説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】耐薬品性、耐熱性、表面硬度、剛性などの物性バランスに優れる上に、成形品外観、耐衝撃性に優れた成形品を与える芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)粘度平均分子量が15,000〜40,000の芳香族ポリカーボネート樹脂50〜80質量部と、(B)下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリグリコール酸20〜50質量部との合計100質量部に対して、(C)スチレン系樹脂を4〜50質量部含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。(C)スチレン系樹脂が(B)ポリグリコール酸の分解を防止し、ポリグリコール酸の分解に起因する流れ値(Q値)の上昇を抑制して、成形品外観と耐衝撃性を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。詳しくは、芳香族ポリカーボネート樹脂にポリグリコール酸を配合して耐薬品性と表面硬度を改善した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、成形品外観と耐衝撃性を更に改善した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐衝撃性、耐熱性などに優れ、しかも、得られる成形品は寸法安定性などにも優れることから、電気・電子機器のハウジング類、自動車用部品類や、光ディスク関連の部品などの精密成形品類の製造用原料樹脂として広く使用されている。特に、家電機器、電子機器、画像表示機器の筐体などにおいては、その美麗な外観を活かし、商品価値の高い商品が得られる。
【0003】
従来、芳香族ポリカーボネート樹脂の耐薬品性の改善を目的として、ポリブチレンテレフタレート等の耐薬品性に優れたポリエステル樹脂を配合することが知られているが(特許文献1)、ポリエステル樹脂を配合した樹脂組成物では、耐薬品性は改善されるものの、表面硬度、耐熱性に劣るという欠点がある。
【0004】
芳香族ポリカーボネート樹脂の表面硬度の改善技術としては、芳香族ポリカーボネート樹脂にポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂を配合したものが提案されているが(特許文献2)、この樹脂組成物では、耐熱性、耐薬品性に劣るという欠点がある。
【0005】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂にポリ乳酸等の生分解性ポリマーを配合したものについての提案もなされているが(特許文献3〜5)、いずれもポリ乳酸(乳酸の単独重合体)或いは、乳酸を主体とし、少量の乳酸以外のコモノマーとのポリ乳酸系共重合体を用いるものであり、耐薬品性、耐熱性、表面硬度、剛性、更には表面外観のいずれもが良好な樹脂組成物は提供されていない。
【0006】
本発明者は、このような従来技術の問題点を解決するものとして、芳香族ポリカーボネート樹脂に所定の割合でポリグリコール酸を配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を見出し、先に本出願人より特許出願した(特許文献6)。
特許文献6の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であれば、芳香族ポリカーボネート樹脂にポリグリコール酸を所定の割合で配合することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂の耐熱性を損なうことなく、耐薬品性と表面硬度を改善することができ、耐薬品性、耐熱性に優れる上に、表面硬度が高く、剛性に優れた成形品を与える芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−294060号公報
【特許文献2】特開昭62−131056号公報
【特許文献3】特開2006−199743号公報
【特許文献4】特開2006−131828号公報
【特許文献5】特開2007−191622号公報
【特許文献6】特願2011−156678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者の更なる検討により、特許文献6の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物では、ポリグリコール酸の分解に起因する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の流れ値(Q値)の上昇で、得られる成形品の外観不良(シルバーの発生)と耐衝撃性の低下が問題となる場合があることが判明した。
【0009】
本発明は、このような特許文献6の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形品外観と耐衝撃性を更に改善し、耐薬品性、耐熱性、表面硬度、剛性などの物性バランスに優れる上に、成形品外観、耐衝撃性に優れた成形品を与える芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、この芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる芳香族ポリカーボネート樹脂成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネート樹脂とポリグリコール酸に更にスチレン系樹脂を所定の割合で配合すると、スチレン系樹脂がポリグリコール酸の分解を防止し、ポリグリコール酸の分解に起因する流れ値(Q値)の上昇を抑制して、成形品外観と耐衝撃性を改善することができることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] (A)粘度平均分子量が15,000〜40,000の芳香族ポリカーボネート樹脂50〜80質量部と、(B)下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリグリコール酸20〜50質量部との合計100質量部に対して、(C)スチレン系樹脂を4〜50質量部含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0013】
【化1】

【0014】
[2] 前記(C)スチレン系樹脂が、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、及びアクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0015】
[3] [1]又は[2]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂に(B)ポリグリコール酸を配合して耐薬品性を改善すると共に表面硬度を高めた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、更に(C)スチレン系樹脂を所定の割合で配合することにより、成形品外観と耐衝撃性を改善し、成形品の表面硬度が高く、成形品外観、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、並びに剛性等の諸物性にバランスよく優れた芳香族ポリカーボネート樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0018】
