説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及び成形体

【課題】難燃性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、芳香族ビニル単量体(b1)0.5質量%以上99.5質量%以下、下記一般式(I)で表される単量体(b2)0.5質量%以上99.5質量%以下、シアン化ビニル単量体(b3)0質量%以上15質量%以下を含む単量体混合物[但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の合計は100質量%である。]を重合した、重量平均分子量が5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されてなる流動性向上剤(B)と、を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成型体の形成に用いられる樹脂組成物としては、種々のものが提供されている。
例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂(A)と;芳香族ビニル単量体(b1)0.5〜99.5質量%、式(I)で表される単量体(b2)0.5〜99.5質量%、他の単量体(b3)0〜40質量%からなる単量体混合物[単量体(b1)〜(b3)の合計は100質量%]を重合して得られる重合体である流動性向上剤(B)と;安定剤(C)とを含有する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物が提供されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、樹脂組成物に含有させることで当該樹脂組成物に難燃性を付与する難燃剤において、芳香族骨格を有するモノマー単位を1モル%〜100モル%の範囲で含有し、且つ重量平均分子量が25000〜10000000の範囲にされた芳香族ポリマーにスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基が導入され、上記スルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基の硫黄成分が0.001重量%〜20重量%の範囲にされ、上記芳香族ポリマーは、主鎖に芳香族骨格を有しており、少なくともポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホンのうちの何れか一種若しくは複数種を含有している難燃剤が提供されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−199732号公報
【特許文献2】特開2008−214642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に、芳香族ビニル単量体(b1)0.5質量%以上99.5質量%以下、一般式(I)で表される単量体(b2)0.5質量%以上99.5質量%以下、シアン化ビニル単量体(b3)0質量%以上15質量%以下を含む単量体混合物[但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の合計は100質量%である。]を重合した、重量平均分子量が5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されてなる流動性向上剤(B)を含有しない場合に比べ、難燃性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
即ち、請求項1に係る発明は、
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、
芳香族ビニル単量体(b1)0.5質量%以上99.5質量%以下、下記一般式(I)で表される単量体(b2)0.5質量%以上99.5質量%以下、シアン化ビニル単量体(b3)0質量%以上15質量%以下を含む単量体混合物[但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の合計は100質量%である。]を重合した、重量平均分子量が5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されてなる流動性向上剤(B)と、
を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
【0009】
請求項2に係る発明は、
前記硫黄成分の導入量が、0.05質量%以上0.2質量%以下である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0010】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成型してなる成型体である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に、芳香族ビニル単量体(b1)0.5質量%以上99.5質量%以下、下記一般式(I)で表される単量体(b2)0.5質量%以上99.5質量%以下、シアン化ビニル単量体(b3)0質量%以上15質量%以下を含む単量体混合物[但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の総計は100質量%である。]を重合した、重量平均分子量が5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されてなる流動性向上剤(B)を含有しない場合に比べ、難燃性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、前記硫黄成分の導入量が、0.05質量%以上0.2質量%以下でない場合に比べ、更に難燃性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、芳香族ビニル単量体(b1)0.5質量%以上99.5質量%以下、下記一般式(I)で表される単量体(b2)0.5質量%以上99.5質量%以下、シアン化ビニル単量体(b3)0質量%以上15質量%以下を含む単量体混合物[但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の合計は100質量%である。]を重合した、重量平均分子量が5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されてなる流動性向上剤(B)とを含有しない芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成型された場合に比べ、難燃性に優れた成型体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の成形体を備える電子・電気機器の部品の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪樹脂組成物≫
