
4.該射出成形は、その射出成形に用いる金型がホットランナーを有することを特徴とする前記1.〜3.に記載の射出成形体の製造方法。
5.ホットランナーが、バルブゲートを有することを特徴とする前記4.に記載の射出成形体の製造方法。
6.芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、有機酸アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の有機酸金属塩0.001〜1質量部を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする前記1.〜5.に記載の射出成形体の製造方法。
7.芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、フルオロポリマー0.01〜1質量部を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする前記1.〜6.に記載の射出成形体の製造方法。
8.芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、着色剤を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする前記1〜7に記載の射出成形体の製造方法。
9.芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、紫外線吸収剤を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする前記1〜8に記載の射出成形体の製造方法。
10.芳香族樹ポリカーボネート脂組成物が、導電性充填材を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする前記1〜8に記載の射出成形体の製造方法。
11.上記1〜8に記載の射出成形体の製造方法による成形体の表面にシルバーストリークスやフローマークの外観不良が無いことを特徴とする射出成形体。
12.射出成形体が、ハウジング用成形体であることを特徴とする前記11の射出成形体。
13.射出成形体が、自動車または自動車部品用成形体であることを特徴とする前記11の射出成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、剛性や強度などの機械的特性、あるいは難燃性などの性能が改善された固体無機化合物を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を優れた外観特性を有する成形体として得るための製造方法及び成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、発明を詳細に説明する。
本発明において成分(A)は、芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂である。本発明において、芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂とは、該樹脂の総量を100質量部とした場合に該樹脂中の芳香族ポリカーボネートの量が50質量部を超えるものを意味する。成分(A)は芳香族ポリカーボネート単独でもよく、また、成分(A)は芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。
本発明の成分(A)として好ましく用いられる芳香族ポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物より誘導される芳香族ポリカーボネートであり、芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテル等のジヒドロキシアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルフィド等のジヒドロキシアリールスルフィド類、4、4’−ジヒドロキシジフェニルスルオキシド、4、4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルスルホキシド等のジヒドロキシアリールスルホキシド類、4、4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3、3’−ジメチルフェニルスルホン等のジヒドロキシアリールスルホン類などを挙げることができる。
【0015】
これらの中で、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称、ビスフェノールA)が特に好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の成分Aとして好ましく用いられる芳香族ポリカーボネートとしては、公知の方法で製造したものを使用することができる。具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応せしめる公知の方法、例えば芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(例えばホスゲン)を水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(例えばホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(例えばジフェニルカーボネート)などを反応させるエステル交換法(溶融法)、ホスゲン法または溶融法で得られた結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法(特開平1−158033、特開平1−271426、特開平3−68627)などの方法により製造されたものを用いることができる。
【0016】
本発明の成分(A)として使用される芳香族ポリカーボネートとして特に好ましいものは、二価フェノール(芳香族ジヒドロキシ化合物)と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まない芳香族ポリカーボネートである。
上記芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は、通常、5,000〜500,000であり、好ましくは10,000〜100,000であり、より好ましくは13,000から50,000、更に好ましくは15,000〜30,000、特に好ましくは17,000〜25,000であり、最も好ましくは17,000〜20,000である。
【0017】
本発明において、芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができ、テトラヒドロフランを溶媒として、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式による換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
PC=0.3591MPS1.0388
(MPCは芳香族ポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量)