[概要]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、少なくとも、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)ポリグリコール酸と、(C)スチレン系樹脂を特定の割合で含有してなる。また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて更にその他の成分を含有していてもよい。
【0019】
本発明によれば、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂に(B)ポリグリコール酸を所定の割合で配合することにより、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の耐熱性を損なうことなく、耐薬品性と表面硬度及び剛性を向上させることができる。
また、このような芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に更に(C)スチレン系樹脂を所定の割合で配合することにより、(C)スチレン系樹脂が(B)ポリグリコール酸の分解を防止し、(B)ポリグリコール酸の分解に起因する流れ値(Q値)の上昇を抑制して成形品外観及び耐衝撃性を改善することができる。
【0020】
[(A)芳香族ポリカーボネート樹脂]
本発明で使用される(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(以下「(A)成分」と称す場合がある。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0021】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0022】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0023】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0024】
上述した芳香族ポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、この一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0026】
本発明で用いる(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は用途により任意であり、適宜選択して決定すればよいが、成形性、強度等の点から(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量[Mw]で、15,000〜40,000、好ましくは15,000〜30,000である。この様に、粘度平均分子量を15,000以上とすることで機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、粘度平均分子量を40,000以下とすることで流動性の低下がより抑制されて改善される傾向にあり、成形加工性容易の観点からより好ましい。ここでの粘度平均分子量〔Mv〕は溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10−40.83、から算出される値(粘度平均分子量:Mv)を意味する。ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[c](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0027】
【数1】

【0028】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、中でも17,000〜30,000、特に19,000〜27,000であることが好ましい。また粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量は上記範囲となることが望ましい。
【0029】
[(B)ポリグリコール酸]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、耐薬品性、表面硬度(剛性)の改善のために、(B)下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリグリコール酸(以下「(B)成分」と称す場合がある。)を含有することを特徴とする。ここで、「繰り返し単位」とは、モノマーを重合又は共重合させてポリグリコール酸を製造する際に用いられる原料モノマーに由来する構造部分をさす。
【0030】
【化2】

【0031】
なお、本発明で用いる(B)ポリグリコール酸は、上記式(I)で表されるグリコール酸の繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体に限らず、グリコール酸と他のコモノマーとのポリグリコール酸共重合体であってもよい。
【0032】
グリコール酸モノマーと共重合して、ポリグリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(1,4−ジオキサン−2,3−ジオン);ラクチド類;β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;トリメチレンカーボネート等のカーボネート類;1,3−ジオキサン等のエーテル類;ジオキサノン等のエーテルエステル類;ε−カプロラクタム等のアミド類などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸又はそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類;コハク酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類又はそのアルキルエステル類などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0033】
ただし、耐薬品性や表面硬度、剛性の向上効果の面で、(B)ポリグリコール酸はグリコール酸の単独重合体であるか、グリコール酸の繰り返し単位数が70質量%以上のポリグリコール酸共重合体が好ましく、グリコール酸の単独重合体であることが最も好ましい。
【0034】
ポリグリコール酸は、それ自体耐薬品性に優れ、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐薬品性の改善に有効であるが、芳香族ポリカーボネート樹脂に耐薬品性を配合することで表面硬度、剛性の向上効果が得られることは、従来知られておらず、本発明者らにより初めて確認された知見である。
【0035】
本発明で用いる(B)ポリグリコール酸の分子量の程度は、溶融粘度で表すことができ、280℃、剪断速度10sec−1で測定された溶融粘度で、10〜10Pa・secであることが好ましく、特に10〜10Pa・secであることが好ましい。(B)ポリグリコール酸の溶融粘度が低く、分子量が小さ過ぎるものでは、耐薬品性、表面硬度、剛性の向上効果を十分に得ることができず、溶融粘度が高く、分子量の大きい(B)ポリグリコール酸では流動性が低下するため成形加工性に劣る。
【0036】
このような(B)ポリグリコール酸としては市販品を用いることができ、例えば(株)クレハ製「Kuredux(登録商標)100R60」「Kuredux(登録商標)100T60」等を用いることができる。
【0037】
(B)ポリグリコール酸は1種を単独で用いてもよく、溶融粘度やコモノマーの有無、その割合が異なるものの2種以上を併用してもよい。
【0038】