本実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と流動性向上剤(B)とを含有する。前記流動性向上剤(B)は、下記単量体(b1)及び(b2)(更に必要に応じて単量体(b3))を含む単量体混合物を重合した重量平均分子量5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されたものである。
【0016】
(b1)芳香族ビニル単量体:0.5質量%以上99.5質量%以下
(b2)下記一般式(I)で表される単量体:0.5質量%以上99.5質量%以下
(b3)シアン化ビニル単量体:0質量%以上15質量%以下
但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の合計は100質量%である。
【0017】
【化2】

【0018】
一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
【0019】
本実施形態の樹脂組成物は、上記の構成であることによって優れた難燃性を有する。また、該樹脂組成物を成型してなる成型体は、成形性に優れつつ優れた難燃性を示す。
【0020】
前記一般式(I)で表される単量体(b2)を含んで構成される重合体を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂の組成物は、高温に熱したときには相溶し、冷却したときには相分離するため、優れた溶融流動性(成形性)を示す。このような一般式(I)で表される単量体(b2)を含んで構成される重合体をスルホン化すると、溶融流動性(成形性)が損われることなく、難燃性が著しく向上することが明らかとなった。
【0021】
また、前記シアン化ビニル単量体(b3)を含んで構成される重合体を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂の組成物は、耐薬品性に優れる。このような前記(b3)シアン化ビニル単量体を含んで構成される重合体をスルホン化すると、耐薬品性が損われることなく、難燃性も向上することが明らかとなった。
以下、各成分の詳細について説明する。
【0022】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
本実施形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族基を有するポリカーボネートであればよく、ビスフェノールA型ポリカーボネートなど公知のものが適用される。
【0023】
例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルまたはホスゲンとを反応させることによって得られる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐状のものであってもよい。分岐状の芳香族ポリカーボネート樹脂の場合、芳香族ヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物と芳香族ポリヒドロキシ化合物等とが併用される。
【0024】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、ビスフェノールAが望ましい。更に、難燃性を高める観点で、これら芳香族ジヒドロキシ化合物は、スルホン酸テトラアルキルホスホニウム、臭素原子、またはシロキサン構造を有する基で置換された構造を有していてもよい。
【0025】
芳香族ポリヒドロキシ化合物としては、例えば、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。
【0026】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量の調節、末端基の調節等のため、一価芳香族ヒドロキシ化合物、またはそのクロロホルメート体等の一価芳香族ヒドロキシ化合物誘導体を用いてもよい。一価芳香族ヒドロキシ化合物およびその誘導体としては、フェノール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキルフェノール、これらの誘導体等が挙げられる。
【0027】
芳香族ポリカーボネート樹脂には、難燃性を高める観点から、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合させたり、成形時の溶融流動性を向上させる観点から、ジカルボン酸またはジカルボン酸クロライド等の誘導体を共重合させたりしてもよい。
【0028】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、重量平均分子量で、14000以上40000以下が望ましく、16000以上30000以下がより望ましく、18000以上26000以下が特に望ましい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
重量平均分子量の測定は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定される。GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー製GPC・HLC−8120を用い、東ソー製カラム・TSKgel SuperHM−M(15cm)を使用し、THF溶媒で行った。重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作製した分子量校正曲線を使用して算出したものである。