また、本発明の(A)として、分子量が異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネートを組み合わせて使用しても良い。例えば、Mwが通常14,000〜16,000の範囲にある光学ディスク用材料の芳香族ポリカーボネートと、Mwが通常20,000〜50,000の範囲にある射出成形用あるいは押出成形用の芳香族ポリカーボネートを組み合わせて使用することができる。
【0018】
上記芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂(A)において、好ましく使用することができる芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS樹脂)、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・スチレン樹脂(BAAS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂(MBS樹脂)、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・スチレン樹脂(AAS樹脂)、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、コア/シェル型の耐衝撃性改良エラストマー、シリコーンエラストマーなどの熱可塑性樹脂を挙げることができる。特にAS樹脂、BAAS樹脂は流動性を向上させるのに好ましく、ABS樹脂、MBS樹脂は耐衝撃性を向上させるのに好ましく、またポリエステル樹脂は耐薬品性を向上させるのに好ましい。
【0019】
上記ポリカーボネートを主体とする樹脂(A)において、芳香族ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂の使用量は、成分(A)の総量100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜20質量部、さらに好ましくは1〜15質量部である。
本発明において成分(B)は、固体無機化合物である。
本発明において、成分(B)の使用により、樹脂組成物の高度な難燃性を獲得できると共に、組成物の剛性や強度の向上(強化材としての機能)や、寸法精度の向上(充填材としての機能)を図ることもできる。
【0020】
本発明において成分(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ロックウール、窒化ケイ素ウィスカー、ボロン繊維、テトラポット状酸化亜鉛ウィスカー、ワラステナイトなどを挙げることができる。
板状の成分(B)としては、例えば、タルク、マイカ、パールマイカ、ガラスフレーク、カオリンなどを挙げることができる。
球状(もしくは擬球状)の成分(B)としては、例えば、ガラスビーズ、ガラスバルーン、カーボンブラック、ガラスパウダー、シリカ(天然シリカ及び合成シリカ)等を挙げることができる。
【0021】
本発明で使用される成分(B)としては、本発明の樹脂組成物における芳香族ポリカーボネートとの界面親和力を向上させるために表面改質されているものを使用することもできる。ここでいう表面改質は、あらかじめ新油性の有機化合物を吸着させる方法や、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤で処理する方法によって行うことができる。
本発明では、成分(B)として、炭素繊維、またはタルク、マイカ、パールマイカ、ワラステナイト、カオリン、ガラス繊維、ガラスフレーク等の珪酸塩化合物が好ましい。
本発明の成分(B)としてより好ましく使用することができる上記珪酸塩化合物の中でも特に好ましい珪酸塩化合物は、金属酸化物成分とSiO成分とからなる珪酸塩化合物である。成分(B)として使用することができる珪酸塩化合物中に存在する珪酸イオンの形態としては、オルトシリケート、ジシリケート、環状シリケート、鎖状シリケート、層状シリケート等のいずれの形態であっても良い。
【0022】
上記珪酸塩化合物は、複合酸化物、酸素酸塩、固溶体のいずれの化合物でも良く、更に複合酸化物は2種類以上の異なる単一酸化物の組み合わせ、及び単一酸化物と酸素酸塩との組み合わせのいずれであってもよく、更に固溶体は2種類以上の異なる金属酸化物の固溶体、及び2種類以上の異なる酸素酸塩の固溶体のいずれであっても良い。
また、上記珪酸塩化合物は水和物であっても良い。水和物における結晶水の形態は、Si−OHの形で水素珪酸イオンとして含まれるもの、金属陽イオンに対して水酸イオン(OH)として含まれるもの、構造の隙間に水分子として含まれるものなどいずれであってもよい。
【0023】
また、上記珪酸塩化合物は、天然物及び人工合成物のいずれも使用することができる。人工合成物としては、従来公知の各種の方法、例えば固体反応、水熱反応、及び超高圧反応などを利用した各種の合成法から得られた珪酸塩化合物が利用できる。
本発明の成分(B)として特に好ましく使用される珪酸塩化合物は、好ましくはその組成が実質的に下記式(1)で示されるものである。
xMO・ySiO・zHO (1)
(ここでx及びyは自然数を表し、zは0以上の整数を表し、MOは金属酸化物成分を表し、複数の異なる金属酸化物成分であっても良い。)
上記金属酸化物MOにおける金属Mの例としては、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、カルシウム、亜鉛、マンガン、鉄、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム、アルミニウム、チタンなどを上げることができる。
【0024】
上記式(1)の珪酸塩化合物は、金属酸化物MOとして、CaO及び/またはMgOを含むことが好ましく、実質的にCaO及び/又はMgOのみを含むことが更に好ましく、実質的にMgOのみを含むことが特に好ましい。
本発明の成分(B)として好ましく使用される珪酸塩化合物の具体例としては、タルク、マイカ、ワラステナイト、ゾノトライト、カオリンクレー、モンモリロナイト、ベントナイト、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ローソナイト、スメクタイト等を挙げることができる。
また、上記したように珪酸塩化合物は、任意の形状(板状、針状、球状、繊維状等)のものが使用できるが、板状、針状及び繊維状のものが好ましく、中でも特に、板状の粒子であるものが本発明の成分(B)として最も好ましく使用できる。ここで板状の粒子とは、下記の方法で求めた、板状の成分(B)のメディアン径として求められる平均粒子径を(a)とし、厚みを(c)とした場合に、(a)/(c)の比が5〜500、好ましくは10〜300、更に好ましくは20〜200である形状のものである。
【0025】
本発明において、成分(B)の上記の平均粒子径(a)は、0.001〜500μmが好ましく、0.01〜100μmがより好ましく、0.1〜50μmが更に好ましく、1〜30μmが特に好ましい。
尚、上記の平均粒子径は、成分(B)の粒子径のおよその分布範囲により、以下2つの方法のいずれかを用いて測定する。