[(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の含有量]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、(B)ポリグリコール酸を、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸との合計100質量部中に、20〜50質量部、好ましくは25〜45質量部、より好ましくは30〜40質量部を含み、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂を50〜80質量部、好ましくは55〜75質量部、より好ましくは60〜70質量部含む。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の(B)ポリグリコール酸の含有量が上記下限より少なく、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量が上記上限よりも多いと、(B)ポリグリコール酸を配合したことによる、耐薬品性、表面硬度、剛性の向上効果を十分に得ることができず、(B)ポリグリコール酸の含有量が上記上限より多く、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の含有量が上記下限よりも少ないと、耐熱性、成形品表面外観が低下する傾向にある。
【0039】
[(C)スチレン系樹脂]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、成形品外観及び耐衝撃性の改善のために、(C)スチレン系樹脂(以下、「(C)成分」と称す場合がある。)を含有することを特徴とする。(C)スチレン系樹脂とは、スチレン系単量体と必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体及びゴム質重合体より選ばれる1種以上を重合して得られる樹脂である。
【0040】
(C)スチレン系樹脂に用いられるスチレン単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体が挙げられ、特にスチレンが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
これらのスチレン系単量体と共重合可能な他のビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;フェニルアクリレートベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル;フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα、β−不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。好ましくは、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルである。
【0042】
これらのビニル単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
また、スチレン系単量体と共重合可能なゴム質重合体としては、ガラス転移温度が10℃以下のゴムが適当である。このようなゴム質重合体の具体例としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム(IPN型ゴム)等が挙げられ、好ましくは、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム等が挙げられる。(なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタアクリレート」の一方又は双方をさす。「(メタ)アクリル」「(メタ)アクリロ」についても同様である。)
【0044】
ジエン系ゴムとしては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンランダム共重合体及びブロック共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレン−ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー、ブタジエン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体、ブタジエン−スチレン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
上記の(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
ブタジエン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体又はブタジエン−スチレン−(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステル共重合体における(メタ)アクリル酸の低級アルキルエステルの割合は、ゴム重量の30重量%以下であることが好ましい。
【0045】
アクリル系ゴムとしては、例えば、アクリル酸アルキルエステルゴムが挙げられ、ここで、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜8である。アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチルヘキシル等が挙げられる。アクリル酸アルキルエステルゴムには、任意に、エチレン性不飽和単量体が用いられていてもよい。そのような化合物の具体例としては、ジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、シアヌル酸トリアリル、(メタ)アクリル酸アリル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。アクリル系ゴムとしては、更に、コアとして架橋ジエン系ゴムを有するコア−シェル型重合体が挙げられる。
【0046】
これらのゴム質重合体についても、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
本発明で用いられる(C)スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンの単独重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルと他の共重合可能な単量体との共重合体、ゴムの存在下スチレンを重合してなるグラフト共重合体、ゴムの存在下スチレンと(メタ)アクリロニトリルとをグラフト重合してなるグラフト共重合体等が挙げられる。さらに、具体的には、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS樹脂)、水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SEPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)及びスチレン−IPN型ゴム共重合体等の樹脂、又は、これらの混合物が挙げられる。また、さらにシンジオタクティックポリスチレン等のように立体規則性を有するものであってもよい。また、上記のスチレンに代えて、広く芳香族ビニル系モノマーを用いることができる。
【0048】
これらの中でも、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)が好ましく、特にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましい。
【0049】