以下、重量平均分子量の測定はこの方法による。
【0030】
また、本実施形態に係る芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ポリカーボネート樹脂のほかに樹脂を組み合わせたアロイ樹脂として用いてもよい。他の樹脂としては、スチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、これらの共重合体等のポリエステル;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、メタクリル酸メチル単位を有する共重合体等のアクリル系樹脂;ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂;ポリウレタン;シリコーン樹脂;シンジオタクチックPS;6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド;ポリアリレート;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホンポリアミドイミド;ポリアセタール等、各種汎用樹脂またはエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0031】
上記他の樹脂のなかでもスチレン系樹脂が望ましく、例えば、GPPS樹脂(一般ポリスチレン樹脂)、HIPS樹脂(耐衝撃性ポリスチレン)、SBR樹脂(スチレンブタジエンゴム)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、SBS樹脂(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SIS樹脂(スチレン−イソプレン−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MAS樹脂(メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)などが挙げられる。上記の中でも、HIPS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等が望ましい。
【0032】
ポリカーボネート/スチレン系アロイ樹脂の市販品としては、帝人化成社製のPC/ABSアロイ樹脂である「TN7300」、出光興産社製のPC/HIPSアロイ樹脂である「NN2710AS」、UMGABS社製のPC/ABSアロイ樹脂である「ZFJ61」、SABIC社製のPC/ABSアロイ樹脂である「C6600」等が挙げられる。
【0033】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物中、10質量%以上90質量%以下であることが望ましく、5質量%以上95質量%以下であることがより望ましく、2質量%以上98質量%以下であることが更に望ましい。
【0034】
<流動性向上剤(B)>
本実施形態に係る流動性向上剤(B)は、芳香族ビニル単量体(b1)0.5質量%以上99.5質量%以下、下記一般式(I)で表される単量体(b2)0.5質量%以上99.5質量%以下、シアン化ビニル単量体(b3)0質量%以上15質量%以下を含む単量体混合物[但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の合計は100質量%である。]を重合した、重量平均分子量が5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されてなる。
【0035】
樹脂組成物中の流動性向上剤(B)の含有量は、効果的に難燃性を奏させる観点から、樹脂組成物100質量%中、0.1質量%以上20質量%以下であることが望ましく、0.5質量%以上15質量%以下であることがより望ましく、1質量%以上10質量%以下であることが更に望ましい。
【0036】
〔芳香族ビニル単量体(b1)〕
芳香族ビニル単量体(b1)としては、未置換のスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンや、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン等のアルキル鎖を持つアルキル置換スチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン等の塩素置換スチレン、4−フルオロスチレン、2,5−ジフルオロスチレン等のフッ素置換スチレン等が挙げられ、未置換のスチレン、α−メチルスチレンであることが望ましい。
前記芳香族ビニル単量体(b1)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
芳香族ビニル単量体(b1)は、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の総計100質量%に対して、0.5質量%以上99.5質量%以下で含有され、5質量%以上97質量%以下であることがより望ましく、10質量%以上95質量%以下であることが更に望ましい。上記範囲内にある場合、溶融流動性(成形性)や難燃性に優れる。
【0038】
なお、単量体混合物を重合して得られた重合体における、芳香族ビニル単量体(b1)に由来する構造の占める割合は、上記範囲に対応する。以下、得られる重合体における単量体(b2)及び(b3)に由来する構造の占める割合も同様に、単量体混合物中の各単量体(b2)及び(b3)の含有率に対応する。
【0039】
〔一般式(I)で表される単量体(b2)〕
単量体(b2)は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0040】
【化3】

【0041】
一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