成分(B)の粒子径がおよそ0.001〜0.1μmの範囲に分布する場合は、透過型電子顕微鏡の観察写真を撮影し、得られた顕微鏡写真から、樹脂組成物中における100個以上の個々の無機化合物粒子に対して、写真上での各粒子の面積をそれぞれ計測し、S(上記写真上での面積を顕微鏡の倍率で除した値)を用いて(4S/π)0.5を各粒子の粒子径として求め、数平均粒子径を平均粒子径(a)とする。
【0026】
成分(B)の粒子径がおよそ0.1〜300μmの範囲分布する場合は、レーザー回折法により(例えば、日本国島津製作所製SALD−2000を使用して)粒子径を計測し、メディアン径を平均粒子径とする。
本発明において、板状の成分(B)の厚み(c)は、0.01〜100μmが好ましく、0.03〜10μmがより好ましく、0.05〜5μmが更に好ましく、0.1〜3μmが特に好ましい。
成分(B)として用いる板状粒子の厚み(c)は、例えば透過型電子顕微鏡の観察写真を撮影し、得られた顕微鏡写真から、樹脂組成物中における10個以上の個々の粒子に対して、写真上での各粒子の厚みをそれぞれ計測し、上記写真上での厚みを顕微鏡の倍率で除した値を各粒子の厚みとして求め、その平均値を厚み(c)とする。
【0027】
本発明の成分(B)として使用することができる板状の珪酸塩化合物の中でも、特に好ましいものは、タルク、及びマイカである。
本発明の成分(B)として、特に好ましく使用できるタルクとは、層状構造を持つ含水珪酸マグネシウムであり、化学式4SiO・3MgO・HOで表され、通常、SiO約63質量%、MgO約32質量%、HO約5質量%、その他Fe、CaO、Alなどを含有しており、比重は約2.7である。
また、本発明の成分(B)として、焼成タルクや、塩酸や硫酸等の酸で洗浄して不純物を除いたタルクなども好ましく使用することができる。さらに、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等で表面疎水性処理を行ったタルクも使用することができる。
【0028】
一方、本発明の成分(B)として、特に好ましく使用できるマイカとは、アルミニウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄などを含んだ珪酸塩鉱物の粉砕物である。マイカには白雲母(マスコバルト、化学式:K(AlSi10)(OH)2Al(AlSi10)K)、金雲母(フロゴパイト、化学式K(AlSi10)(OH)Mg(OH)(AlSi10)K),黒雲母(バイオタイト、化学式K(AlSi10)(OH)(Mg,Fe)(OH)(AlSi10)K)、人造雲母(フッ素金雲母、化学式K(AlSi10)(OH)Mg(AlSi10)K)等があり、本発明においてはいずれのマイカも使用できるが、好ましくは白雲母である。
【0029】
また、かかるマイカはシランカップリング剤やチタネートカップリング剤等で表面疎水性処理されていても良い。
本発明において成分(B)の使用量は、成分(A)100質量部に対して0.1〜200質量部であり、0.3〜100質量部が好ましく、0.5〜50質量部がより好ましく、0.8〜30質量部が更に好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。成分(B)が200質量部を超える場合、溶融安定性の低下が顕著となり、樹脂組成物の機械的物性の低下が大きい。また、成分(B)が0.1質量部未満の場合、樹脂組成物の難燃性が低下する傾向にあり、本発明の目的の一つである高い難燃性が達成できない。
【0030】
また、本発明において成分(B)として、板状の形態であるもの、例えば、タルク及びマイカを使用する場合は、薄肉の成形体であってもとりわけ優れた難燃性を達成できるとともに、樹脂組成物の耐衝撃性、寸法安定性、絶縁性や耐トラッキング性等の電気的特性も向上させることができるので本発明の実施形態として最も好ましい。
本発明で用いられる成分(C)は、有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩、有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。成分(C)は、好ましくは、140℃における蒸気圧が380mmHg以下である化合物が望ましい。
【0031】
本発明において成分(C)の使用量は、成分(A)100質量部に対して0.001〜3質量部であり、0.005〜2質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.05〜0.8質量部が更に好ましく、0.08〜0.5質量部が特に好ましい。成分(C)が3質量部を超える場合、あるいは0.001質量部未満の場合は溶融安定性の低下が顕著となり、樹脂組成物の機械的物性の低下が大きく、また、樹脂組成物の難燃性が低下する傾向にあり、本発明の目的とする高い難燃性が達成できない。
本発明では成分(C)を成分(B)と組み合わせて使用し、成分(C)の使用量を、成分(B)と成分(C)との混合物のpH値が4〜8の範囲となるように調整することにより、樹脂組成物の難燃性や溶融安定性を飛躍的に向上させることができ、特に好ましい。
【0032】
本発明の成分(C)として用いられる有機酸とは、−SOH基、−COOH基、及び−POH基からなる群から選ばれる基を分子構造中に少なくとも1つ含む有機化合物、即ち有機スルホン酸、有機カルボン酸、有機リン酸である。本発明ではこれらの中でも有機スルホン酸、有機カルボン酸が好ましく、特に有機スルホン酸が好ましい。
また、本発明の成分(C)として用いられる有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩とは、上記有機酸の誘導体である。上記有機酸誘導体は、樹脂組成物を成形する際に分解し、酸として機能すると考えられる。従って例えば成分(B)として、塩基性を示す無機化合物を用いた場合、成分(C)はこれを中和する機能を発揮するものと考えられる。即ち本発明の組成物において、成分(C)はpH調節機能を発揮するものである。
【0033】
上記化合物(C)は、単量体などの低分子化合物のみならず、オリゴマー状あるいはポリマー状のものを使用することができる。本発明において、成分(C)は二種以上を併用することもできる。本発明の成分(C)として、特に、有機スルホン酸及び/または有機スルホン酸エステル、有機スルホン酸ホスホニウム塩、有機スルホン酸アンモニウム塩から選ばれる有機スルホン酸誘導体、有機カルボン酸を好ましく使用することができる。
中でも、成分(C)として有機スルホン酸及び/または有機スルホン酸エステルを使用する場合には、樹脂組成物の溶融安定性が特に優れており、揮発成分の発生も低レベルに抑えることができるために、広い温度範囲で成形加工が行えると共に、成形品の外観にも極めて優れている。
【0034】
本発明の成分(C)として、好ましく使用することができる有機スルホン酸として、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸、ジイソブチルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの方向族スルホン酸、炭素数8〜18の脂肪族スルホン酸、スルホン化ポリスチレン、アクリル酸メチル・スルホン化スチレン共重合体等のポリマーまたはオリゴマー状の有機スルホン酸などを挙げることができる。