これら(C)スチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0050】
これらの(C)スチレン系樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
[(C)スチレン系樹脂の含有量]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と(B)ポリグリコール酸との合計100質量部に対して、(C)スチレン系樹脂を4〜50質量部、好ましくは10〜45質量部、より好ましくは15〜40質量部含む。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の(C)スチレン系樹脂の含有量が上記下限より少ないと、(C)スチレン系樹脂を配合したことによる成形品外観及び耐衝撃性の改善効果を十分に得ることができず、上記上限より多いと耐熱性、表面硬度が低下する傾向にある。
【0052】
(C)スチレン系樹脂を配合することにより、成形品外観及び耐衝撃性の改善効果が得られる作用機構の詳細は明らかではないが、(C)スチレン系樹脂が(B)ポリグリコール酸のOH基と反応して(B)ポリグリコール酸の分解を防止し、(B)ポリグリコール酸の分解に起因する流れ値(Q値)の上昇を抑制することによるものと考えられる。
なお、(C)スチレン系樹脂は安価であることから、(C)スチレン系樹脂の配合で低コスト化を図ることができるという利点もある。
【0053】
[その他の成分]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、上記(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)ポリグリコール酸及び(C)スチレン系樹脂以外に、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が含有し得るその他の成分としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0054】
<(D)リン系熱安定剤>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は(D)リン系熱安定剤を含有することができる。(D)リン系熱安定剤は一般的に、樹脂成分を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形品使用時の耐熱安定性向上に有効である。
【0055】
本発明で用いる(D)リン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0056】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0057】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0058】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0059】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0060】
これらの(D)リン系熱安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が(D)リン系熱安定剤を含む場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.003質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、通常0.1質量部以下、好ましくは0.08質量部以下、より好ましくは0.06質量部以下である。(D)リン系熱安定剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、(D)リン系熱安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0062】
<(E)酸化防止剤>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって(E)酸化防止剤を含有することが好ましい。(E)酸化防止剤を含有することで、色相劣化や、熱滞留時の機械物性の低下が抑制できる。
【0063】
(E)酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0064】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、チバ社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
【0065】
なお、(E)酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0066】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が(E)酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、通常0.0001質量部以上、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下である。(E)酸化防止剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、(E)酸化防止剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0067】
<その他の添加剤>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、離型剤、紫外線吸収剤、無機フィラー、染顔料、帯電防止剤、難燃剤、滴下防止剤、成形品外観改良剤、(A)〜(C)成分以外の他の樹脂などが挙げられる。
【0068】
(離型剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有していてもよく、離型剤としては、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物が好適に用いられる。
【0069】
フルエステル化物を構成する脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0070】
一方、フルエステル化物を構成する脂肪族アルコール成分としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0071】
これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0072】
なお、上記脂肪族アルコールと上記脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物は、そのエステル化率が必ずしも100%である必要はなく、80%以上であればよい。本発明にかかるフルエステル化物のエステル化率は好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0073】
本発明で用いる脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物は、特に、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物の1種又は2種以上と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物の1種又は2種以上とを含有することが好ましく、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物との併用により、離型効果を向上させると共に溶融混練時のガス発生を抑制し、モールドデポジットを低減させる効果が得られる。