一般式(I)におけるRとしては、未置換のフェニル基;2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル、2−エチルフェニル、3−エチルフェニル、4−エチルフェニル、2−i−プロピルフェニル、3−i−プロピルフェニル、4−i−プロピルフェニル、2−t−ブチルフェニル、3−t−ブチルフェニル、4−t−ブチルフェニル等のアルキル置換フェニル基;2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、ジクロロフェニル、トリクロロフェニル等の塩素置換フェニル;2−フロロフェニル、3−フロロフェニル、4−フロロフェニル、ジフロロフェニル、トリフロロフェニル等のフッ素置換フェニルが挙げられ、未置換のフェニル基であることが望ましい。
【0042】
前記一般式(I)で表される単量体(b2)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
一般式(I)で表される単量体(b2)は、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の総計100質量%に対して、0.5質量%以上99.5質量%以下で含有され、1質量%以上95質量%以下であることがより望ましく、5質量%以上90質量%以下であることが更に望ましい。上記範囲内にある場合、溶融流動性(成形性)や難燃性に優れる。
【0044】
〔シアン化ビニル単量体(b3)〕
単量体混合物は、シアン化ビニル単量体(b3)を含んでもよい。
シアン化ビニル単量体(b3)としては、アクリロニトリル、;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;等が挙げられ、アクリロニトリル、メタクリロニトリルであることが望ましい。
前記シアン化ビニル単量体(b3)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0045】
シアン化ビニル単量体(b3)は、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の総計100質量%に対して、0質量%以上15質量%以下で含有され、1質量%以上14質量%以下であることがより望ましく、2質量%以上13質量%以下であることが更に望ましい。上記範囲内にあってシアン化ビニル単量体(b3)を含む場合には、溶融流動性(成形性)や難燃性を損なうことなく、耐薬品性に優れる。
【0046】
〔その他の単量体〕
単量体混合物は、少なくとも単量体(b1)及び(b2)、更には(b3)を含有し、その他の単量体を含んでもよい。例えば、その他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、無水フマル酸などのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸及びその無水物;(メタ)アクリル酸メチル(アクリル酸メチル及びメタクリル酸メチルの意。)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のアルキルエステルが挙げられる。
その他の単量体の含有量は、単量体混合物100質量%中、10質量%以下であることが望ましく、5質量%以下であることがより望ましく、2質量%以下であることが更に望ましい。
【0047】
〔流動性向上剤(B)の製造方法〕
流動性向上剤(B)は、まず、上記単量体(b1)及び(b2)、更には(b3)を含む単量体混合物を用いて重合する。次に、重合して得られた芳香族骨格を有する重合体をスルホン化し、スルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種を導入する。
【0048】
(重合工程)
流動性向上剤(B)を構成する重合体は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法により合成される。これらのうち、回収方法が容易である点で懸濁重合法、乳化重合法が望ましい。
【0049】
なお重合に際して単量体混合物には、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒、乳化剤、分散剤などを添加する。
【0050】
重合開始剤としては特に制限はなく、酸化水素;過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;あるいはこれらと鉄イオン等の金属イオン及びナトリウムスルホキシレート、ホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダ、亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤との組み合わせによるレドックス開始剤等が挙げられる。
【0051】
連鎖移動剤としては特に制限はなく、例えばチオール成分を有する化合物が挙げられる。具体的には、ヘキシルメルカプタン、ヘプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類が望ましい。
【0052】
溶媒は重合方法にしたがって選択され、例えば、乳化重合や懸濁重合の場合には水を溶媒として用いる。
【0053】
乳化重合法で用いる乳化剤としては特に制限はないが、ノニオン系では、アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50(以上、第一工業製薬(株)社製)、アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30(以上、旭電化(株)社製)等が挙げられ、アニオン系としては、アクアロンHS−10、HS−20、HS−1025、アクアロンKH−05、KH−10(以上、第一工業製薬(株)社製)、ラテムルS−180、ラテムルASK(花王(株)社製)、アデカリアソープSE−10N、SE−20N(旭電化(株)社製)等が挙げられる。
【0054】
得られた重合体の重量平均分子量は、5,000以上200,000以下の範囲であり、7,000以上160,000以下であることが望ましく、10,000以上120,000以下であることがより望ましい。重合体の重量平均分子量が上記範囲内にあると、流動性向上剤(B)を芳香族ポリカーボネート樹脂(A)に含有させた樹脂組成物の溶融流動性(成形性)に優れる。