さらに本発明において、成分(C)として好ましく使用される有機スルホン酸は、分子構造中に−SOH基の他に、−OH基、−NH基、−COOH基、ハロゲン基などを含む有機スルホン酸化合物であっても良く、たとえばナフトールスルホン酸、スルファミン酸、ナフチルアミンスルホン酸、スルホ安息香酸、クロル基により全置換もしくは部分置換された有機スルホン酸(クロル基含有有機スルホン酸)、フルオロ基により全置換もしくは部分置換された有機スルホン酸(フルオロ基含有有機スルホン酸)等を挙げることができる。
【0035】
本発明において用いられる成分(C)として、芳香族スルホン酸化合物が特に好ましく、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などは最も好ましい例として挙げる事ができる。
本発明において、成分(B)と成分(C)との混合物のpH値が、4〜8の範囲となる量が好ましいが、本発明においてpH値は、JIS K5101に基づいて測定することができる。
JIS K5101のpH値の測定法では、操作法として煮沸法と常温法があるが、本発明では煮沸法を用いる。
また、本発明における成分(B)と成分(C)の混合物のpH値の測定では、成分(C)の水に対する溶解度が低い場合は、エタノールやイソプロピルアルコール等のアルコール類を懸濁液の分散剤として使用する。
本発明における成分(C)の使用量は、成分(B)の種類や形状や量、或いは成分(C)の種類に応じて変化する。
成分(C)の使用量は、成分(B)と成分(C)の混合物のpHが4.2〜7.8の範囲となる量であることがより好ましく、4.5〜7.2の範囲にあることがさらに好ましい。
【0036】
本発明の射出成形は、その成形に用いる射出成形機のノズルが、開閉弁を備えていることを特徴とする射出成形体の製造方法が望ましい。
本発明における溶融樹脂の計量とは、射出成形において溶融樹脂の金型への充填後に次いで充填するために射出成形機内のシリンダー内のスクリュウを後退させ、シリンダー前部に所望量の溶融樹脂を計量する事を示す。
本発明における、溶融樹脂を計量後の、該計量部の容積増加率とは、樹脂計量直後の計量部の容積をV1とし、その後溶融樹脂を供給せずにスクリューを後退させた時の計量部の容積をV2としたときの容積増加率(V2−V1)/V1を示す。
本発明では該計量部の容積増加率は、10%以下であり、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、最も好ましくは実質容積増加率0%である。
【0037】
溶融樹脂の計量時には、スクリューを回転させながら後退させ、溶融樹脂を前方に搬送するが、その際に溶融樹脂からのガス、蒸気等を排出するために一般に背圧と称される圧力を計量過程にある溶融樹脂に与える。該背圧は、条件にもよるが、一般に樹脂圧で10kgf/cm以上1000kgf/cm以下、好ましくは50kgf/cm以上800kgf/cm以下、更に好ましくは、100kgf/cm以上500kgf/cm以下である。背圧を与えられながら計量された樹脂は、シリンダー先端の計量部にためられるが、計量時にノズル先端は金型スプルブッシュに押し付けられていて先端に圧力がかかっている。ノズル先端に圧力がかかったままノズルをバックさせたり、ノズル先端に存在している前工程の固化したスプルを取り除くと、材料によってはノズル先端から計量した溶融樹脂が排出され、一般に「はなたれ」と称される現象が発生することがある。
【0038】
この「はなたれ」を防止する一般的な手法として、以下の二つが良く使用される。一つ目の方法としては、計量終了後に圧力のかかった樹脂の圧力を緩和するためにスクリューをシリンダー後方へわずかに後退させるサックバックといった手法がある。一般にサックバック量は成形機の大きさにもよるが、一般的には5〜10mm程度である。このサックバックによって、計量部の容積が増加する。本発明における計量部の容積増加率は、サックバック量が大きいほど大きくなる。
二つ目の方法としては、計量時或いは計量後にノズル先端から樹脂が排出しないようにノズル先端に開閉弁を設けて溶融樹脂の排出を防止する方法である。開閉弁を備えたノズルの一例としては、「シャットオフノズル」が一般に使用される。シャットオフノズルの開閉弁は、空圧、油圧等の動力を用いるもの、バネのような機械的弾性力を利用したものなどが使用できる。シャットオフノズルを使用したときには、一般にサックバックを行わず樹脂計量後直ちにノズル先端の開閉弁を閉じるため、本発明における計量部の容積増加率は0%である。
【0039】
本発明における第二の射出工程とは、所定の計量部の容積増加率にて計量した次の射出工程、即ち射出シリンダーを前進させて計量部の溶融樹脂を金型に射出充填する工程のことを示す。
本発明における開閉弁を開放するにあたり開閉弁の開放直前の射出シリンダー内の計量された溶融樹脂の圧力が1kgf/cm以上とは、溶融樹脂にかけられた背圧を完全に開放しないことを示し、好ましくは10kgf/cm以上、更に好ましくは、50kgf/cm以上である。
本発明において、使用される金型内に設置されるホットランナーとは、金型内にヒーターを備えたランナー部を有する一般的にホットランナーと称されるものであれば好ましく良く、より好ましくはバルブブゲートを備えたものが望ましい。バルブゲートとは、ホットランナー先端のゲート部に開閉弁を設けたものであり、ノズルのシャットオフ弁と同様な働きを行い、樹脂をキャビティ内に充填するときに開放し、樹脂充填後次の射出時まで閉鎖される。これにより溶融樹脂のゲート部からの不要な漏洩が防止されるため、サックバック等の操作が不要となり、計量部の容積増加率を抑えることができる。
【0040】
本発明における有機酸アルカリ金属塩および有機酸アルカリ土類金属塩は、芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂(A)に対して、燃焼時に芳香族ポリカーボネートの脱炭酸反応を促進する作用がある。
本発明の有機酸金属塩は、有機スルホン酸の金属塩および/または硫酸エステルの金属塩であり、これらは単独の使用だけでなく2種類以上を混合して使用することも可能である。
本発明の有機酸金属塩含まれるアルカリ土類金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カリウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。本発明において、特に好ましいアルカリ金属はリチウム、ナトリウム、カリウムであり、最も好ましいのはナトリウム、カリウムである。
【0041】
本発明で好ましく使用することができる上記有機スルホン酸の金属塩としては、脂肪族スルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩、芳香族スルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩などが挙げられる。尚、本明細書中で「アルカリ/アルカリ土類金属塩」は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩のいずれも含む意味で使用する。