【0074】
モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸のフルエステル化物としては、ステアリルアルコールとステアリン酸とのフルエステル化物(ステアリルステアレート)、ベヘニルアルコールとベヘン酸とのフルエステル化物(ベヘニルベヘネート)が好ましく、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物としては、グリセリンセリンとステアリン酸とのフルエステル化物(グリセリントリステアリレート)、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル化物(ペンタエリスリトールテトラステアリレート)が好ましく、特にペンタエリスリトールテトラステアリレートが好ましい。
【0075】
なお、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0076】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物等の離型剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、通常2質量部以下であり、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が多過ぎると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。
【0077】
離型剤として、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物とを併用する場合、これらの使用割合(質量比)は、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物:多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物=1:1〜10とすることが、これらを併用することによる上記の効果を確実に得る上で好ましい。
【0078】
(紫外線吸収剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤を含有することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性を向上させることができる。
【0079】
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の機械物性が良好なものになる。
【0080】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。このようなベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ705」、「シーソーブ703」、「シーソーブ702」、「シーソーブ704」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0081】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられ、このようなベンゾフェノン化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ100」、「シーソーブ101」、「シーソーブ101S」、「シーソーブ102」、「シーソーブ103」、共同薬品社製「バイオソーブ100」、「バイオソーブ110」、「バイオソーブ130」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ10」、「ケミソーブ11」、「ケミソーブ11S」、「ケミソーブ12」、「ケミソーブ13」、「ケミソーブ111」、BASF社製「ユビヌル400」、BASF社製「ユビヌルM−40」、BASF社製「ユビヌルMS−40」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV9」、「サイアソーブUV284」、「サイアソーブUV531」、「サイアソーブUV24」、アデカ社製「アデカスタブ1413」、「アデカスタブLA−51」等が挙げられる。
【0082】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が挙げられ、このようなサリシレート化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ201」、「シーソーブ202」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ21」、「ケミソーブ22」等が挙げられる。
【0083】
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられ、このようなシアノアクリレート化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ501」、共同薬品社製「バイオソーブ910」、第一化成社製「ユビソレーター300」、BASF社製「ユビヌルN−35」、「ユビヌルN−539」等が挙げられる。
【0084】
オギザニリド化合物の具体例としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が挙げられ、このようなオキザリニド化合物としては、具体的には例えば、クラリアント社製「サンデュボアVSU」等が挙げられる。
【0085】
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。このようなマロン酸エステル化合物としては、具体的には例えば、クラリアントジャパン社製「PR−25」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「B−CAP」等が挙げられる。
【0086】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が紫外線吸収剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.4質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0087】
(無機フィラー)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、剛性や強度を向上させる目的で無機フィラーを含有させることができる。無機フィラーの具体例としては、ガラス繊維(チョップドストランド)、ガラス短繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、ガラスビーズなどのガラス系フィラー、炭素繊維、炭素短繊維、カーボンナノチューブ、黒鉛などの炭素系フィラー、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウムなどのウィスカー、タルク、マイカ、ウォラストナイト、カオリナイト、ゾノトライト、セピオライト、アタバルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイトなどの珪酸塩化合物、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合して使用してもよい。上記の中で、特にガラス繊維(チョップドストランド)、ガラス短繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、タルク、マイカ、ウォラストナイト、カオリナイトが好ましい。