【0055】
また、重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、狭いほど望ましい。分子量分布は、樹脂組成物の溶融流動性(成形性)を鑑みて、4.0以下が望ましく、3.0以下がより望ましく、2.0以下が更に望ましい。
【0056】
(スルホン化工程)
得られた重合体はスルホン化されて、スルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入される。上記スルホン化によって、重合体における芳香族基に、スルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入される。
【0057】
前記重合体のスルホン化に用いるスルホン化剤としては、例えば無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、ポリアルキルベンゼンスルホン酸類等が挙げられ、これらのうち何れか一種若しくは複数種を混合して用いる。また、スルホン化剤としては、例えばアルキル燐酸エステルやジオキサン等のルイス塩基との錯体物を用いてもよい。
【0058】
前記重合体をスルホン化する方法としては、例えば前記重合体を溶解した有機溶剤(塩素系溶剤)の溶液に、上記スルホン化剤を添加して反応させる方法がある。この他にも、例えば有機溶媒中に粉末状の前記重合体を分散させた分散溶液に、上記スルホン化剤を添加して反応させる方法がある。さらには、例えば前記重合体をスルホン化剤に直接投入して反応させる方法や、粉末状の前記重合体にスルホン化ガス、具体的には無水硫酸(SO)ガスを直接吹きかけて反応させる方法等もある。
【0059】
上記スルホン化処理により、重合体にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入され、より高い難燃性を付与する観点から、好適には少なくともスルホン酸塩基が導入される場合である。
スルホン酸塩基としては、例えばスルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸カリウム塩基、スルホン酸リチウム塩基、スルホン酸カルシウム塩基、スルホン酸マグネシウム塩基、スルホン酸アルミニウム塩基、スルホン酸亜鉛塩基、スルホン酸アンチモン塩基、スルホン酸錫塩基等が挙げられ、これらのなかでも、スルホン酸ナトリウム塩基、スルホン酸カリウム塩基、スルホン酸カルシウム塩基等が望ましい。
【0060】
また、前記重合体に対するスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基の導入率は、スルホン化剤の添加量や、スルホン化剤を反応させる時間や、反応温度や、ルイス塩基の種類や量等で調整される。
【0061】
前記重合体に対するスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基の導入率は、硫黄成分として0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲であり、0.05質量%以上1.0質量%以下の範囲が望ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下の範囲がより望ましい。
【0062】
前記重合体に対するスルホン酸基及び/又はスルホン酸塩基の導入率が上記範囲内にあると、流動性向上剤(B)によって芳香族ポリカーボネート樹脂(A)が分解されることが抑えられる。また、上記範囲内とすることで、樹脂組成物の難燃性が向上する。
なお、重合体における硫黄成分は、燃焼フラスコ法による元素分析で測定される。
【0063】
<難燃剤>
本実施形態の樹脂組成物には、難燃剤を含有させてもよい。難燃剤として、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、及びその他の無機系難燃剤などの従来公知の各難燃剤を用いてもよい。
【0064】
本実施形態の樹脂組成物中における上記難燃剤の含有量は、0.001質量%以上25質量%以下であることが望ましく、0.01質量%以上20質量%以下であることがより望ましく、0.05質量%以上15質量%以下であることが望ましい。
【0065】
<その他成分>
本実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、更にその他の成分を含んでいてもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中における上記その他成分の含有量は0質量%以上10質量%以下であることが望ましく、0質量%以上5質量%以下であることがより望ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まない形態を意味する。
【0066】
該その他の成分としては、例えば、各種顔料、改質剤、ドリップ防止剤、相溶化剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐候剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)等が挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、ドリップ防止剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、0.1質量%以上1質量%含んでいてもよい。
【0067】
<組成物の調製方法>
本実施形態の樹脂組成物は、少なくとも前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と前記流動性向上剤(B)とを含有し、更に例えば、前記難燃剤、前記その他の成分等を用いて、混合することで調製される。
【0068】
混合手段としては公知の手段が用いられ、例えば、二軸押出し機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、タンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、混練ロール、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