脂肪族スルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩としては、炭素数1〜8のアルカンスルホン酸のアルカリ/アルカリ/アルカリ土類金属塩、またはかかるアルカンスルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩のアルキル基の一部がフッ素原子で置換されたスルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩、さらには炭素数1〜8のパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩を好ましく使用することができ、特に好ましい具体例として、パーフルオロエタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩を挙げることができる。
【0042】
本発明における有機酸金属塩の中で、より好ましいアルカリ/アルカリ土類金属塩として、芳香族スルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩およびパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ/アルカリ土類金属塩を挙げることができる。
本発明において有機酸金属塩の使用量は、成分(A)100質量部に対して0.001〜1質量部であり、0.01〜0.9質量部が好ましく、0.1〜0.8質量部が更に好ましく、0.4〜0.7が最も好ましい。有機金属塩が1質量部を超える場合、溶融安定性の低下が顕著であり、樹脂組成物の機械的物性の低下が大きい。また0.001質量部未満の場合、樹脂組成物の難燃性が低下する傾向にあり、本発明の目的の一つとする高い難燃性を達成し難い。
【0043】
本発明で用いることのできるフルオロポリマーは、燃焼物の滴下を防止する目的で使用される。本発明で好ましく使用することができるフルオロポリマーは、フィブリル形成能力を有するものであり、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・プロピレン共重合体のテトラフルオロエチレンポリマーを好ましく使用することができ、特に好ましくはポリテトラフルオロエチレンである。
フルオロポリマーは、ファインパウダー状のフルオロポリマー、フルオロポリマーの水性ディスパージョン、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)やポリメチルメタクリレート(PMMA)等の第2の樹脂との紛体状混合物等、様様な形態のフルオロポリマーを使用することができる。
【0044】
本発明で好ましく使用できるフルオロポリマーの水性ディスパージョンとして、三井デュポンフロロケミカル(株)製「テフロン(登録商標)30J」、ダイキン工業(株)製「ポリフロンD−1(登録商標)」、「ポリフロンD−2(登録商標)」、「ポリフロンD−2C(登録商標)」、「ポリフロンD−2CE(登録商標)」、を例示することができる。
また、本発明では、ASやPMMA等の第2の樹脂との紛体状混合物としたフルオロポリマーも好適に使用することができるが、これらの第2の樹脂との紛体状混合物としたフルオロポリマーに関する技術は、特開平9−95583号公報、特開平11−49912号公報、特開2000−143966号公報、特開2000−297189号公報等に開示されている。本発明において好ましく使用できる、これら第2の樹脂との紛体状混合物としたフルオロポリマーとして、米国GEスペシャリティケミカルズ製「Blendex 499(登録商標)」、三菱レーヨン(株)製「メタブレンA−3800(登録商標)」を例示することができる。
【0045】
本発明で用いることのできるフルオロポリマーの配合量は、成分(A)100質量部に対して0.01〜1質量部であり、好ましくは0.05〜0.8質量部、より好ましくは0.1〜0.7質量部である。フルオロポリマーが1質量部を超える場合、樹脂組成物の機械的物性が低下する傾向にある。また、0.01質量部未満の場合、燃焼物の滴下が生じやすく、燃焼性が低下する傾向にある。
本発明では、芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂成分(A)100質量部、固体無機化合物(B)0.1〜200質量部、140℃における蒸気圧が、380mmHg以下である有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の成分(C)をより好ましく特定した化合物(C’)0.001〜3質量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物も提供する。樹脂成分(A)、(B)は、前記記載のものと同様な化合物ものが使用できる。
【0046】
成分(C’)としては、有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物であって、140℃における蒸気圧が380mmHg以下、好ましくは100mmHg以下、更に好ましくは50mmHg以下の化合物より選択できる。成分(C’)として、蒸気圧の高い化合物を用いた場合、ポリカーボネートのような250℃以上、一般に280℃以上、時には300℃以上、更に厳しくは320℃以上の成形温度で使用する場合、或いは金型温度60℃以上、一般に80℃以上、時には100℃以上、更に厳しくは120℃以上である場合、蒸気圧の低い化合物を用いた場合には、容易に気化して本発明の目的とする得られる成形品の高外観や十分な物性が得られないといった問題が生じることがある。
【0047】
(C’)の好ましい具体例としては、 蒸気圧の低い芳香族系化合物が好ましく、芳香族スルホン酸化合物が特に好ましく、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などは最も好ましい例として挙げる事ができる。
本発明の組成物に用いられる有機金属塩、フルオロポリマーは、前述の化合物より選択したものを用いることができる。
本発明で用いることが出来る着色剤とは、樹脂の着色に使用される顔料や染料であり、例えば、チタンホワイト(酸化チタン)、チタンイエロー、ベンガラ、群青、スピネルグリーン等の無機顔料、縮合アゾ系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、イソインドリノン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、アンスラキノン系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料等の有機顔料、カーボンブラック、ペリレン系染料、ペリノン系染料、アンスラキノン系染料、複素環系染料の染料をあげることができる。
【0048】
着色剤の中で、酸化チタンは製造方法および結晶構造によって限定されるものではないが、塩素法により製造され、ルチル形の結晶構造をとる酸化チタンが好ましい。また、着色剤としての該酸化チタンは、通常酸化チタンの表面処理剤として使用される処理剤であらかじめ処理されていても構わない。かかる処理剤としては、例えばアルミナおよびシリカが挙げられ、各々単独で使用しても、併用して使用することができる。さらに、表面処理剤として、有機分散剤や安定剤等を含むことも可能である。