【0088】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が無機フィラーを含有する場合、無機フィラーの含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対し、好ましくは1〜150質量部、より好ましくは3〜100質量部、特に好ましくは5〜60質量部である。無機フィラーの含有量が、上記下限未満では補強効果が十分でない場合があり、逆に上記上限を超えると成形品外観や耐衝撃性、流動性が十分でない場合がある。
【0089】
(染顔料)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって染顔料を含有していてもよい。染顔料を含有することで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の隠蔽性、耐候性を向上できるほか、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品のデザイン性を向上させることができる。
【0090】
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
【0091】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
【0092】
有機顔料及び有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0093】
これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
【0094】
なお、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂又は(B)ポリグリコール酸とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
【0095】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が染顔料を含有する場合、その含有量は、必要な意匠性に応じて適宜選択すればよいが、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。染顔料の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、着色効果が十分に得られない可能性があり、染顔料の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
【0096】
(帯電防止剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって帯電防止剤を含有していてもよい。帯電防止剤は特に限定されないが、好ましくは下記一般式(1)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩である。
【0097】
【化3】

【0098】
(一般式(1)中、Rは炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していても良く、R〜Rは、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
【0099】
前記一般式(1)中のRは、炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であるが、透明性や耐熱性、ポリカーボネート樹脂への相溶性の観点からアリール基の方が好ましく、炭素数1〜34、好ましくは5〜20、特に、10〜15のアルキル基で置換されたアルキルベンゼン又はアルキルナフタリン環から誘導される基が好ましい。また、一般式(5)中のR〜Rは、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であるが、好ましくは炭素数2〜8のアルキルであり、更に好ましくは3〜6のアルキル基であり、特に、ブチル基が好ましい。
【0100】
このようなスルホン酸ホスホニウム塩の具体例としては、ドデシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルオクチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム、ジブチルベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム、ジブチルナフチルスルホン酸トリフェニルホスホニウム、ジイソプロピルナフチルスルホン酸トリオクチルメチルホスホニウム等が挙げられる。中でも、ポリカーボネートとの相溶性及び入手が容易な点で、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が帯電防止剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、0.1〜5.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部、更に好ましくは0.3〜2.0質量部、特に好ましくは0.5〜1.8質量部である。帯電防止剤の含有量が0.1質量部未満では、帯電防止の効果は得られず、5.0質量部を超えると透明性や機械的強度が低下し、成形品表面にシルバーや剥離が生じて外観不良を引き起こし易い。
【0102】
(難燃剤・滴下防止剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃剤、滴下防止剤を含有していてもよい。
【0103】
難燃剤としては、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレンなどのハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウムなどの有機金属塩系難燃剤、ポリオルガノシロキサン系難燃剤等が挙げられ、リン酸エステル系難燃剤が特に好ましい。
【0104】
リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、トリフェニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジキシレニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
【0105】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物がリン酸エステル系難燃剤を含有する場合、リン酸エステル系難燃剤の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは3〜25質量部、特に好ましくは5〜20質量部である。リン酸エステル系難燃剤の含有量が、上記下限未満では難燃性が十分でない場合があり、逆に上記上限を超えると耐熱性が十分でない場合がある。
【0106】
また、滴下防止剤としては、例えばポリフルオロエチレンなどのフッ素化ポリオレフィンが挙げられ、好ましくはフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。これは、重合体中に容易に分散し、且つ、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものである。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンはASTM規格でタイプ3に分類される。ポリテトラフルオロエチレンは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)より、テフロン(登録商標)6J又はテフロン(登録商標)30Jとして、又はダイキン工業(株)よりポリフロン(商品名)として市販されている。