【0069】
上記混合条件としては、二軸押出し機を用いることが望ましい。
【0070】
≪成形体≫
本実施形態の成形体は、上記樹脂組成物を成形して得られるものである。例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーテイング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などの成形方法により本実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる。本実施形態の樹脂組成物は優れた難燃性を示し、溶融流動性(成形性)を有しているため、該樹脂組成物を成型してなる成型体は、成形性に優れつつ優れた難燃性を示す。
【0071】
前記射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行う。
この際、シリンダ温度としては、220℃以上280℃以下とすることが望ましく、230℃以上270℃以下とすることがより望ましい。また、金型温度としては、40℃以上80℃以下とすることが望ましく、50℃以上70℃以下とすることがより望ましい。
【0072】
本実施形態の成形体は、電子・電気機器、家電製品、容器、自動車内装材などの用途に好適に用いられる。より具体的には、家電製品や電子・電気機器などの筐体、各種部品など、ラッピングフィルム、CD−ROMやDVDなどの収納ケース、食器類、食品トレイ、飲料ボトル、薬品ラップ材などであり、中でも、電子・電気機器の部品に好適である。
【0073】
図1は、本実施形態の成形体を備える電子・電気機器の部品の一例である画像形成装置を、前側から見た外観斜視図である。
図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作するよう開閉自在となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりする。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0074】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、および、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を搬送する自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置および制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱自在なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって行われる。
【0075】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーが補充される。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0076】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙供給部136が備えられており、ここからも用紙が供給される。
【0077】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に接触する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙供給部136が設けられている側と反対側に用紙排出部138が複数備えられており、これらの用紙排出部に画像形成後の用紙が排出される。
【0078】
画像形成装置100において、例えば、フロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、および筐体152に、本実施形態の芳香族ポリカーボネート樹脂成形体が用いられる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。尚、以下において「部」および「%」は、特に基準を示さない限り質量基準である。
【0080】
<流動性向上剤(S−1)の製造>
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王(株)製)(固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水295部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。ついで、セパラブルフラスコ内に、硫酸第一鉄0.0001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0003部、ロンガリット0.3部を蒸留水5部に溶かしたものを加え、その後、スチレン90部、メタクリル酸フェニル10部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.2部、n−オクチルメルカプタン0.2部の混合物を180分かけて滴下した。その後、80℃で60分間攪拌し、重合体エマルションを得た(重合率は99%)。
【0081】
0.7%の割合で硫酸を溶解した水溶液300部を撹拌しながら70℃に加温し、この中に得られた重合体エマルションを徐々に滴下して、重合体を凝固させた。析出物を分離、洗浄した後、75℃で24時間乾燥し、重合体を得た。得られた重合体の質量平均分子量(Mw)は100000、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。
【0082】
上記重合体100gを、1,2−ジクロロエタン850gを注入した丸底フラスコに投入し、50℃に加熱して溶解させ、ポリマー溶液を調製した。次に、98%硫酸0.73gと無水酢酸0.87gとの混合液をポリマー溶液に10分かけて滴下し、滴下後4時間熟成することで前記重合体のスルホン化処理を行った。
【0083】
次に、沸騰した純水に反応液を注入して溶剤分を取り除き、得られた固体を温純水で3回洗浄した後に、減圧乾燥を行い、乾燥した固体を得た。