本発明で用いることが出来る紫外線吸収剤とは、ポリカーボネート樹脂に一般に使用されるものであれば特に制限は無く、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、などがあげられる。また、耐候性を更に改良するためにヒンダードアミン系の光安定剤や各種酸化防止剤を含んでも良い。
【0049】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタンなどが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1’, 3,3’−テトラメチルブチル)フェノン、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’, 5’−ジフェニル−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’, 5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物などが挙げられる。
【0050】
本発明で用いることのできる導電性充填材とは、金属繊維、金属箔、金属粉、カーボン粉、表面に金属をコーティングしたガラス繊維、金属メッキを施したマイカから選択される一種以上一般に樹脂の導電性を向上させるために使用されているものであれば特に限定はない。特に好ましくは、カーボン繊維であり、繊維径2〜30μmで繊維長が1〜30mmであるものが好ましい。カーボン繊維としては、PAM系、ピッチ系のいずれのものも使用できる。カーボン繊維の添加量としては樹脂成分100質量部に対して5〜85質量部、好ましくは5〜60質量部である。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物では、必要に応じて、更に、滑剤、離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤などを添加することもできる。
【0051】
上記添加剤の使用量は、樹脂組成物の総量100質量部に対して通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。
次に本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の樹脂組成物は上記の各成分(A)〜(C’)又は(C)、必要に応じてその他の成分を上記の組成割合で配合し、押出機等の溶融混練することにより得ることが出来る。このときの各構成成分の配合、および溶融混練は一般に使用されている装置、たとえばタンブラー、リボンブレンダー等の予備混合装置、単軸押出機や二軸押出機、コニーダー等の溶融混練装置を使用することが出来る。また、溶融混練装置への原材料の供給は、予め各成分を混合した後に供給することも可能である。それぞれの成分を独立して溶融混練装置に供給することも可能である。
【0052】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造にあたり、成分(A)の形状に関しては特に制限は無いが、例えば、ペレット状、パウダー状、フレーク状などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物を製造するにあたり、成分(B)は、予めその表面及び内部を、成分(C’)又は(C)によって、共有結合、イオン結合、分子間力、水素結合等を介して、化学的または物理的に表面処理した後に、溶融混練装置に供給されることが好ましい。
【0053】
成分(B)を成分(C’)又は(C)により、予め表面処理する方法としては、例えば以下の方法を示すことができる。成分(B)に対して、成分(C’)又は(C)を所定量配合し、必要により成分(C’)又は(C)は、溶融状態、溶液状態、あるいはガス状態として、噴霧、滴下、湿潤、浸漬などの方法により成分(B)に接触させ、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサー、Vブレンダー、タンブラー等の機械的混合装置を用いて混合攪拌処理を行ない、しかる後に過剰成分の脱気及び乾燥処理を行なう方法を例示することが出来る。該混合攪拌処理は、成分(C’)又は(C)の融点以下の温度で行なっても良いが、成分(C’)又は(C)の融点以上の温度まで加熱昇温して行なうことがより効果的である。該混合攪拌に要する時間は混合装置の種類にもよるが、通常1分〜3時間、好ましくは2分〜1時間、より好ましくは3分〜40分、更に好ましくは5分〜30分である。混合装置としては、加熱装置付きのヘンシェルミキサー、ナウタ−ミキサーを特に好ましく使用することが出来る。また、混合攪拌処理の後に過剰の(C’)又は(C)成分を減圧及び/または過熱により脱揆除去し、十分に乾燥させることが好ましい。
【0054】
本発明の樹脂組成物を製造するための溶融混練装置として、通常は押出機、好ましくは2軸押出機が使用される。成分(B)は押出機の途中からサイドフィードすることもできる。溶融混練は、通常、押出機のシリンダー設定温度を200〜300℃、好ましくは220〜270℃とし、押出機回転数100〜700rpm、好ましくは、200〜500rpmの範囲で適宜選択して行うことができるが、溶融混練に際し、過剰の発熱を与えないように配慮する。さらに、押出機の後段部分に開口部を設けて、開放脱揮、必要に応じて減圧脱揮を行なうことも有効である。また、原料樹脂の押出機内滞留時間は通常、10〜60秒の範囲で適宜選択される。
【0055】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形品を得るための成形方法は通常の成形方法で良く、一般の押出し成形、異型押出し成形、シート押出、インフレーション成形、カレンダー成形、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、ブロー成形も用いることができる。特に薄肉成形体を得るには射出成形、射出圧縮成形が好ましく用いられる。射出成形の場合、薄肉成形品を作成するための特殊な手法として溶融樹脂内に窒素又は二酸化炭素を可塑剤として溶解させ、溶融樹脂の流動性を向上させる方法を用いても良い。窒素や二酸化炭素は、適宜射出成形機シリンダーにベント部を設けてそこから注入しても良い。また、成形品の転写性を向上させたり、前記窒素や二酸化炭酸を溶融樹脂に溶解した樹脂を金型内に充填するときの外観上の不具合(スワールマーク)を防止するために溶融樹脂を金型内に充填する前に、予め金型内に窒素ガスや二酸化炭素を充填しておいても良い。この場合、転写性を向上させる目的では、二酸化炭素が好ましく用いられる。更に成形体を押し出し成形、射出成形時に発泡させるためにアゾ化合物系や重曹などの化学発泡剤や窒素、二酸化炭素等の物理発泡剤を用いて発泡成形体を成形しても良い。
【0056】
また本発明では、成形体の表面にシルバーストリークス、フローマークのような外観不良のない高度に外観良好な成形体も提供できる。
本発明成形体の例としては、デスクトップパソコンやノート型パソコンなどのコ
ンピューター部品、携帯電話部品、電気・電子機器、携帯情報端末、家電製品部品などに用いられる。特に薄肉成形シートとしては、絶縁フィルム、絶縁シートなどが挙げられる。更に近年薄肉成形体の要望が高まっているバッテリーケース、プラスチックフレームなども好適な用途として挙げることができる。