【0107】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が滴下防止剤を含有する場合、滴下防止剤の含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸の合計100質量部に対して、好ましくは0.02〜4質量部、さらに好ましくは0.03〜3質量部である。滴下防止剤の配合量が上記上限を超えると成形品外観の低下が生じる場合がある。
【0108】
(成形品外観改良剤)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更に、必要に応じて、成形品外観改良剤として熱可塑性エラストマーを含有していてもよく、熱可塑性エラストマーを配合することにより、樹脂成分の混合むらに起因する成形品表面の色むらやパール調光沢の発現などの外観不良を防止して、外観に優れた成形品を得ることが可能となる。
【0109】
熱可塑性エラストマーとしては、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分をグラフト共重合した共重合体が好ましい。このようなグラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0110】
上記ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも−20℃以下のものが好ましく、更には−30℃以下のものが好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(interpenetrating polymer network)型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴムなどのエチレン−αオレフィン系ゴム、エチレン−アクリルゴム、フッ素ゴムなどを挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0111】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。ここで、「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」の一方又は双方をさす。「(メタ)アクリレート」についても同様である。
【0112】
本発明に用いる熱可塑性エラストマーは、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。中でもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸成分は、10質量%以上含有するものが好ましい。
【0113】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。この様なゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0114】
このようなコア/シェル型グラフト共重合体の市販品としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製のパラロイドEXL2315、EXL2602、EXL2603などのEXLシリーズ、KM330、KM336PなどのKMシリーズ、KCZ201などのKCZシリーズ、三菱レイヨン社製のメタブレンS−2001、SRK−200などが挙げられる。
【0115】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、成形品外観改良剤として上述のような熱可塑性エラストマーを含む場合、成形品外観改良剤、即ち熱可塑性エラストマーを、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリグリコール酸(B)との合計100質量部に対して、1〜15質量部、特に2〜10質量部、とりわけ3〜8質量部含むことが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の成形品外観改良剤の含有量が少な過ぎると、成形品外観改良剤を配合したことによる成形品表面外観の改良効果を十分に得ることができず、多過ぎると表面硬度や耐熱性や剛性が低下する傾向にある。
【0116】
(その他の樹脂成分)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、樹脂成分として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)ポリグリコール酸及び(C)スチレン系樹脂以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。配合し得る他の樹脂成分としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、(A)成分以外のポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、(B)成分以外のポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォンなどが挙げられ、好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、(B)成分以外のポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0117】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリグリコール酸(B)と(C)スチレン系樹脂を特定の割合で用いることによる本発明の効果を得るために、これらの他の樹脂成分は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とポリグリコール酸(B)との合計100質量部に対して40質量部以下とすることが好ましい。
【0118】
(その他の成分)
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などの各種樹脂添加剤などが挙げられる。これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0119】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
【0120】
その具体例を挙げると、本発明に係る(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)ポリグリコール酸、(C)スチレン系樹脂、並びに、必要に応じて配合される(D)リン系熱安定剤、(E)酸化防止剤、さらにはその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0121】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
【0122】
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0123】
上記方法で各成分を予め混合した後、溶融混練する方法としてはバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどを使用する方法が挙げられる。
【0124】