得られた固体について、燃焼フラスコ法による元素分析を行ったところ、該固体に含まれる硫黄成分は0.14質量%であった。
【0084】
次に、乾燥した固体を水酸化カリウムで中和した後に再び乾燥して、スルホン酸基をスルホン酸塩基とした流動性向上剤を作製した。
【0085】
<流動性向上剤(S−2)〜(S−9)の製造>
単量体の組成及びn−オクチルメルカプタンの量の少なくともいずれかを下記表1に示すように変更し、或いはスルホン化処理の硫酸の量を変えて硫黄成分量が下記表1となるように変更した以外は、流動性向上剤(S−1)の製造と同様の方法により流動性向上剤(S−2)〜(S−9)を作製した。
流動性向上剤(S−2)〜(S−9)の反応率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を表1に示す。なお、表1中、Stはスチレンを表し、PhMAはメタクリル酸フェニルを表し、ANはアクリロニトリルを表す。
【0086】
【表1】

【0087】
<流動性向上剤(S−10)及び(S−11)の製造>
単量体の組成、n−オクチルメルカプタンの量を下記表2に示すように変更し、スルホン化処理を行わない以外は、流動性向上剤(S−1)の製造と同様の方法により流動性向上剤(S−10)及び(S−11)を作製した。
流動性向上剤(S−10)及び(S−11)の反応率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を表2に示す。
【0088】
<流動性向上剤(S−12)及び(S−13)の製造>
単量体の組成、n−オクチルメルカプタンの量を下記表2に示すように変更した以外は、流動性向上剤(S−1)の製造と同様の方法により流動性向上剤(S−12)及び(S−13)を作製した。
流動性向上剤(S−12)及び(S−13)の反応率、重量平均分子量(Mw)、及び分子量分布(Mw/Mn)を表2に示す。
なお、表2中、Stはスチレンを表し、PhMAはメタクリル酸フェニルを表し、ANはアクリロニトリルを表す。
【0089】
【表2】

【0090】
[実施例1〜9]
芳香族ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂PC(旭美化成社製:PC−122、重量平均分子量20000)を準備した。
芳香族ポリカーボネート樹脂PCに上記作製した流動性向上剤を表3に示す配合(合計100部)で混合し、更にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ダイキン工業(株)製、FA−500)0.4部、酸化防止剤(「イルガノックス1076」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.1部、を加え、二軸押出機(機種名「TEM−35」、東芝機械(株)製)に供給し、280℃で溶融混練し、表3の組成の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得た。
得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物について、後述の試験を行った。その結果を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
[比較例1〜6]
芳香族ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂PC(旭美化成社製:PC−122、重量平均分子量20000)を準備した。
芳香族ポリカーボネート樹脂PCに、上記作製した流動性向上剤(S−9)乃至(S−13)又は難燃剤−1を表4に示す配合で混合し、更にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(ダイキン工業(株)製、FA−500)0.4部、更に必要に応じて酸化防止剤(「イルガノックス1076」、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)0.1部、を加え、比較の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得た。
【0093】
【表4】

【0094】
表3及び4中で示した成分は、以下を表す。
PC:「PC−122」、旭美化成社製、重量平均分子量20000
難燃剤1:「PX−200」、縮合型リン酸エステル系難燃剤、大八化学工業(株)製
PTFE:ダイキン工業FA−500
酸化防止剤:「Irganox1076」、チバジャパン製
【0095】
<燃焼性>
上記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を30mmΦ二軸押し出し機にてシリンダー温度280℃で溶融混練し、ペレット状に賦型した。
上記で得られたペレットを、射出成型機(東芝機械社製、製品名「NEX500」)を用いてシリンダ温度280℃、金型温度80℃で射出成型し、UL−94におけるVテスト用UL試験片(厚さ1.2mm、1.5mm)を作製した。
【0096】
上記Vテスト用UL試験片を用い、UL−94に規定の方法に準拠して、UL−Vテストを実施した。表3及び表4中、「UL−94 Vテスト」の結果の表示は、難燃性が高い方から順に、V−0、V−1、V−2であり、V−2より劣る場合、即ち試験片が延焼してしまった場合をnot−Vと示した。
【0097】
<溶融流動性>
−スパイラルフロー長−
流動性について評価すべく、以下の方法によりスパイラルフロー長を測定した。
射出成型機(東芝機械社製、製品名「NEX500」)を用いて樹脂温度280℃、金型温度80℃、射出圧力は120MPaとした。また、成型品の厚さは2mm、幅は15mmとした。
【0098】
<ケミカルアタック試験>
ASTM規格D790に準拠した曲げ試験法(ベントストリップ法)を適用した。
歪み調整可能な試験治具を用い、試験片に歪みを与え、試験片中央部に対象とする溶媒(ケミカルアタック試験油)としてサンプレスS304(スギムラ化学プレスオイル)又はKF8009(信越化学工業オイル)を塗布した。
試験条件は、
・試験片:長さ125mm以上150mm以下×幅12mm×厚さ2mm、