また、自動車、車両部品としてドア周りパネル、ドア、フェンダーなどの外装部品やインパネ等の内部部材の用途としても上げることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例において以下の成分(A)、(B)、(C)及びその他の成分を使用し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形体を作製した。
1.成分(A):芳香族ポリカーボネート
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法により製造されたビスフェノールA系ポリカーボネートであり、ヒンダ−ドフェノール系酸化防止剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを300ppm含むもの。
質量平均分子量(Mw)=21,800
フェノール性末端基比率(フェノール性末端基が全末端基数に占める割合)=35モル%
フェノール性末端基比率は核基磁気共鳴法(NMR法)で測定した。
【0058】
2.成分(B):固体無機化合物
以下の特性を有するタルク。
平均粒子径=5μm
白色度=96%
嵩比容積=2.3ml/g
比表面積=8.5m2/g
水分=0.2%
吸油量=51ml/100g
pH=9.3
平均粒子径測定方法は、島津製作所社製SALD−2000分析装置を使用し、レーザー回折法により各粒子に対する粒子径を測定し、タルクの平均粒子径はメディアン径とした。
白色度は、JIS P8123に準拠した測定方法で実施し、東洋精機製作所社製デジタルハンターSTにより測定した。
比表面積は気相吸着法によるBET法で測定し、島津製作所製フローソープ2300を用いて測定した。
水分はJISK 5101に準拠した測定方法で実施し、島津製作所社製STAC−5100を使用して測定した。
吸油量、及び嵩比容積はJIS K5101に準拠した測定方法で実施した。
pHは、JIS K5101規格に準拠したpH測定法(煮沸法)で実施した。
【0059】
3.成分(C):有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物
140℃における蒸気圧が20mmHgのp−トルエンスルホン酸(特級試薬、和光純薬工業株式会社製)
【0060】
4.その他の組成物
(有機金属塩)
有機酸アルカリ金属塩及び有機酸アルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の有機酸金属塩
パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩(大日本インキ工業(株)製、商品名「メガファックスF114」)
(滴下防止剤)
フルオロポリマー
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)の50/50(質量比)紛体状混合物(米国GEスペシャリティケミカルズ社製、「Blendex 449」(登録商標))
(紫外線吸収剤)
ベンゾトリアゾール系の2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1’,3,3’−テトラメチルブチル)フェノンを用いた。(永光化学社製「Eversorb72」)
(カーボン繊維)
直径7μm、繊維長6mmのカーボン繊維
(離型剤)
ペンタエリスリトールテトラステアレート(日本国日本油脂(株)製、「ユニスターH476」(登録商標))
(着色剤)
黒系着色剤として三菱化学株式会社製 カーボンブラック「三菱カーボン#50」
白系着色剤としてハンツマン製 酸化チタン「Tioxide TR28」
【0061】
「実施例1〜5」及び、「比較例1〜3」
成分(A)、(B)、(C)及び、その他の成分を表1に示す量(単位は質量部)で二軸押出機を用いて溶融混練してポリカーボネート難燃樹脂組成物を得た。具体的な製造方法及び製造条件は以下の通りである。
表1に表す組成比の成分(B)と成分(C)との混合物のpH値をJIS K5101に準拠して測定した結果、表1に記載する値となった。溶融混練装置は2軸押出機(ZSK−25、L/D=37、ドイツ国Werner&Pfleiderer社製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数250rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hrの条件で溶融混練を行なった。
溶融混練中に、押出機ダイ部で熱電対により測定した溶融樹脂の温度は260〜270℃であった。また、押出機の後段部分にベント口を設けて減圧脱揮(0.005MPa)を行なった。2軸押出機への原材料の投入は、成分(B)と成分(C)は、溶融混練を行なう前に、表1に示す配合比率で、ジャケット温度200℃に設定した10リットルのヘンシェルミキサーに投入し、スクリュー回転数1,450rpmで10分間攪拌処理の予備混合処理を行なったものを使用した。尚、該予備混合処理のpH値をJIS K5101に準拠して測定したところ、表1、表2に示す結果となった。得られた樹脂組成物のペレットを120℃4時間乾燥し、射出成形機で成形し、以下の各試験を実施した。
【0062】
難燃性試験
燃焼試験用の短冊状薄肉成形体(厚さ0.75mm)を試験片として作成した。ゲートは、成形品長手方向の中心部に位置する幅20mmのファンゲートより成形品先端に配向がかかるように樹脂を充填した。
射出成形機は、ソディック製TR50S2Aを使用し、シリンダー設定温度320℃、金型温度110℃、射出速度400mm/secの条件で成形した。成形品は、温度23℃、湿度50%の環境下に2日間保持した後、UL94規格に準じて50W(20mm)垂直燃焼試験を行ない、V−0、V−1、V−2、NC(NCは、non−classification(分類不能))に分類した。
難燃焼性の程度(左を良好とする):V−0>V−1>V−2>NCである。
【0063】
外観を評価するための成形品としては、外形80mm、内径75mm、高さ45mm、肉厚2.5mmのカップ状成形品を作成した。ランナーは、コールドランナーの場合、カップ状成形品底面の中央にダイレクトゲートとし、ゲート直径7mmであった。射出成形機は、ファナック社製のFanuc100Dを使用し、シリンダー設定温度300℃、金型温度100℃の条件で成形した。計量後のスクリューのサックバック量は、シャットオフノズルを用いたときは0mm、オープンノズルを用いたときは、実験4では、0.3mm、比較例1では、0mm、比較例3では、6mmとした。
【0064】
実施例、比較例について以下に説明する。
実施例1では、表1に記載の組成物をシャットオフノズルのついた成形機を用いて成形した。その結果、成形品表面にシルバーストリクス、フローマーク等の外観不良のない外観良好な成形品が得られた。また、剛性も4250MPaと非強化ポリカーボネートに比べて剛性が優れたものが作成できた。また、このサンプルの耐候性試験を行った結果、比較例3の成形品に比べて耐候性に優れていることがわかった。ブラックパネル温度63℃、照射及び噴霧の方法が120分間サイクル(雨有り)のサンシャインウェザーメーター暴露試験(JIS B 7753−1993)の2000時間暴露試験の結果、比較例3の組成物による成形品の表面には細かなクラックが認められたのに対して、実施例1〜3の組成物による成形品の表面にはクラックは発生しなかった。