[芳香族ポリカーボネート樹脂成形品]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、通常、任意の形状に成形して芳香族ポリカーボネート樹脂成形品として用いる。この成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0125】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法は、特に限定されず、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【0126】
このようにして製造される本発明の成形品の適用例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、本発明の成形品は、その優れた成形品外観、耐薬品性、耐熱性、耐衝撃性、表面硬度及び剛性等の機械的物性から、特に電気電子機器、OA機器、情報端末機器、家電製品、照明機器等の部品へ用いて好適であり、電気電子機器、照明機器の部品、シート部材に用いて特に好適である。
【0127】
前記の電気電子機器としては、例えば、パソコン、ゲーム機、テレビ、カーナビ、電子ペーパーなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等が挙げられる。なかでも、テレビ、パソコン、カーナビ、電子ペーパー等の筐体の意匠性部品等に好適に用いることができる。
【0128】
前記の照明機器の部品としては、LED照明、EL照明等のカバー等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0129】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、以下の説明において[部]とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0130】
以下の実施例及び比較例で用いた測定・評価法並びに使用材料は、以下の通りである。
【0131】
[測定・評価法]
<流れ値(Q値)評価>
JIS K7210付属書Cに記載の方法にてペレットの流れ値(Q値)を評価した。測定は島津製作所社製フローテスターCFD500Dを用いて、穴径1.0mmφ、長さ10mmのダイを用い、試験温度280℃、試験力160kg/cm、余熱時間420secの条件で排出された溶融樹脂量(×0.01cc/sec)を測定した。
【0132】
<耐衝撃性(シャルピー衝撃強度(ノッチ無し)評価>
ISO−179規格に基づき、シャルピー衝撃強度(ノッチ無し)を測定した。なお、シャルピー衝撃試験において、破断しなかった場合にはNB(ノンブレイクの意)と記載した。
【0133】
<外観評価>
試験片の表面外観を目視にて観察し、シルバーのほとんどないものを「○」、シルバーが目立つことなく外観上問題のないものを「△」、シルバーが目立ち外観に劣るものを「×」として判定した。
【0134】
<表面硬度(鉛筆硬度)評価>
JIS K5400に準じ、試験片に、5回の引掻き試験を行って鉛筆硬度の評価を行った。
【0135】
<耐熱性(DTUL)測定>
耐熱性の指標としてISO75−1に準拠した荷重たわみ温度(荷重1.8MPa)の測定を行った。
【0136】
[使用材料]
<(A)芳香族ポリカーボネート樹脂>
界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)S−3000FN」、粘度平均分子量25000)
【0137】
<(B)ポリグリコール酸>
ポリグリコール酸((株)クレハ社製「Kuredux(登録商標)100R60」、280℃、剪断速度10sec−1で測定された溶融粘度2×10Pa・sec)
【0138】
<(C)スチレン系樹脂>
C−1:アクリル変性透明ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製「ST−100」)
C−2:乳化重合ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製「MVF−1K」)
C−3:塊状重合ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製「AT−05」)
【0139】
<(D)リン系熱安定剤>
D−1:ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスルトールホスファイト((株)ADEKA社製「アデカスタブPEP36」)
D−2:モノ−及びジステアリルアシッドホスフェート((株)ADEKA社製「アデカスタブAX−71」)
【0140】
<(E)酸化防止剤>
ペンタエリスリト−ルテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン(株)製「イルガノックス1010」)
【0141】
[実施例1〜7、比較例1〜6]
<樹脂組成物の調製>
上記の各成分を、表1及び2に示す質量比で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度270℃の条件で混練し、ストランド状に押出した溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0142】
<試験片の作製>
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(住友重機械工業社製「SG75Mk−II」)にて、シリンダー温度270℃、金型温度90℃、成形サイクル50秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を作製した。得られた試験片を前記の耐衝撃性評価、外観評価、表面硬度評価、耐熱性評価に用いた。
【0143】
[評価結果]
【表1】

【0144】
【表2】

【0145】
表1及び2の結果より次のことがわかる。
本発明の実施例1〜7の組成物は、流れ値(Q値)、耐衝撃性、成形品外観、表面硬度、耐熱性の何れにもバランスよく優れている。
これに対して(C)スチレン系樹脂が配合されていない比較例1は、流れ値(Q値)が大きく、成形品外観、耐衝撃性に劣る。比較例2は、(C)スチレン系樹脂の配合量が少ないため、流れ値(Q値)、耐衝撃性は若干改善したものの成形品外観が劣る。比較例3は、(B)ポリグリコール酸の配合量が少ないため、表面硬度が低い。逆に比較例4,5は、(B)ポリグリコール酸の配合量が多過ぎるため、耐熱性に劣り、特に比較例5では成形品外観も劣るものとなっている。(C)スチレン系樹脂の配合量が多過ぎる比較例6では、耐衝撃性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)粘度平均分子量が15,000〜40,000の芳香族ポリカーボネート樹脂50〜80質量部と、(B)下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリグリコール酸20〜50質量部との合計100質量部に対して、(C)スチレン系樹脂を4〜50質量部含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
前記(C)スチレン系樹脂が、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、及びアクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂成形品。

【公開番号】特開2013−112752(P2013−112752A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260585(P2011−260585)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】