・サンプル数:6個
応力集中を防ぐため、加工時のシャープエッジ等は除去した。
・環境温度:65℃±2℃、85%湿度雰囲気下
・放置時間:200時間
・曲げ歪み:評価するプラスチックの最大曲げ応力の30%応力に相当する歪みを試験中央部に与えた。歪みは、材料の応力と歪みとの関係曲線、または以下の式から求めた。
歪み(%):ε=σb/Eb
σb=曲げ応力
Eb=曲げ弾性率(N/mm
【0099】
試験は、6個の試験片を用いて行ない、表面観察は目視で行なった。但し、判別し難い場合は拡大鏡等で行なった。
表3および表4においては、N:クラックなし、Cz:クレーズ(微細クラック)発生、Ck:クラック発生の評価基準で評価し、Nを合格とした。
【0100】
<耐熱性>
上記芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用い、射出成形機(「IS−100」、東芝機械(株)製)により、厚さ1/4インチの成形品を成形した。成形品の荷重たわみ温度をASTM D648に準拠して測定した。アニール処理は120℃で1時間実施し、荷重は1.82MPaとした。
【0101】
表3及び表4の結果から明らかなように、実施例1乃至9の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、溶融流動性、ケミカルアタック試験で評価された耐薬品性、耐熱性を損なうことなく、難燃性において著しい向上が見られた。特に、流動性向上剤(B)において単量体(b3)としてアクリルアミドを含有する実施例5乃至8の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物では、難燃性の向上とともにケミカルアタック試験で評価された耐薬品性に優れることがわかる。
一方、比較例2及び3の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、スルホン化処理されていない流動性向上剤を添加したものであり、これらは実施例1〜9の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べて、難燃性に劣っていた。
また、比較例4及び5の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、スルホン化処理されているが一般式(I)で表される単量体(b2)を含有しない流動性向上剤を添加したものであり、これらも実施例1〜9の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べて、難燃性に劣っていた。
更に、比較例6の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、流動性向上剤の代わりに難燃剤を添加したものであり、これらは実施例1〜9の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に比べて、難燃性にも流動性にも劣っていた。
【0102】
[実施例11〜14]
芳香族ポリカーボネート樹脂を含む樹脂材料として、下記表5の組成のものを用意した。ここで、表5中で示した成分は、以下を表す。
PC:「PC−122」、旭美化成社製、重量平均分子量20000
ABS:「SXH−330」、日本エイアンドエル製
HIPS:「PS IT44」、出光興産製
AS:「スタイラックAS769」、旭化成ケミカルズ製
難燃剤−3:「X−40−9805」、信越化学工業(株)社製
PTFE:ダイキン工業FA−500
酸化防止剤:「Irganox1076」、チバジャパン製
【0103】
芳香族ポリカーボネート樹脂を表5の組成のものに変えた以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を作製した。得られた芳香族ポリカーボネート樹脂について、樹脂の混練温度、成型温度、スパイラルフロー長試験の樹脂温度を240℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で評価を行った。その結果を表5に示す。
【0104】
【表5】

【0105】
表5の結果から明らかなように、芳香族ポリカーボネート樹脂の種類を変えても、溶融流動性、ケミカルアタック試験で評価された耐薬品性を損なうことなく、難燃性において著しい向上が見られた。
【符号の説明】
【0106】
100 画像形成装置
110 本体装置
120a、120b フロントカバー
136 用紙供給部
138 用紙排出部
142 プロセスカートリッジ
150、152 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、
芳香族ビニル単量体(b1)0.5質量%以上99.5質量%以下、下記一般式(I)で表される単量体(b2)0.5質量%以上99.5質量%以下、シアン化ビニル単量体(b3)0質量%以上15質量%以下を含む単量体混合物[但し、単量体(b1)、(b2)及び(b3)の合計は100質量%である。]を重合した、重量平均分子量が5000〜200000の範囲の芳香族骨格を有する重合体に、硫黄成分が0.001質量%以上1.4質量%以下の範囲となるように前記芳香族骨格にスルホン酸基及びスルホン酸塩基の少なくとも1種が導入されてなる流動性向上剤(B)と、
を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】


〔一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。〕
【請求項2】
前記硫黄成分の導入量が、0.05質量%以上0.2質量%以下である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成型してなる成型体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−144246(P2011−144246A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5291(P2010−5291)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】