【0065】
実施例2では、実施例1と同じ組成の材料のものをオープンノズルの成形機で成形したが、サックバックを0mmとした場合、実施例1と同様に外観良好な成形品が得られた。 実施例3では、実施例1で用いた組成物に加え難燃性を向上させるために表1に記載の組成物のものを用いた。その結果、外観が良好で更に難燃性(0.75mmでV−0)を有する成形品が作成できた。
実施例4では、オープンノズルを用いて成形したが、計量部容積増加率を1%とした場合には外観良好な成形品が得られた。
実施例5では、難燃材に加え電磁はシールド特性を付与するためにカーボンフィラーを30部添加した材料で2mmの試験片を作成し、難燃性と導電性、電磁波シールド特性を測定した。その結果、難燃性はV−0、導電性は、表面低効率で0.4Ω、電磁波シールド特性は、150mm×150mm、肉厚2mmの試験片をMIL−STD−285にもとずいたアドバンテスト法にて、周波数範囲1〜1000MHzにて測定した。その結果、周波数300MHzにおいて、電磁波シールド特性は、53dBと良好な結果が得られた。
実施例6(表1に記載せず)として、実施例3の成分から紫外線吸収剤の代わりに着色時を添加した組成物のものを成形した。着色剤としては、「三菱カーボン#50」0.001部と「Tioxide TR28」2部を用いた。シャットオフノズルを用いて成形した結果、グレー色の外観良好な成形品が得られた。得られた成形品の難燃性は、0.75mmでV−0であった。
【0066】
比較例1は、成分Cをしないためにシャットオフノズルを使用しても激しいシスバーストリークスが発生し、外観特性に劣るものしか作成できなかった。
比較例2は、通常のポリカーボネートを用いた成形例である。
比較例3は、実施例4と同じ組成の材料を成形した結果であるが、サックバックを6mmとして、計量部の容積増加率を16%とした場合、成形品表面にはシルバーストリークスが発生して外観上満足できる成形品が得られなかった。
本発明の薄肉成形体は、機械的特性、溶融安定性並びに外観に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂成形体であった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の薄肉成形体の例としては、デスクトップパソコンやノート型パソコンなどのコンピューター部品、携帯電話部品、電気・電子機器、携帯情報端末、家電製品部品や自動車内装、外装部品などに用いられる。更に近年薄肉成形体の要望が高まっているバッテリーケース、プラスチックフレームなどや自動車用の高外観部品も好適な用途として挙げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネートを主体とする樹脂成分(A)100質量部、固体無機化合物(B)0.1〜200質量部、有機酸、有機酸エステル、有機酸無水物、有機酸ホスホニウム塩及び有機酸アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物(C)0.001〜3質量部を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形する際に、溶融樹脂の第一の射出工程後に溶融樹脂を計量し、該計量部の容積増加率10%以下にて第二の射出工程に移行することを特徴とする射出成形体の製造方法。
【請求項2】
上記射出成形は、その成形に用いる射出成形機のノズルが、開閉弁を備えていることを特徴とする請求項1に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項3】
該開閉弁は、射出工程に移行するために上記開閉弁を開放するにあたり開閉弁の開放直前の射出シリンダ内の計量された溶融樹脂の圧力が1kgf/cm以上で操作されることを特徴とする請求項2に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項4】
該射出成形は、その射出成形に用いる金型がホットランナーを有することを特徴とする請求項1〜3に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項5】
ホットランナーが、バルブゲートを有することを特徴とする請求項4に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項6】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、有機酸アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも1種の有機酸金属塩0.001〜1質量部を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする請求項1〜5に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項7】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、フルオロポリマー0.01〜1質量部を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする請求項1〜6に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項8】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、着色剤を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする請求項1〜7に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項9】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、紫外線吸収剤を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする請求項1〜8に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項10】
芳香族樹ポリカーボネート脂組成物が、導電性充填材を含む芳香族樹脂組成物を用いることを特徴とする請求項1〜8に記載の射出成形体の製造方法。
【請求項11】
上記請求項1〜8に記載の射出成形体の製造方法による成形体の表面にシルバーストリークスやフローマークの外観不良が無いことを特徴とする射出成形体。
【請求項12】
射出成形体が、ハウジング用成形体であることを特徴とする請求項11の射出成形体。
【請求項13】
射出成形体が、自動車または自動車部品用成形体であることを特徴とする請求項11の射出成形体。

【公開番号】特開2006−8744(P2006−8744A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183823(P2004−183823)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】